あなたの想いが届くその日まで弐
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「――見守りましょう。あなたの決意がどんな結果を迎えても」

 

その言葉は誓約。

 

魔法的な拘束力があるわけではないが、それゆえにどんな解呪の呪文も効果が無い。

 

――あなたの選んだ先は幸せな未来なのでしょうか。

 

 

 

 

 

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今日は魔王様からの連絡がある日。

旅に出たいと言われたときに、本当は一緒に着いて行きたかったのだけれど・・・。

もう何度同じことを思っただろうか、どうしようもないことは分かりきっているのだけれど。

薄暗い部屋の中で水晶玉をなぞる。少し汚れている箇所を見つけたため、綺麗にふき取る。

ちょっとした汚れだったが、魔王様の声が伝わるこの水晶玉は綺麗にしておきたかった。

本当はすぐにでも此方から連絡をして声を聞きたかったが、残念なことにこの水晶玉は受信専用。

魔王様からの連絡があるまで待つしかない。

まぁ私から連絡ができるとしても、迷惑をかけてしまうのは極力避けたい。

 

「もう少し・・・・・・かな?」

 

確か予定では昼過ぎ頃に連絡をすると約束してあるので、もうしばらくしたら連絡が――

――机の上で微かに水晶玉が震えたため、考え事を中断する。

水晶玉はゆっくりと浮き上がり、無色透明からうっすらと青みがかる。

魔王様の水晶玉と繋がった。

 

「――お待ちしておりました」

 

 

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「あのときはぐらかされた理由を聞いても宜しいですか?」

 

魔王様に聞いてみたかったことを聞く。理由は大体想像がつくが魔王様の口から聞いておきたい。

 

「理由についてはあの時伝えただろう?」

「確か『私は正義に目覚めた!これからは勇者とともに行く!』でしたか?アレは嘘ですよね」

 

あのときの魔王様は落ち着きが無く、目が泳いでいた。

あまりに分かりやすく可愛かったので、そのまま追求しなかったのだ。

 

「・・・・・・」

「あくまでもアレが真実だというなら、私はお暇を頂くことにしますが」

 

ちょっと卑怯かなとも思いつつ、もう少し探ってみる。

 

「それはッ!・・・・・・まぁ・・・嘘・・・だが」

 

あ、認めた。

 

「卑怯ではないか?それを持ち出されると私は――」

「大黒柱無き家を支えるのも大変なのですよ。少しぐらい褒美が欲しいではありませんか」

 

魔王様が不在状態の城では、現在私が指揮権限の大半を預けられているが、

一部の反抗的な集団は魔王様が居ないため言うことをあまり聞こうとしない。

先日も魔王様が不在の件について言及を受けた。

とりあえずは誤魔化すことには成功したが、粘着質な奴らだからまた問い詰めてくるだろう。

思い出したら少しイライラしてきた。

 

「・・・・・・その褒美がその質問なのか?」

「えぇそうです」

「・・・・・・金とか物とか欲しいものはないのか?」

「まぁ欲しくない訳ではないですが、今はそんな気分ではないのです」

 

――少し言葉が厳しかっただろうか?言い方に棘があった気がする、反省。

 

 

「私は勇者のことが・・・・・・好きだ。愛している」

 

 

――――ッ!

 

 

「・・・なんか、私が告白されてるみたいで、照れますね」

 

 

私は何を言っているんだろう。魔王様は、勇者のことが、好きだと言ったのだ。

 

――勇者のことを愛していると。

 

勇者に興味がある事は分かっていたし、惹かれているのでは?と思ってはいたが。

 

 

「ふむ、『勇者のことが好き』ですか、意外とあっさり認めましたね。また誤魔化すかと思いました」

「それは――嘘を付いてお前が居なくなっては、私が困る」

 

ただでさえ動揺していた私は、魔王様のこのセリフで完璧に固まってしまった。

(・・・・・・魔王様、それは『告白』みたいなものでしょうがっ!)

