変態司馬懿仲達物語 北方の戦い 2
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一刀は書類に目を通し、ふぅ、とため息を漏らした。

今日一日で発生した犯罪の詳細をまとめた書簡を司馬懿に提出しなければならないのでその作成を行っているのだが、その数字に苦笑しか出なかった。

 

「陛下を迎えてから一月弱。人口が飛躍的に伸びて収入が増えたのは喜ぶべきなんだろうけど、それだけ犯罪の数が増えたよな。百件を超えるってどういう事だよ」

 

犯罪は治安が悪いと発生するものだが、司馬懿の領地は決して治安が悪いと言うわけではない。むしろ他の諸侯に比べて領地が大きい割りによく統治されている方である。

司馬懿は犯罪に対して情け容赦のない判決を下し、治安を維持しようとしている。

食い逃げには牢獄で十日間の断食を言い渡し、人殺しにはそれ相応の理由がない限り打ち首にするほど厳しい処罰を与えている。

恐れられる反面、それなりの効果と人望が集まって来てはいた。

それでも犯罪が減らないのは司馬懿の恐ろしさを知らないか、逃げ切れると勘違いしている輩が多いからだろう。

 

「よし、まとめ終了っと。月ちゃん、これ勝里さんのところに持って行ってくれる?」

「はい。わかりました」

 

お茶を汲んでいた董卓に書簡を手渡し、一刀は大きく背伸びをした。

何故董卓が一刀の部屋にいるのかというと、司馬懿が一刀の監視、補佐のために董卓を派遣したからである。

最初は一刀も一人でやる、と断ったのだが、董卓に言いくるめられて今に至る。

 

「お茶です。熱いですから気をつけてくださいね」

「ありがとう。ふぅ、ようやく一段落ついた」

「ご苦労様です。でも、まだ夜の警邏が残ってますよ?」

「わかってる。でも少し余裕があるから大丈夫だよ」

「そういえば、一刀さんは副官を任命しないんですね」

「副官? それってアレだよね、補佐する人」

「そうですよ。一刀さんも副官を選べば仕事も少しは楽になるんじゃないですか?」

「そっか。副官・・・・・・考えておくよ」

「それがいいと思います。それじゃあ、わたしは勝里さまにこの書類を出してきますね。疲れているのなら少し眠っていてもいいですよ」

「ありがとう。そうだね、ちょっと仮眠をとろうかな」

「はい。それじゃあ、行ってきますね」

 

書簡を持って部屋から出て行く董卓を見送り、一刀は寝台に倒れこんだ。

 

「自分で決めた事だけど、やっぱり辛いなぁ。勝里さんたちはどうして平気でいられるんだろう?」

 

一日のほとんどを仕事が占めている一刀よりも司馬懿や徐庶たちの方が比較できないくらいの仕事量をこなしている。

それなのに会議に遅れる事も居眠りする事もないのはやはりこの時代の人間だから、という時代の違いが原因なのかと一刀は考える。

民を背負い、国を背負うなら当然のことなのかもしれない。一刀は司馬懿を支える為に変わろうと決意した日からそれを志して実行しているが、やはりそう簡単に慣れるものではない。

 

「ゆとり世代って奴かなぁ。早く慣れないと体がもたん」

 

程よい脱力感と疲労感で目蓋が段々と下がっていく。

 

「ちょっとだけ・・・・・・仮眠、とろう・・・・・・かな」

 

言うが早いか、一刀は目を閉じて規則正しい呼吸音を響かせて眠りに落ちていった。

これが駄目だった、と後に彼は語る事になろうとは彼自身も思っていなかっただろう。

 

 

 

 

 

「北郷さま、こちら異常ありませんでした!」

「こちらも異常ありません! さぁ、次へ行きましょう」

「こら、そこのお前! 何をして・・・・・・あ、逃げるな! 追いかけて捕まえてきます!」

 

どうしてこうなった、と一刀は冷や汗を流した。

やる気に満ち溢れた兵士たちが次から次へと一刀が率先してこなさなければならない仕事を片っ端から終わらせていく。

それも一刀が命令を出すより早く動くのだ。

 

