真・恋姫無双 花天に響く想奏譚 4話(下)
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 4話<The Saver of ゴットヴェイドォォ!!(下)>

 

 ・れっつごー勘違い

 

 話があるからと村の人から離れて、一刀たちは再び集まった。手には各々、炊き出しで作られた粥の入った椀と箸。

 「華陀さん、怪我した人たちはもう大丈夫?」

 「あぁ、もう平気だ。 あとおれは呼び捨てにしてくれてかまわないぞ。っというか、同性にさん付けされるのは落ち着かん。」

 「ふふっ、では私も慈霊、と。」

 「いや、ひとの奥さん呼び捨てにするのはちょっと。」

 

 一刀がそう言うと、華陀は「?」な表情になり、慈霊は「あら。」といったような仕草を見せた。

 「あらあら。そんな風に思ってらしたの?」

 「ん、違うのか?私はてっきりそうかと。」「私も。」

 「違う、んですか?」「むしろ違うってのが意外ですよ?」

 

 一刀に続いて他もそう思っていたらしく。

 

 「皆さん夫婦だと思っていらしたようですが?」

 慈霊はなぜか話を華陀に振った。

 「いやいや、おれたちは夫婦ではないぞ。慈霊とは古い馴染みでな、今はおれの助手だ。」

 華陀がこう答えたところ、なんとなく慈霊の笑顔が薄くなったような。

 「…らしい、ですわ。」

 「ん、どうした慈霊。 疲れたのか?」

 「さぁ、どうしたのでしょう?」

 華陀の素のリアクションを見、なんだか慈霊は呆れたように。

 

 「? まぁ、体調が良いならそれでいい。 …と、それと って痛ででででなんだ慈霊なぜ腕を抓る!?」

 「さぁ、なんででしょうね〜?」

 夫婦漫才はさておき。 まぁ、華陀のボケは素なのだが。  

 

 華陀曰く、村の人たちは明日に近隣の街に移る予定だったらしい。で、状況が状況なのであえて予定通りにするとか。早く街に入ったほうが物資もあるから、である。

 そこで、明日も怪我人や荷物を運ぶ手伝いをしてほしい、と華陀が言ってきた。

 「頼めるか?」

 「いいよ。乗りかかった船、って言うし。 みんなも、いいか?」

 「うんっ、当たり前ですよ。」「ここで見捨てるような真似はしません。」「鈴々もなのだ!」

 「は、はいっ」「わ、わたし も…手伝いましゅ」「最初からそのつもりでしたので。」

 

 一刀に桃香らが答え、続いて朱里たちも。

 「こうめ じゃなくて、朱里か。 朱里たちも、いいのか?」

 「いいんですよ、…一刀さん。」

 「ってか、寧の「最初から」っていうのは?」

 「ここで一泊させて貰うことになったときに聞いてましたので。」

 「そっか。 じゃあ明日も頼むよ。」

 

 と、ここで違和感に気付いたのが何人か。

 「…あれ?」「御主人様、その呼び名は真名、では? …いつ交換なさったのですか?」

 愛紗と桃香だった。

 「ん、あぁ。愛紗と鈴々から離れたあとにね。」

 「はい。 助けていただいたので。」「真名を預けるには余りあります。」

 「成程、そういうことでしたか。」

 で、雛里も最後にか細い声で言った。 …の、だが。

 

「え えと、…その、わ わたし…はじめてあげられて、…よかったです。」

 

 ここから少しおかしくなる。

 

 雛里の発言で、桃香と愛紗の背後の空間に ビッシィィッ! とヒビが入ったような。そんなイメージ画像が。

 「…え、えっ?」「…はじめてを、あげた?」

 桃香は展開に付いていけてない様子できょろきょろして、愛紗はなんだか固まって。

 

 「…ん?」

 …あれ?雛里のセリフなんか変じゃないか?

