鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第9話〜11話
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〜バンエルティア号 空き部屋〜

 

『とあ!』

 

エステルが、紙に描いた錬成陣に気持ちを込めて押した。

 

だが、錬成陣の上に置かれたひび割れたグラスは、何の変化も起きなかった

 

『あれ?やっぱり何もおきないです。』

 

『錬成陣を押してどうする。錬成陣を』

 

エドが、横でエステルの錬金術を口出ししている

 

『えーと。質量や物質等はそろえたのですが……』

 

『物質を理解したか?質量を理解して錬金術の使う流れとかを理解したか?』

 

エドが一片に言った物だから、エステルは少し頭を悩ませた

 

『うーん……錬金術は難しいですね。』

 

『っじゃ、止めればいいんじゃねえの?』

 

『ちょっと…!そんな事言わないでください師匠!』

 

師匠と言われ、エドは頭を掻いた

 

『…その師匠っての止めろ。それに俺はただ独り言を言ってるだけだ』

 

その発言に、エステルは頬を膨らましていじけたが、

 

『…ところで、なんで基本の錬金術ってこの魔法陣が必要になるんです?』

 

『本来はその陣で物質のエネルギーや地殻変動のエネルギー等を地から引き出し、結果として錬成となるんだ。そしてこれは魔法陣じゃない。』

 

『そうなんですか。このような陣にそのような力が…。あれ?』

 

エステルが、エドの方を向いて

 

『でも、師匠が使っている錬金術は、この魔法陣を使わなくてもすぐに使えましたですよね?基本を超えたら、師匠のようにこの魔法陣無しですぐに錬成ができるのです?』

 

その質問をされて、エドは一度沈黙したが、

 

『……基本超えなくても、真理を見ればなれるかもな』

 

『真理?』

 

部屋の扉が開き、ユーリがエドに声をかける

 

『エド、アンジュがお前を呼んでるぞ』

 

その言葉に、エドは一瞬嫌な顔をする

 

『まーた…こき使う気かよ。今度は他の奴に頼んどいてくれ』

 

『いや、今度のクエストはお前じゃなきゃ達成ができないんだとさ』

 

その言葉を聞いて、エドはため息を吐いた。

 

しょーがない。と腰を上げてユーリの方に向かって行く

 

『え…?ちょっと待って下さい。ユーリ、もう少し後にはできないのですか?』

 

『後も何も、”今”アンジュが呼んでるんだから、後もくそも無えよ。』

 

そう言うと、エステルは少し寂しそうな顔になる

 

『帰って来るまで、もう少し本読んどいた方が良いぞ。あ、これ俺の独り言な』

 

その独り言で、質問や、何を、どこを何ページを見るのか、聞く事ができなくなった。

 

『もう!師匠!』

 

またエステルがいじけて頬をふくらませた。

 

そしてエドが後頭部に両手を置いて、部屋から離れていった。

 

『……。エステル、錬金術の調子はどうだ?』

 

『いえ、全然です。基礎はおろか、何の反応も何も掴めません。』

 

ユーリはエステルの事を心配しているようで、ただ現状の知らない所を聞くしかできないが

 

『あんまり無茶はすんなよ。エドから聞いたけどよ、錬金術って結構危険が大きいらしいぞ。』

 

エステルは、そんなユーリの忠告を効かないかのように、錬金術の本を読む

 

『ええ。相当なリスクは覚悟しています。そうでなければ、アドリビドムや、ユーリを守れませんから。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

エドが広場の方に足を入れて、

 

アンジュは、ユーリがエドを呼びに行ってくれた事を再認識し、安心した

 

だが、アンジュはここからが一番苦労する事かもしれない。

 

『おい、呼ばれて来たぜ。で、今回はどんな依頼が待ってんだ?』

 

エドは、何かしらやる気が多少あるようで、右手の拳が左手の平にパンチをして、気を高めている

 

とりあえず、少し騙すような感覚で、依頼を頼む事にした。

 

後が怖い事は分かってはいるが、何もしてこないよりはマシだから。

 

『今回は、ミントからの依頼でこのリングに”自然界の息吹”って言う力を込めてほしいの。』

 

『……ミント?誰だそいつ?』

 

『ああ、エドワード君はまだ会った事なかったね。』

 

すると、アンジュは隣に居る女性を示すように手を伸ばして

 

『この人が、今回、依頼したアドリビドムのメンバーのミントさんよ』

 

すると、その女性はエドに向かってお辞儀をした

 

『初めましてエドワードさん。昨日は、故郷に帰って物資を届けるお手伝いをしていましたので不在でしたが、貴方の事はアンジュさんからよく聞いていますよ。』

 

『へぇ、そりゃどうも。』

 

エドは、自分よりも依然から在中していたにも関わらず、昨日から見なかった為、複雑な気持ちだった

 

だからか、無愛想に返事をした

 

『エドワード君。初めて会った人の上に、アドリビドムのメンバーなのだからそんな態度は…』

 

『あー!分かった分かった!初めまして!錬金術師のエドワード・エルリックです!!よ!!』

 

子供扱いされてイラついたのか、また大ざっぱに、荒く自己紹介をした。

 

その光景を見て、ミントはクスリと笑った

 

『んで、このリングにその”自然界の息吹”とやらを注入してなにすんだ?』

 

『そのリングの力で、その息吹の力を撃てるようになって様々な場所の届かない場所やスイッチなどに役に立つ事ですかね。』

 

正直、つまらない能力だった。

 

『そんなもん、錬金術を使えば簡単に手の届かない場所でも取れるし、崖の向こうにあろうとも橋も作れれば一発じゃねえか。一体何の意味が』

 

『貴方一人が全ての依頼を受ける訳にもいかないでしょう?だからこのリングは他の人が使う大切な装飾品って事ね』

 

『くっだらねぇ………』

 

自分にあまり得の無いその依頼に、正直エドはげんなりした

 

『くだらないとは何よくだらないとは!折角私が死にそうな目に会ってまで探し続けたってのに!』

 

広場の椅子に座っていたアーチェが、エドに文句を言った

 

『んあ?誰だこいつ』

 

『ああ、この人もミントさんと一緒のアドリビドムのメンバーよ。彼女は昨日、このリングを探すのに苦労していたから…』

 

『まっ、そう言うわけ。つまり私の方が先輩だから、ちゃんと敬語使うようにねー。』

 

陽気にアーチェは笑い、

 

その態度に、エド少しまたイラっとして

 

『おい!!それが初対面の奴に言う態度かぁ!!コラァ!!』

 

『うわぁ、噂どおりに生意気なガキねぇ』

 

アーチェもムッっとした顔になり、エドを睨みつける

 

『ガキ言うな!!俺はエドワード!!エドワード・エルリックだ!!それ以外の呼称は拒否するからな!!』

 

『じゃぁ私の事はアーチェ。アーチェ様とお呼びなさい。』

 

エドとアーチェのメンチが激突して、火花が散っている。

 

最悪の初対面になってしまってから、アンジュが切り替えるように話を持ってきた。

 

『そっそれじゃぁ…今回の依頼の同行人を伝えるから。あんまり無茶はしないようにね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜オルタータ火山〜

 

『だぁあぁあ〜〜〜〜………あっちぃぃいいい…………・』

 

入って2秒でエドが弱音を吐いた

 

『情けないな。その程度で弱音を吐くなど』

 

ユージーンは、エドを一喝するように苦言を吐いた

 

『ていうか!お前とも初対面なのによくそんな勝手口ばかり言えるな!このギルドは!!』

 

『エドワード君。あまりそんなに頭に血を送らない方が良い。この場所ではその行為が危険となる可能性が高い』

 

『頭に血も上りたくもなるわ!!大体こんな全身毛がフサフサの着ぐるみ野郎の初対面と同行で、依頼場所がこのマグマだらけの地なんざぁなぁ!!知ってたら行かねえんだよ!!』

 

『上手くはめられたな。エドワード』

 

『るせぇ!!』

 

ユージーンの的確なツッコミに、エドは逆にイラつきを覚えた

 

『とにかく、今回の依頼で。エドワード、お前の力が必要になるのは確実なのは俺も承知している』

 

その真剣な言葉に、エドは少し調子が狂う

 

だが、この場所の暑さで、すぐにだるくなる

 

『あっちぃぃいいいい…………』

 

そのだらしない言葉に、ユージーンはまた溜め息を吐く

 

『全く』

 

あきれたその言葉に、ウィルも少しユージーンに同情した

 

