生き神少娘(ガール)(死神の使い編)
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「………………」

 

“ギィ……、ギィ……”

 

夜も更けて、日付が変わる数十分前のこと…。

木々が生い茂る、とある公園にてスーツ姿の太った中年男性がたった今、首を吊ってこの世を去った。

 

男の周りには、首を吊る為の足場として用意しておいた椅子、疲れて死にたくなったという遺書の入ったカバンがあり、そして……、

 

 

「アハハハ♪おっちゃん死んじゃったね〜♪」

 

悪魔の特徴を持つ翼と2本の角を、背中、こめかみから生やした、およそ5、6歳のサイドテールの髪形をした女の子がその男の死体の前で、嬉しそうに笑っていた。

 

「おいおい。笑うなって」

 

そして同じく嬉しそうに笑う、高校生くらいの年齢の大きな鎌を持った、見た目が死神らしき少女がその男の死体の前にいた。

その少女はグレイの色の髪の毛の中にいくつかの白い髪の束が混じったショートヘアをしており、黒いマントを羽織っていた。

 

 

「おっさんだって色々と苦しかったんだろうからさ、ようやく楽になれたって時に笑ったら、自殺したおっさんが報われないってもんだよ。ルド」

「は〜んせ〜♪」

 

鎌を持った少女が、悪魔の様な見た目をした、ルドという名の少女に注意する。

死神らしき少女に指摘された為、ルドは嬉しそうながらも少しバツが悪そうに、自らの握り拳でコツンと頭を軽く小突くのだった。

 

 

「ま…、自殺しちまったおっさんもおっさんだけどな」

「アハハハ♪」

「笑うなっての!!」

「だって〜…、グリズ」

 

再度、笑い出したルドにグリズという死神らしき少女が注意する。

 

 

グリズとルド、2人はそれぞれ、死神に悪魔で、共に“使い”である。

 

 

「むっ、グリズ隊長!!向こうの方から、新たに自殺志願者(ターゲット)らしきオーラを感じ取りました!!」

「マジか?」

 

突如、自殺を考えている人間の雰囲気を感じ取ったのか、ルドがあたかも軍隊の上官に報告する部下の様な敬礼をグリズに向ける。

その報告を聞くと同時に、グリズの鎌の柄の先端から青白く燃える人魂らしきものが出現した。

 

「じゃ早速、その自殺志願者(ターゲット)とやらの元に向かうか」

「うん♪」

 

 

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所変わって、とある家庭の一室。

 

薄暗い部屋の中で勉強机に向かっている、ニット帽をかぶった少女がカッターナイフを手首に宛がって(あてがって)いた。

自殺をする為であり、その決意は固まっていたはずだった。が、いざ手首を切ろうとしたものの、まだ死にたくないという思いもあるらしく、

カッターを握る右手がかなり震えている。少しの葛藤の末にカッターナイフを机の上にコトッと置いた。

 

“どうして…、また躊躇った(ためらった)んだろう…?死にたいのに…”

 

少女が憔悴(しょうすい)しきった様子で涙を流しながら呟く。

 

 

少女の名前はキイ。

以前まではごく普通の生活を送る少女だった。あの日までは…――――――――

 

 

「残念ながら…、もう手の施しようがありません…」

「あの子…、もう半年と持たないみたい」

 

2ヶ月前に診察を受けた際に判明した不治の病。

 

 

「ごめん。これ以上は耐えられない。だから別れてくれ!!」

 

そして、1週間前に交際していた彼氏からの一方的な別れの宣告――――――――

 

 

「!!〜〜〜〜〜〜」

 

それを思い出すと、キイは両手で顔を覆い、声にならない声で慟哭するのだった。

 

 

と、その時、閉まっていたはずのベランダの扉が突如ガラッと開き、泣く事に集中していたキイは思わずビクついた。

 

「浸ってるところ悪いけど、ちょっとお邪魔するよ」

 

その言葉と共に、何者かが部屋の中に入ってくる。

 

 

「誰…!!?」

「死神の使い…、とだけ言っとこうか」

 

振り返ったキイの視線の先には、大きな鎌を持った白髪混じりの少女が、壁にもたれかかっており、その口元は笑みで吊りあがっている。

死神の使い、グリズだった。

 

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目の前の異様な光景に腰が抜けたのか、キイが床に座り込む。それを確認すると、グリズは笑いながらキイの元へとゆっくりと歩みを進める。

 

「し…、死神って…、何…?

