あなたの想いが届くその日まで |
「世界を救うその日まで、あなたの決意が揺るがぬように」
その言葉は誓約。
魔法的な拘束力があるわけではないが、それゆえにどんな解呪の呪文も効果が無い。
――私はその言葉とともに勇者の仲間になった。
部屋に入るとドアの鍵を閉める。
普段ならこの時間帯は本を読むのだが、今日は実家へ連絡を入れる約束をしている。
以前外出していたときに連絡を入れ忘れたことがあったが、外出先まで探しに来たからな。
部屋の中央に設置されたテーブルの上に、鞄から水晶玉をそっと置き円を描くように撫でる。
水晶玉はゆっくりと浮き上がり、無色透明からうっすらと青みがかる。
よし、準備は完了。これで通信連絡が可能になった。
「――お待ちしておりました。」
通話が可能になるとすぐに声が聞こえてきた。
「早いな、予定の時刻はまだのハズだろう」
「今日は朝からずっとお待ちしておりましたので」
太陽は今ちょうど真上なのだが、こいつは何時間待っていたのだろう。
よっぽど話したいことでもあったのだろうか。
「・・・・・・あなたが突然旅に出たいと言い出したときは驚きました。」
昔のことを懐かしむように喋るが、出発を決めたあの日からまだ二週間しか経っていない。
「あのときはぐらかされた理由を聞いても宜しいですか?」
「理由についてはあの時伝えただろう?」
「確か『私は正義に目覚めた!これからは勇者とともに行く!』でしたか?アレは嘘ですよね」
「・・・・・・」
「あくまでもアレが真実だというなら、私はお暇を頂くことにしますが」
「それはッ!・・・・・・まぁ・・・嘘・・・だが」
留守中のほぼ全てをまかせっきりにしている私としては逆らえない。
「卑怯ではないか?それを持ち出されると私は――」
「大黒柱無き家を支えるのも大変なのですよ。少しぐらい褒美が欲しいではありませんか」
「・・・・・・その褒美がその質問なのか?」
「えぇそうです」
「・・・・・・金とか物とか欲しいものはないのか?」
「まぁ欲しくない訳ではないですが、今はそんな気分ではないのです」
物にも釣られないか、これは適当に誤魔化したら怒りそうだな。
「私は勇者のことが・・・・・・好きだ。愛している」
おそらく『一目惚れ』だ。
だが、勇者と行動を共にするうちに、勇者を愛している自分に気がついた。
「・・・なんか、私が告白されてるみたいで、照れますね」
それを言うならこっちのほうが恥ずかしいぞ!なんで私は水晶玉に向かって告白してるんだ!
あーもう!、今すぐ連絡を切って布団に潜り込みたいッ。
「ふむ、『勇者のことが好き』ですか、意外とあっさり認めましたね。また誤魔化すかと思いました」
「それは――嘘を付いてお前が居なくなっては、私が困る」
水晶玉からすぐに返事が返ってこなかった。何かを考えているのだろうか。
たっぷり10秒はたったあと聞こえてきた声は、心なしか少し元気な気がした。
「ふ、まぁいいでしょう。聞きたかったことには正直に答えてくださったようですし」
「・・・分かってて聞いたのか、お前は鬼だな」
「ご存じなかったですか?鬼は嘘が嫌いなんですよ」
水晶玉の向こうでは絶対にニヤニヤと笑っているだろう。
「それにしても、あなたの口から『好き』や『愛』なんて言葉が出るとは。いやー、今でも少し信じられません。」
「そんなに意外だったか?」
「それはもう、勇者が『これから世界を滅ぼしに行こう』っていうのと同じぐらいですね」
そんなことは絶対にないだろう。つまり確率0%ということか。
「まぁそれは冗談として――私も女の端くれですから、色々と誘惑してみたんですけどね」
「・・・は?」
「あまりに反応が無いので異性に対する興味が無いのかと思ってました。」
「・・・そんなことを思っていたのか」
そういえば以前「お背中お流しします」と入浴中に乱入してきたこともあったか。
勇者以外の異性には全く興味が湧かないのは内緒にしておこう。
「ですが、勇者は――」
水晶玉越しでも先ほどまでの楽しげに弾んでいた声が急に硬くなったのが分かる。
「わかっているさ。私がしているのは愚かな事だと」
勇者の心は清らかで、勇者の笑顔は美しい。戦う勇者は勇ましく、拗ねた勇者は可愛らしい。
勇者は周りにいる者たちに希望を与え、その行動は周りを引き付ける。
最初は敵対していたものも勇者に協力したいと願い出ることもある。
そんな勇者のことを好いているものがどれほどいる事だろう。
私がいくら勇者のことを好きでいたとしても、私が選ばれることはありえないだろう。
私は――。
「それで?・・・私の邪魔をするつもりか?」
