恋姫†無双 外史『無銘伝』第6話(2) |
それから数日、都の復興のため、俺たちは東奔西走した。
都城の内側、民家や商家の建直しを手伝い、避難していた人々を元の場所へ帰した。
都城の外側、城壁を補修し、城牆を増やし、守城兵器を生産した。
人夫を雇うと同時に、予備軍としての軍兵を増やし、屯田を行った。
さらには、西の函谷関の補強や、東の虎牢関の復旧による防衛力強化。
軍事や政治には関係ない、しかし重要な、荒らされた陵、墓地の修復。
1ヶ月に満たない間に、劉備軍が都の復興を行っていることが広く伝わり、たくさんの人が、董卓軍の再侵攻の危険性を知りながら、劉備の元へと駆けつけてきた。
そしてその中に――
「厳顔と申す。かつては蜀の劉璋殿に仕えておりました」
厳顔――桔梗がいた。
「蜀――! すっごく遠くから来たんですねぇ!」
「はは、愛馬は多少疲労しておりますが、わし自身はたいしたことありませぬ。劉備殿、北郷殿、どうか、この身を使ってくだされ」
「はいっ! そりゃもう……ねっ、ご主人様!」
「ああ。心強いよ!」
こうして、厳顔が仲間に加わった。
俺は、こんな時期に厳顔が劉備の元へ来るなんて、やはり異常だと思いながらも、他に考えることが多すぎたので、それを棚上げにした。
「ふぅ……」
俺は、自室で政務……書類の処理におわれていた。
劉備や孔明が手伝ってくれるとはいえ、洛陽には大量の案件が集まってくる。皇帝はいなくても、やっぱり、洛陽は都だからだ。
「えっと治水の工事の確認……で、印を押して……あれ?」
印がない。さっき席を外したとき仕舞ったっけ?
棚を開けて印を取り出して――
「あ」
そこで、厳重に鍵を付けて保管した、あれが目にとまった。
皇帝の印、玉璽だ。
洛陽へ入った当日、井戸の中で見つけた。
そのあと、誰にも見せなかったし、誰にも言わなかった。
混乱を招くだけだと思ったからだ。
「どうしたもんかな…………」
俺は、肩をすくめる。
処分するわけにもいかないしさぁ……。
「でもこれで、袁術が暴走することもないかな」
小さな体に無邪気な心。袁紹とはまた違った御嬢様。ふわふわくるくるの長い金色の髪。その髪と同じ、無垢な顔。ワガママで、子供のままの、小さな雄。
袁術。演義では、玉璽を得て皇帝を名のり曹操を攻撃、敗れて斃死している。
玉璽をこうして俺が持っていれば、そんなバッドエンドも多分無い。
これでも一応、袁紹や袁術も、生きていて欲しいとは思っているのだ。問題は、彼女たちがいろいろ勝手に動き回り暴れ回っちゃうから、仲間にしづらいっていう事だけで。
「……」
俺は玉璽ではない、自分の印をとって、棚の引き出しを閉める。
そして書類に印を押し、一息。
食事やトイレ以外今日は、閉じこもりっきりだ。
「ん〜! 目が疲れたな」
眉間を揉みほぐし、身体を伸ばす。
「ええっと……書類は、大体終わりかな? うん、終わりだ。終わりってことにしよう」
まだ机に残ってる書簡は見なかったことにする。一応全部目を通して優先順位を決めてあるから、残りは小さな事案だけだ。
だから。
「外に出るか! 視察、視察!」
視察ということにしたいだけだ。
「刀は……あんまり持って行きたくないけど、愛紗がうるさいからなぁ。持っていくか。と、服は――お!?」
衣裳箪笥を開けると、見慣れたものが目に飛び込んできた。
フランチェスカの制服だ。
正確に言うと、そのレプリカ。
俺が制服を無くしたことを知り、朱里と雛里が、その正確な記憶を元に、再現させたらしい。なんでもそういうことに強い職人が都には居るんだとか。この前桃香たちが着ていた、剣道着とか体操服(ブルマ)とかもその職人の作品なんだそうだ。
「ははっ、すごいな、ほとんど同じだ! 素材は違うんだろうけど」
ポリエステルはさすがに再現できないだろう。
「よっと」
制服を着込む。普段着とは違う、ちょっと硬い着心地。身が引き締まる気がする。
なにせこれは天の御遣いの象徴だ。元の世界ではただの制服でも、この世界では特別な意味を持つ。
「よーしっ、行くぞっ」
部屋を出て、中庭へ。中庭を横切って外に出るのが一番早い。
「あれー! お兄ちゃーん! どこへ行くのだ〜?」
中庭で丈八蛇矛を振り回していた鈴々が飛んできた。
「うん、ちょっと街を視察してこようと思って」
「街に!? じゃあ、鈴々も行くのだ!」
別に遊びに行くわけじゃない、なんて言い訳をする間もなく、張飛は蛇矛を置きに行き、飛ぶように戻ってきた。
「じゃあ行こうか」
敷地を出て、洛陽の路地に入る。細い道を抜けて、主要道、メインストリートへ。
「ようやく、都も賑わってきたな」
「たくさんお店が開いてるのだっ!」
俺たちが洛陽へ入ったときには閑散としていた道が、人で溢れている。まだ戦の爪痕が残っていて、所々焼け跡や瓦礫、臨時の救護所があったりするが、それを除けば、平和な町並みに戻ってきているようだ。
「さて、まずはどこへ行こうか?」
「とりあえず腹ごしらえなのだ!」
「だと思ったよ」
微笑して、手近な食事処を探す。
「ええと、ここは――あれ?」
食欲を誘う匂いのする所の暖簾をくぐると、見覚えのある姿があった。青紫の着物と髪、はなやかな色の簪。大胆に開いた着物の裾から伸びる、あでやかな長い足。
「厳顔……こんなところで何してるんだ?」
厳顔は、透明な液体で満ちた杯を飲み干し、こちらを向いた。
「ぷはぁ――おや、北郷殿。鈴々も一緒か。なに、仕事の合間に三水なぞを」
「それ、言い換えてるだけで酒だろっ!」
肩当てに書かれた「酔」という大字の通り、桔梗は大の酒好きだ。
「おっと、ばれましたか。ううむ、まいりましたな」
桔梗は椅子の上で足を組み替える。つい、その足の動きや、その、隙というか隙間というか裾の間に目がいってしまい、慌てて目線を戻す。
が、桔梗は俺が何を見ていたか感付いていたらしく、、
「ふふっ、関羽殿や孔明殿に告げられないためには、夜にお邪魔すればよろしいですかな?」
と、妖艶な笑みを見せる。
「い、いや。言わない、別に言わないから……」
思わず股間がむずつきそうで、身じろぎする。
「ふっ、委細承知……っと、それはともかく、北郷殿は如何なるご用件ですかな? ここには酒と酒と酒しか置いておりませぬが」
「あー、やっぱり? 食事でもと思ったんだけど」
「お腹空いたのだー!」
「ああ、なるほど。残念ながら、酒の肴はありますが、鈴々の腹は満たせないでしょうな」
