真・恋姫無双 EP.75 混迷編 |
麗羽は路地裏を走り抜ける。数名のオークが、その後ろから追いかけて来ていた。
「まったく……はぁ、はぁ……しつこいですわね!」
いつものように食料庫を襲い、敵を引きつけるために麗羽たちが派手に街中で暴れたのだ。その逃亡中、猪々子や斗詩と三方向に分かれて撒く作戦だったが、なぜか追手は全員、麗羽の後ばかり付いて来る。よほど、彼女の高笑いが腹立たしかったのだろう。
「いい加減、逃げるのは飽きましたわ!」
そう言うと麗羽は足を止め、剣を抜いてオークたちを待ち構える。雄叫びを上げて走ってくる先頭のオークの首を切り、続けざまに後ろのオークの腹を裂いた。吹き出す血しぶきと、地面にまき散らされる臓物に、麗羽は顔をしかめて一瞬だけ目を逸らしてしまう。その隙をつき、別のオークが棍棒を麗羽の頭上に振り下ろそうとする。
「――!」
反応が遅れ、身を強ばらせた麗羽の目前で、オークは棍棒を振り上げた動作のまま爆音と共に吹き飛ばされた。驚いて麗羽が振り向くと、屋根の上で煙を上げた大砲のような武器を持つ厳顔の姿があった。
「危ないところだったのう」
「厳顔さん……」
名を呼ぶ麗羽の後ろで、もう一人のオークを巨大な鉄棒で殴り気絶させた魏延も姿を見せる。
「追手は片づきました、桔梗様」
「うむ。戻ろうかのう、袁紹殿」
「そうですわね」
三人は連れだって、隠れ家に戻って行った。道中、厳顔と魏延の背中を見る麗羽の心に、ある決意が生まれていたのである。
賞金稼ぎの厳顔と魏延は、仕事を引き受けながら旅をしている。特に目的はなく、ここ河北にやって来たのにも深い理由はない。河北は何進の拠点でもあり、オークたちが最も多く住んで好き勝手に暴れている様子を、二人は何度も目撃していた。そのあまり傍若無人な有様に、偶然知り合った反抗勢力に力を貸すことにしたのである。
(あの名家と言われた袁家の姫が、まさか反抗勢力の一員として働いているとは思わなかったがな。クセの強い者だが、民を思う気持ちは本物のようだしのう)
厳顔は深入りするつもりはなかったのだが、袁紹と共に仕事をするうちに何となく楽しくなっていた。気がつけば結構な期間、ここで仕事をしている。
(そろそろ、潮時だろう)
厳顔たちは今回の作戦を最後に、また旅に出るつもりだった。すでにその事は、袁紹たちにも伝えてある。隠れ家に戻ると、すでに金が用意されていた。
「では、確かに頂く」
「それで、どこに行くつもりですの?」
袁紹が訊ねてくる。
「そうだな、洛陽の様子を見つつ、長安でも目指そうか」
「それでしたら、一つお願いがありますの」
そう言うと、袁紹は部下の文醜、顔良に何やら指示をする。二人は驚いた顔をしているが、袁紹を見て頷くと部屋を出て行った。そしてしばらく待つと、一人の少年を連れて戻って来た。
「初めて会うな。仲間か?」
「そう……ですわね。お願いというのは、この方を長安の劉備さんの元まで送り届けて欲しいのですわ。この手紙も一緒に、お渡しください」
控えめに袁紹は言った。痩せこけた、大人しそうな少年である。
「あなた方を信用して、託すのですよ」
「……まあ、それほど長旅にはなるまい。引き受けよう」
ただならぬ雰囲気を感じたが、あえて厳顔はその依頼を引き受ける事にした。長安の劉備の噂も耳にしている。直接会う、きっかけにでもなるかも知れない。それに何より――。
(世の中が大きく動く予感がする。わしもいい加減、ただの傍観者で終わるのは退屈しておったところだ。積極的に関わるのも、おもしろいかもしれん)
こうして厳顔は魏延と共に少年を連れて、長安を目指す旅に出発した。
執務室に集まるのは、魏の頭脳たちだった。中央に華琳、左右には秋蘭、桂花、詠、音々音の四人が控えている。毎週、会議とは別にこうして集まり、意見交換をするのが決まりだった。
「街の復興はどうかしら?」
「商人に働きかけ、少しずつですが物流は正常に戻りつつあるのです。店舗の復旧は進んでいませんが、露店が多く並んで活気があります」
