少女の航跡 第2章「到来」 15節「戦乱の再開」
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 翌朝、私達はシェルリーナの家を後にし、王都《シレーナ・フォート》へと向かう事になった。

 

 昨晩は何者の襲撃も無く、私達は警戒をしていたものの、無事に朝日を望む事ができるのだ

った。フレアー達など、まるで平和な夜を過ごしたかのように、ぐっすりと朝まで寝込んでしまっ

たようだ。

 

 まるで平凡な日々を送っているかのように、朝、寝ぼけた姿を現したフレアーの姿が、私には

どこか羨ましかった。

 

「じゃあ、母さん…。私達はこれで行くよ。いろいろと世話になったし助かった。ありがとう…」

 

 カテリーナは家の庭先で母と別れの挨拶をしている。しかし彼女の声はどこか淡々としていて

感情が無い。

 

「ええ…。私も、あなたと思いがけず再会できて嬉しいわ。ピュリアーナ女王様によろしくって言

っておいて…」

 

 シェルリーナも、立派な娘を見つめてそう言った。だが、カテリーナはそんな母に一言だけ付

け加える。

 

「もう…、あなたを巻き込んだりしないから、落ち着いて過ごしていて。母さん…」

 

「ええ、分かったわ」

 

 シェルリーナはそのカテリーナの言葉に否定する事もせず。ただ同意している。

 

「じゃあね。おばさん」

 

 元気にルージェラが言いながら、彼女は馬に跨る。私やフレアー達も同じようにした。

 

「元気でね」

 

 シェルリーナのその言葉を最後に、私達は、カテリーナの生家から離れて行った。

 

 私は先を行くカテリーナの顔を見ながら、久しぶりの母親との再会はどのような感じだったの

だろうと、彼女の心情を探りたくなる。

 

 私は、娘としてのカテリーナを知らなかった。いつも友達か、騎士としてのカテリーナしか知ら

ない。彼女は、娘として母にどんな感情を持っているのだろう。そう考えると、昨日、再会してい

きなり剣を抜き合い、それを打ち鳴らしている親子の姿が思い浮かぶ。激しい親子だ。

 

 しかし私の見ている限りでは、カテリーナは母の事を心配し、迷惑をかけないように心配りを

しているようだったが。

 

「あのお方が、世に聞く隻眼の女騎士、シェルリーナか…」

 

 カテリーナの馬に相乗りしている男、私達が救出した男、カイロスが、カテリーナにそう言って

いた。

 

 彼は昨日はその金髪も髭も伸び放題で、衣服も汚れてぼろぼろだったのだが、一夜でまるで

姿が変わっていた。

 

 髪も切られ、さらに髭も剃ってしまうと、意外とこの男が、顔立ちの整った精悍な姿をしている

という事が分かる。更に、カテリーナの父、クロノスの古い衣服を着て、半年近くも牢獄にいた

という気配はまるで見せていない。救出したからたった一日しか経っていないというのに、随分

な変わりようだった。

 

「何だい? 気に入ってくれたのかい?」

 

 カイロスが発した言葉に、カテリーナは答えていた。

 

「ああ…、一応な…」

 

「だけど、私がこの世にいるって事は、あの人は結婚しているんだ。彼女は絶対に浮気なんか

しない人だから、残念だったね?」

 

「そう、だな」

 

 カテリーナの馬上で交わされる会話を、私は、自分の馬を走らせながら、しっかりと聞いてい

た。

 

「あんたは、ロベルト・フォスターって男から救出するように頼まれて救出した。何でもあんた

が、『ディオクレアヌ革命軍』の本拠地を突き止めたって聞いたからね」

 

 と、カテリーナはようやく本題をカイロスから聞き出そうとしていた。

 

「ああ…、突き止めたぜ…。お陰で半年間も地下に閉じ込められちまったってわけさ…。酷え

話だろ?」

 

