鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第20話〜21話
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〜バンエルティア号〜

 

アンジュに依頼の説明をされた三人

 

その三人の中、二人の絶叫が船内に届いた

 

『『ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』』

 

完全なる否定の絶叫を叫んだ後、大いなる抗議が始まった

 

『てめぇアンジュコラァァアアア!!!俺に恨みがあるんだろ!?あの乳母車の事なんだろ!?それは自業自得じゃボケがぁああ!!』

 

『乳母車の話は止めて』

 

『私は嫌よ!あんなキザ男とこんなチビと一緒に依頼をこなすなんて!』

 

『小娘ぇ…移動中、背中に気を付けな……いつでもどこかの誰かが狙ってるぜ……!!』

 

リタの抗議に、エドは顔に血管が浮き出て、瞳孔が開き気味の表情をする

 

『とにかく、もう決まったのは決まっちゃったのよ。他の人も忙しいし。皆は実力があるから、大丈夫だと思うけど…』

 

リタがわなわな震え、糸口を探すように頭をフル回転させる。

 

そして、ある出口の糸口を見つける

 

『実力の問題じゃないわ!ああそうだ!!私、あの赤い煙のドクメント変形に関する真実を掴みとる為にまだ研究中なのよ!!』

 

『それなら大丈夫よ〜。後は私がやるから、別に貴方は要らないわ』

 

研究室の扉から、ハロルドが顔を出す

 

リタはそのハロルドを眉のつり上がった怒りと嫌悪が合わさった表情で睨みつけた

 

『俺も!今日は弟子に錬金術を教え込む予定が詰まってんだよ!』

 

『エステルなら、たった今ユーリと一緒にゴーレムの討伐に行ったわよ』

 

研究室の扉から、ハロルドが微笑む

 

エドはそのハロルドを眉のつり上がった怒りと嫌悪が合わさった表情で睨みつけた

 

『とにかく嫌だ!い―や―だ―――!!大佐だけでも嫌なのに、この小娘とセットで挑むなんてなぁ!巨大な便所掃除をした方がまだ万倍もマシだ!!』

 

『私も嫌だ!あの黒髪のキザ野郎と同行するだけでも嫌なのに、こんのチビとも一緒に付いて来るなんて、拷問以外の何物でもないわ!!』

 

二人がぎゃーぎゃーと文句を言っている中、マスタングだけが平静な態度を保っていた。

 

『マスタングさんも、やっぱり嫌でしょうか?』

 

アンジュが、少し寂しい感じでマスタングに語りかけた。

 

その言葉の、マスタングの反応は

 

『そうですね。私の周りに子供しか居ないというのは、少しだけ屈辱的な感じがありますけれども』

 

子供扱いされている事に気付いたエドとリタは、同じタイミングでピクリと眉を動かす。

 

『何より、この依頼はアドリビドムのリーダーである貴方がわざわざ用意してくれた御依頼です。そんな依頼を断る者の事など、私には分かりませんよ。』

 

はははと笑うマスタングの姿に、アンジュは安堵な表情になり、笑顔になる

 

『そうですか。それは良かったです。お身体に気を付けて、頑張って下さいね。』

 

『ええ。貴方の為ならば、いくらでも』

 

笑いあっている二人を見て、リタとエドの二人は不穏と噴怒と殺意が湧いた表情で睨みつける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルマナック遺跡〜

 

『はぁー。またこんな所に来る事になるとは、思ってもみなかったぜ』

 

グチグチと愚痴を言っているエドに、リタはいらつき、マスタングは聞こえないかのように平然としている

 

『それにしても人を探せって言っていたけれど、”黒い髪の剣使”ってだけで、どう探せってのよ。』

 

リタも、エドと同じグチグチと文句を言っていた。

 

だが、相変わらずマスタングは平然とした態度を取っていた

 

『文句を言う暇があるのならば、この依頼を終える事に目を向けたらどうだ?』

 

『うるせー!!てめぇはどうって事無えだろうけどなぁ!俺はこの依頼に不満しか無えんだよ!!』

 

『苦の無い仕事は意味が無い。依頼にしても、苦労という物は必ずしも存在するのだよ』

 

『そのしれっとした説明を止めなさいよ!ムカムカしてくるわ!!』

 

世界一仲の悪いメンバーは、鋭い刃が漂うような雰囲気が漂っていた。

 

その雰囲気を察したのか、ほとんどの魔物はエド達を避けるように移動していた。

 

『それにしても、この遺跡には魔物が少ないのだな』

 

『以前、性質の悪い宗教団体が拠点してやがったから、その名残があるんじゃねえの?』

 

愚痴っぽく答えたエドは、そのまま早歩きで前に進んだ

 

そして、二人と一定の距離を保った後、振り向き、

 

手を下に向け、エドの足元と二人の足元を差し、大声で言った

 

『良いか!こっからそこまで!絶対にこれ以上俺に近づくんじゃねえぞ!分かったなぁ!!』

 

そう言ったエドは、そのまま返事を待たずに、前に進んで行った。

 

そこから普通のペースで歩いたため、その距離からほとんど前に進めず、

 

『ちょっとこらぁ!!もっと早く歩きなさいよ!!』

 

『うるせぇえええ!!徒歩くらい俺のペースで歩かせろぉお!!』

 

『あーあーそうですか!!あんた背が小さいから早く歩けないのねぇ!!分かりました分かりましたよ!!』

 

背が小さいと言われ、エドは瞬時に振り向き、リタの方へ駆け寄る

 

『だぁぁぁあああああれが短足ドチビかぁああああああああ!!!』

 

いきなり自分のルールを破ってきたエドに、リタも容赦はしなかった

 

『かかってきなさいよぉおおおおおおお!!!』

 

リタもエドの方へ駆け寄り、エドはリタに向かって機械の方の腕を振りあげる。

 

リタも負けじと、その腕を掴み、もう一つの手でエドの頬を抓る

 

『うぐぐぐぐうぐぐぐぐ!!!』

 

エドも、もう一つの手でリタの頬を抓る

 

『ぐぐぐががぐぐ!!』

 

リタは、エドの空いた腹に蹴りを入れる

 

だが、それではエドは動じず、エドも負けじとリタの右脚めがけて蹴りを入れる

 

『ひはいははいほほ!!(痛いじゃないのよ!!)』

 

『ふふへー!ひひっへいっははふばひゅひょうふんはへー!!(うるせー!チビって言った奴が主張すんじゃねー!!)』

 

まるで子供の喧嘩のような光景に、マスタングは何も言わずにそのまま通り過ぎた

 

エドの頬を抓る手の握力が強くなる。

 

リタの頬を抓る手の握力が強くなる。

 

ぐぐぐ……と怒りの表情の顔がお互い徐々に近づいて行く瞬間、

 

エドとリタの真横の壁が、大きな音と共に崩れた。

 

その大きな音と共に、二人とも抓る握力が死んだが、

 

ずっとその爆発の方を見ていた

 

『てめぇらぁ……。騎士団…いやギルドの連中かぁ……?』

 

大男が、二人を見下すかのように、大きな斧を持って崩れた壁の向こう側に立っていた

 

エドは、思いっきり抓っている手を思いっきり引き、そしてリタの頬から離れた

 

『痛っ』

 

思いっきり引っ張られた頬は、赤く変色していた。

 

リタはその赤く変色した頬を抑えながら、涙目になっている目の涙をぬぐい取った

 

『そういうアンタは、何者だ?』

 

『俺かぁ?ションベンチビらすんじゃねえぞ?俺の名前は知る人ぞ知る。ガガリア・バーンズだ』

 

ガガリア?