だが、この火山の温度は確かに尋常でない温度が漂う。

 

その、問題のある場所に辿り着くまでにも、相当の時間がかかる

 

この暑さになれるのにも、相当な時間がかかるだろう

 

『ついたぞ』

 

その場所は、大きな扉がそびえたっていた

 

『あ?行き止まりじゃねえのか?』

 

『この扉を、今から開けるんだよ』

 

エドは、頭を傾げた

 

『開けるって……この扉、相当昔から使われてねえみてえだぞ。』

 

その言葉を聞いて、ユージーンは沈黙をする。

 

その後、ウィルが扉の近くの壁の下の方を見つめる

 

『あの穴を見てごらん』

 

そこの壁の下には、子供が通れそうなくらいの穴が開いていた

 

『あの穴は、この扉の向こうまで続いている』

 

ユージーンが、しれっとした表情でそう言った。

 

その言葉を聞いた時、エドはぴくりと眉を動かした

 

『…………ふうん?で?』

 

エドは、嫌みたらしく、ユージーンに睨みつける

 

『私とウィルでは、どちらもこのちい……穴をくぐるのは不可能だ。それで』

 

『………だから俺をここに連れてきた………てか』

 

『ああ』

 

エドは、火山の中の暑さだと知らずに、思いっきり叫んだ

 

『てめぇらぁあああああああああ!!!遠まわしな巧妙な嫌がらせじゃねえかぁあああああああ!!舐めとんかぁあああああ!!』

 

『エドワード。お前に選択の余地は無い。行け』

 

『やなこった!!大体この地帯が暑いのに、さらにこんな蒸し暑そうな所に行く義務など、俺には無い!!』

 

エドはそっぽを向いてしまったが。

 

ユージーンは武器を取り出し、エドにつきつける

 

『言っただろう?お前以外に適人が居ないと』

 

『ああ。観念するんだ。エドワード君。』

 

『通れ。通るんだ。不快じゃあない様に、アンジュは背の高い俺達を選んだのだからな。』

 

ぐいぐいと来る悪意に、エドはさらに頭に血が上りそうになる。

 

血を頭にあまり送らない方が良いと言ったのはどこのどいつだ。

 

『大体なぁ!!こんな扉、錬金術で穴さえ開ければぁなぁ!!!』

 

『この扉を変形する事は、禁じられている』

 

『なんでだぁああああああああああ!!』

 

エドワードの悲痛の叫びが、また辺りに響く

 

『この扉は、この場所を行く道を封じているのと同時に、この洞窟の柱の役目も果たしているのだ。』

 

ユージーンは、扉に手をかざし

 

『つまり、この扉に穴をあけたり、増して変形などを侵すと、一気にこの火山は崩れ落ちるだろう』

 

ごもっともな真実を告げられ、エドはさらに機嫌が悪くなる。

 

『ましてや、この扉は向こう側しか開かない。つまり、エドワード。お前が必要な理由は、この事だ』

 

ユージーンがはっきりとそう言った瞬間、エドは肩をガクリと落とす

 

ようやく、あきらめが付いたようだ

 

『てめぇら…覚えてろ……』

 

エドのその顔は、憎悪に満ちていた

 

ブツブツ言いながら、エドはその穴に入って行き、向こう側まで目指した

 

『うわぁ……暑い………。こりゃ蒸し風呂どころじゃ済まねえな……』

 

そう言いながら前に前に進んで行くと、ようやく光が見える場所まで辿り着く

 

『あーあ。全く身長が低いって損するばかりだ。とっとと元の身体に戻って、身長戻さねえとな』

 

身長が伸びないのはほとんど自分の責任の所が大きいが、

 

エドは自分を正当化して、身長が伸びない事を別の理由にしている

 

『よっと』

 

ようやく出口に辿り着くと、

 

身体を外に乗りだし、立ち上がる

 

目の前には、でかい魔物が立っていた。

 

エドとの距離は、約1メートルだった

 

『ぬぅわああああああああ!!』

 

エドの悲鳴で、ユージーン達は扉の方に近寄り

 

『エドワード!?何があった!!』

 

エドに向かって掛け声を上げる。

 

ユージーンの場所まで行き、扉を開けようと向かおうとしたが、

 

その場所は遠く、行くまでに魔物にブッ飛ばされそうだ。

 

さらに、魔物は扉の行く道を遮らせるように、その道を自身の口から出す炎で焼き、

 

足場を全てマグマの海に落とした

 

『ちっ!!』

 

これで、ユージーンに援助してもらう事はできない。

 

『おい!ネコ男!!扉までの道が崩れて開けれなくなった!!』

 

『なんだと!?』

 

『さらに目の前に魔物が居る!!』

 

それを聞いたユージーンは、歯切りをして、ギリギリ言わせた

 

『エドワード!!その穴からまた戻ってこい!!依頼は失敗だ!!アンジュに伝える!!』

 

エドワードは、手の甲を刃物に変えてから、扉に向かって

 

『戻らねえし失敗にしねえ!!この依頼は俺一人で十分!』

 

『ふざけるな!!そんな事をすればお前は…』

 

瞬間、扉の向こうから大きな音が聞こえた。

 

エドの方に居る大きな魔物が、エドに向かって地に拳を叩きつけたのだろう。

 

うぉっ!と声を出して避けたエドワードは、

 

『話してる暇は無えから、お前らはそこで待ってろ!』

 

『エドワード君!』

 

『大体なぁ!!騙してまでこんな場所にまで連れて来られて、身長の事を馬鹿にするように、こんな穴をくぐらされたりしたンだ!!そしてそのまま はい、できませんでしたで帰れるか!!』

 

エドは、手をパンと叩き、地を壁に錬成をした。

 

魔物がその壁に向かって叩き壊そうと拳を向けた瞬間、エドはその壁に乗り、魔物の後ろに回った。

 

『しかし…』

 

『黙ってろ!!ネコ男共がぁああああ!!』

 

エドは、地に槍を錬成し、その槍を魔物の後ろ側から思いっきりぶっ刺した。

 

槍は貫通し、魔物は串刺しになり、だんだんと力が尽きていくように失って行った。

 

『おらぁ!!』

 

あれほど大きな魔物は、最後にエドの一蹴りによってマグマの海に叩き落とされた。

 

『魔物は倒したぜ!!これで安心して任せられるだろ。』

 

エドがそう言うと、ユージーンはまた沈黙になりながらも、

 

しばらく時間が経ったら

 

『………。ふん、聞いていた通りに小さくて生意気なガキだな』

 

『小さっ………!!』

 

『だが、それに似合わぬ大きく強い能力と頭脳を持っている。聞いていた通りは伊達じゃないな』

 

そう言うと、ユージーンはその場に座り込んだ

 

『ユージーンさん?』

 

『行ってみろエドワード。一人で行けるものならな』

 

挑発するようにユージーンがそう言うと、エドは壁で隔てて見えない状態で、ユージーンに向かって舌をだした

 

『ふん。のぼせない内に帰った方が良いと思うけどな』

 

エドも、憎まれ口を叩いてユージーンの挑発に乗った

 

その後、クックックとユージーンは笑う

 

『ふん………想像以上に面白いガキだな。』

 

ユージーンは、普通なら動揺する、扉の向こうの状況を知って、楽しそうになっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

『ねぇアンジュ、どうしてあの生意気んぼをギルドの一員にしたのよ』

 

アーチェが不満そうにアンジュにそう告げた

 

『あら?性格を覗けば、彼はかなり使える人材よ。』

 

『その性格がその能力とかに影響してんじゃない?ていうか、本当に呪文無しでそんな魔法が使える奴だとは思えないけどね』

 

アンジュは、くすりと笑い

 

『それじゃぁ、実際にエドワード君に見せてもらったらどう?実物を見た方が納得するわよ。』

 

『うぅ…あの生意気なガキに下手に取られるのは嫌……』

 

そう、自分でも生意気な言葉を言ってる事に気づかず、ブツブツと不満事を言う

 

『うぅ……やっぱり火山の近くに行くと暑いわね〜。ちょっと研究室のクーラーに当たって来る……。』

 

そう言ってアーチェが研究室の扉を開けると、そこには筋肉質の男が立っていた

 

アーチェはすぐに扉を閉めた

 

さっきのは見間違いだ。自分はこの暑さで幻覚を見ているんだと言い聞かせ、もう一度扉を開けた

 

そこに居た、筋肉質のヒゲ男がこちらに気付いた

 

