掌編 清涼演義・食 |
?執務室?
平和式典が終わり、幾許かの月日が流れ、今は夏。そしてここは俺しかいない執務室。
「あー、暑い」
第一声がそれか、と言われても仕方ないと思う。それでも暑いものは暑いんだから、この一言以外表現のしようがない。しかも、天の御使いの象徴である制服を脱げないことにより、暑さに拍車がかかっている。こうなったら通気性のいい素材で、呉服屋のおっちゃんに作ってもらおうか。
「それにしても暑い。なんかこう、一気に涼しくなるものって作れないかな?」
真桜に頼んでかき氷機・・・駄目だ、氷は稀少品。蔵での食糧保存に用いてるから使えない。
扇風機も・・・真桜なら作れそうだけど、「気」を使ってる時点で操作する人が必要になるから、これも駄目。
「日本だと、どうやって涼をとってたかなぁ?」
他にも思いつく限りのことを思い浮かべる。肝試し、怪談話、プール、海、山、エアコン、アイス、麦茶、etcetc…・・・途中からなにかズレてる気もするけど、川´_ゝ`)なに、気にすることはない。
「即物的な涼しさを求めるなら、やっぱり食べ物になるよな」
となると、氷も使わずに食べることができるのは、やっぱアレだよな。夏の定番―少なくとも作者のなかでは―の食べ物を作れば少しは暑さもまぎれるだろう。
うんうん、と満足そうに肯く。そのまま財布を手に市へと繰り出した。
?市?
「売ってないときはどうしようかと思ったけど、案外なんとかなるものだな」
目的のものを手に帰路へ着く。あとはこれを使って作るだけ――
「一刀様!」
ふと聞き覚えのある声に振り替える。
「やぁ、明命。それに亞莎も。こんなところでどうしたの?」
「はい、こんにちはです、一刀様!」
「こんにちは、一刀様」
元気よく挨拶をしてくれた明命に、亞莎も後に続く。
「私は市の視察を穏様に頼まれまして。明命は――」
「私はお猫様のための干物を買いに来たところを亞莎に出会ったのです」
「そうなんだ。二人とも暑い中、お疲れ様」
「いえ、一刀様こそ・・・一刀様はここで何をしていらしたのですか?それと、お持ちになっているものはなんでしょう?」
俺の手にあるものを認め、二人とも怪訝そうな表情を浮かべる。持っているものは干された海藻。これだけじゃわからないのも無理はない。
「ここで会ったのも何かの縁だ。二人とも、この後なにか予定はあるかな?」
「私は今日は非番なので、今後の予定はありません」
「私は視察の報告を終えれば、そのあとはなにも」
「そう、それじゃあ手伝ってもらおうかな?」
?厨?
「それで一刀様、私たちはなにを手伝えばいいのでしょう?」
2人と一緒に呉の屋敷へ戻り、俺は先に準備のため厨へ。2人には華琳をもてなしたときのエプロンドレスを着てきてもらった。理由?俺の眼福のためである。異論は認めない。
「うん。最近暑いからさ、寒天を作ろうと思って」
「あの、料理なら祭様に頼んだほうがよかったのではないでしょうか?」
おずおずと提案する亞莎。だけど――
「大丈夫、祭さんに頼るほど難しい料理じゃないよ」
「そうでしたか」
ほっと安堵の息をつく亞莎。
「だけど火を使うから、できるまでは暑い思いをするけど、大丈夫かな?」
「大丈夫です、問題ありません!」
明命は凛々しい(多分自分ではそう思っているだろう)表情を浮かべ、力強く返事をした。その様子が可愛らしいと思ったのは心の中に留めておくことにする。
「まぁ俺も作り方を完全に覚えてるわけじゃないから、失敗しちゃうかもしれないけど、二人ともよろしくね」
『はい!』
「じゃあ、まずは、天草を水で洗おう。埃とか貝を落として天草だけにするんだ」
水洗いを明命と亞莎に任せ、俺は湯の準備をする。真桜作のコンロに水を入れた鍋を火にかけ、二人の手伝いに戻る。
「一刀様、水洗いできました」
「うん、ちょうどお湯も沸いたみたいだし、これを鍋に入れよう」
水洗いした天草を鍋に入れ、火を弱めて30分待つ。ここでも真桜作の砂時計が活躍してくれる。・・・はいそこ、ご都合主義とか言わない!
