愛紗と一刀 |
薄い橙色の空。
それを受けて、それより下の空間は、受動的にその色を帯びていた。
雑草は緑色ではなく、白く黄色がかっている。
町のにおいがほんのりと漂ってくる。だが薄れていく。
活気溢れる町の声も、次第に遠のいていく。
浅い風が定期的に流れる。
それが彼女の整っている髪をほんの少し乱した。
彼女の困っている姿が愛らしい。
それを隠すかのように、乱れた髪を大げさに直す。
その仕草も愛らしい。
俺は目線を逸らさない。
彼女が何か言うまで何かを言う気が起きない。
見ているだけで、中枢神経が満たされるからだ。
彼女の、俺だけに見せる、本当の姿を。
困り果てた彼女は、一声をようやく出した。
名前を呼ばれたので、何?と目線を細めて言った。
慌てて彼女は「な、なんでもありません。」とよろめく。
驚かせただろうか。
いや、数刻前まで彼女の方が圧倒的に有利だったのだからそれはない。
怖がらせただろうか。
いや、「関雲長」に限ってそれはない。
というような推論をたてる必要はない。知っていての態度だったのだから。
唐突に髪を撫でてみる。
今度は驚き、目を見開いていたが、やがて行為に従った。
数秒前までの彼女とは表裏を為すかのように、穏やかな表情になった。
少しだけ罪悪感を感じていたので、もっと優しくしようと思った。
彼女をゆっくりと引き寄せ、左手を左肩まで回す。
もっと寄ってきたので、それに合わせて力を入れる。
彼女は安心したようで、全身の強張が抜けて、全心を胸に預けてきた。
俺の好きな香りを堪能しつつ、辺りが闇に沈黙するまで、ずっと抱き合っていたーー。
ーご主人様はずるいです。
私が注意をしても、ああやって黙って。
嫌いにならない。それはわかっています。優しいですから。
でも、それでも、冗談でも、心配になるに決まってます。
不安になります。
もし、もしもご主人様が私の事を嫌悪なさったら、私はどうすればよろしいのですか。
生きてはゆけません。
貴方は心の奥の、私でさえ届かない、私の生きる糧となる部分を占領しているのです。
その最後の拠点を失えば…。もうどうにもなりません。
強く、誰よりも強く生きようと思っていた私をこうも簡単に攻略し、弱い私に変える…。
故に、貴方は罪深く、ずるいのですー
重なっていた唇を離して、俺は愛紗の目頭を掬う。
そしてもう一度口を重ね、できるだけ優しく、強く、抱きしめた。
こんなに可愛くて素直な娘を嫌いになるわけないよと。
俺は君を失えば、死ぬことよりもつらいと。
さっきは意地悪してごめんと。そして“愛してる”と。俺はそう言った。
「誰よりもですか」と聞かれたので、今までの目線をずらす。
愛紗は笑いながら、ご主人様らしいですと言っていた。
朝。
名残惜しみながらも、手を離し服に手を伸ばす。
寝ている主君を見て、満面の笑みを浮かべる。
ー果たして私は、本当に弱くなったのだろうか。
いや、もうそんな事はどうだっていい。
私はこの方、…ご主人様…を守れれば、それでいい。
もちろん桃香様や鈴々、他の皆、そしてこの国の民達を守っていくことも当然だ。
しかし、心や体は嘘をつけない。
…ご主人様。どうかお許しください。この嫉妬深くわがままで面倒で嫌な女を。
貴方さえいればいいと思ってしまっている、この私をー
それほどまでに、…貴方を愛しているのです。
「誰よりも?」と俺は聞いた。
聞かれていたことに驚き恥じらった後に、2文字で返答が返ってきた。
俺は着替え終わっている愛紗に手招きし、今日初のキスをした。
弱くなった愛紗にさらにもう一度キスをし、耳元で名前を呼ぶ。
少し経って愛紗が俺の背中に手を回し、「……ご主人様の、ばか。」と耳元で呟いてきた。
ー…もう、弱くてもいい。貴方の傍にいられるのなら…−
外では小鳥がさえずっていて、日が差していた。
暖かな日差しに、俺は、春の訪れを確信した。
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k,nです!不定期で申し訳ないです。 愛紗メインの話です。 |
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コメント | ||
>320i 愛紗さいこ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!!!!!(k.n) >悠なるかなさん 愛紗さんまじ可愛いのになぜですかね?一作目のメインヒロインなのに…(/_;)(k.n) >namenekoさん ありがとうございます!しかし、3次元には存在しませんよ。こんな完璧な彼女は( o )(k.n) こんな愛紗が萌将伝で見たかった…(悠なるかな) 愛紗可愛すぎる。こんな彼女欲しい(VVV計画の被験者) |
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