紅き弐つの翼
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 幻想郷にある大きな館、名前は誰が付けたか知らないが、「紅魔館」って言う。そこにはいくつもの見所がある。庭園や外見もたぶん含まれると思う。けども、そこには人が住んでいる以上、見られたくない物もある。私が閉じこめられているこの部屋もたぶんその一つ。部屋はそこそこ広いはずの地下室だ。どれくらいの深さにあるのかは調べる方法がない。私はこの部屋を出たことがないのだから。

 私はかれこれ495年間この地下室に閉じこめられている。この部屋には正面にある大きな鉄の扉以外の出入り口はなく、その扉にはパチュリーによって何重もの魔法でのロックがかかっている。昔、解除できるのか試したけども、20個目のロックを解除したところであきらめた。実際に聞いてみたいと思ったこともあったが、私はこの館どころか、部屋の外にさえ出れない。だから、地上にある図書館にも顔を出す機会はなかった。

 さて、ある意味本題。なぜ、私が閉じこめられているのか。その理由は私の能力にある。

『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』

 すべての物体には『目』がある。簡単な話、ここを壊されると、物体は跡形もなく、粉々になる。確か外の世界の考えの一つでもあったはずだ。よく知らないが。

 私は手加減が出来ない。わからないのだ、なにもかも。

495年間閉じこめられ続け、外の世界にふれなかった私には。どれくらい弱めれば『手加減』なのか。それもはかれないほどに多くの時間が流れ去った。

 ある時、と言うかこの前。一人の人間に私は会った。それは『普通の魔法使い』……確か、霧雨魔理沙だったはず。博麗霊夢とか言っていたが、阿呆かと思った。その魔理沙との弾幕ごっこに私は勝てなかった。なぜ勝てなかったのか。能力は使わなかった。でも、それでも私の方が力が上だったはずだ。なのに、負けた。ただの人間ごときに。

 私はお姉さまから『欠陥』持ちの妹だと思われている。で、なければ。ここにこんなに閉じこめるはずない。絶対的に私は迷惑なのだ。だが、それにも確実ではない。自分は他人から見られた場合の考えも分からないが、自分の事さえ、分からない。それは今までの積み重ねではあっても、結局私は……。

 

 ナニモワカラナイ……。

 

 その気持ちは時間を重ねるたびに溜まり続け、答えも出ずままに私は495回目の春を迎えた。

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「妹様、はいりますよ」

 紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が扉を開け、私の部屋に入ってくる。私がいつも会える唯一の人間だ。

 咲夜は食事を置き、ベットのシーツを取り替えたところで、私に顔を向ける。

「妹様、最近、目に見えて食事を残していますが、それはなぜですか?」

「いいでしょ、別に」

 最近、と言うのは霧雨魔理沙がここにやってきて、私と弾幕ごっこをしたあたりからの事だ。

「私の作る食事が悪いなら言ってください。ただでさえ、妹様は食べる回数が少ないんですから。これ以上食べないと体に支障が……」

「……うるさいっ!」

 私は咲夜の言葉を遮り、叫ぶ。それと同時に咲夜の近くにあった花瓶が割れる。能力が無意識のうちに発動してしまったみたいだ。右手を握り閉めていた。中にはたぶん、花瓶の『目』があったと思う。

「……妹様?」

 咲夜が怯んだ様子で私に問いかける。

「……か……って」

「……?今なんて、」

「帰ってって言ったの!早くしてよ!」

 次はテーブルに置いてあったコップが割れ、中の液体が流れ出す。咲夜は動揺した様子で私の部屋を急ぎ足で出ていった。

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 咲夜が出ていった部屋で私はベットに飛び込む。なぜ、私はあんな事を言ってしまったのだろう。いや、気づいてはいる。なぜ私がこんなにいらいらしているか。

 さっきの話の続きだけど、私は魔理沙に負けた。初めての敗北だった。それのせいで私はいらいらしているのか?違う。そんな事ではない。そんなこと当たり前だが、495年間生きているのだ、そんな簡単に精神が壊れたりしあない。

 じゃ、なに。なにが私をこんなに苦しめるのか。なにか原因はあるのか。思いつくのは、お姉さまの事。私はお姉さまを困らせたくはない。でも、私は存在するだけで迷惑なのだから。それに加えて、原因となっているのは、何度も言うように。

 自分の心が分からない。心を動かすのがつらい。

 私の『心』と言う物は本当に面倒で、自分の事なのに制限できない事が多い。長い間の停滞時期のせいで『心』が錆び付いている。そして、動かそうとすれば、瞬く間に軋む。そして、いつかは壊れる。壊れたあとの事は想像したくないけども、今の心の軋む音も聞きたくない。

