〜真・恋姫?無双 孫呉伝〜第三章第二幕 |
〜真・恋姫?無双〜孫呉伝 第三章第二幕
――暴政を強いる董卓を討つ。
その目的の下、諸侯が集った。
袁紹、曹操、公孫賛、劉備、袁術、そして――孫策。他にも多くの諸侯が集い、反董卓連合はここに相成る。
各々、秘めたる理想、或いは野心を叶え、果たさんがためにこの波に乗ろうと集ったのだ。
その中において、一刀の様な考えを持っている人間はまずいないだろう。
だが、国のためという前提条件があるものの、彼がいる呉はその考えを肯定していた。
「はっ、揃いも揃ったものだな。さらに目的は同じときているから傑作この上ない」
馬上で香蓮が笑い飛ばす。
馬を操るその姿は、王の座を退いたとはいえ、やはり王の風格があった。
「わかっていただろうが、この連合を見た感想を聞こうか?」
隣で馬にまたがる一刀に声を投げ掛ける。
一方の一刀は馬の操りにまだまだ苦戦している様子だった。
「・・・それでも頑張る」
「馬は半人前のくせに言う事は一人前だな。だが、吐いた唾は呑めんぞ?言ったからには果たしてこそ一人前だからな」
「了解、なので応援よろしく」
「声にはせずとも、信じているさ」
そう、香蓮は信じている。この男ならば必ずやり遂げるだろうと。
(ふふ、先日の一件から急に面構えが良くなってきたな。・・・・・・・今の一刀になら、身を委ねるのも・・・あり、かもしれん)
そう考えてハッとして頭を振った。頬が熱を持ったのを自覚したからだ。
(いかん、いかん!何を考えているんだあたしは)
頬の赤みを気付かれないように顔を逸らすわけだが、そんな子供じみた対応が、こんな夕刻に程遠い時間にまさか通じる筈もなく。
「香蓮さん?頬・・・赤いけ・・・・ど!!」
言い終わった途端、馬を寄せてきた香蓮の殴打が炸裂し、一刀の後頭部から白い煙が立ち上った。擬音を入れるならぷすぷすぷす・・・≠ェ妥当だろうか。
「ふぅ・・・一刀、は素直・・・すぎるよ」
燕にはため息交じりにぼそっと囁かれ。
「馬から落ちないのはお見事です」
氷花からは心配よりも感心され。
「いいね、ああいった香蓮様は初めて見たさね。ふぅむ・・・一刀は女心をくすぐるのが上手だね」
悠里さえも感心し、詰まる所、一刀の身を案じる者が誰もいないというオチでありました。
――各諸侯が集合する場所。
そこである少女が新たに到着した一団を見て顎に指を添えた。
「あ・・・新しい人が来たみたいだよ。愛紗ちゃん、どこの人かな?」
さらっと流れる紅い髪に、人懐っこい顔が人を惹きつける魅力を湛えていた。これを呉の将が見たなら、きっと彼≠ニ似ていると思うことだろう。あくまでも、似ている≠セが。
――劉備玄徳。
彼女こそが後に蜀の王となり大陸に名を知られる少女だった。
「旗印は孫=E・・恐らく、江東の麒麟児≠ニ名高い孫策かと」
「孫策さんか〜・・・どんな人なんだろ?星ちゃん、知ってる?」
話の話題を振られた星と呼ばれた少女。
すらっと伸びる脚、その脚線美たるや、どこぞにいる御遣いとか呼ばれている男が見たら、即喉を鳴らして唾を呑みこむのではないだろうか。
そしてその瞬間、江東の虎≠ニ呼ばれる最強の将の一人に全力の拳骨を後頭部にお見舞いされることだろう。
いや、実際は分からないが。
彼女、趙雲 子龍は自身の見文を広めるために行っていた旅を振りかえって、記憶を掘り起こす。
「そうですな・・・賊にとっては恐怖の象徴。ですが、それとは対照的に、民からの信頼は絶大です。少々酷ですが、伯珪殿が霞む程の器かと」
「白蓮ちゃんが・・・凄いんだね〜孫策さん・・・う〜ん、お話してみたいな」
