私と彼女の通じるところ
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妖怪の山、と一口に言ってもその範囲はとても広いものになる。鬱蒼とした緑の中を突き進むとなると、非常に大変な作業となる。

が、それは人の足で移動したときの話。飛ぶ事が可能ならばそこまで苦労することはない。そこを縄張りとし、住家とする天狗のスピードならば尚更である。

 

夕日が沈み、妖怪達が活動を始めようとする時間帯。

そんな中、妖怪の山に沿って高速で飛行する人影が一つあった。

 

 

「…………」

 

 

幻想郷最速の肩書に恥じないその速さで射命丸文は黙々と目的地に向かって飛んでいた。

新聞のネタを探し飛び回っている時に浮かべている好奇心旺盛な心をそのまま表したような表情は消え失せ、興味の沸かない事に無理矢理付き合わされているような、そんなつまらなそうな顔をしている。

 

 

「全く……」

 

 

文はこの面倒に巻き込まれるきっかけになった出来事を改めて思い返していた。

 

 

 

   * * *

 

 

 

「すいません!!射命丸文さんですよね!!」

「……そうですが。」

 

 

事の発端はお昼頃、何処でランチを取るか考えていた時である。

突如、行く手を遮るように見知らぬ烏天狗達がやってきたのだ。

同輩や年上に当たる知り合いは多いつもりの文だが、年下になるとその限りではない。やってきた三人は文よりも若い子達ばかりであった。

 

 

「良かったぁー!ようやく見つけられましたよ!」

「私に何か御用です?」

 

 

口では定型文を発しながらも、頭はランチのメニューを真面目に考える。

昼御飯だからと言って馬鹿にしてはならない。あちこち飛び回りネタを探す文にとって昼のエネルギー補給は必要不可欠であり、その日の半分の行動力を決定付けると言ってもいい選択肢を適当に選ぶと言う事をやってはならない事なのだ。

がしかし、久しぶりにパスタにするか炒飯にしようかと二択にまで絞った文の思考は、耳に飛び込んできた言葉によって中断される事になる。

 

 

「……はい?」

「えっと、だからはたて先輩の様子を見に行って欲しいのです」

 

 

姫海棠はたて。最近自分の事をライバル視してきた花果子念報と言う新聞を書いている鴉天狗である。

取材をしている様子をこそこそ覗き見されて以来、気がつけば顔を合わせれば軽い文句の応酬をする程度の仲にはなっていた。

……そんなはたてだが、彼女らによると一週間前を境にぱったりと姿を表さなくなったのだと言う。

 

 

「……あいつが引き篭もりなのは元々じゃない」

「最近はちょくちょく外に出ていらしたのに急に顔を見せなくなっちゃって……」

「たかが一週間でしょう。心配要らないんじゃない?」

「そうは言いますけど……」

「心配ならあんた達が見に行ったら?家にいるのは分かってるのでしょう?」

 

 

何で私にその話を振ってきたのか。そこが一番分からなかった事なのだが。

 

 

「……はたて先輩が、私達以外の名前をぼやく事なんて今まで無かったので」

「…………」

「お願いしますっ! 文さんにしか頼めないんですっ! 」

「…………」

 

 

 

     * * *

 

 

 

いつだったか、巫女二人にお前にとっての新聞作りとは一体何ぞや。と聞かれ、私はこう答えた。

「真実を書き止め、皆に伝える事」であると。

 

……そう言った際に、緑の方の巫女が納得いかないような顔をしていたが、納得出来ない気持ちも分からなくはない。

その時彼女が持っていた天狗の新聞に、事実らしき記述なんて皆無に等しかったのだから。

 

 

 

      ……………………

 

 

 

珍しく霊夢と早苗が顔を合わせているな、と思い降り立ったところで、早苗の方から激しい攻撃を食らう事になった。

現状が全くつかめずただただ攻撃をかわし続けていると、興奮した早苗を霊夢が押さえつけ攻撃は止んだ。

 

「……あんたもタイミングが悪いわねぇ」

「離してください!目の前に仇敵がいる今こそ屠らねばいつやるというのです!!」

「落ち着け」

 

