ブレスオブファイア4 夢の少し前
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紅い夕日が地上を焼き付ける様に照っていた。

フォウルは、自分の半身であるリュウを睨みつけるように対峙する。

 

「むかし・・・」

 

フォウルが口を開く、威厳に満ち溢れた声が周囲に響いた。

重い・・・リュウは、周囲の空間がのしかかって来る感覚を覚えた。

 

「ヒトどもにとっては遠く、我らにとってはそれほど遠くない時の向こうで・・・神が召喚された・・・」

 

その声には威厳の他にも、悲しみに満ちている様でもあった。

 

「しかし、不完全な召喚の業は・・・ククッ」

 

そこで区切り、彼は皮肉を込めて笑う。

動作の一つ一つが、空気を震わせる。

彼の皇帝としての貫禄だろうか、それとも、神としての力なのだろうか。

いずれにせよ、それがヒトによる威圧では決して無い。

 

「その神を、二つに分けて呼び出してしまった・・・」

 

そして、感慨深く目を閉じて、もう一度笑う。

笑い声は悲しく、まるで自虐のソレだった。

不完全な召喚により呼び出された、不完全な神。

フォウルとリュウが手にした宿命。

思い返すと、リュウの心には様々な情景が思い浮かぶ。

 

「不思議なものだ、初めて出会った自分・・・か」

 

すうっと、目を開いて、フォウルはリュウを見つめた。

ああ、なんて優しい目なのだろう。

リュウは、フォウルは自分の半身なんだと、改めて自覚した。

きっと自分も、あの目をしているんだろう。

 

「リュウ、お前には私が思っていることが、考えていることが分かるだろう」

 

その言葉に、リュウは黙って頷いた。

ズキズキとした痛みが、やんわりとリュウの中に広がっていく。

これが、フォウルの心。

なんということだろう、まるで荒野みたいに乾ききっている。

 

「そう・・・私にも分かる、お前がうつろうもの達と旅してきた道が・・・」

 

フォウルは、今度はリュウの後ろに控えている、リュウの仲間を見た。

あれが・・・彼らが、自分の半身と旅をしてきた仲間。

リュウも釣られて、振り返った。

あの人達が、彼らが、ここまでついて来てくれた仲間。

 

「だが、リュウよ・・・あれらはお前という、大きな流れに流されてきたに過ぎん・・・」

 

あれら。

今まで苦楽を共にしてきた仲間をそう呼ばれ、リュウは少し憤慨した。

が、その気持ちはすうっと収まる。

神としての自分が、所詮仲間などと考えたのか・・・いや、違う。

フォウルは孤独だった。

仲間などおらず、ただ一人で辛い現世を見てきた。

 

「うつろわざるもの・・・この世の全てを、己の流れに巻き込んでしまう」

 

「フォウル・・・」

 

初めてリュウは口を開く。

しかし、名前を呼びかけただけで再び口を閉じる。

それ以上、彼の心に触れることが出来ない。

まるでガラスの様に繊細で、とても皇帝のモノとは思えない物静かさを持った心。

やがて沈黙が続くと、フォウルはリュウに手を指し伸ばした。

 

「さあ、リュウよ・・・今こそ私と一つになり、この世界を、ヒトを滅ぼそう・・・」

 

その時、リュウは初めてフォウルの心が揺れるのを感じた。

 

「ヒトはヒトを偽り、傷つけ、殺し・・・どこまでも愚かだ」

 

やがてその心の揺れは大きくなり始める。

 

「ヒトは身勝手だった・・・」

 

違う。

 

「お前の見てきたヒトは残忍ではなかったか?」

 

違う、違う。

 

「お前の見てきたヒトは愚かではなかったか?」

 

違う、ヒトとは・・・違う。

リュウの心の中に訴えかけてくる。

そんな単純なものではない、ヒトは、ヒトはヒトを支える事が出来る。

ヒトはヒトを愛することが出来る。

これは、フォウルの声だ。

フォウルが、己自身を否定している声だ。

 

「迷いを捨てろ、リュウ・・・」

 

さあ、リュウ、決めてくれ、ヒトは滅ぶべきかどうか・・・。

それを最後にフォウルの声が次第に小さくなっていく。

 

「リュウ!」

 

その時、リュウを心配してか、ニーナが声を上げた。

振り向くと、ニーナは少し身動ぎした後

 

「リュウ、私、この世界が好きです」

 

と、精一杯に声を振り絞った。

 

「リュウのいるこの世界が・・・」

 

声は震えていて、少し聞き取りづらかった。

まるで子供が泣きじゃくりながら必死に訴えているようだ。

 

「あなたが見せてくれた、この世界が・・・好きです・・・!」

 

震えるのも無理は無い。

フォウルの放つ威厳の中、発言を許されたのは神のみのはずだった。

それを押しのけてまで、ニーナは訴えた。

 

「私、信じたいです、私の好きなこの世界を・・・!」

 

「下らんな・・・」

 

しかし、フォウルは冷たく言い放つ。

 

「好きだの、信じるだの、それが何になる?」

 

フォウルの心が急に尖りを見せた。

触れるもの全てを切り裂く心。

・・・ああ、そうか。

リュウにはようやく理解できた。

彼は、彼の心はまるで赤ん坊なのだ。

先ほど感じた物静かさと弱々しさは、彼の心が未熟な事を表している。

少しでも触れてしまうと、その形にくっきりと形を残してしまう。

 

「迷いを捨てろ、リュウ」

 

本当に迷いが生じているのは彼の心。

もう一つの己である自分に語りかけてきているのは彼の心があまりにも幼いため。

心の安定を求めているから・・・。

 

「さあ、リュウ」

 

「リュウ・・・!」

 

前から、後ろから、自分を呼ぶ声が聞こえる。

そうだ・・・俺は・・・俺が望むのは・・・。

説明
ネタバレ注意/ラスボスの少し前の会話、夕日を背に神は何を考えるのか
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タグ
ブレスオブファイア うつろわざるもの フォウル リュウ 

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