真・恋姫?無双一姫伝・魏 第七話
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街を襲っていた黄巾党を倒し私達は新しい仲間と共に城に帰って来た。

 

華琳に仕える事になった流瑠、そして、文官志願の女性がやって来た。

 

でも、その人は……その人は………

 

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第七話「滅びゆく者ともう一人の王」

 

 

 

「はああーーーっ!」

 

ブンッブンッ

 

私は中庭で朝の鍛練をしていた。

其処にやって来たのはこの前、華琳に士官して来た司馬芝さんだった。

 

「精が出ますね」

「司馬芝さん」

「あら、((白花|はくか))という真名は預けた筈ですが?」

「あ、御免なさい。おはようございます、白花さん」

「華琳様がお呼びですよ、玉座の間に全員集まるようにとの事です」

「解りました、すぐに行きます」

 

私は訓練用の槍を置いて歩き出した。

 

「あの、一姫さん」

「はい、何でしょうか?」

「そんなに堅苦しい話し方ではなくもう少し気楽に話してもらえませんか」

「で、でも、何と言うか…(お母さんにそっくりだからとは言いづらいし)」

 

そんな私に白花さんは軽く笑って言った。

 

「では、私も分をわきまえて御遣い様とお呼びしますね」

「わ、解ったわよ、行きましょ白花さん」

「はい、一姫さん。くすくす」

(何か調子が狂うな)

 

私達が玉座の間に入るとすでに皆が集まっていた。

 

「遅れて御免なさい。それで何かあったの?」

「二人とも来たわね、実は凪が黄巾党の拠点の情報を手に入れて来たのよ」

「へえ、お手柄じゃない凪」

「い、いえ、たまたまですよ」

「では、遂に」

「ええ、これ以上奴らをのさばらせておく気はないわ。決戦よ」

 

『御意!』

 

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黄巾党の拠点を攻める為に軍を進めていると同じく黄巾党と闘っているという義勇軍を見つけた。

その義勇軍を率いているという人物の名を聞いて驚いた、何しろあの「劉備」なのだから。

 

「貴女がこの義勇軍を率いているのね」

「はい、私は劉備、字を玄徳といいます」

「私は関羽、字は雲長です」

「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ」

「はわわ、わ、私は諸葛亮、字を孔明といいましゅ」

「あわわ、わ、私は鳳統、字を士元といいましゅ」

 

(…もう大抵の事では驚かないつもりだったけどこの時点で蜀の二大軍師が陣営に加わってるなんて…私の三国志の知識もあまり役には立ちそうにもないわね)

 

「私は曹操、字は孟徳。この軍を率いる者よ」

「私は夏候惇、字は玄譲。華琳様一の忠臣だ」

「私は夏候淵、字は妙才だ」

「私は荀ケ(じゅんいく)、字は文若よ」

「私は司馬芝、字は子華です」

「私は北郷。字は無いわ」

 

私の名を聞くと彼女達の顔色が変わった。

 

「あ、貴女が噂の天の御遣い様なんですか?」

「ええ、そうだけど」

「会えて光栄です!うわ〜〜どうしよう、ドキドキして来ちゃったよ。ね、愛紗ちゃん」

「は、はい。桃香様(この方が御使い様。……何故、桃香様では無く曹操殿の所に…)」

 

 

 

私達が話し合いをしていると真桜が慌てて駆け寄って来た。

 

「た、隊長隊長!大変や!」

「あら、どうしたの真桜?」

「そ、それが、あの〜」

「?」

 

私が首をかしげていると凪が一人の女の子を連れてきた。

此処に居る筈の無い、さやちゃんを。

 

「さ、さやちゃん?何でさやちゃんが此処にいるのよ!?」

「それがどうやら荷物の中に紛れ込んでいたようです」

 

さやちゃんは申し訳なさそうな顔をして呟いた。

 

「あ、あのね、さや、さびしかったからついてきちゃったの。おねえちゃんといっしょにいたかったから……」

 

そんなさやちゃんに私は…

 

「馬鹿っ!!」

 

ビクッ

 

いきなり怒鳴られるとは思ってなかったのかさやちゃんはただ呆然としていた。

 

「こんな所に着いて来るなんて何を考えてるの!此処は貴女が来るような所じゃ無いのよ!」

「か、一姫様、もう少し優しく言われては…」

「黙っていなさい凪!余計な口は挟まないで!」

「は…はっ、申し訳ありません!」

 

そう言って凪は沙和達の所まで下がっていった。

 

