正体不明の空の下
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その日の何時だったか、朝だったかも知れないし昼だったかも知れない。

断言できるのは夜ではなかったと言うことだけだった。

 

そう、その日の何時かに、私、メリーことマエリベリー・ハーンはUFOを見つけた。

その時私は、大学内の敷地(人工の樹がたくさん繁っている)を講義の時間まで、暇潰しに散歩しているところだった。

それはフワフワと低い空に浮かんでいて、なんだか風に飛ばされた麦藁帽子みたいだなぁ・・・なんて

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そんなことを考えてたところまでは憶えている

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・・・・・・

・・・・・・・・・・境界?

そうだ、すごい・・・・

なんてキレイなのかしら・・・・

え?

なに?

調査?監視?

なにそれ?

・・・・いやよ、気味が悪い・・・

人間の可能性とあなた達の存在意義の検証・・・・・・・?

××を壊さないようにって・・・・どういうことなの・・・・・・?

最後の・・・・審判・・・・・?

わカらナイわ・・・・・

 

・・・・リー」

「・・メリー

 

 

「メリー!!」

 

微睡みのなか、多分、それよりも深い眠りだったのだろうか?

何がどうだったのかよく解らないが、彼女が、宇佐見 蓮子がメリーの頬をペチペチ叩いて必死に名前を呼んでいた。

「メリー!」と。それと同時に微睡みから引き摺り出された。

そんな彼女の表情を確認する前にメリーは意識を覚醒させ、慌ててガバッと起き上がった。

 

「わっ!蓮子!?」

「おっ、生きてた」

異様に生き生きした眼で、蓮子は微笑んでくれた。

 

「ななな...なにしてっ…」

ややあって僅かに震えた声で、言葉にもならない何かを吐いた。

まるで呪文(モージョー)か何かかと錯覚してしまいそうなほどに。

「それはこっちのセリフよ。講義と人の約束破って、こんなところで昼寝?」

「え?」

メリーが何かを言おうとする前に――遮られた。

「いくら異常気象で暖かいからって...風邪引くわよ」

 

キョトンと、そんな顔をしているメリーを見て、蓮子は悪戯な笑みを浮かべていた。

 

「え〜と・・・私たしかUFOを見つけてそれから・・・・」

「なに?キャトルミュー?変な夢でもみてたんじゃない?可能性はあるとして」

「夢・・・・」

 

視線を下にずらし、少しの間/思考

 

「あれ?夢だったのかしら・・・・・」

「メリー――置いてくわよー?」

ハッとして視線を戻し、結構遠くまで先行した蓮子が手を振っていた。

メリーは、慌てて駆け寄った。

 

―――

 

――

 

 

レトロな雰囲気を漂わせる自転車、蓮子が息を荒げながら必死にペダルをこぐその背のすぐ後ろに、メリーはちょこんと座っていた。

蓮子曰く、大学の友人から借りた自転車/その友人曰く、二人乗り厳禁!/蓮子曰く、大丈夫だ問題ない。

最新式の自転車ではないにしろ、ちょっとした移動手段としては十分なほどに機能してくれた。

ギーコギーコと音を立てながら平らにも近い坂道(上り坂)をのぼるその音が、何故かひどく懐かしいとさえ感覚した。

 

ふと、先刻(さっき)のことを思い出し、呟いた。

「まだクラクラする・・・・・・・・私なんであんなところで寝ちゃってたんだろ?」

ギーコギーコ

「・・・本当に憶えてないの?」

ギーコギーコ

「うん・・・・」

ギーコギーコギーコ

「やっぱりUFOに・・・・さらわれて記憶を消されたんじゃない?」

そんな蓮子の声は何時もより真面目で、まるでメリーの身を案じているようにも思えた。

そこはお笑い的に考えてボケるところでしょうと茶々を入れたくなったが、逆にそんな事で心配してくれる蓮子が可笑しくて小さく吹き出してしまった。

どうやら蓮子はその事に気付いてないようだった。

 

メリーは瞳を閉じて、そんな彼女の背にもたれた。

決してペダルこぎの邪魔にならないように、加減して。

「おーい、寝ないでよ?危ないから」

はっきりと心配している風に蓮子がやや振り向きながらメリーに緩い警告をした。

「うん・・・・大丈夫・・・・」

当のメリー本人は瞳を瞑ったまま、ただ自転車のこぐ音と、風と、香りと、蓮子の背に身を委ねて。

 

やがて平らに近い坂道は下り坂へ。

シャーーと流れの良い音を立てながら、もの凄いスピードで自転車が下っているのが解る。

蓮子の鼓動が跳ねているのを感じた。それはメリーも同じで、きっとこの下り坂のスリルを楽しんでいるのに違いなかった。

やがてスピードは緩やかになり、流れの良かった音も段々小さくなって、しまいにはまたギーコギーコと音を立て始めた。

そこでメリーはようやく瞑っていた目を開けた。パッとではなく、ゆっくり、シャッターが上がるような感じで。

視界に町並みが映りこんでくる。歩きでも来られる、それくらい近くにある町だった。

建設物や民家はまばらで、完全に目を見開く頃には一面、大きな空しか映っていなかった。

 

空火照(そらほでり)だった。

まるで頬を染めたような色、ちょっぴり照れたような色。

ほんのりの淡い夕空が遠くの方で闇に紛れていくのが見える。

そんな暮れゆく空をメリーは、視線で見送った。

 

ギーコギーコ

「ねぇ、蓮子の自転車ってボロいのね。ヘンな音がする・・・・・・」

今更な気がしたが、メリーはほぼ無意識にそう言っていた。

「これは友人のだけど、文句があるなら宇宙人にUFOで家まで送ってもらえば?」

何時もの声だった。何時もの、楽しげで気楽で明るい蓮子の声だった。

「イヤミ〜」

「そっちこそ!」

それで二人とも笑った。小さく、すぐに風に流されてくらいだったけれども。

「本当に見たのよUFO……」

ひとしきり笑った後、メリーがやや真面目な声で呟いた。

蓮子の背はそれを真面目に受け入れるかのように穏やかな呼吸のリズムをしていた。

「フワフワ飛んでいて、なんだか不思議だった・・・・」

それがメリーの素直な感想であった。そして、誰かに伝えたいと思っていた事でもあったのだ。

「ふーん・・・・」

蓮子にしては珍しく、さも興味のないような、つれない反応。

多分悔しがってるんだなと、随分子供っぽいのねとメリーは思った。

「じゃあさ、今度また見つけたらすぐに教えてよ。私、UFOなんてまだ見たことないからさ。一回ぐらい見てみたいし・・・」

蓮子がそう言うのとほぼ同じ具合に、メリーは視線を泳がしていた。それで、

「――!」

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その時、目の端に虹色のUFOが映ったような気がしたので、ずいぶん気の利く宇宙人だなぁと思ったけど、

今はこのままがいいので、私は見て見ぬふりをした。

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東方 秘封倶楽部 宇佐見蓮子 マエリベリー・ハーン 

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