「昨日、館にいた連中、あれは…?」

 

「ディオクレアヌの奴を、影で支えている連中ってわけさ。あいつらがいなけりゃあ、今の革命

軍なんて存在しねえ。まあ、資金援助者だと思っておいてくれ」

 

 と、自分の後ろに乗せているカイロスが言うと、カテリーナは前を向いたまま更なる質問をし

た。

 

「じゃあ、あんたとそいつら、それと、ロベルトって男との関係は?」

 

 すると、カイロスは少し黙った後に答える。

 

「…皆、仲間さ。元々はな。オレとロベルト達は、奴らのやり方が気に入らないんで裏切らせて

もらった。今じゃあ敵同士ってわけよ」

 

「何で、裏切ったりしたんだ?」

 

「この世界を変革するために、この大陸の国を滅ぼし、覇者を作り出そうって話さ。あんた、付

いていけると思うかい?」

 

 カテリーナは少し考えた後に答えた。

 

「…、それが、そこら辺にいる酔っ払いが言う台詞なら、付いていけないね。でも、あんたが言

いたいのは、昨日の奴ら、あんたの元仲間がその気になれば、そんな事も可能だって、言う事

なんだろ?」

 

「ああ、だから、困ったものさ」

 

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 数時間後、私達はカイロスという男を引き連れ、《シレーナ・フォート》へと戻って来ていた。

 

 カテリーナはすぐさまカイロスを王宮へと連れて行き、ピュリアーナ女王に謁見させた。その

後で、王宮の女王の間にあるテーブルには西域大陸の地図が広げられる。カイロスに、革命

軍の本拠地があるという場所を示させる為だ。

 

 その場には、ロベルトも姿を現していた。

 

「カイロス…、無事だったか…」

 

 ロベルトは、カイロスの顔を見るなり言った。彼は仲間の無事を確認したというのに、あまり

その表情を変えようとはしなかった。

 

「ああ、無事だったぜ…。とんだ、災難だったがな…。まだハデス達は人としての心ってのを捨

てちゃあいないようだな」

 

 カイロスはロベルトに、不敵な表情のまま答えていた。この、まだ20代後半ほどであろう男

と、40代にはなろうというロベルトが仲間というのも、私にとっては不思議なものであった。話し

方から見ても、同世代同士で話しているかのようだ。

 

「それで…、カイロスとやら。お前は『ディオクレアヌ』が率いている革命軍の本拠地を突き止め

たのだろう…? 答えよ。その場所を」

 

 ロベルトと再会させる少しの間を置き、ピュリアーナ女王はカイロスを促した。

 

「おおっと、これは失礼しました女王陛下。このカイロスめが、今すぐにでもその場所を明かし

ましょう」

 

 カイロスは恭しいつもりで女王にそう言ったのであろうが、どこかその態度はわざとらしい。だ

が、女王はあまりそれを気に留めなかったようだ。

 

 この場所には、カテリーナとルージェラという、『リキテインブルグ』の中でも精鋭部隊を率い

ている者達、女王、そして彼女の側近のシレーナが二人いるだけだ。女王は、まるでカイロス

の明かす事を予期しているかのように、王室内の機密を最大に保っていた。

 

 カイロスはテーブルに広げられた地図を見ながら、その西域大陸の内陸部分を指で辿り始

めた。

 

「オレは『ベスティア』の王都、《ミスティルテイン》から馬で5日間走り、内陸の山の中へと入っ

て行った。やがては『ベスティア』の領土を越えて、誰も治めていない大山地に突入して行った

んだ。

 

 何で『ベスティア』の山を探したのかってのは、度々革命軍の目撃情報があったからな。中規

模なゴブリン軍勢が、辺境の村を襲った話も聞いていた。それだってのに、『ベスティア』は、内

陸に調査部隊を派遣して、革命軍の本拠地を探すって事をしなかったんだ。何でかは想像が

付く。おそらくは国の体勢を保つ為だったんだろう。革命軍が自分の国に活動拠点を持ってい

るなんて周りに知れたら、威信に傷が付く」

 