 

『聞いた事ないね。』

 

エドはそう言い捨てたが、リタはそうはいかず、その名前を聞いて驚いていた

 

『ガガリアって……あの殺人指名手配犯じゃないの!』

 

『殺人?』

 

そのリタの反応に満足したのか、大男は笑いだした

 

『はーははは!!嬉しいねぇ!そうさ!俺は12人、人殺した!極悪人中の極悪人だぁ!!!』

 

高笑いする男に、エドの反応は

 

『ふ―――ん』

 

という、呆気ない反応だった

 

『ああん?てめぇこの状況分かってんのかぁ?俺は殺人指名手配犯。お前らは、ただのガキ。はぁん?』

 

男の顔が、だんだんやばい顔になってきている

 

だが、エドは何も動じない

 

『殺人犯と手合わせなんざ、これが初めてじゃ無いんでね。別にそんなに驚きもしねえよ』

 

その反応に、男は不愉快に感じたのか

 

怒りを露わにして、エドに襲いかかった

 

『だったらぁ!!後悔しやがれば良い!!殺人犯を舐めた事をなぁああああ!!!』

 

大きな斧を振るい、エドを真っ二つにしようとしていたが、

 

パン!と手を叩く音と共に、その斧を真剣しらは取りをした。

 

瞬間、斧が発光して、バネの先にアンテナのついた人形の顔が舌を出している子供のおもちゃのようになった

 

『なっ……なんだぁ!!こりゃぁああ!!!』

 

そのわけの分からぬ光景に、大男はひっくり返った。

 

『てめぇも、俺らのような子供を舐めてっと痛い目を見る上に後悔すっぞ。今』

 

そう言って、エドは右手の拳を、左手の手のひらに思いっきり叩き、挑発的な態度を取る

 

『ちっ……!だったらなぁ……』

 

男は、リタの方に目を向ける

 

『まずはてめぇからだ!!小娘ぇええええ!!!』

 

そう言って男は、腰につけていた小刀を持ち、リタに襲いかかる。

 

リタは、腰に入っていた薬品を手に取り、男に吹きつけた

 

瞬間、男の顔が真っ赤になる

 

『ぎゃぁああああああああああ!!目が!!目がぁあああああ!!』

 

その隙を付いたのか、エドは男に突っかかり

 

『オラァ!!』

 

『ゴブ!!』

 

男を空中で浮いた状態で回し蹴りを食らわし、男は向こうの壁へ吹っ飛ばされる

 

その間、リタは呪文を唱えており、男が立ち上がろうとした瞬間、呪文が終わる

 

『て……てめぇら……』

 

『ファイヤーボール!!』

 

火の弾が、男の方へと向かい飛んでくる

 

『ぎゃっ…ぎゃぁあああああああああ!!!!』

 

男は火ダルマと化し、その場で転げ回った。

 

エドが天井を錬成で崩し、瓦礫が男の上に覆いかぶさる

 

『あんた、それはやり過ぎじゃないの?』

 

『こんなもんで死なないだろ。こいつはよ』

 

そう言って、エドは火が完全に沈下しているのを見て、瓦礫をどかした。

 

そして、男の顔を見つけた。白目を向いて、泡を吹いている

 

『うん。生きてる生きてる』

 

男の生存確認をした瞬間、エドは瓦礫を元の場所に戻し、また再び大男は瓦礫で隠れてしまった

 

『さて、…大佐はどこに行きやがった?』

 

『逃げたんじゃないの?あんの甲斐性無し男』

 

愚痴を言いながら廊下の向こうを見ると、そこには闇が広がっていた。

 

それに変わらず、男が壊した壁の向こうには、大きな部屋に繋がっていた

 

『まさか、こんな所で殺人犯に出くわすとわなぁ。』

 

エドは皮肉にそう言うと、男が入ってきた部屋に入る。その部屋は、少し異様な臭いが漂っていた

 

『これは、人探しって所じゃ無いわね』

 

『そうだな。剣士っつうならこの殺人犯を討伐に来てるはずだし。勝手にすれば帰ってくると思うんだけどなあ。』

 

逆に、何故こんな人探しの依頼をしてきたのかが分からなかった。

 

以前、リカルドを探しに行った時、最悪の結果を招いてしまった。

 

また、そのような事が無ければ良いのだが

 

『あそこに何かありそうね』

 

リタが指を差した先は、どこかがずれている壁だった。

 

それは、回転式の扉が、半開きになっているような状態。

 

バレバレな隠し扉となっていた

 

『……まぁ、罠って事も無さそうだしな。行ってみっか。』

 

エドは承諾して、その壁の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルマナック遺跡 広場〜

 

『もう逃げ場はない。大人しく投降しろ』

 

黒い髪の青年が、複数の大男に向かって一瞥する

 

だが、複数の大男は笑う

 

『はっ?てめぇが投降しやがれ。この状況で、何面白い事を言ってやがる?』

 

『てめぇ、女見てえなナリしやがってよぉ。この怖いおじさんたちに勝てると思ってんのかぁ?あん?』

 

複数の大男は、その青年を見下すように、馬鹿にするように言う

 

だが、青年は何も動じず、そのまま立ちつくしていた

 

『ふん。痛い目に見ないと分からないみたいだな。』

 

その言葉を言った瞬間、鞘から剣を抜き、複数の男たちを睨みつける

 

『安心しろ、お前らの行く収監所には、腕の良い眼科医と脳外科医の医者が居る場所にしてやる』

 

その言葉に、大男たちは完全に青年に敵意を見せた

 

『てめぇなぁ……面白い事言ってると思ってるだろうが、それは面白くないぞ……?』

 

『そうか。ならば腕の良い耳鼻科の医者も紹介しよう』

 

その言葉で、男たちに堪忍袋の緒が切れた

 

『やっちまえ!!お前ら!!!』

 

大きな歓声と共に、たった一人の青年に襲いかかる大男たち。

 

だが、青年は剣を振ろうとしない。

 

男が、青年の腕を掴もうとした瞬間、目が開いた。

 

リオンは、剣を大きく振り、必ず刃の方にぶつからないよう、剣の腹で大男たちを殴りつけた

 

『ぐほぉ!!』

 

大男たちは、大きな音を立てて吹っ飛んで、壁にぶつかった

 

複数の者は気絶したが、複数の者は怒りが倍増した

 

『こんの……クソガキャァアアアア!!!!』

 

『頭を使った方がいいぞ』

 

青年は再び剣の腹を構え、男たちをぶっ飛ばす準備をした。

 

だが、今度はそうは行かなかった

 

ガッ!!

