真・恋姫†無双 外伝:こんな夏の日 その3 |
こんな夏の日 その3
一刀さんと付き合う事になってから、少しの時が過ぎた。よく付き合い始めてから男が変わるという話を耳にするが、彼はその例から外れた人物であった事は、嬉しい誤算である。
彼や私のバイトがある日は別として、あれからほとんどの日を彼と過ごしていた。
何度か泊まった事もあるが、まだ事は致していない。そういう雰囲気になる前に、彼の抱擁に私の妄想が暴走し、往々にして行動に出る隙もなってしまうのである。
………………あまり上手くない。
という訳で、私はいまだ処女のままです。いや、それは別に構わないのですが、やはり一刀さんに申し訳ないというかなんというか………。
一度その事を話した事はありますが、彼はいつものように笑って―――。
「気にしなくていいよ。稟が受け入れられるようになるまで、俺は待ってるからさ」
―――そのように言われてしまっては、私は言葉も出なくなるのでした。
いや、こんな回顧録を語っている場合ではない。
私の目の前には、予想だにしなかった光景が広がっている。一刀さんは相変わらずのそのフェロモン(作者注:稟の妄想)を発し、女性に取り囲まれているのだ。
………………どうしよう。
さて、夏休みも3分の1を過ぎたころだろうか。私と一刀さんはいま、東京駅に来ている。私はキャリーケースを引き、一刀さんはボストンバッグを抱えて切符売り場に立っていた。お盆よりも早い時期だからか、テレビで以前見た帰省ラッシュほどの利用者はいないようだ。これなら十分に座れるだろう。そう言ったら一刀さんは、
「東京駅が始発だから、30分も待てば自由席に座れるよ」
笑いながらそう言った。考えてみればそうだ。なんというか、一刀さんの前では少し馬鹿な子になっている自分が悲しくなる。
それぞれ乗車券と特急券を買い、新幹線のホームへと向かう。改札をくぐった所で弁当と飲み物を買いこみ、エスカレーターを上がった。
ちなみに特急券は名古屋までだ。これは私と彼の乗換駅が名古屋という訳ではない。彼は、どうせだから途中で観光でもしていこうという自分の言葉を覚えていてくれたのだ。余談だが、新幹線で途中下車をする際には、今回の私達のように乗車券は最終の駅まで買えば、再度乗ることができる。ただし、特急券は1列車のみなので、注意されたし。
閑話休題。
名古屋で観光をし、大阪で食い倒れ(途中私は鼻血で倒れ)、最終の乗換駅に着いたのは、すでに夕方となった頃だった。新幹線を降りたところで、ポケットに入れていた携帯が震え出す。一刀さんに断って携帯を開けば、風からのメールだった。
『お久しぶりです。東京の暮らしはどうですか?稟ちゃんの事だから、妄想で何度も鼻血を噴いてはいないかと、風は夜も眠れません。さて、話は変わりますが、今年の夏は、帰省されますか?もし戻って来るのなら、また皆で遊びましょうねー』
久しぶりに連絡がきたと思ったら、もう昔に戻ったように感じられる。私はそんな風のメールに、すでに帰っている事と新幹線を降りた事を返すと、携帯をポケットにしまった。
「地元の友達か?」
一刀さんが問いかける。
「はい、小学校の頃からの友達です。帰省するのかとメールが来たので、すでに新幹線を降りたと伝えました」
「そうか。しっかり遊んでおいで」
「はい」
そんなやりとりも、もうすぐ終わってしまう。そんな寂しさを感じながら、私はこっちの線だからと別れを切り出すと、彼は驚いた顔をした。
「え?俺もこっちだぞ」
「………え?」
まさか………。いやいや、待て待て待て!いくらなんでもそんな小説染みた事が現実に起きるわけがない。私は自分にそう言い聞かせながらも、一刀さんが手に持つ乗車券を奪うようにして覗き見る。
「………………はぁあっ!?」
私は思わず奇声を上げてしまった。無理もない。そこに書かれていた降車駅は――――――。
「どうしたんだ?」
一刀さんはそんな私に驚きながらも聞いてきた。私は言葉を発することが出来ずに、自分の乗車券を手渡す。何故最初に確かめなかった?
