真・恋姫無双「新たなる地と血」第10話
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統制された兵が列を作り唯ひたすら進んで行く。

賊の討伐を終え兵達は自分達が住んでいる都へ帰ろうとしているのある。

その中の一人の少女は他の者とは違う雰囲気を醸し出していた。少女の名は曹孟徳この軍の最高権力者。

先日義勇軍を率い黄巾党から街を防衛していた楽進、李典、于禁を新たに加えこれからの事を思案していた。

 

だが行軍の僅かばかり先で騒がしくなっていた、新たに賊が発見されたのかと思い思考をめぐらせていると兵達が胸に子供を抱いた男を連れて来た。

「その男がどうかしたの?」

男と兵を見ながら問いただす。

「は。我が軍の進行を妨げていたのでお連れしました。」

兵が答える。

少女はその男を見ると

「我が軍の邪魔をするとはいい度胸ね?」

少女は冷ややかな目で男を見下ろし聞いた。

「君がこの軍の責任者か?」

「貴様あ!華琳様に向かって無礼だぞ!」

そばに居た黒く髪の長い女が怒り出したが男はそんなことも気にせず続ける。

「頼む、行かせてくれ!子供が熱を出して苦しんでいるんだ。この子を医者に見せに行かせてくれ!

 この子を医者に見せた後で幾らでも罰は受けよう。だから一刻も早く町へ行かせてくれ。」

男は少女を正面から見据え嘆願する。

「・・・。あなたにとってその子は何?」

男は迷うことなく答える。

「この子は俺にとっての生きがい。亡き妻との絆と言っても良い。

 この子を失ってしまったら俺は何を見ればいいのかわからくなる。

 そしてこの子を死なせてしまったら亡き妻に会わせる顔が無い。」

男の目は少女の目から逸らすことなく力強く答える。

「そう。行ってもいいわ。」少女は男の答えに満足すると行くよう促した。

「すまない、恩に着る!」

「でも待ちなさい。あなたの乗っている馬は大分疲弊して街まで辿り着かないわよ。」

確かに男の乗ってきた馬はかなり無理をして走ってきたため大分疲弊してきている。

だからと行って行かないわけにはいかなかった。

だが少女の次に行った言葉は意外なものだった。

「だから私のこの馬を使いなさい。」

「「「華琳様!?」」」

少女の部下達は皆一様に驚いた。

「・・・いいのか?」

「私がいいと行ってるんだから構わないわよ、それより早くその子を医者に見せないといけないのでしょう?さっさと行きなさい。」

「重ねて礼を言おう。ありがとう。」

少女は自分の愛馬を降り愛馬に頼んだわよと馬体を叩くと馬は任せろといわんばかりに鼻息を荒く吐いた。

そして手綱を男に渡そうと手を触れた一瞬、手が止まったが男は気にせずそれを受け取り馬に跨ると少女に

「後で返す。君の名前は?」

「陳瑠の曹操よ。」

「…わかった、後で君の馬を届ける。」

男はそう言うと街へ馬を走らせた。

一連のやり取りを黙って見ていた、部下達は

「華琳様、なぜあんなやつを行かせたのです!?それどころか絶影まで貸すなどと!」

「あの男は親としての責を果たそうとしているのよ、それをここで男を殺せばその子は路頭に迷ってしまうわ。

 そうすれば民達の心は離れてしまう、そして逆に人心掌握にはいい話じゃない。」

「流石は華琳様!見事な考えです。」

黒く長い髪の女は主の見事な考えにひたすら賞賛していた。

だが、青い髪の女性と猫耳付きの頭巾を被った女性はどこかしら納得していなかった。

なにかがおかしいと。

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一方馬を借り街へ向かっているのは一刀であった。

(やはり華琳か、こんなところで会うとはな。)

最初出会ったとき懐かしく真名を呼びそうになったが『この世界の別の華琳』だということを思い出し慌てて止めた。事実、会ってから何の反応も無いのだから。

彼女も以前の世界の最終決戦後どうなったのかわからない。

別の外史でながら再会を嬉しいと思う反面自分の事を覚えていない寂しさがあった。

しかしそんな思考も直ぐに我が子一樹に向いて行く。

(しかし一樹の異変に気が付かないなんて、父親失格だな。今はあいつも居ないのに…)

