真・恋姫無双 黒天編 第8章 「本城急襲」中編 |
真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第8章「本城急襲」中編 戦闘準備
星と蓮華、雪蓮の三人は大勢の兵士を引き連れながら第三陣が駐屯する場所へ到着した。
到着するとすぐに三人は冥琳がいる中央天幕へと向かう。
周りの空気はピリピリとしており、蓮華は久々に戦の空気というのを感じる。
星が先に天幕に入り、続いて蓮華、雪蓮の順で入っていく。
そこには報告書を読んでいる冥琳の姿があった。
冥琳の前には凪がおり、どうやら一陣の報告をしているようだ。
「冥琳殿、雪蓮殿と蓮華殿をお連れした」
星の言葉を聞いて冥琳と凪は入り口の方へと顔を向ける。
冥琳の表情からは少し驚きの色が見えた。
「!!!思った以上に早かったですね。蓮華様」
「冥琳!大丈夫?どこも悪くない?ケガは?」
蓮華は冥琳の姿を見るや否や傍まで駆け寄って、冥琳の体の心配をする。
「え・・・ええ、今のところは大丈夫です」
蓮華の心配の仕方がすこし大袈裟だなと感じながらも何ともないと返事をする。
「そう・・・よかった」
蓮華は心底心配そうな顔をしていたがそれがすぐに安心の表情に変わる。
「ちょっと、めいりん〜〜。私は無視ですか〜」
「ああ、いたのか。雪蓮」
「ぶぅ〜ぶぅ〜、蓮華よりあたしの方が久しぶりなのに、つ〜め〜た〜い〜」
「ふふふっ、冗談だ。久しぶりだな、雪蓮」
頬を少し膨らませながらであるが、雪蓮も冥琳のもとへと近づいていく。
「まぁ、ほんとに冗談はこの辺にしといて・・・状況はどうなの?」
「今それを凪から報告を受けていた所だ」
冥琳は手に持っていた報告書をチラつかせながら、机の方へ戻っていく。
「それにしても戻ってくるのが早かったな。何か良い情報が入ったか?」
「江陵の近くで伝令を聞いてすぐに帰ってきたのよ。情報も2,3個はあるかな」
「そうか・・・二人だけでか?」
「あとは亞莎と思春も一緒よ。もう着いていると思うけど」
「よし、戦力としては十分だな。いきなりですまんが、早速出てくれないか?」
「そのための援軍でしょ。任せてよ」
雪蓮は胸を張りながら応える。
蓮華はその雪蓮の様子を心配そうに見つめていた。
「そうか。なら、この部隊の指揮を頼む。私は一度白帝城に戻らんといかんようになってな。稟も先に戻っているはずだ。それでだな、星も一緒に来てくれないか?」
「承知、私も翠を先に帰していますので、様子を見に行かねばなりませんし」
「それに蓮華様もご一緒に」
「私も?」
雪蓮と一緒に戦うものだと思っていた蓮華は戸惑いの声を上げる。
「はい、ここはまだ安全な方ですが、万が一に備えて城の方で待機してください」
「でも・・・姉様が・・・」
今回蓮華が雪蓮についてきた理由は一刀の情報について知りたいからというのと、雪蓮の傍にいたいという思いからである。
白帝城に帰るまでは特に何も問題はなかったが、戦となるとどうなるか分からない。
「もう蓮華は心配性なんだから・・・大丈夫だってば!!」
「ですが・・・」
「はいはい、行った行った。王は王の役目を果たしなさい」
「はい・・・」
蓮華はしぶしぶといった感じだが了承する。
結局、雪蓮が冥琳から第三陣を引き継ぐことになり、蓮華、思春、亞莎、冥琳、星の五人は白帝城へ帰還することになった。
天幕の話し合いの後、すぐに5人は少数の兵を連れて駐屯地を出発した。
辺りもさらに暗くなって見通しが悪い。
戦の最中だというのもあって細心の注意を払いながら白帝城へと帰っていく。
王の安全を確保するために蓮華を中心にしてその前方に星、左側に亞莎、右側に思春、後方に冥琳という陣形を組む。
そしてその周りを囲むように兵士たちが隊列を組んだ。
「ところで冥琳、何か一刀について分かったことはないの?」