『おお、お初にお目にかかりま』

 

またすぐに扉を閉めた

 

『アンジュ!!あれはなんなの!?ヒゲで筋肉の……!!この部屋が暑い!!この部屋より確実に暑いわよ!!』

 

そう言ったら、アンジュも少し苦笑いの顔をした。

 

『ああ……その人は』

 

アーチェの後ろの研究室の扉が開く

 

『ぎゃあああああああああああああああああああ!!』

 

『お初にお目にかかります。我が輩の名前はアレックス・ルイ・アームストロングと言います。新しくこのアドリビドムに入りました故、以後、お見知りおきを』

 

アーチェが腰を抜かし、腕で全身を引きずるようにアンジュにすがり寄った

 

『くっ!来るなぁ!!』

 

『アーチェ。アレックスさんに失礼ですよ。』

 

ミントがアーチェに叱るように少しだけ険しい顔で告げた

 

『いやはや、この反応は軍でもう既に慣れておられます。』

 

軍以前の問題だと思う。

 

そうアンジュは思った。

 

そしてアーチェは、この部屋がサウナよりも熱くなっていくのを感じた。

 

まるで。あの筋肉質の男がストーブになっているように

 

『あ――――……』

 

リタが、のぼせた表情で部屋から出てきた

 

『あ、リタさ…』

 

『それじゃぁアレックスさん。また明日。』

 

そう言ってリタは思いっきり研究室の扉を閉めた

 

そして鍵を閉めた

 

その時のリタの顔は、解放感に巡り合えた時の笑顔に近い顔だった。

 

『自己紹介がまだ終わってませんでしたな。』

 

そう言って少佐は、改めて初目にかかる二人に自己紹介をした

 

『我が輩は、元の世界でエドワード・エルリックの上司をしていた国家錬金術師という者です。』

 

『エドワード・エルリック……』

 

アーチェが、復唱するようにそう言った。

 

その時、アーチェは 早く帰って来てエド と願った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜リングスポット〜

 

リングを握りしめているエドは、細い一本道を渡り、

 

また一つの奥に繋がる穴を通り、ようやく、人工的なオブジェに辿り着いた

 

『っと、これがそうだな』

 

きっと、これがその”自然界の息吹”に違い無いだろう。

 

しかし、名に”自然界”が付いているにも関わらず、人工的な物をプンプン臭わせる。

 

『えっと……かざせばいいのか?』

 

エドは、持っていたリングを生身の左腕の人差し指にはめ込んで、

 

その人差し指の背を、オブジェに向けて、力を入れるように傾ける

 

瞬間、リングがそのオブジェと共に光り出す

 

『うおっ!』

 

オブジェの球体から光を発し、その光がリングの中に入っていく。

 

だが、入ったのは一瞬だけで、後はすぐに消えてしまった

 

『これで…いいのか?』

 

そう思ってリングを見つめて見ると。

 

そのリングは、カタカタと震えだした

 

『!?』

 

その震えは次第に大きくなり、危険を察したエドは、リングをすぐに外し、

 

その場に投げて、リングから離れた

 

『なんだ!?』

 

その瞬間、リングについていた宝石に、ピシリとヒビが入る

 

そのヒビから、赤い光が漏れて、そのヒビから魔物の声が聞こえる

 

そして、リングは悲鳴をあげるように、弾けて割れた。

 

その時に、エドの上空から巨大な影がエドを覆った

 

嫌な予感がする

 

『…………』

 

おそるおそる見上げると、

 

そこには、漢字一文字で表せる、ある化け物が居た

 

『…………。龍……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜オルタータ火山〜

 

ユージーンが、未だに扉の前に座り、エドの帰りを待っている。

 

ウィルは、エドが入って行った穴に目を向け、そこからエドの帰りを待っている

 

『………本当に、彼一人で大丈夫だろうか。』

 

ウィルが心配そうにそう言うと、

 

ユージーンは、さほど気にしていない様に

 

『大丈夫だろう。エドワードは先程の扉の先の闘いのように、なかなか出来る男だ。心配はいるまい。』

 

『しかし、一人では……』

 

『どっちみち、ただリングに”自然界の息吹”を注入するだけの依頼だ。たとえこの地形とは言え、敵の討伐でない限り、倒れる事も死ぬ事の心配もいらんだろう。』

 

そう告げた瞬間、壁が急に光り出した

 

『ん?』

 

そして急に壁が爆発した。

 

『うわっ!!』

 

ウィルが、砂埃から目を守るように、手を顔で隠したが。

 

一瞬、薄眼を開けて、爆発の中の状況を見た。

 

そこに、見覚えのあるアンテナを見つける

 

『エドワード君!!』

 

『逃げろ!!ネコ男!!ウィル!!』

 

エドが二人の名前を読んだ瞬間、また再び壁が爆発した

 

『………なっ!!』

 

そこには、巨大な蛇のような、いや、麒麟のような。

 

龍が、自分たちを襲ってくるようにこちらに来ているからだ。

 

『うぉおおおおおおおおお!!』

 

すぐに二人はエドを追うように、龍から逃げていった

 

『エドワード!!あれは一体なんだ!!』

 

『知らねえ!!リングに”自然界の息吹”とやらを吹き込んだら、あんなのが指輪から出てきた!!』

 

『なんで指輪からあんな大きな魔物が出てくるんだ!!』

 

『知るかぁ!そんなことぉ!!!』

 

後ろで龍が、壁や魔物を破壊するようにこちらに向かってくる

 

三人は、最初に入口に入った時とは思えぬように全力で それ から逃げていた

 

あんな巨大な魔物に、今この状態で勝てるとは思える奴が一人も居なかったからだ。

 

『光だ!!』

 

『おおおおおおおおおおおおおお!!』

 

三人は全力疾走で火山の出口に向かった。

 

出口の光に包まれた瞬間、涼しい風が三人を包んだ

 

そして、光がやがて外の景色を映し出した瞬間、エド達は振り向く

 

あの巨大な竜が、まだ未だにこちらに向かってくるからだ。

 

無駄だとしても、必死にあがいて生きて見せると考えたのだろう。

 

エドは、錬成をする準備を完了させた。

 

そしてついに、龍が火山から出てきた

 

『!』

 

その龍は、火山から出てきたと思ったら、空に浮かび

 

果てしなく続く、青いそらの向こう側まで飛んで行った。

 

そして次第に小さくなり、そして消えた。

 

その龍が、どこに行ったのか、三人は分からない。

 

三人は、飛んで行った龍の方に気を取られて、見つめていた

 

しばらく見つめた後、一人、そしてまた一人言葉を出した

 

『………………』

 

『……………で?こんな時どうなんの?依頼』

 

『……失敗だろ。完全に』

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〜バンエルティア号〜

 

暑苦しい自己紹介を延々と言われ、時間が経ち、

 

ようやく解放された瞬間、アーチェはだらりとソファに戻った。

 

『は―――………本当に最近、変な奴ばかり入れてない?』

 

『個性的……って言うんじゃないかしら?』

 

『個性的って……ものすごい暑苦しい個性なんて私にははた迷惑な話よ』

 

アーチェは、ようやく去った一難に溜息を吐いて

 

『それにしても、あんなものすごいのが、ガキの上司って事は……エドって向こうの世界ではどんだけすごい奴なのよ』

 

『それほどの人が、アドリビドムに入っていただける事は、とても光栄な事ですね』

 

アーチェが、少しだけにやけて

 

『そうね、ちょっと良いように扱ったら、後々良い事が起こるかもしれないわね』

 

実際に、あの筋肉質大男から聞いた錬金術

 

その錬金術で、金も作る事が簡単に出来ると聞いた時は、その時は結構胸がはずんだ

 

『そうでしたら、エドワード君と仲良くしてあげてくださいね』

 

『分かった分かった♪』

 

上機嫌にアーチェが答えて、立ち上がった後、

 

その後に、あの三人は帰ってきた

 

すると、アーチェは笑顔で三人を迎えて

 

『おかえりなさーい!ごくろうさまー!暑い所で疲れたで…』

 

瞬間、エドワードの右ストレートがアーチェの頬にジャストミートした

 

アーチェはその反動で宙に浮き、そしてエドの向いている方の壁に向かい、そして激突した

 

『エッ……エドワード君……?』

 

そのエドの顔は、まるで般若のような怒りの顔だった

 

『ざぁぁぁあぁぁぁぁけぇえええんなぁあああああ!なんなんだよ!あれはぁあああ!!』

 

