桔梗√ 全てを射抜く者達 第7射 |
桔梗√ 全てを射抜く者達 第7射
視点:一刀
今、俺は真桜、沙和、凪の4人で警邏をしている。俺達の町は平穏だ。
同じように慌ただしくないという意味での類義語の静寂とは違う。確かに以前この街は静寂で包まれていた。だが、以前と比べて治安は良くなり、物流も活性化した。だからこの街を包むのは静寂では無く、平穏なのだ。
簡単に言うなら、前はシャッター街で、今は地域活性化した地方と言った感じだ。東京の人口密度と比べたら雲泥の差ではあるが、それなりに賑やかである。そして、それなりに秩序は守られている。故に町は平穏だ。
これもこの町の治安維持の為に皆が頑張ったからだ。
町の人々は愛想良く俺に声を掛けてくれる。俺は一人一人丁寧に返事をする。
凪に真面目に警邏をして下さいと言われたが、警邏は町の人と密接になって町のことを知る必要があるため、町の人との交流が必要だと言ったら、自分の無知を許して下さいと町のど真ん中で土下座をしたので、真桜や沙和、町の皆にはジト目で見られた。そのため、俺は何も悪いことして居ないのに、なんでか凪に謝ってしまう。謝ったら謝ったで凪に天の御遣い様の威厳が無くなるから止めてくれと怒られてしまった。
俺にどないせっちゅうねん。皆さん理不尽でっせ。その後、沙和と真桜に凪を泣かした責任取れと言われ、昼飯を奢らされた。その結果、おかげ様で財布が軽くなった。
ああ、桔梗さんに糒のお礼でかんざしを送ろうと思って持って来たへそくりが消えてしまった。
俺達は警邏をしていると、道の真ん中で目を潤ませて右往左往している幼稚園児のような服装をした女の子を見つけた。見たことのない子だな。たぶん、この町の子じゃないのから、迷子になったんだろうな。
それにしても、少し高価そうな服装をきているな。他国の豪族の子供かな?両親を探してあげないとな。
とりあえず、あの子に声をかけてみよう。俺は女の子の前で屈み、聞いてみる。
「おじょうちゃん、迷子かな?」
「………。」
えぇ?さらに泣きそうになっている。俺何かしたか?いや、何もしていないはずだ。声を掛けただけだよな。
怖い顔していたか?できるだけ、愛想良く、笑顔で声を掛けたつもりなんだがな。
だったら、何でこの子は泣きそうなんだ?おいおい、ちょっと待ってくれ!
でも、女の子は涙を堪え、鼻水をすすりながら、何とか答えてくれた。
「知らない…ヒッ…人と……喋っちゃ…駄目って…グシュ………お母さんが……。」
「……そうか。」
俺はこの場を凪達に任せて、目の前の服屋に行き、手袋を1組買う。
手袋を2重がさねで右手にはめて、外側の1枚目の手袋を捲り上げて、小指と親指が動かせる状態にする。
捲り上げた手袋の裏地に顔を描けば、手袋人形の出来上がりだ。
俺は合コンを想定して学園時代に身に付けた特技の腹話術で女の子に話しかける。
「おいちゃんとなら、話してくれへんかな?お嬢ちゃん。」
「すごーい!お人形さんが喋ってる!」
よっしゃぁ!女の子の機嫌がめっちゃ良くなった!
さきほどまで、泣きかけだったのか、目じりに涙が見えているが、満面の笑みで俺を見てくる。
これで何とか話が出来そうだな。後はあの注意だけすれば問題ない。
ってか、凪達も目を輝かせながら俺を見ている。
「お嬢ちゃん、お母さんとはぐれたん?」
「うん。……迷子。」
「おいちゃんはあのお城の人で警邏中やから、お母さん探してあげようか?」
「本当?」
「ああ、遠くを探せるように肩に乗せてあげるね。」
「ありがとう。お人形さん、おじちゃん!」
おじ…ちゃ…ん?
いやいや!待って下さい。お嬢ちゃん。俺まだそんな呼ばれ方をするような年じゃないですよ。
あのまま進学していたら、俺まだ学生やっているような年齢ですよ。おじちゃんは無いんじゃないのかな?
まあ、子供の戯言だ。真に受けるな!俺!
