少女の航跡 第2章「到来」 23節「罠」 |
「さて…、どうやって潜入? するのさ」
最も見晴らしの良い位置に立ったルージェラが、この《アガメムノン》なる施設に潜入しようと
している数人の者達に尋ねた。
「北側にも入り口がある…。そこは警備が手薄で、おそらく数人程度だったら、潜入しようとして
もバレないだろう…。ディオクレアヌがいるのは、中央の塔の上層階だ…」
と言い、山陰からロベルトが指差したのは、周囲の山々に囲まれた中の、一層高い山と、そ
の上部から聳え立つ塔だった。
その塔は、まるで塔自体も山の一部であるかのような趣をしている。一部が山自体と融合さ
えしていたのだ。
「そこまで行って、奴を捕らえるか、息の根を止めれば良いのね?」
と、ルージェラがロベルトやカテリーナに念を押した。
だが、ロベルトは、
「まあ、そうだが…」
「ディオクレアヌの背後にいる奴らも一緒に排除しなきゃあ、根本的な解決にはならない。あん
たはそう言いたいのか?」
カテリーナがロベルトに尋ねた。
「まあ、そういう事になるがな…」
曖昧な口調で答えるロベルトは、もっと何かを言いたい様子だったが、彼はそれをはぐらかし
た。
「我々が『ベスティア』を出た事は、奴らにすでに筒抜けだろう。ここを目的地としている事も、革
命軍には知られている。潜入するのだったら、気をつけるのだな…」
「待て。あんたも一緒に連れて行く。悪いがな?」
カテリーナはロベルトを引き止めた。
「もちろんだ。分かっている。私でなければ、奴らの出方も分からないからな…」
と言ったロベルトの言葉には、言葉以上にもっと裏があるような気配だった。
私達は、ごく少人数で行動する事になった。目的は、この敵地の調査であり、同時にディオク
レアヌを捕えるか、又は、息の根を止めてしまうか、だった。
普通ならば、カテリーナやルージェラのような騎士の将校は陣に残って、偵察だけ送らせるも
のだが、ディオクレアヌは、どのような秘策を秘めているか分からない。更に、彼の背後にいる
者達の事もある。
カテリーナは確実に事を進めたいようだ。
だったら、部下を捨て駒のようにしてしまい、大した成果も上げられない…、のではなく、自ら
が赴くほうが、適切だと考えたのだろう。
カテリーナは案内役としてロベルトを連れ、さらに、ディオクレアヌに執行する為に、教皇代理
のフレアー。そして、奇襲攻撃が得意なルージェラ。更にナジェーニカと私を連れ、《アガメムノ
ン》へと潜入しようとしていた。
残りの騎士達は、幾つかの部隊に分かれて、各方に散らばっている。カテリーナは動きがあ
るまで、決して敵と交戦しないようにと命じたが、カテリーナの合図一つで騎士達は《アガメムノ
ン》を襲撃する事もできる状態になっていた。
私達は、北側の裏口から《アガメムノン》へと潜入しようとする。
そこは、中央の砦へと続く、大きな橋が始まっている所で、頑丈そうな門が取り付けられてい
た。
下を見下ろせば、その底が見えず、頭がくらくらして来そうな峡谷を跨ぎ、その橋は砦同士を
結んでいる。一体、どのようにしてこんな峡谷に橋をかけたのかさえ分からないほどだ。
裏口の突破には、私がそんな事の結論を出す時間よりも、圧倒的に早く終わっていた。
裏口を警備していたのはゴブリン達だったが、背後からルージェラとカテリーナが彼らを襲撃
し、裏口の門を、人一人が通れるほどだけ開ける事に成功した。落とし格子の門が、遠くから
見ても、閉まっている時と判別できないほどだけ開き、地面との間にできた隙間を、私達は一
人ずつ通り抜けた。
「見通しが利きすぎているよ。このまま橋の上を歩いて行ったらバレると思うけど…?」
ロベルトの顔を伺い、ルージェラが尋ねた。
私達の前に現れた橋は、100メートル以上の高さを渡された橋で、その長さは500メートル
ほど。ずっと、山々の中央に築き上げられている砦へと伸びている。
他にも同じようにかけられている橋は幾つかあったが、障害物も無い、ただの橋だったので、
周囲の山々からの見通しが、とにかく良かった。