「あの、みんなどうしてそんなに頑張ってるの?」

「それは北郷さまが寝坊してきたからです」

 

鋭い刃が一刀の胸を突き刺した。

 

「落ち込まないでください。別に怒っているわけではありません」

「別にフォローしてくれなくても・・・・・・」

「北郷隊の兵士は北郷さまがどれだけ多忙なのかを知っています。北郷さまは率先して仕事をこなしているのに、北郷隊の我々が怠ける訳にはいきません。少しでも北郷さまの苦労を無くすよう皆励んでいるのです」

「みんな・・・・・・」

 

一刀の目に涙が浮かぶ。

ここまで信頼され、支えてくれる部下に恵まれ、今までの苦労は無駄じゃなかったんだと実感した瞬間だった。

 

「ありがとう。でも無理はしないでくれよ? それでみんなが倒れたら意味ないから」

「それは重々承知しています。しかし、我々は正直あまり疲れてないんですよ」

「・・・・・・? どゆこと?」

「北郷隊は戦には出ませんから訓練自体があんまりないじゃないですか? その代わり街の治安は全て任されていますけど」

「う・・・・・・」

 

確かに北郷隊の訓練状況と言えば下の下だった。

一刀が率いて訓練をするのだが、一刀自身が多忙で訓練をあまりせず、他の将が代わりに訓練を行っていたのだが、反董卓連合以降は激務になり、それも出来なくなっていた。

そしていつの間にか北郷隊は戦ではなく、街の治安部隊として活躍するようになり、街を守るほぼ全ての兵士は北郷隊の兵士という状況になっていた。

 

「他の隊に比べれば疲れているといっても多少です。ケ艾隊の兵士は死にそうな顔がたくさんいますよ」

「それ知ってる。ケ艾将軍の訓練が厳しすぎるんだろ? 何人も逃げ出してるらしい」

「それで精鋭にしていくってことだろ? 地獄のような訓練に耐え切れば精鋭部隊の仲間入りじゃねぇか」

「俺は嫌だなぁ。今の仕事が性に合ってるよ」

「俺も」

「同じ、だ」

 

兵士たちは他愛もない会話をしている。

一刀はそれをじっと見つめていた。

 

「みんなは仲がいいんだね」

「へ? あぁそうですね。ここにいる連中は北郷様が初陣なさった日から一緒にいる連中なんです」

「え、そうなの? って、俺の初陣って・・・・・・」

「そうです。黄巾賊を炎で撃退して、北郷様が吐かれた日です」

 

あぁ、と一刀は頭を抱えた。

初めて戦に出て、数千と言う人間が焼け死んでいく姿を目の当たりにして気分が悪くなり、カッコ悪く吐いた日である。

 

「・・・・・・って、そのころから? ずいぶん昔だけど」

「言ったじゃないですか。北郷隊は戦に出ないから入れ替わりがほとんどないんです。もし新顔がいたらすぐに見分けが出来るくらい」

「そうなんだ。みんなは戦に出たりして、出世とかしたいと思ってないの? こう聞くのはおかしいかもしれないけど、俺のところ、他の隊より給料少ないよ?」

兵士たちは顔を見合わせ笑い出した。

 

一刀はポカンと口を開いたまま兵士たちの言葉を待った。

 

「戦に出て出世したいってのは最初はありましたけど、今では思ってない奴の方が多いですよ。もし戦に出たいなら他の隊に行ける様に取り計らってもらえばいいですし。俺もそうですけど、北郷隊の兵士は街を守る事に使命感を持っているんです。やりがいのある仕事って奴ですよ」

「そっか。そう言って貰えるとちょっと救われた気がするよ」

 

と、そこで一刀は“救われる”という言葉で董卓との会話を思い出した。

副官を選べば少しは仕事が楽になる。たとえば、目の前で一刀との会話回数が多い兵士なんてどうだろう。

よく鍛えているのだろうと分かる他の兵士よりガッチリした体型に良く通る声。目力もあり、睨まれたら一般人なら腰を抜かしそうだ。

 