「………うぉっ!?同じ駅じゃないか!」
まさに事実は小説よりも奇なり………いえ、これはむしろ運命とさえ言えるでしょう。地元から遠く離れた大学で知り合い、付き合うようになった私達が、実は同じ土地の出身だったなんて。
「すごい偶然だ…運命みたいだな……」
そう、これはもはや運命……天命なのだ!私と一刀さんは出会うべくして出会ったのだ。
「もしかしたら、俺達どっかで会ってるかもな」
あぁ、そうだったらどんなに嬉しい事でしょうか。もしかしたら私と彼は、実は幼稚園の頃に出会った事があり、いまこうして惹かれ合っているように、その頃も惹かれ合い、よくある「大人になったらお嫁さんにして」的な約束もしているかもしれない。
「だったら向こうでも会えるな」
そうですね。そして2人でデートしている所を近所の人に見られ、それが彼と私の親に伝わり、「今度うちに連れてきなさい」みたいな事になって「気に入ったぞ、北郷君!いや、一刀君!これからも娘をよろしく頼むな」とか「あらあら、すっかりお父さんも気に入っちゃって。一刀君、よかったら今日は泊まっていきなさい」みたいな事が起きて、そしてそして――――――
「――――――ぷはぁぁぁあああっ!」
「なんでっ!?」
私は公衆の面前で、鼻血の海に溺れるのだった。
「ふがふが………まことに申し訳ありません」
「まったく理由がわからないんだが………」
「むしろ聞かないでください………」
いま私たちは同じ電車のボックス席に向かい合って座っている。気絶していた時間は数分ほどで、私達はなんとか急行電車に乗る事が出来た。
「聞かないでいてやるよ………それにしても同じ駅って凄いな。高校はどこだったんだ?」
彼の質問に、私は母校の名前を伝える。
「お、そこ知ってるよ。俺はフランチェスカだったんだけど、知ってる?」
「はい、勿論知ってます」
勿論知っている。あそこは確か、かつては女子高だったが数年前に共学に変わったところだ。女子高時代から、私の母校とよく競っていたらしい。現に、私の仲間の中でも、部活でフランチェスカに勝っただの負けただの言っていた子もいる。
「稟だって友達との約束とかもあるだろうけど、一回くらいは一緒に遊ぼうな」
「はい、勿論です」
そんな車内での会話。
1度各駅に乗り換えた私達は、30分もしないうちに地元の駅へと到着した。彼が一度家に電話すると言ったので私は改札の外で待つと伝えて、一旦別れた。どこまで一緒に帰れるだろうか、そんな事を考えながら改札を出たところで、懐かしい声が聞こえてくる。
「おぉっ、稟ちゃんではないですか。奇遇ですねー」
「何言ってるのよ。アンタがこの時間に帰って来る、って言ったんじゃない」
「風と…桂花………?」
見れば、そこには懐かしい顔ぶれが。風の飴好きは変わっていないようだ。桂花は少しだけ大人びた気もする。
「そですよー。稟ちゃんの風ですー」
「どうして、此処に?」
「にゅふふ、風は一流ですのでー」
少しだけ驚きに思考が止まってしまったが、考えてみれば風だ。新幹線を降りた時のメールで、電車の時刻表を調べたに違いない。まったく、相変わらず人の虚をつくのが上手い。そんな懐かしさを感じていると、後ろからも声がかかる。
「あれ、もう友達に会ったのか?」
「一刀さん………」
振り返れば、一刀さんがバッグ片手に改札から出てきたところだった。
「おや、その御方は?」
「稟…アンタ、まさか………」
風がジト目で一刀さんを見つめ、男嫌いの桂花は驚きと警戒の視線で彼を睨み付けている。
「えぇと、紹介しますね。こちらは北郷一刀さん。私の―――」
彼氏です。そう言おうとしたところで、それよりも大きな声に待ったをかけられてしまった。
「あれっ!?北郷ではないか!」
「―――彼……え?」
左からかかる声にそちらを振り向けば、高校時代の先輩である春蘭様と秋蘭様が歩いてくるところだった。いや、待て。そんな事はどうでもいい。彼女はいま、何と言った?