このまま歩いて行ったら、すぐにどこからか敵に発見されてしまうだろう。
だが、ロベルトは、ゆっくりとその歩を進ませ始めた。
「この下に、作業用の通路がある。今は使われていないが、目立たずに移動できるだろう…」
そう言って、ロベルトは、潜入してきた城門の隅にある扉から階段を降りて行った。どうやら、
橋の内部へと通じているらしい。
人一人がやっと通れるほどの狭い通路だったが、ちょうど橋の下を通る形になっている通路
で、誰にも気づかれないで移動する事ができそうだった。
しかし、橋の内部を通しているこの通路は、非常に圧迫感があり、ほとんど手も広げられない
程の狭さだ。
石造りの中で押し潰されてしまいそうな気分になりそうだった。それが延々何百メートルも先
へと通路を延ばしている。
「ねえ、あんた、ちょっと…!」
とりあえずロベルトを先頭に行かせているルージェラが言った。
「どうした?」
背後も振り返らずにロベルトが答える。
「何で、こんな所に通路があるなんて、あなた知っているのよ! 遠くから監視しただけだって
言っていたでしょう? しかも何だっけ? あのカイロスとかいう男が探ったってだけで、あんた
はここに来たのは始めてなんでしょう?」
疑いも露わにルージェラが言った。
「潜入方法は、彼から教わった。この通路を使って、この橋を建設しているとも話を聞いていた
のでな…」
ロベルトはあくまで自然な口調で話していたが、ルージェラはと言うと、疑いの目でロベルトを
見ることは変わらなかった。
通路は狭く、とても細長かった。遠くからこの橋を見ていた時は、おおよそ500メートルくらい
に見えていた橋だが、内部を歩いてみると、その長さは数キロにも及んでいるように感じられ
た。
長く、狭い道に、耐えられないほどの圧迫感を感じ始めた頃、やがて直線の通路は終わり、
私達の目の前に現れた狭い階段。そこを上ると、これまた細長い扉があった。
「ここから先は、おそらく、敵の本拠地の中枢だ…。覚悟はできているな?」
ロベルトは皆に確認を取る。扉は鉄製で鍵がかかっているようだったが、彼は何かを懐から
取り出し、それを使って扉の鍵を外してしまった。
彼が使ったのは鍵ではなく、小さな工具のようだった。
扉は最近取り付けられたものらしく、頑丈そうではあったものの、ロベルトの手にかかり、簡
単に開いた。そこから先には、非常に広い空間が広がっていた。
そこに広がっていたのは、宮殿の内部だった。
そう、今までごつごつとした無機質な、洞穴のような通路を歩いてきていたのに、突然、私達
は宮殿のような場所に出ていたのだ。
私は自分の目を疑った。自分達は、人の住まないような辺境の土地にやってきて、切り立っ
た山の上に築かれた、敵地に乗り込んできたはずだったのだ。
なのに、今は、まるでどこかの王宮の中にいるようだった。
床も壁も、豪華な装飾が施され、金も入っているようだ。所々に、見るからに高価そうな置物
も置かれている、そして、鏡のように反射する床を持った広い通路。それが私達がやって来た
場所だった。
何日も山の中を歩いてきて、薄汚れている姿では、鏡のような床を歩くのさえ申し訳なく感じ
られる。そんな場所。
「これって…、ディオクレアヌの奴が、そこら中から略奪してきた品って訳じゃあないよね…?」
ルージェラが周囲を見回して言った。
「そうじゃあないな…。ちゃんと統一感がある…。しかも、何だ? 豪華ではあるが、あまり見な
い建築様式だな…?」
天井を見上げ、カテリーナが呟いた。
「これって、古代パルンテノ文明の建築様式じゃあない? あたし、本で読んだ事あるもん」
フレアーが一人、広い通路に飛び出して行って言った。
「古代…?」
フレアーの言う文明の事は、私も何かの本で読んだ事があった。しかしそれは、百年前の戦
国時代よりもずっと昔、2000年か、3000年は前に栄えていた文明の事だ。
「まあいいさ…、ディオクレアヌにどんな趣味があるのかは知った事じゃあないが…、この本拠
地を見る限り、確かに奴を、ただのならず者集団の長とは見ない方がいいようだ…」
カテリーナが、ちらりとロベルトの方を見て言った。