「革命軍は『ベスティア』と通じているのか? 協力し合ってその勢力を広げていると?」

 

 カテリーナはカイロスに尋ねる。

 

「いいや。革命軍はあくまでもどこの国にも頼っちゃいねえ。しかも活動拠点は『ベスティア』領

土内じゃあねえんだ。もっと内陸。『ベスティア』の領土の範囲を越えた、大山岳地帯の中にあ

る。

 

 『ベスティア』はそれを知ってはいるが、自分達の国の勢力では不用意に攻め込む事はでき

ない。かといって、他の国に協力を求める事もできない。見て見ぬふりをしているしかできなか

ったのさ」

 

「もうッ! 国の威信とか、そんな事を言っている場合じゃあないってのに!」

 

 ルージェラがいきり立った。

 

「まあ…、最近『ベスティア』の様子が妙によそよそしいってんで、オレとロベルトの捜索範囲も

大分限定する事ができたがな…」

 

「それで…、カイロスとやら、革命軍の本拠地はどこにあるのだ? その具体的な場所を、お前

は我らに教える事ができるのか?」

 

 ピュリアーナ女王の、威厳のある声が王室内に響き渡る。するとカイロスは女王の方に向き

直った。

 

「ええ…、仰せの通りです女王陛下。このカイロスめが、その場所を地図の上に示させて頂き

ましょう」

 

 妙によそよそしく改まり、カイロスはその自信に溢れた眼をピュリアーナ女王へと向けた。

 

 そして、

 

「『ベスティア』の王都《ミスティルテイン》から、内陸の方向へ500km。馬でおよそ1週間の行

程。そこで『ベスティア』の領土は終わっておりますが、更に大山岳地帯へと馬を進める事、更

に1週間。《ストア》と呼ばれる山に辿り着きます。まさにそこですよ女王陛下。革命軍は、大山

岳地帯の一つの山、《ストア》にその本拠地を構え、更に自らの国を広げようとしている…」

 

 女王の側近によって、テーブルの上の地図に、その場所があろうかという場所が示されてい

た。

 

 カイロスが明かした地図上のその場所は、何も書かれていない場所で、ただその領域を含

む広大な場所、西域大陸の内陸部の大部分を大山岳地帯とだけ記されている。その『ベスティ

ア』に近い場所だった。

 

「カイロスとやら、お前はその場所に実際行き、その眼で確認したのか?」

 

 ピュリアーナ女王が尋ねる。すると、カイロスは彼女の方を振り返り、

 

「はい。女王陛下。ストア山なる山に、革命軍はさながら要塞のような施設を創り上げ、新たな

兵力の増強の為に、次々と兵器を生産しております。ディオクレアヌは1年前からその場所に

本拠地を移し、新たな侵略計画を立てている模様です」

 

 カイロスの話を聞き、ピュリアーナ女王は、彼の眼を見返した。シレーナの中でも、相当の美

貌だという女王は、30の歳を過ぎているというのに、まだ肌には皺一つ無く、その青い瞳の眼

光も鋭く、またどこかなまめかしかった。

 

 本来は、その声と美貌で男を魅了する能力があるという鳥乙女、シレーナ。ピュリアーナ女王

ほど高位の座につくほどの者と目線を合わせる事は、並みの男にはできないと言われている。

 

 一度シレーナと男が目線を合わせてしまうと、もはやその視線に含まれている魔力的な力

で、男はシレーナの意のままに操られてしまうからだ。

 

 だが、カイロスはそんな事は無く、女王に敬意を払ってはいても、不敵な自信を崩さないかの

ような表情で彼女を見返していた。

 

 ピュリアーナ女王は、そんなカイロスを見て、微笑を浮かべた。

 