「おっ、春蘭じゃないか。それに秋蘭も。久しぶりだな」
「………へ?」
この間の抜けた声は、私のものだ。え?どういう事?何故、2人が知り合いなのだ?様々な疑問が脳内を駆け巡るなか、私はなんとか声を絞り出す。
「春蘭様…一刀さんの事をご存知なのですか?」
「当り前だ。こいつはこれまでで唯一私を負かした男だからな!」
「あはは、懐かしいなぁ。大学でも剣道は続けているのか?」
「もちろんだ。お前に勝つまではな。帰ってきたのならちょうどいい。今度道場に邪魔するからな」
「はいはい。時間が合えばね」
「あの、一刀さん……どういう事で?」
私は再度言葉をひねり出す。
「あぁ。稟達の学校とフランチェスカが部活で競ってたのは稟も知ってるだろ?公式試合以外にも交流戦をよくやってたんだけど、剣道部でね」
春蘭様が剣道をしていた事は勿論知っていたし、彼女が全国大会で優勝していた事も知っているが、そんな事が………。
私の驚愕は、さらに上書きされる。
「他にもいろいろ出てただろう、北郷は」
今度は秋蘭様も親しげに話しかける。そういえば、先ほど一刀さんは秋蘭様の名前も呼んでいた。彼女は弓道部だった。まさか――――――。
「うちの学校は男子が少なかったからね」
「それでも助っ人で勝ってしまうからな、お前は」
「弓は集中力の問題もあるしな。あと、少しだけ爺ちゃんにやらされていたんだよ。武人たるもの一つの武器に囚われるな、ってね」
「相変わらず簡単そうに言うな」
あぁ…少しずつ彼女としての地位が下がっていっている気がする………。
「そういえば、なんで2人はここにいるんだ?」
「風…そこにいる飴を咥えている子だ。彼女からのメールでな。この時間に稟が帰ってくるから、どうせなら皆で迎えてやろうという訳だ。ただ少し遅れてしまったみたいだが」
「へぇ、稟の友達なのか」
あぁ…彼女の私でさえいまだ緊張するのに、どうして春蘭様も秋蘭様もこうして普通に会話が出来るのでしょうか………。
そして更にかかる声に、私は泣き出しそうになる。
「もう皆さま揃ってらしたのですね………って、北郷さん!?」
「おぉ、去年凪と試合した兄さんやんか」
「あー!凪ちゃんを倒しちゃった人なのー」
やめて…私の涙腺が崩壊しそうです………
「凪か。久しぶりだな」
「おや、凪ちゃんもこのお兄さんを知っているのですかー?」
そんな風の言葉が優しく耳に届く。どうやら風は私を裏切ってはいなかったらしい。
「はい。去年のフランチェスカとの練習試合でお相手をして頂きました。一度もまともに当てる事は出来ませんでしたが」
「いやいや、凪もなかなか筋がよかったぞ?今も部活は続けているのか?」
「せやでー。ウチらはもう3年やし、凪は部長やっとるんやで」
「そうなのー。部活中の凪ちゃんは格好良すぎて、ファンが大勢いるのー」
真桜も沙和も普通に喋っているし………あの、そろそろ帰ってもいいですか?
「あー!皆揃ってる!ほら、流琉も早くー」
「季衣、速いって!」
今度はこの2人ですか………。この2人まで知り合いというのなら、私は本当に泣きますよ?
「稟ちゃん、久しぶり!」
「お久しぶりです!」
あぁ…いまはこの2人の声だけが私の救いです………。
「あれ、この兄ちゃん誰?」
「この娘も稟の友達なのか?」
「へっ?あ、はい……季衣と流琉です」
「そっか。俺は北郷一刀、よろしくな」
そう言って、彼は2人の頭を撫でる。………羨ましい。
「うん、よろしくね!」
「あの…よろしくです………あの、もしかして、稟さんの彼氏さんですか?」
おっ、流琉ナイスです!さぁ、此処で流れを変えないと、いつまで経っても私のターンが始まりません!
