少女の航跡 第2章「到来」 11節「旅人の再訪」 |
《シレーナ・フォート》の城下町は、王宮から、外部城壁へとかかる8本の橋によって、その区
画を分けられている。その橋によって形成されている枠の中で、城下町の民は暮らしているの
だ。
《シレーナ・フォート》は、海上城塞そのものが街となっている。だから、この街を作り上げてい
るのは全て人工物だ。多少、苔や、蔦、海から突き上がっている城壁に張り付いた海の植物
を除けば、言葉を交わし、手を使う事のできる生き物達が作った街である。
城下町は、まるで、家々が折り重なるようにして建てられ、中には、区画分けをしている橋の
大きな柱に張り付いて、塔のように聳え立つ建物もあった。橋が区画分けをしている中、街の
中には運河も流れ、運河沿いにも住居が広がっている。
上流階級は王宮の近く、庶民は運河沿いに住むというのが、いつからか出来上がった《シレ
ーナ・フォート》の格差である。また、住んでいる地域によって、民の職種も決まっているような
ものだ。城壁付近には港へと出る水門兼用の城壁があるが、その付近に住む者達は、漁師
か、得られた海産物を取引する者達か、といった具合にである。
私が、カテリーナや、シレーナ達と共にやって来たのは、第7区画だ。
第7区画は、港からも離れているし、《シレーナ・フォート》の中央城門からも離れている。位
置も北よりだったし、大抵、日中は城壁や王宮、高い建物の影に隠れ、あまり日差しが良くな
い。
あまり治安の良くないという話だった。
《シレーナ・フォート》は元々、建物同士が積み重なって出来上がったかのように、ごちゃごち
ゃとした作りになっている。大通りはまだしも、路地などは入り組んだようにできているし、行き
止まりも多い。特にやって来た第7区画など、迷路そのものであるかのようだった。
ロベルトは、そんな所の酒場で姿を見られたと言った。酒場といっても、この場所には酒場が
無数にある。賭博場や、大人の遊び場なども多かった。治安も良くない。私のような若い娘が
足を踏み入れてはならないような場所なのだ。
今日のところは、カテリーナや、シレーナ達が一緒なので、とりあえずは安心だったが。
カテリーナと私は地上から、シレーナのデーラとポロネーゼは上空から目的の場所へと向か
っていた。
入り組んだ路地を歩く私達。いやらしい目つきで見てくるような、人相の悪い、怪しい気配の
者もいた。だが、大抵は、畏怖でもするかのように私達から、いや、カテリーナから避けて行っ
た。
《シレーナ・フォート》の民ならば皆、知っている。カテリーナが、『フェティーネ騎士団』団員し
か身に着けることのできない、鮮やかな青色の騎士装束を纏っている事を。そして、刃のよう
な銀髪をした若い娘、カテリーナがその団長を務めているという事を。
『フェティーネ騎士団』団長。そこから、ピュリアーナ女王へと話は筒抜けだ。カテリーナの眼
は、《シレーナ・フォート》を治めるピュリアーナ女王の眼。彼女達の眼がある限り、ろくに目の
前で怪しい事もできない。
そもそも、彼女が第7区画の歓楽街にやって来るなど、一体何事だろう。女王の査察の前触
れか。などと民は想像しているに違いない。
カテリーナの『フェティーネ騎士団』とは、女王御付きの近衛騎士団と言うよりは、小回りの利
く任務を果たす精鋭騎士団だそうだから、いくら王都とは言え、このような場所に来るのは有り
得ない事だったのである。
「ありました。カテリーナ様、こちらです」
と言って、上空から舞い降りてきたシレーナのデーラが、私達を、自分がロベルトを目撃した
という場所まで導いてくれていた。
入り組んだ路地を練り歩きながら、通りから通りへと歩いて行く。シレーナ達が上空から導い
てくれなければ、その道筋はカテリーナですら分からないようだ。
途中に姿を現していた物乞いや、怪しげな店や露天の者達も、カテリーナの前ではその客引
きを声をぴたりと止めていく。
やがて私達は、目的の酒場へと到着した。そこは、割と広い通りに面した酒場であり、2階建
ての目立つ場所に建っていた。
「何て…、言う意味なんだい…? フレムド…?」