俺は迷子の女の子に肩車をする。女の子は嬉しいそうだ。
女の子は肩車しているため、俺の口元は見えないので、普通に人形を動かしながら喋りかける。
しかし、何とかなったな。女の子は泣きやんでくれたし、俺の腹話術ではまだ辿り着いていない境地のマ行・バ行・パ行を回避して会話が出来た。あの行は喋るのはかなり難しい。何年も練習しているが、未だに出来ない。
聞いた話だと、あの三行は破裂音による発音だから、口を動かさずに発音するのは困難だという。
こんな中途半端な腹話術でも楽しんでくれたので、腹話術をした本人である俺も嬉しいものだ。
女の子と話していて分かった事なのだが、女の子はやはりこの町の人では無いらしい。母親と一緒にある用事で此処に来たというのだ。そして、用事の前に休憩も兼ねて、昼食を取るために町を回り屋台を探していると人ごみの中で手を繋いでいたはずの母親と逸れてしまい、迷子になったというのだ。
女の子は母親を探したが、背が低い所為で、母親がなかなか見つからなくて泣きそうになっていたという。
逸れた場所を聞き出して、その場所へと向かう。ハキハキと答えてくれたので場所の特定には困らなかった。
数分そこら一帯で迷子の女の子の母親を探してみたが、それらしい人は見つからなかった。闇雲にこの子の母親を探すのも不味いので、俺達は近くの茶房でお茶しながら、茶房の二階から女の子の母親を探すことにした。
女の子を外側の席に座らせて母親を探しやすいようにしてあげる。女の子は窓の外を見て母親を探している。
俺は女の子が母親を見つけるまでの間、ずっと腹話術について凪達に話すことになった。
「お母ぁぁさぁぁん!」
いきなり女の子は声を上げて、手を振りだした。どうやら母親が見つかったらしい。俺達はホッとする。
女の子の母親が茶房の二階に来た。女の子は母親に跳び付き再会を果たす。
女の子も母親も安心したのか、涙目になっている。俺達は貰い泣きしそうだ。
それから、母親は俺達に娘が世話になったから何かお礼をさせてくれとお礼を言ってきた。
これが俺達の仕事なのだから、特別に何かを受け取る訳にはいかないと言ったが、それでもお礼がしたいと母親が言うものだから、気乗りしなかったが、此処の会計で手を打つことにした。
まあ、金額的にもそんな大金ではないから少しだけ気が楽だった。
別れ際に女の子がモジモジしながら、俺に頼みごとをしてきた。
「おじちゃん、そのお人形欲しいなあ。」
「いいけど、この人形は俺の手から離れると喋らなくなるんだ。それでも欲しい?」
「うーん……それでも欲しい!そのかわり今度会ったらお人形さんとお話したい!」
「分かった。今度会った時に君が人形を俺に貸してくれたら、いつでもしてあげるよ。」
「うん!約束!」
「ああ、約束だ。」
俺は懐から『モナー型手袋人形』を取りだし、女の子に渡す。女の子は嬉しそうにキャッキャッ言っている。
母親が俺達に頭を下げながら、またお礼を言ってきた。
「本当に娘がお世話になりました。さらには、人形まで頂いてしまって。」
「いいんですよ。本当に気にしないでください。これが仕事ですから。」
「それでも本当にありがとうございます。本当はもっとお礼がしたいのですが、これから友人と会う約束がありまして、大変申し訳ないですが、この辺りで失礼します。」
そう言って、親子は手を繋ぎながら、去って行った。
その後、俺達は警邏を再開し、予定より大幅に遅れて城に戻った。
ああ、桔梗さんに用事があるから、警邏が終わったらすぐに来るように言われているのに、急がないと!
視点:桔梗
「遅いぞ。北郷。何をしておった?」
「すみません。迷子の親を探していたら、遅くなってしまいました。」
「そうか。ちゃんと、親が見つかったのなら、不問じゃ。
今朝言っていた頼みごとじゃが、今から杏里と共に夕食を大人2人分と子供1人分作ってくれ。
今晩、酒宴をしてお前のことを友人に紹介するから、できれば、天の国の料理にしてくれ。」
「かしこまりました。何か希望はありますか?」
「天ぷら!」
「即答ですね。……分かりました。では、さっそく準備をしてきますね。」
「ああ、頼んだぞ。」
今日は久しぶりの天ぷらじゃ。北郷の揚げる天ぷらは美味い。毎日でも食べたいのじゃが、北郷は天ぷらに含まれる『これすてろーる』とかいうモノは取り過ぎると体に良くないからと言って時々しか作ってくれん。
儂の健康のことを思ってくれているのは分かるが、美味い物は美味いのだから、仕方なかろうて。
美味い物を作る北郷が悪い!食べすぎる儂ではなく、儂を虜にする料理を作る北郷が悪い!