桔梗は着物の袂から金を出して卓の上に置き、
「では、一緒にどこか食べられる所を探すとしましょうか」
桔梗と共に店から出て、また街の大通りを巡る。数軒、料理の質や量を理由に却下したところで――
「ここなんかどうですかな? 量が多いですし、料理の種類も豊富で――」
「ここにするのだ!」
桔梗の解説をさえぎり、空腹が限界らしい鈴々が、店の中に入った。
結構広い店内は、かなりの賑わいを見せていて、座れるところがなさそうだった。
「うわー、こりゃ、駄目かな?」
少し待てば空きそうだが鈴々がもつかどうか――
「あれ……あそこ空いてる?」
店の一番奥で数人が卓を囲んでいる所の、手前のテーブルが空いているように見える。
「えっと、店員さんは……」
「い、いらっしゃいませぇ! ごめんなさい、混んでいて……こちらにどうぞ!」
慌ただしく店員さんが駆けてきて、俺たちを案内する。
鈴々の手を取り桔梗を連れて、店の最奥へ。やはり、空いていたようだ。
「良かった、これで食べられる――」
「待て」
冷たい響きを持つ低い声が、俺たちの動きを制止した。店員さんの目の前に誰かがいるらしい。背丈の関係で、どんな人かは見られない。
「警護上、ここから内側へは入れられない。先にそう言っていたはずだが」
「す、すいませんっ! 店が混んでまいりましたので」
店員さんが、頭を下げ、そして俺の目の前に、ひとりの少女の顔があらわれた。
「む?」
「あ」
それは、呉の武将、甘寧だった。
「北郷か」
「あ、ああ。甘寧、ってことは、向こうにいるのは孫権?」
「お前に教える必要はない」
「ええっと……」
ちょっと背伸びをして、甘寧の向こうの様子を見る。
奥には、孫権と、陸遜がいて、和気藹々と食事をしていた。
「思春? 何やってるんだ?」
と、孫権がこちらを見て――
「ほ、北郷っ!」
蓮華はガタッと椅子を揺らして立ち上がった。
「あらー、北郷さん」
陸遜もこっちに気づいて手を振ってくる。
「や、久しぶり、かな?」
孫権も同じ洛陽にいたらしいが、虎牢関の戦い以来、顔を合わせることはなかった。
「あ、ああ。久しぶりだな。えっと、食事か?」
「うん。そこの卓子、使っていいかな?」
「ああ。いいだろう? 思春」
「…………蓮華様がそうおっしゃるのであれば」
甘寧がひいてくれた。
ほっとして、俺たちは席に着く。
「よーっし、食べるのだぁ! お姉さん、これとこれとこれ持ってきて欲しいのだ!」
鈴々は席に着くなり注文する。
「ふむ、わしはこれとこれを頼む」
この店をよく知っているらしい桔梗は、お品書きを一目見て注文する。
「ええっと俺は……ここは何が美味しいのかな?」
と、後ろの席にいる孫権に聞いてみる。
「わ、私に訊いているのか? そうだな……売りにしてる水餃子が美味しかったかな」
「そうか。よし、じゃあ、とりあえずそれで。あと、ここらへんを一通り」
鈴々や桔梗が好きそうなのもついでに頼む。
少しして、料理が運ばれてきた。
テーブルいっぱいの料理料理。
「すごいな! そんなに食べるのか?」
蓮華が目を丸くする。
「いや、俺じゃなくて……」
「いただきまーす! はむ、はむ、はふっ!」
「ね」
「……なるほど」
超健啖家である張飛は、小さな体で俺の数倍は食べる。しかもすごい勢いで。
「俺も食べなきゃ無くなっちゃうな。と、これが水餃子か……」
ちょっと厚めの皮に肉や野菜を閉じ込めて茹でた餃子。箸で掴むとつるりと滑りそうだ。
「はぐ……おっと、肉汁がっ……と、はふ」
噛むと具が熱い肉汁と一緒に飛び出してくる。
「おお、美味いなこれっ!」
「そうかっ、よかった」
すすめた孫権が、嬉しそうに破顔一笑した。花開くような微笑みに、俺は、ちょっとどぎまぎした。
そうして、飲み食いしながらの談笑が始まった。
「え? じゃあ、長沙に一旦戻るの?」
「ああ。大軍をこのまま無為に疲弊させるわけにはいかないからな。私と周瑜、甘寧、あと呂蒙あたりを連れて、兵の一部を荊州に戻すつもりだ」
孫策軍の旗揚げは、孫呉の先主である孫堅の領地、長沙だ。荊州のかなり南に位置するため、中原からは遠い。
「じゃあ、しばらく会えなくなるのか……」
「そうだな……だが、荊州の情勢が安定しているようなら、すぐに戻ってくる予定だ。中原は放置しておける状況じゃないし」
「そっか。それならよかったよ。会えないと寂しいもんな」
「う…………うん……そうかもな」
と、俺たちが食事をつまみながら話している隣では、
「ほう。孫呉の将にも酒豪がおられるのか」
「はい〜。そりゃもう、底抜けというか、なんというか」
「ふむ。わしの友人も酒に強くてな。それほどなら、一度3人で競ってみたいところだな」
「うわ〜、それは私も見てみたいですね〜……できればちょっと遠いところから」
と、厳顔と陸遜が酒を酌み交わし、そして、
「甘寧のお姉ちゃんはなんで下になにもはいていないのだ?」
「…………別になにもはいていないわけではない……動きやすくするためだ」
「動きやすくかー。じゃあ鈴々も、下、脱いだほうがいいかな?」
「…………それはやめろ」
意外な組み合わせの張飛と甘寧が、妙な話で盛り上がっていた。
「そういえば、この前会ったときと服が違うな」
「ああ。孔明と鳳統が作ってくれた服なんだけど……」
「ほう。あの二人は服飾の製作までやるのか?」
「ああいや、えーっと、前に俺が着ていた服の復元なんだ。元着ていた服は無くしちゃってな」
「ふうん。確かに、奇抜な意匠だし、天の遣いとかいう噂に合っているかもな」
「あはは、そんなに変かな」
向こうの世界では数百人が同じ恰好をしているのだが。
「いや……変ではない。その、似合っていると思うぞ」
「そ、そうか。ありがとう、孫権」
なんとなく照れ臭くて頬を掻いた。
「初々しいのう」
「見ているこっちが微笑ましくなりますねぇ〜」
厳顔と陸遜がそれをみてニヤニヤする。それをツマミに酒を飲む。
「ぱくぱく、むぐむぐ、もぐもぐ……うっ! ううううッ!」
「…………!? 水ッ!」
「ごくごく、ぷはっ、……はぁ、助かったのだ! ありがとうなのだ!」
「…………いや。……落ち着いて食べろ」
「わかったのだ! ぱくぱく、はぐはぐ!」
「…………」
張飛と甘寧はマイペース。
そんな3組のやりとりは、食事の終わりと共に一段落した。
店が混んでいるので食後に居座るのも憚られ、店を出た。
「あっ! 御遣い様だ!」