 

『!』

 

一人の指名手配犯は魔法使いであったらしく、地中が大きく盛り上がる

 

『グレイブ!!』

 

盛りあがった地は、青年を大きく持ちあげ、青年は足場を崩してしまい、

 

『くそっ』

 

空中に放り投げられる事になった。

 

下には、大男が待ち構えている。

 

『なかなかやるようだな』

 

青年は、剣を強く握り返し、大きく振りおろす。

 

全て剣の腹で攻撃をしたが、一人目の斧使いに止められてしまう

 

『ちっ』

 

青年は、地に足を付けた瞬間、立ちなおし、地を大きく蹴る

 

『ぐおおお!!』

 

また再び剣の腹で殴ると、複数は吹っ飛ぶ

 

そして、また複数はしぶとく立ち上がる

 

『無駄な抵抗を……』

 

リオンが、皮肉るようにそう言うと、

 

大男たちは笑い、そして指を差す

 

『地獄を見るのは、てめぇだよ!!』

 

『アイスニードル!!』

 

氷で造られた槍が、青年の方へと目指して移動する

 

その槍は、全て青年によって切り刻まれる

 

『この程度か』

 

そう吐き捨てたが、魔法使いの男は、まだ笑っている

 

『?』

 

すると、壁の方から氷の槍が付き出る、

 

『なっ…』

 

その氷の槍は、壁越しからマントに突き刺さり、リオンは身動きが取れなくなる

 

『もらったぁああああああああ!!!!!』

 

大男たちは歓喜の声を上げて、青年の方へと向かって行った。

 

『くそっ』

 

青年は、マントを引き剥がそうとするが、氷の槍が深く刺さり、なかなか取れない。

 

大男が今にもこちらに来る。

 

と思った矢先、パチンという弾ける音がした

 

その音と共に、火柱が倒れたかのように、大きな炎が大男たちを包んだ

 

『があああああああああああああああ!!!!』

 

火柱が無くなった時には、男たちはすでに真っ黒に焦げていた

 

『………何だこれは』

 

青年が不服にそう言うと、向こうの扉から、一人の男性が現れた

 

『おい、さっきの魔法を使ったのはお前か。余計な事をしてくれたもんだ。』

 

『ごきげんよう。貴方がアンジュさんの言っていたリオン、という好青年ですね』

 

リオンという言葉を聞き、青年はピクリと反応する

 

『誰だ?お前は』

 

リオンのその質問に、大佐は体制と襟を整え、身だしなみを終えた所、その質問に答えた

 

『私ですか。私の名前は、ロイ・マスタング。アドリビドムの見習いです。以後、お見知りおきを』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルマナック遺跡 裏口〜

 

『う……ここもなんだか血なまくせぇな……』

 

エドが、その場所に血臭いを感じ、嫌な感じをさせた

 

『それくらいは当然じゃない?ここには殺人指名手配犯が居た。どこからも血の臭いがしてもおかしくはないじゃない』

 

そう、エドをバカにするように話している時に、壁の横を見た。

 

そこには、人骨が存在した

 

『いや――――!!人骨!!人骨嫌ぁああ―――――!!』

 

そう言って、叫びながらエドにしがみつくリタ。

 

そのしがみついてくるリタに、エドは嫌気が真っ先に来た

 

『うが――――!!俺に触るなぁあああああ!!!!』

 

払いのけると、リタはバランスを崩し、床に倒れこんでしまった。

 

人骨が存在する床に

 

『うぎゃぁあああああああああああああ!!!』

 

蜘蛛の巣と割れた人骨の屑が、リタの服に付き、リタは大きな声で叫んだ

 

さらに、その蜘蛛の巣には主が居たらしく、リタの肩には10センチほどの蜘蛛が居た

 

『やぁあ――――!!蜘蛛!蜘蛛!!取って取って!!!』

 

『うわぁ!!こっち来んじゃねえ!!気色悪い!!』

 

その蜘蛛の模様が、うごうごと毒々しい色で、リタが倒れた事でどこかが潰れたのか、緑色の汁がリタの肩に垂れていた

 

その光景に、エドはリタから離れるように、思いっきり全力で走って逃げた

 

『あっ!!ちょっと待ってよ!この蜘蛛取ってよ!!ねぇ!!』

 

自分の手で取れないのか、蜘蛛を取る事をエドに頼るリタは、逃げるエドを追いかける

 

だが、追いかけてくる事を知ったエドは、さらにスピードを上げる

 

『うわああああああ!!こっち来んじゃねえええええええええええ!!!!』

 

エドは、肩にグロテスクな蜘蛛を乗っけてきたリタから逃げ、叫びながら走り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルマナック遺跡〜

 

マスタングは、マントに刺さっていた氷の槍を引き抜いているリオンを見つめ、ただ立っていた

 

『……何を見ている』

 

『いえ、これで私がたも依頼は終わりなのでね』

 

マスタングは、ふぅと溜息を吐くと、リオンは、そのマスタングから視線を逸らす

 

『悪いが、僕はまだ帰るつもりは無い。まだ終わっていないのだからな』

 

『そうですか。いえ私は貴方の所在地が分かれば、それで十分だ。どうぞそのまま続けてくれたまえ。終わり次第、アドリビドムへ連れていく』

 

そのしれっとした態度が気に入らなかったのか、リオンはその後、返事もしなかった

 

『おや?マントがボロボロになってしまっていますよ?』

 

『さっき攻撃を受けたからな』

 

リオンがそう言うと、マスタングはまたリオンに声をかける

 

『今回来た同行人で、貴方のマントを一瞬で直せる術師が居るが、良かったら紹介するか?』

 

『僕に借りを作ろうとしているのなら、お断りだ』

 

その瞬間、向こうの扉が重い音を立てて開きだす

 

そこから、一人の女性が立っていた

 

『あ……アネゴ……!』

 

気絶していたはずの奴が、その女性に助けを求める

 

『全く情けないね。私達指名手配犯が集まった団体だってのに、そこのヒョロヒョロな男二人にやられちまうなんざ』

 

ポインテールの赤髪、モミアゲの毛は長く、顔立ちは整っている。

 

身体は細いが、大きな胸が、服を圧迫しているように見えた

 

『お前か…。ガルバンゾ国大多発テロの首謀者。マリア・ジャッカス』

 

リオンが、敵意のある表情でマリアを見つめる

 

『なんて事だ。犯罪者でなければ、デートの約束まで漕ぎつけたかったのに。』

 

ロイが、皮肉るように、ものすごく残念そうに片手で半分顔を覆い、そう言った

 

『ふん。国のギルドの野郎が何回来ようが、私は捕まらないよ!!』

 

その瞬間、マリアは爆薬の付いたクナイをマスタングに投げつけた。

 

だが、マスタングはクナイが自分の方に着た瞬間、人差し指と中指でつまみ、投げ返した

 

『ちっ!』

 

だが、マリアは軽い身でそのクナイから離れ、さらに多くのクナイをマスタングとリオンに投げつける

 

『やれやれ、女性に指を向ける趣味は無いのだがね。』

 

そう言って、マスタングは指パッチンで錬成をした。

 

大きな酸素と発火物を、クナイにぶつけその場で爆発させた。

 

その瞬間、大きな煙がその場に散った

 

『お前、ノーモーションで術が使えるのか』

 

『まぁ、術は術でも錬金術という代物ですが』

 