その怒りに、アーチェは混乱する

 

『はいぃ?!何よ一体!』

 

『とぼけんなぁ!!てめぇあの指輪ん中に何か変なのが出てきたんだぞぉおお!!』

 

『え?』

 

アンジュが、その言葉を聞いて一瞬、嫌な予感がした

 

ユージーンが、エドの代弁をするように、前に会った状況を述べた

 

『ソーサラーリングが、自然界の息吹の力を注入した途端、このようにリングが砕け』

 

ユージーンは、握っていた拳を開いた。

 

手のひらの中には、粉々になった指輪を見せた

 

『あ』

 

アーチェは、何かやばいような表情になり、汗を滝のように流す

 

『そして、その指輪の中から、龍のような魔物が現れ、私達を襲いました。』

 

最後に、伝えるべき事を伝えた後、アーチェは固まった

 

『アーチェ……?』

 

ミントが、心配そうに汗まみれのアーチェの顔をのぞく

 

アーチェは、その汗だらけの顔で無理に笑顔を作ろうとする

 

『これってまさか……召喚獣トラップの……』

 

アーチェは右手を後ろ頭に回し、引きつった笑顔で、三人を見た

 

『えと…あの……そのー………』

 

三人は、真剣な顔でアーチェの顔を見ている

 

その顔で、戸惑いながらも、開き直るように、満面の笑みで答えた

 

『い……いやぁ……これ……偽物掴まされちゃったみたいだぁ〜、ウッシャッシャッシャ〜…』

 

素直に罪を認め、謝罪するようにそう言った後、

 

その指輪は、砂となって消え、完全に空気と調和した。

 

その時、三人全員、同じ顔で

 

全員、目が死んでいる顔で、アーチェを見つめていた

 

『あ――――………』

 

アーチェは、それ以上言葉が出なかったようで、言い訳も何もできなかった

 

三人は、あー疲れたという仕草をして、それぞれ部屋に戻ろうとしていた

 

『さて、今回は結構ハードな仕事だったのでな、今日はもう休ませてもらうぞ』

 

『今回の場所は下手をすれば確実に死んでしまう場所だったからな、所々炎症や灰が体内に入った可能性があるな、医務室に行ってみるか。』

 

二人は、口調は穏やかだったものの、足取りがほとんど強引のような物であったため、

 

声をかけづらく、そのまま去って行った

 

その中で、エドだけが扉の前でただずーっと立っていたままだった

 

『エ…エドワード〜……』

 

『あああーあ!!疲れたなぁあああ!!なんか右ひざの調子が悪いなぁあああ!!機械鎧が少しだけ熱で変形しちまってるなぁああ!!ああ――――あ!!どうなるかなぁあああ!?こんだけ頑張ったんだから今日の報酬楽しみだなぁああああああ!!!』

 

バタン!!と、誰よりも大きい音で扉を閉めた。

 

そして、その場所に、また再び沈黙が流れた

 

沈黙の後、アーチェは涙目ですがるように二人に声をかけた

 

『ま……間違いなんて誰でもあるわよねぇ?偽物だって気付かないときだって、あってもいいわよねええ?』

 

アンジュとミントは、死んだ魚の眼でアーチェをずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号 廊下〜

 

先程の、壮大な無駄足をさせられてエドワードは、身体の底から噴努が湧きあがり、

 

ぶつけようの無い怒りが、エドのストレスを溜めさせた

 

『ああ〜〜〜!!!』

 

いつの間にか、地団駄を踏みながら移動していた

 

そもそも、偽物と調べずに行かせたのが悪い

 

さらに、謝る時のあの笑顔が、エドはかなり気に入らなかった

 

『あっ!師匠!』

 

エステルが、エドを見つけて声をかけた

 

だが、エドは苛立ちを隠せない表情でエステルを見た為、

 

その表情に、エステルは一瞬驚き、一歩後ろに退がる

 

『なんだ?』

 

『あの……その……やっぱり本を読んでも、あまり良く分からないので、その……』

 

エドは舌打ちをした後、

 

『今日は疲れた、また今度にしてくれ』

 

そう言って、自分の部屋に戻って行った。

 

エステルは、そのまま立ちつくしていたままだった。

 

『………』

 

何か、虚無感がその場所に残った。

 

『………もう少し、この本を読んでみましょうか………』

 

小さい声で、呟くようにそう言って部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノ部屋〜

 

まだ誰も帰って来て居ないこの部屋で、

 

エドはただ、その場所で、自分のベッドで佇んだ

 

『あ―――…』

 

時間が経てば、ようやく怒りが徐々に収まりつつあるが、

 

徐々に、虚無感が感じられるようになって来る。

 

『……………』

 

エドは一つ考え事をした。

 

何か、思い出す事があったような

 

ああ、そうだ。

 

エドは、一つ思いだした事があった。

 

あのバカでかい魔物から逃げていたときから、忘れていたが

 

『アル!』

 

はっと思い出したように起き上がる。

 

『わっ!』

 

偶然入ってきたカノンノは、エドと同じ音量で驚いた

 

『エッ…エド?どうしたの?』

 

『あ?いや……』

 

さすがに、弟を探すのを忘れていたとは言えない

 

『依頼は?』

 

『………あの野郎が根本的から間違えて、依頼をする前から依頼失敗だった』

 

そう愚痴った後、カノンノは苦笑いをした。

 

さすがに、それは酷いと感じたのだろう。カノンノはエドに少し同情の感情を出す

 

『お前もどうしたんだ?部屋に戻って来て』

 

『ああ……。私はちょっと、クロッキー帳がまた尽きちゃって、部屋に新しいのを取りに来たの』

 

そう言って、カノンノは、古いスケッチブックを大事そうに抱えたまま、新しいスケッチブックを引き出しから取り出した。

 

『?その使い終わったスケッチブックも持っていくのか?』

 

カノンノの手が、止まった

 

『…………』

 

『おい、カノンノ?』

 

しばらくの沈黙の後、カノンノは口を動かした

 

『うっ……うん……。ちょっと前の絵の続きみたいなもの。』

 

『?』

 

カノンノは何かを隠している。

 

そう言ってカノンノは、スケッチブック2冊を持ちだし、部屋から飛び出そうとした

 

だが、扉の前で固まり、立ちつくしている

 

『………ねぇエド』

 

『ん?』

 

エドが再びベッドに横になっている時、カノンノはエドに声をかける

 

『……私、前に描いた絵がどこかで本当に存在しているって、そんな言葉、信じてる?』

 

真剣な顔で、カノンノはエドに問いた

 

エドは、それを一瞥するように

 

『馬鹿馬鹿しい』と答える

 

『そっそうだよね。うん。きっとそうだよ』

 

カノンノは、笑顔で、安心したような顔でそう言った、

 

そして、部屋から出ていった

 

『………何だ?』

 

何か、隠しているのは分かる。

 

多分、自分の描いている絵が関係しているのだろう。

 

だが、何か嫌な予感がする。

 

エドの第6感が、何か危険信号を発しているような気がしたが、

 

『ま、いっか』

 

気のせいだ。と別に気にしなかった

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号 甲版〜

 

息を荒くして、屋外の甲版にまで全速力で走ったカノンノ。

 

まだ、この絵を描いた事を信じられなかった。

 

いや、信じたく無かった。

 

なのに、この世界が実際にあるように思える

 

『………なんで?』

 

その絵は、ある見た事も無い村の人達が、血だらけになり、

 

一つの生首が、土に半分埋められた槍に串刺しにされて

 

その生首が、私の方を見て

 

そして

 

『誰………?』

 

死体の上に

 

黒い影が、数人

 

真中に、宙に浮く石のような何かが存在している

 

色さえは、まだ分からない

 

見ているだけで、吐き気を及ぼしてしまう

 

どうして、私はこんな絵を描いたのだろう

 

『………いや……!』

 

カノンノは、その絵をビリビリに破き、海に捨てた。

 

その絵は、海水に溶け、そして小さくなり、消えた

 

カノンノの頭の中の人が、笑っている

 

黒い影が、笑っている

 

『………止めて!』

 

頭を振って、必死に否定をする

 

その笑いの中に、何か、観た事の無い憎悪が聞こえる。

 

その笑いの声は、一人だけなのに、

 

その声の中に、多くの人間の叫びが聞こえる

 

なんで、私の頭の中にこんな声が

 

『助けて……!』

 

周りが、だんだん暗くなってくる

 