陰陽玉で殴りつけられた早苗は、きゅう!?と妙な悲鳴をあげた後哀れ霊夢の腕の中で気を失った。

 

 

「……一体何事ですか。人に恨みなど買われるようなことしていないと言うのに」

「言い切れるアンタも相当ね。……これ、見てみれば分かるわ」

 

そう言って霊夢から受け取った紙切れを見、吹き出してしまった。そこには早苗に関するある事ない事の羅列が……いや、ほぼ無い事ばかりの羅列がされた文章が書き連ねてあったのだから。

そしておまけに、その文章の占めには射命丸文と書かれてあった。

身に覚えの無いとはまさにこの事だ。こんな記事書いた記憶などありはしない。

 

「……どうしたんですかこれ」

「さぁ?私もさっき呼び出されたんだから。あの天狗と知り合いですよねっ!って凄い剣幕で」

「はぁ……。もしかしなくても私の名前が書いてあったもんだから、それを書いたのが私とでも思ったんでしょうか」

「でしょうね。で?これはアンタが書いたの?」

「冗談はよしてください。こんな曲解した記事、誰が書くもんですか」

 

ふんっ、と胸を張って答えると、うぅ……と呻き声一つ上げて早苗が復活した。目が合った瞬間飛び掛かろうとしたところを再び霊夢が押さえつける。

 

「あやややや、これは相当なお怒りで……」

「あーもう早苗!落ち着けって言ってるでしょ!これ書いたの文じゃないってさ!!」

「……へ?」

 

ぴたっ、と早苗の動きが止まる。

 

「私も新聞は書きますがね、こんな酷い真実の欠片だって見当たらないような記事は書きませんとも」

「……本当に?」

「えぇ、本当に」

「神に誓います?」

「己の誇り高き記者魂に誓って」

「…………」

 

納得がいきません!とむすっとした表情でこちらを睨みつけているが、霊夢が早苗から降りても飛び掛ってくる様子はなかった。

一方、私が返した新聞を受け取った霊夢は、もう一度その記事を読み返しながら吹き出している。相当面白いらしい。

 

「他人事のように読みますねぇ」

「実際他人事だし。単純に読み物としては面白いから合格点かしら?新聞として見たら不合格だけど」

「冗談じゃありません!ダシに使われたほうは面白くありませんよ!読み物としても不合格です!それ以前に退学させますよ?!」

 

まだ混乱しているのか、良く分からない事を口走っている早苗を放置し霊夢が言葉を続ける。

 

「……というか。さっきのアンタの言葉、ブーメランで帰ってくるような事言ってるわよ?」

「全く心当たりがありませんな」

「いやいや、真実の欠片だって見当たらないような記事だって書くでしょアンタも」

「たまーにネタが無い時に自分から事件の発端を作ることはあってもそんな事はしてませんって」

「いやそれも問題ですよ?!」

「たまーにですよ。たまーに」

「……全く、何のために新聞書いてるんだか」

「……何のために、ですか?」

「本当ですよ……。創作活動してるなら新聞だなんて名乗らないで欲しいものです……」

「お言葉ですがね、お二人とも」

 

はぁ、とダブル巫女がため息をつきながら言った何気ない言葉を拾う。

 

「私が新聞を書いているのは、『真実を書き止め、皆に伝える事』ですよ。新聞記者を名乗っているのですから、当然です」

「「…………」」

「……二人して納得がいかない、って顔しないでください。少し傷付きます」

「いやだって、あんな事書かれた本人としましては納得できませんって」

「そりゃああんな的外れな内容の新聞を読まれたらそう思われるかもしれませんがね。これならまだ生ぬるい方ですよ。天狗の新聞の中では」

「なんですと」

 

愕然とした表情をされるが、事実である。天狗の新聞大会で優勝するような新聞の内容など、本来の事実から280度ぐらい向こう側な内容になっているのだから。

内容よりも、如何にして面白く書くか。今の天狗の新聞はそんな風潮である。

 