儂はしばらく執務をした後に、友人を待たせている客間へと向かった。
友人は娘を連れて来ている。この友人はある城を治めている城主なのだが、ある事情で城の統治を臣下に任せて此処に来た。アイツの所は儂の陣営のように戦人の集合体ではないから、少しの間城主が抜けてもあまり問題にはならないという。だから、戦人の集合体のような我が陣営に杏里が入ったのは本当に助かっている。
本当はもう一人知人が来ることになっているのだが、いざこざで少し遅れるとのことだ。
なんでも、賊と五胡と知人の陣営の三つ巴の戦が起こったらしい。
儂も戦に参加してドンパチやりたいものじゃな。最近は賊が減って、内政ばかりで詰まらん。
だが、戦ならこれからいくらでも起こるじゃろう。漢王朝は風前の灯、益州一帯を治めている劉焉の若造も病弱で何時くたばってもおかしくない。そして、劉焉の若造がくたばったら、劉焉の若造の息子達が後継ぎ争いをするじゃろうな。あやつらは異常なぐらいに競争心が強く、他の兄弟に対して支配欲を持っておるから、兄弟仲が悪い。そのうえ、どの兄弟も為政者としての資質を備えていない。内乱が起こっても、おかしくないだろう。
一度だけ劉焉の一家に杏里を会わせた時に杏里も儂と同じ感想を言っておったわ。
そのため、杏里は益州の劉焉の若造の息子達の動向や軍事力を見ながら、内乱に巻き込まれた場合の事を考えて自衛の為の軍備を強化する必要があるが、急な軍備の増強は謀反だと思われて討伐されてしまうおそれがあるので、慎重に軍備の増強を行う必要があると言っておった。なるほど、さすがは軍師じゃな。
「紫苑、璃々。よく来たな。元気じゃったか?」
「ええ、桔梗もそのようだと相変わらずだったみたいね。」
「桔梗さぁぁん、こんにちは。璃々は元気だったよ」
「おぉ、そうか。」
儂に抱きついてきた友人の娘の璃々を抱き上げ回る。璃々は笑顔で喜んでいる。
やはり子供はかわいいのう。璃々を抱き上げるたびに子供が欲しくなる。
儂ら3人の中で子供を産んでいないのは儂だけという。儂は独身貴族じゃ!
確かに結婚願望があるのじゃが、周りに儂と気の合う男が居ないので、結婚したくても出来ない。
じゃから、儂が未だに結婚できていないのは儂のせいではない。
そのまま、ズルズルと独身を引きずり、今の年になってしまった。
儂は料理が出来るまでの間、客間で紫苑達と話をしていると、戸を叩く音が聞こえた。
これは天の世界の習慣の『のっく』というモノじゃったな。
「桔梗様、ご夕食の用意が出来たので、持って来ました。入ってもよろしいでしょうか?」
「おう、待っておったぞ。早く入って来い。」
「お待たせしm……。あぁ!」
「あぁ!おじちゃん!」
「あらあら。」
「なんじゃ?知り合いか?紫苑?」
「ええ、町で璃々と逸れてしまった時に、璃々がこの方にお世話になっていたの。
先ほどは璃々が本当にお世話になりました。ええーっと…」
「北郷一刀です。北郷か一刀と呼んで下さい。」
「本当にありがとうございました。一刀さん。私は黄忠。紫苑とお呼び下さい。」
「え?それ真名なんじゃ?」
「娘を助けて下さったんです。真名を預けるのは当然ですわ。」
「分かりました。俺には真名がないですが、一刀が真名に相当します。宜しくお願いします。紫苑さん。
それから、お嬢ちゃん。俺はおじちゃんって呼ばれるような年じゃないから、別の呼び方をしてくれると嬉しいな。」
「じゃーーあ、なんて呼んだら良い?」
「うーん。一刀お兄さん?」
「ええー。でも、璃々にお兄ちゃんいないよ?」
「……そうだけどさ。駄目かな?」
「わかった!一刀お兄ちゃん!」
「ホッ……よかったぁ。では、夕食の配膳をしますね。」
北郷は璃々と笑顔で話しながら、配膳を始めた。