「とにかく、こんな所にいたら、すぐにバレちゃうから、さっさと行った方がいいね」
と言うルージェラの言葉で、私達は行動を開始した。
まるで宮殿のような趣の建物ではあったが、所々に、革命軍の兵士、つまりゴブリンの兵が
警戒に当たっていて、彼らの姿はあまりに建物とは不釣合いだった。
ゴブリンは粗野な種族であるし、本来は原始的な生活を営んでいるのだから、清潔さや高潔
さなどとは無縁な種族であるはずだ。
しかしそんな彼らを警備に当たらせても、この宮殿のような趣のディオクレアヌの本拠地は清
潔さと豪華さを守っていられる。あまりに奇妙だった。
「ディオクレアヌの奴が、本当にここにいると思う?」
ゴブリン達の目を避け、私達はディオクレアヌを捜索していた。ゴブリン達は注意力も弱いの
で、国の城などに潜入するよりも、随分と楽なものだったのだが。
私達は警備の目を避けて移動し、必然的なのか、偶然なのか、建物の上層階へと導かれて
いるようだった。
「こんな方に来て、あいつが本当にいると思うの?」
豪華な装飾の階段を上りながら、その手すりに施された装飾を観察しつつ、フレアーが尋ね
た。
「さあな…、向こうから出てくるとは思えないし…」
と、カテリーナが答える。
「もしかしたら、我々は罠にはまろうとしているのかもしれんな…」
そう呟いたロベルトの言葉で、私はかなりどきりとした。
「わ…、罠…?」
「敵の本拠地だというのに、ろくな警備もしかれていない。だが、そんな警備も避けて動こうとす
れば、いつの間にか上の階へと登らされている…」
罠というわりには、ロベルトの口調は冷静そのものだ。
「あんたが…、私達をハメようとしているのか?」
最も先頭を行くカテリーナがロベルトに尋ねる。
「何の事だ?」
「これがもし罠だとしたら、私達は、あんたに案内をさせて動いている。つまり、あんたが私達を
罠にはめようとしているのか?」
カテリーナはロベルトをじっと見つめ、尋ねた。
「まさか…、な…」
と、ロベルトは答えたが、私達の中で、すでに彼への疑念は深まっていた。私は、ロベルトさ
んが私達を罠にはめようなんて、考えたくなかったのだけれども。
「ねえ! そうなの! どうなの!」
斧を振りかざし、ルージェラがロベルトに詰め寄った。
しかしロベルトは、
「罠にはめるのだったら、こんな回りくどい手は使わん…」
「でも、変な真似をしたら、あんたをただじゃあ済まさないからね!」
ルージェラはロベルトに凄むと共に念を押すのだった。
ディオクレアヌの本拠地内の警備の目を避けながら移動する私達は、いつしか長い螺旋階
段を上へと登っていた。
カテリーナ達が警戒するように、確かに私達は、何者かに誘導されて上層部へと向っている
ようである。
どこまで行っても、ここが辺境の大地の切り立った山の中だという事を忘れてしまいそうな造
りなのは変わらなかった。
だがやがて、ルージェラが、その明らかに人のものとは異なる耳で、何かを聞き取ったようだ
った。
彼女は夜目も聞くばかりか、聴覚もかなり鋭いらしかった。
「この声…、どこかで聞いた事があるような…? 上の階から聞えて来る…」
彼女は螺旋階段の上を見つめ、そう言っていた。
階段を上りきった先には、これまた豪華な造りの通路が延びていた。下の階よりも開けた通
路で、どことなく広い作りだった。
通路の先はどこかに延びているのだろうか。切り立った岩山の中とは思えないほど、広い造
りになっている。
「ねえ! この扉の向こう! 誰かいるよ!」
既にルージェラは、通路の一つの扉へと耳を当て、その先から何かを聞き取っていた。
私達も彼女に続き、扉へと聞き耳を立てる。
扉の向こう側から声が聞えて来た。
「ふざけるなッ! 『フェティーネ騎士団』がこの地に向っているだと! それを、何もせずに、た
だ黙って待っていろというのか!」
冷静さを欠いた、男の大声。以前聴いた声とは大分異なるが、間違いない。それはディオク
レアヌの声だった。
父を、母を、そして故郷をも私から奪い去った、あの男―。
「勘違いするな…。彼女らは客人だ。敵意を持つ事などない…」