蓮華は後方に振り返って冥琳の方を見る。
「今のところ一番の手がかりは愛紗の報告ですね。敵と戦った際に知っている風なことをほのめかしたらしいです」
「敵って今回の襲ってきた奴らのこと?」
「旗とそれに描かれた印、黒い兜などから同一ではないかと私は見ています」
「奴らが一刀を・・・」
そういい終わると蓮華はすぐに正面に向き直した。
冥琳と蓮華の距離は少し離れていたこともあり、冥琳は蓮華の顔までは見えていなかった。
しかし、その隣にいた亞莎にはしっかりと蓮華の表情が見てとれた。
その表情は今まで見たことがないくらいの怒りと悲しみが雑居しているような複雑な表情だった。
「それと少し聞いてもらいたい話があり――」
と冥琳が話しかけようとしたとき
「ぐはぁぁっ!?」
蓮華から見て右側にいた兵士が叫び声をあげた後に落馬する。
「なんだ!!」
思春が落馬した兵士を見下ろすと左胸に矢が刺さっていた。
「うわぁぁあぁっ!」
見下ろしているとその近くにいた兵士も落馬する。
次は首元に矢が突き刺さっていた。
そして二人の声を皮切りに次々と矢がきれいな放物線を画いて蓮華の隊を襲ってきた。
「皆、走れ!!相手にするな!!振り切るぞ!!!!」
星の言葉の後、皆が一斉に白帝城を目指して馬を飛ばしていく。
思春は蓮華の身の安全を第一に考え、常に横に張り付いている。
亞莎、冥琳も馬にしがみつき、全力で白帝城へ駆けて行く。
「ぐわぁぁっ・・・」
しかし、矢の雨を振り切れる様子がなかった。
矢は右側から飛んできているというのは分かったが、辺りも暗いため敵の位置までは確認できない。
兵たちに次々と矢が突き刺さり、だんだんと兵数が減ってくる。
「チィッ、なぜこちら側に伏兵がいるのだ!!」
「わざわざ奇襲するために別働隊を伏兵としておいていたのでしょう。今はとにかく走れ!!」
今5人が馬を走らせているのは、三国の最終防衛ラインである第3陣よりさらに内側である。
それもかなり白帝城に近寄ってからの奇襲
こんな所で襲われるなど夢にも思わなかった。
5人には少しの油断があったのかもしれない。
そして、白帝城まであと少しというところで
ヒューーーーーーーン
という風を切るような音が思春に聞こえた。
以前に何度か聞いたことがある嫌な音
「蓮華様!!冥琳様!!伏せてください!!!!」
その言葉通りに蓮華と冥琳はすぐさま馬の背中にできるかぎり張り付く。
そしてその瞬間、今までのとは明らかに異質な矢が一本守備する兵士たちの合間を抜いて、中央にいる蓮華たちのもとにまで飛んできた。
その矢は明らかに冥琳の方へ向かっていた。
「冥琳様!!」
亞莎がすぐさま冥琳の右側に馬をつける。
そして袖から盾を取り出して飛んできた矢を防ぐ。
しかし、盾を見てみると盾に鏃が結構深くまで突き刺さっていた。
打ち落とされず、盾に突き刺さるということはその矢にかなりの威力があることを推察させる。
しかもかなりの距離から放ってこの威力なのだから敵の実力は相当な物だった。
「大丈夫ですか?」
「すまない。助かった」
「とにかく急いで白帝城へ!!」
そうしている間にもまた風を切るような音が一つ、近づいてくるのが分かった。
この一本だけが他の矢とは全く違う。
初めの矢はきれいな放物線を画いており、どちらかといえば“降って来る”という表現が正しい。
しかし、後から来たその一本は一直線にまっすぐ、まるで“貫いてくる”かのように勢い良く飛んでくる。
その矢はまたまっすぐ冥琳へと襲い掛かる。
その矢もまた亞莎の盾によって辛うじて防がれる。
「もう少しだ!!早く!!!!」
隊の先頭を走っていた星が城下町の門へと入っていく。
そして、続々と他の者達も城下町の入り口へと入っていき、何とか無事に到着できた。
「ちっ、今回もダメだった・・・」
