少女の航跡 第2章「到来」 30節「使命」 |
カテリーナは、警戒と畏怖に襲われつつも、イライナと名乗った女へと近付いた。
ただの女ではない。背中には白い翼を持ち、全身から光を放っている。例えそれを除いたと
しても、この女が、人間などとは全く異なる存在だという事は、目に見えて明らかだった。
抜き放っていた剣は、相手へとは向けず、ただ、右手には握ったままのカテリーナは、イライ
ナと目線を合わせ、言った。
「イライナ…、あなたが、戦の女神…、イライナ…?」
カテリーナは珍しく、相手の姿に圧倒されつつ尋ねた。
「その通りだ…。カテリーナ・フォルトゥーナよ…。私はお前を迎えに来た。お前は、自分がこん
な所などにいる存在ではないという事、誰よりも分かっているはずだ」
イライナの声は、辺りに響き渡るほどのものだった。所々に反響し、まるで、天高くから声を
響かせているかのような錯覚を与えている。その声が、彼女が人間とは別物の存在であるとい
う事を際立たせていた。
「あなたは…、イライナ…、本当に…?」
カテリーナは畏怖を覚えつつも、目の前の神々しいまでの輝きを放つ女に近付き、そう言っ
た。
その時、砦の方から、慌しくバルコニーに飛び出して来る者達の姿。
「何!何! 一体、何が起こったの!」
「うわッ! 眩しい!」
それは、ルージェラとフレアーの姿だった。
「な、何、あの光は! ちょ…、カテリーナ…、その人は…!」
ルージェラはカテリーナの目の前に立つイライナの姿に驚き、声を上げる。ルージェラも、自
分のすぐ近くに降臨して来ていたイライナの姿には、彼女がただの人間ではない事が分かった
だろう。
「こ、これは…」
フレアーも、その感覚を肌で感じて理解したようだった。
だがイライナは、そんな者達が現れた事など、まるで気にもかけていないかのようにカテリー
ナへの言葉を続ける。
「カテリーナ・フォルトゥーナよ。お前には使命がある。お前が生をこの世に受けた時から、ずっ
と背負い続けてきた宿命がな…。今、その使命を果たすときだ」
と言い、イライナはカテリーナへと手を差し伸べた。
カテリーナは少し戸惑った様子を見せた。イライナに手を差し伸べられても、素直にそれを取
る事はせず、後ずさりし、イライナから距離を取る。
「どうしたのだ? お前の使命というものがあるだろう…?」
イライナは表情を変えること無く、カテリーナを見据え言った。
だが、カテリーナは右手に持っていただけの剣の刃先を、イライナへと向け、同時に鋭い眼
光をも放つ。
「あんたが何を言っているのか、分からないね。使命…、だと? この私に使命があるとした
ら、それはピュリアーナ女王陛下に仕える事さ…」
今までは、目の前の存在に対し、少し畏怖の態度を見せていたカテリーナだったが、今はそ
の表情を鋭いものへと変え、イライナを見返していた。
だが、カテリーナが見つめる女は、
「そんな事を…、まだお前はそんな事を言っているのか…!」
と、幾分も語気を増して声を轟かせた。
その声だけでもバルコニーが揺れ、砦ごと壊してしまうのではないかという程の迫力があるも
のだった。
「カ、カテリーナ…、これは…?」
まだ状況を上手く掴めていないルージェラが尋ねるが、カテリーナが立ち向かう相手は、目
の前にしかいなかった。
そこへ、私がやって来る。折れた脚を引きずりながら、何とか砦の階段を登り、ここまでやっ
との思いでやって来たのだ。
あのままあそこに倒れていれば、誰かに助けてもらう事ができたかもしれない。だが私は、確
かめたかったのだ。この目で。故郷を襲ったものと、全く同じような姿をした、この光の正体を
確かめたかった。だが、バルコニーに出てくるなり、
「ブ、ブラダマンテ…、あなた、その…、どうしたの…!」
と、フレアーによって心配されてしまう。何しろ脚が折れていただけではなく、あの黒い影のよ
うな怪物に襲われた時に付いた引っかき傷も全身にあったのだから。
「す、すぐに応急処置してあげないと!」
フレアーがそう叫んでいる間も、カテリーナと、彼女の前に現れた白い光との会話は続いてい
た。
「だから! あんた達の言っている事は、私にはさっぱり理解できない! 私の使命だとか何と
かばかり言っておいて、肝心な事は何も教えてくれないだろう…!」
カテリーナが語気を強める。だが、イライナは、その声をカテリーナの方へと集中させ、言葉
を発し始めた。
「我らは、『アンジェロ』…」
イライナ、と呼ばれる女の口からその声が響き渡らされ、私達も彼女の方へと目を注目させ
た。
「『アンジェロ』…?」
カテリーナがイライナへと剣を向けたまま、言葉を返す。
イライナはそんな彼女へと目を向け、言葉を続ける。
「…我らアンジェロは、この世に、幾つもの文明を生み出してきた存在だ。
世界を作り、人間を住まわせ、彼らに地上の発展を任せ、それを見守るのが我らの務めだ。
だが、人間を一つに纏め、文明を発展させる為には、必ず一人の指導者を必要とする。次の
文明の指導者が、お前なのだ。カテリーナ」
イライナの声には、強烈なほどの説得力がある。彼女の声は心の底にまで響き渡り、その心
自体が彼女に打ち負かされてしまうかのようだ。
だが、カテリーナの声は揺らぐ事は無かった。
「そんな…、突拍子も無い話を、信じられると思うか…? 『アンジェロ』…、だと…?」
イライナの口から発せられた、その『アンジェロ』という言葉は、一年ほど前にロベルトから聞
いた言葉だった。
それが今、目の前にいる、人とはかけ離れた存在から発せられる言葉として聞く事になろうと
は。
一体、目の前で起きている事は、一体何なのだろう? 突然、目の前で起こり始めた出来事
に、私は戸惑い、理解に苦しんでいた。
カテリーナの目の前にいる存在は、あたかも神か、その遣いであるかのような存在である。
圧倒的すぎた。
「ブラダマンテ…、しっかり…」
ふらつく私をかばうフレアー。彼女は私の事を心配してくれている。だが、この場に倒れる事
などできなかった。
「あの光、光は…」
私が今、目にしている光には、明らかに見覚えがある。あの故郷を襲った光、私の心の奥底
に焼きついている光と、全く同じものなのだ。
私の事など、見えてもいないかのようにイライナは言葉を続けた。
「私に歯向かうのか? お前は我々に頑として歯向かおうというのだな?」
「歯向かうという言葉が、適切なのかは分からないが、そうさせてもらおう…!」
カテリーナは剣を構えた。
その時、私は、折れた脚をひきずりながら、白い光の方へとゆっくりと脚を踏み出していた。
自分でも気付かなかったが、そうしていたのだ。
「カテリーナ…、その…、光は…!」
私はそう言おうとしたが、
「こっちに来るなッ! 下がっていろッ!」
と彼女に鋭く制止させられてしまう。
自らに剣を向け、立ち向かおうとしているカテリーナに、イライナはあくまで変わらぬ迫力で言
う。
「我らに歯向かおうというのか? この絶対なる存在である我らに? 良いか? カテリーナ・フ
ォルトゥーナよ。お前に与えられた超人的な力は我らが与えたものだ。その剣も、お前に宿る、
稲妻を操る力も。全て我らが与えたものだ…」
「何だと…!」
とは言われても、カテリーナに臆する様子は無い。
「お前は、我らには逆らう事はできない。大人しく従った方が身の為なのだ! 我らの持つ、地
上をも支配できる絶対的な力で、お前に思い知らせてやろう…!」
「うるさいッ!」
カテリーナはイライナの言葉を制止するかのような勢いで、剣を振り、彼女へと飛び掛ってい
った。
カテリーナはイライナに向って剣を突き出す。カテリーナの大剣が唸りを上げ、イライナを捕
えようとする。
だが、イライナは手にした盾を目の前に持ってきて、カテリーナの剣を受けた。いつもなら
ば、どんなものをも打ち破るカテリーナの剣だったが、イライナの盾は彼女の剣を完全に受け
止めてしまった。
傷一つ付けた様子は無いし、イライナの身体は少しも後退していない。それどころか、彼女
が防御に使った盾をそのまま振るうと、カテリーナの身体は大きく吹き飛ばされてしまった。
「分かったか…? この盾は何者の武器、いかなるものをも切断できる剣だろうと、どんなに屈
強なものを粉々にできる力であろうとも、打ち破る事はできない。全てを防ぎ、それを跳ね返す
事ができる…」
盾を構え、鎧を纏ったイライナの姿は、あまりに大きく、あまりに絶対的だった。彼女が放って
いる光そのものが、私達人間が、決して脚を踏み入れてはならないような、不可侵領域を示し
ているようだ。
あのカテリーナですら、簡単に跳ね飛ばされてしまっている。いつもは大きな存在に見えるカ
テリーナも、イライナの前ではかなり小さい存在に見えてしまっている。
「カテリーナッ! 今助けるッ!」
そうルージェラが言い、斧を構えてイライナへと立ち向かおうとするが。
「い、いいや…、近付くな…、離れていろ…!」
カテリーナがそんなルージェラを制止しようとする。
「どうやら、お前と私の大切な話を邪魔する者がいるようだな。ちっぽけな存在めが…」
するとイライナは、手に持っている槍。それも鏡のように磨かれた槍で、それ自体が光を放っ
ているものを目の前に掲げる。
すると、その槍から細い筋の光の束が溢れ出した。棒のように直線的で、槍から飛び出した
光の束が、私達の方へと次々と放たれてくる。
「避けろッ!」
カテリーナが叫び、私達は、その光に警戒した。次々と襲い掛かってくる光は、城塞のバルコ
ニーに、まるで何もかもをも突き通す槍であるかのように降り注ぐ。事実、光はバルコニーの
床に穴を開けて突き破っていた。
光はやがて収まるものの、バルコニーに開いた穴はまるで、砲撃にでもあったかのような有
様だった。イライナの放った光だけで、城塞の壁をも簡単に打ち破ってしまっていた。
「大丈夫か…?」
皆を気遣うカテリーナ。とりあえずイライナから距離をとっている私は大丈夫だったが、彼女
の方へと飛び込んでいったルージェラは、跪いたままだ。
「脚をやられちまったよ…、あたしとした事が、ねえ…」
地面に跪くそんなルージェラの右脚からは、とめどなく血が溢れ出していた。今の光の筋にや
られたのだろうか。矢で射られたものとは比べ物にならないような出血量だった。
「私とあんたとの話し合いじゃあ無かったのか!?」
カテリーナは、イライナに向って言い放つ。彼女にしては珍しく、怒りに震えたかのような声
だ。
「どうせ我々は、この地を滅ぼす。私の姿を見たもの、我々の目的を知ってしまった者は残ら
ずな…。お前を除いて、だが…」
「いいや、そんな事はさせない!」
カテリーナは剣を振るい、再びイライナの方へと飛び込んでいく。今度はカテリーナも全力で
斬りかかっていったのか、彼女の身体からは青白い閃光が迸る。イライナはそんな彼女の攻
撃を盾で受け止めるが、その瞬間。まるで大砲が激突したかのような衝撃が走った。
落雷が起こったかのような閃光が輝き、カテリーナの持つ大剣は、イライナの盾を砕こうかの
ような迫力を見せた。
だが、彼女の目の前の存在はびくともしない。それどころか、彼女の持つ盾には少しのひび
さえも入れられない。
カテリーナは今まで、どんな敵をも打ち破る剣の斬撃を見せてきた。彼女が打ち破れないも
のは無かったし、今の攻撃は、そんな彼女の攻撃の中でも、最も凄まじい攻撃だった。
今の攻撃ならば、分厚い鉄扉だって粉々にできてしまいそうな衝撃なのに。それなのに。
「ほう…。我らが与えた力を、そこまで使えるようになったのか…? 素晴らしい。だが、所詮は
与えられた力。私の前では到底及ばないだろう…」
「与え…、られた力…?」
カテリーナは呟く。
「そうだ。お前はこの世に生まれた時から、我らに与えられた者だ。そして我らに与えられた力
を持っていた。
お前は次の世代の指導者になるために、我らが与えた存在なのだ。お前がこの世界の誰に
とっても驚異的な力を持っていたとしても、それは我らが与えた者。お前は我らに従うしかない
のだ。お前の運命も、お前の使命も、我らの手中にある!」
そう言い放ったかと思うと、イライナは盾でカテリーナの身体を押しやり、更に、手にした槍で
彼女の身体を薙いだ。
カテリーナの身体は大きく吹き飛ばされ、バルコニーを飛び越え、城塞の壁へと壁を砕きな
がら飛び込んで行った。
「お前の力など、我らにしてみれば、こんなものなのだ。お前は我らに従うしかない。それがお
前の使命なのだ。カテリーナ・フォルトゥーナ」
イライナの声が響き渡る。それは大きく飛ばされたカテリーナにも聞えているだろう。
「カ…、カテリーナッ!」
私は城壁の壁を突き破り、瓦礫の中に埋もれてしまったカテリーナを心配し、呼びかける。
即座に瓦礫の中からカテリーナが姿を現した。とりあえず無事なようだが、鎧の所々にはひ
びが入り頭からは血が流れていた。
「あ、あんた…!」
再びイライナの方へと向って歩んで行くカテリーナにルージェラが呼びかけるが、カテリーナ
は何も答えなかった。
「まだ立ち向かうか? まだ立ち向かうのか…、カテリーナよ!」
イライナが彼女を高圧的に見据え、言い放つ。
「従うな、カテリーナ。そいつの言う事を信じるな…、カテリーナ…!」
そう言ったのはロベルトの声だった。こんな圧倒的な存在を前にして何故ロベルトがそんな事
を言えるのか分からない。
「ああ…、分かっているさ…。私は従うつもりはない…!」
カテリーナは再び剣を構えた。
「ロ、ロベルトさん…、何故…?」
と、私が彼に尋ねる暇も無く、
「愚かな存在め…! そろそろ思い知らせてやろう…! 我らが『アンジェロ族』が何故、この
世界に君臨でき、文明の存亡さえも自在に操れるのかをな…!」
そう言い放ったイライナは、今度は槍を天高く掲げた。彼女の持つ長く、白い輝きを持つ槍
が、そのまま中空を貫き、天高く突き通したかのような錯覚に襲われる。
いや、事実イライナの槍は天空を貫き通していたのだ。
彼女の掲げた槍から、一直線に空に向け、白い光が放たれている。まるで天まで延びる槍
が現れたかのようだ。
世闇を切り裂き、天からは白い光が現れた。昼間になってしまった。いや、それよりも更に明
るいかと思えるほどの光。
光、そう、白い光。あの白い光。
それが、天空からこちらに目掛けて落ちて来ようとしている。
この光。これはあの光だ。私の記憶の中に、昨日起こった事であるかのように、はっきりと残
っている光。
あの白い光が、今、私達の頭上に落ちてこようとしている…。
辺りが白い光に包まれ、白い空間が広がった。その空間が、私達の方へと堕ちてこようとす
る。
何が起こったのか。辺りが白い光に包まれたかと思うと、耳をつんざくような轟音が響き渡っ
た。
私達のいた城塞も、夜の闇も何もかもかき消してしまうかのように、私達は起こった爆風に吹
き飛ばされる。
砕けた城塞の城壁が、私達と共に吹き飛ばされていた。白い空間の中を、爆風にされるがま
まに吹き飛ばされる私。
しかしそんな吹き飛んでく私へと手を伸ばそうとするものがいた。それはカテリーナだった。
彼女自身も吹き飛ばされながら、私の手を掴もうとしていた。
白い光は平原へと落ち、その時に起きた衝撃で、城塞を粉々になるまで打ち砕こうとしてい
た。
白い光、白い光。これは、私の故郷を襲ったあの光と同じ。
次に目を開いたとき、私は、ものが焦げる匂いと、草原の草の感触を味わっていた。
思わずはっとして状態を起こす。ここはどこだろう。周辺は再び夜の闇へと戻っていた。私達
は砦のバルコニーにいたはずだったが、ここは一体どこなのか。
私の回りに転がっている瓦礫。それには大きく形を留めているものもあったが、それはあの
砦の瓦礫だった。
「ちょ…、ここ、どこォ…?」
煤だらけになりながら、私の側にいたフレアーが身を起こしていた。
「フレアー様、大丈夫ですか?」
と聞えて来るシルアの声もある。
「あの砦かい…、粉々に吹き飛んでしまったよ…。私達はかなり吹っ飛ばされたみたいだな…」
と既に身を起こしているカテリーナ。彼女は剣を構え、何かに対して警戒を払っている。
「さ、さっきの…、あれは…?」
ルージェラも、瓦礫の向こう側から身を起こす。どうやら怪我を負っている彼女はロベルトに
かばわれる形になったらしい。
「あそこにいる…、あの光だ…」
と言って、ロベルトは指を指す。その方向に砦があったのだろうか。
だが、その方向には白い光が見えていた。あのイライナの放っている光に違いない。
このまま逃げてしまおうという判断を皆はするだろうか? あの存在は圧倒的過ぎた。とても
太刀打ちできるような存在ではない。
カテリーナですらかなわないような相手。それはつまり、私達の誰にも太刀打ちできない存在
と言うわけだ。
だが、カテリーナはじっとその白い光の方向を見たままだ。全く譲らない。その場から逃げ出
そうともしない。
「あんた…! どうするつもり…!」
ルージェラが、白い光の方を見つめるカテリーナに言った。
「私が、食い止める…!」
カテリーナはただ一言そう言った。しかし、
「何言ってんのよあんたは! あんたでもかなうわけ無いでしょう…! 砦一つ、跡形も無く吹
き飛ばすような相手なんだよ…!」
白い光は、こちらへと向ってきているようだった。それは夜の闇の中を移動してくるただの光
のようにしか見えない。
だがその光は、砦一つを消し飛ばしてしまうような存在であると知っている私達は、危機感を
感じていた。
「逃げたいのならば、あんた達だけ逃げな…。私には分かっている。あのイライナは、この私を
利用して、何かとんでも無い事をしでかそうとしている…。『ディオクレアヌ』も何もかも、最初か
らそう決められていた事なんだろう…?」
カテリーナはじっと白い光の方を見つめていたが、どうやらロベルトに話しかけているようだっ
た。
「ああ…、そうだ…。奴らは君も、何もかもをも利用しようとしている…」
「だったら、尚更、あんたが逃げないと…!」
と、ルージェラは言うのだが、
「逃げたって、どこまででも追って来る。ちょうど今、天から現れたように。まるで、どこからでも
私を見ているかのように襲い掛かってくる…。そして、この私を連れ去ろうとする…」
「ちょ…、ブラダ…、あんたその脚!」
カテリーナの声を遮るかのように、フレアーの甲高い声が響き渡る。
「い…、今のじゃあないんだけど…、脚…、折っちゃって…、そ、それが…」
私が言い終わらない内に、フレアーがさらに畳み掛ける。
「治さないと…! 治療しないと…!」
私を気遣うフレアー。確かに脚の痛みは増してきていたし、今は誰かの助けがないととても立
てそうに無かった。
もしこの場から逃げるのならば、誰かの助けが必要になる。
「光がこっちに来るッ!」
ロベルトが叫んだ。
光が迫って来る。一気にその距離を縮めてくる。光の先端に棒状の槍が現れ、そこへと光の
筋が集中して行く。
私達に接近しつつ、光、そしてその中にいるイライナは私達に向って、光の束を放った。
それは細い光の筋。何者をも貫く、どんなものよりも鋭い槍。
光はカテリーナを中心に狙ってきたようだったが、放射状に溢れてくる光の筋は、カテリーナ
の近くにいる私をも襲い掛かってくる。
折れている脚ではその光の筋を避ける事などとてもできそうになかった。
私に向って光が迫って来る。
故郷を滅ぼした、あの光と同じものが。
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31.女神
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カテリーナの前に現れた存在は、戦の女神であるイライナと名乗り、カテリーナを導こうとしますが…。 |
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