里帰り
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あぁ、確かに昔住んでいた場所を見たくなるというのは、妖怪や人間問わずに感じてしまうものかもしれない。

漫画を読むつもりがつい懐かしい故郷の写真を見つけてしまい、こういった気持ちになるのは高貴な存在でも当然のことだろう。

とはいえ幻想郷は外の世界で考えると東方の国で我々が住んでいたヨーロッパとは遠く離れている。

お陰で踏ん切りもつきやすいことを考えると、隣になぜかいる緑の巫女よりは恵まれてるかもしれないな。

彼女のことは愛しの霊夢から紹介はされていたが、私から見れば色違いの偽物程度にしか思っていなかった。

そんな人物が何故隣にいるかって?

同じ質問を自分自身にしてやりたい気持ちだよ。

「私のほうの里にも付き合ってくれてありがとうございます」

早苗の運転する車に揺られて私は日本の外の街を走る。

なんでもUVカットとかいうクリームを塗れば吸血鬼でもある程度は日光を防げるとか。

あ、言っておくけれど私は日光で蒸発とかそんな下級な種族じゃないわよ。

苦手ではあるしたしかに大きく能力は落ちるけれど消滅はしないわ。うん、苦手なだけだから。

ただこのクリームのお陰で不快感も消えて快適な旅ができるのだから、スキマの道具も馬鹿にはできないわね。

「いいのよ。人間と違って私達は長い時を味わえる。こういった無駄を楽しめないと妖怪なんて種族は本当に無駄な存在よ?」

あ、かっこいいこと言えた。

「おぉ! 流石レミリアさんは幻想郷を代表する高貴な悪魔ですね! 神に仕える身の私ではありますが、咲夜さんがレミリアさんを慕う気持ちが分かるぐらいに懐が深い!」

「当然よ。それに私達吸血鬼は悪魔の象徴とはいえ、悪魔も神もところが変われば扱いが変わるものよ。それより、あなた外の世界では女子高生とかだったんでしょ。道具屋の店主が言ってたけど日本では18歳以上しか免許取れないんじゃないの?」

平然と運転している早苗ではあるが、彼女はたしか18年も生きたとは聞いてはいない。

外の世界ではお酒は法律に引っかかるんです! とか言ってたところを見ると確実に20よりは下でしょうしね。

外の法律とは無縁の世界なので飲まされたけど……。

あんた達は外の住人しているうちは20までは呑むなよ。このレミリア様との約束だ。

「あぁ。年齢と免許の偽装は紫さんがやってくれました。練習もマヨヒガでしっかりと藍さんに教えてもらいましたよ!」

それでいいのか幻想郷。

胸をはって今のところ事故はないとはいえ不安になる。

「それに私の住んでた場所も、日本の中では地方の街ですから練習に走らされた新宿とかよりは楽ですよ」

「新宿? それもこの国の街の名前かしら」

「日本でも5本の指に入る都会ですよ。夜でも家の外で本が読めるぐらいに明るく照らされた……幻想郷とは遠くかけ離れた人の街です」

このぐらいの年ごとの外の娘ならきっと誰もが行きたがる街なんだろう。

きっと早苗もこの世界に来る前なら行ってみたいとか言ってたかもしれないわね。

「レミリアさんがそんな表情しないでください。今回ここに来たのは最後の決別みたいなものですから。未練から何から捨てることはできないけれど、別れを告げる機会はいただけたのですからね」

「外から来た霊夢と同じぐらいの小娘と思っていたけれど、あの神の教育は流石ってところかしら。あなたは強いのね」

「そうでもないですよ。神奈子様や諏訪子様と来ることを決めたのは私ですが、この世界に残ってもよかったわけですから決めるまでは凄く悩みましたよ。外の世界の人にとっては私の奇跡や神事も形式だけで満足してしまう程度ですからね。お二人が無くても形だけは残って小さく生きていくことはできました」

この世界でも信仰され残っている神はどれほどいるだろうか?

500年生きたこの私が本気を出しても、悔しいけれどもあの二人がしでかした戦争のレベルで挑まれては太刀打ちできる自身があまりない。

むろんそんなことは口には出さないし朽ちるまで戦うが、それほどまでに本来の力は神としても上位の存在だ。

そんな彼女達すら消える世界。

「この世界を捨てた理由は何かしら? 家族や親族もいたでしょう」

「私は形式だけの神事をして、この先何十年も生きるなんてそれこそやってられませんから。神を敬えだのなんだのと言われたりしてますけれどね、ここ何代もの間誰も神奈子様や諏訪子様を見ることや感じることすらできてないのですよ。それに本当にお二人を愛してるかも我が親族達ながら微妙ですから」

