真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 第十一話 仮面白馬・炎!? 後編
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                            真・恋姫†無双〜皇龍剣風譚〜

 

                          第十一話 仮面白馬・炎!? 後編

 

 

 

 

 

 

「はぁ……皆、楽しそうだな……」

 公孫賛こと白蓮は、北郷一刀の帰還で賑わう城下を、一人でとぼとぼ歩いていた。結局、中庭から戻った後も荷造りは遅々として進まず、食事時だったこともあって、気分転換も兼ねて城下で食事をしようと出て来たのである。

 しかし、気分が塞いでいる時と言うのは往々にして、周りが楽しそうにしていればしているだけ、気持ちが沈んでしまうものだ。

 

 それは無論、白蓮も例外ではなかった。いや寧ろ、彼女の様な生真面目な性格の人間は、特に強く周りとの温度差を感じてしまう傾向がある。

「何やってるんだろ、私……」

 白蓮はそう呟いて、唐突に足を止めた。向かいから歩いて来た者や、後ろから彼女を追い越して行く者が、ちらりと怪訝な表情を向けてすれ違ってゆく。

 

 結局、また逃げているのだと言う事は、自分でも分かっていた。こんな時、他の皆なら、冗談の種にでもして笑って済ましてしまうのだろうに。

 それが出来ない。ウジウジと考え込んで、塞いでしまうのだ。

 仮面白馬の活動を控えていたのだって、『偽華蝶仮面』と言われ続けるのが切なくなってしまって、段々と仮面を付けるのが嫌になってしまったから。

 

 だが、どうしたら良いのか、さっぱり分からない。一刀が帰って来る前は、相談したい事が沢山あったのに、いざ帰って来たら、それすら口に出せずにいる始末だ。今日だって、午前中の内に一刀を探して一言詫びを言ってさえいれば、気持ちも随分楽になっていた筈なのに……。

 

「おい、あっちで、また『むねむね団』とチンピラが暴れてるってよ!!」

「マジでか!?今日も華蝶仮面来るのかな?」

 白蓮は、にわかに騒がしくなった周囲の人々の会話からそんな遣り取りを耳にして、反射的に懐に手を入れた。そして、定位置に“それ”が入っていない事に気付く。

 

 当然だ。自分が、捨てたのだから。

「チッ、麗羽のやつ、こんな時に―――!」

 それでも白蓮の足は、野次馬達と同じ方向に向けられていた。

 

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「お――――っほっほっほっほ!!さあさあ、ドンドンやっておしまいなさい!!」

 ゴテゴテした装飾の仮面をつけて、屋根の上に陣取った袁紹こと麗羽が高笑いを上げながらそう言うと、眼下の大通りで、巨大な麗羽のハリボテを乗せた神輿を担いでいた褌姿の男たちが、一斉に雄たけびを上げた。

 それと同時に神輿が止まったかと思うと、次の瞬間には、大通りを縦横無尽に、ところ狭しと暴れ回る。

 

「お―――っほっほっほっほ!とっても宜しくてよ!!」

 ご満悦で高笑いを上げる麗羽の後ろで、文醜こと猪々子と、顔良こと斗詩が、揃って溜め息を吐いた。

「いくら暫く成都に戻らないからって、これはどうなんだろうな、斗詩……」

「だよねぇ……いくら何でも、あれはちょっと……」

 

「まぁ、美以と子分達が里帰り中だから、“むねむね”系の作戦には人手が足りないのは分かるけどさぁ……」

 猪々子はボリボリと頭を掻くと、筋骨隆々たる褌男に担がれて暴れ回る巨大麗羽ハリボテ(因みに、きちんと仮面も付けている)に視線を遣った。『デカい事は良い事だ』を信条とする猪々子でさえ、あのハリボテの趣味はどうなのかと首を捻らざるをえない―――まぁ、だからと言って、聞き入れられもしない意見具申を敢えてしようなどとは思わないが。

 

「でもさ―――」

 猪々子の横で暴れ神輿を見ていた斗詩が、視線を神輿に向けたまま、猪々子に言った。

「麗羽様も名も知らないチンピラの人達も、いつもより張り切っちゃってるけど、星さんも恋さんも白蓮様も、今日は宮中で終日お仕事だよね?収集つくのかなぁ……もし、チンピラの人達が本気で暴走しちゃったら、色々大変じゃない?」

 

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「まぁ、そん時は、ほら……アタイと斗詩で、どさくさ紛れにヤッちまうしかねんじゃね?」

「文ちゃん、不穏な言い回ししないでよ……でも、警備隊が来るまでに本格的に暴れ出しちゃったら、それしかないかぁ」

 斗詩は、顎に手を添えて考えながら猪々子の言葉を肯定して頷いた。

 

 北郷一刀と重臣達が挙って引っ越すと言うその直前に、本格的な暴動事件など起こしてしまったのでは、色々と始末が悪い。一刀や一部の将たちは、華蝶仮面の存在もある為、おふざけとして大目に見てくれてはいるが、時期も時期であるし、警備隊を巻き込んでの乱闘ともなれば、反逆罪一歩手前である(普通は、降将がそんな事をしたら反逆罪そのものなのだが)。

 

 そうなれば、建前上は『むねむね団』の正体は不明と言う事になっている分、色々と拗れてしまうのは目に見えていた。当然、板ばさみになる一刀の心労たるや、推して知るべしである。

 自覚の全くない麗羽は兎も角、本来は厄介者である筈の自分達を受け入れ、分け隔てなく接してくれている一刀の名に泥を塗る様な真似は、斗詩も猪々子も、本意ではなかった。

 