「桃香様!?いきなり何を仰られるのですか!?まもなく軍議も始まります。そのような暇はございません!」
吃驚仰天の声を上げたのは黒のポニーテールが美しい少女、関羽雲長だ。
いきなり、他国の、ましてや相手は孫策、そんな好奇心だけで動いたならどうなるかわかったものではないという心情が語句の強さに現れていた。
だが、そんな彼女の心情を察した上で、趙雲は意地の悪い笑顔を浮かべた。
例えるならそう、仕事を丸投げする上手い方法を思いついた時の江東の麒麟児≠ネんて呼ばれてる人と同じ顔である。
「桃香様、軍議を終えた後でした少なからず時間もとれましょうぞ。であれば、その時にでも尋ねられたら如何か?」
「あ、さすが星ちゃん、あったまいいなぁ。うん、そうしよう♪」
え、は?と話についていけていない関羽を余所に、トントン拍子に決まっていく。
結局、その後状況に追いついた関羽の講義も虚しく、軍議の後に孫策に会いに行こうということになるのでしたとさ。
その頃、当の孫策はというと。
「アノ、雪蓮サン・・・何故ニ此方ニオラレルノデスカ?」
軍議にいる筈の孫呉の総大将が、何故か軍議におらず、何故か孫呉の陣に素知らぬ顔で普通に口笛なんて吹いていらっしゃるではありませんか。
「いいの♪ああいった腹の探り合いは嫌いだし、適任者がいるならそっちに任せたほうが得られるものも多いもの」
言いたいことは分からなくもない。つまり、軍議に参加しているのは冥琳だろう。
「一刀、折角だしなんかお話しましょ。こんな時間、滅多にないわけだしね♪」
「話っていってもなあ・・・話題が浮かばないんだよな」
「そうなの?じゃあ、あたしが色々聞くから一刀、答えられそうなの答えて?」
それならいいかと一刀は首を縦に振る。
のだが、その直後に後悔する羽目になるのだった。
具体的に言うと、雪蓮からの質問の一発目が――。
――「燕は美味しく頂いちゃった?」
瞬間、一刀の思考は停止した。
いやもう、全く予想していなかった質問に理解が追いつかなかったというのが正しい。
だって、この状況に全くと言っていいほど関係ないんですもの。
「その感じだとまだみたいね。う〜ん・・・この場合、よかったって喜ぶべきなのか、まだなの!?≠チて驚くべきか・・・微妙なところよね」
「何悩んでんのさ!?この状況と関係ないよね」
「いいのよ・・・。確かに、一刀の言う通りよ・・・でもね、あたし達には凄く必要な事なの・・・・あたし達には還るべき日常がある≠チて忘れないためにね。こんな風に一刀を使っちゃってるのは申し訳ないとは思うんだけどね」
そう言って、申し訳なさそうにはにかむ雪蓮。
悪い言い方になるが、一刀のよく知る雪蓮とはまるで真逆で、勇猛果敢、自由奔放な孫呉の王ではなく、年相応の、葛藤に苦しむ女の子がそこにはいた。
一刀と雪蓮の二人から少し離れた所に悠里はいた。
「雪蓮のあんな顔・・・初めて見たさね。香蓮様も、きっと知らないでしょうね」
戻って以来、驚いてばかりの様な気がする。
特に、知人達の変化には特に驚いている。
冥琳、祭、思春、明命や穏の五人。
ハッキリ言ってこの五人の変化には目を疑った。
そして、新しく見る二人、燕と氷花に関してはよく知らないゆえに、ハッキリとは分からないが、きっとここに来たばかりの時とはきっと違っている事だろう。何となくではあるが、確信がある。
だが、孫家の三人は話が別だ。
この三人の変化にはそれが現実であることを信じられなかった。
孫呉千年のために一刀の胤を取り入れる。それは全くの嘘ではないだろうが、今となっては建て前になってしまっているのではないだろうかと思えるほどに。