一刀の子一樹は父親に似て頑固で自分からは決して弱音を吐かない子であったた為、前から無理をして倒れることもしばしばあった。

その辺り泉は良く見抜いており一刀や一樹が倒れる手前で良く歯止めを掛けていた。まったく良く出来た妻だった。

まもなく街に着き医者に何とか診て貰う事が出来た。医者曰くもう少し遅ければ手遅れになっていたとのことで一刀は安堵した。

(華琳に感謝しなきゃな。)

一先ず医者に一樹を預け絶影を返しに行く事にした。

門番のところまで来てから自分の事がちゃんと伝わっているのか不安に駆られたが話が通っていたらしく城内へと通された。

(流石は華琳だな、抜け目が無いな。)

そう言う大事なところはきちんとしている華琳はこの世界でも変わっていないなと感心する。

謁見の間へ通され、しばらく待っていると華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣そして知らない少女が数名やってきた。

「良く来たわね。その後子供の具合はどお?」

曹操は椅子に座ると訪ねてきた。

「この度は真に有難う御座います。曹操様のおかげで無事街へ辿り着き医者へ見せる事が出来ました。

 息子のほうも幾許か遅れていましたら取り返しの付かない事になっていました。重ねて礼を申し上げます。」

一刀は頭を下げ感謝の意を表す。

「そして私は曹操様の行軍の邪魔をした為罰を受けに参りました。

 幾ら緊急時とは言え、行軍の邪魔をした罰は償わなければなりません。

 其の為に本日は此処へ参りました。」

これを見ていた他の者達は当然華琳が罰を与えると思っていた。

「いいわよ、気にしなくても。あなたは親の責を果たそうとしただけだもの。」

だが華琳から発せられた言葉は意外なものだった。

今回の一件、先日其の現場に居なかった者は一応何があったか聞いていたが、

一刀自身も幾らなんでも何も無いということ無いだろうと思っており処罰があるものだろうと覚悟はしていた。

全員困惑の表情を浮かべている中、さらに曹操はとんでもない事を聞いてきた。

「久しぶりね一刀、今まで何処で何をしていたの?そしてあの子の母親は誰?」

『え?!』

全員が驚く、それはそうだろうあなたの事を知っているといわんばばかりに喋り出したのだから。

「あの曹「華琳よ、あなたには私の真名を以前に預けていたはずだけれど?」…華琳以前の事を覚えているのかい?」

「覚えているというより思い出したというべきでしょうね。あなたに馬を渡そうとした時に全てをね。」

「そうか、また華琳と会えて嬉しいよ。」

一刀は華琳に会えた事を素直に喜ぶ。

積もる話もあるだろうが華琳は置いて来た子供の事を考え今日は一旦一刀を子供の元へ帰らせ、元気になれば訪ねるように言う。

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それから十日ほど経ち一樹もすっかり元気になり再び華琳の元へ一樹を連れ挨拶へ訪れた。

そこで一刀は今までの経緯を華琳達に語った。

あの後の最終決戦後一刀は跳ばされ8年ほど前にこの世界に降りてき、そこで出会ったのは司馬懿という女性。

最初に出会ったのが女性ということで、数人から殺気が放たれたが直ぐに気を落ち着け「それで。」と一刀に話の続きを促した。

しばらく一緒に旅をしながら鍛錬をしたこと、そして司馬懿と結ばれ、子供を授かったことを話す。

ここで再び殺気が放たれた。今度はさらに強烈になって…。

だがそんな幸せは突然終わりを告げた。

それは一刀がいつもの様に賊を退治し街へ帰る。そこには泉と一樹が入り口で出迎えてきていた。二人とも手を振り一刀の帰りを喜んでいた。そんな様子に周囲は冷やかしを入れるいつもの風景。

