遊戯王‐デュエル・ワールド‐(2) |
遊鳥が目を覚ますと、広大な荒野が広がっていた。左手には、しっかりと朱璃の右手を握っていた。それを確認して安心したが、辺りに西稜寺の姿が見えない。恐らく、散り散りになってしまったのだろう。
「何、此処…。」
≪フハハハハハ!ようやくお目覚めか!ようこそ、我が“デュエル・ワールド”へ!≫
突然、謎の声が響く。慌てて周りを見渡すが、誰も居ない。“自分の脳内に語りかけている”いう超常現象が起きていると、理解したくなかったが理解した。遊鳥はある程度状況が理解できると余裕が出てくる。ここは謎の声に対し、少し強めに出る事にした。
「デュエル・ワールド…?何そのダサいネーミング。」
≪んなっ!?三日三晩寝ずに考えた名前が、ダサいだと!?≫
「三日三晩考えてその結果!?ちょっと頭取り換えた方がいーんじゃないの?」
暫く不毛な口論が続き、先に折れたのは謎の声の方だった。遊鳥は「勝った。」と、少し気が晴れた気がした。
「なあ、此処何処だよ。それくらい教えやがれ。」
≪グッ…、生意気な小僧めが…!まあいい、此処は我が作りし世界だ。つまり、先程まで貴様が居た世界とは異なる世界…俗に言う、異世界だ。この世界では、デュエルが全てだ。生き残る為には、強いデュエリストになる他無い。≫
厨二臭くなってきた、と遊鳥は額を抑えた。頭痛がしてくる。だが、聞かない訳にはいかない。何も分からずに見知らぬ世界に居るのは危険だからだ。
「で、皇軌…一緒にいたあの灰髪のアイツはどうしたのさ。」
≪フン、聞かずとも分かっているだろうに…。勿論、この世界に来ているさ。だが、此処から遠く離れた場所に落としてやったわ!…デュエリストではないその小娘は、元々連れて来る気は無かったのだが。貴様にくっ付いたそいつだけを置いて行くという芸当が出来なかったから仕方なく連れてきたのだ。≫
「…何か、真剣に頭痛くなってきたんですけどー?取り敢えず、そのイタイ喋り方を止めようか。」
《ええい!どこまでも生意気な!もうよい、貴様とは話さん!》
「え、何!?逆ギレ!?あ、しかも通信切りやがった!返事が無い!」
仕方ないと、遊鳥は朱璃を起こす。取り敢えず、現状を説明しておいた。
しかし、何処に何が有るかも分からない此処で、どうすればいいのか悩んだ。移動する他に手は無いのだが、押し寄せる不安に足を踏み出せなかった。
と、不意に背後から爆音が聞こえてきた。振り返ると、バイクらしき二輪駆動の乗り物を乗り回す暴走族集団が一人の少年を取り囲んでいた。
「へっへっへぇ…。もう逃げられないぜ、ガキ!」
「大人しくカードと金目の物を寄こしな!」
醜いとしか表現しようの無い男が詰め寄る。しかし、少年は臆することなく反抗する。
「黙れ外道!誰がオマエ等なんかに渡すものか!そんなに欲しけりゃ、正々堂々勝負しろ!」
「チッ…、ちょっと痛い目に会わないと分からんみてーだな…。可哀想だから一人ずつ相手してやるぜ!」
内一人のスキンヘッド男がデュエルの体勢に入る。少年は左腕のデュエルディスクにデッキをセットし、迎え撃つ。と、そこへ…。
「待ぁて待て待てーいぃ!其処のお前等、一人相手に寄って集って恥ずかしくねーのか!お前等みたいな不届き者は、この鳥羽遊鳥が許さねーぜ!」
遊鳥が乱入する!一同は突然の声に驚き、振り返る。遊鳥がデュエルディスクを構え、
「やろうって言うなら、俺が相手だ!」
「何だテメー…。まあいい、やっちまえ!」
リーゼントの男が遊鳥の前に立ちはだかる。同時に、少年も駆け寄って来る。
「どう言うつもりですか!?」
「助っ人かなあ〜。爺さんから、悪事には無関係でも無謀でも立ち向かえって言われてるからね!来いよ、タッグデュエルだ!」
また鳥羽の声に驚く一同。それも無理は無い。なぜなら、タッグデュエルとは文字通り2対2のデュエルであり、チームワークが鍵となるデュエルだ。しかし、遊鳥と少年は今出会ったばかりで、互いにどんなデッキで戦うのかも分からない状態だ。チームワークなんて物が有る筈も無い。
「ヒャーッハッハッハ!本気か、テメー!状況分かってんのかァ!?」
「俺はいつだって大マジさ!…ところで、君の名前は?」
「え、ボクは水無都(みなと)ですけど…。ダッグなんて無茶な!」
「水無都君ねー、よし覚えた。大丈夫さ、俺を信じろ!」
根拠のない遊鳥の自信に、何を言っても無駄だと諦め、デュエルディスクを構える水無都。そして、デュエルが始まった。