 何…、しに…?」

 

突然の出来事に、キイは抵抗する事さえも忘れ、声にならない声で質問するだけで精一杯だった。グリズはそんな彼女の顔に、持っていた鎌を突きつける。

キイの目の前では鎌の先端の人魂らしき炎がゆらりと燃えていたが、思っていたよりは熱くはなかった。いや、熱いというよりは、生温く(ぬるく)感じた。

 

 

「何しにって…、アンタを自殺させる為に来たんだよ?」

 

その言葉と同時に、グリズの笑みが消え、そして鎌の人魂の炎もまたフッと消えた。

 

「どういう…、意味…?」

「言葉通りだよ。俗に言う、自殺教唆ってヤツ」

 

恐怖で顔を歪ませながらも、必死に声を絞り出して質問するキイに、グリズは淡々と答えるのだった。

 

「そんなに怖がんなって。自殺を考えてたんだろ?」

「だ……、けど…」

「大丈夫だって。怖がらなくたって、苦しまずにスグ死ねるさ…。

 

 ルド!!」

「ハ〜イ♪グリズ〜♪」

 

 

鎌を突きつけつつ後ろを向くと、グリズは悪魔の使いであるルドを呼んだ。

それを聞いたルドが“待ってました”と言わんばかりに、キイの部屋に飛びながらやってきた。

 

「呼ばれて飛び出てこんばんは〜♪って事でグリズ〜♪やっちゃって良いの〜?」

「良いよ。何ならマックスで行くか?」

「OK〜♪ネガティブネガティブネガティブブ…」

 

恐怖でへたり込んでいたキイの前に着地すると同時に、ルドは両掌(てのひら)を胸の前にして空間を作ると、何やら呪文の様なものを呟いた(つぶやいた)。

するとルドの掌の中に何やらどす黒いオーラらしきものが、“ボオオ…”っと現れた。

 

「鬱(ウツ)状態に、なあれ〜♪」

「!!?」

 

やがて、それを唱え終えると、そのオーラをキイの頭から全身に浴びせる。

突然、目の前が真っ暗になった事で、キイは何が起きたのかを把握する事が出来なかった。

やがて、把握するのも面倒なほどに自身の気分が塞ぎこんでいくのを実感していった…。

 

 

やがて、キイの周りに立ち込めていた黒いオーラが晴れると、目の前でキイが何やらボソボソと呟いているのを確認できた。

その表情は先程よりも暗く、わずかに残っていた瞳の光も生気を失っており、その姿は宛も(あたかも)廃人の様にも思えた。

 

「もう…、生きていたくない…。死ねば…、楽に…」

「そうだよ、死ねば楽になるんだよ」

 

そうボソボソと呟くキイを尻目に、グリズは先程キイが机の上に置いたカッターナイフを掴むと、キイの右手のそばにカタンと放り投げる。

 

「ほらよ。やるんなら頚動脈が良い。痛いの前に眠くなって、即あの世行きだ」

「アハハ、首切り〜♪」

「ようやく…、楽に…。苦しいのから…、ようやく…」

 

グリズが放り投げたカッターナイフをキイはゆっくりと掴んだ。その表情は暗いながらも、ようやく楽になれるという事で、わずかに笑みがこもっていた。

 

 

「アハハハ〜♪じさつのしゅんか〜ん♪」

「お前は黙ってろ」

 

その前では、ルドがはしゃぎながらキイが自殺する瞬間を心待ちにしており、グリズはそんな彼女を落ち着かせる。

 

 

キイは瞳をゆっくりと閉じると、カッターナイフの刃をそっと首に宛がう(あてがう)。

その傍らでグリズはその光景を笑みを浮かべながら観察し、ルドはワクワクしつつ瞳をキラキラさせながら観察していた。

 

そして、頚動脈を切って楽になろうと、カッターを握る右手に力を込めようとした。

 

 

その時だった。

 

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“チャラララララララン…♪”

 

突如、机の上に置いてあった携帯電話が鳴った。

 

“この着メロ…、まさか…”

 

 

聞き覚えのある着信音に、キイはカッターナイフを持ちながら左手で携帯電話を手にした。

液晶の着信画面には、1週間前に別れた男の名前があった。

 

“チャチャチャ〜ン、チャチャ〜ン♪”

 

“何で…、あの人が…?”

 

半信半疑のまま、キイはその電話に出た。

 

「もしもし…」

“キイか!?”