「うひゃぁ〜。隊長、マジで怒ってるで」

「あんなに怖い隊長初めて見たの〜〜」

「それだけ一姫様は、鞘花ちゃんを心配なさってるのだろう」

 

「…う、うう、ぐすっ。ひっく、ひっく…」

 

さやちゃんはぐずりながら目から涙をぽろぽろ零していた。

 

「此処はね、人と人が闘う所なの。…人が、…死んでいく所なのよ……。忘れた訳じゃないでしょ、貴女のお母さんが殺された時の事を」

「 !! か、かかさま……」

 

さやちゃんにお母さんの事を思い出させる事は身を切るように辛いけど伝えなければいけない。分かってくれると信じて。

 

(……一姫…)

 

「貴女のお母さんの様な人を一人でも無くすために私達は闘ってるの。その為には私達が敵と闘わなければならない……敵を、この手で……殺さなければならないの……」

「ひっく、ひっく。ぐず…」

「でもさやちゃんにはそんな人が死んで逝く所を見せたくない。人を…殺す所を……見られたく…ないの……」

「お、おねえ…ちゃん……」

 

何時の間にか私の目からも涙が零れていた。

 

「お願いよ…こんな無茶は、しないでよ……。こんな所でさやちゃんが傷ついたりしたら…私、私は……」

「ご、ごめんなさい…ひっく、ごめんなさぁい……。う、うわああぁーーーん!あ、あやまるからぁ、きらいにならないでぇ…き、きらいになっちゃやだあーーー、うえええーーーーん!」

 

泣き出したさやちゃんを私は優しく抱きしめ、頭を優しく撫でてあげた。

 

「馬鹿ね、嫌いになるわけないじゃない。私はさやちゃんが大好きよ、大好きだから怒ったのよ」

「えーーん、えーーん」

 

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鞘花も一姫に抱きついて泣きじゃくっている。

華琳と桂花に白花はそんな二人をじっと見ていた。

 

「華琳様、どうなされますか?」

「一姫には悪いけど鞘花一人を送るために割く兵はいないわ。このまま連れて行くしかないわね」

「そうですね、むしろここで帰すより一緒に連れていく方が安全かもしれません」

 

 

少し離れた場所で劉備達は事の成り行きを見ていたが、一姫が鞘花を怒っている所を見て張飛は何か納得できないのか頬を膨らませていた。

 

「あんなに怒る事ないと思うのだ」

「それは違うぞ鈴々、大事な存在だからこそ怒る時には怒らねばならないのだ」

「そうだよね、でも大好きな人と一緒に居たいっていう気持ちも分かるかな」

 

そうして劉備達の義勇軍と合流した華琳達は黄巾党の拠点へと向かって行った。

 

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「いい、さやちゃん。絶対にこの天幕から出ちゃダメよ」

「うん、わかった」

 

鞘花を天幕に残して一姫は戦場へと向かう。

 

 

 

「うおおおーーーー!」

「うりゃあーーーー!」

「はああーーーーー!」

 

春蘭が敵の中に斬り込んで行き、季衣と流琉が周りを取り囲む敵を凪はらって行く。

 

「ウチの螺旋は悪を砕く螺旋や!」

「貴様ら悪党が息をするなんて一億年早いのーー!」

「この大陸の平和の為に貴様らには滅びてもらう!」

 

三羽烏の連携に黄巾の兵達は太刀打ち出来ずに倒されていく。

 

「奴らを人と思うな、ただの動く的と思え!」

 

秋蘭は弓隊を率いて敵兵を射抜いていく。

 

そんな曹操軍の闘いを関羽達は見ていた。

 

「さすが噂に聞く曹操殿の軍、いくら我々が義勇軍とはいえ此処までの差があるとはな」

「なに弱気な事言ってるのだ!鈴々達だって負けてられないのだ!」

「…でもここまでやらなきゃいけないのかな?あの人達だって…」

 

「あの人達だって何?」

 

「え?…あ、御遣い様…」

「北郷殿」

「うにゃ?」

 

黄巾と闘いながら此処まで来たのだろう一姫は肩で息をしていた。その槍はいまだ封印されたままだが刃を覆っている鉛の部分のひび割れは全体に広がっていた。

 

「もし、奴らに対して可哀想なんて感情を欠片でも持っているんなら今すぐ此処から居なくなって頂戴!」

「え……あ、あの、私はそんな…」

「北郷殿!桃香様はそんな軽い気持ちでこの闘いに臨んでいる訳では無いのです。その様な言い方は…」

「だったら迷わないで!! 私達が迷えばそれだけ救える人が減るのよ。気持ちは解るけど奴らが一人生き残れば罪のない人が十人死ぬ、そう考えて闘うしかない。少なくとも私はそうしているわ」