「それならアンタは大体90度ね」

「霊夢さん、それ褒めてるんですか?」

「90度でも飛んでいく方向は明後日だけどね?」

「ですよねー分かってました」

 

ガクッと来ていた私を見てなのかは知らないが、まぁでも、と言いながら霊夢はくすっと笑った。

 

「一応新聞を名乗ってるって言うアンタの心意気は分かるわよ? 新聞としては読めるもの。腹抱えて笑えるものかといわれたらちょっとアレだけど」

「事実を淡々と伝えるだけじゃ面白く書けませんしね」

 

それに、と今度は早苗が言葉を繋げる。

 

「書いた内容はどうあれ、後は読み手が真実を拾えるかにかかってますから」

「身内ネタなら大体真偽の程は分かるしねぇ」

「……えーっと?一応褒めていただいてるのですか?」

「まぁ、一応」

「何なら貶しましょうか?」

「弾幕つけてお断りします」

 

 

 

後日、私の名前を借りてこの記事を書いた奴を探し出し、吊るし上げたのはここだけの話である。

 

 

 

     * * *

 

 

 

「……面白くないわ」

 

口ではそうぼやくもののはたての家は目の前である。

 

 

 

……面白くない。文が抱くはたてに対する印象というのはこの一言で表すことが出来る。

自分の後を勝手につけて取材の様子を見られ、挙句の果てにライバル視され。

面白いわけが無い。なのに。それなのに。

 

「……どうしたもんだか」

 

射命丸文はとても正直な天狗である。職業柄礼儀正しく振舞う事は多いが、取材中にその振る舞いにぼろが出る事なんて多々ある。

自分の思ってる事、考えてる事。それを包み隠し、押し殺す事が非常に苦手なのだ。同じ天狗相手ならば、余計に。

 

 

 

 

 

……だからこそ。いくら文が口では関わるのは面倒だと言っても。

鬱陶しいと言っても。彼女の事を嫌おうとしても。

 

 

 

文ははたての事を、嫌な奴だと思えないのだ。

理由なんて分からないし、分かったところでどうなるものでもない。故に、彼女はぼやく。

 

 

 

 

 

「……面白くないわ。ほんと」

 

 

 

 

ドアを一度ノックをするが反応はなし。もう一度ノックをしてみるがやはり反応は無い。

 

「……勝手に入るわよ?それでもいいの?!」

 

大きな声を上げてみても、やはり反応は無い。

はて、おかしいなと思い調子に乗って入り口をグーパンしてみるもののやはり反応は無い。

 

「……まさか、ね」

 

一抹の不安が彼女の脳裏に掠める。何を考えているのやら、考えすぎだろう、と一笑に付すが、やはり妙な感覚は消えない。

 

「入るわよ」

 

意を決して、文はガチャリとドアノブを捻った。手入れが行き届いているのか、軋みもせず入り口は開いた。

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

『妄想新聞はそっちでしょ?私は念写新聞』

 

言われて、ちょっとカチンと来たのを覚えている。

妄想?いやいや冗談じゃない。真実を書き留めるのが記者の務め。妄想なんて一言で片付けられるなんて、許せないって思った。

 

 

 

      ……………………

 

 

 

実際にはたてに会ったのはあの時が初めてだが、彼女の新聞はそれよりも前に見たことがある。

花果子念報。この新聞を読んだほかの天狗達の感想は大体一緒であった。

 

 

「これはいつの話なんだ」

「時代遅れも甚だしい」

「古いネタだ」

「音速が遅いとはこの事だ」

 

 

……そう、彼女の新聞はかなり昔の事をネタにしていた。使い古された話題。旬を外れた話題。

故に彼女の新聞は人気が出ていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の話題にする記事には、一切の誇張もなく、嘘偽りもなかった。

過去にあった出来事を、そのまま記事にするのだから当然といえば当然なのだが、私はこの点だけは評価していたのだ。

いつの話だ、やら時代遅れだ、と言われる裏には、「その話題は実際にあった、正しい事柄である」という隠された答えがある。

 