 なら、いっその事。死ねばいいんじゃないか?そうしてしまえば、何も言われることはない。考える事しなくてすむ。でも、私の中にはやっぱり出来ないとわかっていても願いたい事がある。それは「外に出てみたい」と言うこと。昔、1回だけ外に出たことがある。その時はかなり楽しかった。本当にうれしかったのだ。そのぶん、また閉じこめられた時さらにこの気持ちが高まった。そして、へこんだ。だから、まだ死にたくはなかった。

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 咲夜を追い出してから2日ほどたった。咲夜も来ないので、腹が減った。でも、自分の自業自得。なんとも言えない。

 部屋の隅でうずくまっていると、突然部屋の扉が勢いよく開いた。びく、としながらそちらを見るとそこにはお姉さまが立っていた。

「お、お姉さ……」

「フラン!どこにいるの?!」

 お姉さまは扉が邪魔で私が見えないらしい。私は自分からも見えるようにお姉さまの近くまで行った。

「フラン。ちょっといいかしら」

「な、なに」

 咲夜の事をとがめられるのだと思った。あの事については私がすべて悪い。仕方がないし、素直に起こられようと思う。だけど、お姉さまから出た言葉は予想外の言葉だった。

「あなた、魔理沙に負けたの?」

「え、あっ、うん」

 なぜ、今その話なのだろう。意味が分からない。

「そう……。まったくあの白黒は……」

 お姉さまが一息ついてから、私に話す。

「あのね。私、実はひとつ賭をしてたのよ。もし、フランが魔理沙に負けるような事があるならもう外に出してもいいんじゃないかって。でも、あの白黒があなたの部屋から帰ってきたときに行った言葉は『あー、負けた。なんだろう、これは』なのよ」

「……え。本当?私は魔理沙に負けたんだよ?」

 そういうと、お姉さまはさらに続ける。

「そう。私も最初はそう思ったの。魔理沙の服もぼろぼろだったし。でも、昨日本当に負けたのかって聞いたら勝ったって言うから訳が分からなくなって、とりあえずフランに聞いてみようと思ったのよ」

 ……なんか話が見えない。なぜ、魔理沙はそんなことを言ったのだろう。そして、魔理沙が勝ったのならこの牢獄から出られる事になぜつながる?

「あ……。ごめん、何のことか分からないわよね?」

「うん……、どういう事?」

 お姉さまがベットに腰をかけて話し始める。

「魔理沙は特に特別な才能を持ってない。ふつうの人間よ。普通ならフランが負けるはずがない。つまり、魔理沙が勝ったと言うことはつまり、あなたが手加減出来るって事。手加減が出来ない、つまり、自分を制御出来ないのでは外には出せない。しかし、魔理沙が勝った。それでなくともあまり怪我をしていない。これはすごい進歩よ」

「私が……手加減した?」

 信じられない、私はいつもと同じ感じで戦っているのに。

「ええ、そうよ」

「でも、だって、あり得ない。私は『欠陥』の吸血鬼……」

「そんな事を自分で言ったらだめよ」

 お姉さまが私の言葉を遮り、話す。

「自分で制御できる『欠陥』はすでに『才能』よ。私もこんなこと言ってはへこませてしまうけど、フランの能力や性格は『欠陥』だと思っていた。でも、もうそれは『才能』になっていた」

 お姉さまは区切りを入れながら、まるで自白するように話す。

「私もある『欠陥』を持っていた。それはフランを怖がってしまったこと。私の唯一の妹なのに、姉として何も努力をしようとしないで、フランを495年間を閉じこめてしまった。ごめんなさい」

「あっ……うん」

 私はなにげにお姉さまが謝るのを見たのは初めてかもしれない。

「これで引き分け、私にも『欠陥』があるのよ。これからはもっとフランの事を知りたい。フランはどうしたい?」

 私はずっと心の中にしまっていた願いを伝える。

「私は……外に出たい。もっといろんな事を知りたい、見てみたい。いままでの分を取り戻したい」

「そう……。なら、決まりね」

 お姉さまは私に近づくと私を抱きしめる。

「ごめんね、ずっと一人にして。これからはもう閉じこめないから。さすがにいきなり外には出せないけど……。それでも、分かることは多いと思うわ。これからがフランの本当のスタート。私もここからスタートだわ。だから、一緒にがんばりましょ」

「……うん!」

 そういって私は抱きしめ返した。

 

説明
レミリアとフランの「欠陥」をテーマに書きました。
自分の中ではそこそこ出来たんじゃないかと思ってます。
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