3人分の配膳が終わると料理の説明を始めた。今日の天ぷらはシイタケと山菜、茄子、雷魚じゃ。
それと白米に浅漬けと言う漬け物、雷魚のお吸い物もあった。北郷は儂と紫苑用に白酒を持ってきてくれた。
さらに、儂らに酒を注ぎながら、璃々が退屈しない様に、遊び相手もしてくれる。
何とも気のきく奴じゃ。素でこういうことができる奴はそう居らんぞ。
いつどこに婿に出しても恥ずかしくないものじゃ。家事が出来るだけと言う訳ではない。将としても優秀じゃ。
本当に北郷が居て助かる。それに、一緒に居て楽しい。話が合うのもあるが、何と言うか北郷の隣は居心地が良くて、理由は分からんが、癒される。特に、北郷の膝枕は最高じゃ。
良い感じに酒がまわり、陽気になって話が弾む。儂も紫苑も結構飲んだからだろう。
儂の顔は熱く、紫苑の顔は赤く、目がトロンとしている。
紫苑が突然席を立ち、北郷の横に移動して、その場で座り、いきなり、北郷の手を取った。
「一刀さん、璃々の父親になって頂けませんか?」
「あのー…、もう一度お願いします。聞き間違いかもしれませんので…。」
「この子の父親は高齢だったため他界してしまい、私も政務で忙しくて、璃々には寂しい思いをさせてしまっています。この子の為にも父親が必要なのです。一刀さんなら璃々がなついていますし、面倒見が良くて、優しい方です。お願いします。璃々の父親になってくれませんか?」
「ええ!?俺が璃々ちゃんの父親?……俺そんな大した人間じゃないですよ。」
「大丈夫ですわ。一刀さんはご自身で思われているよりできた人ですわ。
私はそう思ったからこうやって貴方を璃々の父親に、私の夫に選んだのですわ。」
紫苑は北郷の腕に抱きつき、胸を腕に押し当て、接吻が出来るほど顔を近づけながら、北郷に求婚を迫っている。
抱きつかれた北郷は一瞬目を瞬きしながら、あたふたしている。
北郷があたふたする様を見て、儂はいつもなら楽しいはずじゃが、今日は何故か楽しくない。
理由はよく分からんが、このまま放置しておっては不味い方向に流れそうなので紫苑を止めねば。
「止めぬか!紫苑!」
「良いじゃない。別に桔梗は一刀さんと結婚している訳ではないのでしょう?
一刀さんと桔梗は単なる臣下と城主の関係なのでしょう?男と女の関係に上官が口出しするのは変よね?」
「む。確かにそうだが…。」
「なら、一刀さんを貰っても良いわよね?」
「駄目じゃ。北郷はやらん!北郷は天の御遣いなんじゃ。北郷をお前にやってはこの町が乱れる。」
「桔梗の所は優秀な人が増えて、力もついてきたから、国が安定しているのでしょう?
確かに天の御使いの名前は重要かもしれないけど、それを支える者が入れば、少し抜けても大丈夫でしょう?
だから、一刀さんを貰っても、時々返すから天の御遣いの名声は保てるから安心していいのよ。桔梗。
私は一刀さんのことを天の御遣いとしてではなくて、一人の男性として気に入っていますから。
だから、私の所に来ませんか?一刀さん?」
「北郷が困っておるじゃろう。もう止めんか!」
「そうね。一刀さんも困惑いますので、今は引き下がりますが、絶対に一刀さんを私の虜にして、璃々の父親に、私の夫になってもらいますから、楽しみにしていて下さいね。」
そう言うと三人でまた飲み始める。しばらく飲んでいたら、北郷は酔いつぶれ、床に寝転がっている。
紫苑は北郷の頬に接吻をすると立ち上がり、途中参加してきた杏里と喋っていた璃々を連れて、泊まる為に用意した部屋へ去って行った。最後に儂を見て笑ったのは気のせいではないだろう。
杏里はこちらの会話を聞いていたらしく、寝ている北郷をすけこましだの、女たらしだのと罵っている。
しかし、最後の紫苑の儂に向けた笑みが気になるな。あれは何のつもりじゃろう?