 二人が揃って頷き合うのと同時に、眼下の通りで声が上がった。

「よぉし、野郎ども!もうそろそろ、本格的に暴れんぞ!!」

 神輿の前に着いて、両手で添え棒を持って神輿をコントロールしていたチョビ髭を生やした中年の男が、そう言って添え棒を、横に大きく“振った”のである。

 

 所謂、『暴れ神輿』を担いだ事のある人間ならば解るだろうが、神輿の前(場合によっては後ろにも)に着いた人間が、神輿を“揉んでいる”最中に一旦コントロールを放棄してしまえば、数十人の男達の力が一点に集中しているそれは、肉弾戦車とでも言うべき勢いを持つ、危険なものになってしまう。

 だから本来は、必ず前後に人が付いて神輿の進行を制御し、担ぎ手たちも、見物人や建物に被害が出ない様に、直前で大地を勢いよく蹴り、その反発で神輿を押し返したりして注意するものなのだ。

 

 しかし今、麗羽のハリボテを乗せた神輿は、その動きを制御すべき人間を失い、あまつさえ、その担ぎ手たちには、周囲の被害を鑑みる気など更々ない。となれば結果は……。

「うわぁ!俺の店がぁぁ!!」

「おい、ヤバいぞ!!子供らを遠くにやれ!男は集まって神輿を押し返せぇ!!」

 

「言った傍からこれかよ……」

「て言うか、本格的になるの早過ぎだよぉ……」

 轟音を上げて吹き飛ぶ屋台の残骸と、住民たちの阿鼻叫喚の悲鳴を聴いて頭を抱える猪々子と斗詩。その二人を余所に、麗羽は「ちょっと、私の高貴な像に傷が付いたらどうしてくれるのです!?」などと、見当違いな事を叫んでいる。

 

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「しゃぁない、行くか、斗詩……」

「だねぇ、文ちゃん……はぁ」

 二人はそう言って頷き合うと、それぞれの得物を構えた。いつもならば、ここで華蝶仮面が出て来て止めてくれるのだが、中の人が本業で忙しいのは分かっている。

 このまま放置して怪我人でも出た日には、それこそ洒落では済まないだろう。二人が、膝を曲げて跳躍しようとした瞬間、良く通る男の声が、周辺に木霊した―――。

 

 

 

 

 

 

「待ていっ!!」

 その一言は、住民達の声も、神輿を担いでいる男たちの声も貫いて轟き、その場に居た全ての人々の動きを止めさせた。

「なに!?何処に居やがる!!」

「あそこだ!!」

 戸惑うチョビ髭の男に応えるように、声の主を見つけた猪々子が、町と町を区切る物見台の上を指差した。

確かに、声の主はそこに居た―――その男は、西に傾き出した日輪を背にして、まるで全てを見下すかの様に両腕を組み、仁王立ちになっていたのだ。

 

「悪しき星が天に満ちるとき、大いなる流れ星が現れる。その真実の前に、悪しき星は光を失い、やがて落ちる……人それを……“裁き”と言う!」

「貴様、何モンだっ!?」

 舞台で見得を切るが如き男の口上に、チョビ髭の男が堪らず怒鳴ると、男は、陽の光によってその顔に差した影の中で、不敵に微笑んだ。

 

「貴様らに名乗る名は無い!!」

 男がそう叫んだ瞬間、物見台の上から、影が消失した。

 天高く跳躍した男は、白い外套を翻して空中で回転すると、そのまま神輿に向かって脚を突き出し、一直線に降下した。

 

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「喰らえ!白馬宙真拳、旋風蹴りっ!!」

 男の叫びと共に、巨大麗羽のハリボテが粉々に砕け散り、担いでいた男たち諸ともに空中に吹き飛ばした。濛々と立ち上る土煙の中から現れた男は、長い外套の袖で煙を往なす様に掃い、白い仮面の奥からチョビ髭の男を睨み付けた。

 

「闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり……草原よりの使者、仮面白馬・倍功夫(ばいかんふー)、参上!」

 

 

 

 

 

 

「いや、めっちゃ名乗ってんじゃんか……」

 猪々子は、突然の出来事に唖然としつつも、住民たちの声援を受けながら、褌姿の男を次々と張り倒す仮面白馬・倍功夫(以下、面倒くさいので倍功夫)にツッコミを入れた。

「ツッコむとこ、そこじゃないと思うよ、文ちゃん……」

 

 猪々子は、斗詩にそう言われて頭を掻いた。

「いやぁ、アタイの中の何かが、どうしてもそこにツッコめって言うもんだからさぁ」

「まぁ、気持ちは分かるけど……それより、あの人って……」

「うん、やっぱ、アニキだよなぁ、“あれ”……」

 

「だよねぇ?なんでご主人様が、白蓮様の仮面を被ってあんな事……」

 斗詩が全てを言い終わる前に、二人の前に居た麗羽が、金切り声を上げた。

「きーーーーーーっ!!何なんですの?あの変テコりんな仮面の男はっ!?アイツのせいで、私の高貴で優雅な特大人形が、木端微塵になってしまったではありませんか!!」

 

「いや、麗羽様……。そもそもあの仮面、麗羽様が作ったんじゃないすか……」

「て言うか、今、私達も似た様なの付けてるし……」

 麗羽は、諦め気味にそう言う二人の言葉を期待通りに受け流して、びし、と倍功夫を指差した。

「もう何でも良いですわ!兎に角、文さん、顔さん、あの無礼者をケチョンケチョンにしておしまいなさい!!」

 

