遠距離恋愛。 |
「ねーねー、明日さぁ、買い物に付き合ってほしいんだけどぉ」
だめかなぁ?と、彼氏に甘える猫なで声が聞こえた。横目でチラリとみると、綺麗に巻いた髪を揺らして、彼氏の腕にすり寄っている女子高生の姿があった。
彼氏の男子生徒は、どうせ荷物持ちさせられんだろー?と言いつつ、満更ではなさそうだ。
うらやましー。
本屋で、レジに並んでいる間、ファッション雑誌のところにいるカップルを見て、私は純粋にそう思った。
彼氏と一緒に下校して、彼氏に唐突なわがままを聞いてもらえて。きっと、今日の夜も電話しておやすみって言い合って、そして朝同じくらいの時間に起きれるんだろうな。
チラリと左手にある腕時計を見る。16時45分。…まだ、間に合うだろうか。
カチ、と携帯をひらく。そして0と1を交互に二回ずつ、そして10ケタの番号を入力する。
出てくれるだろうか、いや、もしかしたらもう寝てるかもしれない。勝手な偏見だけど、スポーツ選手って寝るのが早いイメージがある。
『もしもし、リカ?』
ぴ、という音がして、聞きなれた、高校生にしては少し高い声がした。
『リカ?どうしたの?何かあった??』
そう聞かれて、はた、とそういえば何の用もなかっただけなのを思い出した。
なんとなく。
声を聴きたくて。
でもそんなの恥ずかしくて言えるはずがない。
「いや・・・・・・・・・なんや、こう、つるーっと手がすべてしまったんや」
『手が滑ってうっかり国際電話なんて掛けるかな?』
「う」
『リカってそういうことしないタイプだよね、本当はどうだったの?』
「うう」
見透かされてるやん…。
きっと彼は、ニコニコとした表情がをしているに違いない。意地の悪い笑顔をを想像して、思わず顔が熱くなる。
『もし。…もしだけど、俺の声が聞きたくなって電話してくれたんなら、俺はすごくうれしいよ』
ああ。
もう。
ああ、もうこの男は。
「そ、そんなこと言われたら、頷くしかないやんかあ…!だって、ちょと目の前でカップルが明日買い物行こうとか、いちゃついてて羨ましくなってしまったんやもん・・・!」
同じ時間軸の中にいて、同じ地面を歩くことができて、手をつなげる距離にいる目の前にいたカップルがうらやましくて。私は全部できないし、私はこれからこんばんわなのにあっち
はもうおやすみなさいの時間だし、本当はかけるべきじゃなかったのに、欲望と寂しさに負けて思わず電話をかけてしまった。
恥ずかしい、恥ずかしい。
絶対に笑われるに決まってる。迷惑がられるに決まってる。でも、電話から聞こえてきたのは意外な一言だった。
『嬉しい。リカってさ、今まで何か用事があるときしか電話かけて来なかったから、こうやってなんでもないときにかけてきてくれて嬉しい。それってさ、純粋に俺の声が聞きたくて電
話してきたってことでしょ』
「迷惑、じゃない・・・?」
『何言ってるの、彼女が望むことなら、なんでも叶えたくなるのが彼氏だよ』
そう言う彼の声音がやさしくて、耳からあふれたなにかが頭を通って目に伝わって、目の前があふれた何かで視界がゆがんでいく。
「はは、ダーリンかっこええなぁ・・・・」
『うん。だって俺はリカの“ダーリン”だからね』
「・・・・・なぁ、ダーリン。お願いがあるんや…。明日、買い物に行きたいんやけど、付き合ってくれる・・・?」
『リカが望むなら、もちろん。荷物持ちでも何でもするよ』
そういってくれるダーリンが嬉しくて、愛しくて、そしてこの距離がちょっと辛くてくるしい。
でも、こんな風に思えるのって、やっぱり遠距離恋愛だからこそなんやろうな。
「ありがとうダーリン、オヤスミ」
元気でたわ、というと、よかった。オヤスミ、リカ。という声がして、電話の通話終了ボタンを押す。
表示では5分間の、すごく短い時間だったのに、なんだか心がホカホカしてる。
絶対、いつかダーリンと本当に「明日買い物に行こう」っていうんや。
ついさっき本屋で買った、海外留学の本を握りしめながら、私はそう心に誓った。
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一リカ。 | ||
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