「ん?あぁ、そうだ―――」
「どうやら私が最後みたいね………って、北郷じゃない。何故貴方が此処にいるのかしら?」
もうやめてぇ………。
「おっ、久しぶりだな、華琳。弁論大会以来か?」
「その後、春蘭の最後の大会で会ったじゃない。もう忘れたのかしら?」
「そういえばそうだったな。春蘭たちがいるからまさかとは思ったが、君も稟の仲間の一人か」
「えぇ。久しぶりね、稟………って、貴方はどうして泣いているの?」
「ぅぐ……ぇぐ…………か、一刀さぁぁああん」
「うぉっ!?」
ついに私は泣き出し、一刀さんに抱き着いてしまうのだった。
さて、稟が泣き出してしまったので、ここからは俺が語る事にしよう。オーケー、まずは状況確認だ。
稟と一緒に帰省したら、改札を出たところで懐かしい顔に出会った。春蘭に秋蘭、それに凪と華琳。で、稟が泣き出してしまったわけだ。
………うむ、わからん。
「どういう事かしら?」
はい、そんなに睨まないでください華琳さん。
「俺にもわからないよ………」
俺はそう答えつつも、稟の頭を撫でてやる。
「ほら、稟。どうしたんだ?折角の友達との再会なのに、泣いていたらわからないぞ?」
なんとか慰めようとしつつも、稟はいやいやをするように俺の胸に顔を埋めている。どうしたものか。
「そういえば、どうして貴方と稟が一緒にいるのかしら?」
「あぁ、稟と俺が偶然同じ大学でな。地元も同じだし、一緒に帰るかってなったんだよ」
「そう……で、その状況を見るに」
………?
「貴方と稟はそういう関係だと思っていいのかしら?」
「あー…まぁ、付き合ってるわけだ」
「………そう」
俺の返事に華琳は少し間をおいて頷くと、みんなに向けて口を開く。
「せっかく集まって貰ったところだけど、稟がこの状態ではどうしようもないわね。ここは『彼氏』に任せて、日を改めましょう」
まさに鶴の一声だ。皆は華琳の言葉に頷くと、俺にそれぞれ声をかけて去っていった。いや、風と呼ばれた少女だけ、とととっ、戻って来ると、俺に一枚のメモ帳の切れ端を差し出す。
「これは?」
「はい。稟ちゃんのおうちの住所です。ちゃんと送ってあげてくださいね、おにーさん」
「えぇと、ありがとう………で、いいのかな?」
「いえいえ、どいたしましてー」
なんとも掴めない娘だ。風はそのまま背を向けて、グループの方へと戻っていった。
さて、これからどうしようか。風に稟の住所の写しをもらったはいいが、このまま送っていくのも親御さんが心配しそうだ。
「稟、ほら、もう皆行ったぞ。そろそろ泣き止んでおくれ」
「………ぅぐ、っく」
俺の声に、稟はようやく俺の胸から顔を離す。少し冷たい。
「そうだな………少し休もうか。その辺の店でいいか?」
「………(こく)」
頷く稟。俺はキャリーケースに自分のバッグを乗せて右手で引く。左手に稟の手を握りながら、駅前に林立する飲み屋のうちの一つにはいるのだった。
※
とりあえず烏龍茶を2つ頼む。この状態で飲んでしまえば、稟がどうなるかは目に見えていたからだ。店員がお通しとドリンクのグラスを置いて立ち去るまで待ってから、俺は口を開く。この頃には、稟ももう落ち着いてくれていた。
「………それで、いきなり泣き出したりなんかして、どうしたんだ?」
「一刀さんの、所為です………」
「俺?」
やっと口を開いたかと思うと、今度は俺を非難する言葉。
「俺、なんかしたのか?」
「………いぇ」
「じゃぁ、どうして………」
その後、しばらく口を開いてはくれなかったが、5分ばかり経過しただろうか、ようやく彼女は言葉を続けた。
「私が、一刀さんと話すだけでどれだけ緊張するのか、一刀さんはわかっていないのです」
「………は?」
「一刀さんの事は好きですし、勿論愛してますが、それでも会話をするのも大変なのですっ!」
あれ、語気が荒い?