「あの三人が、恋してるなんて、誰が信じるのかねえ」
「何か問題でもあったか?」
背筋が一気に凍りついた。
拙い、至高に没頭しすぎて周りに気を配ることが出来なかった。
まさか声を掛けられるまで気付かないなんて。
「やはり驚くか?」
出来るなら全速力でここから去りたいが、まさか出来る筈もなく、正直に答えることにしようと腹を括る。
「はい、貴女様もそうですが・・・あの二人、雪蓮と蓮華様・・・特に蓮華様には驚きを禁じ得ません」
確かに、と香蓮は苦笑した。
「あたしも実際驚いてるよ、皆の事もそうだが、自分と娘二人の変化にはな」
――九死に一生を得たが故に、生きている事に苦しんでいた先代の孫呉の王。
――奪われた国と民のために、我が身を振り返ることなく走り続ける王。
――才ある母と、才ある姉、あまりにも大きすぎる背中を追って己を殺し続けた次代の王。
「特に蓮華のやつは、あたしや雪蓮の陰に怯えて、いつも自分を殺していた。甘えを捨て、あらゆることを己自身の手で成そうと・・・な。・・・その蓮華が一刀といると驚くほどに喜怒哀楽を見せる。年相応の娘らしい顔を見せるんだ」
「・・・」
そう、そしてそれは、彼女の長子である雪蓮にも言えることだ。
「お前もそうだぞ?悠里」
その意見を否定する気は、全くと言っていいほどなかった。
「ねえ・・・戦場に出るのは怖い?」
雪蓮に問われた一刀は、ただ沈黙を持ってそれに応えた。
「情けないことに、未だに震える」
苦笑して片手を挙げると、その手は本当に小さく震えていた。注視しなければ気付かないであろうほどに。
「昨日はろくに眠れなかったんだ・・・あの匂いを・・・あの重さをまた感じるんだって思うと・・・って雪蓮?」
一刀が驚いているのもお構いなしに、雪蓮は一刀の震える手を自身の両手で、そっと包む。
「私みたいな血塗れの女がこんなことしても、意味はないかもしれないけど」
そう言う雪蓮の手は人の温かさが、当たり前だがあった。
だから、雪蓮の言うことを否定しようと、一刀は空いているもう片方の手を雪蓮の手にそっと添えた。
「そんなことないよ。血塗れとか獣とか・・・そんなの関係ない。雪蓮の手、凄く温かいよ」
お返しというわけでもないだろうが。一刀は雪蓮の手をそっと握り消した。
一刀の手から伝わる温かさがほんの少しだけ強く感じ、雪蓮の胸がほんの少しだけ強く鼓動する。
あとはもう、条件反射といっていい。
雪蓮は一刀の事を抱き寄せていた。
「一刀、死んじゃ駄目よ。そんなこと、私が・・・私たちが許さないんだから」
抱きしめられた最初こそ、胸の柔らかさや雪蓮の良い匂いに頭がぼうっとしてしまっていたがその言葉ですっかり落ち着いてしまった。
「了解・・・約束するよ」
抱擁はすぐに解かたが、その僅かな時間、一刀は雪蓮の温もりに身を委ねた。
「いい答えね。くすっ・・・さっきと違っていい顔になったわ。・・・今の一刀なら、抱かせてあげてもいいかも」
「なっ!?」
「顔真っ赤にして、可愛いわね〜♪でも、さっき言った事は本当よ」
さっきとはうって変わって明るい表情を見せる雪蓮の背に聞き慣れた声が掛けられる。
――「まったく、人に面倒事を押し付けて何をしているかと思えば」
「あら、冥琳。どうだった?」
その質問に対し、冥琳の表情が呆れと怒りの混ざった複雑な表情となった。
「雄々しく華麗に勇ましく・・・凄いなぁ袁家って」
何処か遠くを見る瞳で一刀が呟くと燕もそれに倣って空を見上げる。
穏は笑っているが何処かその笑みも笑顔も乾いて見える。