そして、だんだんその光景がはっきり見えてくる。

 

まるで、自分がその場所に存在しているかのように

 

多くの人間の叫び

 

数人の黒い影の笑い

 

 

 

いつの間にか、カノンノは気絶していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

『赤い煙?』

 

茶髪の魔法剣使は、アンジュの前でその話を聞かされる

 

『ええ、最近その赤い煙の被害が酷いらしいの。吸った人は、異形の形となって、亡くなってしまうって…』

 

『ほーんと、興味深い煙ですこと』

 

ハロルドは、皮肉そうに言葉を付け加える

 

茶髪の魔法剣士は、手にあごを乗せ、考え事をしている仕草をする

 

『ふむ……』

 

しばらくの沈黙の後、茶髪の魔法剣士は、一つの提案を出す

 

『精霊に聞く、というのはどうだろうか』

 

『精霊?』

 

『精霊、ですか?』

 

アンジュとハロルドが、その魔法剣士の言葉に少し驚いていた

 

『ああ、この今の危険な状況の対処法は、精霊ならば何か存じているのかもしれん』

 

『でも精霊なんて、どうやって……』

 

『その辺ならば大丈夫だ。』

 

茶髪の剣士は、腕組をしてアンジュに伝える

 

『ミブナの里、その里は精霊と関わりあっている。その里に行けば、何か情報を得られる可能性がある』

 

『精霊と関わりあう里…ですか?』

 

『ああ、だがその里は忍びの者が住む里だ。一般の者には見つかりにくい場所にある』

 

『はぁ……』

 

その言葉に、ハロルドは興味しんしんだった

 

『なになに?面白そう!』

 

『ミブナの里の近くに、唯一忍びと交流ある村がある。そこから入る事はできるが』

 

『二人、護衛役が必要かしら?』

 

アンジュが、少しの冗談の気持ちで問いた

 

ハロルドが、笑顔でクラトスを見つめる

 

『ふむ。確かに一人で行くよりは複数で行動した方が得な場合があるかもしれん』

 

少し考えた後、少し意外な答えが返ってきた。

 

この人は、ほとんど一人で行動する事も多く、まさか忍びの里に行くのに仲間を連れていくとは思えなかったからだ。

 

『はいはい!私やりたい!私やるわよ!』

 

ハロルドが、まるで子供のように

 

『ハっ…ハロルドさん……』

 

『それでは、ではあと一人ほど、募集を頼む』

 

『そうですか。』

 

アンジュは、茶髪の剣士に要望を聞いた後、

 

『そう言えばあんた、最近新しく入った人が居る事を聞いてる?』

 

『新人か』

 

『ええ、錬金術っていう魔法のようなものなんだけど、どんな物質も変形したりして、武器を作ったり、床から壁を作ったりする事を魔法力無しで使いまくれるすんごいチビ……人なのよ』

 

ハロルドがエドの自慢をすると、茶髪の魔法剣士は

 

『ほう、そいつは使えそうだ』

 

『あ、あの…クラトスさん?』

 

ハロルドが、不気味に笑う

 

クラトスは、アンジュに要望を言う

 

『そのエドワードとやらは、途中で役に立つかも知れん。その者に、この依頼を勧めてくれんか?』

 

アンジュは、『あー……』と声を出した。

 

人選をするという事は、この人にとっては珍しい事なのだが、

 

肝心のエドワード君は、この依頼を受けてくれるかどうかわからなかった。

 

それは、依頼の内容では無く……

 

『良いか?』

 

『え?あっ。はい……まぁ………』

 

ハロルドは、また不気味に輝く笑顔で、クックックと声を出して笑っていた

 

『楽しみねぇ……。さて、私は準備でもしてこようかしら』

 

ハロルドが、陽気なテンションで研究室に向かった

 

『…………』

 

アンジュは、また不安が重なるように、少し蒼い顔になった

 

『エドワードか……魔力なしで魔法とやらを使うとは、どのような者だろう』

 

茶髪の魔法剣士が、興味深そうにエドワードを想像していた

 

『……………はぁ』

 

エドワードが、このギルドを確実に嫌なイメージとして捕らえているのが、まるで

 

今、目の前にあるように分かった。

 

アンジュは、エドの事を心の中で謝罪した

-3ページ-

〜バンエルティア号〜

 

依頼が決まって1時間後、

 

また今日も、エドの叫びが船内に響く

 

『ざっけんなあななんあななああああああああああああああ!!!!』

 

それは、噴怒と恐怖が混ざった色をしていた

 

エドの顔は青い、そして赤い

 

合わせて紫色だった

 

『いい加減にしやがれ!!てめぇこれは明らかに悪意があるだろうがぁ!!アンジュコラァ!!!』

 

エドが、アンジュの前の教卓に両手を叩きつける

 

だが、アンジュはエドの顔を見ていなかった

 

『こっち向けコラァァアアア!!!』

 

『いい加減にしろ、エドワード』

 

横に居た茶髪の魔法剣士がエドを子供のように扱う

 

今度は茶色の剣使が、アンジュに向かって話しをする

 

『それにしてもアンジュ、話しに聞いていたが、まだこいつは子供じゃないのか?本当に任せても大丈夫か?』

 

『誰が子供だぁ!!クォラ!!』

 

エドが、茶髪の魔法剣士を睨みつける

 

『そうよ。エドワード君はこう見ても、本当にほとんどノーモーションで錬成出来るんだから♪』

 

ハロルドが、御機嫌そうにそう言った

 

その様子を見たエドワードが、さらに鳥肌を立たせる

 

『エドワード。本当に大丈夫なんだろうな?』

 

『大丈夫。  …じゃない!!』

 

エドは、大きな声で拒否した

 

『俺はさっきまで溶岩の流れる火山の中で歩いてたんだ!!そして巨大な魔物に追いかけられて……!!』

 

茶髪の魔法剣士は、その言葉を聞いて、一つ納得した

 

『なるほど、それほどの元気があるのなら大丈夫だな』

 

その大きな声で、エドの体調と体力を把握した

 

『なっ………てめっ!』

 

『火山の中を歩きまわって、まだ2時間もしていない内でそんなに体力があるならば、大した者だ。』

 

『…………ざっっっけんな!!』

 

ほとんどおちょくられた事に腹を立て、茶髪の剣士に反発する

 

『大体なぁ!錬金術なら少佐にだって使えるんだ!!俺じゃ無くて少佐を連れて依頼をこなせばいいだろうがぁああああ!!』

 

『私達が依頼で行く所は忍びの住む里だ。あのような目立つ巨体の者を連れていけば、忍びの者は確実に警戒し、間違いなく襲ってくるだろう。だから背も余り高くない者をつれていく方が利口だ』

 

『なっ……背……高くな……ちっ………』

 

『それに、その者は今依頼に出かけているのだろう?』

 

アンジュは、依頼の挟んだファイルを取り出し、パラパラと今、行っている依頼の紙に目を通す

 

『はい、アレックスさんは今、森に潜む魔物を500体退治の依頼をたった一人で出かけました。』

 

『ほう、それはなかなか勇敢な男だ』

 

茶髪の魔法剣士は、納得する

 

『というわけだ、なぁに、ただ付いて来るだけで良い依頼だ。そんなに苦労はしないだろう』

 

エドは、じっとりした視線で、ハロルドの方にゆっくりと視線を向ける

 

『あきらめなさいよぉ。エ・ド・ワ・ア・ド・君♪』

 

『だ――――――――――――――!!!!』

 

ハロルドのその不気味な笑いで、エドはさらに恐怖を感じた

 

『それから、私の名前はクラトス。それ以外の呼称は遠慮をしてくれ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ブラウニー坑道〜

 

『ねぇねぇエドワアドくぅん。ちょっとこの壁を錬金術で復元してみなさいよぉ。』

 

ハロルドのその要求ばかり言うその口に、エドはほとんど嫌気を刺していた

 

それも大体普通に出来る事ばかり言ってくるので、余計に性質が悪い

 

『ねぇねぇエドワアドくぅん♪』

 

『うが―――――!!触るな!!』

 

抱きついて来るハロルドに、エドは両の手を使ってほどくようにハロルドの腕を掴み、その腕を上にあげた

 

だが、ハロルドは目を光らせ、黒い笑顔になり、勝負するようにさらに力を入れた

 

そうはさせまいとエドは思いっきりふんばり、押し返すようにハロルドの腕を掴む

 

『ふっふっふっふっふ』

 

『グググウオオオオオオオ』

 