別の男の声が聞えて来る。この男も声を聴いた事があった。どこでだったか。
「客人だと! 奴らは、このおれの首を取りに来ようとしているのだぞ! こんなゴブリン無勢に
一体、何ができる!」
再びディオクレアヌの声。
「小娘1人が率いている軍団に、一体、何ができるのだ?」
冷静、というよりも優美な男の声が返ってくる。
「だが、その小娘は、貴様らの『リヴァイアサン』を打ち倒した小娘だぞ、人間などではない、化
け物だ!」
その言葉に、カテリーナが少し鼻を鳴らした。
「わが主の命令だ。貴様と我々、そして、あの娘が揃って、初めて我々の計画は遂行される。
それを忘れるな…」
「何だと…??」
ディオクレアヌが、面食らったかのように男に言った。
そこで少しの間が空いた。ディオクレアヌも、男の方も喋ろうとはせず、特に物音も聞えない。
先に口を開いたのは、聞き覚えのある男の方だった。
「ああ、あとついでに言うならば、その時は、どうやらたった今、満ちたようだな」
「はあ?」
男の声に、ディオクレアヌが反応した時だった。
突然、私達が聞き耳を立てていた扉が開かれ、私達はほとんど前に転ぶような形で投げ出さ
れた。
「しまっ…、」
ルージェラが何かを言うような間もなく、私達は扉の先の部屋へと入り込んでしまう。
「これはこれは、ようこそ」
聞いた事がある男の声。顔を上げて誰かを見るならば、そこにいるのは、『リキテインブル
グ』の斜陽の館で、私達にガーゴイルをけしかけてきた、あのハデスとかいう男ではないか。
「な、何…、こ、こんな所にまで…、貴様ら…!」
ディオクレアヌは半ばうろたえながら、転ぶ事の無かったカテリーナに言った。彼女は堂々と
室内へと入って来る。
「こんな山奥に、金をかけた建築物を建てて、こんな所にまで…、か…。建てるのならば、もっと
秘密基地らしいものにするんだったな?」
ディオクレアヌとハデスという男がいた広間を見渡しながら、カテリーナは言った。確かに彼
女の言うとおり、この広間の床はぴかぴかに磨かれており、壁や柱、天井にも必要以上の装
飾がなされていた。まるで、見てくれと言わんばかりに。
「どうやら、役者は揃ったようだ…。そろそろ…、我々も動き出す時が来たようだよ…」
とハデスはカテリーナに言ったが、彼女はそれを無視し、ディオクレアヌの方へと剣の刃を向
けた。
「衛兵はいないのか? だったら、お前を連れて行くか、この場で斬り捨てるぞ。覚悟はいい
な? ディオクレアヌ…」
「ええい! こんな所で掴まってたまるか…! 何とかしろ! ここでおれ達が捕まったら、計画
も何もぶち壊しだろう?」
明らかにうろたえた様子を見せ、ディオクレアヌはハデスに頼る。
だがハデスは、その顔に翳りを見せ、低くした声でディオクレアヌに言い放った。
「勘違いするな。我々が必要なのは、そこにいるカテリーナ・フォルトゥーナであって貴様ではな
い…、お前などただの駒だ」
そのハデスの言葉に、ディオクレアヌは、更にうろたえた。
「な…、何だと…」
そんな様子のディオクレアヌの方など無視し、ハデスは私達の方、特にカテリーナの方へとそ
の目を向けてくる。
「カテリーナ・フォルトゥーナよ。お前は自分の使命に気付いていないようだが…、我々に協力
してもらいたい…」
ハデスの言う言葉は、私にはさっぱりだった。カテリーナは理解しているのだろうか。
だが、彼女はと言うと、ハデスの方へと刃を向けるだけだった。
「だから、お前達の言っている事は、何の事だか、さっぱりと分からない」
カテリーナは声を大きくしてハデスに言い放った。
だが、ハデスの方はと言うと、依然として余裕のあるような表情を絶やさない。ディオクレアヌ
よりも遥かに落ち着いた表情をしていた。
「ええい! 貴様、裏切ったな!」
カテリーナとハデスの間に割り入り、ディオクレアヌが声を上げる。だが彼のその声を聴きつ
けたルージェラの声が、更に広間に響いた。
「そこにいる男を渡してもらうよ!」
ルージェラが斧を振りかざし、ディオクレアヌに詰め寄る。この広間には、どうやらハデスとい