「それなのに!皆して一刀さんと普通に会話をしているし、一刀さんも皆の事を知っている風だったし!あ、この『風』は私の親友の『風』ではありません。『様子』という意味です」
「いや、それはわかるけど………」
「全然わかってませんっ!」
ダンっ、と稟はグラスをテーブルに叩きつける………個室でよかった。いや、違くて。コイツ飲んでもいないくせに酔ってないか?まさか酒の匂いだけで?
「すみません!生中2でっ!!………やっぱり大で!」
「ちょ!?」
稟は個室の入り口の引き戸を開け、通りがかった店員に注文をする。
「春蘭様や秋蘭様は凄い人なのです!」
「いや、知ってる………」
「いいえ、知りません!2人共全国大会で優勝する程の腕前なのに、そんなあの人たちに貴方は勝ったというではありませんか!」
「まぁ、そうだけど………」
「そして凪とも勝負しているなんて!」
「それは部活で―――」
「お待たせしましたー。生大2つでーす」
「どうもっ!」
空のグラスとビールで満たされた大ジョッキを交換し、稟は乾杯をする事もなく3分の1を一気に喉に流し込む。
「…んぐ、んぐ………ぷはぁっ!それに、季衣と流琉の頭を撫でたりするし」
「いや、小学生くらいの娘に嫉妬されても………」
「うるさいっ!極め付けは華琳様です!なんですか、弁論大会って!?運動だけでは飽き足らず、勉強までできるのですか、一刀さんは!?」
「そりゃ、努力はしてたから………」
「私だって努力してるんです!でも、貴方はそんな文武両道を地で行くような人間で、私は劣等感にまみれてしまっているのです!」
「いや、話が変わっている気が………」
「すみませーん!生大2つ、おかわりくださいっ!!」
「ちょっ!?」
俺は急いで自分のジョッキを空にした。
「―――ぷはぁぁあっ!大体なんで、そんな凄い人が私なんかと付き合っているのですか!?」
「いや、なんでって言われても………」
完全に酔っぱらっていやがる。
「こんな私みたいな妄想癖があってすぐに鼻血を噴出すわ、勉強しか取り柄がないわ、大して可愛くもない女とどうして付き合っているのですか!?」
「いや、そりゃ好きだからだけど………」
稟の猛攻に、ぽろっと本音が出る。途端、稟が黙り込み、俯いてしまった。
「………………」
「…稟さん?」
「………ですか?」
「へ?」
「本当、ですか?」
「………何が?」
「私が好きというのは、本当ですか………」
そう呟く稟の顔は、おそらく酒の所為以上に真っ赤になり、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。ちくしょう、可愛いな。
「あぁ、本当だよ」
「………だったら、証拠を見せてください」
「証拠?」
「はい、いま此処で………キスしてください」
「ちょ、此処でかよ!?待て待て待て!さすがにここでは―――」
「やっぱり嘘だったんですね!?私の事を弄んでいたのですね!やはり私なんか………びぇぇえええええぇぇぇええんんっ!!」
「あー、もう、わかったから!キスしてやるから静かにしなさい!」
「んぐっ!?」
言うが早いか、俺はテーブル越しに稟を引き寄せ、半ば強引に、少し塩辛い唇を奪った。
「………どうだ、理解できたか?」
「………………はぃ」
ようやく大人しくなった稟を座らせ、俺も腰を降ろす。
「やっと落ち着いたか………まぁ、稟がヤキモチを妬いていたのは理解したが、俺の気持ちも分かってくれたか?だから少しは機嫌を直してくれ」
「………はい、すみませんでした」
「ったく……相変わらず酔うと稟は性格が変わるな」
「返す言葉もございません………」
「でも今後はあぁいうワガママは控えてくれよ?流石に人前とかこういう場でするのは恥ずかしい」
俺の言葉に、稟は顔を上げ――――――。
「では、どういう場所であればいいのかしら?」
硬直した。
「華琳っ!?」
見れば入り口ではなく稟の背後の引き戸は開かれ、はたしてそこには華琳が立っていた。
稟はといえば、硬直したのも束の間、膝立ちのまま俺の方によってきて、俺の顔を両腕で自分の胸に抱き寄せる。あ、柔らかい。