何か格闘をしているようにも見えるその光景に、クラトスは何も動じないように二人に声をかける

 

『遊んでいると置いていくぞ』

 

その声で、二人残される恐怖を感じたエドは、手を放し思いっきり全速力でクラトスの方へ走り寄る

 

だが、さらに早いスピードでハロルドが軽い走りで追いかけてくる

 

『きゃあああああああああ!!』

 

その化け物のような光景に、エドは絶叫した

 

その後、押し倒すように背中に体当たりをして、エドは床に蹲った

 

倒れたエドの背中に、ハロルドが乗る

 

うげ、と鈍い声が響く

 

『これじゃぁ、立ち上がるには錬金術を使うしかないわねぇ』

 

挑発的なその発言に、エドはついに苛立ち

 

『舐めんな!!』

 

そう叫び、うねるように身体を動かし、飛ぶようにして体制を整えた

 

『あらら、結構いい動きするわねぇ。魔術っぽい物使うくせに』

 

『生憎、小さいときから地獄のような修業させられたんでね』

 

だが、まだハロルドに恐怖を感じ、じりじりとエドが後ろ退がるようにハロルドを見ながら移動していた

 

『そうか、信用してるぞエドワード』

 

『というかよぉ、この状況を俺はお前を信用してなんとかしてもらいてえんだけど』

 

皮肉そうにそう言うと、クラトスはやれやれと溜息を吐く

 

『ミブナの里までには、そのじゃれあいを止めておけ。派手な行動をすれば、攻撃されかねん』

 

ハロルドにそう言うが、ハロルドは反省の色無しだった

 

『うぅ〜ん。でもねぇ、エドワードちゃんがまた可愛くなっちゃったら、また襲っちゃうかもねえ。』

 

エドが、小さな悲鳴を上げながら、両の手で腕を持ち、悪寒を防ぐようにしている

 

そして、ガタガタ震えていた

 

『…なぜそんなにエドワードに突っかかる。』

 

『だって、見てみなさいよ。こんな小さな子に、私の知らない面白い事実が沢山詰まってるのよ?それに子供っぽい性格とか、アンテナを身長に入れたりしたりとか。もう一つは、まだ小さい年なのに特殊な義手を付けている事かしらね』

 

『義手?』

 

クラトスは、エドの右腕を掴んだ

 

『なっ…なんだよ!』

 

その感触は、確かに鋼、そのものだった

 

その腕を、クラトスはじっと見つめる

 

『エドワード、お前も結構苦労をしていたのだな』

 

そうクラトスは笑顔になったが、その笑顔は何か悲しさを感じる

 

腕を放し、クラトスは前へと進む

 

『行くぞ、ミブナの里までもうすぐだ』

 

クラトスはそう言って、先頭へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて、

 

『そういえばクラトス、ミブナの里って忍びの里なんだよな?』

 

エドが、一つ思いだすように言う

 

『ん?ああそうだが』

 

『じゃぁ、そんな所見つけ出すなんてほとんど不可能に近いんじゃないか?』

 

エドがそう言うと、ハロルドも突っかかるように割り込む

 

『そうそう、そう言えば私も気になってたわ』

 

クラトスが、しばらく間を空けた後、口を開く

 

『確かに、ミブナの里は一般の者には見つかりにくい場所にある』

 

『あんたは分かんのか?』

 

『ミブナの里の近くに、忍びと交流する村がある、私はそこから来た』

 

ふぅん、とエドは相槌を打つ

 

『だが、今はウリズン王国がミブナの星晶を狙っている』

 

『ウリズン王国?』

 

『サレという男が居る所よ』

 

あーあー、とエドは思いだした

 

『あの弱っちい俺を勧誘してきた奴ね』

 

その言葉を聞いて、クラトスはエドの顔を見た

 

『ウリズン王国の者に勧誘されたのか?』

 

『ん?ああ。まぁ断ったけどな。』

 

『まぁまぁ、そう言う所が可愛いわねぇ』

 

そう言って、エドの頭を撫でるハロルド

 

そして嫌な顔をするエドワード

 

『………今は少し後悔しているけどな』

 

『勧誘された、というならばこの後厄介だ。また出会う事になる可能性は高い。十分に警戒しておけ。』

 

クラトスは、忠告をエドに言い放つ

 

だがエドは、あんな奴らに警戒しておいても、何も問題は無えんじゃねえのと考えていた

 

だから、あまりその忠告は気にしては居なかった

 

そして話が終わり、辿り着いた場所は

 

『行き止まりじゃねえか』

 

『行き止まりじゃん』

 

二人の声が重なった

 

その場所は、同じ色をした色が全面塗られているような部屋だ。

 

いや、どこまでも続いていた模様が、この場所で一周回って折り返し地点にまで来たような部屋だ

 

『どうすんだよこれ、また引き返すのか?』

 

クラトスは、表情を変えずに返事をする

 

『言っただろう。一般の者には分かりにくい場所に存在すると』

 

そう言うと、クラトスは一つのヒビの穴に剣を差しこんだ

 

すると、カチリという音がした

 

『おっ!』

 

エドが、面白そうな声で言葉を発する

 

そして、一部の壁が床に沈むように動き出す

 

『へぇ、こんな構造になっているのか』

 

『忍びの作った隠し通路って事ね。お目にかかれて光栄だわ』

 

だが、床に沈むのも今のうちで、

 

途中で何かに引っ掛かったように、その壁は止まった

 

『ん?』

 

疑問に感じたクラトスは、さらに剣をヒビの穴に突っ込む。

 

すると、今度は上に上がっていく

 

また穴に突っ込む

 

また、途中で引っ掛かる

 

また穴に突っ込む

 

また、途中で引っ掛かる

 

『………………』

 

クラトスが、動きを止めた

 

だが、こちらの方を見てくれなかった

 

『故障しているみたいね』

 

他人言のように、ハロルドは言った

 

『さて、どうしたものか………』

 

クラトスが、考え事をするポーズをとる

 

おっ とハロルドは声を出し、期待の眼差しでエドワーどを見つめる

 

その視線が、エドワーどを不愉快にさせる

 

『…………はぁーあ』

 

エドが、溜息を吐いた後、扉の方に近づき

 

『こんな時こそ、俺の出番ってのが、悲しいなぁ』

 

そう言って手をパンと叩き、

 

その壁に手をかざすと、その壁は発光した。

 

光に包まれた壁は変形して、他の扉へと変化した

 

その扉は、所々角が生えており、

 

扉の上には鋭い目、そして口には牙、その中に扉がある構成だった

 

『……………』

 

そのデザインのセンスにクラトスは絶句したが、ハロルドは

 

『そうそう!これよこれ!やっぱすぱーっとやってのけちゃうの!』

 

目の前で使った錬金術に、感動さえ覚えていた

 

『まぁ、確かに便利な能力だな』

 

『お褒めの言葉、どうも』

 

そう言って、特に気にしないように扉を開けて、エドは先に行った。

 

『………だが、魔術よりも複雑な流れを使っている。使いこなす程に、どこまで………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん?なんだこれ』

 

エドが、洞窟に落ちていた一枚の紙切れを拾う

 

『どうした?エドワード』

 

『いや、なんか宗教とかなんかと、のチラシ』

 

持っていた布教のチラシをクラトスに渡す

 

『まぁ、こんな人の居ない所にまで布教なんて、ご苦労なこったねぇ』

 

だが、エドが気にしているのはそう言う事では無かった

 

『なんで隠し通路の中、しかも故障中の壁の奥にこんな紙切れがあるんだ?』

 

ハロルドが、はっとしたように気づく

 

『そういえばそうね、なかなか頭良いわね。こんなちっちゃいのに』

 

『身長と頭のキレは関係ねぇだろ!!』

 

反発するようにエドは叫ぶ、

 

『そうねぇ、やっぱりエドワードちゃんは小さいその中にいろんな多くな物がいっぱい詰まって……ふふふ……』

 

墓穴を掘った気がした

 

こいつとはやっぱりあまり関わりたくない

 

『暁の従者……ディセンダーの出現を待つ集団か』

 

『ディセンダー?』

 

エドワードは、そのディセンダーの存在をクラトスに問いた

 

『世界の危機が訪れた時に現れると言われている、おとぎ話の架空の人物だ』

 

『くっだらねえな。』

 

エドがビリビリにその紙を破く

 

『なんでこう、宗教信じてる人って、こんなぶっ飛んでる思考の野郎が多いのかね。』

 