その酒場の入り口上に掲げられている看板を見たカテリーナが、私に尋ねて来た。文字こ
そ、西域大陸はほぼ共通のものを使っていたが、読み方や意味は、国によって少しずつ異な
る。
しかも、酒場の上の看板に書かれている、おそらく店の名前は、この南の地方の言葉ではな
く、私の出身の方で使われている言葉の綴り方をしていた。
「これは、FREMDと読むの。よそから来た者という意味。私達の国の言葉」
「なるほど、それじゃあ、読めないか…」
カテリーナは納得したようだった。
辺りを見回せば、この酒場だけでなく、周囲の建物も、『リキテインブルグ』の言葉、シレーナ
語ではなく、別の国の綴り方をした看板が多く掲げられていた。中には、私が知らないような文
字まであった。
シレーナのデーラが、上空から舞い降りてきて私達に告げる。
「どーやら、ここは、異国から来た人達が集まる所、見たいですね。よその国の人達が多い界
隈ですもん」
それを聞き、カテリーナは、酒場の前で掃除をしている若い男を呼び止めた。彼は見るから
に北方出身の顔立ちをしている。背が高く、顔彫りが深い。
「な、な、ナニですか?」
カテリーナの姿を見て、驚いたようにその男は言って来た。
「ここで人を探している。ここ最近、この酒場に姿を現すようになった、異国の男だよ。歳は40
ぐらいで、帽子をいつも被っている。もしかしたら、いつも銃を持っている」
「そ、そ、そのようなヒトでしたら、みたカモしれませんケド…。よく覚えてイマセン…。でも、店が
開くのは夜になってカラですから、夜になったら、また来るんじゃあナイデショウか…?」
その男は、かなり訛ったシレーナ語で話してきていた。多分、彼は北方出身で、つい最近、こ
の国に来たのだろう。私は今では、1年前よりもシレーナ語を訛らないで話す事ができていた。
「そう…、ありがとう」
「ド、ドウいたしまシテ…」
カテリーナに怯えるかのようにして、若い男は掃除を続けていた。
「どうします? カテリーナ様?」
デーラが彼女に尋ねた。よく見れば、彼女の子供のように大きな瞳は、人間離れした青さを
持っている。
「夜に、また来るさ。あんたは、彼が現れるまでここで張って、もし姿を現したら私達に報告し
な」
「了解です」
デーラは、凛々しくそう答えていた。
夜になって、にわかに酒場は活気づく。異邦人ばかりが集まる界隈から、にわかに人々が集
り出し、酒場の周りに人々はたむろし出した。周囲の露天では、そんな客達を呼び寄せるよう
な客引きたちの姿も現れる。
聞き慣れない言葉が飛び交う、怪しい界隈だった。どこか薄暗く、不気味な感じが漂ってい
る。
私達はそんな酒場に再びやって来た。今度はカテリーナと二人で、酒場の扉を開き、中へと
入っていく。
酒場の看板には、私の国の言葉で、異国の人間と書かれていたが、なるほど、店内にいる
のは、北方出身の顔立ちの者達が多かった。おそらくはこの《シレーナ・フォート》を新天地とす
るため移住してきた者達なのだろう。しかし、彼らのいでたちからして、あまり収入には恵まれ
ていないようである。
異国の言葉が飛び交い、中には私の国の言語もあったが、酒場には北方から船で輸入され
た煙草の煙が漂う。海賊のように人相の悪い男や女が、酒場の中央付近を独占し、シレーナ
の商売女を侍らせながら、賭けをしていた。
私達が入っていった時、何人かはこちらを向き、カテリーナの姿に驚いたようだったが、すぐ
に皆は元のテーブルや椅子に戻って、変わらず酒を飲んでいた。
吹き抜けになっている2階からは、用心棒らしき男がずっとこちらを向いてきていたが、カテリ
ーナは気にしていないようだ。
酒場の雰囲気は、煙草や酒の匂いでむせ返りそうだ。だが、私達は目的であるロベルトを探
さなければならない。
酒場の中にはつばの広い帽子を被り、マントを羽織るという、あのロベルトと同じようないで
たちの者も多くいた。しかし、彼ではない。しばらく、入り口の割には奥行きの広かった店内を
歩き、私達はロベルトを探す。
すると、カテリーナが突然足早にカウンター席の方へと足を向けた。私も良く分からないまま
に彼女の後を追う。