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「いやいやいやいや、流石にそれはヤバいですって……」

「そうですよぉ。もし何かあったら、私達、今度こそこの大陸追い出されちゃいますよ?」

 麗羽は、必死でそう言う斗詩と猪々子を怪訝な顔で見返した。

「はぁ?何でこの、わ・た・く・し・が!あんな男を一人、無礼討ちにした位で、そんな目に合わねばなりませんの?」

 

「何でって、なぁ、斗詩?」

「ねぇ、文ちゃん?」

 斗詩と猪々子は曖昧な笑みを浮かべながら、申し合わせた様に、勢いを良く後ろを向いて顔を突き合わせた。

 

「(どうするよ、斗詩ぃ?麗羽様、やっぱりアニキの事に気付いてないぜ?)」

「(どうするって……ああなっちゃった麗羽様を説得なんて、出来る訳ないし……あ!)」

「(ん、どした、斗詩。何か思い付いたのか?)」

 猪々子が、突然ぽんと手を叩いた斗詩を、期待を込めた目で見遣った。

 

「(うん。ねぇ文ちゃん、これは返って、都合が良いかも知れないよ?)」

「(都合が良いって、何で?)」

「(ご主人様が何の事情もなしに、白蓮様のマネなんかする必要ないじゃない?だって、昨日の鎧、文ちゃんも見たでしょ?)」

 

 猪々子は、「おお、そう言えば」と呟いて、合点がいったと言う顔をして頷いた。斗詩の言う通り、一刀が単純に、自分達が暴れているのを止めようとしただけなら、最悪やり合う事になったとしても、昨日の黄金の鎧を着ればそれで事足りる筈だ。

「(でしょ?だから、私達が降りて行って、ご主人様と戦う振りをしながら訳を聴いて、調子を合わせられれば……)」

「(そっか!アニキに、星達の代わりをしてもらえるかも!)」

 

 意見を纏めた二人が、同時に頷き合うと、後ろから麗羽のイライラした怒声が飛んできた。

「二人とも、何時までボソボソとくっちゃべっているのです!さっさとお行きなさい!!」

「あらほほらさっさ〜!」

「あ、あらほらさっさぁ〜」

 斗詩と猪々子は、もう一度お互いに目配せを交わし合ってから、勢い良く屋根から飛び降りた。

 

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 かずt……もとい、倍功夫は、突如、自分の上に差した影に気付き、反射的に顔を上げた。そこには、愛用の斬馬刀“斬山刀”を大上段に振り上げたまま降下して来る、猪々子の姿があった。

「うぉりゃああ!」

「ぬぉぉ!?」

 

 倍功夫は、轟音を伴って振り抜かれた斬山刀の刃を寸での所で躱すと、地面にめり込んだ斬山刀を足で押さえつけ、猪々子の横から、自身の身体を水平に押し付けた。密着する事で、相手が得物を振るう動作を妨害する為だ。

「危ねぇな、おい!!」

 

 倍功夫が思わずそう言うと、猪々子はニヤリと不敵に笑った。

「(心配すんなって、“アニキ”。ちゃんと加減しといたからさぁ)」

「(猪々子!?俺の事、気付いてくれてたのか!)」

 驚いた一刀の顔を見返して頷いた猪々子は、顎を小さく動かして、一刀の肩越しに後ろを指した。

 

「(それよか、斗詩が来るぞ!)」

 一刀が首だけで振り返ると、確かに、大槌、“金光鉄槌”を腰だめに構えた斗詩が走り込んで来るのが見えた。一刀が思わず身構えると、猪々子はまたも不敵に笑いながら囁いた。

「(心配しないで、“受け止めなよ”。アニキ)」

 

「(はぁ!?あれをか!?)」

 倍功夫が、流石に疑りの目で斗詩を見遣ると、斗詩は裂帛の気合を放って金光鉄槌を振り上げた所だった。だが―――。

「(ん、近い……?そうか!!)」

 

 一刀は、斗詩の真意を察して腰を低くすると、右手を高く掲げた。次の瞬間、衝撃と共に、掲げた右手の中に金光鉄槌の“柄”が納まった感触を感じて、そのまま柄を握り締める。

 すると周囲から、割れんばかりの拍手と歓声が飛び交った。確かに、事情を知らない人間が見たら、片足で大刀を押さえつけ、片手で大槌を受け止める倍功夫のその姿は、怪力無双の豪傑そのものである。

 

 しかしながら、その豪傑当人はと言うと、半泣き声で、自分に襲いかかって来た二人に話しかけている所であった。

「(斗詩ぃ〜、猪々子ぇ〜。二人が気付いてくれて良かったよぉ……)」

「(何だよ、それ。アニキ、自分から大見得切って突っ込んで来たんじゃんかよ)」

 猪々子が、密着した一刀を押し返す振りをしながらそう言うと、斗詩も、大槌を押し込む振りをして、小声で話しかけて来た。

 

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「(そうですよ……。そもそも、どうしてご主人様が白蓮様の仮面を付けてこんな事してるんですか?)」

「(いや、それはだな―――かくかくしかじか……)」

「(まるまるうまうま……って訳かぁ。しっかし、アニキも運が悪ぃよなぁ。よりによって、鈴々に見つかるなんて……)」

 