頭の回転は良いはずなのだが、少し天然でもあるようだ。

(分かっています。あなたはそんなつもりが全く無いことは。でも――)

 

「ふ、まぁいいでしょう。聞きたかったことには正直に答えてくださったようですし」

 

顔が綻んでしまう。声が高くなっていないだろうか?自分では良く分からない。

これが声のみの通信でよかった。恥ずかしくて魔王様には見せられない。

 

「・・・分かってて聞いたのか、お前は鬼だな」

「ご存じなかったですか?鬼は嘘が嫌いなんですよ」

 

今の私は顔を見られるのも嫌いです。

 

 

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魔王様との会話は楽しかったが終わりの時は思ったより早く来てしまった。

 

「すまない、これから冒険なんだ。」

 

先ほど勇者が魔王様を呼んでいた声が僅かに聞こえてきた。忌々しい。

 

「分かりました。ではまたご連絡お待ちしております。――魔王様」

「あぁ、近いうちに一度戻ろう。それまでよろしく頼む」

 

その言葉を最後に通話が切れ、浮いていた水晶玉が元の位置に戻る。

水晶玉が発していた僅かな光が失われ、明かりの無いこの部屋の中は暗くなる。

 

「――キキ様、お話終わりました?」

 

私を呼ぶ声がする。暗くなったことで通話が終わったのが分かったのだろう。

 

「えぇ、もう終わったから入ってきてもいいわよ。アカネ」

 

私の許可が出たとたんアカネはすぐに駆け寄ってきた。

 

「キキ様、魔王様はお元気でしたか?」

「そうね、元気みたいよ。ちょうどこれから冒険に出るみたい」

「冒険ですか、いいなぁ」

「あら、アカネにはまだ冒険は早いと思うわ。もっとしっかりしてからね」

「あたしだって、十分にしっかりしてますよ!」

 

アカネは納得できないという顔をしているが、この子は肝心なところで失敗することが多い。

つい先日は財布を持たずに買い物に行って、とぼとぼ帰ってきたばかりだし、

そういえば出会ったばかりの頃、私に悪戯を仕掛けたこともあったが、結局自分のミスで大怪我しかけたっけ・・・。

 

「あのー、キキ様?」

 

考え事をしていた私はアカネの言葉に、再び意識を目の前に戻す。

そんな私の顔を伺いながら、アカネはゆっくりと口を開いた。

 

「あの、あたし、会いに行きたいです!行っちゃ、ダメですか?」

「魔王様のところに?行かせてあげたいけれど・・・・・・ダメよ。」

 

アカネは大好きなオヤツを取り上げられたように俯いてしまった。

私はふわふわで柔らかい頭に手を置き優しく撫でる。

撫でられるのが気持ちいいのか、嫌がるそぶりは無い。

 

「まぁ・・・今はまだ、ね」

 

(会いに行く・・・・・・それも一つの手、かな?)

魔王様からの定期報告があるとはいえ、ここに居てはあちらの正確な情報が不足してしまう。

とはいえ私は魔王様からここを任されているから、動くわけにはいかないし・・・・・・。

だがこの子はちょっと抜けているところがあるから、うまく合流できるか不安だ。

魔王様の迷惑になってしまうかもしれない。

とりあえず、現在のところは何とかうまくやっているようで、その点は安心している。

だけど、思う。

このまま旅を続けて、あなたは後悔しませんか?幸福なのですか?

勇者と共に世界を回る内に、悲しいことや辛いことが当然あるでしょう。

あなたの心はどれほどの血を流すことになるのでしょう。

それらを全て乗り越えたとして、最後は――。

あなたが選んだ道ならば私はそれを拒みません。どのような結果になろうと支え続けましょう。

 

 

 

――世界を壊れるその日まで、あなたの心が壊れぬように。

 

 

 

 

 

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わたしの世界が終わるその日までに。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

はい、ということで、あとがきです。

 

まずは、私の文章を読んでいただきありがとうございます!

 

読みづらい所などがあったらご指摘いただけると嬉しいです。

 

 

 

今回の話は、前回の話の反対側ですね。

 

前回は名前すら出てこなかったキキの視点で前話をもう一度やってみたかったもので。

 

でも今思うと、これは続いたと言えるのでしょうか?微妙なところですw

 

 

 

関係ありませんが、私がもしキキの立場だったら

 

私は帰りをジッと待つとか以前に、落ち着きが無いタイプなので、

 

水晶玉の前で数時間待つのも無理です。

 

そもそも私に任せた時点で確実に魔王軍は瓦解するでしょう。

 

魔王軍が瓦解しないように纏めてるキキは凄い人(?)なのです。

 

 

 

相変わらず、手探り状態な上に投稿ペースは遅いですが、これからも頑張ります。

 

では、宜しければ次の作品でお会いしましょう〜。

 

説明
どうも、海月です。よろしくお願いします。

今回も短編です。
前作の裏話みたいな感じですかね。
出来れば前作から見ていただければと思います。

前作は元々アレで完結予定だったのですが、
書いている内にもうちょっと付け足したいと思ってて、
そこへ続きが読みたいと嬉しいコメントがありましたので裏話を追加しました。
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