「実は俺、副官が欲しいと思ってるんだ。仕事も忙しいし、全部見れてるわけじゃないから。隊員で推薦できそうな人がいたら教えて欲しいんだけど」

 

突然の事に兵士たちはキョトンとしたが、あぁ、と納得したような顔になった。

 

「ならこいつ推薦しますよ。北郷隊で一番強くて、声もでかくて、信頼もあります」

 

そう紹介されたのが一刀が例えで考えていた兵士だった。

 

「あ、実は俺も君なら勤まりそうだなって思ってたんだ」

「それは・・・・・・光栄です。しかし、自分よりも適任のものが・・・・・・」

「張徳(ちょうとく)、断るなんてどうかしてるぞ。お前以外に務まる奴なんていないって」

「北郷様、こいつ調練の時、ケ艾将軍にケ艾隊に来ないかって言われたんですよ? 動きもいいし、指示も的確で、ケ艾隊と渡り合ったんですから」

「いや、しかし・・・・・・」

「もしかして、何か理由がある? それなら無理には頼まないけど」

 

一刀は中々煮え切らない張徳に言った。やりたくもない仕事を押し付けるのは気が引ける。他の将ではこうは考えないだろうが、根が優しい一刀は相手の気持ちを第一に考えていた。

そんな一刀の心遣いを受けて、張徳は一度頷いて一刀に向き合った。

 

「わかりました。不肖ながら副官の任、お受けいたします」

「ありがとう。これからよろしく、張徳」

 

さっと右手を出す一刀。

その行動に面食らったように張徳はその右手を凝視した。

 

「あの、これは・・・・・・」

「あ、俺の世界だとこういう時は握手をするんだ。畏まったの苦手だから、俺」

 

恐る恐る、という感じで張徳は差し出された手を握った。

 

「改めて、これからいろいろよろしく」

「こちらこそ。至らぬ事もあると思いますが、よろしくお願いします」

 

強く握り締めた右手から一刀は何と言っていいかわからない心強さを感じ取った。

 

「この薄暗がりでも溢れんばかりの存在感を漂わせる白き衣服・・・・・・もし、お主は司馬懿仲達殿のところに舞い降りた天の御遣い殿ではないか?」

 

静寂の中に突如飛び込んできた声に一刀たちはそちらに目を向けた。

すっかり暗くなってしまった周囲を照らすたいまつの仄かな光に照らされた男の姿がそこにはあった。

 

「あの、どちらさまでしょうか?」

「北郷様、お下がりください。暗殺者やもしれません」

 

張徳は剣を抜いて一刀の前に立った。

夜遅く、とまではいかないにしても暗がりで声をかけてくる人物など妖しい以外の何者でもない。

張徳の言葉を受けた兵士たちも剣を抜いて男の動きに注意を払う。

 

「某(それがし)、怪しいものではござらん。益州を収める劉璋さまにお仕えする名を馬謖(ばしょく)と申す。司馬懿殿に至急お伝えせねばならぬ用件があり参上した。夜分遅くに申し訳ないと存ずるが、北郷殿、取り計らっては頂けぬか?」

「馬謖・・・・・・って、あの馬謖?」

 

一刀は思わず声を上げた。

馬謖。三国志の歴史では「泣いて馬謖を斬る」という言葉まで残ったほど有名な人物である。

 

「どの馬謖かは存じませぬが、益州で馬謖という名は某だけかと」

「あ、ごめんこっちの話。それで、その馬謖さんが勝里さんにどんな用事?」

「司馬懿殿の治める長安に危機が迫っております。それを知らせる為に某は益州より参った」

 

決してふざけている様子ではない馬謖の言葉は口調からも読み取れるほど切羽詰った様であった。

 

「・・・・・・分かった。勝里さんに話してみるよ」

「感謝いたす。これで大任を果たす事ができる」

 