往来に足を踏み入れると、俺は子供に取り囲まれた。
「おおっ! なんだなんだ」
「お兄ちゃんっ、遊ぼうよ! 向こうに、劉備お姉ちゃんもいるよっ!」
「へ? 桃香が?」
「ほう、子供に人気なんだな」
孫権が感心して、笑った。
「巡回の度に一緒に遊んでるからな」
「……それは巡回の意味がないんじゃ……」
「お兄ちゃん、早く早くっ!」
と、子供たちは俺の手を取って、駆け出した。
俺もそれにつられて、駆け足になる。
「お姉ちゃんも行こうよ!!」
「わっ、ちょ、ちょっと待って!」
突然引っ張られてつんのめりそうになりながら蓮華が連れられていく。害意はないと判断したのか、甘寧は警戒しつつも止めはしなかった。
「劉備お姉ちゃーん!」
街の広場に着くと、子供たちが手を挙げて桃香の名を呼んだ。
桃香は広場の真ん中で子供たちに囲まれ、なにやら一緒に遊んでいるようだった。
「はぁーい! なになに、どうしたの? ……あれ? ご主人様! 鈴々ちゃんに厳顔さん! それに、孫権さんたちまで!」
「あはは、や、桃香。さっきまで一緒に食事してたんだけどね、この子たちが遊ぼうって――」
「そうだったんだ!」
「う、うむ。だが、私たちは――」
と、孫権が遠慮するような素振りを見せるが、
「ちょっとだけ遊んでいこうよ!」
俺は、一歩退こうとする彼女の手を取った。
「ね!」
「……う、うん」
蓮華が頷くと、
「わーい! 何して遊ぶ?」
子供たちが飛び上がって喜んだ。ついでに桃香も飛び上がった。
俺たちは陽が暮れるまで、皆で遊んだ。
鬼ごっこや隠れんぼに始まり、男の子たちと相撲、女の子たちとはおままごとなど、思い付く限りのことをやった。
暇なときに李典と作った竹トンボや剣玉、鞠で遊んでみたりして、疲れて眠っちゃう子がでるぐらいだった。
「こんなに遊んだのは久しぶりだ……」
と、蓮華が肩で息をしながら、楽しそうに言う。
「孫尚香とは遊んだりしないの?」
「ん? ああ、もうすこし小さい頃はな……今は、やることも多いし、たまにだな」
「そっか。今度は、孫尚香も誘って皆で遊びたいね」
「……うん、そうだな……」
「孫策とか周瑜も――」
「それは嫌だ」
孫権はすごく嫌そうな顔をした。
「な、なんで?」
「姉様は暴れ回るし、周瑜は泣かすまで勝ち続けるし……ろくな思い出がない」
「ぷ……っくく、そうなんだ」
小さな蓮華をからかうように遊ぶ2人の姿を想像して、思わず吹き出した。
「でも今なら、勝てるかもしれないんじゃない?」
「む……確かに、今なら私も……いや……しかし……」
蓮華はぶつぶつと考え込む。
「ご主人様〜! 寝てる子、厳顔さんと一緒に送ってくね〜!」
と、桃香が小さな子をおんぶして、こっちに向かって叫んだ。
「ああ! じゃあ、俺は、残りの子を送ってくから!」
「は〜い!」
桃香は手を振って了解を示し、歩み去っていった。
「劉備は元気だな」
「何事にも一生懸命だから……多分、帰ったら、ちっちゃな子みたいに眠っちゃうよ」
「そうか……ふふ」
愉しげな蓮華の元に、甘寧が寄ってきた。ちなみに、甘寧もさっきまで一緒に遊んでいて、鬼ごっこで猛威をふるっていた。
「蓮華様。そろそろ、時間です」
「そうか。では、私たちも帰るとするか。北郷、私たちの屋敷の方向に帰る子は連れて行こう」
「うん。それじゃ、よろしく頼むよ」
子供たちを集め、蓮華に預ける。
「では、またな、北郷」
「ああ。おやすみ、孫権」
別れの言葉を交わし、孫呉の3人を見送る。
黄昏の中、鮮やかに赤い孫呉の服は輪郭をぼやけさせて、最後に、ちらりと振り返った蓮華の瞳の蒼色を余韻に、道の向こうへと消えていった。
残ったのは、俺と、鈴々と、数人の子供たちだけだ。
「さーて、俺たちも帰ろうか。鈴々!」
ちょっと離れてまだ子供たちと遊んでいる鈴々を呼ぶ。
「えー!! まだ遊ぶのだ!!」
「そうだそうだ!」
「だーめ。もう暗くなっちゃうからな」
子供たちと声を揃えて反対する鈴々を押して、家路を急ぐ。
夕日を背に、遊びの終わりを惜しむ声をあげながら、てくてくと帰る。
「じゃーねっ! 鈴々お姉ちゃん! 御遣いのお兄ちゃん!」
「おうっ! 気をつけて帰れよ!」
「また一緒に遊ぼうなのだっ!!」
最後の1人まで家に送って、そして、ついにただ2人になった。
「今日は楽しかったのだ!」
「うん。そうだな」
「なんだか、いつも戦ってばっかりなのが、嘘みたいなのだ……」
鈴々は、遠く夕焼け空を見る。
「ん……きっと、乱世が終わって、平和になれば、こんな毎日になるよ」
「……平和になる頃には、鈴々も大っきくなって、おっぱいとかばいんばいんになってるのだ!」
「あははっ、そうかもな」
「ぶーっ、お兄ちゃん信じていないのだ!」
俺は笑いながら、茜色の空を眺めた。
まだまだ、平和への道筋は見えない。
蒼天の先がどこへ繋がっているのか、誰にもわからないのだ。
平和になるのが、十年先か二十年先か、それもわからない。
もしかしたら、俺や、鈴々が死ぬまで、戦乱の世は続いているかも知れない。
だから。
柄にもなく、俺は祈った。
願わくは、蒼天の先、暗路の出口が、あの悪夢のような血の黄昏ではなく。
今日の夕焼け空のような、皆が笑って別れられる黄昏でありますように、と。
さて、そんな俺の願いが通じたのかなんなのか、しばらくは平和な日々が続いた。
もちろん、平和と言っても小さな争いは結構あって、その処理のために俺や桃香たち、華琳や雪蓮たちも中原を駆け回った。
相手は董卓軍だったり黄巾党だったり、ただの賊だったりした。中原の三強といえる、劉備軍、曹操軍、孫策軍が睨みを利かせているだけあって、そのどれもが、たいした成果も上げぬままひきあげていった。
規模が小さいだけに、それらの戦いにたいしたエピソードはない。精々、劉備軍の将としてデビューした葉雄(華雄)と厳顔の初陣があったぐらいだ。
董卓軍との大戦を経験したみんなにとっては、ゴミの掃除みたいな日常レベルの仕事だったようで、平穏すぎて退屈しているやつまで出る始末だ。
とはいえ、状勢は確実に変化していた。
一つは、孫策軍の孫権率いる部隊の荊州帰還。これには周瑜、甘寧、呂蒙が同行し、孫策軍の半分近い七千の兵が、荊州・長沙へと向かった。
俺は、孫権が洛陽を出発する日に別れの挨拶を交わし、見送った。
孫策に尋ねたところ、兵を選りすぐり、1ヶ月かそこらで再び中原に戻ってくる予定らしい。今頃、長沙についた頃だろうか?