その大きな煙の中、また再びクナイが飛んでくる

 

『ふん』

 

マスタングが、またそのクナイを発火させようとしたが、今度はそうはいかなかった。

 

『っとと』

 

マスタングは、そのクナイを軽く避け、クナイは壁に刺さり、

 

クナイの先からは、蛍光色の液体が流れた

 

『あんな物を私の身体に入れようとしたのかね?』

 

『…よく気付いたな』

 

マリアが、舌打ち交じりでそう返事した

 

『私も、出来る事なら貴方に危害を加えたくないので、投降してくだされば嬉しいのですが』

 

『ふざけんな!どうせ捕まっても見せものにされて殺されるだけだ!!ならばこの場でお前らを殺して、此処で死んだ方がマシだ!!』

 

どうやら、どうしても話は通じないようだ。

 

そう感じたマスタングは、手をポケットに突っ込み、攻撃態勢を止めた

 

『……どういうつもりだい?』

 

『どうするも何も、もう疲れましたよ。私の手で、貴方を攻撃するのは止めます』

 

その言葉を聞いたリオンは、再び剣を握りなおし

 

『やっと邪魔をしないでくれるか』

 

『私の助けのおかげで、無傷で済んだのでは?』

 

『ああ、全く無用だった』

 

そうして、リオンは剣を握り、戦闘態勢に入る

 

『舐めんなよ!!このクソギルド共がぁあああ!!!』

 

瞬間、女の後ろの壁の一部が発光した。

 

『!?』

 

女が振り向くと、そこには見覚えの無い扉が現れた

 

その扉から、一人の金髪の少年が突っ込んできた

 

『ああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

さらに、もう一人茶髪の蜘蛛の巣が引っ掛かっている女の子が現れた

 

そこで二人は、その場で倒れ込んだ

 

『……なんだ、お前らは』

 

だが、エドはマリアを無視してリタの方に振り向く

 

『しつけえんだよてめぇ!!嫌っつってんのに走って追いかけてくんな!!』

 

『ふざけんじゃないわよ!!あんな気持ち悪い蜘蛛くらいちゃんと取りなさいよ!!』

 

『しるかボケェ!!てめぇがただ手で払えば良いだけじゃねえかぁ!!』

 

『触れるわけないでしょ!!あんな気持ち悪い蜘蛛!!』

 

二人の睨みあいが始まる

 

その光景を見たリオンは、溜息を吐く

 

『……何だあれは』

 

『私の同行者です』

 

その喧嘩の光景を見て、リオンは闘う気が失せてしまった。

 

だが、それでも二人の喧嘩はまだ続く

 

『いい加減にしろ!!チビ共!!周りを見て状況を見ろ!!自身をわきまえやがれ!!』

 

『『ああん!!??』』

 

鋭い怒りの表情でリタとエドはマリアを睨みつける

 

その凄まじい敵意に、マリアは後ろ退いた

 

だが、その中でエドが一人、立ち上がった

 

『てめぇ……さっき俺の事”チビ”って言いやがったな……?』

 

さらに、続くようにリタが立ち上がる

 

『あんた……さっきこいつと私と同等に呼んだわね……?』

 

二人とも、まるで同じ表情をしながら、マリアに近づく

 

『くっ来るな!!』

 

マリアは、二本のクナイをエドとリタに向けて投げた。

 

エドは、鋼の右手で飛んできたクナイを掴みとり、

 

リタは飛んできたクナイを頭を動かしただけで避けた

 

『なにぃ!?』

 

エドは、掴んだクナイを別の物に変形させ、右手が光る

 

光り終わった瞬間、クナイは鋭いブーメランとなった

 

『聞いてんだよ……』

 

エドは、ブーメランを振りあげ、マリアに狙いを定めた

 

『俺の事……チビって言いやがったなぁああああああ!!!!』

 

そして思いっきりマリアに投げつける

 

『ぬぅわ!』

 

マリアは、上半身を後ろに逸らせ、ブーメランから避ける。

 

だが、ブーメランは戻ってくる。

 

戻ってきたブーメランは、またマリアに向かってくる

 

マリアは体制を立て直し、そのブーメランを掴もうと手を出す。

 

だが、ブーメランは軌道をずらし、リタの方へと飛んでくる。

 

そのブーメランを、リタが掴み、さらに振りかぶり

 

『私とこいつ…同等に言ったのかって聞いてんのよぉおおお!!』

 

そのブーメランは、またマリアの方に向かう。

 

『この……!!』

 

そのブーメランから避けた瞬間、マリアはエドに突っ込んだ

 

その生意気な面、ぶん殴ってやる!!

 

そう思い、マリアはエドの方へと近づいたが、

 

エドは手を叩き、さらに地面に手を抑える

 

その瞬間、地から壁が錬成され、その壁がだんだんと高くなる

 

『ぐふぅ!』

 

その下から出てきた壁に、あごを強打したマリアは、後ろに吹っ飛び倒れた。

 

『ははは、見事だ鋼の』

 

『大佐ぁ……!勝手に一人で行動すんじゃねぇえええええ!!!』

 

エドは、怒りをそのまま大佐にぶつけた

 

その瞬間、大佐はポケットから手を出し、エドの方に指をパッチンする体制に出た

 

『え?』

 

その瞬間、大佐の指から錬成反応が出て、エドとリタの近くに爆撃が起こった

 

『『ぎゃぁあああああああああ!!』』

 

エドとリタは、一斉に同じタイミングで悲鳴を上げ、その炎から避けた

 

『てっ……てめぇ!!何のつもりだぁ!!』

 

エドが、爆撃の方を見ると、そこには武器を今にも振りおろそうとしていた大男が黒焦げで立っていた。

 

その大男は、大きな物音を立てながら倒れた

 

『ちゃんと後ろを見た方が良いぞ。鋼のとお譲さん』

 

『だっだったら先に言えば良いじゃないの!!大体味方に向けてそんなもんを向けるなんて…』

 

瞬間、また大佐はリタとエドの方向に錬成反応を起こし、火柱を起こした

 

『『ああああああああああああああああああ!!!』』

 

また、エドとリタは走りだす。

 

どうやら、気絶していた犯罪者たちが、立ち上がったようだ

 

だが、大佐は所構わず、自身の錬成を味方の方だろうが、どこだろうが向けて発砲していた

 

『ああああああああ!!確信した!!あいつ嫌い!!』

 

リタが、絶叫するようにその言葉を発した

 

『だったらもう、どさくさにまぎれて大佐を攻撃するか!?』

 

『賛成!!』

 

だが、こうしている間にも大佐の炎は的確にエドの方へと追いかけていた。

 

『貴様ら!』

 

マリアがクナイを腰から引き抜くと、リオンがそのクナイを剣で弾き飛ばす。

 

『お前の相手は、俺だ』

 

『まだ居たのか、ガールボーイが』

 

その言葉に、少しだけ頭に来たのか、リオンは険しい表情になり

 

今度は剣の腹でなく、剣の刃を使って攻撃をした

 

『大佐ぁあああああああああああああ!!!』

 

エドとリタは、怒りの表情で大佐の方へと向かう

 

大佐はそれに気付いたが、特に焦ると言う態度は無い

 