一刀は心底安心した様子の馬謖を見て、事の重大さを改めて感じた。

警邏は副官となった張徳に任せ、一刀は数人の護衛と一緒に城へ急いだ。

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馬謖の司馬懿への目通りはすぐに叶った。

司馬懿が深夜にもかかわらず仕事をしていた為起こす手間も服装も来客が着ても失礼がなかった為である。

玉座の間には司馬懿をはじめ、徐庶、ケ艾、荀ェ、一刀が集まっていた。

馬謖は両手を前で重ね深く礼をした。

 

「夜分遅くにもかかわらずお目通りを許して頂き感謝いたす」

「急を要すると聞きましたので。さて、どのようなご用件でしょうか?」

「時間がないのは事実。簡潔に説明させて頂く。一月ほど前より益州にて家畜が姿を消す事件があった」

 

馬謖は自分が来た用件を話し始めた。

 

「泥棒と言う線で調査していた某たちの前に突如見た事もない大蛇が現れた。調べてみると益州より南、南蛮から迷い込んだ大蛇であることが判明し、討伐隊を向かわせたが、返り討ちに遭い、司馬懿殿の治める長安へ向かった可能性が浮上した」

「それは・・・・・・厄介ですね。返り討ちにあったというのは何故?」

「賢い大蛇でござる。昼間は沼地や水の中に姿を隠し、夜になると暗がりを利用し襲ってくる。こちらは既に数百の被害を被ってしまったでござる」

「なるほど。分かりました。こちらで対処しましょう」

「我らの失態の尻拭い、感謝いたす」

 

馬謖は深く頭を下げた。

 

「ところで馬謖さん、長旅でお疲れとお見受けします。今晩だけでもこちらで休まれてはいかがですか?」

 

司馬懿の誘いに馬謖は首を横に振った。

 

「劉璋さまが某の働きを認めてくださり、しばらく休暇を頂けることと成った。司馬懿殿への忠告を終えればしばらくは自由にしていい、と言われているでござる。某、どうしても会ってみたい人物が徐州にいるでござる。帰る前に一度は拝見したい」

 

段々と声が大きくなっているのはそれだけ会いたい人物だということだろう。

 

「貴方がそれほどまでに熱中する相手、どのような人物なのですか?」

 

やや興奮気味の馬謖に司馬懿は尋ねた。

すると、返ってきたのは予想外の答えだった。

 

「劉備玄徳の配下、伏龍先生、鳳雛先生でござる」

 

シーン、とあたりが静まり返った。

それに気付かない馬謖は話を続ける。

 

「某、先生方の反董卓連合での活躍を耳にし、是非お会いしたいと思っているでござる。某は先生方に・・・・・・」

 

馬謖の話はまだ終わらない。

確かに劉備軍は反董卓連合において“唯一”戦で活躍を見せた勢力である。

その軍師、諸葛亮は司馬懿を凌駕する知勇を持ち、更に鳳統はそんな諸葛亮よりも才があるという噂である。

知恵者であれば信者となってもおかしくはない。そのいい例が目の前の馬謖である。

 

「それほどまでに彼女たちの事を崇拝しているのでしたら・・・・・・彗里、紹介状を書いて差し上げては?」

「はぁ・・・・・・紹介状ですか。構いませんが・・・・・・」

 

司馬懿と徐庶の会話が聞こえた馬謖が一歩仰け反った。

 

「な、なんと・・・・・・!? そちらの少女は先生方とお知り合いでござるか!?」

「水鏡先生の塾仲間です。徐庶と申します」

「徐庶・・・・・・司馬懿仲達の愛妻である徐庶元直殿! 司馬懿殿を身も心も支える良妻と聞き及んでおります。お会いできて光栄の至り」

 

何から何まで間違いだらけの言葉に徐庶はじとっと司馬懿の顔を見た。

 

「彗里、何から何までわたしのせいにするのは感心しませんよ」

「確かにそうですけど、何故か勝里さまが裏で糸を引いている気がしてならないのです」

「噂は何かしら誤解を孕んだ広まり方をするのが当然。気にしていてはキリがありませんよ」

「・・・・・・そうですね。失礼しました」

「彗里との事を聞かれて特に何も言わなかったからこうなっただけだと思いますし、気にしては駄目ですよ」

 

