「まぁ、一刀からの贈り物だったら、思春は何でも喜ぶわよ！」

「そういうもんかなぁ」

姉さんは「鈍感なんだから……」とつぶやいたが、意味がわからなかったので俺は聞き返さなかった。

姉さんと別れた後再び思案。

何でもいいってのが一番難しんだよなぁ。

そう考えていると、穏が歩いているのを見つけた。

穏は思春と歳が近いし、聞いてみるのも良いかもしれないな。

「お〜い、穏！」

「ふぇ？…あ〜、一刀様〜。何か御用ですかぁ？」

「実は…」

俺は思春の誕生日の贈り物についてを穏に話した。

「ふ〜む、なるほど〜」

「何か良い物はないか？」

「では、街に行きませんか〜。

　ここで考えるよりも街で色々と見てまわったほうが良いですよ」

「なるほど、確かに」

「では、行きましょ〜！」

そう言うと穏は俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。

「ちょ、ちょっと穏！？」

む、胸が当たってる〜！

「どうしたんですかぁ？早く行きましょ〜」

穏に引っ張られながら街に向かうことにした。

「いろんな店があるなぁ」

袁家が消滅したことと、姉さんの前からの英雄としての名声が合わさり、街には人が賑わっていた。

「みてくださ〜い。珍しいものがたくさんありますよ！」

穏は興奮した様子で店の商品を見てまわる。

店には珍しいものが沢山並んでおり、南蛮のものやはるか西の国からの商品など色々とある。

「穏はさぁ〜、何をもらったら嬉しい？」

「もちろん、本ですよ！」

俺が参考までに聞いてみると、考えた通りの答えが返ってきた。

穏は本が大好きである。本の虫と言っても良い。

しかし穏は本を読むと体が熱くなるという性癖を持っている。

なので、冥琳に屋敷の書庫に入るのを禁止させれている。

「あ〜〜〜！！！」

突然穏が叫ぶのでそちらを向くと、本を持った穏が体をくねくねさせていた。

「見てください『孟徳新書』ですよ！！」

「孟徳新書？」

確か華琳の、曹操の字が孟徳だったような…

「はい！これはあの孫子を曹操さんの解釈のもと書かれた注釈書です！

　あの素晴らしい孫子と、乱世の奸雄と言われている曹操さんの考えとの夢の共演！！

　いいな〜欲しいですぅ…」

そういえば華琳は一緒に学んでいる頃から良く孫子を読んでいたな。

「チラ。チラチラ」

こちらにこの本を買うよう要求する視線を送ってくる穏。

「……わかったよ。買ってやるよ」

「ありがとうございます！一刀様大好き！！」

本を買ってやると、穏は喜びのあまり俺に抱きついてきた。

だ、だから胸が当たってる〜！

「そ、それよりも思春への贈り物、頼むぞ」

そう言って再び贈り物探しを始めた。

店を散策していると、ある店でふと足が止まった。

その店は装飾の品を扱っており、綺羅びやかな商品が並んでいた。

そのなかで、あまり目立たないがしかし俺の目を引くかんざしがあった。

店の主人に声をかけ、かんざしを手に取り見てみると、思春の藍色の髪に合う小さな白い花の飾りが付いていた。

「鈴蘭ですね」

横から覗いてきた穏が言った。

「とても可愛いですねぇ。思春ちゃんに似合うと思いますよ」

「そうだな。店主、これをください」

思春への贈り物も決まり、俺達は屋敷に戻ることにした。

思春は喜んでくれるだろうか。