 

携帯電話の向こうからは、彼女にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

一方、予想だにしていなかった事態にルドはキョトンとした表情でそれを見ていた。

“ハレ?”と素っ頓狂(すっとんきょう)に呟くルドをよそに、グリズの表情は少し険しくなっている。

 

 

“この前は考えなしに別れようなんて言って、悪かった…!!

 もし…、もし許してくれるなら、もう一度やり直してくれないか!?”

 

電話口の向こうから聞こえてくる、キイを振ったはずの男の必死の声に、キイの瞳から止めどない量の涙が溢れてくる。

そして、無意識のうちにカッターナイフの刃をカチカチと収め、それを鉛筆立ての中に入れていた。

 

「本当に…、あたしなんかで良いの…?」

“ああ…、覚悟は決めた。もう逃げない!!

 それはそうと…、自傷行為とか自殺未遂とかしてないよな!?”

「ううん…、そんなのしてないよ」

 

キイは恋人だった男を心配させまいと、即答で、しかしゆっくりと優しく否定するのだった。

そこには先程まで自殺を考え、廃人の様だった彼女はどこにもおらず、瞳にも輝きが戻り、表情も生き生きとしていた。

 

 

「引き上げるぞ、ルド」

「ええ〜!!?でもアイツまだ…」

「良いから来い!!」

 

一方で、当てが外れたと分かった途端、グリズはベランダの方へと踵を返す事にした。

ルドは目の前の展開に納得がいってないらしく、ゴネていたが、グリズはそんなルドの襟首を掴むとズルズルと引きずってベランダへと向かっていった。

 

 

「ビンタとパフェで別れた事はチャラにしてあげる」

“ええ〜!?”

「つべこべ言わない。じゃあ10時ね♪」

 

 

「ごめんなさい、死神さん…」

 

携帯電話での会話を終えると、キイは袖口で溢れていた涙をグッと拭った。

 

「あたし、まだ死ねない!!だから…」

 

“あたしの事は諦めて”

そう伝えるつもりで毅然とした表情で、グリズ達がいるはずの後ろを振り返った。

が、そこには先程までいた2人はいなくなっていた。

 

「え…?あれ…?

 

 そういえば何でベランダのドアが開いてるんだろう…?」

 

 

振り向いて数秒で、自分を自殺へと追いやりに来た死神の使いと悪魔の使いの事を忘れていた。

 

“ま…、いっか…”

 

そう呟くと、キイはベランダの扉を閉め、そのままベッドの中に潜り込んだ。

潜り込んですぐに上の方から微かに何か音がしているのが聞こえてきた。が、それが何かを考える間もなく、そのまま眠りに就いた…。

 

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「何で何で何で〜〜〜!!?」

「しつこいぞ。いい加減諦めろよ!?」

 

さて、キイの家の屋根にはグリズとルドが並んで座っていた。

悔しそうながらも諦めがついているグリズに対し、ルドは未だに納得がいってないのか、そのまま寝転がって手足をジタバタさせていた。

 

「もう少しで、血がドバ〜ッって…」

「当の本人が電話で心変わりしたんだから、どうしようもないだろ!!」

「だったら、グリズがその鎌で…」

「だ・か・ら!!」

 

“その鎌で殺せばいいのに!!”と言おうとしたルドを、グリズは無理矢理遮る(さえぎる)。

 

「使いが自殺以外で人を殺したらダメなんだって!!」

 

ウンザリとした様子でルドにそう言い聞かせる。

 

 

「ま、考え直してみなよ。今回は自殺させ損なったけど、キイ(アイツ)はもう先が短いんだぜ?」

「う〜…、それはそうだけど…」

「しばらくすりゃキイ(アイツ)も苦しみまくって、やがては惨めな死に方をするんだ。

 それを遠くから眺めて、思いっきり笑ってやるのも悪くないと思うぞ?思い浮かべてみなよ」

「う〜ん…、それも悪くないかも…」

「だろ?だから、今回は諦めなよ」

「うん、分かった♪」

 

グリズの言葉に、最初は膨れた様子だったルドも、次第に表情が明るくなっていく。

 

 

「さてと…」

 

その言葉と同時に、グリズの鎌の柄の先端に再び人魂らしき青白い炎が浮かび上がってきた。

そして2人共に腰を上げると、そのまま空へと浮かび上がる。

 

「次の自殺志願者(ヤツ)を探しに行くか」

「うん♪」

 

説明
今、構想中の生き神少娘(ガール)のSSのシリーズラストです。http://www.tinami.com/view/97051 をリメイクしました。今回は死神の使いと悪魔の使いがメインのお話です。KanonとのクロスSSと違って、ギャグはほとんどありません。
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