香蓮や祭はもう完全に呆れ顔だ。それは蓮華にも言えることで、その傍らに控える思春は無表情に見えるが明らかに不機嫌が見て取れる。
「思春・・・怒ってるの丸わかりだよ?」
「そうか、抑えていたつもりだったが・・・不快にさせたのなら謝ろう」
「え?あ、いや大丈夫だよ。思春の気持ち分からなくもないし」
「そうか」
思春の言動から棘を感じない。どうにも先日、燕と何かあったらしいのだが、一刀は詳しく知らない、当事者である二人が話したがらないので一刀は今も知らない。
(ま、なんでもかんでも首を突っ込めばいいってもんじゃないし、それがプライベートならなおさらだし、ね)
いつか分かる時が来るかもしれないし、来ないかもしれない。一刀はどちらでも構わないと思っていて、燕にそう伝えたらありがとうと言われ、燕経由で知った思春も感謝すると言われた。
その時はあまりに意外すぎて
Σ(°Д°*)ノノ
こんなポーズをとってしまったくらいだ。
そして氷花をちらりと見てみれば、軽くこめかみを押さえていて、よく見れば眉間に皺もよっている。どうも軍師として非常に頭が痛いらしい。物理的にも精神的にも疲れているように見えた。
「作戦・・・これが作戦・・・こんなのが作戦・・・こんなものが作戦・・・あり得ません。あり得ていい筈がありません。夢です、幻です・・・」
そう思いたい気持ちは痛いほどよく分かるが、それが袁家というものだ。色んな意味で諦めるしかない。そうでないと疲れるだけなのだ。
「だけど・・・この作戦というか方針が連合の行動の主軸になってるなら・・・どっかと協力したほうがいいかもしれないね。後のためにもなるだろうし・・・って俺が言ったところでしょうが・・・あの、みんな?」
ふと違和感を覚えた一刀が顔を上げると皆が目を点にして一刀の事を見ていた。
「いやはや、お前は本当に退屈しない男だよ」
「ほんと、一刀は色んな意味で飽きないわ。蓮華、これが一刀よ」
「は、はい・・・あの、姉様、どうして私に振ったんですか?」
「気まぐれ」
たった一言で断じられた蓮華はがっくりと肩を落とす。そこで一刀が肩をぽんぽんと叩くと顔を真っ赤にしながらありがとうと返してくれた。
「あは♪蓮華様がすっかり女の子ですねー♪」
「かかっ、穏と言う通りじゃな・・・しかし、どこか不快なのは何故かのう」
各々が好き放題騒ぎ始めると、冥琳が咳払いを一つ払って、場を鎮静させた。
「話を戻すが、北郷の意見は実に的を得ている。と言うよりそれが一番得策だろうな」
「ま、基本方針はそれで決定ね。それで、冥琳?どこと協力するのが一番いいかしら?」
――「劉備だな」
その後、雪蓮が「なら決まり」と全くと言っていいほどためらわず冥琳の推薦を採り上げた。
少しは悩めと言う冥琳の嫌味も全く気にしない呉の王様が、冥琳や一刀、氷花、燕の四名を共に指名しようとした時、その場にいなかった明命が、まさに忍びのごとく現れ思いもしなかった報告を携えていた。
――「劉備玄徳様が雪蓮様にお会いしたいとのことです。御供の方を四名ほど連れてこられておりますが、如何しましょう?」
雪蓮はその報告に二つ返事で、その四名を通すように指示を降すのだった。
「さて、どんな子かしらね♪」
「私には聞かないのか」
「それで判断したくないだけよ。因みに、冥琳から見て劉備はどんな子だった?」
そう、訊ね返されて、冥琳は僅かに思案し、すぐに言葉を見つけたらしくそれを声にした。
――「北郷に似ている――が、似て非なる者だ」
冥琳のその言葉に、ほんの僅かに眉を顰めて「そう」と、短く端的に応え返す。
似て非なる
雪蓮は、冥琳が告げたその言葉の意味をすぐに知る事となる。劉備との出会いによって。