「(それで、鈴々ちゃんの目を誤魔化す為に、本物の正義の味方になっちゃおう、と……)」

 斗詩と猪々子が同情の眼差しを向けると、一刀は、深い溜め息を吐いて頷いた。

「(だって、もうこうなったら、それしか無いかな〜って。もうすぐ、鈴々来るだろうし―――)」

「(それなら、お互いの利害は一致してるな)」

 

 一刀が、猪々子の意味深な言葉に問い返そうとすると、麗羽が屋根の上から大声で怒鳴った。

「文さん、顔さん!何時までそうしているおつもりですの!?さっさとやっつけておしまいなさい!!」

「(ったく、麗羽様てば!こっちは大事な話の途中なのによぉ)」

 猪々子が、力が抜けた声でそう言うと、一刀がそっと囁いた。

 

「(いや、確かに、いつまでもこうしてたら周りにも怪しまれる―――適当にやり合いながら話そう)」

「(『やり合いながら』……って、そんな事して大丈夫なんですか?ご主人様)」

 斗詩が心配そうな眼差しを向けながらそう言うと、一刀は僅かに微笑んで見せた。

「(まぁ、それなりに鍛えてますから……二人が合わせてくれれば、取り合えず派手にやり合ってる“振り”位は出来るさ……多分)」

 

「(多分、って……)」

 斗詩が尚も食い下がろうとするのを、猪々子が止めた。

「(斗詩、アニキが大丈夫だって言ってんだから、大丈夫だって!時間ねえんだ、行くぞ!)」

「(う、うん……)」

 一刀は、何処か挑戦的な目をした猪々子と、未だ心配そうな顔の斗詩に向かって頷いて見せると、如何にも力の均衡が崩れたかの様に、三方に飛び退いて間合いを切った―――。

 

 

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「食らえ!白馬真拳・瞬殺拳!!」(説明しよう、だだの右ストレートである!!)

「グハァ!!?」

「白馬真拳・毒蛇蹴り!」(説明しよう、ただの飛び蹴りである!!)

「おごぉ!!」

 

 白蓮は、白馬仮面・倍功夫を名乗る一刀が、観衆の歓声を浴びながら、大声で技の名前を叫んでチンピラを張り倒して行くのを、呆然と眺めていた。『何が違うんだろう?』と思いながら。

 やっている事は、自分と大して変わらない筈だ。さっきから、派手に叫びながら戦ってはいるが、攻撃そのものは、何の変哲もないものばかりである。

 

「おぉ〜!かっくいいのだ〜!!」

「うぉ!?鈴々、いつの間に!?」

 白蓮は、突如、隣から聴こえて来た声に驚いて一歩後ずさりながら、瞳を煌めかせて倍功夫とチンピラの大立ち回りを見つめている鈴々に声をかけた。

 

「お〜、白蓮!どうしてこんな所に居るのだ?」

「何でって―――私は昼食を摂りに……。そう言うお前は、どうして此処に居るんだ?確か、今日は一日、城で都に連れて行く歩兵の割り当てじゃなかったか?」

 白蓮が怪訝な顔をしてそう問うと、鈴々は大立ち回りから目を逸らさずに、コクンと頷いた。

 

「そうなのだ。でも、休憩に行く途中で、あの偽偽華蝶仮面に会って追いかけてたのだ。途中で見失いかけたんだけど、こっちに『むねむね団』が出たって聞いたから、華蝶仮面が見れるかもと思って、偽偽の方は皆に任せてこっちに来たのだ!そしたら、あの偽偽が戦ってたのだ!!」

「そ、そうなのか……何か複雑だな。じゃあ、あいつを捕まえないといけないんじゃないか?」

 

 白蓮がコメカミを摩りながら、複雑な気持ちでそう問い返すと、鈴々はまたコクンと頷いた。

「そうなのだ。だけど、あいつは悪者じゃないみたいだから、捕まえるのはやめるのだ―――かっくいいし!」

「あぁ、そう……なぁ、鈴々。あいつと、その……何時もの仮面白馬と、何が違うと思う?」

 

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 鈴々は、白蓮の問いに小首を傾げて考え込んだ。

「う〜ん。何か良く分かんないけど、いつもの偽華蝶仮面は、戦ってる所がつまんないのだ。でも、あの偽偽華蝶仮面が戦ってる所は、本物と同じで、カッコ良くて面白いのだ!」

「つま!?……そうか……私の戦ってる所って、“つまんない”のか……」

 

「ん?鈴々、白蓮がつまんないなんて言ってないのだ」

 鈴々が、不思議そうな顔で白蓮にそう言うと、白蓮は慌てた様に言った。

「え!?あ、うん。そうだよな!ちょっと聞き間違えちゃってさ……あはは!」

「変な白蓮なのだ―――あっ、残った雑魚は、ヒゲの奴だけなのだ!」

 白蓮が、鈴々のその言葉を聞いて、彼女が見つめているのと同じ所に目を遣ると、ちょうど、倍功夫と柳葉刀と持ったチョビ髭の男が向かい合っていた。

 

 

 

 

 

 

 倍功夫はチンピラをなぎ倒しながら、野次馬の中に鈴々の顔を見つけ、その瞳がキラキラと輝いているのを見て、作戦の成功を確信した。それと同時に、何故か白蓮がその隣に居る事にも気が付いて、どうにも決まりが悪い思いもしたのだが、今更やめる訳にもいかない。

 倍功夫が仮面の奥から視線を遣ると、それを察知した猪々子と斗詩が、ごく自然に距離を空けて、チンピラ共のリーダーらしいチョビ髭の男と倍功夫の間に、一騎打ちの雰囲気を作り出した。

 