『宗教は、自らが不幸を感じた時すがりつける唯一最後の蔓のような物だ。故に弱い者が集まりやすい』

 

エドは、前に出会ったペテン師の宗教団体の事を思い出す

 

『一番上の教祖とか首領とか信じ切っている奴が居るから、その教祖とやらが調子乗ったりするんだろうな』

 

『まるで見た事あるような言い方だな。』

 

まあね、とエドワードは言い放つ

 

『結局、誰が強くて変な術とか使って神とか名乗ろうが、結局は人間、神様に近づく事なんか微塵も出来ねえよ』

 

『まぁ私は科学者だし、神様信じてないけど』

 

『俺は神様なんてもんは居ようが、どうでも良いけどな。』

 

破いた紙の上を通り過ぎると、一人の女性の叫び声が聞こえた

 

『わー!待て!コラ――――!!』

 

その声に気付き、エドは後ろの頭に回していた手を前に戻す

 

『なんだ?今の声』

 

クラトスは、その声を聞いて形相を変えた

 

『あの声は………』

 

クラトスは、急に全速で走りだす

 

『わっ…!おい!!』

 

『何か異様な気配が流れている 先を急ぐぞ!』

 

『だからって、急に走り出すんじゃねえよ!』

 

ハロルドとエドは、クラトスを追いかける形で駆けていく

 

ドン!!

 

『うわっ!』

 

クラトスが向かっている方向で、大きな物音がした

 

さらに、どこか焦げ臭い臭いが

 

『………火?』

 

クラトスが、ぼそりと呟くように口を動かす

 

『この先、火を使う魔物が居る可能性がある、十分の注意を払え!』

 

『火!?勘弁してくれ!!』

 

前に火山の中に居たと言うのに、

 

さらに前は、砂漠の中で魔物を捨てに行ったというのに

 

またあのクソ熱い体験をするのは、もうごめんだ

 

クラトスの脚が、また一段と早くなる

 

『もうすぐだ!!』

 

そして、少しの間走る

 

そして辿り着いた先には

 

『…………な』

 

そこには、大きな灰と瓦礫が転がっていた

 

『なに?うわぁ……これは酷いわね……』

 

その無残な光景に、ハロルドは口元を押さえ、空気を少し遮断するようにしている

 

すると、その破片は徐々に空気のように消えていった

 

『あら?』

 

その奇妙な光景に、ハロルドは疑問を感じる

 

『人工精霊だな』

 

『人工精霊?』

 

その中で。エドワード一人、ずっと黙って灰を見ていた

 

『……………?』

 

『エドワード?どうした?』

 

『あ……いや、なんでもない』

 

この焦げ跡、どこかで見た事があるような……

 

そう考えている時に、後ろから声をかけられた

 

『クラトスだったのかい!久しぶりだねえ、』

 

『しいな、お前だったのか』

 

『え?何?知りあい?』

 

エドは、この状況に少しだけ置いていかれていた

 

『まぁ、以前仲間だった。と言うところか』

 

『それよりも、この人工精霊っていうのは一体なんなのよ?』

 

話を遮断するように、ハロルドが割って入ってきた

 

『ああ、そいつはあたしが『光気丹術』で作ったものなんだけど』

 

『俺達が来た時には、もうすでに居なくなっていたが』

 

そう言うと、しいなは驚いた顔をした

 

『え!?じゃぁこのありさまを出したのはあんたじゃないのかい?』

 

『はぁ?どういう事だ』

 

『いや、こんなものすごい焦げ跡ってさ、何か、こう、クラトスがパワーアップとかしたのかな、とか思っちゃってさ』

 

どうやら、しいなは何か誤解をしていたようだ

 

『まぁいい、精霊と話がしたい。会わせてはくれないか?』

 

『ミブナの里の精霊にかい?前は精霊と交流があったけど、今は居ないよ』

 

『え?』

 

『ミブナの里周辺の星晶が採取され始めてから、いなくなったんだ』

 

その言葉を聞いたエドワードは、膝から崩れ落ちた

 

『はぁあああああああ。また無駄足かよぉおおおおおおおおおお』

 

大きなため息を吐くように、エドは四つん這いのポーズで落ち込んだ

 

『ところで、この小さい子は誰だい?』

 

エドの眉が、ピクリと動く

 

『誰が豆ん子ドチビか――――――――――!!!!』

 

『わぁ!!』

 

いきなり起き上がったエドに、しいなは驚いた表情をした。

 

だが、エドよりはるかに背が高いクラトスに背中を持たれ、

 

足が地面から離れて、エドは動けようにも動けない状態に宙ずりになった

 

それでも、キーキーと腕を振りまわしている

 

『落ちつけ、』

 

クラトスは、ただエドワードにそう言った。

 

『それで、人工精霊を作ったのは、その星晶を盗られるのを防ぐためか?』

 

『おいコラ女!!てめぇ後で絶対落とし前は付けさせるからなぁああ!!』

 

『ああ、それもあるけど、一番はあいつらが入って来れないようにするためだね』

 

『無視すんじゃねえコラァ!!タイマンだ!!チビっつった落とし前を今つけてくれる!!』

 

『でも難しくて駄目だったねぇ、あたしなりの解釈してたんだけど、あのざまさ』

 

『聞いてんのかぁあああ!!灰色女ぁあああああああ!!』

 

『ちょっとうるさいねあんた!!黙ってなさいよ!!』

 

二人の怒りが、二人の視点に重なる焦点に火花を散らしていた

 

『つまり、精霊への接触は無理って事ね。どうする?引き返す?エドワードちゃん?』

 

宙ずりにされているエドの顔を、舐めるようにハロルドは目の前で見つめていた

 

『下ろせ!!クラトス下ろせコラ!!いやお願いします!下ろしてください!!』

 

この何もできない状態で、嫌な奴が近づく事の恐怖をさらに感じた

 

人間に顔をうずくまれている猫の気持ちがよく分かった気がする

 

『ったく、今日は二つも無駄足な依頼をされて、厄日だ畜生』

 

『そうだな、悪い事をした』

 

依頼主であるクラトスも、エドワードに少し罪悪感を感じた

 

『引き返そう。ちゃんと報酬は払うから安心しろ』

 

『へいへい』

 

エドが、いじけるように帰る準備をすると

 

『ちょっと待ちなよ、あんたが精霊を頼るって事は余程の事なんだろ?』

 

クラトスは、振りかえり

 

『ああ……まぁそう言う事だな』

 

『ミブナの里に精霊は居ないけど…他の地域に居る精霊になら何か分かるかもしれないよ。里に文献があるから、あとでギルドに届けに行くよ』

 

それを聞いたエドは

 

『なんでもありだな。本当に』

 

『そうか、それは助かる』

 

その時、しいなは少し恥ずかしそうにもじもじした

 

『あのさ………それで、お願いがあるんだけどさ………』

 

『ん?』

 

クラトスが、疑問の声でしいなに聞く

 

『私が召喚した人工精霊……実はまだもう一匹いるんだ………』

 

瞬間、エドワードはものすごい偏見な顔をした

 

『そうか、それは大変だな』

 

『だからさ……その……止めてきてくれないかなぁ?どこに居るのかさっぱりわからないし、外に出られても困るしさぁ。』

 

エドワードの堪忍袋の緒が切れた

 

『ざっけんなぁ!!いい加減にしやがれっっってんだ―――――!!』

 

しいなが、面倒くさそうにエドの方に向いて

 

『何だい?別にあんたなんかに頼んじゃいないだろう。』

 

『じゃねえんだよ!!俺達の依頼はクラトスの同行!!強制的に連れていかれるんだよ!!ボケェ!!』

 

クラトスは、少し考えた後

 

『まぁ、そうなるな。』

 

『俺は嫌だぞ!!なんで俺達がこいつの尻ぬぐいをしなくちゃいけねえんだ!!』

 

ハロルドは、嬉しそうな顔でエドの肩に手を置き

 

『私は行くわよ?人工精霊っていうのも結構興味深いじゃない?』

 

エドは、ギッと振りむき

 

『だったら俺はなおさら行かねぇ!!』

 

『そんな事言わずに行きましょうよぉ。錬金術と言い、知りたい事は私はいっぱいあるんだから〜♪』

 

『やだ!!俺には関係ない!!』

 

『村とか被害が起こったら大変じゃないのぉ?』

 

『そもそも責任はこいつに全部あるだろうが!!俺は関係ない!!』

 