 そんなことをのんきに考えていたが。事態はもう止まらない。

 

 「初めてをあげた、って …えぇぇっ!?」

 「ご、主人様貴方という人はまさかっ!」

 そしてとどめを はい、鈴々。

 

 「お兄ちゃん、こーいうのって「手が早い」っていうのだ?」

 

 これで堤防は完全決壊。鉄砲水の如くに事態が突っ走る。

 一刀、朱里、雛里。ようやく皆の意を察した。

 

 「はわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」「あわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 雛里としては「真名を」「初めてあげた」と、それが一刀のような人でよかった、と言ったつもりだったのだが。

 なんか変なことになってる。不思議ですね。

 「「ちち違いましゅえとあにょしょにょsjg=|@#h*ふgdjdんcsで$<%!?!?」」

 なんだこれ呂律うんぬんってレベルじゃないぞ。真っ赤になって理解不可能な分解をするはわわとあわわ。

 「御主人様っ!英雄色を好むとは言いますがあの短時間で…その、さ、三人も相手にしたのですかっ!?」

 愛紗も顔を赤くして、しかし言葉ははっきり勘違い見解をまくしたてる。

 

 「…ご主人様。」

 桃香は桃香で笑顔だった。 ただなんだか純粋な笑顔じゃない。目の辺りに影がかかって、背後からも黒いオーラみたいなのが立ち上る。 なんだろう、なんだかすぐに謝ったほうがいいような気が。 

 女性相手だと弱い一刀、無抵抗に白旗を揚げた。

 「い、いやちょっと待って!落ち着いて話を」

 「話も何もありませんっ!会ったばかりの者三人と」

 「ダメだよ愛紗ちゃん。ご主人様もなにか言いたいみたいだし言い訳ぐらい」

 「だだだから私たちは一刀さんとはにゃにもぁぅぅ…」

 「*‘=O=〜*{‘’&E”(*{!!」

 「ふははっ、なんだか盛り上がって あいたぁっ!?」

 「あらあらいけませんよお邪魔しては。」

 「わーわー大変ですねそーですね〜」

 「?、みんなどーしたのだ?」

 弁解しようとする一刀、聞く耳無しな愛紗、黒いオーラの桃香、呂律が保てない朱里、もはや地球上に存在しない言語になってる雛里、とりあえずテンションの上がる華陀と玻璃扇で突っ込む慈霊、適当に平坦に声をあげる寧、事の発端であるという自覚の無い鈴々。

 

 計九人での、なにこのカオス状態、だった。

 「寧っ、分かってるなら止めてくれっ!」

 「いえなんだか楽しいのでしばらくお願いします。」

 率直でありがたいが、今はそんな答えはいらない。 ってかむしろタチ悪いぞ。

 「ところで張飛さん、でしたね?「手が早い」の意味って分かってます?」

 「んにゃ? 友達になるのが早いって意味なのだ?」

 「やっぱりですか。」

 「ふふっ。 そういえば、さっき関羽さんのおっしゃった英雄というのは?」

 

 カオスの中、一番冷静なのは寧と慈霊だった。

 

 

 「むこうはなんだか盛り上がってるねえ。 ってちょっとせんちゃん。おなか大きいんだからあんまり動くのはやめときな。少しふらついてるじゃないかい。」

 「いえ、これくらいは…」

 一方、怪我人を集めた広めの民家あたり。一刀たちの喧騒から離れたところで、寧たちを呼びに来た妊娠中の女性が見咎められていた。

 

 

 ・なんかこう、変な感覚が

 

 村の異変に気付いて、私を抱き上げて走ったときのご主人様はかっこよく思えて。

 私がケガした人を助けられなくて、それを思い出して泣きそうになったときには優しく声を掛けてくれて。

 こんな人をご主人様って呼べてることが、すごく嬉しく思えた。お料理の手伝いしてるときもそのことずっと考えてたんだ。

 

 …でも、鳳統ちゃんが「はじめてあげた」って言ったとき、なんだか、…こう、胸のなかから変なかんじが  来て、 ご主人様になにかしたくなったの。

 

 なんなんだろ、このかんじ?