「…、カイロスとやら。本来ならば、そなたのような、突然我々の前に姿を現した男の話など、信

じないのだがな。お前が嘘を付いている様子は無い。私はそう受け取った。だが、革命軍の情

報に感謝するのは、実際に『ベスティア』の地に、ディオクレアヌの本拠地があった時に初めて

感謝しよう…」

 

「この私には、嬉しきお言葉です」

 

 カイロスは女王にそう答えた。

 

「だが、万が一という事もある。そなたとロベルトとやらが、革命軍の手先で、シレーナの目線

にも耐えられ、嘘を真であるかのように話せる力のある男であるならば、今お前が言った事が

嘘であるという可能性もある。我らを、罠にはめようとしている可能性がな?」

 

 女王は微笑を止め、高圧的な視線でカイロスとロベルトを見つめて言った。彼ら2人は何も答

えようとしない。

 

「カテリーナ。ルージェラ」

 

「はッ!」

 

 女王に言われ、カテリーナとルージェラがほぼ同時に答えた。

 

「お前達『フェティーネ騎士団』数名の兵力で、この地に偵察に行く事ができるか?」

 

「はッ! お任せ下さい!」

 

 カテリーナとルージェラは凛々しく答えた。ピュリアーナ女王は威厳もたっぷりな声で続ける。

 

「よし。分かるなカテリーナ。お前達にこのような任務を任せる理由が。『ディオクレアヌ』は『ベ

スティア』の更に奥地に本拠地を構えている。この地図によると、お前達は一度、『ベスティア』

に入国しなければならない。今、私が信頼のおける者で、『ベスティア』に入国させる事ができ

るのは、『フェティーネ騎士団』だけしかいない。

 

 おそらく、『ベスティア』からは歓迎されないだろう。だが、お前達はいざという時に、騎士達を

動かす事のできる力がある。ディオクレアヌの奴らを脅威に感じたら、『ベスティア』の騎士団を

使え」

 

 と、ピュリアーナ女王が言うと、ルージェラは少し驚いたかのように顔を上げた。

 

「しかし、お言葉ですが女王陛下。『ベスティア』が、我ら『リキテインブルグ』の『フェティーナ』騎

士団の声で動くのですか?」

 

 ピュリアーナ女王は、まるでルージェラがそう尋ねて来る事を予期していたかのように答え

る。

 

「ルージェラよ。我らには味方がいる。教皇領侵略の容疑でディオクレアヌを逮捕しに行く事の

できる資格を持つ味方がな」

 

「はあ…?」

 

 そう言われても、ルージェラには何の事か分からないようだった。

 

「そう言うわけさ。準備を整えておくように皆に言っておこう。『ベスティア』には明日にも出発し

ます」

 

 カテリーナは、ルージェラと、そしてピュリアーナ女王にも言うのだった。

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「何? ディオクレアヌを逮捕できる資格を持っているのって、あんたな訳?」

 

 翌朝になって、《シレーナ・フォート》王宮に場舎にルージェラの声が響き渡っていた。彼女の

目の前には、堂々とした様子でフレアーが立っている。

 

「当ったり前でしょ? あたしは、『セルティオン』のエドガー陛下の側近なんだよ。エドガー陛下

は、『セルティオン』の王であると同時に、聖地、《セーラ・ドール》を司っている教皇様でもある

んだよ。側近であるあたしにも、その教皇領を犯そうとしたあいつを逮捕できるぐらいの資格は

あるんだよ!」

 

 まだ朝早いというのに、フレアーとルージェラは言い合っている。フレアーが、聖地を侵そうと

した、いわゆる異端を取り締まる資格を持っているというのも意外だったが、2人の甲高い声

が頭に響くだけでも、私は眼を覚まされそうだった。

 

「魔女が異端取締りとはねえ…」

 

 皮肉を言うかのようにルージェラが言った。

 