二つ目は、袁紹の冀州侵攻。冀州の南部を本拠とする袁紹は、賊の平定を理由に北上し、冀州の三分の一を制圧した。
大した正統性もないが、やっていることは俺たちも同じだし、掣肘できる兵力もないため、これは見逃された。唯一、冀州に接している幽州公孫賛軍だけが、これを看過せずに南進して、袁紹に対抗した。
三つ目は、劉備・曹操連合による、エン州・豫州侵攻。
これもまた、袁紹と似た理由付けによって両軍は東征し、それぞれ州の半分近くを獲得した。
軍の力だけで考えれば、完全に制圧することもできたのだが、早すぎると人材確保が追いつかないうえ、防衛ラインが伸びるということで、控えめかつ着実にその勢力を伸ばした。
これらは、まだ、他軍と正面衝突する事態には至ってはいない。
だが、確実に、その時は近付いている。
――劉備軍領、豫州潁川郡、許昌――
「一番先にぶつかりそうなのは、袁紹と公孫賛かしらね。どちらも冀州を狙っていて、侵攻中だし、袁紹の性格的に、境を接したらその瞬間攻撃を始めるわよ」
許昌城内の執務室、執務机の上に座って曹操は言う。
「そうかもな…………ところで、なんでここにいるんだ、曹操?」
潁川郡の太守として執務室の椅子に座る俺は、首を傾げた。
「なによ。居ちゃ悪いっていうの」
「いや……まぁ、たまにくるぐらいならわかるんだが。結構頻繁に来てないか?
「許昌は洛陽より近いし、危険にもさらされていないわ。一番、逢瀬にふさわしいと思わない?」
と、曹操が顔を近付ける。
「逢瀬って……その、深い意味はないよな」
「さあね……」
ぴょん、と曹操は机から降りる。髪がふわりと躍動し、鼻に触れてはいないが、その香りが鼻をくすぐる。
俺に背を向け、何かの資料に目を通しはじめる曹操。
(なんだか最近、思わせぶりなんだよな……)
魔王・華琳の細い背中のラインを見つめながら、熟思する。
(だからって、劉備軍の皆と同じように手は出せないし……もどかしい。前の世界の記憶には、ちゃんと、あるんだけどな……)
彼女の、生まれたままの姿の記憶が。
その、情欲を誘う肢体と、色と、香りと、吐息と、体温が。
(しかし、曹操軍に属しているわけでもない俺が、どうやって華琳を……ごにょごにょできる? 下手したらその場で殺されるし、上手くいっても春蘭とか桂花とかに殺されそうだ)
小さくため息をつく。
別に、性欲がたまっているわけじゃない。
けれど、前いた三国志世界では、華琳と心を通わせ、体も重ねたのだ。その熱い想いがうずいて、2人きりになると、俺一人燃え上がりたくなってしまう。
(ただの片思いよりきついなこれ……)
まるで、記憶喪失した恋人と、友達として接しているような、そんな気分。
執務の途中だが、どうにも手がつかなくなり、思わず、華琳を目で追ってしまう。
その背中を、後ろから抱きしめたくなる。
どす黒い衝動を持て余してついに立ち上がろうとしたその瞬間――
「一刀〜! いる〜?」
雪蓮――孫策が執務室に顔を出した。
「そ、孫策?」
「ああ、いたわね。あらら? 曹操も一緒か」
「不都合だったかしら?」
突然の来訪に驚きもせずに、華琳は孫策の方を向く。
「いいえ。むしろ好都合」
「?」
曹操が眉を顰めるのをよそに、孫策は俺を見る。
「何か緊急事態か?」
孫策軍本隊は現在、荊州北部、新野に駐屯している。袁術が本拠とする荊州南陽郡に新野はある。
「ううーん、黄巾党の流入とか賊の暴動とかはあるけど、別にたいしたことはないわ……それに、そこらへんは私が招いた事でもあるし」
「え?」
最後の方が聞き取りづらくて、俺は聞き返した。しかし、そこは孫策にとって重要ではなかったらしく、繰り返しはしなかった。
「今日はねー、酒盛りのお誘い」
「酒盛り?」
「そう。お目付役の周瑜もいないし、今よ! 今しかないのよ! 羽目を外せる機会は!」
「……ああ、なるほど」
周瑜……冥琳は、天才にしてじゃじゃ馬な孫策の監視役なのだ。それが、今、孫権と一緒に長沙に向かっていて、いない。
ということは……。
「新野でやってもいいんだけどね、どうせならやっぱり華やかなところでやりたいじゃない? なら、一番栄えている都がいいと思ってね」
「都って……洛陽か? 確かにあそこは栄えてるけど、まだ戦いの余波で荒れてるぞ。やるなら曹操の陳留とか――」
「ああ、違う違う。私が言っているのは、ここのことよ」
「……? ここって、許昌か? まぁ、皆のおかげでだんだん人も増えてきたけど、都とはいわないんじゃ……」
「あら。当人は噂を知らないわけね」
「噂?」
「そう。董卓と天子のいる長安、劉備のいる洛陽、そして――天の御遣いがいる許昌。今、民の間で都といわれているのはこの三つよ」
「それは……なんというか、都のバーゲンセールだな」
「ばーげん?」
「あ、いや、なんでもない。でも、天の御遣いなんてほとんど嘘だし、実態のない風評だよ」
「まあね。でも、民はそれを信じているわ。信じて、ここに集まってきている。劉備の洛陽もそうだけど、風評は広く広がって、民を動かす求心力になっている。実態がないなんて言わせないわ」
「……」
俺は黙り込む。確かに、慕ってきてくれる人はどんどん増えている。だが、それは劉備――桃香の力もあるのだ。正直、実感がない。
「中には、あなたが、皇帝が洛陽に隠した玉璽を拾っていて、じきに新しい皇帝になる、なんてとてつもない噂まであるわ」
「――!?」
心臓が跳ね、背筋に、寒気が走った。
誰かに知られていた――!?
俺が、玉璽を手に入れたことを――!?
誰に――!?
「都かどうかは置いておいても、今勢いがある、賑わっているのは、洛陽、陳留、許昌で決まりでしょうね。まぁ、洛陽でも陳留でもいいんだけれど、距離的に許昌がよさそうだし、というわけで、酒盛りはここでやることに大決定ー!! ……一刀? 聞いてる?」
「あ、ああ。ここでな……うん、わかった。やろう」
震えそうになる体と声をおさえて、頷く。
「やったー!! じゃあじゃあ、参加したい人は、明日の夜にここの大広間で、ってことでいいかな?」
「おう。飲物とか食べ物、ある程度の用意はしておくよ」
「やったー! それじゃ、私一度戻って用意してくるから! じゃねー!」
雪蓮は軽やかなステップで退出していった。
「……酒盛りね」
「曹操も参加するのか?」
「そうね……今日中に明日の公務を終わらせれば……行けるかしらね」
「ええと、無理しなくても……」
「行くから」
「わ、わかった」
「うちの部下は……そうね、何人行けるかわからないけど、多くなるようならこちらも色々持って行くわ。ちょうど、新しいやり方で作ったお酒が完成したところだし」
「そっか。楽しみにしてるよ」
「そうとなれば、急がなくてはね。今日はこれで帰るわ」
と、華琳も軽快な足取りで帰って行った。
台風一過、静寂が戻って、俺は椅子に座り。
片手で頭を抱えた。
「…………っ」
孫策から致命的な情報を得てしまった気がする。
俺が、北郷一刀が、玉璽を得たことを知っている人物がいる……。
誰だ? 誰が見ていた?
あの場にいたのは、北郷・公孫賛・馬超軍の兵士ぐらいだ。玉璽を見つけてから誰かの目に触れさせてなんかいないし、まして、玉璽を得たことを言った覚えは無い……。
いや、そもそも、なんであんなところに玉璽があったのかが謎だ。
虎牢関突破から洛陽陥落まで、時間は十分にあった。なにはなくとも、玉璽ぐらい持って行ける余裕はあったはずだ。
それが、なぜか井戸の底に捨て……いや、あれは捨てたって感じじゃなかった。
置いたんだ。あそこに。意図的に。
そして……俺に拾わせて……噂を流した?