う男とディオクレアヌしかいないようだった。
だから、ディオクレアヌを確保しようとするならば、今が絶好のチャンスだった。
さらに言うならば、ハデスという男も同時に確保できそうだった。そうなれば、ディオクレアヌの
背後にいる者の一人を手中に収める事ができそうだ。
「好きにするがいい。私の領分では無いのでな」
まるで、もうディオクレアヌの事になど、何の関心も無いかのようにハデスは言い放った。
「ふ、ふざけるな! 貴様!」
ディオクレアヌはそう叫んだが、すぐさまルージェラによって取り押さえられてしまうのだった。
「大人しくしていなッ! 言っておくけどね! 生かして連れて来いなんて誰にも言われていない
んだからね!」
ルージェラがディオクレアヌに向って言い放つ。斧の刃を首筋に向けられ、後ろから取り押さ
えると、彼も少しは大人しくなった。
「さあ、次はお前だ」
カテリーナがハデスに向って言い放つ。
だが、ハデスはその場から動こうとせず、ただ変わらぬ表情で言うだけだった。
「私達は、お前に夢として使命を思い出させたはずだ」
「何の事を言っているんだ? お前達の話はいつも曖昧過ぎて何も理解できない」
と、カテリーナは言うのだったが、そこにルージェラが割り入った。
「夢って、何よ、カテリーナ!」
そう言った彼女の力が強まったせいか、ディオクレアヌの首が余計に絞まって彼はうめいた。
「ルージェラ、あんた達は、ディオクレアヌを連れて、先に行け! 私もすぐに後を追う!」
「えッ? 何言ってんの!」
ルージェラが叫ぶ。しかしカテリーナは、
「私はこいつと話がある!」
カテリーナの目は、はっきりとハデスの方へと向いていた。剣の刃も、しっかりと彼の方へと
向けられている。
ルージェラはためらった。カテリーナを一人で、こんな所に置いて行けるものかと思っている
のだろう。
「いいから行け! 追っ手が来ないうちにな!」
カテリーナが声を凄めてルージェラに言い放つ。すると、彼女はそれを認めた。
「わ、分かった…。すぐ来てよ!」
「無駄なあがきだ…。ここは我が軍の中枢なのだぞ…、そう簡単にこの私を連れて逃げ出せる
と思うか…!」
ディオクレアヌが、密かにルージェラへと囁いた。
「うるさいわね…! あんたはこのあたしと一緒に付いてくるだけ!」
そう言い、ディオクレアヌの首を絞めた。
呻く彼を持ち前の力で広間から引っ張り出すルージェラ。彼女にほとんどくっ付くかのようにし
て、フレアーとシルアも続いた。
そして、ロベルトも広間から脱出しようとしてしまうと、私はカテリーナとルージェラ達、どちら
について行くべきか迷う。
しかし、ロベルトに続いて、私も広間を脱しようとした時、まるで誰かに操られているかのよう
に私の目の前で広間の扉が閉まるのだった。
それは重い音を立てて閉まり、とても私の力なのでは開く事ができなさそうだった。
私の背後から声が聞えて来る。
「逃がさんぞ、カテリーナ・フォルトゥーナ…。我々にはお前が必要だ。救世主としてのな…」
「何だと…? どういう事だ?」
カテリーナは、男の方へと剣を構えたまま聞こうとする。
しかし、男は、うっすらと笑みを浮かべるだけだった。
だが、私にもこの男の意図が少しばかり分かった気がした。
この男は、カテリーナを罠にはめたのだ。ディオクレアヌのことなど、もはや気にもかけていな
い。
このハデスと言う男は、カテリーナを捕らえたいが為、わざと私達をこの地へと、そしてこの広
間へと誘導したのだ。
それが、一体どのような目的を持っているのか、それは理解できなかったが。
次へ
24.共闘
説明 | ||
敵地、アガメムノンへとやってきた一向。しかしながら、そこには罠が待ち受けているのでした。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
369 | 336 | 1 |
タグ | ||
オリジナル 少女の航跡 ファンタジー | ||
エックスPさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |