幼馴染の魔王さま1
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「魔王、覚悟ッ!」

 

 

突然の大声に振り向いた瞬間――。

 

――頭に硬いものが打ち付けられ、世界に暗幕が引かれた。

 

 

 

 

 

再び明るさを取り戻した世界は先ほどとは違っていた。

 

先ほどは明るい廊下だったはずが今は薄暗い教室内に、時間も大分経っているようだ。

 

そして目の前には女の子が一人、どうやら椅子にもたれ掛かっていた寝ているようだ。

 

学園指定のブレザーを着ているから生徒の一人で間違いないだろうが、何故寝ているのだろうか。

 

とりあえず起こしてやろうかと立ち上がろうとする――したのだが。

 

 

「おいぃぃぃぃ!?!?!?」

 

 

派手な音を立てて地面に倒れこんでしまう。訳が分からず身体を起こそうとして気付く。

 

俺の身体は何故か椅子にぐるぐる巻きにされていた。その状態で立ち上がろうとしたせいで、

 

バランスを崩し倒れてしまったようだ。

 

身体はしっかりと縛られており、まともに動かせるのは首ぐらいのものだった。

 

仕方が無いので辺りの状況を確かめようと視線を動かすが、

 

彼女の方を向いたときに自分が絶望的な状態に陥っていることが分かった。

 

俺の視点は先ほどよりも低くなってしまっている、つまりこの状態からだと『見えて』しまう!

 

この状況で彼女が目覚めて俺を認識した瞬間、俺の社会的な死が決定してしまうのだ。

 

なんとか彼女の目が覚める前にこの状態から逃れなくては――。

 

だがそんな俺の思いを踏みにじるかのように、彼女はむずがるような声を出しながらゆっくりと覚醒する。

 

どうやら先ほどの騒音で彼女を起こすのは十分だったらしい。

 

そして眠りを妨害した現況を探すように、彼女は周囲をじっくりと観察していく。

 

窓、ドア、地面に這いずっている状態の俺、自分の身体、そして再び俺。

 

すこし悩んだようだがようやく状況を把握したらしい。オーケィ此方も準備は万端だ。

 

 

「な――」

「誤解だぁぁぁあああああ!!」

 

 

彼女が叫ぶよりも先に、とりあえず世界の無常さを叫んでおいた。

 

 

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俺に逆に叫ばれたことで、しばらく戸惑っていた彼女だが、

 

冷静になったらしく深呼吸をして俺のほうに向き直ると、

 

彼女はビシッと効果音が付きそうな感じで俺を指差して告げた。

 

 

「あなた、魔王ね!」

 

「・・・・・・いや、違うけど」

 

 

時が止まった。

 

 

「・・・あなた、魔王よね?」

 

 

再び同じ質問だったが、今度は若干戸惑っているようだった。

 

 

「違うって」

 

 

俺の回答におそらく先ほどの襲撃者(?)は慌てたようで数歩下がると俺に背を向けた。

 

 

「どういうこと?違うって言ってるわよ?」

「――まぁ慌てるな、その男が嘘を付いている可能性もある」

「嘘?」

「――そりゃそうだろう、逆に自分から魔王ですって言うような奴はむしろ怪しい」

「なるほど、ということはコイツはやっぱり魔王なのね!」

 

 

彼女は背を向ける前とは打って変わって自信満々の顔で振り向く。

 

誰かと会話していたようだが、殆ど聞き取れなかった。

 

 

「隠したって無駄よ!自分から魔王って自白しない時点であなたが魔王である事は明白!」

 

「なんだその理由!魔王大量発生じゃねぇか!」

 

「はぁ?魔王が大量発生なんかする訳ないじゃない。あなたバカなの?」

 

「お、おまえッ、自分で言ったことッ!」

 

 

彼女は小さな子供に優しく諭すように、笑いかけてきた。

 

 

「ほら、何もしないから言ってごらん?あなたが魔王でしょ?」

 

「何度聞かれても違う!」

 

 