(ああ、なるほどね・・・確かに一刀に似ているわ)
それが、雪蓮が劉備に抱いた第一印象だった。
それと同時に似て非なる者≠ニ冥琳が称した理由もすぐに納得がいった。
――「はじめまして。劉備玄徳です」
穢れを知らないあまりにも無垢な笑み。おおよそ、時代にそぐわない程綺麗な笑顔だ。
一刀に近い印象だが、あまりにも遠い。
今目の前にいるこの少女には一刀と違って決定的に覚悟≠ェ備わっていない。だが、一刀と同じように人を惹きつける魅力を湛えている事だけはハッキリと分かった。
周りの反応を一瞥してみれば、表面上、一刀に特段変わった様子は見えない、そして燕はというと無表情に見えるが、多分私と同じ心境だろう。氷花はと言うと劉備よりも共の方、小柄だが非常によく似た少女にその視線を向けている。
冥琳は一度見ているせいだろう、特に変わった様子はない。
互いに自己紹介を済ませた後、互いに剣をとった理由を語り、その果てに同盟を申し出ると、有難い申し出ではあるが、まだこちらの全てを信用したわけではないといい、最初の関門である水関での戦いで判断してくれと雪蓮が提案し、その場はそれで治まった。
劉備たちが去った後。
「・・・悠里、遠目から見ていた貴女の感想を聞かせてちょうだい」
「――あの子は一刀とは別物さね、似ても似つかないよ」
悠里の口から返ってきた台詞は、雪蓮の予想通りのものだった。
「さて、それじゃあ水関、腕の見せ所か・・・誰に誰を宛てるつもり?」
「張遼に一刀と燕。ま、燕はあくまでも保険だけどね。で、華雄には」
「ウチでしょ?」
「正解。頼りにしてるわ」
「やれやれ・・・ま、一刀に良いところを見せる機会と思えばいいか」
気だるそうに呟く悠里だが、その言葉の裏には、確かな頼もしさを感じる雪蓮だった。
「・・・朱里、孫策殿の背後に控えていた一人、あれはお主の姉君か?」
自軍の陣に戻った趙雲が諸葛亮にそう訊ねると、彼女はコクリと頷いて問いかけを肯定した。
今この場には劉備も関羽も鳳統もいない、趙雲と諸葛亮の二人だけ。
「今の姉と私を繋ぐものは何もありません。姉は公私をハッキリと分ける人ですから」
「どのような人物なのだ?」
「文武両道の言葉がとても似合う人です。私や雛里ちゃんはいつだってお姉ちゃんの背中を追い掛けてました」
そう語る諸葛亮の表情はとても誇らしげで、姉を自慢しているようでそんな彼女が微笑ましいのか、趙雲はほほ笑みを浮かべる。
「いつか姉君と戦うことになったら・・・戦えるか?」
「わかりません・・・けど、きっと戦うと思います。私にとっても、雛里ちゃんにとっても・・・いつかは追い抜きたい背中ですから」
頼もしい一言に趙雲は声を上げた笑うのだった。
ひとしきり笑った後、趙雲は空を見上げて表情を引き締める。
(孫策殿の背後にいたあの御仁・・・見慣れぬ衣を纏っていた・・・噂に聞く天の御使いか?・・・桃香様に似た雰囲気を持っておられたが、明らかに背負っている覚悟が違う。あれは、命の重さを知っている眼・・・ならば、桃香様にそれが備わらない限り・・・矛を交えた時に負けるのは恐らく・・・)
それ以上の思考を止め趙雲は目を閉じた。
「願わくば、一度刃を交えたいものだな」
そんな願望を口にしていた。
まだ仮初ではあるが同盟を結んだ相手にこんな願望は抱くべきではないのかもしれないが、戦いに身を置く者の性と言うべきか、あのただならない雰囲気を持っている御仁と刃を交えることが出来たなら、それはきっと至福の時であろうことが容易に想像できる。
その光景を思い描くだけで、頬が緩むのがハッキリと自覚できた。