『そういえば今、身長が伸びる薬を開発しているのよね』

 

エドは、皆の方に向かず、あさっての方向へ走って行った。

 

『何やってんだ!!早く見つけて処分しに行くぞ!!外に出たら大変だろうがぁ!!』

 

先頭に走っていくエドの背中を見て、しいなは確信を得た

 

『あいつ……使いやすいわね。』

 

そしてやる気満々で人工精霊を見つけるように探し回って追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、2分後に状況はひっくり返った

 

巨大な人工精霊に追いかけられ、エド達は必死の力で駆け足で逃げているのだ

 

『ぎゃああああああああああああああああ!!!』

 

人工精霊は、エド達を食べようと大きな口を開かせている

 

『ざけんな!!あんなにでかいとは聞いてねえぞぉおおお!!』

 

『あたしだって知らなかったよ!!召喚した時にはもうどこか去ってたんだからさ!!』

 

『お前本当にだらしねえ女だな!!』

 

『なんだとぉ!このチビ助!!』

 

『ドジ!!』

 

『チビ!!』

 

『ドジ!!』

 

『チビ!!』

 

クラトスが、二人の間に入る

 

『恥話喧嘩はそこまでだ、今はあの魔物をどうにかする事を考えろ』

 

全員一緒に走っている時、エドワードは息を荒くしながらも答える

 

『考えてんよ!あんなでかい奴をどうやって片付けるかをな!!誰かさんのな!!』

 

嫌味ったらしくエドは返答した。

 

そして、今度はエドは真剣な顔になり、両手を目の前に出し

 

『できるか?』

 

『一か八か』

 

そして手を叩いた瞬間、後ろに振り向いた

 

『!!あんた何やって』

 

床に手を置き、錬成反応を床が起こした後、床が盛り上がり、壁となった。

 

『!?』

 

ほとんどノーモーションで、何の道具も使わないその術に、しいなは驚きを隠せなかった

 

瞬間、人工精霊はその壁に激突し、そしてその壁にもヒビが入る

 

人工精霊とはいえ、そこまでは力が強くないようだ。

 

『よし!これで少しは引き離せる!!』

 

そう言ってエドはまた走り出す

 

『ためげたねぇ…。あんたあんな魔術を道具も使わずノーモーションで使えたのかい。』

 

『魔術じゃねえ!!錬金術!!』

 

そう言ってエドは、全速力である部屋へと向かった

 

そして後ろの壁が崩れ、こちらへと向かってくる

 

『ちょっと!!壊れたよ!!どうすんだい!!』

 

『間にあうぜ。』

 

エドはそう言ったが、また壁を作って出口まで向かうのか、

 

だが、その予想とは違った。

 

ある、広い部屋で、どこから入ってきたのか、ハロルドがそこに居た

 

『エドワードちゃん♪材料はこんなもんで良いかしら?』

 

そこには、鉱山と鉄クズが集まっていた。

 

『あんた、さっきまで私達と一緒に居たよね?』

 

『逃げ脚だけは得意だからね』

 

ハロルドは自信満々に答えた

 

『サンキュー!ケバ女!!』

 

そう言ってエドは、また両手を合わせ、鉄クズと鉱山をある物に錬成した

 

『うわ!!』

 

錬成した物は、鬼と言っても良いくらいの角と牙をモチーフにした大砲だった。

 

一瞬で大砲が出てきた事に、しいなは疑問を感じたが、

 

それはまた、デザインセンスは悪かった

 

『うわ――――………』

 

『ぶっとべぇえええええええ!!!』

 

大砲に火を付けると、大砲の中の弾は発射され、

 

その人工精霊にぶつかり、人工精霊はぶつかった反動で、

 

その場で倒れ込んだ

 

『っしゃぁ!!』

 

しいなは、さっきまで生意気で何でここに居るのか分からないガキだと思っていたが、

 

先程のエドの能力で、それのほとんどが撤回された

 

『あんた……その錬金術ってのは何物なんだい?』

 

そのすぐになんでも出す能力に興味を持ったしいなだが、

 

しかし

 

『教えてやんねえ!』

 

エドはまだしいなの事を怒っており、何一つ教えようとは思っていなかった

 

『!エドワード!』

 

クラトスがエドに言葉を送る。

 

向こうで倒れていた人工精霊は、また起き上がろうとして言うのだ

 

『マジかよ、随分タフだなぁ。』

 

そう言ってまた大砲に弾を詰めようとしたが、

 

今度は急に、人工精霊の走る速さが早くなっていた

 

『でぇ!?』

 

その速さは想定外だったらしく、エドは驚いてしまう

 

『おい!早くできないのかい!?』

 

『待ってろよ!せかすな!!』

 

だが、間にあわない

 

そう感じ、もう大砲は諦め、エドは機械鎧を刃物に変えた

 

『!? なんだいその腕!』

 

それは、腕が腕でない、鋼の腕となっていて、しかもそこから刃物が出てきた物だから、

 

しいなは、一瞬その腕にみとれていた

 

『来るぞ!!構えろ!!』

 

そうして、ついに目の前にまで来た。

 

その瞬間、火柱が人工精霊を襲った

 

『なっ……』

 

火柱に包まれた人工精霊は、一瞬で消し炭と化し、

 

空気となって消えていった

 

その火柱には、どこか見覚えがあった

 

そう、思い出したくない何かが

 

『なんだい…?今の火柱……』

 

『どこかの魔術師とかじゃないかしら?』

 

二人がそう話している時、どこからか声が聞こえる

 

『いや、これは錬金術という物だ。』

 

『!?』

 

三人は、少し警戒するように辺りを見渡した。

 

エドは、うげぇえという顔である方向を見ていた

 

『おおこれは。奇遇だな、鋼の。借りはこれでまた一つ、重なっていくぞ』

 

軍服を来た童顔の男が、こちらに歩み寄ってくる

 

『エドワード、お前の知り合いか?』

 

『知りあい?じゃねえ!!』

 

エドは、全力で否定をした

 

『いや、知り合いではあるだろう。私は上司で、君は部下だ』

 

『うるせぇ!!この世界ではそんなもん通じねえ!!』

 

全力で否定するエドワードに、三人は少し疑問を感じる

 

『なぁ、さっきの火柱が錬金術って……』

 

『ええ。私も国家錬金術師です。』

 

『ほう、ではエドワード君と同じですか』

 

『同じじゃねえやい!!』

 

軍服の男は、しいなとハロルドの方に顔を向き

 

急にキリっとした顔になる

 

『やぁ、美しいお嬢様方。こんな危ない所でうろうろしていては危ないですよ。綺麗な顔が汚れてしまう。』

 

『『は?』』

 

二人の声が重なる

 

『よければ、この場所から離れた美しいカフェでお茶をごちそうしましょうか?勿論、食事も全て私が持ちます。』

 

しいなが、頭を掻いて機嫌が悪い顔になる

 

『あーあ。なんか嫌な奴思いだすわね。こいつ』

 

はっはっは、と全く軍服の男は動じていない。

 

そして、笑っていた。その笑いが、エドは大嫌いだ

 

『先程は助けて頂いて、ありがとうございました。お礼を兼ねて、私達のギルドにまで招待したいのですが』

 

『はぁああああああ!?』

 

エドの悲鳴が響く、

 

さらに、しいながなんか気に入らない顔をする

 

『てめぇ……クラトス……ふざけんな……!!この………!!』

 

エドの不機嫌は爆発寸前だった。

 

だが、クラトスは何も動じていない

 

『そうですね。私も行く場所がございませんし。お言葉に甘えて招待されましょう。』

 

『待て待て待て待て待て!!ざけんな!俺は絶対嫌だぞ!!』

 

『命を助けて者だ、礼ぐらいは当然だろう』

 

『が―――――!!嫌だ!!俺はぜ・っ・た・い!!嫌だ!!!』

 

ハロルドは、しばらく考えた後

 

『私は別に良いわよ。錬金術で火を操れるって、結構興味深いじゃない?』

 

エドが、威嚇するように軍服の男とハロルドを見ている

 

『ところで、貴方方のお名前を教え貰ってもよろしいでしょうか?』

 

クラトスは、軍服の男に一礼をした。

 

その光景が、エドは不愉快でたまらなかった

 

『そうですね。私の名前はロイ・マスタング。そしてもう一つの名は、』

 

マスタングは錬成陣の描かれた手袋を見せるように、右手で服の襟を直した

 

『焔の錬金術師です。覚えておいてください。』

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