【まどか☆マギカ】shape of my heart【ほむあん】
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腰だめに構えたAA-12のトリガーを引く

      頭上で槍を旋回させて、

ちょっと重たいのが難点だけど、それもあって反動はほとんどない

      その勢いのままに槍の連結を切って、

カション、カション、カション、

      押し寄せる魔獣の群れを横薙ぎにする

独特の作動音を立てながらシェルがはじけ飛んで、

      ガリガリと何かを削る手応えが残って、

針金の束を切って作った手製のフレシェット弾は、

      その手応えが消えないうちにもう一周させると、

5匹の魔獣を一気に塵に変える

      4匹の魔獣が倒れ伏した

 

 

            He deals the cards as a meditation

            And those he plays never suspect

 

 

ちらりと視線を上に

      伸ばした槍をもとに戻して、

翼の生えた魔獣が3匹、こちらに急降下してきている

      こちらに突進してくる魔獣に穂先を向けると、

WPグレネードのピン歯で抜いて放り上げ、エイム、シュート

      背後で爆発音と閃光

空中にぱっと閃光と炎が花開いて、

      相変わらず、静かに戦えないヤツ

降下してくる魔獣を劫火に包んで、

      突進してきた魔獣は閃光に目をやられたのか立ちすくんで、

炎上しながら地面に落ちた彼らにフレシェットを掃射する

      槍の一振りがその首をバサリと切り落とす

 

 

            He doesn't play for the money he wins

            He doesn't play for respect

 

 

なおも視線は上、さっきWPが光ったときに、不自然な影があった

      飛び掛ってきた1匹の顎を石突きで砕き、

案の定、ビルの窓に潜んでこちらを伺う魔獣がいる

      もう1匹の脛を柄で打ってよろめかせ、

その口が開き、禍々しいエネルギーの束がこちらに発射されようとしていて、

      すばやくしゃがんで足払い、倒れた魔獣にトドメをさして、

私は「杏子!」と叫びながら彼女の背に手を触れ、時間を止める

      そのときほむらがあたしの背中に触れた

急速に魔力が消耗していく

      世界が凍りつく。やりやがった

 

 

            He deals the crads to find the answer

            The sacred geometry of chance

 

 

      「おい、何があった」

杏子の訝しげな声に答える余裕はない

      そう言う余裕もなく、襟首をひっつかまれ、引きずられる

彼女の襟首を掴んで、攻撃の着弾点から逃れる

      こういうときは素直に従ったほうがいい

杏子はほとんど抵抗せず、大人しく私に引かれるままだ

      時間停止は、ほんの数秒であってもあいつの魔力を猛烈に消耗させる

「上から来るわ。直撃は避けたけど、爆発に備えて」

      「あいよ」

私はアサルトショットガンを地面に置き、背負っていたL115A3を構える

時間を、動かす

      時間が、動く。

 

 

            The hidden law of a probable outcome

            The numbers lead a dance

 

 

魔獣の放ったエネルギーの塊が、直前まで私たちのいた地面を抉り、爆発する

      絵の具を全部ぶちまけたような色をした光が落ちてきて、目の前で大爆発した

全身を殴りつけるような衝撃波、それから熱風と閃光と、

      ドカンと体の内側を揺すぶる衝撃があって、

コンクリートの破片が致死的な速度で飛んでくる

      火傷しそうなほど熱い空気の塊が押し寄せてくる

私は構わず膝立ちになってスコープを覗き、

      えぐれた鉄筋コンクリートの破片がほむらの平らな胸にすっ飛んでくるのを、

クロスヘアを魔獣の口に合わせて、トリガーを引く。ズドン。

      あたしは槍を立てて打ち払う

 

 

            I know that the spades are swords of a soldier

            I know that the clubs are weapons of war

            I know that diamonds mean money for this art

 

 

      さすがにちょっと手がジンジンするが、そんなこと言っちゃいられない

L115A3のボルトを引くと、.338ラプア・マグナムの焼けた薬莢が排出される

      魔力を開放して結界を張り、押し寄せてこようとした魔獣を一瞬押しとどめて、

ボルトを戻して次弾を装填し、ライフルを背負い直して、足元のAA-12を拾って

      数と方向を把握したところで結界を解除し、

杏子が展開した結界越しに、魔獣の数と方向を確認してから、

      それに合わせて連結を解いた槍を右方向に旋回させ、突進の足を止める

急に消えた結界にたたらを踏んだ左方向の魔獣に向かってフレシェットの雨をお見舞いする

 

