アトル3 |
【アトル3−翼蛇水晶】
「それまで!」
エリアスが声をかけると、練習用の剣で打ち合っていた兵士達が動きを止め、エリアスの前に整列する。
「今日はここまでだ。お疲れさん」
「ありがとうございました」
エリアスの言葉に、兵士たちが礼をする。
エリアスは月に二度、城の兵達の武術指南を行っており、今日がその日なのだった。
「お、ちょうど終わったところみたいだな」
そう言って練習場に入ってきたのは、ラスだった。
「お前、また来たのか?緑の国はそんなに暇なのか?」
言いながら振り返って、エリアスは驚いた。
ラスが練習場に来ることは珍しくはないので驚くことではないのだが、今日は一人ではなかった。
ラスは二人の青年を伴っており、その二人を見てエリアスは驚いたのである。
驚いたのはエリアスだけでなく、その場にいた兵士達もだった。皆、ポカンと入ってきた人物を見ている。
「アルヴィス?」
そこにいたのは白の国のアルヴィスと、青い髪の青年。アルヴィスと並んでも遜色のない美貌の持ち主だった。
「お疲れ様、エリアス。甘い物がお好きだと聞いたので、差し入れを持って来たんです」
言いながらエリアスの側まで来ると、手にしていたバスケットを開けて中身をエリアスに見せた。
「へぇ美味そうだな」
中には木の実など練り込んだ、素朴な焼き菓子とジャムが入っていた。
「美味しいですよ。どちらもアルヴィスお手製の貴重品です」
青い髪の青年が、にこやかにそう説明した。
「君は?」
「彼は私の親友で…」
「青の国のセレスと申します。よろしく」
アルヴィスの言葉を引き継いで、セレスが自己紹介する。
「えっ、もしかして…青の王子?」
エリアスの言葉に、セレスがニッコリと笑う。
「…ラスといい、あんたといい、王子様がそんなに出歩いてていいのか?」
エリアスの言葉にセレスが笑う。
王族と知っても態度を変えないエリアスに好感を持ったからだった。そして、ラスの方に顔を向けた。
「見覚えがあると思っていましたが、やはり王子でしたか」
セレスの言葉に、ラスが笑みを浮かべる。
「緑の国のラスだ。よろしくな」
「こちらこそ」
「それにしても、アルヴィスは白の国の長で、ラスとセレスは王子。…俺だけが一般人なんだな」
その言葉に三人が顔を見合わせて笑った。
「な、なんだよ」
「お前は〃ファーリア〃だろう?ファーリアの身分は王よりも上なんだぞ」
「同じく〃エアーリア〃も身分は王より上」
「え?」
ラスとセレスの言葉にエリアスが驚いた顔をする。
「ま、一般には知られていないがな」
「てことは…お前より上、ということなのか?」
「そうなるな」
答えて、ラスがニッと笑う。
「………」
エリアスは何も返すことができなかったが、ラスが自由に出歩ける理由は解った。ファーリアという権力者に会いに行くのだから反対はされないのだろう。
そして、エリアスがラス達に普通に接しても咎められないのもファーリアであるから…。
本来ならばラス達こそがエリアスやアルヴィスに対して敬語を使わなければならないのだが、エリアスが知らないのをいいことに普通に接していた。
(ま、いいか。気兼ねすることはないって事だ)
そのことを知ってもエリアスはラスを咎める気はなかった。つまらない風習よりも〃親友〃の方が大事だったから。
(アルヴィスがセレスと普通に接しているのも、同じ理由なんだろうな)
そんな事を考えて、ふぅと小さく息を吐いて、気持ちを切り替える。
「ところで…差し入れするためだけに、わざわざ白の国から来たのか?」
身分の話は終わり、とばかりにエリアスが話題を変えた。
「いいえ、これを渡しに来たんです」
言って、アルヴィスは小さな袋をエリアスに差し出した。
受け取って中を見る。
「…水晶?」
入っていたのは、直径3センチ程の球体の水晶だった。
「中にあるのは銀細工か?」
水晶の中には蛇がいた。翠の翼を持つ銀の蛇。
「翡翠の翼の銀の蛇。エアーリアの紋章だな」
「ええ。よくご存知ですね」
「エアーリアには興味があったからな。しかし、何故、俺にこれを?」
「あなたに肌身離さず持っていてほしいからです」
「たまにしか会えない自分の代わりに?」
「ええ」
「………」
からかうつもりの言葉に即答されて、エリアスの方が赤くなってしまった。
「いつも側にあれば、それは、あなたの物になります」
「え?」
「まぁ、お守りみたいなものです。ですから、できるだけ身につけていてください」
「ああ。お前だと思って大事にするよ」
言って、アルヴィスを抱き寄せようとしてあることにようやく気が付いた。
指南していた兵士全員が、エリアス達のやり取りを見ているのである。
(…忘れてた)
「お前ら、いつまでそこに突っ立ってるんだ?いい加減に解散しろ!」
「は、はい!し、失礼します」
エリアスの声に、ようやく兵士達は散っていった。
それを見て、エリアスが溜め息をついた。
「ゆっくりできる所に移動しよう」
「そうですね」
エリアスの言葉にアルヴィスが笑いながら答える。
「それじゃ、お邪魔虫は退散するよ」
「あ、僕も。ご一緒しませんか?ラス」
「ああ。歓迎するよ。…て、ことで俺らは行くよ。じゃあな」
そう言って、ラスとセレスが練習場から出て行った。
二人を見送って、エリアスとアルヴィスは顔を見合わせて笑った。
「…行こうか」
「はい」
そして、二人も練習場を後にした。
エリアスが受け取った水晶が真価を発揮するのは、まだまだ先のこと。
説明 | ||
オリジナルのファンタジー『アトル』の第3話です。 一応BL系ですのでご注意下さい。 |
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