『てめっ!この野郎ぉおお!!』

 

エドが大佐に飛びかかろうとした瞬間、瓦礫がエドの前に立ちはだかるように落ちてきた

 

『うぉおお!』

 

その突拍子の無さに、エドはその場で足を止め、体制を立て直す

 

すると、所々から天井が崩れてきているのが分かった。

 

リオンが闘っているマリアの頭の上に、瓦礫が落ちてきた

 

『ばはっ!!』

 

その頭に喰らった大きな衝撃に、マリアはその場で倒れこむ

 

『よくやってくれた。鋼の、お譲さん』

 

『は?』

 

マスタングが撃ってきた柱には、大きなヒビが成長しているかのように大きくなっていく

 

大きな音を立てながらヒビが大きくなるのを見て、エドとリタは青ざめる

 

『おい……大佐てめ………てめぇ……』

 

大佐は、ははははははと何も感じないかのように笑っている

 

すごく、すっごく笑っている

 

『逃げるわよ!!』

 

リタが、真っ先に足を蹴った所、エドに呼びとめられる

 

『おい待てよ!!此処にいるこいつらはどうすんだよ!』

 

エドは、気絶している囚人たちに指を差す

 

『はぁ!?あんた正気!?』

 

『正気もクソもあるか!これ以上死人を増やしてたまるか!!とにかくこいつらを見殺しにはできねぇ!!』

 

リタは、焦る表情でエドを睨みつける

 

『どうすんのよ!こんなのもうどうしようもできないわよ!!』

 

すると、自身の居る目の前に瓦礫が落ちてきた。

 

その瓦礫が真っ二つになり、断面が綺麗になっていた。

 

その断面から、リオンがだんだん現れる

 

『小さいの、随分綺麗事を言うな』

 

リオンの小さい発言に、エドはさらに怒りを露わにする

 

『てめえ!!誰がチ…』

 

『それだけ綺麗事を言う余裕があるなら、綺麗事なりの綺麗な方法があるのだな?ならば見せてくれ』

 

リオンが、ごもっともな言葉を言い、エドに吐き捨てるように言った。

 

だが、エドはその発言を聞いて、にぃと笑う

 

『方法なら、あるさ』

 

そう言って、エドは大きな音を立て、広場全てを覆うような光を発した。

 

『ほう、お前もノーモーションで術が使えるのか』

 

その光に包まれた広場は、だんだん形を変え、

 

何本の棒が、ある空中の一点に向かって伸び続ける。

 

そして、最終的には

 

『考えたな』

 

その広場の部屋全体が、大きな檻となった。

 

『お…おい!なんだこりゃぁああああ!!』

 

死んだふりをしていた犯罪者が、次々と立ち上がる

 

『ふざけるな!出せ!出しやがれ!!畜生!!』

 

見苦しいように、ガンガンと檻を叩き始める犯罪者

 

『確かにこれならば、犯罪者も捕獲する事も容易だな。小さいのに結構な要領だ』

 

『だ―――――!!だから小さいを言うなっつってんだろうがぁああああ!!!』

 

エドの噴怒が、リオンに向けられる

 

『ふぅん?でもそういうアンタも、このチビと身長それほど変わらないんじゃないの?』

 

リタが、そう突っ込むと、リオンはこちらの方には向いてくれなくなった

 

そのリタの言葉を聞いたエドは、ニヤニヤしながらリオンに声をかける

 

『おやおやぁ?そういえば、俺とあまり身長変わらねえなぁ?んん?お前、歳幾つだよ?おおん?』

 

嫌味の混じったその発言は、リオンを不愉快にさせた

 

あまり変わらないにしても、エドの方が身長は低いのだが

 

その間に、檻の中の囚人たちは諦めたのか、その場で崩れてしまった。

 

『堪忍したようだな。』

 

リオンは檻の方へと歩んだ

 

『おい』

 

リオンが、誰も居ない場所に声をかけると、

 

向こうの廊下の方から、部下らしき人物が現れる

 

『はっ!リオン様!』

 

『どっから出てきたんだよ……』

 

その突拍子の無い登場に、エドは呆れた

 

『この檻の中の奴らを、全勢力を上げて運べ、全員指名手配犯だから、油断をするな』

 

『は!』

 

そう言うと、廊下の奥からぞろぞろと多くの部下が現れる

 

『『うぉおおおおおお!?』』

 

その圧倒的多さに、エドとリタは驚きを隠せなかった。

 

『おい小さいの。この檻に車輪を付けてやってくれ』

 

『小さい言うなっつってんだろうがぁああああ!!つーか俺が小さかったらお前も小さい事になるぞ!!』

 

『どうでも良い。だから早く車輪をつけろ』

 

その言葉に、エドは舌打ちをしながら巨大な檻に錬成で車輪を造り、付けた

 

『それでは用意!』

 

『せいや!せいや!!』

 

大勢の部下たちは、一斉に声を出して、大きな檻を押していた。

 

下に車輪が付いていた為、そんなに遅くは無かった。

 

『御協力、感謝致する』

 

『へいへい。』

 

エドは、ぶっきらぼうな返事で返す

 

『それでは、早速私達アドリビドムへと行きましょうか。リオンさん』

 

マスタングがリオンの名を呼んだ瞬間、リオンはマスタングの方へと振り向く

 

『ああ。ウッドロウから迎えの者が来ると聞いていた。が』

 

『迎えの者?』

 

どうしてわざわざ迎えの者に俺達を選んだんだ?

 

エドが、そこが疑問に感じたが

 

『俺が客員剣士からギルドの隊員に左官されるとはな。あまり納得はいかない話だ』

 

『左官?聞いてねえぞ俺たち』

 

エドのその言葉を聞いて、リオンはピクリと眉を動かす

 

『なるほど、そう言う事かウッドロウ…』

 

リオンの表情が、少々険しくなる

 

すると、リオンは腰から再び剣を取り出し、エドに向ける

 

『おい、どういう事だてめぇ』

 

『悪く思うな。お前等の実力の査定を済ますだけだ。まずはお前からだ』

 

そう言って、リオンは剣を振りあげる。

 

その剣を、エドは右腕の真ん中で受けとめる

 

『鋼の右腕か…』

 

リオンは、後ろに下がり、戦闘態勢に入る

 

エドは、床から剣を錬成し、リオンに向ける

 

『鋼の、その者にあまり傷をつけるでないぞ』

 

『この馬鹿野郎に、少し痛い目にあわせてやるだけだ!』

 

エドの顔も、大分険しく、だがどこか楽しそうな表情をしていた

 

『気に入らない目だな』

 

リオンは、そう吐き捨ててエドへと向かう

 

エドも負けじと、リオンの方へと向かう

 

剣と剣が交わり、剣の悲鳴が辺りに響く

 

ぶつかり合う高い音は、所々に響いた

 

『ほう、それなりの技量を持っているようだな』

 

『地獄の特訓を受けた子供時代を過ごして来たもんでね…!』

 

正直、あの特訓はもう二度と思いだしたくないが、

 

この剣の技術と、力量から見て分かるが

 

そこそこの強さと、結構な技量を持っている。

 

だが、師匠よりは強くない

 

『おらぁああ!!』

 