なんのために?
ぐるぐると、巡る思考。考えはまとまらず、ますます、謎が深まるばかり。
「1人で考えるの……限界なのかもな」
元々俺は孔明や鳳統のような頭脳の持ち主じゃない。かといって関羽や張飛のような武闘派でもないが。
仲間に頼って、戦ってきたんだ。
「……でも、こんなこと相談できるか?」
ただでさえ天の御遣い云々で、わけのわからない事情を抱えているんだ。
それが、前の三国志世界がどうとか、その記憶がどうとか、悪夢がどうとか、余計わけがわからないじゃないか。
「……」
鍵付きの棚の鍵を開け、中の玉璽を取り出す。
玉璽を手の平におさめ、握る。あの日のように。
この……意図不明の仕掛けをしたやつは……もしかして、董卓を嵌めた、黒幕なのだろうか。
董卓を悪役化して諸将を釣り上げ、混乱させ、洛陽を荒廃させた、黒幕。
洛陽陥落のあと、今まで、その姿どころか、影も見せていない。
「誰なんだよ……、せめて、顔を見せてくれよ」
玉璽を痛いぐらいに握り締める。
「あの夢の子、なのか?」
俺が悪夢の中で殺してしまった、顔の見えない、誰か。
きっと俺の敵になってしまう、誰か。
「何でこんな事……するんだよ。わけがわかんねぇよ」
実際、この混乱で黒幕は何の得をしたというのだろう。それすらもわからない。
董卓との戦いは史実通りだが、その後の展開は今のところ大きく異なる。黒幕の存在がちらついたせいで、後の魏呉蜀の主たちが団結するという異常事態となったのだ。
「この状況、ある意味理想的だよな……三国が争わず、共闘しているっていうのは……敵なんて、いないんじゃないか?」
そう。敵はいない。少なくとも、三国を敵に回せるやつなんていない。
「……うーん、なら、こんなに心配する必要……ないような……うーむ」
しかし、喉に魚の骨がひっかかっている気分だ。
「でも、魏呉蜀だけじゃなく、董卓軍とかの子たちにも、生きていて欲しいし……董卓……月……」
未だに、董卓の生死はわからない。
董卓軍の動きに大きな変化は見られないし、生きていると思うのだが……。
詠に、賈駆に事情を訊きたい。
生きているんだよな、って。月は、生きているんだよなって訊きたい。
「あー、でも、詠、正体隠してるんだよな。荀攸だっけ。あああ、事情が込み入りすぎて、頭が爆発しそうだ!」
まるで、からまってほどけない糸のよう。
「はぁ……」
こんがらがる頭を振り、立ち上がる。
ふと、視界の隅で、何かが光った。
「……ん? あ」
それは、一振りの刀だった。
俺がこの三国志世界に戻ってくる切っ掛けになった日本刀だ。
刀は太陽の光を反射し、まるで俺を呼んでいるみたいに強く輝いている。
俺は、刀を手に取り、鞘から抜きはなった。
無銘の刀は、俺の動きに応えるように、しっくりと手の中におさまり、何かを訴えるように、ずしりと重さを俺の腕に伝えた。
「斬れって? 何をだよ……この三国志世界をか?」
快刀乱麻。
そのために生まれてきた刀。
「ははっ、頼もしいな。そんなことができるなら」
でも、できるような気がする。
だって、この世界に俺を呼び寄せた刀なのだから。
この、もつれ、みだれ、からまり、かたまってしまった乱世を。
――ヒュオンッッ!!
俺は、刀を、大上段から、一気に振り下ろした。
空気が割れ、風が鳴る――
斬ることが、できるのかもしれない。
「さて! 皆さん、杯は行き渡りましたか〜!」
劉備が大広間の一段高いところから音頭を取る。
眼下には曹孫劉各軍の将と軍師の多くが揃っている。
「ではではではでは! ええー、日頃の色々な色々に感謝して! 乾杯っ!!」
「かんぱーい!!」
「かんぱい」
「かんぺー」」
「色々な色々って何よ」
不揃いの唱和を開始の合図に、酒宴が始まる。
俺は手元の酒を一口呷り、ぐるりと皆の顔を見た。
参加している人数は十人を軽く超える。
劉備連合軍からは、俺、劉備、孔明、厳顔、趙雲、馬超、馬岱。
曹操軍からは、曹操、程c、許緒、楽進、李典、于禁、そして荀攸(賈駆)
孫策軍からは、孫策、黄蓋。
「孫策軍は少ないなぁ」
俺は大広間の中央で、大甕から酒をじゃぶじゃぶ酌んでいる孫策に話し掛けた。
「だって、半分長沙にいっちゃったし……新野の居残りも、陸遜と周泰しかいないわよ」
「そりゃまた……」
「陸遜も周泰も来たがったんだけどね……とくに周泰は。あなたに挨拶したがってたわよ」
「ああ、そうだよな。あの戦いのあとろくに話できてないし。俺もちゃんとお礼言いたいんだけどな」
と残念がる俺に、
「はっはっは、孺子……お主、うちの将を誘惑してなにをするつもりじゃ?」
ぐいっ、と肩に手を回し、黄蓋が俺に絡んできた。
「いや、誘惑なんて……って、黄蓋さん? なんでもう酒の匂いがぷんぷんさせてるんですか?」
「あー、こっちに来る前から飲んでいたからな。ごくっ、ごくっ、ぷはぁ。くっくっく、冥琳がおらぬとなればこっちのものよっ!」
「……すっかりできあがってるよ」
「よっぽど鬱憤がたまってたのねぇ。ま、それは私もだけど。ふふふ」
ごくごく、と孫策は杯の中の酒を飲み干す。
(ここに留まると泥酔コースだな……逃げよう)
俺はそろりそろりと、脱け出そうとするが、
「どこへいくつもりだ北郷? 儂の酒が飲めんというのか?」
「うふふふ、一刀〜。一杯の酒も飲み干さず立ち去ろうなんて、酒宴の主人としてゆるされないわよ〜」
「はわわ!」
つい朱里のような声が出てしまった。
結局、一杯分の酒につきあう事になった。
「……あ、あれ? あの子、袁術じゃ……?」
酔いこそまわっていないが熱くなった体を柱にもたれさせ、会場をなにげなく一望していると、ひとりの少女を見つけた。
「ああ。私が誘ったのよ。あっちに張勳も来ているわ」
と、孫策。
「……袁術軍って袁術と張勳しかいないんじゃ……大丈夫なのか?」
「さあね〜」
「ちょっと挨拶してくるよ」
その場を離れ、袁術と張勳の所へ行く。
「こんばんわ。袁術」
「ん? ああ、あ〜……なんだったかのう七乃?」
「変態豚野郎……じゃなかった、北郷さんですよ、お嬢様っ」
「……どうも」
不本意ながら軽く頭を下げる。
「おお。そうであった。北郷。こたびの宴へのまねき、感謝するのじゃっ」
「ああ。楽しんでいってくれたら嬉しいよ。あ、あそこにハチミツとか甘い物あるからね」
「おおお! 気が利いておるのっ、北郷! では早速……」
ぴょこぴょこぴょこ、と金色の子供が会場を駆ける。それを張勳が追いかける。
ちょっと微笑ましい光景に、俺は和やかな気分になった。
(やっぱり、普通の女の子なんだよな……いや、普通というにはお嬢様すぎるか)
ちなみに、前世界の俺の記憶として、袁術……美羽を抱いた記憶もあったりする。どれだけ無節操なんだ前世の俺ェ……。