砂時計が落ちるまでの間、二人との会話を楽しむことにした。
―30分後―
「うん、時間になったみたいだね、それじゃ――」
鍋の中に酢を入れる。そして――
「ここからまた30分待つ」
「根気の要る料理なんですね・・・」
「あはは・・・」
少し残念そうな表情を浮かべる明命。亞莎は何も言っていないが明命と同じような表情だ。俺は苦笑で返す。
「まぁこの料理は固める時が大変だからね。そのときには2人にも頑張ってもらうよ」
「了解です!」「はい!」
―さらに30分後―
「時間だね。じゃあ2人とも、この布を持ってて。俺が鍋の中身をそこに落とすから」
『はい』
明命と亞莎はには大型の容器の上に重なるように、さらし布を広げてもらっている。俺は鍋の中の煮えた天草とお湯を手早く、だけど丁寧に2人が持っているさらし布へ移す。
「一刀様、この後はどうすればいいのですか?」
「えっと、じゃあ2人とも、布の端を合わせて吊るように持っていって。湯気が暑いから気を付けてね」
「ん、しょ、っと。できました!」
「よし、じゃあそれを絞ってろ過するから。明命はそれを持ってて。亞莎は俺と一緒に布を回して絞るのを手伝って」
『はい!』
明命は天草が入ったさらし布を持ち、俺と亞莎はそれを箸や伸ばし棒を使ってぐるぐると捻じり絞る。
粗方絞り終えて、一息。
「うわぁ〜!亞莎亞莎、透き通ってますよ!透明です!」
「明命、あんまり燥がないの。一刀様、この後はどうすればいいでしょうか?」
キラキラした瞳を浮かべる明命に、亞莎は笑みを浮かべながら注意する。その様子が姉妹のようで微笑ましい。
「うん、これが冷めれば心太が完成なんだけど、今回は寒天作りが主だからね。冷めたこれを冷やして水気を取って、それをまた加工すれば完成かな?」
「はー、まだまだ完成には遠いのですか」
「まぁまぁ、苦労した分、きっとおいしいよ。まぁそれまでは特にすることもないし、俺の奢りで、ごはんを食べに行こう」
「わかりました」「はい!」
?再び厨?
「と、いうわけで、ここに冷めた完成品があります」
「あの、一刀様?一体誰に向かって説明をしているのでしょうか?」
「川´_ゝ`)なに、気にすることはない。とまぁさっきの心太が固まってるのと水に分かれてるから、これを軽く水で洗おう」
「―――はい、一刀様、洗い終わりました!」
「うん、じゃあ洗い終わった心太を、鍋にかけよう。で、これが溶けるまでに、ちょっと下準備をしよう」
「一刀様、なにを始めるんです?」
「第三次大せ、じゃなくて果物を切るんだ。各国から届いた新鮮な果実だから、きっとおいしいだろうし。」
心太が溶けるまでの間に3人で果物を切り分ける。それらを容器に万遍なく敷き詰めていく。心太が溶けきったら砂糖を入れて混ぜる。果物自体の甘味も必要だが、寒天自体の甘味も必要だろうと思った次第での配慮だ。
「・・・よし、こんなとこかな?それじゃあ明命は鍋から果物が入った容器に中身を移して。亞莎は鍋の中身が半分位になったら明命に止めるように言ってね」
「はい!」「わかりました・・・!」
明命はとけた心太が偏らないように丁寧に容器に移していく。亞莎はそれを補佐するように指示をしつつ、中身を見守る。そして――
「明命、もう少し・・・よし、そこで終わり」
「はい!一刀様、できましたよ!でも、残りのところてんはどうするのですか?」
「うん、全部これだとレパートリー・・・種類がないからさ。残りは天の国で羊羹っていうものにしようかな、って思ってね」
「ようかん・・・ですか?」
「まぁ、ちょっと違うけどね。それじゃ明命、鍋を火にかけて」
「了解です!」
明命に鍋を火にかけてもらい、俺はあるものを取り出す。
「一刀様、それは――」
「ご明察。さすがは呂子明といったところかな。そう、餡子だ(ドヤァ」
「―――――」
「・・・ごめん、俺が悪かった」