……『真実を書き止め、皆に伝える事』、ある意味私の理念を見事に表している新聞であった。

 

 

 

人間だろうと妖怪だろうと、第一印象というのは大切だ。それは実際に顔を合わせた時だけに言えたことではない。

誰かさんが書いた文章を見れば、その誰かさんが抱いている思い・考えなどは自然と見て取れる。そしてそれに共感、同意が出来るか否かで印象は決まってしまうものだ。

 

その点、姫海棠はたてに対する私の第一印象は良好であったと言えるだろう。

実際に出会って、カチンと来た言葉をぶつけられたあの時ですら。私は売り言葉に買い言葉する事無く、会話を続けられたのだから。

そして程なく、彼女から宣戦布告を受けることになったのは記憶に新しい。

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

「……こいつは」

 

ため息を一つ。

さっきの不安はどうすればいいのよ、と本来なら憤りをぶつけるはずであった相手はと言うと。

 

 

 

「……ZZZ」

 

 

 

はたては椅子に腰掛け、机を枕に眠っていた。爆睡である。一発頭を小突いても起きる気配すら見せなかった。

 

 

机の端には、書きかけの新聞が数枚重なっており、その横にはなにやらびっしりとメモ帳が文字で埋まっている。

そして、沢山の写真。念写ではなく、自らが出向いて撮ったのであろう、お世辞には上手いとはいえない写真の数々。

机に突っ伏して眠っているために表情は伺えないが、きっと良い表情をしているのだろう。

 

 

「……心配してみたらこれか」

 

ははっ、と今度こそ文は先程の考えを一笑に付す事が出来た。

何を引き篭もっていたかと思えば、彼女は新聞を書いていたのだから。

引き篭もっての作業はいつもやっていた事だろうが、外で動いて記事を集めていたのだ、疲れて当然だ。

 

「後輩に心配かけさせるなんて貴女も罪な人ですねぇ全く。……さてと」

 

おもむろに、文はカメラを取り出す。

そしていつもの、面白そうなものに出会ったときの笑みを浮かべる。

 

 

 

「はたてちゃんの寝顔チェーック☆」

 

 

 

とは言うが、はたては現在机に突っ伏しているためその全貌は拝めないわけだが。

しかしそれで簡単に諦める射命丸文ではない。

 

 

「うふ、うふふ、うふふふ……」

 

 

どこぞの魔法使いが寒気を覚えるような笑みを浮かべる文。簡単には起きない事は分かっているので、少し大胆に、眠っているはたての肘を動かす。

がくん、と先程まで安定していた頭がずれ、寝顔がこちらを向く。

 

「いよっしゃ、流石私。では早速……  ?!」

 

いざカメラを!と思ったところで。文の動きが止まった。いや、多分思考すらも固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言で言うとするならば。

……そのはたての寝顔は、非常に可愛かった。

同性の文ですら、ドキッとしてしまうぐらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無防備なその表情は、いつものはたてでは滅多に拝めないであろう。

綺麗な唇からは、規則正しく呼吸の音がし、彼女がちゃんと生きている事を物語っているし、少々暑い部屋にいたせいか、頬は健康的に高潮している。

 

 

 

……自慢ではないが、射命丸文は幻想郷中の住人の寝顔を山のように見てきた。

巫女や魔法使いはもちろんの事、メイドに吸血鬼、人形遣いに庭師に亡霊。ウサギに月の姫にその従者。最近やってきた寺の連中。

そして地下奥深くの館に住まう姉妹の姿を捉えたと思えば、天界の我侭お嬢の面白い寝顔を見てきた。

 

たまにはちょっと可愛い表情をしている人もいたが、大抵は面白い顔ばかりだった。

故に、今回もどんな面白い顔してるのかな、という軽い気持ちだったのだが。

 

 

 

「……なんでさ」

 

ようやく思考が戻ってきたのか、思わず自分の顔を覆う文。

ドキッとしてしまったのも問題だが、何よりも寝てる相手にしてやられたというのが悔しい。

何故か分からないが、とても恥ずかしい気分になった。見ちゃいけないものを黙って見てしまったような、そんな気がして。

 

