【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(8)
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【受け入れがたい光景】

 

 

冗談のような光景が広がっていた。

 

緑あふれる庭先に。羽毛布団をかぶって。

人が3人寝ている。

 

3食すべてケーキになるような、常識はずれの光景。

受け入れるには、時間のかかる光景だった。

 

「あらまあ。

 あんなに気持ちよさそうに寝て。

 起こすのが悪いわ。

 私も、あの羽毛布団にもぐりたい」

 

母親は満面の笑みをうかべ、

頭のうえにハートを飛び散らせた。

 

「…50万円ですから、あの布団」

 

若葉は、庭から目をそらし、ぽつりとつぶやいた。

 

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【うなされる風乃】

 

 

「ううん…ハブが…ハブが…

 はなれて、うう…」

 

羽毛布団をかぶっている3人のうち、

真ん中の一人が、うなされている。

風乃だ。

 

「風乃! 風乃!

 起きなさい!

 それは夢よ!」

 

母親は、勢いよく、羽毛布団をはぎとった。

 

「あ…あれ?」

 

風乃は、目をさました。

身体をおこす。

服には、少し土と草がついていた。

風乃は、土と草をはたきおとす。

 

「おはよう。

 ずいぶんうなされてたけど、

 悪い夢でも見たのかしら?」

 

「わたし、遊女になって、

 紳士さんの首をしめていたら…

 実は、白雪の首をしめていて…

 そしたら、ハブにぐちゃぐちゃにされて…」

 

「あらまあ、愉快な夢だったのねぇ。

 …それにしても、この布団、気持ちよさそう」

 

にこにこ顔の母親。

羽毛布団に気を奪われて、風乃の話をあまり聞いていない。

 

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【若葉、帰ります】

 

 

「じゃあ、羽毛布団は受け取ったので、帰ります」

 

若葉は、風乃の母親から羽毛布団を受け取ると、

丁寧に折りたたみ、そそくさと帰ろうとしていた。

 

「今度は、私もその羽毛布団に寝させてねー」

 

風乃の母親は、笑顔で、若葉に話しかける。

 

「ははーそーですねー」

 

若葉は適当に答えて、視線を下に落とす。

 

庭に、よくわからない、謎の人たちが寝ている。

 

一人は、黒いスーツ姿の男。

顔はかっこいい。ただ、季節感がない。

 

もう一人は、ジーンズ姿の女性。髪は長い。

普通の大人の女性のように見える。

 

いずれも、面識はいっさいない。

 

こいつらも、風乃の呼んだおばけに違いない。

放っておこう。かかわらないでおこう。

 

若葉は、紳士と白雪に触れることなく、

無視して通り過ぎようとした。

 

「あれ? 誰かいるの?」

 

風乃が、若葉の姿に気づく。

 

「ぎくっ」

 

一番声をかけられたくない人に、声をかけられてしまった。

 

若葉は、気づかれたくない一心で、

たたんだばかりの羽毛布団を開いた。

そして、頭にかぶる。すっぽり覆い、正体を隠す。

 

「通りすがりの羽毛布団です」

 

 

 

 

次回に続く!

 

 

説明
【あらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

早朝、南国紳士が「忘れ物を取りにきた」と風乃の家を訪れた。
風乃は、紳士が白雪を捕まえにきたと勘違いし、勝負を挑み、広い庭へ出る。
庭で風乃が大声をあげてしまったせいか、隣の家から羽毛布団(50万円)がふっとんできて、風乃に覆いかぶさるのだった。
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南の島の雪女 沖縄 雪女 妖怪 コメディ 

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