「あの、星さん・・・顔がにやけてますけど」
「ん?ああ、武人の悪い癖の様なものだ。気にしないでもらえると助かる」
「はぁ・・・わかりました。あの、それはそれで・・あの、ありがとうございます。お陰で少し楽になりました。私、雛里ちゃんのことろに行ってきます」
一礼すると、諸葛亮は天幕へと小走りで向かう、恐らく鳳統を励ましに行ったのだろう。
「・・・さて、この時代・・・どう流れるのやら・・・実に楽しみになってきたな」
再び見上げた空は、気持ちがいいほど晴れ渡っていた。
その頃、一刀達は間近に迫る水関での戦いについて問題点の指摘と解決をしていた。
役割こそ決まりはしたが、その実問題がいくつかあった。いくつかの問題の内、一番容易い袁術を流れに乗せる事は雪蓮がなんとかするということで一応の解決は見えたわけだが、問題はもう一つ、そして此方の方が大事な問題だと言える。
「問題はどうやって水関から引っ張り出すかだ。籠城戦を選ばれれば、間違いなく戦が長期化するだろう。そして、真っ当な将ならば、当然籠城戦を選ぶ」
冥琳の言う事は尤もである。というより、それが普通だ。
「・・・・・・」
そんな会話の中、一刀は考えることに集中していて、冥琳の話が聞こえていない。その表情の真剣さに、蓮華が見惚れ、その娘の姿に香蓮は軽く笑う。
一刀の表情から、何を考えているのかは読みとれないが、間違いなく退屈しないだろうなと頭の片隅で考える香蓮。
そしてその予感はものの見事に的中する。
それは雪蓮の会話の振りから始まった。
「か〜ずと♪何かいい考えでも浮かんだ?」
「・・・・・・かなり幼稚な案ならね」
声も表情もどこか消極的だ。そこから推し量るに、余程幼稚なのだろうか。
だが、それが或いは問題の打破に至るかもしれないと冥琳に説得され、一刀は渋々とその幼稚な案≠喋りはじめた。
――「華雄は自分の武に強い誇りを持ってるんだよね?なら、その誇り≠侮辱してみたらどうかなって。ぶっちゃけ馬鹿にするとか」
静止。
驚くぐらい場が静かになった。言った一刀が『やっぱり言わなきゃよかった』と言う顔をするぐらい鎮まってしまっている。
「一刀さん」
その静まりかえった空気の中、第一声を発したのは意外にも穏だった。
「その案、意外といけるかもしれませんよ?・・・・と、私は思うのですが〜、冥琳様あ、どうでしょう」
穏に振られた冥琳は不敵に笑う。それは穏の意見を肯定している証拠であった。
場所は変わって劉備陣営。
先程決まった案を実践するに当たって、劉備にこの役をやってもらおうということになったのだ。
ただ、それで成功するとは実はこれっぽっちも思っていないわけだが。
「――というわけなんだけど、協力してもらえないかしら」
「お話はわかりましたけど・・・・朱里ちゃん、雛里ちゃんどうかな?」
自軍の軍師に相談するあたりは、まぁ普通なのだが、どうにも自分で考えるよりさきに相談するのは如何なものだろう。
「問題ありません」
「です。どんな形であれ、ささやかなものであれ、名を上げるまたとない機会といえます」
「そっかぁ、それじゃ孫策さん。その役目、引き受けさせていただきます」
――少しは自分の頭で考えろ
内心で軽く苛立つ雪蓮だった。
その後、自陣に戻った雪蓮。
(・・・あの子はきっと・・・自分一人だったら何もしなかった≠ナしょうね)
それは勘でしかない確証も何もないものではあったけど、恐らく間違いないという確信があった。理想は当然だがあるだろう、だが、彼女にはそれを成すだけの力がない。その欠点を支えているのが恐らく関羽と張飛の二人。