蓮華たちが率いる隊が続々と城へと入っていくのを眺めている黒布の女
「まっ、脅かすことはできたかしら」
左手に持っていた弓を背中に背負い直し、もと来た道を帰ろうとする。
「失礼します」
「何よ・・・、もう城内に入っちゃったんだからいいじゃない。帰るわよ」
「いえ、このまま兵を少しだけ潜伏させてはいかがでしょう?」
その隊の副長らしき男が女に向かって話しかける。
「私があなたの言うとおりに動くと思ってんの?」
「ですが・・・」
「帰るわよ!!」
「了解しました・・・・・・様・・・」
「・・・・・・・・・その呼び方はやめなさい・・・・・・、ふんっ」
女は馬で闇の向こう側へと走っていった。
城下町に入った5人と兵士たちは伏兵を振り切った速度をそのまま保ちながら城下町の中央通りを突っ切っていく。
そして、もうすぐで城門付近に差し掛かろうとしたとき、
「開門ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
星が城門警備の兵士たちに向かって大きな声で叫んだ。
その声と馬の駆ける音が聞こえた城門の兵士はすぐさま開門の準備にはいる。
そしてゴゴゴゴッとゆっくりと大きな城門が開いていく。
ほぼ完璧に開ききった状態になったときと同時に、駆けていた星や他の兵士たちが次々と城内へと入っていった。
城内に入った5人は馬を厩舎担当の者へと預けて城内へと入っていく。
「それにしても皆無事でほんとうによかった」
「だけど・・・何人か犠牲は出てしまったわね」
「それだけは本当に残念です。私がもう少し・・・慎重になるべきだった」
冥琳の声からは悔しさが滲み出ていた。
なぜこの事態を予測できなかったのか
「とりあえず、私と亞莎は詠と稟のところへ行ってきます。蓮華様はお休みください。話はまたいずれいたします。思春、頼むぞ」
「では、私も翠の所へ行きますので」
五人は一応その場で別れて、冥琳と亞莎はすぐに執務室へ行くことになった。
執務室への扉を開けると稟と詠が今回の戦いの作戦を練っていた。
「あれ?予想以上に早かったですね。何か急ぎの用でも?」
「ああ・・・途中で敵と思われる伏兵に襲われてな」
資料に目を向けていた稟と詠の目線が一気に冥琳の方へ向けられた。
「ちょっと!大丈夫だった!?」
「星と思春に亞莎もがんばってくれてな。おかげさまで傷一つ負っていない」
「ならいいのですが・・・」
「思春ってことは蓮華たち帰ってきてるの?」
冥琳はゆっくりと頷く。
「なら、戦力はもう申し分ないわね」
その一言から三国同盟の頭脳4人による会議が始まった。
「第一陣と第二陣の戦闘報告を持ってきた。一通り見てくれ」
亞莎は冥琳からその報告書を貰うと稟と詠にその資料を配る。
そして各自、資料に目を通していった。
「この二つの戦いの違いが気になりますね」
「第一陣はほとんど訓練を受けていないような賊共の戦い、二陣は粗末ながらも陣形を組んだ戦い・・・ね」
「それが意味するものとはなんでしょうか?」
「一つ考えられるのはそれぞれの隊を率いる将軍の力量だが、これらは余り変わらんだろう。ただの寄せ集めの兵たちだろうしな」
「そうね。いくら将軍が良くてもそれに付き従う兵士たちの質が隊の強さの要となる。この二つの戦いを見ても兵士たちの錬度は著しく低いと考えられるわね」
二つの報告書を見るとどちらも三国側の快勝に終わっている。
戦死者はなく、負傷者もほとんどでていない。
そこそこ力のある者もいたらしいが、将軍達にことごとく破られている。
「それと敵兵の多さも気になります。一体どこからこんなに人を集めてきたのでしょうか?」
「それは貂蝉からの情報がかんでいるかもしれないわ」
「あの夜な夜な行われる変な集会というやつか」
冥琳は白帝城に貂蝉が来たときに聞いた話を思い出した。