カウンター席には何人かの者達がいたが、その中から一人孤立し、カウンターの真ん中辺り
に座っている一人の男。上背があり、席に座っていても帽子を被って、マントを羽織っている。
同じような姿の者は他にもいたが、彼だけが明らかに雰囲気が違っていた。
この男の漂わせている雰囲気を私は知っている。1年前に突然失踪した、ロベルトそのもの
だ。
カテリーナはロベルトの隣の席に座った。すると、カウンター越しに店の主人らしき男が、彼
女に言った。
「これはこれは、シニョリーナ(お嬢さん)。何に致します? こちらの店では、南方の酒もありま
すが、北方直輸入の酒も多く取り揃えておりますよ。特に、『ボッティチェリ帝国』から寄せられ
た火酒は、良い物が入っておりまして…」
すると、カテリーナは、
「分かっているだろ? まだ酒は飲まないんだ」
と、主人に一言だけ言った。
「これはこれは失礼。でしたら、果汁の飲み物でもご用意しましょうか?」
どう見ても店の主人はカテリーナの事を知っているようだった。
「じゃあ、2人分…。甘くないのを…」
「かしこまりました」
北方訛りが私よりも少ない主人は、カテリーナの注文を受け引き下がった。
カテリーナはロベルトの方へと椅子を向け、正面を向いたまま酒を飲んでいる彼に向かって
話し始めた。
「あんた…、どこに行っていたんだい…?」
すると、ロベルトは、カテリーナの方には顔を向けず、酒を一口仰いだ。
「私、私か…? 仲間のいる所へ、会いに行っていたのだ…」
久しぶりに聞く、ロベルトの低く、落ち着いた声。酒が入っていてもあまり変わらないようだ。
「仲間、仲間って言うのはあんたの仲間か?」
「ああ…、旅仲間、とでも言っておこうか。彼らはこの地方にいつもいるわけではないのでな。
会いに行って、戻って来るだけでも時間がかかる…」
「ロベルトさん!」
座って話し出した2人の間に、私は我慢し切れずに割り込んだ。すると、ロベルトはようやく私
の方へと顔を向けてくれた。
「君か…」
その表情は、特に再会を喜ぶような感情も含まれてはいなかった。
「なぜ、なぜ、私に何も言わずに行ってしまわれたのですか? せめて、一言言えなくても、置
手紙でも良かったのに」
私は、わずか数ヶ月間だったが、実の父のような存在であった男に訴える。行方不明になっ
ていた時期の方が遥かに長かった。
「君にはすまなかったが、それが、仲間の間での決まりなのだ。彼らに会いに行くときは、誰に
も何も言わずに出て行かなければならん」
「はい、お待ちどおさま、シニョリーナ」
そこで店員によって、カテリーナの手元に果汁を絞った飲料が届けられた。2つある。私の分
も彼女が頼んでくれたのだ。
「でも、あんたは戻って来た」
コップを持ち上げながら、カテリーナは言った。
「ああ、君達に、大事な事を伝えるためにな」
ロベルトはそこで、回転椅子を回転させ、私とカテリーナを交互に見ながら言って来た。
「大事な事、だったら、王宮に直接出向けば良いのに。こんな所でうろうろしていても、私達が
直接来なくてはならないだろ?」
カテリーナは果汁絞りを飲みながら言った。
「私が王宮まで出向いたら、危険が伴う。だから、こうして会いに来てもらった」
「ロバートさん…、あなたは一体…、うっ…!」
カテリーナと同じ果汁絞りを飲んだ私は、口の中に広がった味に思わず呻いた。とても酸っ
ぱい味がしたからだ。カテリーナが平気で飲んでいるので、安心して飲めるものだと思ったの
だが。
「もし、あんたが、誰にも発見されなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「翼のある娘達には、意図的に私を発見させた。私が捜索されている事は知っているから、彼
女達に姿を見せれば、君達が来てくれると思ってな…。個人的には、潜伏できる上に、君にと
っては分かりやすい所にいたとは思うが…」
ロベルトは私に言って来た。確かに、この酒場には、私の母国の方から来た人達が多い上
に、店の看板は、私の母語だったけれども。
「潜伏するって…。あなたには、敵でもいるのですか? 例えば、命を狙われている、とか
…?」