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 <二人の理由>

 

 少しして、とりあえず騒動は沈静化。各種誤解はなんとか解けた。

 

 「わ、私たちそもそもそんなの本でしか はわっ…」

  弁解で変な墓穴を掘ったのはスルーして。 てか私「たち」って。友達巻き込むのは止めなさい。

 

 「…成程。北郷殿が天の御使い、か。」

 「噂は本当でしたのね。」

 

 皆、食を進めつつそんな話にむかっていた。

 「天の御使い なんていう自覚はない、けどね。」

 「しかし話を聞く限り北郷殿が御使いというのは疑い無いが、それなら北郷殿は今の世を鎮静するのか?御使いの出現が現実となった今、乱世を鎮静するという部分も現実になりそうだが。」

 「俺が御使いっていうのは本当らしいけど、…さっきも言ったけどそんな自覚は無いし、俺にそんなことが出来るとも思ってないよ。 でも、」

 一旦言葉を切って、

 

 「今はこの村の人たちが無事に移れるように協力するのが目標かな。 乱世がどうこうってのはそれから考えるよ。」

 優しい口調で答えた。

 「確かに、小事を成せない者が大事を成せる筈もありませんね。 あぁ、別にここでの一件を小事と思っているわけではありませんよ? あと、御使いというのは伏せておいたほうがいいですね。」

 「それは無論。」

 慈霊に愛紗が応じた。 なにせこの状況、へたに騒ぎにするのは避けるべきだろう。

 

 ここで一刀。話が切れたのと気になっていたことを思い出したのとで、椀の中身をさらえて飲み込んで口を開く。

 

 「ところで、えっと ごと、べいどう って言ったっけ。それってなんなん」

 そう聞いたところ、セリフをぶった切って華陀、

 

 「ちっがぁぁぁうっ!!」

 魂からの叫びを一発。

 

 「おわぅっ!?」

 「重要なことだから何度でも言うぞっ、正確にはゴットヴェイどぉうっ!?」

 息を吸って、夜空に握った拳を突き上げて叫ぼうとした華陀の後頭部に、慈霊が居あい抜きのような動きで玻璃扇の一撃を叩き込んだ。 むぅ、できる。

 「あたりも暗いんですから自重しましょうね〜?」

 「いやだからこっちのがかっこい」「また叩きますよ、華陀?」

 表情はどこまでもにこやかだった。

 

 話が進まないので、朱里が口を開いた。

 「えっと、五斗べ じゃなくて、(すぅぅぅっ)ご、ゴットヴェ」

 「孔明さん、華陀の与太は無視していいんですよ。」

 「はわっ!? あぅぅ…」

 

 朱里赤面。 気を取り直して、

 「ご、五斗米道は貧しい人たちや流民に施しをしたり、病気の治療を無償で行ったりといった活動をしている団体です。 華陀さんはそのなかの医術を使う人たちの中でも特に突出した腕を持ってるって話です。 …でも、」

 少し言いよどんで、朱里は寧をちらと見た。

 

 「確か漢中を中心に、でしたよね…」

 「ワタシもそう記憶してます。 ですから最初慈霊さんが華陀さんの名前を呼んだときはぶっちゃけ疑いましたよ? 漢中から離れたここに、しかも二人だけでしたので。 なんでこっちのほうにいるんです?」

 

 寧の問いに答えて曰く、

 

 「確かに医術を扱える者は一点に腰を据えるべきだ。そうしたほうが効率が良いからな。それを実践しているのが本部なのだが、しかしそれでは動けなかったり遠く離れたところにいたり、そもそもおれたちを知らない人たちには機会すら得られない。」

 「ですから、私たちは各地を転々としているのです。流れ流れて というほど長くではありませんが、一年ほどですわ。」

 

 「それじゃあ、ここに居たのは偶然なんですか? …よかったぁ。」

 ぺたんと座って空になった椀を横に置いた桃香が言うと、

 

 「いえ、 それがそうではないのですわ。」

 

 不思議なことを思い返すような様子で、慈霊が返した。

 