 

劉備は何も言えなくなった、一姫の瞳に流れる目には見えない涙を見た気がしたから。

 

「じゃあ私は行くわよ」

 

そう言って一姫は敵の本陣へと走って行った。

 

「あ、ずるい。みんな!鈴々達も行くのだ、突撃・粉砕・勝利なのだーー!」

『応ォォォォォーーー!!』

 

「・・・・・・」

「桃香様、貴女の優しさはとても尊いものです。貴女は間違っていません、ですが北郷殿も間違ってないのもまた事実です。だから桃香様は桃香様の信じる道を御歩きください、我々は何処までも桃香様について行きます。では私も行ってまいります」

 

劉備は戦場へと駆けていく関羽の背中を見ながら一姫の言葉を思い出していた。

 

『私達が迷えばそれだけ救える人が減る』

 

(分かってる、分かってるつもり。でもやっぱり……)

 

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「はああーーー!」

 

「ギャアアーーー!」

 

一姫は敵の真っ只中で闘っていた。其処には確かに以前の様な迷いは無かった、そして迷いを捨てた時から一姫の闘い方は変わっていった。

 

「なんと無駄のない動きだ、まるで鳥が空を舞うように動いている」

 

そんな一姫の闘いをある種の憧れの様な目で見ていた関羽の所に巨漢な男が走って来た。

 

『うおおおおーーー!』

 

「何だ!」

 

「俺の弟を殺した御遣いとやらは何処だーー!」

 

「あれは張三兄弟の一人か、おそらく張宝という奴だな」

 

そして関羽は張宝の前に立ちはだかった。

 

「待て!北郷殿はゴミ掃除で忙しいらしいからな。貴様の相手は私がしよう」

「貴様の様な小娘がこの張宝様の相手をするだと?身の程知らずめが!」

「身の程知らずはどちらか教えてやろう、代金は貴様の命で払ってもらう!」

 

その言葉にいきり立ち関羽に斬りかかる張宝だが、武と心を併せ持つ関羽相手に力だけに頼る張宝が勝てるはずもなくあえなく敗北する事になる。

 

「張三兄弟の一人張宝の首、劉備が家臣関羽が討ち取ったりーー!」

 

『そ、そんな…張宝さまが』『強すぎる、勝てるわけがねえ』『張角様は、張角様は何処だーー』

 

「今まで散々好き勝手に暴れまわって来た貴様らだ。今更助けてもらえるとは思わぬ事だな、皆の者――!こ奴らを殺しつくせーー!」

『応ォォォォーーーー!』

『ギャアアアーーーーーー!!』『張角様――!助けてーー!』

 

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阿鼻叫喚の悲鳴の中、曹操軍の兵が黄巾の天幕の中に居た。いや、兵の鎧を着けた男が。

 

「糞っ!役立たず共が。まあいい、これさえあればもう一度…」

 

「あら、早いわね。もうこんな所まで探索に来ているなんて、ところで張角は何処かしら?」

 

男が太平要術を持ち去ろうとしていると、華琳と桂花・白花の三人が天幕に入って来た。

 

(なっ!こんな時に曹操だと、いや、いかに曹操といえども警護の兵を連れずに女三人だけならばどうとでもなる)

「これは曹操様、張角の姿は何処にも見えません。おそらくまだ戦場にいるかと。では私も戦線に戻ります」

 

そう言い、張角はこの場から逃げようとするが当然華琳の目を誤魔化すことは出来なかった。

 

「そんな猿芝居がこの曹孟徳に通じると思っているのか!覚悟を決めろ張角!」

「…覚悟を決めろだと、大人しく見逃せば助かった物を。まあいい、手土産代わりにその首もらっt……」

 

ザシュッ

 

言い終える前に張角の首は華琳が振るった「絶」によって胴体から切り離されていた。

宙を舞う張角の首、その顔には苦痛では無く何が起こっているのか解らないと言った疑問の表情が浮かんでおり、その視線が最後に見据えたのは首から激しく血を噴き出している自身の身体であった。

 

ドサッ

 

地に落ちた張角の首を冷ややかに見降ろしながら白花と桂花は華琳に語りかける。

 