今は諸葛亮、に鳳統、趙雲などがいる。なるほど、人を惹きつけるのも才能であり、王に必要な資質の一つともいえよう。だが、雪蓮が劉備に感じたのはそれだけ≠ナ、一番必要なものが欠けていると感じていた。
――それは、理想の道で必ず発生する犠牲、それを受け止める覚悟。
これ無くして人を導こうなど人として最低だ。少なくとも私はそう思っている。
劉備は、その闇の重さを知らない。知っているのは恐らく―――――。
「相応しいものに相応しい事をさせる。それはとても当たり前のことだけど・・・冥琳・・・もしかしたらだけど、北の曹操よりあの子の方が怖いかもしれないわ」
「そうか」
雪蓮の言葉の真意を察し、ただ言一言短く言葉を返す冥琳。
そんな察しの良い親友に、ただただ苦笑する孫呉の王様だった。
同陣営内で一刀は一人空を見上げていた。
青い空に、そっと手を翳す光の当たらない手の甲は影を帯びる。だけど、その手が紅く染まっているように見えた。
この手は命を奪った手。刀を手に取りそれを振るった。後悔をしていないといえばまったくの嘘だ。今も戦の後は後悔と罪悪感でろくに寝ることが出来ない
コレは誰にも話していない。
戦の前の事は話しても、戦の後は出来るだけ平常心でいることを心がけている。
ただでさえ、戦の前の段階で皆に心配させているというのに、色々疲弊した戦の後に心配させたくないからだ。
どうにかしてこの心をコントロールできるようにならねばと思う。
そうすればきっと戦の前でもみっともなく震える事もなくなる筈だから。
「みっともなく・・・ない、よ」
声に振りむけば、そこには燕がいた。
「一刀、怖いのは、戦って・・・何、も感じ・・・なくなる、こと。抑えれるようになるのはいい、けど・・・何も感じなくなるのは、駄目。だか、ら・・・一刀は一刀のままでいて。燕も・・・皆もいるよ?どうした、らいいか・・・わからない時は、頼って!」
多分語尾には!マークが付いているんだろう。声のトーンがあまり変わらないから気付きにくいが、多分そうだ。小さくガッツポーズをとる彼女の姿が微笑ましくて、肩の力がどこか抜けた気がした。
「ありがとう、燕」
そう言って、燕の頭をそっと撫でる。その温かな手に、くすぐったそうに目を細める燕。
ああ、たくさん苦しもう。たくさん悩もう。それでも前に進めばきっと答えが見つかるだろう。壁にぶつかった時は、頼ってみていいかもしれない。
頼った時の全てに答えが返ってくるわけではないだろうけど。
――それでも。
「そうさ、お前は一人じゃないんだ。存分に頼れよ一刀」
いつの間にいたんだろうとは思ったがそこは華麗に流すとしよう。
気にしたら負けなのだ、雪蓮とこの人と――あと、悠里は。
と言うかそれ以前に。
「俺、内心が駄々漏れ?」
その質問に、気持ちいぐらいに二人は即答するのだった。
同時刻、水関。
「・・・なんやろな、おもろない状況やってのに・・・ええ風や」
見上げた空は、青い。風は穏やかでこんな状況でなければ木陰でのんびりと酒でも呑んでいた事だろう。それが出来る現状でないことが、やたらと悔しくて仕方ない。
「連合でも何でもくるんやったら叩くだけや」
力の宿った瞳と緩む頬。
それは、仕える主たる董卓のためという信念から。
そして、これから始める戦に対する昂揚感から。
「ま、ここ抜かれたかて虎牢関におるんはあの恋やし、ウチらが引き際を見逃さへんかったら返り討ちにもできるやろ」
「退く――だと?張遼、お前は何を言っている。有象無象の寄せ集めなど、私と我が隊があれば負けることなどありえん」
今の今まで黙っていた華雄が自信満々に腕を組んで言い放つ。頼もし言い分ではあるが、同時に軽く頭痛がするのは、やはり――
