【まどか☆マギカ】線を書く【ほむあん】
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普通の中学生が部活の朝練に動き出し、

まだ眠い目の小学生がテレビを見ながら朝食を食べている頃、

普通でない中学生(相当)の二人が河川敷に乗り捨てた軽トラから這い出してきた。

 

一人は佐倉杏子。

もう一人は暁美ほむら。

魔獣狩りに遠出した二人は、十分な成果を手に見滝原に帰ってきた。

 

「やっと着いたな……」

「ようやく、ね。お疲れ様、杏子」

「おつかれ。いい狩りだった」

「生きて帰ってこれただけでも有り難いわね」

「そんなこたねぇよ。これで1ヶ月は左うちわだ」

「ぐうたらしすぎて、カンを鈍らせないでね」

「誰に向かって言ってやがる」

「あら、だって――」

「あーあーあー、嫌味は後だ。

 まずはコンビニ。それから帰って風呂。でもってベッド。オーケー?」

「異存ないわ」

 

20分ほど歩いたところに見つけたファミリーマート(杏子はファミマ派だ)で、

杏子は盛りだくさんの駄菓子とご褒美スイーツを買い込み、

ほむらはウィダーインゼリーとカロリーメイトを大量に抱え込んだ。

お互い、片手に2リットルのミネラルウォーター。

「もっとマシなもの食えよ」

「あなたに言われたくないわね」

 

杏子は3袋、ほむらは2袋のコンビニ袋を手に、朝日が燦燦と輝く道を、とぼとぼ歩く。

「しまったなあ、やっぱりもうちょっと近くまで車を転がすんだった」

「盗難車を家の近くに乗り捨てたくなんてないわ」

「でもさ、あのでっかい機関銃はどうすんだよ」

彼女たちが乗り捨てた軽トラの荷台には、ブルーシートに包まれたM2重機関銃が放置してある。

平和な日本ではあり得ない重火器を持ち込んだのは、当然ながらほむらだ。

「連絡はしてある。もう回収されてるはずよ」

「なんだ、リースか」

「……その発想はなかったけど、そんな感じよ」

 

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グダグダ話しながら10分ほど歩いて、ようやく杏子のねぐらについた。

ドーナツ化現象で過疎化が進む旧市街の、廃マンション。それが今の杏子のアジトだ。

物件を管理する不動産会社が倒産した今、Keep Outの黄色いテープ以外にここを守る者はいない。

当然エレベーターは止まっているので、二人は螺旋階段を延々と登って、

最上階に広がる杏子の城を目指す。

出入口は杏子が魔力で封鎖していて、普通の人間にはドアを見つけることはできない。

 

ほぼ半月ぶりに自分の「家」に帰ってきた杏子は、

いささか埃っぽくなっている空気にむせながら、まっさきにエアコンのスイッチを入れた。

このフロアに限り、ほむらがその筋と交渉して電気と水道を確保している。

相変わらず銃火器も扱うほむらは、自然と「まっとうでない」知り合いも増える。

エアコンは少し渋るような音を立てたが、すぐによく冷えた空気を吐き出し始めた。

 

「うっはー、これだけでも生き返る」

床に寝転がって冷房を満喫する杏子。

「ダメよ。最低でもシャワー浴びないと。

 言いたくないけど、私たち結構臭いわよ――コンビニでも店員の目が険しかった」

「わかってるって。わかってるってばさ。

 あんたが先にシャワー使いなよ。あたしはもうちょっとゴロゴロしてる」

「仕方ないわね。寝ちゃダメよ?」

「おう。チーズケーキ食って待ってる」

 

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ほむらがシャワーを終えると、案の定杏子は床で眠っていた。

カップのチーズケーキは、その半分が杏子の胃に収まったところで放置されている。

ほむらはため息をつき、杏子を起こそうとして、

ふと思い立ったようにチーズケーキを一口食べて、意外な美味しさに驚きながら、

改めて杏子を蹴飛ばした。

 

「……いってぇ! っと、うー、あー、寝ちまってた、か……

 ぐああああああ、ああ、あああ、っと」

野生動物のような咆哮をあげながら、杏子が起き上がった。

「そんな欠伸、初めて聞いたわ」

「大声出すと目が覚めるんだよ。って、あたしのチーズケーキ食ったな!?」

「ええ、一口頂いたわ。美味しいわね、これ」

「くっそ、これ売り切ればっかりで、なかなか買えない……

 あー、まぁ、いいや。もう1個買ってあるから、残りはやるよ」

「いいの?」

「ああ。シャワー浴びてくる」

杏子はのそのそとバスルームに向かい、ほむらはもそもそとチーズケーキを食べる。

 

杏子が寝ぼけ眼でバスルームから出てきた頃、

ほむらは杏子が普段使っているベッドで熟睡していた。枕元には食べかけのチーズケーキ。

 

「……まったく」

杏子はそう呟いて、下着姿のほむらに毛布をかけると、

残りのチーズケーキをスプーンで一気に掬って口の中に放り込む。

そうしてチーズケーキのカップをサイドテーブルに置き、

ほむらの隣に倒れこむと、次の瞬間には眠っていた。

 

