オウカ 0話
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―――これが、正しいんだ。

 

 学院の教室棟に、その人物は佇んでいた。

 ソレを取り囲むように、個性的な石膏像が並んでいる。

 

―――呪わしくても、導き出されるべき結果なんだ。

 

 石膏像たちはソレを見ている。

 表情には一様な意匠が施されていた。

 脅威。驚愕。恐怖。

 なんだそれはそんなはずはないこんなのありえない。

 ソレにとって見知った顔の、見知らぬ滑稽な表情。

 

 脈動する彼らは、石膏像になっていた。

 

 鑑賞するソレもまた、滑稽な表情をしていた。

 恐れながら、美酒に酔いしれている。

 恐れる? 何に? 馬鹿な。

 これが正しいんだ。そうだ……正しいのだ。

 これが摂理だ。新たな、摂理だ……!

 

 哄笑を噛み殺して、ソレはくつくつと笑う。

 明日からまた、ソレは日常に回帰するだろう。

 なぜならソレは、ソレだけが特別ではないと仮定した。

 

 だが果たして、回帰した先は日常だろうか?

 ソレの得た物の正体、使途。ソレだけが得たモノか。

 歪みは、広がっていた。

 

 

―――そして日が昇り、事件は発覚した。

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「……っと。こんなもんでいいかね? 『彼女』の物語のプロローグは」

 安楽椅子に座った女性が、ぐぐっと伸びをする。

 女性は、後ろに佇んでいた男が肩を揉むと至福の表情を浮かべた。

「よろしいかと思います。……凝っていますね」

「ああ、凝りに凝ったぞ。物語は始めが肝心というしな」

「いえ、肩が」

 女性の得意げな表情が、すっかり消沈した。

 淹れられた茶も湯気を慎む、書斎の朝。

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「このハジマリですが……『彼女』はまだ登場していないですね」

「ああ。だが伝播の始点……特異点はこいつだ」

 新たに淹れられた紅茶を嗅ぎ、女性は一息ついた。

 傍らの男は、その様を見て微笑みながら、特異点たるソレを回想する。

「不憫な方でしたね……あれもまた摂理なのでしょうか」

「あの場合は認識された時点でな。ぬか喜びさ」

 香ばしいスコーンに塗った嘲笑のジャムは、女性には格別の味だった。

「この特異点があったからこそ、『彼女』は気付いた」

「『彼女』は……なかなかに濃いですからね。自覚されていなかったようですが」

「ああ、この間の人肉を嗜む女といい勝負だな」

 女性は無邪気に笑んだ。幾百幾千の会偶を想って。

「まあ、これは『彼女』の物語だ。私達は裏方に徹しよう」

「そうですね。あまり私たちが出張っても良くないですね」

「そういうことだ。……さあて、書くか」

 女性はもう一度伸びをして、机上のペンを握った。

説明
これが正しいんだ。

これが導き出されるべき結末なんだ。
それがわかっていても、ただ……哀しかった。
鉄の味が広がるほどに、構造を呪わずにはいられなかった。

それでも。これが、正しいんだ。
脳が拒否しようとも、焼き付けなければならない。
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