したり顔で亞莎に餡子を見せつける。しかし、亞莎はどう反応すればいいのか困っているようで、上目使いに俺を見上げてくる。そんなコントじみたことをしているうちに明命が戻ってきた。
「亞莎、それに一刀様、お鍋を崑崙(コンロ)にかけて――どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ明命。それじゃ、仕上げといこうか」
といっても、あとは餡子を残りの心太に混ぜ合わせるだけである。先ほどとは違い、亞莎に容器の移し替えを、明命にその補佐をやってもらう。
「あーしぇ、もうちょっと右です!」
「えっと、こっちのほう・・・かな?」
「そうです!ゆっくり、ゆっくり・・・うん、ばっちりです!」
「よし・・・それじゃ、いきますよ・・・!」
そんな可愛らしいやりとりに心が癒されつつ、2人は危なげなく作業を終える。
「2人とも、お疲れ様。あとは冷え固まるのを待つだけだよ」
「あぅあぅ、大変でした・・・」
「はひ・・・」
暑い中、火を使う作業をしたから、2人の顔には疲労の色が伺える。かくいう俺もクタクタだ。
「じゃあ、最後の仕事だ。今まで使った鍋とかの片づけをしよう。それが終われば、もうすぐだから、頑張ろう!」
『はい!』
3人で協力して調理器具を片付ける。さぁ、寒天はすぐそこだ―――。
―数時間後―
「2人とも、これが完成品の寒天と羊羹だよ」
冷え固まった2つの寒天を切り分け、明命と亞莎に渡す。
「わぁー、亞莎、あーしぇ!見てください、とっても綺麗ですよ!ようかんも、あんこと寒天がはんぶんこになっていて面白いです!」
「そうだね、食べるのが少しもったいないかも」
和気藹々と寒天と羊羹について話している2人。その様子を眺めていたいけど、食べてもらわないと始まらない。なので――
「まぁまぁ、その辺にしといてさ。まずは食べよう」
『はい!』
「よし、それでは『いただきます!』」
明命は果物入り寒天(以下、寒天)を、亞莎は餡子入り寒天(以下、羊羹)をそれぞれ先に食べ始めた。
「どう、2人とも。おいしい?」
「はい!かんてんのなかに入った果物の食感が新鮮でおいしいです!」
「ようかんのなかに入ったあんこの甘さがさっぱりしていて、おいしいです!」
「そっか、それはよかった」
実家のばぁちゃんが作っていたのを覚えていたから、うろ覚えながらもやってみたけど、上手くいってよかった。
「じゃ、俺も頂こうかな?」
まずは寒天から。果物のそれぞれの食感と独特な酸味や甘味が合わさって、おいしい。羊羹は・・・うん、餡子のしつこくない甘さが寒天が持つ冷たさがあって、とても喉越しがよくておいしい。
「どうですか、一刀様、おいしいですか?」「・・・・・・・」
不安げに明命が訪ねてくる。亞莎も同じ気持ちなのだろう。4つの瞳が不安げに俺を見つめている。
「もちろん、2人が一生懸命作ったんだ。おいしくないはずがないよ」
『――――!!』
パアァッと花開くような笑顔を浮かべる2人。だけど、俺のターンはまだ終了しちゃいないぜ!
「なにより、2人と一緒に食べるんだ。おいしいものがもっとおいしく感じるよ」
「はうあっ!」「あぅ・・・!」
笑顔が一気に朱に彩られる。その様が一段と愛くるしい。
「ほらほら、冷たくなくなっちゃうよ。おいしいうちに食べよう、ね?」
「うぅ、一刀様、ずるいです・・・」「むぅ・・・」
「あはは、ごめんごめん」
非難じみた2人の視線を軽く流し、食事を再開する。うん、やっぱりおいしい。
「食べ終わったら、雪蓮たちにも持っていこう」
「はい!蓮華様もお喜びになられると思います!」
「穏様は、天のお菓子に興味を示すでしょうね」
「あー、確かに」
これから寒天を持っていった後のことに想いを馳せる。それも、きっと楽しいだろう。けど今は、明命と亞莎と3人で作ったこの味を楽しもう。
?後日談?