「変な宗教で人心を引き付けるっていうありきたりの方法を使ったんじゃないかな?一刀が居なくなった高札も立って、不安になった所を突いてさ」
“集会がいつごろから始まったのか”は貂蝉から詳しいことは聞いていなかったのだが、少なくとも急激に増えたのは間違いなく最近であると推測される。
「まぁ、そうやって集まった人たちっていうのは今の生活に不満があるとか、ただ暴れたいだけとかそういうのばっかりで兵力としては大したことないけど・・・、黄布の時みたいに元を断たないと減らないと思うわよ」
「そうだな・・・。しかし、今は目の前の大軍をどうするかだな」
「敵将軍の力量も大したことはない、兵士の練度も低い。それにこちらも兵力は十分に整ったと考えていいと思います。いいかがでしょう?ここは一気に攻勢に出てみては?」
「僕もそれに賛成。もうこれ以上むやみに戦いを引き延ばす必要はないと思うわ」
稟と詠はここで一気に攻勢に出て、勝負をつけようと提案する。
「私はもう少し慎重にことを進めてもいいのではないかと思っている。この頃はおかしなことが起こりすぎた。先ほどの伏兵の件もそうなのだが・・・しかし、これ以上民に負担をかけるのも頂けん」
「私もこれ以上このことに時間をかけるべきではないと考えます」
冥琳一人が消極的賛成だが一応、4人の意見が攻勢策でまとまった。
「決行は明日の正午、帰還している第二陣の一部以外を前線に集結してから一気に片を付ける」
大きな方針が決定した後、後の会議は細かい事項を決定していった。
そしてその一日が終了する。
早朝、昨晩の会議によって決定した内容を各隊に伝達するための伝令が派遣される。
そして、亞莎や冥琳、星、翠ほか将軍達も作戦に備えて朝早くに出陣して行った。
城の守備は詠、補佐として思春に任されていた。
詠はいつものメイド服とは違い、軍師の服を着用していた。
この城は何があっても譲れない、落とさせない。
必ず守って見せるという気持ちがその服からも表れていた。
(あいつの帰ってくる場所はここなんだから・・・)
頬を軽くパンッと叩いて気合を入れなおし、自室から出て執務室へと向かう。
執務室へ向かういつもどおりの曲がり角を曲がろうとした時
「賈?様」
後ろから声をかけられた。
詠はその声に気づきながらも無視をして執務室へと向かっていく。
その男の声に聴き覚えがあった。
男は朱里直属の細作でかなりの腕を持っている者だった。
変に立ち止まって報告を受けてしまっては、どこかで誰に聞かれているか分からない。
なので、詠は動きながら報告をうけることにした。
声をかけた男はそのことを察知して詠の斜め後ろの位置について、小さな声で話し始めた。
「諸葛亮様から手紙を預かっております。あと、こちらに向かうのは少し遅れるということです」
男は胸から書簡を一つ取り出した。
ただの手紙というにはすこし厚さがある。
「簡単な手紙の内容は聞いてる?」
「いえ、ですが諸葛亮様の考えがすべて示してあるとのことです。もしもの時は代わりに・・・」
「・・・・・・・・・、分かったわ。あと朱里に見て欲しい報告が幾つかあるからそれを持っていって、いつもの所にあるから」
「御意」
そして詠が執務室へ向かう二つ目の曲がり角を曲がった時には男はすでに姿を消していた。
詠が執務室るとすぐに今朝早くにあった報告書に目を通していく。
それを目に通し終わった後は、白帝城守備隊の配置予定図を再度確認する。
「ここもう少し増やせないかしら・・・」
詠は筆を取って修正を入れていく。
コン、コン
「どうぞ」
扉からのノックに応えて返事をする。
「しつれいしま〜〜す」
声とともに入室してきたのは張三姉妹「数え役満☆しすたーず」でお馴染みの天和、地和、人和だった。
「どうしたのよ?珍しいにも程があるじゃない。興行なら悪いけどまだ許可はできないわよ」
「そのことについても聞こうと思ってたけど、用件は別にあるの。地和姉さん、ほら」