「父上〜!」息子の一樹が父親である一刀に駆け寄って行ったその時、泉は視界の端に草むらから一人の男が弓を構え様としているのが見えた。矢の先にいるのは一刀。

男が狙っている一刀は駆け寄ってきた一樹を抱き上げじゃれあっており気が付いていない。

弓矢が引き絞られそれが放たれ一直線に一刀に向かって行く。一刀の方はやっと気が付いたが時既に遅く一樹を抱いているため避ける事も剣で弾く事も出来ないでいた。

当たると思いせめて一樹だけは、と矢から庇うように背を向けたが衝撃が来ず、

「ぐっ!」聞こえてきたのは誰かの声だった。

泉が一刀達の前に立ち塞がり身を挺して矢を胸に受け二人を守ったのだ。

「泉!?」

「母上!?」

「司馬懿(ちゃん)(さん)!?」

一刀と一樹は勿論、先ほどまで一緒に仕事をしていた人たちもこの光景に驚き叫んだ。

泉の元へ駆け寄り抱き上げて

「泉しっかりしろ!直ぐに医者を…」

泉はそんな一刀に顔を力無く笑い横に振る。一刀もそれを見て悟ってしまった。

「…一樹おいで。母上の手を握ってあげて。」

呼ばれた一樹も徒ならぬ雰囲気を感じて母の手を握り一刀もその手を重ねる。

「かず…き、かず…とさ……」

握られた手が力無く解け落ちてい…

「泉−−−−−−−−−!」

「母上−−−−−−−−−!」

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「そうそんなことがあったのね・・・」

話を聞き終えた華琳はポツリと呟いた。他の者達もどう言っていいか判らず戸惑っていた。

「それで一刀、あなたはこれからどうするつもり?」

華琳はこれからの事を聞いて見た。

「また旅に出るつもりだよ。 今の俺は『天の御遣い』でもない唯の父親だからな、俺に出来る事は子供に見聞を広めることだからね。」

確かに。以前の世界のように管路の予言は今回この大陸では出てきていない。ならば一刀は自分に出来る事は子供の世話である。

「処罰と言うのではないけれど此処で働かない?借りを返すいい機会だと思うけど?」

「な!?華琳様、こんな得体の知れない奴を華琳様の元で働かすなど危険です!!」

華琳の申し出に反対したのは春蘭―夏候惇であった。

「そうだろう?秋蘭、桂花、季衣。」

当然賛同してくれるであろう人物に同意を求めるが3人からでた言葉は意外なものであった。

「私は構わないが。北郷は信用できるからな。」

しれっと秋蘭は男を信用できると言い放つ。

「そうねそいつの事は少なくともそこらへんのやつより信用は出来るから構わないわ。男が華琳様の元で働くのは嫌だけど。」

意外にも桂花は構わないという。

「僕は兄ちゃんがいてくれたら嬉しいな!」

季衣ははしゃぎながら嬉しそうに答える。

秋蘭と季衣はともかくあの男嫌いの桂花までが構わないと言っているのだ、全員が驚いていた。

「わたしはとにかく反対ですから!!」

「なら春蘭どうすれば賛成してくれるの?」

華琳は春蘭が何をいうのかわかっていたが聞いて見た。

「私とあ奴を勝負さしてください。私に勝ったなら認めましょう。」

在る程度予想は出来たとはいえこれを聞いて華琳はどうしようか流石に悩んだ。

一刀は武のほうはいまいちだったのだから、当然春蘭に勝てるわけが無いと思っていた。

だが春蘭は戦う気を見せ断固として一刀を華琳に近づけさすまいとしている。

一方一刀はこれに難色を示してるだろうと返答を聞くと

「いいよ、やろううか。」

あっさりと了承した。これには華琳も驚いた。了承するにしても渋々引き受けると思っていたからであった。

「一刀、大丈夫なの?」

華琳は聞かずにいられなかった。さっきも言ったように華琳の知っている一刀の武は春蘭の足元に及ばないからである。

だが一刀は特に怯むわけでも無く毅然とした態度で了承していた。

「・・・・・・」

一瞬華琳は見惚れていた、一刀の毅然とした態度に。以前の優男と言う印象は無かった。

8年と言う歳月と父親と言うものが彼をそうさせていたのであろうと華琳は思った。

 

説明
暑いです。
第2部開始しま〜す。
今回あの方が登場。
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コメント
readman さん やむなく…(アロンアルファ)
話を進めるには必要な事だったんですね。(readman )
シリウス さん 余り語られてはいませんが一刀はショック大です。(アロンアルファ)
泉死んじゃったのか…まぁ全てを受け入れる一刀にモヤモヤしないだけ良かったのかなぁ?(シリウス)
殴って退場 さん どうなんでしょう?あったらといいな〜ww(アロンアルファ)
はりまえ さん はい次回をお待ちください。(アロンアルファ)
根黒宅 さん、320i さん 惜しい方を(涙(アロンアルファ)
華琳が記憶があったとは・・、蜀や呉はどうだろうか・・(殴って退場)
今後の展開が面白そうですね(黄昏☆ハリマエ)
泉の死に方は何か微妙だけど、まあいいか(根黒宅)
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