東方外鬼譚 《愚神礼賛》が幻想入り 第一章
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♯赤い言葉を胸に

 

 

 ―――《零崎一賊》。

序列三位にして、『殺し名』の中では最も忌み嫌われている、

理由なく人を殺す《殺人鬼》の集団。

血の繋がりは無くとも流血で繋がっており、

一賊の多くが慢性的に殺人衝動を抱えている―――。

しかし、零崎の性質はあくまで後天的なものであり、

故に零崎になる以前の、あるいは零崎以外の名前や人生が存在する。

一賊史上、最も荒々しく、最も容赦のない手口で、

最も数多くの人間を殺した殺人の鬼…、

零崎一賊三天王の一人《愚神礼賛》(シームレスバイアス)の零崎軋識も例外ではなく―――、

ある意味では、とても例外的なもう一つの顔を持っていた。

 

 

 その日、軋識は自身のトレードマークでもある、

麦わら帽子も、ルーズなズボンも、サンダルも身につけておらず、

首からは白いタオルも消えている。

そのうえ、自らの得物であり象徴となる鉛製の釘バット、

自身の通り名にもなっている『愚神礼賛』も見あたらない。

代わりに高級そうなネクタイに背広姿、靴は一級品のフェラガモ、

髪型もオールバックで、一見真っ当な人間≠ノしか見えない格好をしていた。

そう―――、今の彼は零崎ではなく、

彼のもう一つの顔でもある、世界的サイバーテロ集団の一人、

「街(バッドカインド)」の式岸軋騎として、森の中に潜んでいた――。

軋騎は同志の中では唯一ネットワーク外で、現実世界でも活動が出来る存在なのだ。

結果的に彼の深愛なる『暴君』からは今回のような、

破壊活動を中心に、お願いがされる事が多い。

式岸軋騎として行動する以上、『愚神礼賛』は持ち歩かないし、

―――持ち歩けない。

彼にとって『愚神礼賛』は名札のようなもの…、

式岸軋騎として動く以上は、零崎軋識の痕跡を残すわけにはいかない。

ゆえに今の彼は素手、徒手空拳である。

だが釘バットと素手の戦力は天地の差、当然いつものような

多数対一人…、しかも相手がプロのプレイヤーであれば、まず勝ち目は無い。

出来るだけ一対一の状態に持ち込まなくてはならない。

だからと言って、それはあくまでも理想の話、

いざとなれば武装した傭兵3、4人くらい一度に相手する覚悟は出来ている。

でも……、だからってこれは予想以上だな。

軋識は木の陰に身を潜めながら、心の中で呟いた。

彼の周りには、既に8人程の武装した男たちがうろついている、

もちろん彼らは軋識の存在に気が付いていないし、軋識もそんなミスは犯さない。

だが、こんな状態がいつまでも続けば、

いずれは発見されてしまうのは、目に見えている。

いつのもの軋識なら、何の問題も無く数秒で蹴散らす事が出来ただろうが、

流石の軋識も素手で同じ事は出来ない。

「これは強行突破は無理か。

 一人ずつが妥当っちゃな…、っと」

うっかり、零崎軋識としての言葉遣いになりかけて、慌てて口元を押さえた。

人を殺す事に対する、零崎としての高ぶりのためだろうが、

もし聞かれた時のリスクを考えると、慎重にならずにはいられない。

軋識は零崎三天王に一人として、それなり以上に名を馳せている、

彼に対する情報が、まさか釘バットだけという事はないだろう。

「いや、そんなことより…」

そろそろ動かないと『暴君』のお願いを完遂する頃には、日付が変わってしまう。

いつまでもこんな硬直状態を続けている訳にはいかないのだ。

それに……。

「それに今回のお願い≠ヘ、また厄介だしな――」

軋識は小声でつぶやき、あらためて頭の中で情報を整理する。

 