人和が地和の肩を軽く叩いたのを合図に、地和が一歩前へ出た。
「あのね・・・最近ちょっと気になることがあって、姉さんと人和に話したら報告しといたほうがいいって言われたんだけど・・・」
「何?今回のこととなんか関係があるの?」
「それは分かんないけど・・・」
いつもしっかりした口調で物事を言う地和が言葉を少しずつ選びながら話している。
「変なのよ!空気というか、とにかく何かが!!」
「ちーちゃん、私達に話したとおりに話したらどうかな?大丈夫だと思うし」
「でも、それだとまた・・・」
「大丈夫だよ。ここのみんななら・・・きっと」
天和が優しく地和をなだめると、地和の様子が少し落ち着いたようだ。
大きく息を吸って、ふぅ〜とゆっくり息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
「で?何なのよ?」
「えっと・・・私ってちょこっとだけだけど妖術使えるじゃない?」
「ええ、それは天下一品舞踏会とか将棋大会の時とかに見てるけど・・・あと、興行の演出とかにも使ってるんでしょ?」
「うん、そうなんだけどね・・・」
地和が顔を俯かせて上目遣いで詠の様子を伺っている。
「私の力量で使える妖術なんかたかが知れてるし、修行も積んでないから、あんまりいい術使えないのよ」
「だからなんなのよ」
「普通はそうなんだけど・・・、この頃おかしいのよ。力があふれてくるというか・・・妖力っていうのかしら?それが有り余ってるっていうか・・・あの時みたいなのよ・・・」
「あの時って?」
「太平妖術の書・・・黄巾の時みたいな・・・」
「えっ!!??なんで今、その名前が出てくるのよ!?」
太平妖術の書
黄巾の乱に関わった者でこの名前を聞いて驚かない者はいないだろう。
それは一度この大陸を混乱に陥れた発端の書
張三姉妹にとっても忘れられない物だった。
「分からないけど・・・でも、あの書を持ってるときみたいに・・・どんな術でも使えそうな・・・そんな感じがこの頃するのよ・・・」
「でも確か太平妖術は戦いの最中で燃えたって聞いていたけど」
「うん、私もそう思ってた・・・でも、一応連絡しといたほうがいいって姉さんが・・・」
たどたどしくも地和がゆっくりと今の自分の状態を報告していく。
「だからね。私が言いたいのは・・・こんなこと言えるぐらいの力量もないんだけど・・・今って妖術とかがすごく使いやすい環境になっていってるんじゃないかってことなんだけど」
「ふ〜ん、にわかに信じがたい内容だけど・・・」
「うん・・・私も実はそう思ってる。でもね!!ちょっと見てて!!」
急に地和が坐禅を組んでなにやら印のような物を結んでいる。
「そこの鏡借りるわよ・・・」
地和はゆっくりと呼吸をしながら精神を集中させていく。
すると、鏡に今まで写っていた執務室の景色が歪み出す。
そして、鏡から外の光景が映し出された。
「なによこれ・・・なんで鏡から外の景色が映し出されてんの!?」
「これくらいの妖術なら今の私でも簡単にできちゃうのよ。いままでは将棋大会の時みたいに結構な準備が必要だったんだけど」
「ちょっとした奴でも妖術が使えてしまうような環境に今なってるってこと?」
「うん」
話し終わった地和の顔を見てみると、なぜか不安そうな顔をしていた。
「つまり、今回の騒動は妖術を使って人を惑わして起こしたんじゃないかって地和姉さんは思ってるのよ」
人和が今まで話していた内容を簡単にまとめる。
「私は妖術のことなんかあんまり分からないけど・・・太平妖術が関係してるかもしれないわね・・・。それとも似た別の何か・・・か。貴重な情報をありがとう。早速、冥琳辺りにでも報告しとくわ」
詠は張三姉妹が持ってきた情報を簡単に紙にまとめ始めた。
「あんた・・・疑わないの?」