一番手は乱入者の遊鳥。二番手がスキンヘッドの男。三番手が水無都。最後がリーゼントの男。ライフポイントは、チームで4000ポイント。
「行くぜー?俺は“白魔導士ピケル”を攻撃表示で召喚!そしてカードを2枚伏せてターンエンドだ。」
羊を模した帽子を被った幼女がフィールドに現れる。相手二人は堪え切れず笑い出す。
「ブッフーッ!何だそのモンスター!ダッセー!俺がイカすモンスターを見せてやるぜぇ!まずはドロー…。」
「リバースカード発動!“はたき落とし”!…俺の可愛い仲間を笑った罰だ。引いたカードを捨てなー。」
スキンヘッド男は焦る。いきなり自分の切り札を失ったからだ。運が悪いにも程が有る。
「チッ…!俺は“ロックストーン・ウォリアー”を攻撃表示だ!」
水無都のターンを、遊鳥はどう出るか静かに見守る。今どう動いても文句は無い。タッグデュエルでは、パートナーフィールド上のカードを自由に使える。ピケルを生贄に上級モンスターを召喚しても、何の行動も起こさずとも、彼の自由だ。
「ボクは、手札から通常魔法“手札抹殺”を使う!全てのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数と同じ数をドローする。」
「「何ぃ!?」」
「おお。」
予想外の行動に、相手は驚き、遊鳥は感心した。遊鳥はこの行動から見て、水無都は墓地利用のデッキだと推測した。
それは間違いは無かったが、違った。
「まずは、“ジャンク・シンクロン”を召喚!そして、手札から”死者蘇生”発動!呼び出すモンスターは“ヒーロー・キッズ”!さらに“ヒーロー・キッズ”の効果発動!コイツが特殊召喚に成功した時、デッキから同名モンスターを任意の枚数特殊召喚できる!呼び出すのは、当然2体だ!」
「「な、何ぃぃぃ!!」」
この状況は遊鳥でも驚きを隠せない。一回の通常召喚で此処までの数を揃えるとは、何と言う速さなのか。だが、これで終りでは無い。むしろ、此処からが始まりだった。
「まずはレベル2の“ヒーロー・キッズ”にレベル3の“ジャンク・シンクロン”をチューニンング!レベル5の“ジャンク・ウォリアー”をシンクロ召喚!コイツは召喚した時、自分フィールド上のレベル2以下のモンスター攻撃力分、自分の攻撃力に加算する!攻撃力300の“ヒーロー・キッズ”が2体居る事で攻撃力が600ポイント上がり、攻撃力は2900になる!そして、シンクロモンスターがシンクロ召喚に成功した時、手札の“シンクロ・マグネーター”を特殊召喚できる!そしてさらに、レベル2の“ヒーロー・キッズ”にレベル3の“シンクロ・マグネーター”をチューニングしてレベル5の“スカー・ウォリアー”をシンクロ召喚!ここで手札から通常魔法“ワン・フォー・ワン”を発動!手札に居るモンスター1体を墓地へ送り、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する!呼び出すのは“アタック・ゲイナー”!」
次から次へとシンクロモンスターを呼び出す水無都。あまりの速さに付いて行けない遊鳥と相手二人。上手く行き過ぎだと苦笑するしかなかった。
「最後のシンクロ!レベル2の“ヒーロー・キッズ”とレベル5の“スカー・ウォリアー”にレベル1チューナー“アタック・ゲイナー”をチューニングしてレベル8の“ギガンテック・ファイター”をシンクロ召喚!コイツは墓地に存在する戦士族モンスターの1体につき、攻撃力が100ポイントアップする。今、墓地には8体の戦士族が居る。つまり、攻撃力は3600!」
「ちょっと待て、今シンクロに使った戦士族モンスターは6体の筈だぞ!だったら、墓地にも6体の筈だぞ!俺達の墓地にも0だ!」
確かにその通りだ。“ジャンク・シンクロン”、“ニードル・ガンナー”、“スカー・ウォリアー”が1体ずつと“ヒーロー・キッズ”が3体で6体だ。本来ならば600ポイントしか上昇しない…だが。
「“手札抹殺”で俺の手札の戦士族2体がお亡くなりになったんだよ。これで合うだろ?」
そう、あの時遊鳥の手札から戦士族モンスターが墓地へ送られたのだ。シンクロに使われた6体と、“手札抹殺”で墓地に送られた2体…これで計8体だ。
「ボクのターンはこれで終了だ。」
「ま…マジかよ!ど、どうすりゃいいんだ…あんなバケモノ!」