袁術たちから目を転じると、劉備たちが視界に入った。
今回、関羽や張飛、鳳統、華雄、公孫賛は留守番だ。董卓軍には呂布という最強武将がいるため、武官を多く残さねばならなかった。
「や、厳顔。良い飲みっぷりだね」
豪快な大きい盃に酒をくみ、景気づけに一気に飲み干した桔梗に声を掛ける。
「おお、北郷殿。宴の席ですからな。いつもはここまでの酒振りはしませんぞ?」
「あはは、本当かなぁ?」
厳顔の酒仙っぷりをよく知っているから、つい、笑ってしまう。
「ところで、劉備軍に入って少し時間たったけど、どうかな? 劉備軍は?」
「どうとは?」
さすが、酒をあれだけ飲んでも、重要な問いはきちんと聞いている。
「雰囲気というか……居心地、かな?」
「ううむ……一言で言い表すのは難しいですが……悪いところを探すのが難しい、と、言ったら答えになりますかな?」
「それは……うん。大分良い評価だね」
「左様。劉備軍の将兵たちもそうですが、なにより、主たる劉備殿、北郷殿が優しく強い意志を持っているのが良い。これは世の評判通り、と膝を打った次第」
ごくり、と小さな杯に持ち替えて一杯。
「そして……子供に親しみを持たれるのも良い。未来を、感じさせまする」
「子供か……」
俺は、桔梗の友人である黄忠、その娘である璃々のことを思い浮かべた。
「できるなら、我が身が尽き果てるまでに、劉備殿の世が来てほしいものですな」
「……ああ。そうだな」
厳顔に酒を注ぎ、俺も厳顔に酒を注がれ、飲み干す。
「厳顔さーん、あ、ご主人様も〜。楽しんでますかぁ?」
劉備がちょっとだけ危うい足取りで寄ってきた。かたわらには少し赤い顔の孔明がいる。
「ああ。2人も、楽しんでるみたいだね」
「はい〜。曹操さんにもらったお酒が美味しくて〜。ご主人様ももらってくるといいですよ」
「……桃香様、あの、重いです」
ふらふらしている桃香は、時折、朱里に寄りかかってしまっている。
「ええ〜……私そんな体重増えたかな……」
と、服の上からお腹をつまむ。
「……おっぱいが重いんです」
朱里は羨ましそうに、己の肩に乗せられた、双玉を見る。
「はっはっは」
厳顔が笑い、劉備たちに酒をすすめる。
多分、桔梗なら自分の酒量を調整して、劉備たちの面倒を見てくれるだろう。そう判断して、俺は一度離席することにした。
「さて……次は誰の所に行くかな。ん? 馬超と趙雲に……曹操と程c? 見ない組み合わせだな」
めちゃくちゃ盛り上がっているわけではないが、それなりに会話が弾んでいる様子の4人の所へ向かう。
「――まぁ、その他に繋がりがあるわけじゃないんだけどね。顔も遠くから一度見たことがあるだけで……あら、北郷」
何事か話していた華琳が、俺に気付き、少しスペースを空けてくれた。
「なんだか楽しそうだけど、何の話をしてたんだ?
「涼州の馬超が顔を見せているから、母親の馬騰の話をしていたのよ」
「馬騰……? 俺はよく知らないけど、西涼の領主、だっけ?」
と、馬超の顔を見る。
「ああ。私の母親で、馬岱の叔母だ。それより、曹操の話を聞いたんだが、すごいんだぞ!」
「なにが?」
「私と馬騰が同じ世代だっていう話よ」
「………………はい? え、いや、馬騰って馬超の母親で、それと同世代って――!?」
実は華琳はおば――
「朝廷への出仕、仕官が同じ年だったのよ。馬騰は出仕がかなり遅かったから」
「…………な、なんだ。そういうことか」
ほっとした。
「一瞬、曹操さまがとてつもないおばさんなんじゃないかと思いましたね、お兄さん」
程cが目ざとく俺の様子を見て取り、つぶやいた。
ぴきっ、っと華琳の顔に怒りのマークが浮いた。
「あなたは私のことをなんだと思っているのかしら?」
「い、いや、同世代って言われたら、みんなそう思うって、な? そうだよな?」
救いの手を求めるが、趙雲も程cも目をそらした。
馬超に至っては顔までそらした。
翠ぃいいいっ!! お前絶対俺と同じ事思ってただろぉおおおおお!!
「あ、あの、あれだよ。大人びて見えるからさ、本当は何歳なのかわからないっていうか……が、外見かなり若くみえるしさ」
「……そうね。外見だけじゃなく、中身も若いと評してもらいたいところだけど」
「ぷっ、くく……我が主の前では、曹操殿もかわいげのあることよ」
趙雲は肩を揺らして笑いをこらえた。
「そりゃそうだよな……袁紹と同い年だっけ?」
と、馬超。
「……」
曹操は沈黙し、ゆらりと馬超の方を向く。
俺は曹操の追及の手から逃れ、華琳の後ろに回った。
……馬鹿馬超め。華琳は麗羽より年下だ。
「ぎゃ、ぎゃああああああああ!!」
翠は女の子らしくない悲鳴をあげた。何が起きているか、見る勇気はない。
「がくがくぶるぶる……お、おお!? ちょ、ちょっと曹操!」
震えていた俺は、ありえないものを見つけて、慌てて華琳の肩を掴んだ。
「な、なによ?」
華琳は突然触れられて不快なのか驚いたのか体を硬直させた。
「あれ! え、袁紹じゃないか!?」
俺が示した指の先には、黄金の巻き髪に深紅の盛服。見紛う事なきド派手な姿は、明らかに袁紹だった。
「ああ……来たのね。一応、私が呼んでおいたのよ」
「マジでか!?」
袁紹は、名目上はともかく、俺たちと敵対している勢力と言っていい。反董卓連合の盟主だったとはいえ、それをいつのまにか放棄して冀州に帰ったうえ、領地外で好き勝手なことをやりはじめたのだから、少なくとも味方とはいえない。
「文醜も来ているわね……ふうん。招きに応じず、この機にエン州に入ってくるなら、夏侯惇と夏侯淵、典韋、それに荀ケ、郭嘉で逆撃させようと思ったんだけど……」
「ああ、なるほど。だから来てないのか」
華琳の隣にいつもいるはずの少女がいなかったから、不思議だったのだが、それなら納得がいく。
「ふん。宴に来て欲しい、麗羽がいれば盛り上がる、とお世辞を書いてやったらこのざまか。今生け捕れば、天下は安定しそうね」
「……でも、いくらか兵も連れてきてるだろ。文醜も……あ、顔良はいないのか」
「あの子は袁紹軍の中でも常識的だから、領内で待機しているんでしょう。同情するわ」
「そうだよなぁ……で、どうする?」
「止めときましょう。ここで暴れられて、取り逃したら面倒だわ」
「おう。厄介なことにならないよう、警戒しておくよ」
「ええ……。はぁ、それじゃあ、見え見えの腹でも探ってくるわ」
と、曹操は、手を振って麗羽の方へ歩いていった。
ああ見えて、別に袁紹のこと嫌いじゃないんだろうな……本人は認めないだろうけど。
「じゃあ俺も、別の所にっと」
曹操と逆の方向に歩を進めると、銀髪の少女がかがんで、余興の準備をするための天幕の中を覗いていた。
「お、楽進。なにやってるんだ?