「そんなところさ…」
私が尋ねると、ロベルトは酒を一口煽りながら答える。
「あんたがね…、ディオクレアヌの連中と繋がりがあるって、疑う者達がいるんだよ…」
そんなロベルトにカテリーナが言った。
「君も、その内の一人だろう…?」
「正直言うと、そうさ。だから、あんたを王宮まで連れて行って、尋問しなきゃあならない」
カテリーナは眼を鋭い目付きに変え、ロベルトの方を見つめた。ロベルトも、いつもながらの
冷静な眼で彼女を見返す。
「…、ディオクレアヌとは直接の面識は無いが…、彼を動かしている者達とならば、係わり合い
がある」
そんなカテリーナの眼に、ロベルトは重い口を開くかのように答えた。
「へえ…、あんた、初めて意味のある言葉を言ったね?」
「嘘では無い。なぜならば、そのディオクレアヌを動かしている、まあ、操っていると言った方が
良いか…、その者達は、私の旅仲間だからだ」
ロベルトは周りには気づかれない静かな声でそう言った。私は彼のその言葉にどきりとする。
まさか、そんな事は無いだろう。
「あんた、自白するのかい…? 自分が革命軍と関わっている者達の仲間だって」
「そうなんですか? ロベルトさん?」
耳を疑うロベルトの発言に、私は焦って聞き返した。
「まだ、全てを言ったわけではないぞ…。私の命を狙っているのは、私の旅仲間達だ。私は彼
らを裏切ったのだからな」
ロベルトは、いつもながらの顔をして言ったが、その口調にはどこか暗があり、深刻な事を口
に出しているかのようだった。
私とカテリーナは、彼の言って来た言葉を、頭の中でもう一度整理するかのように、少し黙っ
て考える。先に答えたのはカテリーナだった。
「じゃあ、こういう事かい? あんたは、『ディオクレアヌ』の連中を操っている、いわば、この一
連の事件の黒幕見たいな連中と仲間だった。だが、あんたは、彼らを裏切り、逆に私達に協力
した…」
「言葉通りに受け取れば、そのようになるな…」
ロベルトは、また酒を一口飲んだ。
「何だって、あんたは仲間を裏切って、私達に協力しようと言うんだ?」
「…、私の仲間達が、『ディオクレアヌ』に革命軍などというものを組織させ、彼らに大陸支配を
させようなどという、愚かな行為をしているからさ…」
「あの…、あなたのお仲間って…?」
私は、まだ、ロベルトへの疑惑を抱いたまま彼に尋ねていた。
「前にも話したと思うが…?」
そう言われ、私はロベルトの1年近くも前の言葉を思い出そうとする。
一緒に行動した一ヶ月、彼は自分の正体を明かすような話を、ほとんどしなかった。ただの
一度を除いて。
「ま、まさか…、『アンジェロ族』のお話ですか…?」
それは、ロベルトが話をしてくれた、遠い過去に、この世界を創り上げた者達の話だった。だ
がそれは、私も全て信じたわけではない。
「あんた…、あんな話じゃあ私達を信用させられないよ」
と、カテリーナが言う。あの場にはカテリーナもいたし、彼女もロベルトの話は聞いていたの
だ。
「私は何も、自分が、君達の文化で神格化されている存在だ、とは一言も言っていないぞ…。
ただ、あの話には例えも含まれている。この大陸や、世界を影で操り、時には、文明の転覆、
崩壊までもさせる事のできる者達が、この世にはいるのだ…」
「その内の一人が、あんただってのかい?」
カテリーナは、まだロベルトを疑ったまま言った。
「もちろん、私一人でそのような事はできないし、元仲間達にも、一人でそのような事ができる
者はいない。だが、ディオクレアヌのように、支配者の座を渇望している者に、その軍事力を提
供する事は、できるな…」
「あんたの、仲間は、何だってそんな事をするんだい?」
「仲間達は、自分達こそが、この世界を真に導いて行くものだと信じ込んでいる。その為には、
彼らにとって今、西域大陸にある文明では不十分なのさ…」
酒場の周りには賑やかしく話を興じている者達もいたが、私達3人は、まるで秘密でも話すか
のように会話し、どこか異質な気配を漂わせていた。だが、怪しいのは私達だけではなく、酒場
には、まるで周囲を伺い、今正に、犯罪でも犯そうかという挙動不審の気配の者もいるようだっ
た。