もしや、北郷との間に既成事実でも作って、優しい北郷の退路を断とうとしておるな。
そして、儂から北郷を手籠めにしようとしておる。さっき紫苑が『私の虜』にすると言っておったしな。
あの未亡人は、話を聞くにかなり経験豊富じゃから、北郷を溺れさせるような性技を持っておるはず。
あの獲物を狙う未亡人は危険じゃ!儂が何としても紫苑の夜這いから北郷を守らねば!
どうする?どうすればいい?儂は隣でチビチビを飲んでいる杏里に聞いてみた。
「のう、杏里。少し良いか?」
「きゃわわ!な、何でしょう?桔梗様?」
「例えばの話じゃ、儂の持っているモノを友人が欲しがっている。
儂はそれをどうしても渡したくない。じゃが、友人はどんな手段を使ってでも儂から手に入れようとしてくる。
だが、儂はそれを閉まっておく蔵や棚が無い。その場合、儂はそれを守るにはどうしたら良い?」
「簡単ですよ。」
「本当か?」
「はい。それは……。」
「それは?」
「常に自分の目の届く範囲に置く。それでも心配なら、肌身離さず持ち続けることです。」
「なるほどな。」
とりあえず、目の届くところで今は寝ているので、放置じゃな。
それから、少しの間杏里と飲んだ。杏里はすぐに酔い、自室で寝ると言い、千鳥足で部屋を出る。
このままこの部屋で朝を迎えるのは良くない。紫苑が来る可能性があるからな。動くなら今。
儂は寝ている北郷を背に乗せて、自室へと運ぶことにした。
北郷を担いでいて思ったのだが、北郷の体は筋肉質で弾力性が感じられた。
儂は北郷を寝台に降ろし寝かせると、儂は寝台の横に椅子を置き、再び酒を飲み始めた。
つまみを持ってくるのを忘れたが、肴はある。儂の右の窓から見える夜空と庭だ。
儂はしばらく酒を飲んでいてあることに気が付いた。儂は左ばかりを見ている。いや、左しか見ていない。
右を向けば、夜酒を飲むときによく見ている夜空や庭があるのだが、儂は右を見ずに、左を見ている。
左には儂の寝台で北郷が寝ているだけで特に変わった物は無い。
淡く弱い青白の月光に照らされ、服が少し乱れている北郷が寝ているだけ。本当に唯それだけだ。
北郷の寝ている体勢は少し辛そうだ。このまま放置していると寝違えてしまいそうじゃ。
儂は北郷の上半身を起こし、上着を脱がせる。北郷は深い眠りについているのか脱力仕切っており、上着を脱がせるのは容易だった。上着を脱がせると北郷は黒い薄手の半袖の服を着ているだけ。
いくら夏で気温が高いと言えども、このままでは風邪を引くやもしれん。薄手の掛け布団を掛けてやる。
しばらく飲んでいたが、儂も眠くなってきた。寝ようと思ったが、寝台以外に横になって寝る場所がない。
「………肌身離さずじゃったな。」
儂は北郷を紫苑の夜這いから守るために意を決して、薄着1枚になると、布団の中に潜り込んだ。
だが、同衾するだけでは、まだ心配じゃ。儂は北郷を抱きついてみることにした。
寝ていても引き剥がせないぐらいに、しっかりと抱きつく必要があるな。
北郷の左足に儂の右足を絡めて引き寄せ、北郷の股に儂の左足を入れ、股で北郷の左太ももを挟む。
両腕を背中にまわし胸に顔をうずめる。これだと、さすがの紫苑も北郷を襲うことは出来まい。
見上げると北郷の顔がある。口は半開きで、そこからスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
ふと思ったのじゃが、儂はどうして北郷を紫苑に渡したくないと思っているのじゃろう?
確かに紫苑の言う通り、儂は単なる北郷の上司。北郷が求婚されようが、儂が北郷の政略結婚を考えていない限り関係ない。結婚は本人の自由じゃ。上司がとやかく言うようなものではない。
じゃが、儂はあの時、論理的ではなく、本能的に紫苑の止めに入った。
国がとか、町がとかの言い訳は後で思いついた言い訳で、最初からそれらのことを考えていた訳ではない。
では、何故じゃろうな?色々考えてみたが、これと言った心当たりは見つからない。
儂は再度北郷の顔を見る。儂は北郷をどうしたいのじゃろう?