(コイツの性格のせいやろうな)
自分も大概好戦的な性格をしているのは自覚しているが、目の前にいるこの将は、それが特別際立っている。
(連合には呉もおるって話やし・・・江東の虎≠ェでてきたら・・・自重とかできんやろな)
それを考えて、少し先行きが不安になる張遼だった。
そして、その勘が当たる事を、この時の彼女が知る術はない。
水関で、彼女が出会う事になる一人の青年の事も、彼女はまだ・・・・・・知らない。
〜あとがき〜
御無沙汰してます。Kanadeです。前回の投稿からおおよそ一ヶ月半。随分と間が開いてしまいました。
その間も、皆様からの応援メッセージやコメントはちょくちょく拝見しておりました。最近はあまりメッセージへの返信が出来ていない私ですが、先も申しあげましたが、しっかりと読ませていただいております。
さて、短い文面ですが、そろそろ本編に触れようと思います。
今回の話の胆はズバリ桃香、彼女達との同盟結成こそこの第三章第二幕の核と言える訳です。
誰もが笑って暮らせる世の中にする
蜀√でも呉√でも魏√でも掲げている事は一緒ですが、この外史における彼女が、どの√の彼女がベースになっているかについては、この話を読んでいただいてる最中にもしかしたらお気付きになった方もいらっしゃるのではないかと思います。
そして、さらっと出番の多い星ですが、彼女はこの外史においては悠里の様な立ち位置としております。
――離れた所から見定める第三者。
そんな感じです。
さて、短く終わる事となりますが、そろそろあとがきを切り上げようかと思います。
それでは次回の作品でまた――
Kanadeでした。
次回、水関戦――開戦。
説明 | ||
反董卓連合編、第二幕。お楽しみいただけたら幸いです。それではどうぞ。 | ||
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コメント | ||
桃香さんに対して雪蓮さんがいらついてる・・・・・まあ、とりあえず次回水関戦、華雄さんを誰がどう引っ張り出すのか大いに楽しみです。(mokiti1976-2010) 恋姫の蜀は一刀という現実を見る理想がいたからこそ歴史の様に3国と並び立てる国へとなれるんだとおもう。現実の劉備にあって桃香似ない物があるのだからしょうがないだろう。まぁ、それはおいておいてお疲れ様です。次回も楽しみに待っています(霊皇) ある意味劉備軍は物凄い合理的な集団なんでしょうね。御輿と理想の桃香、実務のその他と完全に役割分担が出来てる。そしてこれの何が恐ろしいって、それを誰も疑問に思ってない所なわけで…(吹風) 魏√では最後の最後に劉備も覚悟を決めたって感じだったから、この外史でもあまり期待はできそうにないですね。次回の水関戦が楽しみです。(シグシグ) 桃香は蜀√以外だとね・・・魏√だと空回りしすぎてるし、呉√だと目立たないし(きの) 劉備の覚悟の甘さ、自分で動かない事はいつ見てもうざいな(VVV計画の被験者) 力なき正義では誰も従ってくれない、だが力の行使は考えに反する・・・・・・ある意味苦行ですよね蜀って。(shirou) 次回の開戦で、旧のように華雄に当たるかな?それともそこは変えて神速のほうに当たるか・・・・。次回更新待ってます!!!(黄昏☆ハリマエ) 覚悟無き優しさはただの甘さでしかありませんからねぇ。甘さじゃだれも救えませんよ。(poyy) |
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