やはりあなたか、と言いたげな訴えるような目で徐庶は司馬懿を睨んだ。

 

「馬謖さんでしたね。わたしと勝里さまは夫婦などではなく、主従の関係です。間違った情報を流さないよう、特に朱里や雛里・・・・・・諸葛亮、鳳統に言わないでください」

「なんと、某の勘違いであったか。あい分かった。益州ではこの噂は当然のように囁かれているでござる。某がその噂を止めてみせよう」

 

益州はかなり広い土地である。そんな場所で当然のように司馬懿と徐庶が夫婦だと囁かれているのであれば、噂を根絶やしにするのは相当な苦労となるだろう。

噂も七十五日というが、それを過ぎれば夫婦だという噂は忘れられるのではなく、完全に認知されると言う事になる。

徐庶はそれを懸念し、馬謖に噂を否定するよう頼もうとした。

 

「それはいけません。馬謖さん、下手に噂を否定すれば良からぬ方向に話が持っていかれます。噂はこのままで結構です」

 

徐庶の考えはこの司馬懿の一言で一刀両断された。

 

「なるほど。確かに下手に夫婦ではない、と噂をすれば相性が悪かったなどの性質の悪い噂となるのは必須。危うく司馬懿殿と徐庶殿の評判を落としてしまうところであった。司馬懿殿、ご指摘感謝する」

「いえいえ。さて、彗里、馬謖さんに孔明さんたちへの招待状をお願いします」

「・・・・・・・・・分かりました。では馬謖さん、少し準備が要りますので、それまで待っていてください」

「承知した。徐庶殿、感謝する」

 

馬謖は徐庶に一礼した。

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徐庶が馬謖を連れて玉座の間を後にして、司馬懿はふぅ、と息を漏らした。

 

「あの、勝里さん、どうかしたんですか?」

 

少し疲れているようにも見える司馬懿を気遣って一刀が声をかけた。

司馬懿はいつものように微笑を浮かべて一刀を見る。

 

「いえ、少々面倒な事態になったと思っただけです。将軍並みの実力者が少ないことにため息をついただけですよ」

 

確かに、と一刀だけでなくその場にいる全員がそう思った。

司馬懿軍で活躍する将軍はケ艾、姜維の二人だけ。軍師は徐庶、荀ェ、董卓、賈?、李儒と豊富であった。

一刀は将軍兼軍師だが、どっちつかずな状態と言える。警備隊長と言う方が正しいかもしれない。

そして今、司馬懿がすぐに動かせる将はケ艾だけである。姜維は長安で政務を行っているからだ。

 

「さて、大蛇退治は・・・・・・一刀くんと荀ェさんにお願いしようと思います。よろしいですね?」

「「え・・・・・・?」」

 

突然の指名に一刀と荀ェは声を上げた。

 

「ど、どうしてわたし達なんですか! 蛇の扱いなら洛陽の李儒に頼めば・・・・・・」

 

荀ェが司馬懿に問いかける。

確かに蛇を自在に操る李儒が今回の大蛇退治には打って付けの人材と言えるだろう。

 

「もちろん彼にも行ってもらいます。しかし、もし与する事が出来なければ退治しなければなりません。そのための軍隊を動かしておかなければならない」

「ですが、わたしも北郷も武芸に疎く、統率もケ艾、姜維両将軍には遠く及びません。この件はケ艾、姜維のどちらかの将軍に赴いてもらう事が最善かと」

「わたしも出来ればそうしたい。しかし、それが出来ない状況に成ってしまったのです」

「と、言いますと?」

 

司馬懿は間を空けて、それから口を開いた。

 

「袁紹が明日にも公孫?を攻めると言う情報を入手しました。わたしはケ艾、姜維を連れて前線に赴かねばなりません。大蛇退治の後、大さんには洛陽から長安へ移り統治をお願いし、それと入れ替わりで姜維にこちらに戻ってきてもらいます。一刀くんと藍花さんは退治後、戦況によって行動してもらいます」

「袁紹が動く・・・・・・だからわたし達なのね」

 

荀ェは納得して何も言わなくなった。

 

「他に何かありますか? 無いのなら、早速準備に取り掛かりましょう。彗里には後でわたしから伝えておきます」

 

一礼し、それぞれの持ち場へと向かっていく。

玉座の間を後にした一刀は廊下を荀ェと並んで歩きながら大蛇胎児のことを考えていた。

 

「北郷、勝里さまの考え、分かってる?」

「勝里さんの考え、か。やっぱり漁夫の利を得ようとしてるとかだろ? 上手くいけば北方全土が手に入る訳だし」

「そっちじゃないわよ。そっちもだけど、今はそっちじゃないわ」

 

何が言いたいんだ、と一刀は首をかしげる。

 

「確かに司馬懿軍は将軍は少ない。でも、わたし達ふたりにこの任務を任せる必要は無かったのよ。李儒一人でも蛇退治は可能な筈よ。いくら賢いといっても所詮は蛇。人間の知恵には勝てないわ」

「そうかもしれないけど、それじゃあ・・・・・・まさか勝里さん、また俺と荀ェをくっつけようとして」

「違う・・・・・・と思うわ。自信ないけど。そうじゃなくて、アンタが一方的にわたしを避けてる事を

改善させようとしてるのよ」

 

その言葉に思い当たる節はいくつか、いや、かなりあった。

しかし、一刀にも言い分はある。

 

「荀ェは男嫌いだろ?」

「・・・・・・だから何よ」

「中でも俺って一番嫌われてるし、出来るだけいない方がいいのかなって。ほら、俺より荀ェの方が仕事とかできるし、居なくなってもらったら困るから」

「・・・・・・アンタが言いたいのはそれだけ?」

「それだけ、だけど・・・・・・」

 

何だろう、一刀は何か危険なものを感じた。

例えるなら爆発物だ。今にも爆発しそうな予感がする。

「北郷・・・・・・」

 

静かに荀ェが一刀の名を呼んだ。そして、

 

「バッッッッカじゃないの!!!」

 

火山が噴火したかと思えるほどの怒鳴り声が廊下に響いた。

人差し指を一刀にグイッと押し込みながら荀ェの怒りの言葉が続く。

 

「確かにわたしは男嫌いだしアンタが一番嫌い。出来れば近づきたくないし、アンタの補佐なんてしたくなかったわよ! でも、それも仕事、そうじゃなかったら誰がアンタみたいな疫病神の面倒なんて見なきゃいけないのよ! いい? 仕事よ、仕事!」

「し、仕事なら仕方な・・・・・・」

「仕事でアンタの面倒見てやってるのに、それをわたしがアンタを嫌っているから外してやってくれって、アンタ一体何考えてんのよ! これでもね、アンタを一人前にしてやろうって気持ちでいたのよ? あれやこれや口出しして、失敗したら罵って、これでもやりがいはあったし、鬱憤の捌け口にも丁度よかったのに。アンタ個人の事情で止めなきゃならないってどういうことよ!?」

「そ、そうだ・・・・・・」

「そうよ! こっちの気も知らないで勝手に自己解釈して勝手に決めて、いい迷惑よ! それに何? 自分の力で戦乱を生き抜く、とかほざいてたのに、董卓にきっちり世話させてるじゃない! 自分の言った言葉くらいきちんと責任持ちなさいよ!」

「そ・・・・・・」

「言い訳なんてしたら二度とその口開けなくするわよ!」

 

荀ェの迫力に押されて一歩ずつ後ろに下がる一刀。

逃がす気などない荀ェは怒声を上げながら一歩また一歩と逃げる一刀を追い込んでいく。

一刀は壁際まで押し込まれ、荀ェはグイッと一刀に人差し指を突き刺した。

 

「いい? わたしは男嫌いで出来れば近付きたくないけど、それを理由に他に行くほど薄情でもバカでもないの! それを勝手に思い込んで避けるのは止めなさい! 前にも言ったけど、一個人の理由、私情を持ち込んでいい場所じゃないのよ」

「だけど・・・・・・」

「言い訳するな! 今回の事はアンタが大部分を占めて悪いんだから認めなさい! こっちはこのモヤモヤした事で何日もイライラしっぱなしなんだからいい加減にしないと本当にいなくなるわよ!」

「ご、ごめん! それだけは勘弁して」

「・・・・・・はぁ、冗談よ。薄情じゃないって言ったばっかりじゃない。言いたい事も言ったし、スッキリしたわ」

 

確かに荀ェは不機嫌な顔ではなく、満足したような顔をしていた。

鬱憤をぶつけたかったのか、と一刀は考えて自分のできる役割の一つを見つけることが出来たのだった。

 

「ほら行くわよ。さっさと準備して出発するわよ」

「ああ、そうだな」

 

荀ェの背中を一刀は追う。

ほんの少しだが、距離が近付いたような、そんな気がした。

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二人の背中を見守る司馬懿はふふ、と声を殺して笑った。

 

「やはり一刀くんには荀ェさんが必要ですね。ぐいぐい引っ張ってくれる荀ェさんになら一刀くんを任せられます」

「旦那はあの二人をどうしてもくっつけたいんだな」

「当たり前です。辰にも、そのような人を見つけてあげたいですけど」

「俺はいいよ。天の相手でも探してやってください」

「天は心配ないでしょう。美人ですし、そういう誘いを何度か受けたと聞いてます」

「へぇ、すげぇな」

「すべて断っているそうですが、何か理由があるようですよ」

「ま、俺がどうこう言えることじゃないんで、深くは探りませんよ。それより旦那、やっぱ将が少ないのは不便か?」

 

ケ艾の真面目な問いに司馬懿も真剣な表情(特に変わっていないが)になった。

 

「そうですね。展開できる軍隊が少ないという現状に繋がりますし、少なくとも後二人・・・・・・いえ、三人は欲しいですね。将軍になれる者もしくは既に将軍を務めていた者、どちらでも構いません」

「・・・・・・当てはあるぜ。俺の旧知に将軍になれる奴がいる。放浪してるから探し出さないといけねぇけど、たぶん来てくれる筈だ」

「それは朗報。袁紹との決着がつき次第探してください。将軍は少なくて困る事はあっても、多くて困る事はそうそうありません」

「了解。んじゃ、俺は部隊配備の様子を見てくるぜ」

 

ケ艾が去り、一人となった司馬懿は懐から一枚の紙を取り出した。

密偵が持ち帰った情報が書き記されている紙には袁紹が動き出す事と田豊が投獄された事が書かれていた。

司馬懿はふぅ、とため息を漏らし、紙を懐に戻した。

 

「袁紹さん、あなたはどうしてそこまで愚かなのですか? 田豊さんは才溢れる優秀な軍師。それを投獄し、どうして戦力を削ぐような真似をするのですか? 理解できません」

 

昔から愚かだとは思っていたが、さすがの司馬懿もここまでとは思わなかった。

投獄された理由も開戦に真っ当な理由で反対し、しつこく説得しようとするから、と信じられないような内容であった。

とても信じられない。しかし、これは好機だ。

厄介な田豊がいないのなら思いの外簡単に決着がつく。

司馬懿は不敵な笑みを浮かべた。

 

「袁紹さん、せいぜい足掻いてください。そうでないと面白くありません」

 

司馬懿は歩き出した。

微笑むような穏やかな顔をして、先ほどの不敵な笑みが嘘だったかのような顔をして、立ち去った。

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本当に、本当にお久しぶりです傀儡人形です。

なんやかんやで二か月近く投稿できなくて今に至ってしまいました。

ビックリしています、作者自身ほんと。

さて今回は新たなキャラを出しました。

仲間にはなりませんが、今後の重要なキャラの一人にしようと思っているキャラです。

楽しみに待っていただければ幸いです。

最後に長らく投稿できなくて楽しみにしてくれていた人がいたかわかりませんが、

本当にすみませんでした。

頑張って、投稿を続けていきたいと思いますので暖かな目で見守ってください。

では。

 

 

 

 

 

 

説明
どうも傀儡人形です。

かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください
オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください

書き方を試行錯誤しているのでおかしな箇所あります。
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