視点:一刀
朝起きるとあり得ない状況になっていた。
何故か俺は寝台で寝ている。確か俺は客間の床で寝ていたはず、自分の部屋に戻った覚えは無い。
いや、ここは重要な点では無い。寝台で寝ようが、床で寝ようがどっちでも良い。
寝転がっている所が柔らかいか、堅いかの違いぐらいだ。どちらも慣れている。
問題なのは、薄着1枚の桔梗さんと同衾し、抱き合っている事だ。
昨晩の記憶を必死に思い出そうとする。紫苑さんに求婚されて、頭がフリーズして、その後飲んで、その場で寝たところまでは覚えているのだが、その先は一切覚えていない。
たぶん、あの場で寝てしまった俺を寝台に運んで寝かせてくれたのだろう。
桔梗さんはまるで俺を抱き枕かのようにして寝ている。俺はその場から身動きが取れない状態で桔梗さんの頭を右の二の腕の上に乗せて腕枕をし、左手を桔梗さんの腰にまわしている。
そう、だからこの状態は誰がどう見たって抱き合っているとしか表現できない。
正面から抱き合っているため、以前桔梗さんをおぶった時以上に桔梗さんを感じてしまっている。
まずは脚だ。桔梗さんは俺の左脚に両脚を絡めてきて、太ももで俺の左太ももを挟んでくる。
モゾモゾと動くたびに、俺の脚への絡み方が変わってくる。そのため、動くたびに感触が変わる。
だから、桔梗さんの脚の感触に慣れたとしても、すぐに感触が変わり、ドキドキしてしまう。悩ましい//////。
次に、胸。桔梗さんは両手を俺の背中にまわして抱きついている。そのため、自然と押しつけられてしまっている。滅茶苦茶柔らかいが、あの時は桔梗さんの体重が掛かっていたため、今回は前回に比べると感触が弱い。
それでも、滅茶苦茶柔らかい訳でして………//////
だが、それは触覚の面で見ただけの話だ。今の俺達の状態を思い出してもらいたい。
そう!朝に正面から抱き合っている。だから、桔梗さんが良く見える。
この前の時は夜だったから、前の時より鮮明に見える。
このままの体勢では桔梗さんの頭のてっぺんしか見えないので、俺はゆっくりと上半身を少し反らすと、桔梗さんの胸元が良く見えてしまう。だが、恥ずかしくて直視できない。見たいけど、恥ずかしいから見れない。
俺は羞恥心から力一杯目を閉じる。だが、やっぱり見たいので、ソーッと目を開く。だが、羞恥心から素早く目を閉じる。これの繰り返しを何度かして居ると桔梗さんの胸がどうなっているのか分かってしまった。
谷があった。幅が狭すぎるため、底が見えない。更に、俺の体に密着しているのでグニャリと形を変えている。
そして、最後に桔梗さんの唇。
胸を見ようとしていた時に一緒に寝顔を見ていた。一番目を引いたのは赤くて柔らかそうな唇だった。
欲しいな。あの唇が……。
ここまで来て俺は自分が桔梗さんに対して酷い事を考えているということに気付いた。
俺はなんて酷い奴なんだ。桔梗さんは俺を寝台に運んでくれたのに、桔梗さんをエロイ目で見てしまい、酷い事をしようとしていた。俺は桔梗さんの好意に対し恩を仇で返そうとした最低な野郎だ。自己嫌悪に陥る。
桔梗さんが起きたら、正直に話して、謝ろう。桔梗さんに嫌われてしまうかもしれないけど、謝りたい。
俺は桔梗さんの腕を解き、脚を抜くと書置きをして自分の部屋に戻った。
視点:桔梗
朝起きると北郷が居らず、書置きがあった。
『話があるので、暇な時に私の部屋に来てください。』
儂は何となく嫌な予感がしたので、急いで北郷の部屋へと向かった
「北郷?入るぞ。」
「……はい。」
儂は扉を開けて中に入る。部屋の真ん中で北郷は正座をしていた。
何か暗そうな顔をしておる。こんな顔を見るのは初めてだった。
「で、話とはなんじゃ?」
「ごめんなさい!!」
いきなり北郷は土下座をした。額を思いっきり床にぶつける。更に北郷は泣きだした。
「おいおい。どうした?」
「実は……」
北郷の話を要約すると、北郷が朝起きると薄着1枚の儂と抱き合っていて、自分の面倒を見てくれた儂に対して抱いてならない感情を持ってしまったという。
冷静に考えれば、自分を看病してくれたのにも関わらず、恩を仇で返すようなことをしてしまい、自責の念に駆られ、儂に謝罪をしたというのだ。