 「あれは少し前のことだ。留まっていた街から出、次はどこにいこうかとしていたときだった。頭から足元までを黒い外套で隠した者…あぁ、男とも女ともとれる声で、性別は分からなかった…が言ってきたのだ。「この先に力を持てど用いるすべを持たぬ少女あり。貴方がたは標となるや否や。」とな。 そしてその者が指すほうを見た後、そいつはそこから消えていたのだ。」

 「暗に言っていたことは直感で理解しました。 それで、どうせ行く当ても無い上、そのかたが妙だったことの好奇心も手伝って、指した道を行っていると、」

 

 「今日ここで君達と、 劉備殿と会ったわけだ。」

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 <癒す力>

 

 華陀と慈霊の話をまとめるとこうだった。

 

 生物、特に本能から離れた人間には通常感じられないが、生命の体には「氣」というエネルギーが「氣路」と いう通り道によって体内を巡り、満ちている。 因みにエネルギーという単語は地の文ということで使っているだけなので。

 

 「その氣の使い方の一つが、劉備殿の持つ傷を癒す力だ。 おれたちはそれを「療術(りょうじゅつ)」と呼んでいる。一般には知られていないが、ゴットヴェイドーのなかでは認知されている技術だ。」

 「ってことは、二人もその…療術、が使えるのか?」

 「えぇ。 ただ華陀の場合は特殊、というよりも異常なのです。 本来の療術は神経や氣路に直接刺激を与えて各種効果を発揮するいわゆる鍼治療に、氣の扱いを組み込んでより強い効果をもたらすもの、なのですが。華陀は傷に手をかざして氣を送ることで、傷を直接治してしまうのです。」

 「じゃあ、華陀さんが小さな天幕のなかでやってたのって」

 「あぁ。生命維持に必要な部分の損傷を治していた。臓腑の損傷とかだな。」

 「…ん、そんなことができるなら、もっと広めたほうがいいんじゃないでしょうか。」

 朱里の問いに対する答えはこうだった。

 「氣の素養を持つ人はわずかなのです。確かに世の中の氣の素養を持つ人を対象に本でも出せば民間に広まるかもしれませんが、療術の習得には感覚的な部分が多分に含まれるのですわ。 例えばそうですね… 華陀、氣鍼の感覚を説明してみてください。」

 「ん? そうだなえっと、 まず針を持ち、体内の氣に意識をすぁぁっと重ねて、ぐっと針に氣を集中させてここというときに一気に打ち、そこから氣をずぁぁっと」

 「とまぁこのようなかんじになるのですが。分かります?」

 「え、と …すいません、分かりません…」

 「いえいいのですよ。私が説明してもこうなるので。」

 「む、なら慈霊がやればよかったんじゃないか?」

 「まぁそれはそれで。」

 要は間抜けにみえるからしたくなかったんだな、とほとんどが察した。

 身振り手振りを交えて熱くやってはいたが。残念、擬音での説明は分かりづらいもの。

 「感覚というのは分からない人には分からないものです。口頭や文面では特に。それに患者の先天的な特徴や後天的に得た異常に合わせた方法を取らなければ、効かなかったり逆に悪化したりという羽目になりかねません。」

 

 「「生兵法は怪我の元、か。」」

 

 愛紗と一刀が同時に言った。 お互いに顔を見合わせて照れたのはご愛嬌、である。

 「そうだな。 半端な知識が蔓延してしまうと、出来ない者がやって助からなくなったり、手遅れになったりということになる。それが多発することはあってはならない。 だからゴットヴェイドーは見つけた素養のあるものだけに授けているのだ。 しかし劉備殿ほどの力が自然に培われたというのは驚きだ。見てすぐにわかったほどだからな。」

 「…見て分かるものなのか?」

 「武人のかたが相手の力量を見て判断出来るのと似ている、らしいですわ。 療術と武芸に通じるかたが言うには、療術は氣を直接用いるのでより分かり易いとか。」

 「と、それともう一つ。こんなにしゃべっていいのか?今更とは思うけど。」

 「ちゃんと理解してくれれば問題ありませんわ。むしろ正しく把握してもらえるのは願ったりです。 ただ言いふらすのは遠慮して下さいね。そんなことをするかたがここに居るとはもう思っていませんが。」