だからと言って、勝てるかどうかも分からないが

 

『腹が がら空きだ』

 

リオンは、エドの横腹へと剣を振ったが、

 

エドの右腕によって、剣は弾かれる

 

『厄介な右腕だ』

 

『便利な右腕だろ?』

 

すると、エドは剣を捨て、

 

今度は右腕に刃をつけ、再び戦闘態勢に戻る

 

『武器を捨てて、右腕に剣を作ったか』

 

『どこかの誰かさんが、この右腕にクレームつけたからよ。しょうがなくハンデつけてやったってわけだ』

 

そのエドの言い分に、リオンは不快になった

 

『舐めた真似を…』

 

そう言って、再び剣を強く握りエドに向ける

 

また、金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。

 

今度は、少しだけ鈍い音が聞こえるが

 

『その右腕をお前の身体から分離させれば、俺の勝ちだ』

 

『だったら、俺はその剣を弾き飛ばせば、俺の勝ちって事だな!』

 

闘いの中、そんな言葉を口走り、そしてまた戦闘態勢に入る。

 

その時、大佐とリタの死角に、

 

先程、エドとリタが倒したはずの男が立っていた

 

はぁはぁと息が荒く、斧を大きく振りあげている

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

『!!』

 

大男の声が、辺りに響く、

 

そして、かなり大きな斧が、リタに向かって振り下ろされる

 

その瞬間、パチン!という錬成反応が起こる。

 

その瞬間に起こった爆発は、大男を包んだ。

 

瞬間、大男は黒焦げになり、その場で倒れ込んだ

 

『うげ、こいつもう起きたの?』

 

リタが、男のしつこさに呆れるように言葉を吐いた

 

その光景を一瞬見たリオンは、隙が生まれてしまった

 

『隙あり!!』

 

『!』

 

リオンの剣は、エドの右腕によって弾き飛ばされ、

 

そして見事に壁に刺さってしまった。

 

『一丁上がり!これで俺の勝ちだな!』

 

一瞬の隙は、不可抗力だったにしろ、

 

相手はその隙を作らなかったにも関わらず、自分はその隙を作ってしまった事になり

 

負けは負け。変わりは無い。

 

リオンは、負けを認め。剣を壁から引き抜き、鞘に戻した

 

『使えない駒には興味が無い。ウッドロウも、俺の性格を知っての事だった。だから実力を試させてもらったが……まぁまぁのようだな』

 

リオンは、捻くれながらも、エドを認めるような発言をする

 

だが、エドはそんな事には気づかない。ただそいつが生意気言っているようにしか聞こえなかった

 

『気は進まないが…これも命令だ。』

 

リオンは体制を立て直し、

 

ロイ、エド、リタの方へと向く

 

『俺をそのアドリビドムとやらに案内しろ』

 

『犯罪者を一斉に捕まえてやったり、戦闘して負けたくせに、偉そうな態度……』

 

リタが、嫌な奴を見るような目で、リオンを見る。

 

当然、エドも同じ気持ちでリオンを見ていた。

 

『しかし、私達の依頼を終わらせるには、この方をアドリビドムへと送る事が必然となるが?』

 

『ちっ!!!』

 

エドはロイのその言葉に、半ば納得はしているが、がどこか気に入らないらしく、大きく舌打ちをした

 

『そう言えば、私の同行人の自己紹介がまだだったな』

 

ロイはそう言って、エドとリタの方へと目を向ける

 

『なんだ!俺に命令すんのか!先輩である俺によぉ!!』

 

『嫌なら別に良いが、元の世界での評価や参考に加えられ…』

 

『がぁああああああああああああああ!!』

 

その参考が嫌なのか、エドは大声をあげた。

 

『良いか!この際言っとく!チ…とか身長の話を俺にはするなよ!!俺の名前はエドワード!エドワード・エルリックだ!!小さいとかそういうのは言うんじゃね―――――!!!』

 

その思いっきりな自己紹介に、リオンは固まる。

 

そして呆れ、鼻で笑った

 

『あぁ!?てんめぇ今笑ったな!?鼻で笑ったなぁああん!?負けたくせして何様だクォラァアア!!』

 

その自己紹介の気持ちは、リタも気持ちは分かっていたが、

 

『………私の名前はリタ・モルディオ……。以上』

 

嫌味に、怒りの混じった声でリオンに自己紹介をした。

 

この自己紹介で、リオンのイメージが彼らには悪く映ったようだった。

 

『ああ、よろしく。』

 

リオンは、特にリタにはあまり興味が無いように一瞥した。

 

その返事は、とても冷たい物があった

 

エドとリタにとって、この依頼はものすごくイライライライライライラしたクエストだった。

-2ページ-

〜バンエルティア号〜

 

『お疲れ様。その方はどちらさま?』

 

アンジュが、新しく入った黒い髪の青年を見て、首をかしげて質問をした

 

『僕の名前は』

 

『この方の名前は、ウッドロウという方の客船剣士から、このアドリビドムに左官されたリオン君です。』

 

ロイが、小馬鹿にするようにリオンを紹介し、リオンの表情が少々険しくなった。

 

だが、自己紹介はあまりどうでも良いらしく

 

『そういう事だ。』

 

と、捨てるように言った。

 

『ということは、新入隊員ね。』

 

正直、ウッドロウともなる王族がどうしてこのような剣士をこちらのギルドに送り込んだのか、真偽は分からないが

 

悪い人では無さそうだ。とアンジュは確信したのか、特に警戒心もなく入隊を許可した。

 

『それじゃぁ、部屋を決めるからちょっと待っててね……』

 

アンジュが、リオンの後ろに居るエドとリタを見る

 

そこに居たエドとリタは、敵意と殺意とも混じったような顔で、リオンを見ていた

 

その迫力のある表情に、アンジュは少し後退したくらいだった。

 

アンジュは、手招きするように、マスタングを呼んだ

 

『どうなさいました?』

 

『……あの二人、クエスト中に何かあったの…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜廊下〜

 

エドは、先ほどのクエストで、かなり機嫌が悪くなっていた。

 

人探しというのに、多くの犯罪者を捕まえる手間になったり

 

捕まえたら捕まえたで、その後人探しの相手と戦闘する手間になったり

 

さらに、そいつは偉そうだ

 

イライラしないわけがないのだ。

 

『あ――――!やってらんねぇええ!!』

 

ここ最近、得となるクエストを受けていない気がする

 

アルが見つからないのも、その一つだが

 

どれもただ、徒労に終わるクエストが多い。

 

何の意味も持たないような、やりがいはあるが、そのやりがいが自分に入る実感のないクエストが多いのだ

 

だから、余計に疲れてしまう

 

『あっ。ここに居た。エド!』

 

後ろから、カノンノが声をかけてきた

 

『なんだよ』

 

目つきの悪い、機嫌の悪い表情を見せられ、カノンノは一瞬ビクッ!と驚いた。

 

なので、その後は少しギコチナイ態度となってしまった

 

『あ………いや……ロックスがおやつを作ってくれたから、食堂に来ないかなー……なんて』

 

カノンノは、その暗い、そして怖い表情を涙目で見つめながら、そう答えた。

 