「ほ、ほう//////要するに儂に欲情したのか?」
「……はい。」
「儂のどんな所が女らしい?」
「え?」
「だから、儂のどんな所が女として魅力的だと聞いておる!何度も言わせるな//////」
「ご、ごめんなさい!」
「謝るな!はよう、答えんか//////」
「そ…それは//////」
それから北郷は儂の女らしさについて話しだす。儂はそれを細かく追及する。
要するに儂は女らしい体形で、肌が綺麗で、唇が柔らかそうで、女としての魅力は十分にあるという。
本当は寝ている儂を襲いたい程だったらしい。
正直聞いてて恥ずかしく、北郷の顔をまともに見ることが出来ず、チラチラと横目で見るのが精一杯だった。
北郷も恥ずかしいらしく、顔を赤くして、言葉が時々詰まっている。
だが、理由は分からんが、何故か聞いていて嫌な気分にはならなかった。
「では、最後に聞く。儂と紫苑、どちらの方が女らしい//////正直に答えよ。」
「…き……きょー…さまです//////。」
「天地神明に誓って?」
「天地神明に誓って。」
「……そ、そうか//////。ハッキリと言われると恥ずかしいな//////。」
「……はい//////」
「よし!お前への罰を決めた!」
「……はい。」
「お前への罰は……。」
……数日後。
「おはよう!北郷!って!どうした?お前凄いクマだぞ。」
「おはよう、焔耶。そんなに酷いか?」
「あぁ、まるで大熊猫みたいだ。お前寝てるのか?」
「寝てるつもり。」
「寝てるつもりって何だ?寝れていないのか?
仕事が忙しいなら、私が代われる内容だったら、代わってやれるぞ。」
「大丈夫だ。仕事が忙しい訳じゃない。単に寝れないだけだ。」
「何か悩みか?私でよければ、相談に乗るぞ。」
「ありがとう。大丈夫だから…。」
「おい!一刀!……本当に大丈夫か?
桔梗様?一刀のあのクマについて、何か知りませんか?」
「ああ?あれか?大丈夫だ。焔耶の気にすることではない。」
「はぁ……。桔梗様がそうおっしゃるのなら、大丈夫なのでしょうが…。」
北郷への罰は毎晩儂の所で儂の抱き枕をするという罰だった。
儂に抱きつかれると北郷は気持ちが高ぶってしまい、あの日以来寝れない夜が続いているらしい。
逆に儂は北郷に抱きつくと安眠できて、最近は体の調子が良く、毎日絶好調じゃ。
最近は政務の処理速度も速くなり、政務に掛ける時間が減った。
と、恋人や夫婦でもないのに儂と北郷は毎晩同衾するという奇妙な関係になった。
今日の杏里ちゃん
どうやら桔梗様は黄忠様から一刀さんを取られるのが嫌みたいで、一刀さんを守る方法を私に聞いてきました。
私はそこで何を守りたいのか分かっていないふりをして、肌身離さず持っていてはどうでしょう?と提案。
桔梗様は一刀さんと毎晩一緒に寝ているようで、日に日に一刀さんがやつれて来ました。
最近は風でも吹いたら、パタリと倒れそうなぐらいフラフラです。
きゃわわ♪まさかこんな面白い展開になるとは思いませんでした。もう、最高ですww
さすがは、私の見込んだ天の御遣い様!今後も面白い展開を期待していますよ?
「しかし…、あの超乳オバケさんは一刀さんの部屋の前に衛兵を立てて、黄忠さんが入れない様にするという方法は思いつかなかったのでしょうか?」
へぅ( ゚∀゚)o彡°黒山羊です。
最近暑いですね。
日が照ってると、眩しくて暑く。雨が降ると蒸し暑くてダレてしまいます。
更に雨が降ると片頭痛で勉強に集中できません。だから、この時期は嫌いです。
皆さまはいかがお過ごしでしょうか?
さて今回のお話ですが、蜀のオカン……す、すみません。お姉さまでしたね(ガクブル
蜀の皆のお姉さまの紫苑お姉さまが登場なされました。
最近は新キャラがバンバン出てきますね。
紫苑の登場で一刀と桔梗の関係が奇妙なモノになりましたね。
恋人でも夫婦でもないのに同衾するという奇妙な関係ww
おかげで桔梗さんは絶好調で、一刀は不眠症に。
果たして一刀君にとってこれは役得なのか、単なる拷問的生殺しなのか。どっちでしょうねww
俺は後者ですね。お預けプレイや放置プレイの類は好きじゃないのでww
皆さんはどちら派ですか?