「家族よりも2人を選んだと?」

「結果的にはそうなりますね。まぁ私の直接的な両親は小学生のときに亡くなってますから、私だけであの守矢神社を支えることは現実的にも無理に近かったんですがね。神奈子様や諏訪子様が人を演じて育ててくれたようなものなので家族を捨てたわけじゃありませんよ。神奈子様の言葉を伝えたのに父と母は聞いてくれないまま出雲のほうに行って事故を起こしたんですよ……神のお告げを信じないなんてね皮肉な話です」

「……。悪魔が言うのもアレだけど強がるのはやめてもいいんじゃない。あの二人の前でも、そのことでまだ涙を流していないんでしょう?」

明らかに無理をしているのが目に見えて分かる。

ちょっと意地悪な質問をしてやろうと思っただけだけど、とんだ地雷を踏み込んだようだわ。

「この道はしばらく人は来ないわよ」

そういう運命にあるのだから。

「だから本当にカッコつけるときまでは無様でも悪くないわ。それが人間の特権よ」

車を止めた早苗を抱きしめる。

紅い悪魔らしく無いことは分かってはいるが、この子は神と悪魔に助けられる運命にあったのだ。

「レミリアさん……。少しだけ……」

「いいのよ。私は咲夜を助けるようなお節介な一面のある悪魔だから」

抑え込んでいたものが沢山あったのだろう。

私の胸で大粒の涙を流し声を上げ泣く。

外への未練。親への未練。全てを私にぶつける。

帰ったらあの馬鹿親2人を殴ってやろう。

 

 

 

「いやぁ、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいました」

「構わないわよ。私ほどの懐深い悪魔は神にも慣れるのよ。それにあの2人も悪魔と出歩くことを許可してるんだから、何かしら思うことがあったんでしょ」

外の宗教家が聞いたら卒倒しそうよねえ。

「案外何も考えていないだけかもしれませんけどね。あ、私の住んでいた街につきましたよ」

夕方近くなりあちこちに街灯と思われる明りがつけられる。

「あれが蛍光灯ってやつ? 冷蔵庫って道具は便利だから水力発電で活用させてもらってるけど、あの明りは気味が悪いわね」

「さっき言った新宿ではあの明りで昼ぐらいに明るくなってますよ」

「そりゃ物好きな妖怪以外は幻想郷に逃げるわね」

「さて、車はここに置いといて少し歩きますか。もうすぐで私の家のあった場所です」

少し山になった頂上にある神社を目指して階段を上る。

飛ばないというのは少しばかり面倒なことがあるものね。

「見事に手入れのされていない神社があるわね」

「あとを継ぐ人がいないので、たぶん失踪した私の変わりがまた宛がわれるまではこうでしょうね」

こうやって汚い神社を見ると、あのぐーたらな霊夢は真面目に掃除だけはしていたとよくわかる。

こっちのほうはその上神事から何からしているのだから、賽銭が欲しいなら早苗を見習うべきと言ってやろうかしら。

「少しだけ掃除していきましょうか」

「そうね。外と幻想郷で分けた空間とはいえ、友人の家がこんなのだと見るに耐えないわ」

家のほうや社務所も、おそらく早苗が消えたその日から放置されたままにされている。

「……冷蔵庫の中身が大変なことになってそうですねぇ」

「それこそ魑魅魍魎のほうが可愛らしいわ」

「外と幻想で分けた。でも、外にも同じものが残っているのは不思議な気分」

「紅魔館も同じように残ってるか……歴史の渦に飲み込まれたか。思ったよりも楽しい旅だわ」

掃除用具を取り出して神社を掃除する旅なんて生まれて初めてだ。

少なくとも幻想郷の神みたいに話が分かるか、抜けがらの神社じゃなければ私がこうして境内にいるなんて想像もつかない。

「お二人のいない神社というのはこれほどまで静かで悲しいものだなんて……」

「そういうものよ。それにしても夜になったてのに街は明るいわね」

これでこの国では田舎よりだって言うのだから信じられないわ。

この景色を私は忘れることはないだろう。

人が私達を忘れ恐れないようになったこの世界。

神への本当の感謝や信仰を忘れたこの世界。

幾度と宗教戦争は見てきたが、人は神すら人の業のため利用してしまうこの世界。

「家の中は寝るぐらいはできそうなので、今日はここを利用しちゃいましょう!」

「まぁ一応早苗の家だからいいんだろうけど。やっぱあんた強いわ」

涙は流せどこの新しい友人はやっぱりただの小娘じゃなかった。

さてこの旅の続きも楽しくなりそうだ。

説明
東方の2次創作。レミリアと早苗がメインのお話です。
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東方 レミリア 早苗 

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