少し脅しの意味も込めておく。
「いえ、どうやら本気のようですし、しばらくは何も。・・・・・・あなたの気持ちも聞けましたしね。」
声のみの通信なので顔は分からないが、おそらく苦笑いしているのだろう。
「そういえば、勇者殿は強くなっておられますか?」
「ふむ、パラメータで見るなら勇者は弱い、魔王軍の中で言うと中の下といったところだろうな。
戦闘技術はまだまだ拙いし、魔法の威力も弱い。
まぁこの点については、じっくり弱い魔物を倒し経験をつめば大丈夫だろう。
これからの成長に期待して――ッ!」
急にコンコンっと乾いた音がした。
扉のほうを振り返る。
「お〜〜い、魔法使いー!準備出来たー?そろそろ出発だよー!」
勇者が呼んでいる。ふと、時計をみると予定時間を少し過ぎていた。
いけない、いけない。勇者のことを語るのについ夢中になっていたようだ。
「お待たせしてすみません。今行きます!」
勇者に声をかけ、荷物の整理を始める。
「すまない、これから冒険なんだ。」
「分かりました。ではまたご連絡お待ちしております。――魔王様」
「あぁ、近いうちに一度戻ろう。それまでよろしく頼む」
お互いにこれで何十度目かになる別れの挨拶をすませ、私は連絡用の水晶玉を荷物の中へしまいこむ。
よし、これで準備は完了だ。勇者の下へ向かいながら今日の冒険場所のことをふと思い出した。
(たしか今日の場所は、少し強めの魔物たちを配置しておいたんだったな。
勇者は若干自分の力を過信して、猪突猛進しやすいからな)
敵の群れに恐れず突っ込んでいけるのは確かに素晴らしい勇気だし、その姿につい見惚れてしまうが。
(今回はいつも猪突猛進なだけではダメなことを知ってもらおう。)
失敗を経験した勇者はダメな点を指摘すると素直に聞いてくれる。
そして次の戦いからはそれを意識した行動を取ってくれる。
――失敗して私に怒られてしょんぼりしてる勇者の姿が可愛いとか思ってるのは内緒だ。
「遅いよ、魔法使い。置いて行っちゃうよ!」
勇者のところに着くと、勇者の仲間達はすでに揃っていた。どうやら私が最後だったらしい。
「ちょっと!置いて行ったら私たちじゃ、全滅しちゃうわよ!」
「あれ?ちょっと待てよ?こいつ置いて行ったら俺のハーレムじゃね?」
仲間唯一の回復役である『僧侶(見習い)』と筋肉『バカ(僧侶に殴られた)』。
この二人では勇者をサポートできないだろう。
とりあえず、こいつらは邪悪な思考回路を持っていないようなので、その点は評価している。
まぁ邪悪な奴が仲間になろうとして、歓迎しそうだからな勇者は。――私が許さないが。
やはりあなたが一人前になるためにも、私がこれからも勇者の傍で見守っていかなくては。
――世界を救うその日まで、あなたの決意が揺るがぬように。
あなたの剣が私を貫くその日まで。
あとがき
はい、ということで、あとがきです。
そういえばあとがきって作ったことなかったので、試しに作ってみました。
でも、何を書けばいいんでしょう?
小説とかだと関係ない話しておられる方が多い気がしますが、
急に関係ない話しろって言われても何も思いつきません・・・orz
あ、そうだ!私の文章を読んでいただきありがとうございます!
読みづらい所などがあったらご指摘いただけると嬉しいです。
今回の話は、魔王が勇者のパーティにいたら。という妄想から生まれました。
うーん、魔王の視点だと、読者に気づかれないようにしたかったんですが・・・。
多分バレバレですかね。難しいなぁ・・・。
行間とかどれくらい開けよう? とか、タグって何付ければいいの?
そもそも文章が・・・・・・と至らない所だらけですが、これから頑張ります。
では、宜しければ次の作品でお会いしましょう〜。
説明 | ||
どうも、海月です。よろしくお願いします。 今回は短編です。 ※前作とは関係ありません。 ふと思いついたものを小説で表現するのは、思ったよりも時間が掛かりますね〜。私がスローリィなだけですが・・・。 サクサク投稿出来る人たちが羨ましいです。 |
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コメント | ||
>samidare さん、コメントありがとうございます!ゆっくりですが続きますよ〜、期待にこたえられるか分かりませんがw(海月) この作品続けて欲しい。 出来れば続きなどを書いてくれると嬉しいです。(samidare) |
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