 短い時間だが、相応に信頼は互いに出来ているようだった。

 「で、だ。ここからが本題になる。」

 言うと華陀、尻を動かして位置を変え、

 「劉備殿。療術を学んでみないか?」

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 <大樹 芽吹く>

 

 「えと、私が五斗米道に入るんですか?」

 「そうではなく。 そもそも五斗米道は名前が必要なのでそう名乗っているだけで、私たちに集団や名前への執着やこだわりはたいして無いのですわ。 私たちもいまは独立しているようなものですし。目的は患者を助ける、ただそれだけですわ。」

 「まぁそうだが。やはり名乗りはかっこよく、がいいのは譲らないぞっ」

 

 えっへん、といった様子だが、

 「与太はともかく。第一、私たちが名乗っている号からしてもそれは分かって頂けるかと。」

 慈霊は見事なまでにスルーした。そして華陀も気にしていない。 むぅ、熟練。

 

 「号っていえば、ワタシたちの水鏡塾では特に優れた人が貰う通り名ですが。 ワタシですか?ワタシは次点らしく。同期での枠も二枠まででしたし。」

 「へぇ、じゃあ三人ともすごいんだな。」

 一刀が三人に目を向けると、朱里と雛里は揃ってうつむいて赤くなる。「はわ…//」「あわ…//

「一刀さんに誉められるとなんだか照れますね?」 寧は寧でそうは見えないが。

 

 そこへ、

 

 「あらあら北郷さん?女の子を口説くのは後にして下さいね?」

 「えっ、ちょっ!」「「っ//////!」」

 「「…ご主人様?」」「おや?あれがそういうやつなのです?」

 「いや桃香、愛紗!あれは慈霊さんの冗談だって寧も分かってるんだろほら二人も本気にしたらだめだって! なに俺ってそういうことになってんのさっきのまだ引き摺るのはやめてくれってっ!」

 同じ徹は踏まぬぞと勇ましく。今度はちゃんと抵抗を見せた。いかんせん強く出られてないが。 そんな中、慈霊は朱里や桃香の様子から何かを感じ、察したようだがそれは慈霊本人しか知りえない。

 

 「ふふっ まぁそういうことにしておきましょう。 それで、私たちの号は真名をそのまま使っているのです。 改めまして、私は華玻 子晶(かは ししょう)、真名であり号は慈霊、ですわ。」

 「おれは華? 元化(かふ げんか)、号は華陀、だ。」

 

 「「「「…ぇぇえっ!!」」」」

 

 桃香、愛紗、朱里、雛里の四人が驚きの声。

 

 「普通は驚かれるでしょうね。 私たちは命に向き合うことを意識していますので。真名で接することで患者に、命に心から向き合うという考えの表れですわ。 まぁ五斗米道に入る人は、大概真名にそう神経質でないかたが多いのです。…そうですね、華陀はその典型例、多くが華陀のような性格と思って下さればおおむね正解かと。」 

 

 華陀がいっぱい… 暑苦しい声とテンションがエンドレス。 鬱なんかたぶん無いな。

 「とりあえずあそこに居れば退屈はしませんわ。」

 「…慈霊さん、頭の中読まないでくれ。」

 「いえ、顔に出てらしたので。」

 ふふっ、と笑う慈霊。 今までの言動然り、底が知れない。

 

 「とにかく劉備殿。君は力を使えているが半端もいいところだ。君が治した傷を診たがな、かろうじて正しい癒着をしていたがかなり危うかった。 あの傷を治した時や、過去に大きな傷を治した時はすぐに疲れて使えなくなったのではないか?」

 「そ そう、です。」

 「だろうな。 それでは助かるはずの人も助からなくなる。…それは君が一番避けたいことだと思う。」

 

 二,三瞬下を向く桃香。一刀にすがって泣いたことを思い返したのだろう。

 「…はい。」

 「おれとしても、人を助けられる力が持ち腐れるのは無視できない。 だから、どうだろうか。」

 

 そこに一拍置いて、愛紗が横から。

 「しかし我々には我々の譲れない道がある。お二人に合わせることはしかねるぞ。」

 それに慈霊が応じる。

 「いえ、私たちが合わせますわ。」

 「あぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。 いや、もしかしたらあの黒い外套の者の引き合わせかもしれんが。 ともかく人を助ける力を増やすのも、人を助けることに繋がるからな。」

 二人の目は真っ直ぐだった。想いはただ一つ、人を助けるという一点だけ。

 

 その想いは、自分と重なることを感じた。

 「華陀さん、慈霊さん、 …お願いします。」

 静かに桃香は言った。

 「愛紗ちゃんに鈴々ちゃんは戦えて、ご主人様も強くって、 でも私は何も出来なくって、…何も出来ないな、って思ってました。」

 自嘲気味に、しかしはっきりと言葉にする。

 「…でも、でもケガした人たちを助けることが出来るようになるなら、…力の無い人たちを助けたいから、 私は…えと、療、術?を教えてほしいですっ!」

 …最後はなんだか締まらなかったが。一同に桃香の意思は伝わった。

 「うむっ。よしっ分かった!」「お供しますわ。」

 華陀と慈霊は無論のこと、

 「お二人共、宜しくお願いします。」「よろしくなのだ!」

 愛紗、鈴々も当然として、

 「桃香、…良かったな。」

 晴れた顔の桃香に一刀も優しく微笑んで、

 

 「では一つ。聞いてもいいです?」

 

 平坦な声も加わった。

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 <想いの元に>

 

 桃香が見ず知らずの者の為に必死で動いて、赤の他人の死に本気で涙したのを見た時。

 

 そのときにもう惹かれていたのでしょう。

 

 「力の無い人を助けたい、とのことですが。」

 

 桃香が一刀の胸で泣いていたとき、一刀も心の底から悲しそうな顔をしていたのが分かったとき。

 本当に優しい人たちなんだ、って思いました。

 

 「そのために、世の中自体に物申すくらいのつもりはありますか?」

 

 桃香と一刀。この二人に直感で信じられる何かを感じたとき。

 

 このひとたちだ、って思いました。

 

 そして、

 

 「…今は、 その、どうしたらいいのか分からないけど、」

 えぇと、といった様子で、でもその目は愚直なまでに真っ直ぐで、

 

 「みんなが平和に暮らせるように私、がんばりますっ!」

 

 かなりふわっとしていたが、 それなら自分達が支えよう。

 

 「…そうですか。 それなら、」

 そう決めて、 寧が代表で言おうとたら、

 

 「お医者さんがたっ、すいませんが来てもらえますかいっ!?」

 

 ただごとでない様子の男性が、寧の言葉を中断させた。

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 <にわか雨の如くに>

 

 「うぁっ、 あぃたたっ…」

 一刀たちが男性に付いていくと、そこは患者を集めて安静にさせておいてるの民家の一郭。

 おなかが大きくなった女性が寝台に横に寝かされていて、額に汗を浮かべて苦しそうにしていた。寧たちを呼びに来た、あの女性だった。

 「…これってもしかして、陣痛ってやつ、じゃあ…?」

 「…ご明察ですわ、北郷さん。」

 慈霊は女性の額の汗を拭って、落ち着いたこえで言った。 ところ、

 

 「陣、痛って、 …ぇぇえっ!!赤ちゃん生まれるのっ!?」

 

 桃香の声を皮切りに、くすぶっていた火種が燃え上がる。

 「なっ! あ、赤子が、生まれるのですか!?」

 「ど、どーすれだいいのだっ?」

 「で、でもこの人まだ生まれないって」

 「まさか今の状況がストレスになって出るのが早まったんじゃ…!」

 「す、しゅとれしゅって」

 「あぁそうかえっと 精神的な負担、だ!」

 

 その場の村人も含めて、一同狼狽。 場はちょっとしたイベント空間の如く、だった。 不謹慎だね、たとえ。

 

 そんななか。慈霊と華陀は冷静で、慈霊が女性の腹部に手を当てて一拍。

 

 「どうだ?」「…まだ少し早いようですが、しかし猶予もありませんわ。」

 因みにこれ、手から氣を発してさながらエコーかCTのように胎内をスキャンしているのだが、今は細かいこと言ってる場合じゃない。

 

 「孔明さんたち、私のつづらから残ってるきれいな布をありったけ持ってきて下さい 華陀、天幕を 男性がたはこの華陀と共にこの寝台の周りを天幕で囲ってください そちらはお湯を沸かして、どなたか子を取り上げたことのあるかたがいらっしゃったら連れてきて下さい!」

 

 状況を把握した慈霊が、救急現場と同じ凛とした強い声音で周りに指示。

 にこやかで柔和な、…ちょっと厄介そうな先程の雰囲気は失せていて、 一人の医者がそこにはいた。

 

 「わ、わかりましゅたっ!」「よしっ、手伝ってくれ!」「「「応っっ!!」」」「確かけいさんが経験あったねっ」「お湯はあたしがやっとくよっ!」

 

 慈霊の支持に皆が従って、現場はにわかに慌しく。先の混乱とは違う、意思のある騒がしさだった。

 「…慈霊さん、やっぱり…」

 

 

 「はい。  ここで取り上げます。」

 

 

 そう言い放つと、慈霊は桃香に向き合って、

 

 「劉備さん。早速授業です。」

 

 強くも優しい口調と表情で言った。

 

 「生まれる命、見ておくべきですわ。」

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 <あとがき>

 

 まずは前投稿作での質問に答えてくださったかたがた、感謝いたします。

 もう気にするのやめました。 目を通してくれるだけでも、字面通り「有難い」ことでした。

 

 で。

 

 またなんとも今回は氣だのなんだのと電波というのでしょうかなのが濃いでした。あぁもう文も乱れてきてますよちくしょう。

 しかし細かいトコはさして気にしなくてもいいです。裏設定とでも思ってください。

 

 ところで 陰陽五行において「仁」という気質は「木」の性質に含まれるとか。更に桃香の名には「木」である「桃」が入ってます。

 そしてこの物語には「医術は仁術」というのが混ぜ込まれてます。 これは偶然でしょうか。

 答え:偶然でした。思い返したら一致してて驚きました。ほんとに。

 

 さてあとは木の性質の色である「青」を出したいなとか思ってたり。こういうとこ、こだわりたいですね。

 いやもう考えていますが。しかしこれまた「どうなのこれ」って言われる思われるかもです。

 でももう気にしません。 …いや、そこは気にしろ。

 

 では。また次で。

 

 PS、 BUMP OF CHICHEN の「分別奮闘記」の歌詞のフレーズを思いつきで本文のどこかに入れました。気付いたら挙手。

 

 

 

 もういっこPS 華陀の本名は史実らしいです。「?」は 「ふ」とも「ほ」とも読むらしいですが、ここでは「ふ」にします。理由は特に無い。 べ、べつに調べるのがめんどいとかじゃないんだからねっ! と、いわゆるツンデレ風に言い訳になってない言い訳をしてみる。 気持ち悪いですね。失敬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
4話の(下)です。
ようやく華陀と慈霊の説明が終わります。

あと前投稿作の質問に応じてくれた方々、有難うございました。もう気にするの止めますね。
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コメント
シリウスさん 少し系統の違う鈍感さにしたいと思ってます。 極端な橋折は性格的にまず無理、ですよ。(華狼)
胡蝶さん これがヒートアイランド現象のはしり、なんですか?(訊くな)(華狼)
桃香のコンプレックスが少し解消したのと 華陀の一刀に通じる鈍感さ 面白かったです。展開はゆっくりのペースでじっくりと楽しめる続き期待してます。(シリウス)
面白かったです!華佗がいっぱい…気温が6度以上上がりそうなほど暑苦しい気が…(胡蝶)
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