「あ、隊長!」
咎められると思ったのか、楽進はびくっ、と震えて、慌てて立ち上がる。
水関で協力してくれた楽進・李典・于禁の3人は、まだ俺のことを隊長と呼んでいる。 曹操が俺に貸してくれる部隊は大体この3人と荀攸が率いていて、今でも、よく顔を合わせるから、違和感はなくなってきたが。
「実は、この中に李典と于禁が入ってしまって……」
「へえ。誰かなかにいるのか? 余興のために楽師とかが来てるとは聞いたけど。
「ええと……なんでも、あいどる、とかいうのが」
「あ、あいどる?」
もろ英語なんだが……。
「はい。たしか、数え役萬☆姉妹、というらしいです」
「ああ……聞いたことある」
というか知っているし会ったこともある。黄巾の乱の首謀者、張角・張宝・張梁の3人で結成されたアイドルユニット……だ。
「それで、そのアイドルを探しにいっちゃったわけか」
「はい……止めたんですが」
「いいよいいよ。凪は気にしないで」
凪の肩に手を置き、慰める。
「ちょっと中はいってみようか」
「いいんですか?」
「大丈夫だよ。一応主催者だし。ほら、いこう」
凪の手を握り、テントの中に入る。テントといってもかなり大きく、入っても中が全て見えるわけじゃない。
「沙和〜、真桜〜?」
名前を呼び、2人を探す。
「――ん……隊長?」
「あ、いた」
声のする方へ足を運ぶとすぐに、2人の姿を発見できた。
それだけでなく――
「お? 馬岱と許緒も一緒か」
「北郷さん!」
「え、兄ちゃん?」
蒲公英と季衣が肩を並べて、沙和や真桜と何かを見ていたようだった。
「何してるんだ?」
「おしかったな〜。今さっき、数え役萬☆姉妹がここにいて、色々準備してたんやで?」
「へ〜。4人ともそれを見に来たわけか」
「うん! もう、すごかったんだから! 舞台衣装とか、化粧とか、歌の練習とか!!」
蒲公英が興奮して飛び上がらんばかりの勢いで喋る。
「そっか……準備が終わったって事はそろそろライブ……舞台をはじめるって事かな?」
「あ、そうなの! 見に行かないと!!」
沙和たちは焦ってばたばたとテントを飛び出していった。
残された俺と凪は、顔を見合って苦笑した。
「それでは、私は沙和たちと合流いたします」
「あ、うん」
テントを出ると、凪はつい繋いだままにしていた手を離した。
「あの……よければ、荀攸さまのところへ」
「え?」
「それでは!」
凪はぱっと踵を返し、大広間の一角にある舞台の観客席の方へ消えた。
「荀攸……」
俺は、三つ編み眼鏡の少女を捜索する。
たぶん……凪の言い方だと……彼女は今、一人なんだ。
左右を眺め、パーティーのざわめきから遠いところに視線を走らせる。
――いた。
宴の中心からは死角になる位置。柱の一本に背中をくっつけて、何を見るでもなく、何をするでもない少女一人。片手に杯をもっていることだけが、この場に参加している、ということを示している。
「――や、荀攸」
少し離れた位置から、彼女の名を呼ぶ。
「……どうも」
荀攸はちょこっと杯をあげて、こたえる。
「この前は世話になったな。おかげで助かったよ」
俺率いる、劉備軍旗下、豫州北郷軍はたびたび賈駆率いる援軍に助けられている。もちろん俺が曹操軍を援護することもあるが、どちらかといえば助けられる事の方が多い。
「いえ。命令に従ったまでです」
「そっか」
荀攸は最小限の言葉で俺との会話を終わらせたがっているようだった。
(よく考えたら、月を介さずに詠と接触することなんて、ほとんど無かったな)
月がいて、俺がいて、詠がいる。それが基本だった。
「色々大変なこともあるけど、董卓軍と戦うことを考えれば、こっちのほうが良いよな」
劉備の洛陽方面軍は、毎日とは言わないまでも、一週間に数回は董卓軍と接触している。どれも本格的交戦に至るものではないが、神経をすり減らす状況が続いている。
「そう、ね」
董卓軍の名前が出て、荀攸の声が、少しつまる。
(荀攸……この反応、やっぱりこれは賈駆だよな)
荀攸が、前の三国志世界の賈駆とは別人である可能性もあったが、もう、それは無いと思えた。
(あとは……どうにか、月のことを聞き出さないと)
「……俺、守りたい……助けたい子がいるんだ」
「?」
何を言い出すのかと、荀攸は首を小さく傾げる。
「それが一人なのか、複数なのかはちょっとわかんないんだけどさ」
「一人か複数かわからないって……それは……国とか、民衆とか?」
「うーん。それもあるけど……もう少し限定すると、劉備とか、関羽とか」
「ええ」
「そして……曹操とか、孫策とかもなんだ」
「はい?」
荀攸は、わけがわからないという表情……馴染みのある、睨むような顔でこちらを見た。
「それは……何故? 私が言うのも何だけど、曹操殿にしても孫策殿にしても、今は味方でも、いずれ敵になるかもしれないのに」
「……んん……ただ、生きていて欲しい、ってことなんだけどね」
「生きていて、欲しい」
荀攸は、口をぽかんと開けた。
「そう……例えばさ。君が、曹操のことが個人的に大好きで、そして曹操に天下を取って欲しいと思っているとする」
「……」
「でも、残念ながら曹操は大きな戦いで敗れて、復活できない痛手を負ったとする。そうしたら、君は……曹操にそれでも戦って欲しいと思うかな。それとも、国破れて夢破れても、生きていて欲しい、って思うかな」
「…………私…………私、は……」
長く。
長く、荀攸は、深思した。
「っ…………」
そして、沈黙した。
だから、俺は、一線を越えることにした。
「こんなこと……都合の良い、ひどい言い方なんだけどさ。俺は――董卓にも、生きていて欲しいと思っている」
荀攸が目を見開いた。
泣くような、怒るような顔で、俺を、睨む。
手が小刻みに震えていて、衝動をこらえているようだった。
俺は、殴られてもいい。と思った。
しかし、
「わ…………私はっっ! あんたのようにっ! 誰も彼もに生きていて欲しいなんて思わないっ!! そんなの……そんなの……無理、なんだから。私がいま、生きていて欲しいと思っているのは、一人だけ…………ひとりだけなんだからっ!!」
そう叫んで、彼女は、俺の目の前から走り去った。
俺は、彼女の背が小さくなっていくのを、ただ、見ているしかなかった。
「やっちまった……」
罪悪感で、胸が痛く、苦しい。
(あの子が、詠だっていうのはもう、確定だ。詠以外が、董卓のことであんな反応するもんか! でも……)
頭をがりがりと掻く。
(結局、月が生きているのか死んでいるのかわからなかった! しかも、詠を泣かせて! 月が生きているならまだいい。だが死んでいたら、俺は、詠にひどいことを……!)