「ま、魔女ですって…! 何もあたしは、魔性な女なわけじゃないでしょ! あたしは、魔法使い

なの! 何も悪い事なんかしていないって、王様が言っていたのよ!」

 

 と、フレアーが言うが、

 

「まあまあよぉ。お二人とも喧嘩なさんなって…。ディオクレアヌをひっ捕らえに行くって言うんな

ら、俺達みんなの目的は一緒だろ? それに、エドガー陛下の近衛騎士団である俺にも、ディ

オクレアヌを異端として取り締まる資格はある」

 

 そう言いつつ現れたのはルッジェーロだった。彼は既に、銀色に輝く甲冑を身に付けている。

彼も今回のディオクレアヌ討伐に参加する。

 

「あらそう? じゃあ聞いて安心したわ」

 

 彼の姿を見たルージェラが言った。

 

「でも、フレアーの方がエドガー陛下に近い。権利で言うなら、フレアーの方が上なんだぜ。俺

はいつでも、ははっ、フレアー様! って言えなきゃあいけない」

 

「嘘でしょ〜? いつも思うわよ? この娘がそんなに偉いのかって」

 

 フレアーをからかうかのようにルージェラは言った。

 

「黙んなさいよ!」

 

 そう言い合うフレアーとルージェラだったが、突然馬舎にいる『フェティーネ』騎士団の騎士達

がどよめき出した。

 

 騎士達の注目を集めつつ、一人の女が姿を現す。その女は眼も覚めるかのように真っ赤な

鎧を身に付け、小脇に兜を抱えていた。背が高い。腰までの長さのある髪と、エルフのように

整った顔立ち、更に耳も尖っていて、顔には模様が現れている。

 

 私達はこの女性を知っていた。あの、『ディオクレアヌ革命軍』にいて、幾度と無くカテリーナ

に襲い掛かったあの女だ。

 

 その女の後ろからカテリーナが姿を見せた。

 

「皆も知っていると思うが、彼女はナジェーニカ。今回の討伐作戦に参加してもらう事になった」

 

 彼女は騎士達にそう言った。出発を待つ騎士達の間でどよめきが広がる。

 

「ちょ…! 冗談じゃあないわよ! その女! ディオクレアヌの部下だった女でしょ!信用で

きないわよ。あなたを何度も殺そうとしたのよ…! 今だって…!」

 

 ルージェラが思わず叫ぶ。すると、カテリーナはルージェラの側まで近付き、耳打ちした。

 

「彼女は私が絶えず眼を光らせている。あのクロノスとロバートという男達の言う事は、おそらく

信用できる。だが、彼らはディオクレアヌを操っている者達の事は知っていても、革命軍の内部

事情については詳しくない」

 

「何? その女なら信用できるっての?」

 

 ルージェラはナジェーニカという女を睨みつけながら言った。

 

「彼女は嘘は付かない。それに、ただディオクレアヌに操られているわけでもないようだし、戦

力としても役に立つ。更に言わせれば、彼女はある事の為ならば、絶対に私達に付いてくる」

 

 カテリーナは、そんなルージェラを制止するかのように話を続ける。

 

「何よそれ?」

 

「私の首をいつでも狙っているからさ」

 

「…、また…、あんた…、そんな餌であの女を釣るなんて、」

 

 ルージェラはその言葉を聞くと、呆れた素振りを見せ、それ以上、何もカテリーナには言い返

さなかった。

 

 カテリーナは今度は、ナジェーニカの側にまで行き、周りも聞えるような声で彼女に言った。

 

「これでいいだろ、ナジェーニカ。女王陛下の許可もあるし、騎士の皆も認めてくれた。付いて

きてくれるな?」

 

 すると、皆の注目が集まる中、ナジェーニカはその口を開いた。本来の声よりも幾分も低くさ

せ、迫力を持たせた女の声が、馬舎に響き渡る。

 