その後、呉だけで天の料理(正確には一刀)を独占したのがバレて、一刀と共に料理をする恋姫がいたとか、いなかったとか。恋姫の夏は終わらない。
―了―
?あとがき?
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。ほとんどROM專で、知ってる人はいるかも、なカナタです。
さて・・・これを書くに至った経緯は・・・まぁ短編程度なら私でもなんとか書けるかな?と頑張ってみた次第です。まぁ私のことを長々と書いても仕方がないので。
では、カナタのオススメ作品をご紹介。
minazuki様作「江東の花嫁」
呉、というより雪蓮√です。真・恋姫の呉√とは違った外史を楽しめる作品。書くキャラや呉に縁のあるオリジナルキャラ。そして娘など、見どころ満載です。呉√に満足している方も、雪蓮や冥琳が生きてなきゃ満足できねぇぜ・・・な方も是非!
藤林 雅様作品群「とんでも外史シリーズ」
魏の三羽烏や七乃が姉だったり、華琳が○○歳だったり、さまざまな外史が楽しめます!また、氏が運営しているサイトの天上人演義。無印恋姫の外史となっていて、ボリュームたっぷりでオススメです!
アボリア様作「真・恋姫?無双 董卓軍√」
一刀君が月の所に落ちるところからスタートします。三国ではない新たな外史。軍師一刀が頑張ります。現在、連載中の黄巾√も楽しいです!私たちの歌を聴け―――!!
Sion様作「真・恋姫?無双魏√EDアナザー 外史の統一者シリーズ」
皆大好き魏√EDから、再び外史に舞い戻った一刀君の物語です。オリキャラに女だけでなく男を盛り込んでいたり、戦闘描写がとても丁寧に描写されています!現在は董卓軍√から呉√に。今後の展開が楽しみです!
びっくり様作「おせっかいが行く」
どこの勢力にも属さずに、三国世界を生きる一刀君が見られます!管路ちゃんがかわいい!とあるキャラが仲間という面白いポジションで新鮮です!また、農耕の知識を持っている一刀君が新しいですよ!
くらげ様作「恋姫のなにか」
恋姫及び一刀君が現代に生きるという外史です!随所に散りばめられたネタが面白いです!また、キャラクター1人1人の個性が強くて、読み飽きないことうけあいです!
南風様作「心・恋姫?無双」
一刀君が桔梗のいるところに落ちるという外史です。その後、主になり、三国とは別の勢力として生きていきます。三国と一刀君の行方は如何に!他にも、短編やとある学園の無双譚も楽しい作品です!
テス様作「真・恋姫無双外史 昇龍伝」
少し年齢が若返った一刀君と星が紡ぐ外史です。星との旅で様々な出来事に巻き込まれる一刀君。様々な出来事を経験して成長していく一刀君、それを見守り、時には助ける。そんな星との物語です!現在は第2章である「地」を連載中です!
まだまだ書き足りないですが、作者の体力の限界が近いのでこの辺で。再見(・ω・)ノシ
説明 | ||
皆様初めまして。カナタと申す者です。私の夏のイメージを恋姫に演じてもらいました。楽しんで頂けたら幸いです。それでは、私の外史をどうぞ、ご覧あれ―――。 ※オススメ作品は、長々と書いてしまうかもしれないので、申し訳ありませんが、あとがきにて。 6/16:地味に修正。 |
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コメント | ||
ジョージ 様<コメントありがとうございます。何も入っていない寒天に、黒蜜ときなこをかけて食べるのも、またオツなものですよ〜^^(石川カナタ) どちらも最近全く食べてませんねぇ……何か食べたくなってきた。(峠崎丈二) 黒山羊 様<コメントありがとうございます。心太もいいものです。醤油やポン酢をかけて食べるとおいしいです。ですが今回は見送りという形です^^;(石川カナタ) 寒天・羊羹とくれば、ところ天も食べたくなるな。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) |
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