今回の標的は『政力の世界』の頂点、『玖渚機関』の一派である『弍栞』と

『財力の世界』の頂点『四神一鏡』の宗家の一つ『氏神』との、

共同研究によって作り出された、謎の機構を搭載した用途不明の

――何かの試作機。

つまり、何なのか殆ど分かっていない。

なんにしろ、その試作機をこの山で運転試験して何かの実験を行うらしい。

それ故、その試作機全八台を全て破壊するように――と…、

『暴君』もまた無茶を言う。

理由は『暴君』にはよくある「気に入らないから」だそうだ。

これは蛇足になるのだろうが『暴君』の姓は玖渚である。

情報が不明瞭で、かつ不足しているように

思えるが、あくまでもこれは暴君が適当に調べたものだ。

適当に調べてここまで分かったのは、暴君だたらこそかもしれない。

その後、自分でも調べてみたが、分かった事は少なかった。

その何かの試作機は『結界』に干渉して歪ませたり、

緩ませたりして結界に傷を付けること無く、

結界の向こう側まで通り抜ける事が出来る装置だそうだ。

もっとも、この情報も『暴君』が使った情報網を利用して手に入れた情報だ。

結局『暴君』の手柄みたいなものだ。

用途こそ判ったものの、はたして何に使うのか…。

結界といえば……。

軋識の脳裏に浮かんだのは、やはり『呪い名』の殆ど全ての者が使用する、

―――人払いの結界。

軋識に限った話ではなく『殺し名』にたずさわる者や、

『呪い名』の存在を知る、『暴力の世界』たずさわる者は

その存在を疎ましく思っている。

彼らは、意識や無意識、心理や感情に付け込んで、

人を操り心をなぶる――。

その所業は、時に鈍器や刃物で人を殺す以上に惨たらしい死を人にあたえる。

だが彼らの多くが、出会い頭に決着のつく方法での殺しが出来ない、

催眠術にしろ、病毒にしろ、ある程度の時間を必要とする。

人払いの結界が『呪い名』の専売特許と言う事はない、

しかし決着がつくまで誰にも邪魔されないように

策を労するのは必要であり、必然である。

ただし、それは言うほど大仰なものではなく、人の無意識に干渉して

そこにいる人を認識させないという、あくまでもただの技術であったり、

時には道に看板を置くだけと言う単純な結界だったりする。

他にも色々とあるが基本はそんな感じだ。

どちらにせよ鬱陶しく、まどろっこしい事には変わらない。

だがきっと、その結界とは別物なのだろう、

『呪い名』の連中が使う結界とは機械や装置など使わなくとも

知識さえあれば破れるし、抜けられる。

逆に機械や装置で、どうやって克服できるのかが思いつかない。

 

そんなことより、軋識にはもう一つの情報の方が気になった。

試作機に搭載された、謎の機構を構築した人物が

今回の実験の発案者である事。

この発案者というのは中々の曲者であった、

どんなに念入りに調べても確かな情報が出てこないのだ。

人間は断片的な情報でも、その一つ一つを自身の想像力で補って、

真実には及ばなくとも、それらの輪郭をある程度理解することが出来る。

しかし、その人物にはそれさえ不可能だった…、

得た情報の一つ一つが互いに否定しあっていたからだ。

一体どんな情報操作をすれば、こんなこんがらがった状態に

出来るのか……、認めたく無いが神業だ。

だが軋識には、このしっくりこない情報操作のやり方に、

思い出したくもないが覚えがあった。

―――十年前の大戦争=B

その時も、あれだけの事が起きながら、

後になって調べてみても、確証の持てる程の事は分らなかった。

勿論これは、予想にも満たない想像であり、

本気で、あの大戦争の関係者が関わっているとは思っていない。

軋識はただ、『玖渚機関』や『四神一鏡』よりも、

なお厄介な何かが、今回の一件に関わっているという事実が心配なだけだった。

軋識は思考を停止させる。

こんな事いくら考えても仕方がない…、

行動しなければいつまで経っても何も好転しないのだから。

「………」

軋識は静かに心を落ち着けながら

なぜだか、あの日の事を思い起こしていた。

そう、――たしかあの日もこんな風に多くの敵を前に

武器もなく立ち往生していた、そんなツイて無い戦いだった。

そんな自分の前に、突如として現れた紅い小娘は、

何もかも自分勝手に解決し、そして去っていった。

やればできるじゃん=\――そう言い残して。

プライドもろとも『零崎』を見失いかけていた、あの日。

その言葉が自信を取り戻すきっかけになった…、

礼はする気にならないけれど。

「やればできる」

今度は周りの傭兵に聞こえかねない声量で呟く。

だがもう気にしない。

「礼はする気にならないけど…、

 いい言葉だよな―――!!」

自身に言い聞かせるように、

あるいは誰かに問いかけるように

そう吼えながら軋識は敵前におどり出た。

 

 

 

あとがき

 

やっと軋識さんが登場します。

呪い名のタグを付けたものの、あまり役に

立ちそうにありませんね…、オリジナルキャラクターばかり出てきちゃいますから(落

出来るだけ感想などを書いてもらえると、励みにも

なりますので宜しくお願いします(座

あと今回も、登場した人物の名前のタグを付けて

おきましたので、分らない方はそこからイラストの方をどうぞ。 

 

 

 

説明
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二次創作 東方 幻想入り 戯言シリーズ 零崎一賊 零崎軋識 玖渚友 哀川潤 

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