「いいとも。貴様らに付いていってやる。いつでも貴様を殺せるというのならな? だが忘れる

な? 私は貴様らの味方じゃあない。いつも首元に槍の先が突きつけられていると思ってお

け」

 

 彼女はそう言い放つ。実際、槍を抜き放ってカテリーナの方へと向けるような事はしなかった

が、彼女のその言葉と目付きは、ただそれだけで、カテリーナの首元へと槍の穂先を向けてい

るかのようだった。

 

 だが、カテリーナは、そんなナジェーニカの目線を、まるで頼もしいものでも見るかのように見

返すと、騎士の皆に向って呼び掛ける。

 

「よし! 出発だ! 我ら『フェティーネ騎士団』は女王陛下の命令により、『ベスティア』へと向

う! 目的は、『ディオクレアヌ革命軍』の討伐の為だ! 行くぞ!」

 

 カテリーナの威厳たっぷりの声が馬舎に響き渡り、騎士達はそれに応じ、それぞれの馬に跨

った。

 

「悪いね…、あんたには、いつもいつも協力してもらって」

 

 カテリーナが私に言って来る。

 

「…、そもそも、私が旅をしてこの国まで来たのは、革命軍がどうして私の故郷を滅ぼしてしま

ったのか、それを知りたかったから。革命軍の討伐をするっていうあなた達とこの国の目的と、

私の目的は同じだから…」

 

 私は、愛馬、メリッサに跨りながらカテリーナに答える。

 

「ディオクレアヌに会う…。奴を捕らえ、目的と黒幕の正体を吐かせる…」

 

「…、そう。私は、ピュリアーナ女王様に雇われている身だけれども、あなた達についていく理

由は、私がここまで来た目的を果たしたいし、多分、父さんと母さんがなぜ死ななければならな

かったのか、その理由を知りたいから、納得したいから、なんだと思う」

 

 カテリーナも馬に乗りながら私の話を聞き、答える。周囲では他の騎士達も次々と馬に跨っ

ていた。

 

「私は、この一連の出来事が、ディオクレアヌだけで終わらないと思っている。もっと強大な存

在が関わっていると思っている。あんたも、あの《斜陽の館》にいた2人から感じたはずだ。彼

らは人間の想像を超えた者達だ。

 

 そんな奴らを相手にするようになった時の、覚悟はできている?」

 

 カテリーナの言葉が、《斜陽の館》での出来事を、私に思い出させる。恐ろしい事、襲われる

事など、この1年間、散々起こっていたが、彼女の言う通り、あの館にいた者達は、どこか違っ

ていた。

 

 ディオクレアヌとも違う。私の出会ってきた、様々な人達、種族とも違う、独特の匂いを持って

いるかのようだった。

 

 しかし、私は、彼らという未知の恐怖に、背を向けるつもりは無かった。

 

「もちろん。ここまで来たんだったら、私は何だってする。何にだって立ち向かう」

 

「じゃあ、私と同じだな」

 

 カテリーナはそう答え、私と共に、馬を歩かせ始めさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「『フェティーネ騎士団』が動き出す。更に『セルティオン』の異端執行人達も同行か…。それ

も、我らをこの地に呼び寄せておいて、何が起こったかの連絡も無い」

 

 そんな『フェティーネ騎士団』一行を、馬舎の影から探る一人の男の声。影に紛れたその男

からは、独り言のような声が漏れていた。

 

「ディオクレアヌ絡みか…」

 

 更に、もう一人、女の声も混ざる。2人とも、出発して行く『フェティーネ騎士団』の姿をじっと探

っている。

 

 誰も、彼らの存在に気付く事は無かった。

 

「そう見て間違いないだろう。本国と、サルトル様に報告せねば」

 

 

 

 

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16.激動の海岸線

説明
敵対勢力、ディオクレアヌ革命軍がいまだ活動をしている事を知った主人公たちは、再び彼らを討伐へと向かいます。

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