鈴木探偵の挨拶
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「大変だよ、鈴木さん!!」

突然大きな音を立ててドアを開け、さも大変なことがあったのだよ、という

顔つきで入ってきたのは何だかぽっちゃりしているくせに背が高くて、

縦にも横にも大きい感じの髪の長い女子大生っぽい女だった。

「一体どうしたの?」

それに答えたのは、買ったばかりの推理小説を読みながら、

時々クスリクスリ、と笑っている中背のどことなく理系っぽい感じの

これまた女子大生であろうと思われる女である。

「どうしたもこうしたもないよ。大変なんだよ」

何が大変なのかをなかなか言わない。これはよっぽど大変なのだろう。

そしてまた、彼女はよほど慌てているのだろう。

「だから何が大変かを聞いているんだから、早く言いなさい」

そう言いながらも、目は小説に釘付けだ。

「大変だって言ってるんだからやめようよー」

この程度のことで何故か泣きそうな声をだしている。何とも軟弱な女だ。

「今石岡君がいいところなんだよ。一区切りついたらやめる」

さすがだ。こんな時でも冷静沈着。何かが違う気がしないでもないが。

 

「ああ、よく読んだ。気づいてみたらお腹が空いたなぁ」

十五分後、石岡君はどうなったのか分からないが

とりあえず一区切りついたらしく 鈴木が言う。

「そんなこと言わずに何が大変なのか聞いてよ・・・」

忘れられてしまっていた女が言う。

「仕方ない。じゃあ食事をしながら聞こう。そういう訳だから、

何か作ってくれるよね」

「いや、何で私が?」

「それは君が君だから。さあ、早く作らないとまた読み始めるよ」

「何で私が・・・。っていうか石岡君がいいところって何だったんだろう」

気にするポイントがずれている。

「ほら、早く作らないと雪だるまが殺しに来るよ」

「何故雪だるまが・・・」

泣きそうになりながらも、大人しく食事を作っている。

どうも気が弱いらしい。

 

そしてできあがったのは、ハンバーグだった。

ハンバーグヘルパーという代物を使い、手軽に作ってしまったらしいが、

後かたづけが大変だ。

「で、何が大変かっていう話なんだけどね。

実はさっきこんな物が届いたんだよ」

そう言ってぼろろが差し出したのは文字でびっしりの一枚の紙だった。

エコロジーのためか、広告の裏に書かれている。

「で、私にこれを読めと言うのかい」

「そう。暗号っぽいからよろしく」

何がどうよろしくなんだか分からないが、さも当然であるという風に言う。

「というより、何故暗号が届いたから大変?」

「だって、暗号と言えば事件じゃないか。

それに、鈴木さんは探偵なんだから」

何だかこいつもおかしい上に、何を言っているのかがいまいち分からない。

 

「とりあえず解読よろしく」

「何で私が。っていうか、嫌だ」

「何で!?」

 

「だって、面白くなさそう。そんなことする暇があるなら

私は石岡君を読むよ」

何だか文法的に微妙なことを言っているが、それ以前に

面白いとか面白くないではないだろう、事件というのは。

 

 

 

かくして事件は終わった。

山田さんが駄目だったからと言って、鈴木さんのところに

持ってきたのは間違いだったなぁ、 と思っているぼろろを残して。

説明
学生時代に友人と自分をモデルに書いた、ミステリのふりをしたギャグ。
すべてがSであるよりこちらの方が前なのに、うっかり…。
某ミステリ作品のオマージュ的内容含む短編
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創作 鈴木探偵 

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