しりとり
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 リビングでだらだらと過ごしていた、昼下がりの事。

「唐突だけどさ、しりとりしようぜ」

「絶対やらねえ」

 炎天下を避けるように男二人、自室に籠ってやることがしりとりとはどういう了見だ。

「だったら他に何かやらないか? さっきからずっと部屋でだらけてるだけだし」

「仕方ねえだろ、暑いんだから」

「ラーメンは食ったくせに……。俺は冷やし中華を食べようと言っただろう」

「うるせえ、ラーメンは夏に食うから美味いんだよ。けど夏だからってだらけないという道理はねえ」

「エアコンがんがん効いているこの部屋で、暑いだの何だのいうのがそもそもお門違いじゃないか」

 返す言葉もございません。でも暑いものは暑いのです。

「すげーよなエアコン。文明の力ってやつ? まさに力こそパワーだな」

「なあ、これはあくまでも仮の話なんだが。もしかして文明の利器の利器をチカラだと思ってない? 利益の利に器で利器って読むんだぞ、あれは……」

「……はは、そんなの知ってるって。ただのジョークないじゃないか…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……で、しりとりしないか」

「関係ねえだろ、それとこれとは」

「話はずれたが、元からその話をしていたんだから別にいいだろ。で、しりとりをやるのか、やらないのか」

「掻い摘んで説明すると、やりたくありません。なぜなら、つまらなそうだからです」

「少し勘違いをしているようだが、俺は現在のこの状態がつまらないから、せめてしりとりくらいはしないかと言ってるんだが」

「ガキじゃあるまいし、もっと他の事でもいいだろう」

「茹だるような暑さの中、さわやかな笑顔で散歩でもしに行くか」

「帰ってください、そのまま家に。そして勝手に散歩をして下さい」

 嫌だ嫌だと暑さに対してバッシングをしているこの俺に、こいつは喧嘩を売っているのだろうか。

「帰ってもやることないからここにいるんじゃないか」

「帰ってやることを見つけて下さい」

「いいじゃないか、しりとりくらい」

「いえ、しりとりは結構です」

「すげえ楽しいよ、いやマジでさ」

「さっきからしりとりをプッシュし過ぎじゃありませんかね。もっと他に何かないの」

「ノートにマルバツでも書くか」

 改善策として出てきたのがマルバツゲームかよ。

「ようするになんだ、お前はそういうシンプルなミニゲームをやりたいのか」

「掻い摘んで答えると、つまりそういうこと」

「特別今やるようなもんでもないだろ……特にしりとりは二人でやってもなあ」

「案外いけるよ、二人しりとり。これは本当」

「嘘つけよ、絶対どっちかが同じ文字使ってハメに入るだろ」

「ローカルルールつければいいじゃないか。ジャンル縛りでもいいしさ」

 流石に、あまりにしつこいのであしらうのもめんどくさくなってきた。

「たく、そこまでやりたいなら別にいいよ。付き合う」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。じゃあ始めようか」

 開始といわんばかりに俄かにテンションが上がるのを見て、俺は逆にげんなりとした。

 タイマンでしりとりならまあ、単語も豊富ではあるし、適当に答えてればその内に終わるだろう。

「うし、いつでもこい」

「いくぞ。じゃあしりとりの、りからで……りんご」

「ごりら」

「ラピスラズリ」

「リス」

「スリ」

「リンボーダンス」

「数理」

「臨時会議を開きたいと思います。被告人、正座しなさい」

「いきなりどうしたんだ」

「だってお前、ハメるハメないの話があったのに既にハメてんじゃねえかよ!」

「よくあることじゃないか、そのくらい」

「いやねえよ! ラピスラズリのあたりから確実に殺意が芽生えてたよ!」

「邪な目で僕のしりとりングを汚さないでくれ。純粋に好きな単語を選んだ結果だ」

「黙れこの詐欺師め。コーメイの罠だってことはわかってるんだよ」

「よし、そこまでいうなら仕方ない。お前が先に始めるがいい」

「いい度胸じゃねえか、俺も次からは容赦しないからな。……ちなみに、さっき使った単語は使用済みのままね、念のため」

「めざといな」

「何とでもいうがいい。じゃありから……リストラ」

「ランス」

「スカイダイビング」

「グラス」

「スパイ」

「椅子」

「スイカ」

「カラス」

「スルメ」

「メス」

「寿司」

「ショーケース」

「スコール」

「留守」

「スズメ」

「メントス」

「ストライキ」

「キス」

「ストーカー」

「空き巣」

「素潜り」

「リンス」

「す、す……」

「…………」

「……す……! 酢! あのすっぱいやつ! どうだざまあみろ、酢!」

「煤」

「す、スス……?」

「……煤、わからない?」

「いや、煤ですよね。あの黒いやつ」

「続けようか、まだ始まったばかりだしさ」

「さ、殺意高いですね……」

 ……その後、俺は逆転する間も無く敗北した。

 ただ一つ、これをきっかけにして決めたことがあった。

 例え泣いて頼まれたとしても、この夏に限っては、しりとりをしようと言ってきた奴とは、しりとりをしない。

 いいかわかったな、絶対だぞ。絶対しないからな、しりとりなんて!

 ていうか、この物語は、ただそれだけで終わる話。

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しりとりをするふたり
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