その言葉を聞いても、エドはあまり機嫌が良くならなかったが

 

『……分かった。牛乳が出ないなら行くと言っとけ』

 

『えっと……出ないはずだよ。』

 

その呆気ない返事に、カノンノは少し戸惑ってしまう

 

牛乳が出ないという言葉に反応し、エドはこちらに振り向く

 

『あの……エド?大丈夫?』

 

元気の無いエドを心配しながら、カノンノはついていくように質問する

 

『早く行かないと、無くなっちゃうかもしれないよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜食堂〜

 

 

『イライラするときは、牛乳が駄目なら甘いものが一番だよ』

 

この言葉で、エドはカノンノについていくこととなった。

 

食堂に入ると、ロックスは喜んでくれたが、エドの顔はまだ不機嫌のままであった

 

『……大体、ガキじゃあるめえし…おやつなんて……』

 

そうブツブツ呟きながら、エドは渋々と椅子に腰をかけた

 

その瞬間、誰かがこの食堂に入ってくる

 

『あ』

 

『あ』

 

それは、先ほど依頼で人探しの標的だったリオンだった。

 

エドの存在に気づくと、リオンはすぐに扉を閉めた

 

『えっ?ちょっとリオンさん?』

 

ロックスは、その異様な光景に、リオンを扉越しで呼んだ

 

『さっきのは…、新しく入った人?』

 

『ああ、どこか客船剣士から左官されたんだとよ。随分偉そうな野郎だけどな』

 

そのエドの反応を見て、カノンノは決心した

 

『リオンさん、そんな恥ずかしがらずに一緒に食べましょうよ。今日はチョコレートケーキですよ』

 

『おい!何のつもりだ!!』

 

カノンノのその行動に、エドは驚きと怒りの声を発した

 

『だって、エドはあまりこのギルドの人たちと仲が良くないじゃない。だから、せめてもっと心を打ち明けて欲しいな…と思って』

 

『余計なお世話だ!大体、俺はそいつの顔を拝みながら飯を食いたか無え!!!』

 

『そういう所が仲良くできないんだよ。嫌かもしれないけど、ちゃんと仲間になったからには、打ち解けないと駄目だよ』

 

扉越しから、リオンの声が聞こえる

 

『……僕も、人と馴染み合いながら飯を食べるのは御免こうむる』

 

ロックスが、扉を開けてリオンの袖をつかむ

 

『ほら、そんなことを言わずに。無くなっちゃいますよ。ケーキ』

 

『構わない。離してく……おいなんだ、何故お前はそんなに力が強い』

 

リオンは、小さいロックスに引っ張られ、だんだんとエドとの距離が縮まっていく

 

その状況に、リオンは少し焦りを見せる

 

まるで、リオンが何かの置物のかのように、ズズズと引っ張られていった。

 

『おま…ロックスさん!?何が起こってんだ!?』

 

エドは、そのロックスの握力に、驚きを隠せない声を発した

 

まるで、その力は何か化物のかのようにも思えた

 

『エドワードさんも、リオンさんも仲良くしましょうよ。ね?』

 

妙に迫力のあるそのロックスの声に、エドは少しだけ恐怖した

 

リオンも、外見と似合わぬその腕力と、その声に微妙な圧迫感を感じた

 

 

 

 

 

 

 

結局、エドとリオンは向かい合うように座らされた。

 

二人とも、ただ溜息を吐くばかりだった

 

『なんで俺がてめぇのような偉そうな野郎と一緒にチョコレートケーキを食わなきゃならねぇんだ』

 

エドが、グチグチと文句を言っていたが、

 

リオンは、文句どころか一言も何も言わなかった。

 

し、反応も無かった

 

ただ、置かれたチョコレートケーキにフォークを指し、そして口に運ぶことを繰り返しているだけだった

 

『も……もうちょっと話そうよ、二人とも……』

 

カノンノが、そう言った瞬間、エドはカノンノを鋭い目で睨み付けた

 

リオンは、何も聞こえなかったかのように黙々と食べていた

 

そのお通夜みたいな空気に、カノンノは圧迫されそうだった。

 

『あ…そうだ!面白い話があるんだけど…』

 

カノンノが、提案するように話を持ちかける

 

『あのさ……エミル君とマルタちゃんの部屋の話なんだけど、いっつも二人とも、なんと一つのベットで二人一緒に寝てるんだってさ!それでエミル君、一時期不眠症に悩まされたの!でも、今でも二人で一つのベッドを使ってるんだって!慣れたんだ!あはは!』

 

その話を持ちかけて、盛り上がったのはカノンノだけだった

 

話し終わった瞬間、また…いやさらに重い空気がながれ、さらに

 

『ちっ!!!!!!』

 

と、エドが大きな舌打ちをした。

 

カノンノの顔が赤くなる。

 

笑い話のつもりが、滑ってさらに沈黙が深くなることは、死にたくなるほどの恥であろう。

 

カノンノは、机の上で伏せて、顔を両手で覆い、泣いて泣き叫んだ

 

『ご馳走様』

 

リオンが、小さく一言 言った後、食堂から去ろうとした

 

『あ…リオンさん。おかわりもございますが』

 

『結構だ』

 

リオンは、吐き捨てるように言った

 

『物を食べる空気で無い場所で、子供のように意地を張る奴が居る場所での これ以上の飲食は拒ませてもらう』

 

『んなぁ…!てめぇも子供だろうが!!』

 

『少なくとも、お前よりは思考は子供でないと思っている』

 

そう言った後、リオンは食堂から去っていった。

 

また、その場に重い空気が漂った

 

『あーあ……』

 

エドが、呆れ声を出しながらまた椅子に腰をかけ直す

 

『やっぱり……私の話が駄目だったのかな……』

 

カノンノのその言葉を聴いたエドは、結構悩んでいた

 

特に嘘をつきたくないし、真実を言っても傷つくだけだと思っているが……

 

『…まぁ、それも理由に入るわな』

 

エドはあえて傷つける方を選んだ。

 

さっきの話は、エドにとって不愉快以外の何物でもなかったからだ。

 

その返事を聞いたカノンノは、また机の上で伏せて俯いて泣くことが再開された。

 

その場所で、今度は何か鋭い雰囲気がただよった

 

どこからか、「お前が悪い」という言葉が、エドに突き刺さるような雰囲気が漂ったからだ

 

その雰囲気に飲まれそうになったエドは、急いで残っているチョコレートケーキを一気に食い

 

『ごっそさん。美味かったぜ』

 

と言って、その場から去った。逃げるように早足で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノとエドワードの部屋〜

 

逃げるように部屋に戻ってきたエドは、一息つくように自分のベッドに座り込んだ

 

座り込み、後ろに倒れ寝転ぶような体制になりながら、今日のクエストの事を考えた

 

宗教団体に現れた謎の女の事

 

改めて師匠の恐ろしさを知った事

 

嫌な奴らとパーティを組まされた事

 

さらに、嫌な奴がギルドに入ってきた事

 

……今日は本当に最悪な日だとエドは確信する

 

ほとんど空回りだった昨日よりも、確実に

 

もうこのギルドから脱出したほうが良いのではないのだろうか。

 

だが、アルを見つけないとこのギルドから出れないし…

 

エドは、今本気でそんな契約をどうやってぶっちぎるかを考えた。

 

契約書の場所を把握して、そこに奇襲をかけるか?