「いかに華琳様といえど、一刀さんはあげません!」
「あら、稟も言うようになったじゃない」
「絶対あげませんから!」
「はいはい、わかったから貴方達もこちらで一緒に呑みなさい。会話が全部丸聞こえよ」
華琳の言葉で、ようやく俺の目にも彼女の背後に広がる光景が目に入った。開かれた扉の向こうはさらに2つほどの個室が合同され、さきほど別れたばかりの集団が席についていた。
「ほら、さっさとなさい」
「嫌です!一刀さんは誰にもあげません!」
「あぁ、もう面倒ね………春蘭!」
「はっ」
『はっ!』って時代劇かよ………。華琳の言葉に春蘭は威勢よく返事をし、こちらへとやってくる。その向こうでは季衣が山ほどの料理を口に運び、桂花と風が何やらメニューのリモコンを見てあーだこーだ言い合っている。凪たちはジュースを口に運びながら会話に花を咲かせ、秋蘭は顔を赤くして流琉を抱き締めていた………酔っているな、あれは。その腕の中の流琉もまんざらではないらしい。
「稟を連れて行きなさい。そうね、真ん中の席に座らせておくのよ」
「御意」
だから『御意』て………。
「ほら、稟!華琳様の言う通りにせぬか!」
「嫌ですー!私は一刀さんとこれからランデブーするんです!」
「ランデブーだかブランデーだか知らぬが、さっさと来い」
「いやあああぁぁぁ………」
稟は悲痛な叫びと共に、春蘭に引っ張られていった。
「どうするんだ、あれ?」
「適当に飲んだらちゃんと解放するわ。せっかくあの娘の為に集まったんだから、少しくらい友情を確かめたっていいでしょう?」
「そりゃかまわんが………」
彼女がそう言うのなら、あとは任せても平気かな。
「それじゃぁ俺は帰るよ。稟のことよろしくな」
「あら、貴方もこちらで飲むに決まってるじゃない」
「………は?」
「季衣と流琉はともかく、こっちの面子は皆男っ気がないのばかりなの。少しくらい相手してくれてもいいのではない?」
「いや、そりゃかまわんが、稟が泣くぞ?」
「いいのよ。あの娘はいろいろ溜めこむタイプだし、適度に発散させた方がいいのよ………さっきだってそうだったでしょう?」
確かに。俺が知らなかっただけで、稟は色々と思うところがあったようだ。
「じゃぁ、お邪魔させてもらおうかな」
「いい返事ね。あと、貴方と稟の馴れ初めもたっぷり聞かせてもらうから、そのつもりで」
「はいはい………って、はぁあっ!?」
俺は華琳に襟元を掴まれ、ずるずると隣のスペースに連れて行かれるのだった。
あの後、季衣や流琉はもちろん、真桜と沙和が瞼を擦り始めた頃まで飲み続けた。俺と対面に座らされた稟は最後までずっと俺に手を伸ばしていた。
春蘭と秋蘭が季衣と流琉をおぶり、凪が沙和と真桜を引き連れ、華琳と連れ立って風と桂花が帰っていく姿を見送って、ようやく稟は落ち着いてくれた。
「………さて、俺達も帰るとするか。送るよ」
「………」
返事はない。店を出てからずっと、稟は俺の腕にしがみついている。
「ほら、帰るぞ」
「………………」
俺のバッグを乗せたキャリーケースを右手で引きながら歩き出そうとするも、稟は動こうとしない。
「どうした?」
「今日は…今日だけは、もっと一緒にいたいです………」
「………でも、親御さんにも連絡してるんだろう?帰らなかったら心配するぞ」
「先ほど………先ほど風たちと朝まで遊んでから帰るとメールしました。だから大丈夫です」
酔ってるくせに周到だな、おい。
「………仕方がないか。だったら俺の家でいいか?」
「はい……」
この時間なら爺ちゃん達ももう寝ているだろう。こっそり入ればバレる事はないはずだ。稟が俺の部屋に泊まりに来る事は何度かあったが、やはり実家だと緊張するな。そんな事を思いながら稟を腕にしがみつかせて歩き出す俺に、稟はそっと呟いた。
「………続かせます」
もう慣れたよ。
あとがき
すみません、まだ続きますorz
正直に言うと、落ち着かせどころがわからない………
とりあえず、稟ちゃんはギャグキャラなので、こんな扱い。