 

 

「……あれ……文さんなにしてるんですかぁ……?」

「!?」

 

突然背中からの声。自問自答していたところの横槍ほど心臓に悪いものはない。

声無き声を上げそうになりながら振り向くと……

 

「……椛?」

「ふあぁ……あーはたてさーん……買って来た荷物おいときますねぇー」

「いやいや寝てるから反応ないって」

 

犬走椛。何故かとっても眠そうな彼女がやってきた。しょぼしょぼした目を見ると、彼女も徹夜しているのかもしれない。

はたてに巻き込まれたのだろう。気の毒である。

 

「ところで……なんで文さんがここに?」

「あっと、えと、ちょっと様子見てくれって頼まれたから」

「そうなんですかぁー。私三日ぐらい前から手伝いしてるんですけどその間寝た記憶無いんですよねー」

「三日間徹夜!?アンタ大丈夫なの?!」

「えぇ大丈夫ですよーさっきまで空も飛べてましたし。一回思いっきり木にぶつかりましたけど……」

「駄目だよそれ?!」

 

えへへーと笑う彼女の額が生々しく赤く擦り剥けている。飲酒運転も危ないが居眠り運転も大抵危ないものだ。

 

「ふあぁ……おやすみ」

「寝るな!寝るなら自分の家で寝なさい!」

「むにゃむにゃ……」

「言ってるそばから! ……あぁもう!!」

 

ぺたーんと床に座って眠り始めた椛を無理矢理起こし、よいしょと背負う

 

「あんた、一番近い知り合いの家は?」

「えー自分の住まいが一番近いですよーやだなーはっはっはー……ふあぁ……」

「分かったから静かにしてなさい送ってあげるから!」

「あはーはーありがとうございまふぅ……」

 

上の空、というより半分夢現の椛を連れ、はたての部屋を後にする。

 

 

「…………」

「どうしました?」

「なんでもないわ。行くわよ」

「ふぁーい……」

 

帰り際。ちらりとはたての背中を見る。

そして脳裏に浮かんだ先程の寝顔。また顔が赤くなる。見られなくて良かった。

 

 

「それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさーい……ぐぅ」

 

 

そう言って文ははたての家を後にした。

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

「……」

 

暗い夜道を一人、歩く。

椛は既に夢の中だ。静かに寝息を立てている。

 

「……」

 

考えるのは、はたてのこと。

あの寝顔を見た瞬間、気付かなくてもいい事に気付いてしまった気がする。

 

「……」

 

何故、面白くないのか。

それはきっと。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かぷっ

 

 

 

「……?!」

 

 

 

「むにゃむにゃ……」

「うひゃぁ?!」

 

突然、自分の右耳に妙な感覚が走る。くすぐったいような、気持ちいいような、常時体験するのはお断りしたくなる。そんな感覚。

寝ぼけた椛が、自分の耳に噛み付いているのだ。しかも単純に痛い噛み付きではなく、甘噛み。

 

「ちょっ、椛!やめなさい!」

「うへへーするめおいしいれすぅー」

「人の耳を食べ物扱いするか!」

「もぐもぐ……」

「ひゃうっ?!だから噛むなって言って……あぁん?!」

 

 

 

 

 

………。

それはきっと。

 

 

 

 

 

「あーもう!このバカ犬がー!!」

「犬じゃないですぅー狼ですー」

「寝言の割りにきっちり返すんじゃないわよー!!」

 

 

 

 

自分のやってる事が全然的外れな事ではなかった事の。安心感。

そしてそこからくる、仲間という感覚。

 

多分、そんな感覚を認めたくなかったのかもしれない。

だからこその、「面白くない」。

 

 

 

 

 

 

 

「あーもうどいつもこいつも!!面白くないわー!!!」

 

 

 

 

 

 

文の悲鳴が、妖怪の山にこだました。

 

 

 

 

 

説明
去年の年末に書き上げたもの。あやはた風味。
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東方 射命丸文 姫海棠はたて 

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