すると突然、地和が話し始める。
「??何を?」
「だから!!一回黄巾の乱を起こしちゃった私達がまた、今の状況を起こしたって疑わないの!?」
「・・・・・・、何でよ?」
「何でって・・・」
「だってあんた達がこんなことするなんて誰も思わないと思うわよ」
詠はなぜこんなことを聞かれたのかがいまいち分かっていなかった。
「ほらね〜〜。ちーちゃんの考えすぎだよ〜」
「大体あんた達がアイツの嫌がるようなことは絶対しないでしょ?」
「一刀の嫌がることなんて絶対しないわよ!!」
「そんなことを姉さん達が企んでいたら私が止めるし・・・」
しかし、地和にとっては大きな問題だった。
この一連の騒ぎ
おかしなことが起こりすぎている。
今回の戦いだって神出鬼没、統一された色など黄巾の乱とよく似ている点が多々ある。
それにこの時代、おかしなことがあったらすぐに妖術だとか騒ぎだす時代である。
この話をすることによって今回も張三姉妹の仕業ではないかと疑われるのが怖かったのである。
ファンのみんなをがっかりさせるのは嫌だと思う気持ちもあった。
妖術のせいで天和や人和に迷惑をかけるのも嫌だった。
だが、それ以上に城のみんなに疑われることを地和は嫌った。
だから、どう話せばいいものかと話し方もどこかたどたどしかったのである。
「まぁとりあえず、あんた達を疑う奴なんてこの城にいないから安心しなさい」
「うん・・・ありがと・・・」
地和は安心した様子で胸をなでおろす。
それを天和と人和が“良かったね”と一緒に安心していた。
「でね・・・今ちょっと閃いたんだけど・・・」
場面は変わって戦場最前線
そこへ続々と三国の兵士たちが集まっていた。
敵の様子も昨日とは打って変わって静かだった。
そして、昼前にはすべての隊が集まり、将軍達も集合していた。
天幕の中では蓮華、冥琳、亞莎、華琳、稟達が作戦の最終打ち合わせをしており、外では各将軍達が隊の装備、備品の確認を行っている。
敵陣とは違い三国側はとても騒がしく人が動いていた。
そこから少し離れた所に愛紗と春蘭がいた。
二人は漆黒に包まれた敵陣を眺めている。
「ふぅ・・・」
愛紗はその大軍を見ながらため息をつく。
「どうした、愛紗?元気がないぞ」
「おまえはいつも元気そうでいいな」
「いや・・・今回は少し嫌な気分だ」
愛紗は春蘭の様子を伺う。
いつもなら戦となれば生き生きするというか、“早く戦わせろ”とうるさいはずなのに
今回は静かに敵陣を見やっている。
「なぁ、愛紗・・・、こんなにも今の平和な世が嫌な奴がいるのか?」
「分からん・・・あやつらの考えることなど」
「華琳様が目指して・・・北郷が望んだ世は・・・良いものではなかったのか?」
春蘭はここ一年のことを考えていた。
平和になれば
戦がなくなれば、武官の仕事はなくなる。
これは前に霞と話したことがあった。
そのときに自分は何をするのか。
たしか道化師になるとか言っていた気がする。
その他にもいろいろなことを考えた。
結局、自分では分からなくなって北郷に訊いたことがあった。
『平和になったら私は何をすればいいのだ?』
そのときに言われた言葉がとても印象に残っていた。
『戦の時はそんなことを考える時間もなかったろ?』
戦の時は魏の国のこと、華琳のこと、秋蘭のこと、民のことを自分なりに考えていた。
ただ、これからの自分など考えたことはあっただろうか
『これからはそういう時間が増えるんだ。ゆっくり考えれば良いさ』
平和になれば自分の事を考えるようになる。
それは民も同じはず
これからは生活のことだけでなく、自分のやりたいことを考えられるようになる。
それが平和なのだとそのとき春蘭は結論づけた。
平和になって約一年
敵の奴らもきっと自分のことを考える時間が増えただろう。
自分のことを考えただろう
その結果が戦をすることなのか?