稟ファンの皆様すみません。
ですが、これも一郎太が稟ちゃんを愛している証拠として受け取ってくれれば幸いだぜ。
ちなみに、何人かが一刀を知っているという流れは、その2を書いている時点で思いついたwww
だから続いちまうんだよ、コンチキショウ。
こんだけ書く余裕があるならさっさと本編進めろよというコメントは受付を終了いたしました。
では、また次回お会いしましょう。
バイバイ。
説明 | ||
英語の40ページは今日はやらなかったんだぜ、コンチキショウ!ノ(`Д´)ノ という訳で、明日の分の課題も終わったので書いてみた。 稟ちゃんが不憫過ぎて申し訳なさでいっぱいだ(つД`) ではどぞ。 |
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コメント | ||
>>azu様 べっ、別にそんな言葉をかけられたからって嬉しくなんかないんだからねっ!!(一郎太) >>一郎太様 飽きるなんてとんでもない!? 毎回楽しみにしてるのですよぉ〜♪(azu) >>LifeMaker様 そんな羨ましい状況は作りませんwww(一郎太) >>320i様 そろそろネタが尽きてきたぜorz(一郎太) >>悪さする2号様 最近気づいたんだが、切羽詰まっている方がネタが浮かんでくる自分がいるorz 現代編はキャラ崩壊とか気にせずに作者の妄想を書けるので、一郎太も好きですww(一郎太) >>腐犬 久しぶりに見たと思ったらまた名前が長くなっていやがる(一郎太) >>AC711様 一郎太製一刀君は惚れた相手一筋なので、逆にあの状況でも特に動揺しなかったのではないですかねぇwww(一郎太) >>ハセヲ様 そう言って頂けて何よりです!しばしお待ちください(一郎太) >>シリウス様 やっぱ稟ちゃんのファンは多いみたいだ。あんなに変態なのにwww(一郎太) >>シャル様 本編は……どちらかというと一刀君がメインな気がしなくもないですからね(一郎太) >>ZERO様 しばしお待ちをorz(一郎太) >>ロンギヌス様 進展しているようでしていないですからねwww(一郎太) >>rin1031様 感謝です!(一郎太) >>Phobos様 同時進行でも本編がなかなか進まないのです………orz(一郎太) >>azu様 それはあれか?本編はもう飽きたってあれか?orz(一郎太) >>2828様 おk、把握したwww(一郎太) >>ヴァニラ様 まぁ、皆が実は知り合いかも、ってのは前回のコメとかにもありましたし、予想はしやすかったと思いますぜ(一郎太) さすがに現代ではハーレムになれませんね一刀君(笑)(LifeMaker) 更新お疲れ様です。自分も学生時代はレポートばかりで苦労しました…頑張ってください。稟メインもいい感じですね!最近現代編の外伝をものすごく楽しみにしている自分がいます♪(悪さする2号) やっぱ面白いなww本編のもいいけど、これもまたwwww(運営の犬) どう見てもリア充ですが、盛り上がってきましたね。(AC711) すごくよかったです。続きもまっています。(ハセヲ) いやいや この話は続けていって欲しいものです!(シリウス) 本編よりメインヒロインがヒロインっぽいw(シャル) どんな展開になるか楽しみですね。(ZERO&ファルサ) いや、むしろこういう展開からどう二人の仲が進展するのかが楽しみなわけですよ。(ロンギヌス) 今回も楽しく読ませてもらいました!(rin1031) 現代バージョンの春秋に違和感感じると思ったら一刀と同年代だからか。 無理に終わらせようとせずに同時進行連載にしたらどうでしょうかwww(Phobos) 外伝が本編で良くないですか?ww(azu) 本編進めろよというコメントは受付を終了いたしました・・・・・では外伝を進めろよとコメをしてみるw(2828) 今回はちょっと先読みできた!www(ヴァニラ) |
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