「この野郎ぉ……いきなり出て来て、散々好き勝手やってくれやがって……」

 チョビ髭の男が、先程、倍功夫に気絶させられた巨漢と小男を横目に見ながら、歯ぎしりをしてそう言うと、倍功夫は、白い仮面の奥で不敵に笑った。

「済まなかったな。俺としても、『次回予告』でもあれば、チラっと顔を見せる位は、やぶさかじゃなかったんだが」

 

「けッ!訳わかんねぇ事言ってんじゃ―――ねぇ!!」

 男がそう叫ぶなり柳葉刀を振り上げて突進すると、倍功夫はスルリと半身を逸らして振り下ろされた刃を躱し、その峰と柄頭に手を添えて、グイと、下に向けて押し込んだ。

「なッ!?」

 瞬間、チョビ髭の男は驚きの声を上げた。自分の握っていた刀が、まるで意思を持ったかの様に、男の手から離れ、倍功夫の手に握られていたからである。

 

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 無刀取り―――。俗にそう呼ばれる、古武術の技の一つである。刀の峰と柄、柄頭を、それぞれ支点、力点、作用点として梃子の原理を用い、相手から武器を奪う技だ。

 本来ならば、下に向けれられた刃でそのまま敵を斬り上げ、武器と同時に命を奪うのだが、倍功夫はそれをせず、チョビ髭の男が驚いている間に柳葉刀を自分の後ろに投げ捨て、流れる様な動きで大地に足を踏ん張って、渾身のショートアッパーを男の鳩尾に叩き込んだ。

 

「奥義を受けろ!神掌烈光拳(ゴッド○ンドスマッシュ)!!」

 倍功夫が踏ん張った地面が陥没し、男が身体をくの字に曲げて、空中に跳ね上がる(足に込めた力に比べて、実際のアッパーの威力はかなり加減してある事を、一応、報告しておかねばなるまい)。

 倍功夫は、墜ち行く男にくるりと背を向けると、静かに眼を閉じた。

 

「―――成敗!」

 倍功夫が厳かにそう言ったのと同時に、男は土煙を上げて、顔面から派手に“着地”した。

「くっそー。よくもやったな、倍功夫!今度会ったら覚えてろよー」

「今回は、この位にしておいて上げますー」

 

 全てを見届けた斗詩と猪々子は、棒読みの捨て台詞を口にして屋根の上に飛び乗り、『訳が分からない』と言った顔で呆然と佇んでいた麗羽の腕を、両脇からしっかりと掴んだ。

「ちょ!?あなた達!何をしてるんですの!?まだ、まともに戦ってないじゃありませんか!!」

「いや、麗羽様。ここいらが潮時ですって。初対決から幹部が本気出したらダメじゃないすか―――それに、アタイ午後から、翠と蒲公英に都に連れてく馬の選定、手伝う様に頼まれてるんすよね〜」

 

 猪々子が疲れた様にそう言うと、反対側から麗羽を引き摺っていた斗詩も、うんうんと頷いた。

「そうですよ、麗羽様。それに私も紫苑さんに、都に持って行く書簡の整理を手伝うって、約束しちゃいましたし……」

「なんですって!?どうして貴女たち二人にだけ、そんな話が行ってるんですの!?私、夜までの予定はスッカラカンでしてよ!?」

 

「さぁ、どうしてっすかねー?」

「さぁ、どうしてなんでしょうねー?」

 斗詩と猪々子は、先刻の捨て台詞にも負けない程の棒読み加減で麗羽の問いに応えると、屋根から反対の通りに飛び下りて姿を消した。その夜、猪々子が斗詩に「頭の中を、『こまんだー・らんきんぐ』って言葉がグルグル回ってんだけど、何だか解る?」と不思議そうに聴いたのだとか―――。

 

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 すっかり長くなった日もとっぷりと暮れた頃、一刀は仮面と外套を持って白蓮の部屋に赴いた。と言うか、正直に話してしまえば、土下座の真っ最中だった。

「ほんとーーーに!申し訳ないっ!!」

「おいおい、頼むからやめてくれってば!!」

 

 白蓮は、額を床に擦り付ける一刀を無理矢理、椅子に座らせると、顔に苦笑を浮かべて、自分は向かいの椅子に腰かけた。

「気にしてないって言ってるだろ?そもそも、この仮面は捨てた筈の物だし……結果としては、都に行く前に街のチンピラも一斉検挙できた訳だし、な」

「その事なんだけどな、白蓮―――」

 

 一刀は真面目な顔を作ると、白蓮を見返した。

「何で、捨てようと思ったんだ?―――その仮面」

「あぁ、その事か……別に、大した理由があった訳じゃないさ。まぁ、強いて言うなら、小さな事が積もり積もって―――ってところかな?それでたまたま、今回の引っ越しを機に捨てちまおうと思ったんだ」

 

「小さな事―――か」

「あぁ。例えば、お前が天に帰った後も、ずっと“偽華蝶仮面”扱いだったしな……。今日、鈴々に思い切って聞いてみたら、はっきり言われたよ。『偽華蝶仮面の戦いはつまんない』って……」

「白蓮……」

 

 白蓮は、自嘲を浮かべて頭を掻いた。

「なぁ、北郷。今日のお前と今までの私、一体、何がそうまで違うのかなぁ?」

 一刀は、白蓮の問いに、暫く腕を組んで逡巡してから、言葉を選んでぽつぽつと話し出した。

「そうだな……。単純に武術経験者として見た場合、白蓮が仮面白馬として戦ってる時の立ち振る舞いは、手本になるくらい綺麗だと思うぞ?」

 