「にわかには、信じられない話だな…?」
カテリーナは一言ロベルトに言って、果汁絞りをまた一口飲んだ。
「…、信じてられなくて、当然かもしれん…。だが、君は信じなくてはならない…。なぜなら、君に
とっては使命のはずだからな…」
「ディオクレアヌの連中を打ち倒す事が?」
と、カテリーナ。
「そして、その背後にいる者達の計画をも、同時に破壊してしまう事もだ」
「あんたは…、私達に、仲間のしている事を止めさせたいのかい?」
カテリーナは、ロベルトの変わらぬ表情に尋ねる。
「そんな所だ。だが、私一人では止める事はできないだろう。それに、君の信頼も得られないの
だからな…。とはいえ、こんな私にも同調しない仲間がいなかったわけではない。その者なら
ば、君達を正しい方向へと導くだろう…」
「誰だい? それは…?」
「また、私の旅仲間さ…。だが、彼は信用できる。残念ながら、私と違って、彼は拘束されてし
まっている。まずは、救出せんとな…」
「あんたの、根拠の無い話で、私達が動くとでも思っているのか?」
カテリーナは、毅然とした態度でロベルトに言い放った。だが、ロベルトは構わず話を続け
た。
「ここから、馬で半日ほどの距離の所に、森があることは知っているな? その森の中に、我々
が、《斜陽の館》と呼んでいる館がある」
「それで、その館は知らないけれど、そこがどうしたって言うんだい…?」
カテリーナは、まだロベルトを疑っている様子でそう言った。
「その館は、私の元仲間の一人が所有しているものだ。『リキテインブルグ』南部を活動の拠点
にする為にな…。そこに、私の仲間の一人が拘束されている…」
「私達『フェティーネ騎士団』は、一人の者の為に動いたりはしないよ。例えその人間が哀れな
目に遭っているとしてもね…」
「彼ならば、現在、『ディオクレアヌ革命軍』がどこを拠点にしているのかを知っている。そして、
おそらく革命軍は、その地で着々と大陸制覇に向けて軍事力を蓄えているはずだ」
「あんたは、その場所を知らないのかい?」
カテリーナは鋭く言い返した。
「私と、その仲間は、君達に革命軍の本拠地を伝えようと、手分けして大陸を捜索した。私は、
発見できなかったが、彼は見つけたようだ。だが、その場所を私に伝えるよりも前に捕えられ
たという事だ」
「カテリーナ…」
ロベルトの言葉、嘘を言っているようには見えなかったが、カテリーナは疑いの眼で彼を見て
いる。
私は、ロベルトが、革命軍の差し金で、私達を騙そうとしているなんて、信じたくは無い。事
実、彼には疑わしい所が沢山あるけれども、彼は私達を裏切ってはいない。それは、直感で分
かる気がした。
「…、私達が、その館に踏み込んだら、逆に捕えられるという罠という事も考えられる」
「この私を、疑いたいのならば、幾らでも疑えば良い。だが、私が君達を裏切った、という証拠
はどこにも無いぞ」
ロベルトの言葉が、心に響いてくるようだった。命を救ってくれた事もあるこの男の言葉は、ま
るで自分の親の言葉であるかのように聞える。
「カテリーナ…、信じてみようよ…。ロベルトさんだよ。私、何度も助けてもらった…」
私は、カテリーナに訴えるかのように言った。
もちろん、私もロベルトの事は完全に信用し切れていない。まだ謎めいた所が多すぎた。だ
が、彼の言った通りにする事で、ロベルトの謎が少しずつ解けていきそうな気がしたのだ。
カテリーナは果汁絞りの入ったコップをカウンターに乗せ、少し思考した後、きっぱりとロベル
トに言った。
「あんたは拘束する。それは変わらない。あと、その館の場所を詳しく教えてもらおうか? 王
宮でね」
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12.内通者
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1年前から行方不明になっていた、旅人、ロベルトの目撃情報が入り、カテリーナ達はその地へと向かいます。 |
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