「最後まで愚かな男でしたね。ともかくこれで黄巾党も終わり、たとえ逃げ延びた兵が居たとしても今までのような統率は出来ないでしょう」

「ええ、太平要術の無い奴らは最早ただの野盗。駆逐するのは造作もありません」

「さあ、白花、桂花。張角の首を持ってさっさとこんな所出ていくわよ」

「「御意!」」

 

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「華琳ーー!」

「一姫、そっちは終わったの?」

「ええ、張角は?」

「((それ|・・))よ」

 

華琳はそう言いながら地面に転がしている包みを横目で見つめる。

 

「そう、これで黄巾の乱もようやく終わりね」

「そうね」

 

其処に血で赤く滲んだ包みを持っている関羽がやって来た。

 

「曹操殿、張角を打ち取られたそうですね」

「そういう貴女は?」

 

華琳は関羽の持っている血で赤く滲んだ包みを見ながら聞いた。

 

「はい、私も張宝を打ち取りました」

「愛紗のずるっこーー!張宝は鈴々が討ち取る予定だったのだ!」

「な、ずるはないだろう、ずるは」

「ずるっこはずるっこなのだーーー!」

 

そして諸葛亮と鳳統はおどおどしながらも華琳に話かけて来る。

 

「あ、あの、曹操様。その、太平要術は…」

「太平要術?白花」

「はい、此処に」

 

白花は数冊の本を取りだした。

 

「あわわ、これが太平要術…」

「白花、解るわね?」

「御意」

 

一礼すると白花は太平要術を燃え盛る炎の中へと放り込んだ。

 

「はわーーー!な、何を…」

「何を、と言われても奴らに利用され汚れきった書物など私には必要ないわ。それとも貴女達には必要だったのかしら?だったら悪い事をしたわね」

「い、いえ、しょんなことは…」

「じゃあ、私達は帰るわね。また何時か会う事もあるでしょう」

 

一姫は離れて行く華琳の後を追って行こうとしたが、その彼女を劉備が呼び止める。

 

「あ、あの、御遣い様」

「その御遣い様っていうのやめてくれない、なんか柄じゃないから。そうね、北郷でいいわよ」

「じゃあ、北郷様。不躾なお願いですけど私達の力になってはもらえませんでしょうか?」

「たしかに不躾ね。私は華琳に仕えてる身よ、軽々しく主を変えられると思う?」

「そ、そうですよね、勝手な事を言ってすみません」

「しかし、何故北郷殿は曹操殿の下に?」

「最初に華琳に保護されたというのもあるけど今は私自身の意思で華琳の所に居るわ。もし私が本当の意味での天の御遣いだというのなら天が選んだのは華琳と言う事になるわね」

「!!・・・・・」

「じゃあね、劉備さん」

 

そうして一姫は劉備の元を離れ、曹操軍の陣へと帰って行った。

 

 

 

 

『おねえちゃーーん』

『さやちゃん、お城に帰ったらお尻ペンペンだからね』

『え〜〜、やだーー!』

『ダメよ、いい子でお留守番する約束を破ったんだからね』

『う〜、かりんさま〜』

『あきらめなさい』

『え〜ん、え〜ん』

 

 

徐々に遠ざかって行く一姫達の語らいを劉備は俯きながら眺めていた。

 

「桃香様…」

「大丈夫だよ…愛紗ちゃん。私、頑張るから」

「その意気なのだ、お姉ちゃんには鈴々達がついてるのだ!」

「はい、桃香様は私達がお支えします」

「わ、私達も頑張りましゅ!」

「有り難う、皆。(北郷様、私は諦めません。必ず築いて見せます、私…いえ、私達の理想の世界を)」

 

 

 

こうして黄巾の乱は終結した。

そして一姫ともう一人の王との邂逅はこの乱世に何をもたらすのか?

 

・・・それは今は誰にも解らない。

 

 

続く

 

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 《次回予告》

黄巾の乱も収まり私達は新たに徴兵をする事になった。

「私に良い案があります」

「あら、白花。どんな案かしら?」

「ゴニョゴニョ」

「いいわ、許可します」

「お姉様が!素敵」

「では彼女達を呼び寄せます。彼女達と合わせて四人なら」

 次回・第八話「乱世に響く歌姫達の歌声に」

「ちょっと待って、四人?四人って何!?」

「皆、見てねーー!愛してるよーー!」

 

 

「嫌ぁーーーーーーーーっ!」

説明
修正版七話目。

2014/12/24・修正
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真・恋姫?無双 一姫?無双 一姫 鞘花 華琳 白花 桂花 三羽烏 劉備陣営 

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