魂の還る星[ところ] 最終話(エピローグ)”魂の還る星[ところ]” |
エピローグ ”魂の還る((星|ところ))”
特異点
それは世界の向こう側にある世界
超えられない壁の先にある世界
還ってくることのできない世界
あらゆる事の矛盾した世界
希望と絶望の同じ世界
始りと終りの同じ世界
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そして
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全ての想いの叶う世界
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それなら
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それなら・・・
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僕の本当の願いは・・・
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その日、晃は夏の終わりの寂しい夕陽を背に受けながら姫屋に向けて帰路を漕いでいた
あの日、アリシアは何も話してくれなかった
親友の自分達にも、グランマにも、アリシアは何も話してくれなかった
あの時、アリシアはただ微笑んでいた
”だいじょうぶ、だいじょうぶ”
その微笑みはただ一言を語っていた
晃達はその微笑みの痛ましさに涙を堪えることが出来なかった
その時のアリシアの微笑みを思い出しながら晃は水路から視線を外した
そう・・・ここだった・・・
晩夏の夕陽が岸壁をオレンジ色に染めている
ここが初めてあの子に出会ったところ
あの日ここは初夏の真昼の日差しに眩しいほど白く照り返していた
しかし、今はもうそれは想い出
もう決して還ってこない想い出
夏の終りの弱り始めた日差しがいっそうその寂寥を強めていた
想い出を振り払い、前に向き直ろうとした時、晃の目が異質な光景を捉え驚愕に見開かれた
((消えていったもの|自分の為に生きられなかったもの))
晃は泣き笑いの涙を流しながら、自身の最高の力を込めて漕ぎ始めた
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アリシアは夕陽を背にARIAカンパニーのデッキでデジタルカメラの画像を眺めていた
あの日、セリオがアリシアを写した1枚の画像
それだけがセリオがアリシアの手元に残せた「一緒に居た証」だった
それ以外は全て消えてしまった、何もかも
平穏な日常を写した写真も、そしてあの別れを告げる手紙ですらも・・・
まるで「存在してはならない」と世界に否定されたように消えてしまった
そう思いながらアリシアは再び写真に目を落とした
セリオの作った白いゴンドラに立つアリシアの姿
その写真1枚とアリシア達に残された思い出だけがセリオがそこに居た証になってしまった
グランマは魂が抜けたようにそれを眺めるアリシアの後姿に目を伏せながら家路につこうとしていた
閑静な夕方の一時、ただ静かで寂しく悲しい夕暮れの一時が流れていく
その寂寥の空気を吹き飛ばす様に晃の声がARIAカンパニーに響いた
「アリシアー!土産だー!おでん種だぞ!鍋をだせーーー!」
アリシアはその唐突な大声よりも晃の声が明るい涙声なことに驚き席を立った
ARIAカンパニーのデッキに出たとき、晃は既にゴンドラを降り立っていた
デッキに立つ晃の腕に抱かれた姿を見たアリシアの瞳に涙が溢れ視界が滲んでいく
彼女はしばし声を殺して泣き続け、ようやく無理に笑みを浮かべて晃を出迎える冗句をかけた
「晃ちゃん・・・やっぱり拉致してきちゃったのね?」
「ああ、拉致してきたぞ!」
そういって晃は涙で顔をくしゃくしゃにしたまま少年の身体をアリシアに預けた
晃の手からセリオを受け取るアリシア
零れる涙がセリオの頬に雫と落ちる
眠るようにアリシアの胸に抱かれるセリオ
アリシアはセリオを抱き寄せるとそっと唇を重ねた
それは愛する者へのキス、目覚めの奇跡を起すキス
アリシアが唇を離したとき、セリオにはまだ微かな温もりの名残があった
彼女は物言わぬ寝顔を慈しむように撫でながら家族の還りを微笑で迎えた
「おかえり、ヱクセリオン」
魂の還る((星|ところ)) 完
説明 | ||
2007年6月「天野こずえ同盟」様にて初掲載、2009年4月「つちのこの里」様にて挿絵付き細部修正版掲載 | ||
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