かえりたい場所のはなし。 |
晴れた春の日が最適。
窓は開けたままで、居間の床の毛布を敷いて寝そべる。
風が入ってきては髪を細く揺らすのが少し寒くて。
敷いた毛布を頭から被った。
床の上には絨毯が敷いてあるから、なんとか平気。
風の入る窓を閉めに行くのは億劫で。
頭から被った毛布のなかで、手足を丸めて胎児ごっこ。
座布団を二つに折った枕に頭を乗せて。
眼を閉じても、まぶしい外の光は目蓋を通して感じられる。
ふいに。
本当に不意に。
かえりたいな
と、思ってしまった。
泣きそうになるくらいに、思ってしまった。
実家から出てもいない私の、かえる場所はここ以外にあるわけなくて。
家族の足音を聞きながら、毛布に包まれる。
この場所が、私のかえる場所のはずで。
足を抱えて、身体を小さく丸めて。
毛布の中で胎児ごっこをしたまま、考える。
前世の記憶だとか。
おかあさんの胎内の記憶だとか。
あったかい手を繋いであるいた路とか。
自転車を並べたこととか。
手紙のやりとり。
私の部屋。
はじめてのキス。
閉めない窓からは、肌寒い風が絶え間なく入ってきて。
頭の悪い私は、自分の家の居間で。
愛用の毛布を頭から被って。
ひっきりなしにかえる場所を探している。
説明 | ||
ふ、と。 かえりたくなったときに。 小説というか、文章。 |
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