マリア様がみてるSS 気になる子ちゃん |
気になる子ちゃん
朝のホームルーム。
(今日の朝は、祥子さまと会わなかったのね)
祐巳さんの少し曲がったタイを見て、ふとそんなことを思った。
(どうしよう、教えてあげたほうが良いのかしら)
じっと見てると祐巳さんがこちらの視線に気づいて「志摩子さん、ごきげんよう」と会釈した。
少しドキッとしたけど、私もごきげんようと笑顔で応えた。
一時間目終了。
斜め前の席にいる祐巳さんは、いつもと変わらぬ様子。
次の授業の教科書を用意したり、近くの席の生徒と談笑したり。
二時間目終了。
祐巳さんは席を立った。お手洗いかしら。
鏡を見て気づくかと思ったけど、祐巳さんの少し曲がったタイはそのままだった。
三時間目終了。
もしかして、祥子さまに直してもらうために、わざとタイを乱しているのかしら。
もしそうなら、私が指摘しちゃだめよね。
……でも祐巳さんがそんなことするかしら。
うーん、気になっちゃう。
「―――さん、志摩子さんったら」
「えっ?」
小声に呼ばれて我に返ると、前の席の子が紙の束を私に差し出していた。
気づけばすでに四時間目が始まって、前の席からプリントが回されていたのだ。
「あっ、はい。」
私はそれを受け取ってさらに後ろに渡す。
うーん、なんだか祐巳さんのタイに釘付けになっちゃってる。
四時間目終了、薔薇の館で昼食タイム。
たけのこときぬさやの煮付けに、ごぼうとにんじんのきんぴら、そしてうずらの卵。幸せ。
横の祐巳さんも、とても幸せそうにミートボールをぱくぱく食べてる。
すると、ガチャっとドアが開いて待望の人が現れた。祥子さまだ。
「お姉さま!」
ぴんと背筋を伸ばす祐巳さん。
「ごきげんよう」
祥子さまはご機嫌麗しいご様子。温かい笑顔で私と祐巳さんにご挨拶された。
「ごきげんよう」
私も挨拶を返す。
「あ、お茶入れますね」
ぱっと立ち上がって、流しに向かう祐巳さん。
「祐巳」
祥子さまは、取り掛かろうとした祐巳さんを制止させて向き合い、すっと首に手を回してタイを直した。
「いいから、食事を続けて」
「……はいっ」
頬を赤く染めて席につく祐巳さん。
おぉ。
五時間目終了、体育が終わって制服にお着替え。
もしやと思って祐巳さんのタイを見ると、また少し曲がっていた。
うーん……。
放課後。
「それじゃあ、また後で」
と、掃除場所に向かおうとする祐巳さん。タイは相変わらず少し曲がったまま。
私は意を決して声をかけた。
「祐巳さん、タイが曲がっているわよ」
すると祐巳さんは、あらいけない、と鞄を下ろして、きゅっきゅっとタイを整え、笑顔で「ありがとう」と言って教室を出た。
タイはまだ少し曲がっていた。
おしまい。
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