 

            But that's not the shape of my heart

 

 

      「お前さ、なにかってーとでかい銃を持ってくるの、それ、趣味か?」

「今回の選択は、失敗よ。アサルトライフルで十分な距離まで寄られるだなんて想定外」

      想定外

まったくの、想定外

      やれやれ、その通りだ

私たちが予想したより、魔獣の数はずっと多く、ずっと強い

      あたしは群れる魔獣を突き刺し、切り裂きながら、少し焦りを感じている

AA-12の30連ドラムマガジンを交換しながら、私は少し焦りを感じている

 

 

 

            He may play the jack of diamonds

            He may lay the queen of spades

            He may conceal a king in his hand

 

 

 

      「暁美ほむら!」

「――何?」

      「あたしが結界を張る。お前は逃げろ。一人なら、あたしも逃げやすい」

「馬鹿なこと言わないで」

      「このままじゃ、共倒れだ。お前はいつだって冷静で現実的なヤツ、そうだろ?」

言い返そうとして、言葉につまって、代わりに突発的に涙が溢れそうになる

      あたしの後ろででっかい銃を撃ちまくってる魔法少女は、何も言おうとしなかった

馬鹿、暁美ほむら、今は泣いてる場合なんかじゃないわ!

 

 

            While the memory of it fades

 

 

「撤退には賛成よ。でも、逃げるなら二人で逃げましょう」

      「あたしは一人で逃げるほうが気が楽だ」

ビルの屋上から、こちらに飛び降りてこようとする数匹の魔獣が見える

      あいつは、また黙った

撃ち落とすのは簡単だけど、それでは落ちてくる体の質量で私たちは大きな被害を受ける

      上の方に魔獣の気配を感じるけれど、周囲にひしめく連中を捌くので手一杯だ

WPグレネードは、もうない

      また結界を張るか? あたしの魔力も、そこまで潤沢じゃあなくなってきた

 

 

            I know that the spades are swords of a soldier

 

 

私は通常のグレネードを、ピンを抜かずに全力でビルの屋上目がけて放り投げる

      槍を振り回し、至近距離まで入り込んできた魔獣に肘を打ち付け、

グレネードが魔獣たちの足元に届いた瞬間、

      右手の中で槍の柄を滑らせて、短く持ち直しながら首筋に刃を叩き込んで、

時間を止めて、AA-12のチョークを絞ってグレネードを狙撃する

時間を動かした途端、グレネードが炸裂し、ビルの屋上が崩落した

      突然、ビルの屋上が爆発して、崩れていく建材のなかに魔獣が飲み込まれた

 

 

            I know that the clubs are weapons of war

 

 

      「クソ、分かったから、下がるルートを言え!」

      首を狙って伸びてきた鉤爪を躱し、脇腹に打ち込まれる拳をブロックする

「大通りに出るのが一番ね」

マガジンを交換しながら、叫ぶ

      「こいつら追ってくるぜ?」

「動く車を見つけて、あなたの結界か、私の時間停止で、直結する時間を稼ぐ」

      「オーケー、それでいこう」

車が速度の利を生かせる大通りまで、50m――長い、長い、50m

 

 

            I know that diamonds mean money for this art

 

 

      10mを、這いずるように進んだ

      まったく槍のリーチを活かせない戦いを、ずっと続けている

      ま、こういう経験も、悪かない

 

 

            But that's not the shape of my heart

 

 

10mを、もがくように進んだ

セレクタをフルオートにして、チョークを開けるだけ開く

トリガーを引き絞ると、後ろから私たちに押し寄せる魔獣たちがバタバタと倒れていく

 

 

            And if I told you that I loved you

            You'd maybe think there's something wrong

 

 

      10mは、泥沼を泳ぐみたいだった

      目の前の路地にはみっしりと魔獣が詰まってる

      どうやっても躱せない攻撃も増えてきた

 