人を縛り上げておいて何もしないと言う奴を信じるほど、俺は人間が出来てはいない。

 

どうやら自白してもしなくても魔王の疑いは晴れないらしい。頭が痛くなってきた。

 

だが、彼女も自分の満足する回答では無かったことが不満だったらしい。

 

笑顔は消え去り明らかに不機嫌そうな顔だ。子供がみたら泣きそうだな。

 

 

「あーもう!あたしの目を見なさい!嘘付いてたらすぐ分かるんだからね!」

 

 

彼女はしゃがみ込み顔を近づけてくる。近くで見ると整った顔立ちだ。

 

人気投票とかなら間違いなく優勝を狙えるだろう。

 

俺も票を入れてたかもしれない、もっとも襲撃された今では絶対に入れないが。

 

大きな瞳が俺をジッと見つめてくる、彼女の瞳の中の俺の姿が徐々に大きくなって――

 

 

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「あー!目を逸らしたー!やっぱり嘘付いてるんじゃないの?」

 

「ち、ちがっ!ていうか今のは誰でも目を逸らすって」

 

 

彼女の時が止まる。

 

開き直った奴なら目を逸らさないのかもしれないが、

 

生憎俺にはあれ以上目を合わせ続けることは出来ない。

 

 

「え、そういうものなの?」

 

「――まぁそうだな、逆に目を逸らさないほうが魔王らしい」

 

 

彼女の言葉に答えるように、彼女の腰の辺りから声が返ってきた。

 

声がした方へ目をやると、スカートに括り付けられるようにして、木刀(?)がぶら下がっていた。

 

この木刀で俺の意識を刈り取ったのだろうか。

 

 

「じゃあ、この人は魔王じゃないの?」

 

「――かもしれないな、ついでに言うとコイツから大して魔力を感じない、並以下だな」

 

 

彼女は木刀の言葉を聞くとがっくりと項垂れる。

 

この木刀、相当失礼な事を言っているが、どうやら俺が魔王ではないと結論になりそうだ。

 

良いぞ木刀!もっと言ってやれ木刀!

 

 

「――第一捕まった状態で何の抵抗も出来ないクズが魔王というのは考えづらい」

 

 

よし、あとでへし折ろう。

 

 

「ハァ・・・まぁそう簡単には見つからないわよね、結局彼は魔王じゃないって事で良いかな」

 

「――そうだな、じきに鍛錬の時間だ。遅れれば師匠殿から罰があるかもしれんしな」

 

「うわ!急いで帰れば間に合うよね!」

 

 

俺が魔王ではなかったことに落胆した様子の彼女だったが、

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

ドアを開けたところで、何かを思い出したように俺のところまで引き返してきた。

 

そして俺に向かって突然頭を下げた。

 

 

「今日はゴメンね。ムラマサがあなたが魔王じゃないか?って言ってたから確かめたくて」

 

「――私はコイツが魔王に似てる気がすると言っただけだ。」

 

 

この喋る木刀はムラマサというらしい。あれ?、俺は木刀が『魔王っぽい』って言ったから狙われて、

 

木刀が『魔王っぽくない』って言ったから疑いが晴れたのか。木刀め、燃やされたいのか。

 

 

「じゃ!あたし鍛錬の時間だから!またねー、ばいばーい。」

 

 

彼女は左手をさっと上げて挨拶すると、あっという間に去っていった。

 

空き教室内には俺一人。

 

なんだったろう彼女は。突然現れ、俺を魔王と呼び、喋る木刀を携えた彼女は。

 

そういえば、名前も聞けなかったな。

 

――っとそんなことよりも。

 

 

 

 

空き教室には『床に転がされたままの』俺一人。

 

 

「違うだろッ!おい、待て!俺の縄を解いてくれぇぇぇ!」

 

 

その後俺は見回りにきた守衛のおじさんに見つけられるまでの間、そのままの体制で放置され続けた。

 

 

説明
どうも、海月です。よろしくお願いします。


この物語は魔王とか勇者とか出てきます。
フィクション系だと思います。

第一話:勇者現る
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