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「そ、そうかな!?」

 白蓮が、パッと顔を輝かせてそう言うと、一刀は大きく頷いた。

「あぁ―――。構えから足運び、重心の取り方、次の手の組み立て方に至るまで、負ける要素を最小限に抑えた、無駄のないものだと思う」

 

「そうか……!でも、それなら何で―――?」

「あぁ。確かにそれは、武術家としては素晴らしい事だ。でも……武術を知らない一般人に取っては、パッと見に、その凄さって分からないと思うんだ。鈴々は、あの手のものを観てる時は子供と一緒だからな。だから、感覚的かつ端的に『つまらない』って、そう表現したんだと思う」

 

「成程な……。確かに、よく分からない事を見て喜ぶ奴なんて居ないよな……」

 一刀は、白蓮の言葉に小さく頷くと、再び口を開いた。

「なぁ、白蓮……華蝶仮面を応援してる人達が求めてるものって、なんだと思う?」

「えっ?」

 

「武術に錬達した、法の守護者かな?でもそれなら、警備隊だって良い筈だ。だけど、同じチンピラを取り押さえるんでも、華蝶仮面と警備隊とじゃ、向けられる市民の声や盛り上がりは明らかに違うよな?」

「確かに―――考えてみた事もなかったよ」

 

 白蓮が考え込みながらそう呟くと、一刀は僅かに微笑んだ。

「そうだろ?俺も、帰ってた十三年間、星の事を思い出す度に考えてた―――で、卑弥呼にも散々、外連味(けれんみ)がどうの、って話をされてさ。色々な要素を組み合わせて見て、何となく、解ったんだよね」

「その答えが?」

 

「あぁ。彼等が求めているもの―――それは、『正義の味方』って言う、偶像なんだと思うんだ」

「せ、正義の味方ぁ!?」

 白蓮が、気の抜けた様な声でそう言うと、一刀は、どこか面白がっている様な顔で白蓮を見た。

 

「はは。胡散臭い言葉だろ?でもな、考えてみてくれ―――彼等はずっと、権力と言う名の暴力に、理不尽に虐げられて来たんだぞ?」

「あ……!」

 一刀は、自分の言葉を理解したらしい白蓮を、嬉しそうに見つめた。

 

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 そう、僅か数年前まで、この大陸は戦乱の只中にあった。比較的、領土争いからは遠かったこの益州とて、それは例外ではない。

 一見して平穏に見えても、朝廷と言う、屋台骨であり、枷でもあったものを失った益州の統治者たちは、形骸と化した筈の権威と権力を振るい、民から、自分達が享楽に耽る為の費用として、重税を取り立てていたのである。

 

 慎ましく日々を生きる為の僅かな糧すらも、ただ『城に住んでいる』と言うだけの、何もしてくれない者たちに奪われ続ける―――それを、理不尽と言わずして何と言うのか。例え、桃香や一刀がどれ程の善政を布こうとも、その時の記憶が、彼等の頭の中から完全に忘れられる事はないだろう。

 何故なら、桃香も一刀も、警備隊の兵士達も、国家と言う名の権力の体現者だからだ。例え忘れる時が来るとしても、それには長い長い時間と、その間に築き上げるべき信頼関係が必要不可欠なのである。

 

「でも、華蝶仮面は違うだろ?権力や法なんか関係なく、疾風の様に現れて、嵐の様に理不尽と戦って、また、風の様に去って行く……。華蝶仮面は、彼等が辛い思いをしていた時に、『こんな人が居てくれたら』と願った、“正義の味方”そのものなんじゃないかな?だからこそ、星は……趙子龍としてじゃなく、華蝶仮面を名乗って戦ってるんだと思うよ?わざわざ、しなくても良い派手な演出をしたりして、皆が分かり易く『正義の味方』を感じられる形でさ」

 

「そうかぁ。誰も振り向いてくれない訳だよな。麗羽たちにされた事に頭に来て、仕返ししか考えてなかった私の事なんて……。今、北郷に言われるまで、自分が―――仮面白馬が、他人から求められる意義なんて、考えてもなかったよ。戦場の時と同じに戦ってた……勿論、猪々子や斗詩と、本気で殺し合うつもりって意味じゃないけど……」

「ははは。もしそうだっら、流石に困るなぁ。まぁ、ともあれ、星も最初は遊び半分だったんだろうけどね。白蓮も知ってると思うけど、あいつは頭も切れるし、勘も良いからな」

 

 白蓮は、一刀の言葉に『分かっている』と言う様に、小さく頷いた。

「だからさ、今日の俺と今までの白蓮の違いって、結局はそこなんじゃないか?俺は―――まぁ、経緯はどうあれ、やるからには見てる人達に『本物の正義の味方』だと信じて欲しかったんだ。だから、派手に立ち回ったり、役者みたいな見得を切ったりして、皆に分かり易い暴れ方をした……」

 

「私は今まで、華蝶仮面みたいなのは恰好だけで、やっている事は警備隊と変わらなかった、か……」

 白蓮は、一刀の言葉を引き継いでそう言ったきり、俯いて考え込んだ。まるで、一刀の言葉を飲み下しているかの様に。

 

-15ページ-

 

「なぁ、北郷……」

「うん?」

 一刀は、暫くして顔を上げた白蓮の呼び掛けに、軽く片眉を上げて応えた。

「今からでも、なれるかな?私も―――『正義の味方』に」

 

「まぁ……なれるんじゃないか?三十路過ぎた俺でも何とかなったんだから」

 一刀が、おどけた調子でそう返すと、白蓮はまず、ポカンとした顔で一刀の顔を見、次の瞬間には、大きな声で笑い出していた。

「あはははは。そりゃそうだ!そりゃそうだよなぁ!!」

 

「むぅ……自分で言っておいて何だが、この類の軽口でそこまでウケると、実に微妙な気分だなぁ」

 一刀がそう言うと、白蓮は瞳に滲んだ涙を拭いながら、必死に首を振った。

「い、いや、そう言うんじゃなくてさ―――昼間の北郷、凄く“ノッてた”なって思ったら、急に可笑しくなっちゃって……あぁ、また思い出しちゃった!クックックッ……!!」

 

「おいおい、それは尚更、勘弁してくれよ……」

 一刀が、不貞腐れた様に片肘を突くと、白蓮は笑いの発作を意思の力で押し込めて、一刀に向かって両手を合わせた。

「はぁ、はぁ……あぁ、腹筋痛い……。悪かったよ、北郷。この通り!機嫌直してくれって!」

 

「ふん。やなこった。第一、『腹筋痛い』とか、謝る時に言うか?普通」

 一刀がそっぽを向くと、白蓮はそれを追う様にして身を乗り出す。

「そこを何とか!頼むよ、神様、仏様、御遣い様!!」

「何とか、ねぇ?まぁ、そう言う事なら、誠意を行動で示してもらわないとな?」

 

 一刀はそう言うなり、怪訝な表情を浮かべた白蓮の腕を掴んで自分の膝の上に引き寄せ、そのまま唇を塞いだ。

「んん〜!?ぷはぁ!な、な、な、な、何するんだよ、北郷!?」

 解放された白蓮が、顔を真っ赤にしながらそう言うと、一刀は悪戯っぽく微笑んだ。

 

「何って……男の機嫌を直すには、美人のキスが一番なんだぞ?知らなかったか?」

「び、美人て……い、いや、そうじゃなくて、だな!そもそもお前、こんな事してて良いのか?今夜はその……桃香とか鈴々とか、待ってる奴が居るんだろ?」

 白蓮のそんな言葉に、一刀はあからさまに溜め息を吐いて見せた。

 

-16ページ-

 

「おいおい。自分を膝に乗っけてる男に向かって、どうしてそういうこと言っちゃうかね、白蓮さん?」

「い、いや、だって……桃香たちを差し置いて私って言うのは、時期的にどうなんだよ?」

「そんな事言われても、もう気分が盛り上がっちゃったし……それに、今日辺り部屋で大人しく待ってたら、明日の朝には干からびてるって言う、哀しい確信があるんだよねぇ」

 

「あ〜。まぁ、確率は高そうだなぁ」

 一刀は、そう言って赤くなった頬を掻く白蓮を、優しく抱き締めた。

「だろ?でもまぁ、白蓮の部屋にまで突撃して来るなんて野暮は、流石に皆もしないかな〜、と」

「何だよ、そんな理由で私のとこに泊まろうって言うのか?」

 

 一刀の首筋に顔を埋めた白蓮が、拗ねた様にそう囁くと、一刀は小さく微笑んだ。白蓮も“その気”になってくれたのを、確かに感じたからだ。

「いやまぁ、それもあるんだけど―――」

「けど?」

 

「折角ここまで“脱がせた”のに、勿体ないじゃないか?」

「は?」

 白蓮が、一刀の言葉の意味を測りかねて身体を少し離すと、白蓮の着ている白い鎧が、ガチャガチャと音を立てて、一斉に床に落ちて行った。

 

「はぁーーー!?」

 白蓮が慌てて自分の身体を見ると、鎧ばかりか、その下に着ていたドレスのボタンまでもが、半分がた外れてしまっていた。

「ほ、ほ、ほ、北郷!お前、何したんだよ!?」

 はだけた胸元を両手で掻き抱いた白蓮が怒鳴る様に言うと、一刀はその様子を嬉しそうに眺めながら、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「何って―――服、脱がせた」

「どうやって!?」

「それは企業秘密だけど……強いて言うなら、男の嗜み?」

「何時からやってた!?」

「ん〜、『び、美人て……』の辺りかな?」

 一刀は、白蓮の問いに次々と答えながら、彼女の膝の裏と背中に両手を回し、自身こと椅子から立ち上がった。

 

-17ページ-

 

「ちょ!?何するんだよ!」

 白蓮は自分を抱き上げたまま寝台に進んで行く一刀に向かって、しどろもどろになりながら抗議の声を上げた。

「だから“ナニ”する気だと、さっきから言ってるだろ?それとも、椅子に座ったままが良かったか?」

 一刀は、まるで意に介さないとでも言う様な口調でそう言って、白蓮を寝台に横たえ、その上に優しく覆い被さった。

 

「―――最も、白蓮が嫌だって言うなら、このまま帰るけど?」

 白蓮は、殆ど口付ける程の近さでそう言ったきり、自分の答えを待っている一刀の顔から目を逸らした。

「そんな事……言う訳ないだろ、バカ……」

 白蓮は、小さな声でそう呟くと、そのまま瞳を閉じて顎を上げ、一刀に自分の唇を差し出した―――。

 

 余談ではあるが、次の日、仲間達に会うたびに嵐の様な冷やかしを受け続けた白蓮は、顔を真っ赤にしたまま、終日、宮中を逃げ回る事になったのだそうである―――。

 

-18ページ-

 

                                   あとがき

 

 

 

 さて、今回のお話、如何だったでしょうか?

 あまりにも趣味全開の内容なので、訳が分からないと言う方がいらっしゃったら、本当にすみません。

 でも、後悔はしていない!www

 さて、今回は、私のマシンロボへの愛とオマージュ、パロディが満載ですが、元ネタのご紹介などをしようかと思います。

 

 まず、一刀登場シーンの口上。この一連の流れは、マシンロボファンならば知っていて当然のお約束です!因みに、内容の方は、何か良さげなものはないかとロム兄さんの口上を調べて居た時に見つけたもので、『流星が〜』の下りが一刀っぽかったので、言い回しなどを少しだけ変えて使用させて頂きました。次に、一刀ver.仮面白馬の名前。これは言わずもがな、主人公ロボの名前を漢字表記したものです。

 それから技の名前。これも、マシンロボ本編で登場し、「それ、どう見てもただの○○○だろ!!」と私がツッコミを入れた技を使わせて頂きましたwww

 最後の決め技は、やっぱりスパロボから入った世代としては、どうしてもあれで、決めたかったんですよ……。

 

 最後に、一刀が白蓮に『正義の味方』を語る場面の『疾風の様に〜』と言う下り。あそこは、村枝 賢一先生作画の、『仮面ライダーを作った男たち』と言う作品の中で、仮面ライダーの産みの親の一人である平山亨プロデューサーが、仮面ライダーを作るに当たっての自らの想いを語る場面のセリフを、少し変えて出しました。

 

 全体的な話の流れとしても、『戦争で疲れた人達にとってのヒーローとは?』と言う考え方に、私自身、非常に感銘を受け、ヒーロー観に多大な影響を受けたので、一刀の考える『正義の味方』像としてデフォルメした上で、端的に書いてあります。

 ネタ元になった本は、伝記物とは思えない熱さと感動の詰まった作品なので、興味のある方は、是非手に取ってみて下さい!

 

 さて、次回辺りから、いよいよ都に戻る事が出来そうです。どうぞお楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
 どうも皆様、YTAです。
 今回は、趣味を全開にし過ぎたかも知れず、読者さんに「訳わかんねぇ!!」とお叱りを受けないか、少し不安です……。
 一応、主だったネタ元に関しては、あとがきに書いておきましたが、細かいネタの幾つかは、解る人にだけ解ればいいかな、と思って書いておりません。
「これは!」と思ったら、コメなど頂けると嬉しいです。  それにしても、最後の白蓮、可愛く書けたかなぁ?敬愛する、おちRさんの白蓮の可愛さ目指して頑張ってみたんですが、遠く及ばずな気がする……orz

 何はともあれ、どうぞ!
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コメント
はこざき(仮)さん たまには白蓮さんにもいいところを…と思って書いたのを覚えていますw平山プロデューサーも鬼籍に入られてしまいましたが、改めて本当に色々な物を頂いたなぁ、と一特ヲタとしてしみじみ思う次第です(YTA)
ちゃんとロム兄さんしてる北郷w そして報われた白蓮w あー平山さんそんな事言ってたんだ。なるほど、だから昭和の仮面ライダーは全体的にああいう話になったんですねー(はこざき(仮))
さむさん やりたいですね、合体攻撃!!でも、それにはもう一度、一刀に仮面を付けてもらわないと……。でも、それをやっちゃうと、もう星が逃がしてくれない気がしますwww(YTA)
色々笑かしてもらいましたw ところで、そのうち一刀と白蓮のコンビで「重ねカマイタチ!」とかやるんですよね?(さむ)
きたさん ヒーローとはかく在れかし、と言うのは、現実でも創作でも、実は大差ない様な気がします。ヒロインを可愛く書けていたと言って貰えるのは、本当に嬉しいです!ストーリーが中弛みしてしまうのでカットしましたが、白蓮とのにゃんにゃんシーンは、もっと書きたかったなぁ……。(YTA)
ヒーローの定義!?ナイス  そうですよね庶民の思いを体現してくれる、これが大事でしょうね。でもって、カワイイよ白蓮www(きたさん)
おちRさん おぉ、KING OF 白蓮テラーのおちRさんに白蓮を褒めてもらえるとは……感激です!あの作品は本当に熱くて、素晴らしいですよね!村枝先生の台詞は凄く印象に残る物ばかりですし、構図とかも、普通に鳥肌が立ちます……。あぁ、コメント欄では語り尽くせませんwww(YTA)
西湘カモメさん 笑って頂けて本当に良かったです!やっぱり、やる側が本気で、思いっ切り真剣に楽しまないと、見てる方も萎えちゃいますしねwww隠れネタ発見、おめでとうございます!出典に関しては仰る通りなのですが、一応マシンロボのパロディなので、私の妄想の中で勝手に、速水奨さんに上書きしましたwwwてやんでぇ、プラモ買ってたなぁ(遠い目)……。(YTA)
ヒーローは男の夢!! 確か「仮面ライダーを作った男たち」は「絵心のない自分でも仮面ライダーは描ける」「足りないんだよね異形が」「それは主役の面だぞ!」というセリフが凄く印象に残ってますね。 可愛い白蓮ありがとうございます!(おちR)
いやー、スゲー笑った笑った。一刀のノっている姿を見て、英雄に憧れる一人の漢だなと思いました。一刀が技を繰り出す時の「説明しよう」は、キャッ党忍伝てやんでぇの堀内賢雄さんのナレーションから採ったのですか?(西湘カモメ)
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