では、最後になりますが、いつもので閉めましょうか。
では、御唱和下さい。
へぅ( ゚∀゚)o彡°
説明 | ||
このクソ暑い中で鍋やって汗ダクダクの黒山羊です。 もう、暑いのか熱いのか分からんww ただ、分かるのは冷えたスーパードライが美味い! 最後になりますが、 現在私は2本長編作品を書いています。 『真・恋姫†無双 武と知の2人の御遣い伝』を読まれる方はこちらの第1話から読んだ方が話が分かると思います。 第1話http://www.tinami.com/view/201495 『桔梗√ 全てを射抜く者達』を読まれる方はこちらの第1話から読んだ方が話が分かると思います。 第1射http://www.tinami.com/view/219495 |
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≫ZEROさん、拷問でしょうねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫ヒトヤ犬さん、その内でてきますよww少々お待ちをww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫readmanさん、こんな初心な一刀と桔梗の距離がゼロになるのはいつになるのやら?(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫きのすけさん、確かにww紫苑ならありえそう。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫根黒宅さん、俺だったら悶え死んでいますねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫きまおさん、俺は従兄弟の娘に『怖いおじちゃん』って言われて死にたいと思ったことが有りますよ…。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫320iさん、こういう一刀も良いかもしれないと思ったので(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫cupholeさん、キンキンに冷えたスーパードライは最高ですよね。高校野球を見ながらビールが特に最高ですわww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫2828さん、一刀の結末は次回に乗せました。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫ルーデルさん、それで寝れたら完全朴念仁でしょうねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫闇羽さん、ソウダ!ソウダ!モゲロ!!(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫アロンアルファさん、紫苑に取られるかもしれないっていう焦りで天パっていたのでしょうね。まんまと杏里の策に乗せられましたねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫quarterさん、そりゃあ無理でしょう。へたすりゃ胸で圧死しますもんねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫狼兄様、俺だったら間違いなく不眠症で幻覚見て倒れますねww(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) ≫ノワールさん、一刀にヘタレに似合う可愛らしい特技が居るなと思って腹話術にしました。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) へう! ま、拷問じゃない?一刀はMじゃないし。(ZERO&ファルサ) 三人?あと一人誰?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) へぅ( ゚∀゚)o彡°桔梗と一刀のこれからが楽しみです。(readman ) 部屋の前に衛兵付けても紫苑さんになら突破されそうな気がしたw(きの) 生殺しにも程があるwww(根黒宅) 自分も十歳代で新聞配達の集金をしていた時、客の子供に「ありがとう、おじちゃん!」→その子の兄?が続けて「ばか、こういうときはかっこいいおにいちゃんって言うんだぞ!」のコンボをもらった事があるな・・・。ええ、子供に殺意が芽生えましたよ・・・w(きまお) へぅ( ゚∀゚)o彡°良いですね!スーパードライ!エビスとかラガーもありますけどスーパードライが一番好きなんですよ。(cuphole) へぅ( ゚∀゚)o彡°拷問に耐えろ一刀ww (2828) へぅ( ゚∀゚)o彡゚ そりゃ美女が隣で眠ってる状況なんて一戦やらかしたあとじゃない限り眠れんでしょうww(ルーデル) この幸せ者め…モゲテシマエバイインダワ(つД`)(闇羽) 桔梗もある意味テンパッてるよね、杏里の案に乗るなんてw別の意味で干からびてる一刀頑張れww(アロンアルファ) へぅ( ゚∀゚)o彡゚ 桔梗さんに抱きつかれたまま寝るのは無理な気が。。。ww(quarter) 毎晩桔梗さんの(に?)抱き枕w そら寝られんわなwww(狭乃 狼) 腹話術とは意外な特技ですな〜……璃々におじちゃんって言われて凹む所は華佗みたいですが。紫苑登場で二人の関係が大きく変わりましたね〜……頑張れ、一刀。ちゃんと眠れる様になるのは何時の事やら…。(ノワール) |
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真・恋姫†無双 桔梗 厳顔 一刀=軍人 杏里(徐庶)=オリキャラ 焔耶 +?? | ||
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