 

 

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              ■

 

真夜中、誰かの名前を叫んで、そして目が覚めた。

何か、とても悪い夢を見た。そんな気がした。

きっと、魔獣とギリギリの戦いを繰り広げた、その緊張がまだ残っているんだろう。

 

そう、思おうとした。

 

自分の目尻が少し濡れているのは、分かっていた。

でも、それには気づかないふりをして。

 

だって彼女が、隣で寝ているのだから。

夢を見て泣いただなんて、あってはいけない。

 

だから、寝返りをうつと、もう一度眠ることにした。

 

 

 

 

              ■

 

 

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杏子が目を覚ますと、ほむらはいなかった。

まぁ、よくあることだ――そんな感慨が、杏子の胸中によぎる。

ほむらは、どことなく野良犬めいたところがある。

本当はものすごく忠実なんだけれど、

その忠実さをどこに向けていいかわからないまま彷徨う、

そんな、一匹の、犬。

 

もしかしたら、人は彼女のことを自由だと言うかもしれない。

実際問題、日本のあらゆる法律をガン無視して銃火器を振り回す彼女は、

フリーダムとしか言いようがない。

 

でも、彼女は自由じゃない。

全然、自由なんかじゃない。

 

「あいつが野良犬なら、

 あたしは野良猫か……」

杏子はそう呟くと、コンビニの袋からポッキーを取り出し、袋を開ける。

 

「まったく――やれやれ、だ」

ポッキーを齧りながら、杏子は一人、日暮れ色に染まっていく見滝原の街を見ていた。

そして思い立ったように、ベッドから起き上がる。

 

「左うちわの、はずなんだがな……」

 

そう呟いて、杏子は部屋を出た。

 

「どうすりゃいいんかな、あたしら。

 お前なら、どうしたかな――さやか?」

 

 

 

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ほむらは、行くあてもなく街を歩いていた。

理屈の上では、もうちょっと眠って、栄養を補給し、疲労を抜いたほうがいい。

そんなことは、よく分かっていた。

でも、いまはただ、街を歩きたかった。

ただ、歩いていたかった。

 

杏子は、どこか野良猫めいたところがある。

わがままで、自分勝手で、主人なんていないかのように振舞うけれど、

思いがけない瞬間にこちらの心の隙間に入り込んで来る。

なんとも、フリーダム。

 

でも、彼女は自由じゃない。

全然、自由なんかじゃない。

 

「あの子が野良猫なら、

 私は野良犬かしらね……」

 

無意識のうちに、ほむらの口からそんな呟きが漏れる。

 

「まったく――やれやれ、よね」

いつの間にか持っていた500mlペットボトルのスポーツドリンクに口をつけながら、

ほむらは一人、日暮れ色に染まっていく見滝原の街を歩いていた。

 

「左うちわ、ね。その通りなんだけど」

 

オレンジに染まる橋の上を、ほむらはとぼとぼと歩く。

 

「どうすればいいのかしらね、私たち。

 あなたなら、何と言ってくれたかしら――まどか?」

 

 

 

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見滝原の街に、夜の闇が落ちた。

 

杏子は、螺旋階段を登っていた。

ぐるりと街を一回りしてみたが、ほむらはどこにもいなかった。

念のため、彼女の家にも行ってみたが、帰った様子すらない。

「まったく――どこに行きやがった、暁美ほむら」

 

ほむらは、螺旋階段を降りていた。

さすがにもう起きているだろうと思って杏子のねぐらに戻ってみたら、彼女は留守だった。

駄菓子の類はまだたくさん残っていたから、買出しということもないだろう。

「まったく――どこに行ったのよ、佐倉杏子」

 

そうして、

 

とぼとぼと螺旋階段を登る彼女は

 

とぼとぼと螺旋階段を降りる彼女は

 

 

その真ん中で、

彼女に出会った。

 

 

お互い、びっくりしたような顔で相手を睨んで、

そして、慌てて互いに目を背ける。

 

彼女は、彼女の目が、涙で少し赤く染まっていることに、気づいていた。

でもやっぱり、それには気づかないふりをして。

 

「――今夜も瘴気が濃いな」

「そうね」

「狩りに、行くか」

「……行きましょう」

 

彼女は、彼女と顔を合わせずに少し笑うと、

魔法少女へと変身し、

夜の街へと翔ぶ。

 

 

 

(完)

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参考文献

「線を書く」 倉橋ヨエコ  http://www.youtube.com/watch?v=ORWb2sBrDI0

「犬と月」 Bonnie Pink http://www.dailymotion.com/video/x5t2d6_bonnie-pink-yyy-inu-to-tsuki_music

「半神」 野田秀樹

説明
魔獣出現後のほむほむ×杏子なSSです。前からの連作になりますが、単品でも大丈夫かと。明らかに大都会GUNMAはMAEBASHIな見滝原から、重武装でTOKYOに魔獣狩りに行った二人が、盗んだ軽トラにM2ブローニング機関銃乗せて夜道を帰ってきた……そんなお話。
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