「あっ、いた!!春蘭様〜〜〜」
振り返るとそこには季衣の姿があった。
「おう、どうした?」
「どうしたじゃないですよ〜。皆さんお二人を捜してましたよ」
「準備が出来たようだな」
「はい!行きましょ!!」
そういって季衣は走って天幕の方へ帰っていった。
「春蘭」
歩き出そうとした春蘭を愛紗が呼び止める。
「先ほどの問いだが、わたしはご主人様が作ったこの世は絶対に良いものであると確信している。ご主人様が望んだ平和な世を乱す者は誰であろうと叩っ切る」
愛紗は芯の通った瞳で春蘭を見つめる。
「ふっ・・・、では、私もそうしよう。華琳様と北郷が作ったこの世を乱す奴はわが七星餓狼のサビにしてくれる」
「二人とも〜〜、早く来てくださいよ〜〜」
遠くで再び二人を呼ぶ声が聞こえた。
「行くぞ!春蘭!!」
その言葉を合図に二人は天幕の方へ駆け出していった。
二人はその後、すぐに別れて愛紗は自らが率いる隊のもとへ
愛紗の姿を見つけた副官がすぐに愛紗のもとへ駆けてきた。
「関羽将軍!いつでも出撃できます!!」
「我らが先陣か?」
「はっ!我らと夏侯惇様、孫策様の隊が先陣です」
愛紗は用意されていた馬に跨って、そのまま数歩進んだ。
そして、これから突撃する方角を確認する。
敵もこちらの様子に気がついたようで、陣を敷いて展開していた。
黒い塊が徐々に緑と茶色の大地を侵食していく。
その様子を見ながら、馬を隊の先頭へつける
(あの男もいるのだろうか)
不意に愛紗は漢中で会った男のことを思い出す。
(今度会う時は絶対に逃がさん)
愛紗の青龍偃月刀を握る手に力が入る。
そしてそのまま偃月刀を振り上げ、ビュゥンと風を切りながら黒い塊へ矛先を向ける。
「皆の者!!!我らが三国に仇なす漆黒の下郎を討つ!!!!」
「「「「「応!!」」」」」
「全軍!!!!突撃ィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」」」」」」
END
あとがき
どうもです。
お久しぶりです。
約一ヶ月ぶりの更新となってしまいましたがいかがだったでしょうか?
亞莎って暗器使いだったんですね〜
初めて知りました。
なので、ここで一部使わせてもらいました。
あと更新速度についてなのですが、もうすこしで落ち着くかもしれません。
それでもまだ不定期更新が続きそうですが
なにとぞよろしくお願いします。
今回もタイトルだけで予告を
次回 真・恋姫無双 黒天編 第8章「本城急襲」 後編 激突
では、これで失礼します。
説明 | ||
お久しぶりです。 初めましての方は初めましてです。 黒天編8章中編です。 あらすじ 本城急襲の知らせを受けて三国側も戦闘態勢に入る。 星や翠などの活躍により、何とか敵の勢いを止めることに成功する。 しかし、敵側は次なる策を開始する。 |
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