と、リーゼント男は焦った…フリをした。まさに今、彼は“死者への手向け”を引き当てた。手札を1枚捨てる事によって、相手モンスターを破壊するカードだ。これならば、どんなに攻撃力の高いモンスターでも怖くない。男は、不敵に笑う。
「なーんてなァ!コイツで消し去ってやるぜェ!“死者への手向け”だァ!折角呼び出したのに、残念だったなァ!“ギガンテック・ファイター”を墓地送りだァ!」
「いやー、本当に残念だ。リバースカード発動!“悲劇の引き金”を発動するぜ。このカードの効果によって、破壊対象をアンタのお仲間の“ロックストーン・ウォリアー”に移し替える!」
「…え?」
遊鳥の手元にスイッチが現れ、躊躇い無くそのスイッチを押す。《カチッ》という音と共に、“ロックストーン・ウォリアー”が跡形も無く爆散する。
「お、俺のイカす“ロックストーン・ウォリアー”があああ!!」
「ち、チクショウ!俺は“ダメージ・イーター”を攻撃表示召喚して、カードを2枚セットするぜェ!来やがれ、このヤロォ!」
再び、遊鳥のターンとなる。カードをドローし、状況把握に入る。
(この状況で攻撃力100のモンスターを攻撃表示?明らかに罠を張ってるなー。状況から判断して、“聖なるバリア‐ミラーフォース‐”だろうな〜…。絶対。)
「まずは、ピケルの効果で自分フィールド上のモンスター数だけライフポイントを400回復する。」
フィールドは共有されるので、3体のモンスターが存在している。よって、1200ポイントのライフを得る。
「まあ、コイツが居れば罠なんて関係無いか。サンキュー、水無都。君のお陰で、最高の手札だ。コイツが勝利へのキーカードだ!ピケルを生贄に捧げ、“ブリザード・プリンセス”召喚!コイツはレベル8モンスターだが、魔法使い族モンスターを生贄にすれば1体だけで済む!しかもコイツを召喚したターン、相手は魔法・罠を発動できない特殊能力付きだ!」
「んなァ―――!!?み、ミラーフォースが…発動できないだとォ!!」
「やっぱりな…。まずは“ギガンテック・ファイター”で“ダメージ・イーター”を攻撃だ。行け!」
遊鳥の合図と共に、“ギガンテック・ファイター”が走り出す。そして、“ダメージ・イーター”に渾身のタックルを喰らわせる!リーゼント男は3500のダメージを受け、大きく吹き飛ばされる。相手の残りライフポイントは、たった500ポイントだけ。
「クソッ…!クソォ!この…1ターン天下があああああ!!」
「むかッ!今のは駄目だよー…飛ばせ、“ブリザード・プリンセス”!」
スキンヘッド男が禁句を言ってしまった為、容赦無しの攻撃が男を襲った。リーゼント男よりも遠くまで吹き飛んだ。
2800のダメージを受けた相手のライフポイントは−2300ポイント。よって、遊鳥と水無都のペアが勝利となった。
「いやあー…こんなにあっさり勝っちゃうとはねー…。面白く無いデュエルだ。」
「本当に、勝てた…。」
ノーダメージで勝利という、いい結果となった。だが、次はそう上手くいかないだろう。次の相手は、この一団体を統べるリーダーが相手の様だ。先程の二人よりは強い事は間違いない。
「全く情けねーな!こんなガキに負けてどーすんだよ!アァン!?…来いよ、今度は俺様が相手だ。二人同時に掛かってきやがれ。」
不気味で妖しげなオーラを纏いながら二人に歩み寄るリーダー。遊鳥は身構えるが、水無都に止められる。
「遊鳥さん、コイツはボクに任せて、雑兵をお願いします。」
遊鳥は目を見開いて驚く。だが、冷静に状況を考えれば、それが得策だ。デュエル中に背後から襲われては元も子もない。振り返り、集団に向けて言い放つ。
「1対3の特別デュエルだ…。来いよー、雑兵ー!」
「「誰が雑兵だコラァー!!」」
怒り狂った集団が遊鳥に襲いかかる!それを横目に、リーダーが鼻で笑う。
「へっ…。二人掛かりだったら勝てたかも知れねーのによ…。一人で相手した事を後悔させてやるぜ。」
「そうやって吠えて居られるのも今の内だけさ…!」
遊鳥と暴走族の3人、水無都と暴走族のリーダーが睨みあう。そして、全員が声を合わせて開始の合図を叫ぶ。
「「デュエル!!」」
説明 | ||
異世界に飛ばされた主人公達は仲間と離れ離れにされる。 しかも目覚めるやいなや、イキナリ変な集団に首を突っ込みタッグデュエル!? |
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