 

            I'm not a man of too many faces

            The mask I wear is one

 

 

10mは、悪夢のなかを彷徨うように進んだ

弾が切れたAA-12を捨て、DEを抜いて、魔獣の顔面を打ち砕いていく

伸びる鉤爪が肩を裂き、左腕を抉ったけれど、痛みを訴える余裕はない

 

 

            Those who speak know nothing

            And find out to their cost

 

 

      5mが、どこまでも遠い

      1歩前に進むために、1匹の魔獣を突き殺し、2箇所に傷を負う

      痛覚遮断と治癒に必要な魔力が急激に増えていく

 

 

            Like those who curse their luck in too many places

            And those who fear are lost

 

 

5mが、最後の壁だった

杏子と背中を合わせながら、私はひたすら銃を撃ち続けた

DEの弾が尽き、背中の狙撃銃を振り回して、銃床で魔獣を殴りつけた

 

 

            I know that the spades are swords of a soldier

 

 

なんとか路地に転がり出た私たちを待っていたのは、絶望的な風景だった

      大通りに出ると、そこもやっぱり魔獣の群れだった

大通りいっぱいに、魔獣がひしめいている

      畜生、こんなことだと思ってたんだ

仮に車までたどり着いたとしても、あっというまに車ごと血祭りだ

      あたしは追いすがる魔獣を切り倒しながら、必死で考える

 

 

            I know that the clubs are weapons of war

 

 

なんとなく、まどかのことを思った

もう、いいよね――まどか

      背後で、小さく「まどか」と呼ぶ声が聞こえたけれど、

      あたしはそれを聞かなかったことにする

 

 

            I know that diamonds mean money for this art

 

 

「ねえ、佐倉杏子」

      「なんだ、暁美ほむら」

私は、自分の背中を預けた少女に、

      あたしは、自分の背中を預けた少女が、

きっと彼女にしか答えられない疑問を、聞く

      ものすごく強くて、ものすごく弱いことを、とても愛おしく思った

 

 

            But that's not the shape of my heart

 

 

「私たち、天国に行けるかしら?」

 

 

      「――天国に、住所があればな」

 

 

   思わず、笑ってしまう

 

 

      「あたしは諦めねぇぞ。聞け、暁美ほむら。

      あたしは、残った魔力をギリギリ使って結界を作る。

      お前は、グリーフシードを使って魔力を回復させろ。

      それで、あのヤバい弓を使うんだ。あれなら、なんとかなる。オーケー?」

杏子らしい現実的な意見に、私は崩れかけていた心を奮い立たせる

確かに、まどかから預かったあの弓をフルパワーで使えば、

この程度の魔獣の群れなど簡単に打ち払えるだろう

かつてまどかが世界を作り変えた、その力の一片があの弓には受け継がれているのだから

佐倉杏子が、不敵な笑みを浮かべた。

      暁美ほむらの目に、力が戻った。

私は、強く頷く。できる。きっと、できる。

      ああ、やれる。やれるさ。お前なら、できる。

ごめんね、まどか。まだ、私はあなたのいるところには、行けない

      悪いな、さやか。まだ、あたしはそっちには、行かない

この寂しがり屋の魔法少女の背中を、守ってあげないといけないから

      この発育不全な魔法少女を、「まどか」とやらに返さないといけないんだよ

      あたしは痛覚遮断と治癒を解除し、

      結界の形成に魔力を注ぎこむ

格子模様の結界が、私たちと魔獣の群れの間に展開された

私は魔力を集中し、まどかの色に染まる弓を呼び出す

 

 

 

(了)

 

 

 

参考:

Shape of my heart http://www.youtube.com/watch?v=037uSAIahho

EDEN(遠藤浩輝)

説明
魔獣出現後のほむほむ×杏子なSSです。前3つからの連作になりますが、単品でも大丈夫かと。視点が若干入り組んでいますが、インデントで区分けしています。文字サイズ最小を推奨です。WPグレの仕様はアムネスティ準拠ですよそのほうが派手だからに決まってるじゃないですか(ドヤッ
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タグ
まどか☆マギカ 佐倉杏子 ほむほむ ほむあん 

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