後悔で潰れてしまいそうだ。
(月が死んでいたら……全力で、一生かけてでも詠に償おう。生きていたら、今度こそ、絶対に守るんだ――!)
俺は、拳を握りしめ、決意した。
そしてそんな俺の背中を――
「なに私の愛しい部下を泣かせてくれちゃってるのかしらっ!」
ドガッッ!! っという音をあげて、強烈な一蹴りが背中にぶちこまれた。
「そ、曹操!?」
曹操は凄みのある笑顔で、俺の襟首をつかむ。
こ、恐い! 恐いって!
「ふふふ、なぁに? 手を出そうとしたの? 私の軍師に? それは私への宣戦布告とみなしていいのかしら?」
「ま、待て! 違う、落ち着けって! うわああああああああ!!」
大広間に俺の断末魔の叫びがこだました。
幸いというか天和たち数え役萬☆姉妹のライブ中だったので、たいした注目も集まらなかったが……。
俺の寿命、多分、年単位で縮まった気がする。
(これが……天罰か……ごめん、詠……)
俺は薄れ行く意識の中で、詠に何度も何度も謝罪するのだった……。
――宴から数日後
――荊州、新野。孫策居城。
「はぁーあ。退屈ねぇ……」
孫策が、城の大広間、首座にすわって肘をつき、拳に頬をのせて、だらけていた。
「雪蓮さま〜……いくらなんでも、お城の一番いい席でだらけないでくださいよ〜」
陸遜が、主をなよなよとたしなめる。冥琳と違って、たしなめ役としての迫力はない。
「なによぅ。何かあればちゃんとするわよ〜。でも、やることないし〜。賊も出ないし〜」
「蓮華さまや冥琳さまは、今頃長沙に到着して頑張っているでしょうから、雪蓮さまも頑張って下さいよー」
「蓮華たちねぇ……この前襄陽の劉表のところを無事に通過したらしいし、あとは大した問題ないじゃない。あそこらへん何もないから何も起きないし」
「うわぁ……孫堅さま縁の地になんてことを言うんですか……」
「ま、そうね。穏が面白いことやってくれれば、やる気出すわよ」
「うわ、無茶振り……上司の無茶振りだ……」
陸遜は困り切った顔をし、そして何かを閃いたように、顔を明るくさせた。
「それでは、この前北郷さんに教えてもらった一芸を披露させてもらいます〜」
「へぇ。一刀に? それは面白そうね」
孫策は興味を示し、椅子に座り直した。
「じゃあいきますよ〜」
と、陸遜は右手の手の平と左手の手の平を、まずは孫策の前に示した。
そして片方の手の親指を手の平の内側に隠し、もう片方の手の親指の根元を、同じ手の人差し指で隠した。
最後に、その根元の隠れた親指を、逆の手の人差し指の隣に重ねて……
「さぁ、親指に注目ですよ〜……、すぅううう、しゅぽん! っと! 親指取れちゃいました! どうですか雪蓮さま! 宴会芸ならぬ天界芸ですよ〜! あ、あれ? 雪蓮さま? 面白くないですか〜?」
「………………」
孫策は死んだ魚のような目でそれを見た。そして、
「…………陸遜。偶然だけど、私も同じような芸ができるわよ。題して首が取れちゃう芸。まぁ、これは協力者が必要なんだけど」
「ひっ、ひぃい〜! 雪蓮さま! 目が恐いですっ!」
穏は泣き顔になって震えた。
そこに、ひとりの少女が黒い影となって登場した。
「孫策様!!」
「明命?」
明命。周泰だ。
周泰は、背中にひとりの少女を背負っていた。少女は体をぐったりと周泰に預け、疲労していることが見て取れる。
「…………はぁ……はぁ……孫、策様……」
「その娘…………し、思春!? 思春なの!?」
孫策は慌てて周泰と、背負われた甘寧の元に駆け寄った。陸遜も、即座に視線を四方に飛ばし、人払いができているかを確認した。
「なにが、何があったの思春? 怪我をしているの?」
甘寧は孫権と一緒に長沙へと赴いていた。思春に何かあったのなら、孫権たちにも何かがあったに違いない。
孫策は焦燥を感じながらも、甘寧を揺さ振ったりはせず、様子を窺った。
周泰の背から下ろされ、絨毯の上に寝かされた甘寧は、肩で息をしつつも、口を開けた。
「い……いえ……どこもやられてはおりません。ただ……ほぼ無休で、ここまで……駆けてきて……」
「な……!」
長沙から新野まで数百q。馬と船もあるが、この疲れ方は、尋常じゃない方法でここまでの距離を踏破したことをうかがわせる。
「それで! なにがあったの!」
「長沙が…………蓮華さまのいる長沙が……!!」
差し出された水を含み、甘寧は、血を吐くように叫ぶ。
「劉表率いる大軍に……! 包囲されました……!!」
――同日、甘寧が新野に到着する少し前――
「洛陽が見えてきましたよ」
一台の豪奢な馬車が、都への道を行く。
格子付きの窓から外を見る少女は、豪華な馬車に似付かわしい、尊貴な身分を思わせる宮廷衣装を身に纏っている。
けれど。
少女の表情は深い愁いを帯びていて、まるで、この馬車が、棺か牢獄であるかのようだった。
「どうか、そんな顔をしないで」
馬車に乗っている、もう一人の女が、悲しげな瞳の少女に声を掛ける。
彼女の方も、やはり高貴さを想起させる礼服。だが、こちらはどちらかというと、官僚か軍師といった様子の堅苦しさがある。
「大丈夫ですよ。あなたの身の安全は、私が保証いたします」
それでも、少女の憂色は消えない。
「きっとあなたのご友人にも会えますよ」
ぴく、と、少女の体が震えた。少女の目に初めて希望の光が、かすかに、きらめいた。
「ふふ。さぁ……まいりましょう。乱れ世の大渦、その中心、わが都へ。さぁ、お手をどうぞ――董卓殿」
ふふふ、と女は笑い、月の手を取る。
この日――洛陽に、皇帝の使者を名のる一団があらわれた。
そして、この日を境に、乱世は新たなる混沌の姿を見せることになるのである。
第6話、いかがだったでしょうか。
拠点フェイズのつもりで書いたので、そんなに長くなることは無いだろう……と、気楽に、プロット通り書いたのですが、まさかの三万五千字超。どうしてこうなった……。
内容について
・偽名が増えて、ややこしくなってきました。
念のため、
葉雄→華雄
荀攸→賈駆
です。
・作者は、白蓮を除くと、愛紗・華琳・蓮華が好きなので、作中でやたらひいきされています……。
できるだけ全員だそうとは思うんですが。
セリフも出番も全然無いキャラとかいますね。魏延とか呂蒙とか。
これからも、出すの忘れてるキャラとかでそうなので、掲示板でもメールでもコメントでも気軽にツッコミ入れてやって下さい。
それでは、ごらん頂きありがとうございました!
第7話はさすがにこんなに時間はかからないと思います。た、多分。
ではまた。
説明 | ||
なぜか文字数制限に引っ掛かってしまったので分割。 第6話後半です。 |
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コメント | ||
作者としてもうまくまとめられるかなー、と思ったりします。でも、何十人ものハーレムを破綻無く形成して維持できる一刀なら、一刀なら何とかやってくれると信じていますw(ate81) | ||
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