華琳の問いに、音々音が答える。続けて、秋蘭が軍事の報告を行った。
「多くの者が家族の元に帰っているので、兵数はあまり変わりません。ただ残っている兵士たちの士気は高く、姉者の厳しい訓練にも付いていっているようです」
「そう……この辺りは仕方がない事ね。強制するわけにもいかないし……」
「何進が動かないのは不気味ですが、こちらには好都合です」
頷いた華琳に、桂花と詠がその他の報告をする。やるべき事が山積みで、安定にはまだ時間が掛かりそうだった。
一通り話は終わり、確認事項を済ませて桂花が華琳を見る。
「以上ですが、よろしいですか? ……華琳様?」
視線を向けた華琳の様子が、どうもいつもと違うことに桂花は気付いた。どこかボーッとして、上の空といった感じである。
「あの、解散でよろしいですか?」
「え、ええ。これで終わりにしましょう」
そう言って立ち上がった華琳は、突然、フラッとバランスを崩したようにその場に倒れてしまう。ドンッという大きな音に、全員が驚いて駆け寄った。
「華琳様!」
秋蘭がすぐに、倒れた華琳を抱き起こす。辛そうな表情だが、意識はあった。
「……大丈夫よ。ちょっと、貧血みたいね」
「激務が続いていますので、お疲れなのです。午前中だけでもよろしいので、今日はお休みください」
その言葉に、真っ青な顔をした華琳は少し微笑み、小さく頷いた。秋蘭に抱えられるようにして部屋に戻る華琳の姿を、桂花たちは心配そうに見送った。
華佗が小さな幌馬車を走らせていると、後ろから馬群が追いかけてきた。
「止まれ!」
その声に気付いた華佗は、手綱を引いて馬を止める。追いついた馬群が、馬車を囲んだ。
「雷薄様の命により、調べさせてもらう!」
隊長らしき人物がそう言いながら、馬に跨がったまま近寄って来た。そして乗っているのが華佗と気付き、険しい顔をわずかに緩めた。
「これは、華佗先生」
「ん? ああ、娘さんの具合はどうだ?」
「はい。おかげで快方に向かっております。他の医者がサジを投げる中、華佗先生だけが治療を行ってくださいました。感謝しております」
男は深々と頭を下げると、チラッと幌馬車の中を覗く。
「お一人ですか?」
「ああ。これから帰るところだ」
「一人旅にしては、大きめの幌馬車ですね?」
「患者を乗せる時もあるからな。道中でも患者が居れば、俺は放っておけない性分ゆえ」
「なるほど……」
納得したように頷いた男は、部下たちに手を振る。
「道中、お気を付けて」
そう言うと男は馬を走らせ、馬群は華佗から離れて行った。それを見送り、溜息を吐いた華佗は荷物の山に声を掛ける。
「行ったぞ」
「……助かりました」
そう行ってモゾモゾと姿を見せたのは、風だった。彼女は運良く呉に帰る華佗と出会い、追手から匿ってもらったのである。
「お前が本当に誘拐に加担しているのなら、俺にも責任があるからな。場合によっては、このまま引き渡すが、俺はお前たちを信用している」
「ありがとうございます」
「ちょうど、周瑜から手紙を預かっている。孫権たちなら、力になってくれるかも知れない。それとも、魏に行くか?」
「いえ、このままで構いません」
今の風の立場を考えれば、魏に逃げるのは得策ではない。もとより、風に逃げる気などなかった。敵はわかっている。
(美羽様、待っていてくださいね……)
必ず美羽を助けると、自分を逃がしてくれた七乃とも約束した。何より、風自身が美羽を助けたい。必ず生きてる、そう信じて、風は馬車に揺られていた。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 あちこちの出来事。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
3809 | 3515 | 20 |
タグ | ||
真・恋姫無双 麗羽 桔梗 焔耶 華琳 桂花 秋蘭 風 華佗 | ||
元素猫さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |