真・恋姫無双〜君を忘れない〜 三十話 |
一刀視点
「え? あの、頭を上げてください!」
急に月の前で跪いた袁紹さんを、俺はすぐに立たせた。さすがに街中でこんな真似をさせるわけにはいかない。すぐに皆を連れて城まで向かった。紫苑さんたちは気を使ってくれたのか、途中から俺たちと別行動を取ることとなった。
城の一室で、俺と月と袁紹さんたちが向かい合って座る。月が俺たちの分のお茶を準備してくれた時点で、袁紹さんに反董卓連合で俺たちが張譲を身代わりにして月を救出したことを説明した。
「そうですの……、そんなことが。わたくしてっきり董卓さんは……」
袁紹さんの表情は暗澹としたものになっている。後ろに控えている二人の少女はそれを心配そうに見つめている。どうして袁紹さんたちがこの地にいたのかは分からないが、きっと彼女たちもまた何かを背負っているのだろう。
「袁紹さん、俺たちはあなたが袁紹さんだからと知ったからって、別にどうこうするつもりはありませんよ。それにあなたが永安のために尽力してくれたことに変わりはない。反乱軍を代表してお礼を言わせてください」
「いえ、わたくしはお礼を言われる資格はありません。いくらあの戦いが張譲と袁家の老人たちが仕組んだ謀であったとしても、わたくしが愚かだったばっかりに、多くの人間が亡くなりましたわ。董卓さん、貴女だって、名を捨てるなんてことにはならなかったのではなくって」
袁紹さんの表情は頑として俺たちの言葉を受け入れないと語っていた。それは己に課した宿命であると言わんかのように、悲哀に満ちた瞳は今にも涙を零しそうだった。
「麗羽様……」
「姫……」
二人の少女は何か言いたげな面持ちだったのだが、袁紹さんの気持ちを察しているのか、ぐっと俯いたきり、結局何も言えないでいた。
目の前にいるこの女性は、自分が犯した過ちを悔んで、己を激しく責め抜いても尚、自分が許される立場にいないと思っている。自分が自分を許せないのだから、俺のような何も知らない人間が、どんな台詞を彼女に投げかけたとしても、それは何の意味を為さないのだろう。きっと後ろの二人もそれが分かっているから、何も言えないんだ。
俺が彼女と同じ立場にいても、きっと同じことを思うに違いない。それだけあの反董卓連合は多くの人を傷つけたんだから。あの戦いは皆が被害者なんだから。
もしも彼女に何かを言える人間がいるとしたら、それはあの戦いの最たる被害者であるこの人しかいないんだろうな。
「袁紹さん、こっちを見てください」
ここまで沈黙を貫いていた月が初めて口を開いた。その表情は、俺が初めて天水の地で彼女と出会ったときと同じ、君主としての月だった。全ての人を愛した慈愛の君主の表情だった。
ああ、最初から俺は必要なかったんだ。ほとんど部外者で、あの戦のことなんて断片的にしか知らない俺には、何かを語る術なんて持っていない。連合軍の大将であった
袁紹さんを救えるのは、対極の位置にいた、董卓軍の王、月しかいないのだ。
月視点
詠ちゃんから伝令で、永安が危機に陥っていることを聞き、少数ではありますが、援軍を率いて永安に向かいました。途中で永安からの早馬に出会い、そこで反乱軍が勝利をしたことを聞き驚きました。
すぐに永安に行き、北郷さん、いえ御主人様の許に行くと、そこにはかつて反董卓連合を組織し、私たちに襲いかかった袁紹さんがいました。
初めて会ったときの印象とは大きく違い、その表情には蔭りがありました。まるで過去に犯したことに苦しく葛藤し、何かを背負っているような表情です。それはとても美しく、また儚いものでもありました。
もっとも、そんな驚き、彼女が私に気付くや否や、その場に跪いたところを目の当たりにしたことと比較すれば些細なものに過ぎないのですが。彼女がそんなことをするようにはとても見えなかったのです。
御主人様の指示で、すぐに袁紹さんを起こして、私たちは城へと向かいました。市街の真ん中であんな姿を民に見られるのはあまり良いこととは言えませんものね。
なぜ彼女はここにいるのでしょう? そしてなぜ私の前であんな姿を晒したのでしょう? 袁紹さんは茫然とした面持ちで、黙って座っています。
御主人様は反董卓連合であったこと、張譲を董卓の身代わりとして曹操さんに引き渡したこと、そして、私がその名を捨て、月という人物として御主人様の側で使えていることを簡潔に説明しました。
「そうですの……、そんなことが。わたくしてっきり董卓さんは……」
袁紹さんの目には涙が滲んでいました。きっとこの人もあの戦いを後悔しているのでしょう。あれは本当に悲惨なものでした。多くの人を傷つけ涙を流させました。この人もあの戦いの犠牲者なのですね。
「袁紹さん、こっちを見てください」
私は意を決して彼女に話しかけました。このままでは彼女はきっと闇に囚われたまま、その生涯を苦悩と葛藤に苛まれたまま、終えてしまうでしょう。それは悲し過ぎます。
袁紹さんは恐る恐るこちらを見ました。その自虐と後悔に満ちた瞳を、決して逸らすことなく私は凝視しました。
「袁紹さん、私はあなたのことを恨んでなんかいませんよ。確かにあの戦いがなければ、名を捨てるなんてこともせずに済みましたが、それでも、そのおかげで私は御主人様にお仕えすることが出来ました。私は今の私で十分幸福を得ています」
私は袁紹さんに本音を言いました。確かにあの戦争で私も多くの物を失ったのは事実ですし、負の感情がないと言えば嘘になります。でも、過ぎたことを嘆いても何も始まりません。私には今の暮らしもかけがえない物になっているのです。
「だからもう頭を下げなくてもいいんですよ。あなたもあの戦いの被害者なのです。全ての責任を負おうなんて考えないでください。私で良ければ一緒に背負わせてください」
「あ、貴女……、わたくしを許して下さるんですの? あんな酷いを仕打ちをして、貴女から様々な物を奪ってきたのに……」
「はい。許す許さないも、最初から私は誰も恨んでません。だからもう苦しまないでいいんですよ。自分を責めなくていいんですよ。あなたの悲しみも後悔も全て水に流しましょう」
「ありがとう……わたくし……」
私は嗚咽を漏らしながら、もう言葉を発することの出来ない袁紹さんをそっと抱きしめました。溢れる涙を指で掬って彼女に微笑みました。
「もう泣かないでください。美人が台無しですよ?」
麗羽視点
董卓さんが生きていた、それは驚くべき事実ではあったのですが、彼女はこんなわたくしを許して下さったのです。彼女は涙でボロボロのわたくしの顔に触れて、笑いかけてくれたのです。
わたくしは罪深い。その事実は揺るぎませんの。でも彼女はそれを一緒に背負ってくれると言ってくれました。もう苦しまなくていいと言ってくれました。
「御遣い様、貴方にお願いがありますわ」
「え?」
そこで御自身に話が振られると思っていなかったのでしょうか、御遣い様は調子の抜けた声を発しながら、わたくしを見ました。反乱軍の兵士を見たときに、きっと彼らの主は器量のある優れた御人だと思いましたわ。
最初に御遣い様にお会いしたとき、正直なことを言わせていただくと、あまり頼りになる御方だとは思いませんでしたの。でも、彼の瞳を見たときに、吸いこまれるような魅力を感じました。清泉のように澄んでいて、だけど烈火の如くに滾るその瞳に。
「わたくしを皆さんのお仲間に加えていただけないでしょうか?」
「それは願ってもないことだよ。俺たちの方もそれを望んでいたんだから」
「本当ですの? ……自分で言うことではありませんが、わたくしは貴方が思っている程の人材ではありませんのよ。多くの人が、わたくしが愚かだったせいで……」
「袁紹さん、それはもう言わないって月と約束したでしょ? それに俺も御遣い様なんて呼ばれる柄じゃないですよ。一人じゃ何も出来ない凡人ですから」
頬を掻きながら苦笑を浮かべる御遣い様。この人はずっと前を向いていらしたのね。自分に何の取り柄がなくても、それでもただひたすらに前に進む、それは言うほど簡単なことじゃないですわ。
「斗詩、猪々子、ごめんなさい。勝手に決めてしまって。これはわたくしの我儘ですの。だから貴女たちは……」
「何言ってるんですか! 麗羽様、私たちがいないとご飯も食べられないでしょ!」
「そうですよ、姫! 姫はアタイたちが必要なんですよ!」
「貴女たち……、そうでしたわね。わたくしは貴女たちがいないと本当に何も出来ないんでしたわ」
ありがとう二人とも。わたくしは本当に貴女たちがいて幸せ者ですわ。もう絶対に離さないと決めたんですものね。
「それでは御遣い様、わたくしども三人を臣下に加えてください」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。そういえば自己紹介がまだでしたね。俺の名前は北郷一刀です。御遣い様なんて堅苦しい呼び方は止して下さいね」
「分かりましたわ。それでは一刀さんってお呼びしますね。私の真名は麗羽。袁紹という女性は河北にて死にました。斗詩、猪々子も挨拶なさい」
「はい、私は顔良、真名を斗詩と言います。よろしくお願いしますね、御主人様」
「アタイは文醜、真名は猪々子だ。よろしくな、兄貴!」
「いや、御遣い様と呼ばないで言っただけで、御主人様も……。そ、それに兄貴ってどこからその呼び名が……」
「いいじゃんかー。麗羽様の主なら、アタイにとっては兄貴だ!」
斗詩と猪々子に詰め寄られて、顔を赤くするなんて、意外に初心なんですのね。フフフ……可愛らしい方ですわ。この御方ならば、董卓さんが心酔してしまうのも無理もないですわね。
「董卓さん、いえこの名はもう捨て去ったのでしたわね。わたくしの真名受け取ってくださるかしら?」
「はい、勿論です。私の真名は月です。麗羽さん、よろしくお願いします」
一刀視点
それから数日後、永安に反乱軍の将が勢揃いしたときに、改めて麗羽さんのことを紹介した。永安の地を救ってくれたことに再度礼を言い、俺たちの仲間になりたいという彼女の要望を告げた。
さすがに詠はそのことについてあまり面白くなさそうな表情をしていたが、月から説明を受けると、仕方なさそうに自分の真名を麗羽さんに預けた。他の将も真名を預け合い、正式に俺たちの仲間になった。
そんなときだった。劉璋ちゃんが昏睡状態から目覚めたという報告が入り、俺たちは彼女の眠る医務室へと足を運んだ。
そこにいたのは、以前のように瞳を無にした少女ではなく、利発そうな顔立ちで俺たちを迎えた姿だった。劉焉が何かの術によって操っていたようだけど、今はその様子は見受けられない。
文官がこれまでの経緯を説明して、それを理解したと聞いている。この少女は今、何を思っているのだろうか?
反乱軍への憎悪か。それとも……。
「主が御遣いじゃな。余が劉璋じゃ」
静かだが、どこか気品のある声。俺を凝視し、そこに何か決意を秘めたような眼差し。俺はこれから彼女が何を言うのか耳を澄ました。
「余を救ってくれたことに感謝する。故に余は決めた。これからは主のために一生尽くすことを、のう、お前様」
頬を朱に染めて両手を頬に添えながらそう呟いた劉璋ちゃん。
「へ?」
俺は間抜けな声を発しながら彼女の言ったことを理解出来ずにいた。
「む? 分からなかったのか? こんなことを何度も言わせるでない。余はお前様を夫とし、一生お前様のためにこの身を捧げると言ったのじゃ」
「………………」
ええ! この娘、何言ってるの! 夫ってことは、俺と結婚するってこと! いやいやいやいや!
「お前様、余を大事にしてくれよ……」
ぴとりと俺の腕に頬を付ける劉璋ちゃん。そして潤んだ瞳で俺を見つめると、静かにそのまま瞼を閉じた。
「いや、ちょっと待って! って、うわっ!」
凍ったままの思考で彼女を離そうと身体を動かしたため、足を縺れさせてしまい、転倒しそうになった。このままでは彼女も巻き添えになってしまうから、目の前にあった寝台に転がり受け身を取る。
それは結果的に彼女を押し倒すような形になった。
「お、お前様は、意外にも、せ、積極的なんじゃな……。人前でこんなことをするのは恥ずかしいが、お、お前様が望むなら、余は……」
俺の下で顔を真っ赤にしながら、覚悟を決めたようにぎゅっと瞳を強く閉じる劉璋ちゃん。そこで俺は気付いたのだ。
扉には他の人たちがいるということを……。
「へぇ、あんたはそういう趣味があったわけ?」
頬ををぴくぴくと引き攣らせながら口を開いたのは詠だった。彼女の背後には何やらどす黒い気が見えるのだけど、今は弁明をしなければ!
「まさか! こんな幼い子供にそんなこと……」
「お前様、失礼なことを申すな。余は成人を迎えておる。いつでもお前様を受け入れる準備は出来ておるのじゃ」
お願いだから、少し黙っていて!
「へぅ、幼顔が好みなら、私も……」
「ちょっと月! 何言ってんの! 早くこっちに戻ってきなさい!」
詠が完全に向こう側に行ってしまった月の肩をぶんぶん揺さぶる。その内に他の人間を味方にしようと、長年付き合いのある焔耶に助けを求めた。
「え、焔耶! お前なら分かるよな! 俺がそんな気がないことを……」
「一刀……お前やっぱり……あのときも本気で璃々を……」
嘘! 璃々ちゃんの件は桔梗さんが説明してくれたんじゃ……。あぁ! 桔梗さん、その楽しげな表情は焔耶に説明してないな! しかも今の状況を心から楽しんでやがる。
「うぅ、竜胆、雅、お、お前たちならもう俺がどんな人間なのか分かってくれるよな?」
「御主人……劉璋様を泣かせたら……斬ります」
「一刀はんは幼女が好きなんどすねぇ。せやったら、幼くなる薬でも開発せんとあかんなぁ」
おかしいな。竜胆認めてるよ? あなた、この子を助けたかったんじゃなかったの? それに雅は何をクスクス笑いながら、恐ろしいことを言ってんの。
完全に窮地に陥っている。麗羽さん達三人は、完全に引いているみたいで、冷たい視線でこっちを見ている。駄目です、それ以上はその視線で俺を殺せます。
そこに恋さんがそっと近づいてきてくれた。やはり最後に頼りになるのは彼女しかいない。期待に満ちたまま彼女を見た。
「…………一刀のバカ」
そう言ってぷいと顔を背ける恋さん。どうしよう、完全に味方を失った。
いや、待て待て待て! そうだ! 俺にはあの人がいるじゃないか! ピンチのときは常に俺を優しく包み込んでくれた、紫苑さんという恩人が!
最後の希望を頼りに紫苑さんがいる方に視線を向ける。
紫苑さんが優しく微笑んでいた。しかし……。
「そうよねぇ? やっぱり若い方が良いに決まってるわよねぇ? そうでしょ、一刀くん。そうなのよね、一刀くん。答えてよ、一刀くん。ねぇ、ねぇ、ねぇ」
怖えぇ! 目が完全に笑ってない! ダメだ、このままじゃ確実に殺される。あの目は人を狩る目だ!
完全に味方を失い、狼狽の極みに達しているとき、微かに聞こえたその音に俺はふっと笑みを零した。
そう。最初からこうなることは分かっていたのだ。
「いつまでその子の上にいるですか! このち○こ人間がぁぁぁぁ!」
「げぶうぅぅぅぅぅ!」
そう。お前が登場するときは絶対こうなるんだよな、ねね。
だがしかし、俺は今だけお前に感謝するぜ。これ以上冷たい視線に晒されたら、確実に心が砕け散っただろうからな。
「お、お前様ぁぁ!」
劉璋ちゃんの悲痛の叫びを子守唄に俺は意識を闇に委ねた。
それから意識を取り戻した俺は、土下座で皆に謝りながら、何とか命だけは助けてもらえるという温情をいただいた。
その後に、劉璋ちゃんは体調が完全に戻ったら、紫苑さんが引き取ることになった。竜胆がそれを立候補したのだけど、桔梗さんが一蹴した。その理由は、竜胆はどうやら子供には激甘らしく、どういう意味かと尋ねたら、ねねを見ろ、と言われた。勿論、俺は黙って頷くことにしたが。
劉璋ちゃんの真名は『桜』というそうで、彼女は劉焉に操られている間の記憶はほとんど失っているそうだ。俺との関係については、とりあえず保留とい事で勘弁してもらった。決して諦めぬぞ、と言っていたけど。
その日の夜、いろいろあって疲れた俺は、久しぶりに紫苑さんの屋敷の屋根の上で月と未だ絶えぬ民たちの喧騒の声を肴に酒を飲んでいた。
あんな馬鹿なことで騒いでいたけど、本当に反乱は終わったんだなぁ、なんて柄にもなく郷愁に近い感情に浸っていた。やっと二人の宿願を果たすことが出来たことに喜びを噛み締めるも、それを酒と共に一気に飲み下す。
大変なのはこれからなのだから。
反乱が終結しても、その後に残っているのは益州の統治。劉焉亡き今、この地を安寧なものにするのは俺たち自身なのだ。俺は反乱軍を率いた以上、責任を持って、この地を治めなくてはならない。
だけど自信がないのも事実だ。
俺が見てきた王、月や翡翠さん。どちらもタイプは全く違うけど、共通しているのは優れた王の器であるということ。民や家臣に絶大的な信頼を得て、自らが治める地に繁栄をもたらせている。
俺はどうだろうか?
俺には際立った才なんてない。ここまで来られたのは、偏にみんなの力を借りられたからに過ぎない。俺個人という存在にそこまでの器はない。
どうしようもなく襲い来る不安。
逃げ出したくなるような恐怖。
責任という名の重圧。
反乱を終えた喜びの裏に紛れる負の思考。
それを飲み込むように酒を呷るが、全く酔えないことに気付き、ふぅ、とため息を吐く。桔梗さんと旅をして、月と出会い王としての真摯な態度に心を打たれ、翡翠さんに出会い王としての覚悟を示された。あれから俺はどれくらい成長したのだろう。
益州の君主となるということは、翡翠さんや曹操さんと肩を並べるということだ。今は乱世、もしかしたら剣戈を交えることもあるだろう。その争いは、反乱軍とのそれとは大きく様相を変えるはずだ。
国をかけての一大勝負。敗北すれば全てを失い、多くの人間の涙や血が流れる。その重圧に俺は果たして耐えられるのだろうか。その大き過ぎる代償を果たして俺は払えるのだろうか。
「あー! お兄ちゃん、見ーつけた!」
その泥沼の思考から俺を引き上げたのは、毒気のない無邪気な声だった。
「まったく、探したんだよー」
璃々ちゃんは俺のところまで、てててと歩いてくると、当然の如くに俺の膝の間に腰を据えた。少し御立腹のようで頬をぷぅと膨らませている。その何とも言えない可愛さに少しばかり心のさざめきが鳴りを潜める。
「どうしたの、璃々ちゃん?」
「今日はお母さんが、桔梗さんとお酒飲みに行くって言ってたでしょ? だから璃々とお留守番しなくちゃいけないのに、お兄ちゃんまでどっか行っちゃうんだもん!」
「あぁ、そうだったね。ごめんね、璃々ちゃん」
そう言いながら頭を優しく撫でると、すぐに機嫌を直したようで、俺に身体を預けながら、一緒に月を眺める。
「お兄ちゃん? また何か悩み事なの?」
「ん? どうして?」
「そんな顔してるよー」
璃々ちゃんには隠しごとが出来ないな、と苦笑しながらも、どうしたものかと思案する。悩みといえばそうなのだけど、こんなことを璃々ちゃんに相談できるはずもない。
「んー。璃々ちゃんって成都まで一人で行ける?」
「えー? 行けるわけないよー。遠いもん」
「もしさ、紫苑さんから成都まで買い物を頼まれたらどうする?」
璃々ちゃんは俺の瞳を見ながら考えているようだ。中身は違うけど、似たような質問を璃々ちゃんにして、どう答えるかを見てみることにした。
「えとね、璃々、頑張って行くと思うよ」
「どうして?」
「だって、お母さんがそれを頼むんなら、きっと璃々には出来るって思うからでしょー。だったら璃々はその期待に応えられるように頑張るよー」
楽しそうに微笑みながらそう璃々ちゃんは答えた。
「お兄ちゃん、何か難しいこと頼まれたの? 仕方ないなー、だったら璃々が手伝ってあげるよ」
「え?」
「きっと璃々が難しいこと頼まれたらお兄ちゃんは助けてくれるでしょ? だからお兄ちゃんが困ってたら璃々が助けてあげる。お兄ちゃんは大切な人だもん」
その満面の笑みを見て、俺は憑き物が落ちたかのように心が軽くなった。答えは最初から俺の中にあったのだから。
「そっか。璃々ちゃんが手伝ってくれれば、きっと俺も出来るよな、ははは……」
何故だか笑いが零れた。
「あー、璃々には何も出来ないと思ってるでしょー?」
ごめんごめん、と璃々ちゃんの頭を撫でて謝る。
あー、俺って本当に成長してないや。俺は一人なんかじゃなかったんだ。紫苑さんも桔梗さんも焔耶も、璃々ちゃんだっている。皆が俺を助けてくれる。困ったときは頼ってくれって紫苑さんも言ってたじゃないか。
「璃々ちゃん、ありがとうな」
俺は小さくそう呟いた。
明日からは反乱軍の大将ではなく、益州の君主としての役目を果たす。
皆がいれば、きっとこの地に平和を築けるはずだ。
オリキャラ紹介
劉璋(真名:桜)
劉焉に操られていた娘。桜色の綺麗な髪を腰まで伸ばす。
聡明そうな顔立ちに、くりっとした薄水色の瞳。
艶やかな着物を身に纏う美幼女。ただし成人。
助けてもらった一刀に恩を返すために、妻となって奉仕することを決める。
一刀のことは主様(あるじさま)、お前様、旦那様などと呼ぶ。
紫苑の家に迎えられ、璃々ちゃんとともに騒動を起こすとか起こさないとか。
あとがき
第三十話をお送りしました。
言い訳のコーナーです。
さて、前回までのガチシリアスはどこへやら。
酒に酔った勢いで書いてしまった作品。
後悔はしていない、だが反省はしています。
シリアスが得意と言いながら、ギャグにチャレンジした勇気に免じて許していただけると有り難いです。すいませんすいませんすいません。
さてさてそんな勢いのみの作品ですが、麗羽様も桜ちゃん(劉璋ちゃん)も仲間になり、一刀も益州の君主として新たなる覚悟も決めました。
これから争うことになるのは、西涼の王者、翡翠、河北の覇王、華琳、江東の小覇王、雪蓮、そして未だにその姿を表さぬ天下の大徳、桃香。
一刀は誰と戦い、はたまた誰と手を結ぶのか。これからは対外勢力についても描写していきたいと思います。
そして紫苑さんとの関係に発展するのか。まさかの一刀の嫁発言をした桜ちゃんとの三角関係となるのか。
次回も頑張って書きたいと思います。見捨てないでくださいね。
相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。
誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。
説明 | ||
第三十話の投稿です。 どうしてこうなった……。全ては酒のせいです。前回のシリアスな麗羽様の話を全てぶち壊すほどの酷い駄作。皆様の期待に応えられず残念無念。 今回は反乱後のちょっとした小話です。言い訳はあとがきにて。 コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます! 一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。 |
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桜さんかわええ(オシリス) きのすけ様 ご指摘感謝します。修正致しました。美羽やら朱里やら雛里やらロリにも散々手を出したのでは?(笑)(マスター) 詠が月に「あんた」呼ばわりしているのはとても違和感 確か一刀は幼女には手を出してないはずw 美羽とかには出したけど(きの) シグシグ様 桜は温めてきたキャラでもあるので、今後の活躍に期待です。何だかんだでここの一刀も種馬には違いないんでしょうね。(マスター) 砂のお城様 恋も高順のことを乗り越えることが出来たのでしょうね。桜はいろいろと活躍させる予定です。それから紫苑さんのヤンデレ……恐ろしい限りです(笑)(マスター) 劉璋ちゃん、良い性格してますねwww今後、トラブルメーカーとなってどんなトラブルを引き起こすのか楽しみです。さらに、一刀と仲間達との関係がどう発展していくのかたのしみです。(シグシグ) |
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