 

それとも、契約書なんか無視をするか?

 

それとも、ジェイドが言ってた軍に……いや、あんな奴の所には行きたくない

 

いろいろ考えたが、しっくりくるのが出てこなかった

 

『あぁ――――!めんどくせぇええええ!!!』

 

大きな声を出し、両腕を思いっきり伸ばすと、

 

右腕がタンスにぶつかり、その上の本が落ちた

 

『あぁっ…畜生!』

 

イライラしながら本を片付けると、その場所にスケッチブックが見つかった

 

『…カノンノのか?』

 

書き終わったものなのだろうか?

 

ひょいと持ち上げると、紙の破片がパラパラとスケッチブックの中から落ちてきた

 

『わわ…わ!』

 

その突然に、エドは一瞬驚き、紙に無意識に手を伸ばしていた

 

『やべーやべー…』

 

エドが紙の一つ一つを拾いながら、その絵を見る。

 

ジグソーパルズのように、それは所々つながっていた

 

エドは、それをちょっとした遊び心で紙を組み立てていった。

 

『ったく、なんでこんなビリビリになってんだ…?』

 

この事に集中する自分を見て、自分はまだ余裕があるんだなと感じた。

 

だが、その余裕もここまでだった。

 

絵が完成間近となると、エドはこの絵の内容を知った

 

『………これは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜食堂〜

 

『あ、エドワードさん』

 

その場に居たのは、ロックス一人であり、

 

カノンノの姿は無かった

 

『カノンノは?』

 

『なんだか、泣きながら何も言わずに去っていきましたよ。…多分甲板だと思いますが』

 

場所を知っただけで、それはそれでありがたかった

 

ロックスは、エドの持っているスケッチブックを見て、少しだけ安心したような顔をした

 

『なんだ?』

 

『…いえ、お嬢様の絵を見てくださる、エドワードさんは、とてもお優しい方なのですね』

 

『は?どういうことだ?』

 

ロックスは、少しだけ笑顔になった

 

『ほとんどの人が、お嬢様の絵にはあまり興味を持たない上、お嬢様もあまり他人に絵をみせないのですよ。…特に最近は防御を固めているようにも思われます。』

 

ロックスが、懐かしそうに上を見上げる

 

『旦那様と奥様がいたら、エドワードさんをお嬢様の恋人と思うかもしれませんね』

 

『は?なんで俺がカノンノと…ちょっとまて、カノンノの両親ってどこに居るんだ?』

 

エドがその質問をした瞬間、ロックスの顔が真剣になる

 

その顔で、エドは大体予想できていた

 

『……お嬢様の旦那様と奥様は……お亡くなりになられているんです…』

 

その事実を知ったエドは、やはりか。と思ったと同時に、カノンノに同情が芽生えた

 

『そうか…俺も、母親を亡くしたんだ』

 

『そうなんですか…それはお辛い。エドワードさんの旦那様も、さぞ悲しみに』

 

『あの野郎は、何にも思っちゃいねえに決まってるさ』

 

急なエドの言葉の変化に、ロックスは少しだけ戸惑った

 

『…いえ、きっとお父様も、内心は』

 

『あいつは母さんの葬式にも出なかった。今でも何も知らずにどっかほっつき歩いてやがるタダの糞野郎だ。』

 

エドのその言葉に、ロックスは何も言葉が出なかった

 

『……息子さんがそのような体で、さらに軍に入ったことも知らないのですか?』

 

『知らないだろうな』

 

そのはっきりした返事に、ロックスは少し考える

 

『…確かに、それは考えようですかね……』

 

ロックスの声は、少し寂しい声になっていた

 

『お嬢様の旦那様と奥様は、腕の立つ医者でした。だから、従軍医として、戦場に連れて行かれ…殉職しました。』

 

『軍に連れて行かれて…従軍医?』

 

エドは、その事実を聞いた瞬間、あることを思い出す

 

『……うちの幼馴染に、両親が医者で、戦場に行って死んだ奴が居る』

 

『お嬢様の両親と…同じですね?』

 

『ああ。怖いほど良く似ているな』

 

まさか、カノンノがウィンリィと同じ、両親を戦場で亡くしていたとは

 

『そうですか…お嬢様と同じ運命を背負った人が、貴方の近くにも……』

 

ロックスが、悲しそうな顔をして、俯いてしまった

 

『どうして、戦争なんてものがあるのでしょうか……』

 

『お偉いさんの我がままと欲望、いや事故。思い返してみれば、無駄なもんばかりだな』

 

イシュヴァールの内乱

 

アエルゴの内乱

 

どれも、戦争の原因はあるとしても

 

目的は、くだらない

 

そして、残酷だった

 

俺も、そのくだらなく残酷な目的に借り出される時があるのだろう。

 

国家錬金術師としての、義務として

 

だが、今は

 

『こんな話は、飯食う所でするもんじゃないな』

 

エドは、話を変えるように、その話を止めた

 

『…そうですね。』

 

『カノンノの居場所、教えてくれてありがとな。行ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜甲板〜

 

『はぁ〜〜……』

 

先ほどの恥と、失態で、自己嫌悪が激しく起こっていた

 

無駄な事をした。そして馬鹿なことをした。

 

自分で悔やんでも、悔やみきれなかった。

 

船で落ち込みながら、海を眺めていると。

 

後ろから足音が聞こえた。振り向くと、そこにはルームメイトがいた

 

『あ…エド。』

 

カノンノは、少しだけ笑顔になった。

 

探しに来てくれたことは、素直に嬉しいと感じる。

 

だが、エドの顔は、決して明るいとは言えなかった

 

『どうしたの?こんな所まで』

 

エドは、コートの中から、カノンノのスケッチブックを取り出した

 

そのスケッチブックを見せられたカノンノは、表情を変えた

 

『あ……』

 

おそらく、あの破いた風景を見たのだろう。

 

エドの顔は、真剣だった

 

『悪い、中身見ちまった』

 

エドは、何も言わないカノンノに素っ気無い返事を返した

 

カノンノは、その言葉を聞いて、所々不安が押し寄せる

 

『……あれ、見ちゃったんだね…』

 

『ああ、それで質問がある』

 

エドのその言葉に、カノンノはいち早く答える

 

『ううん、大したことじゃないよ。ただ、昨日倒れたときに見た夢で、鮮明に覚えていたから、ちょっと描いてみただけで…』

 

『ここに書かれている黒い奴、俺の知っている奴だ』

 

エドのその言葉を聴いた瞬間、カノンノの顔が青ざめる

 

まさか、そんなことが、これは夢なんだよ。エド、これは夢…

 

『前に言ってたよな、どこかにあるように感じるって。もしそれが本当に存在している物だったら……』

 

そこで、エドは口ごもってしまう。

 

カノンノは、嫌な予感がした。

 

体中から、冷たい汗が流れ落ちる。聞きたくない。

 

でも…早く言って欲しかった

 

そして、ついにエドの口が開かれる

 

『……この絵のように、かなり多くの人が、死んじまう』

 

『……!!』

 

その言葉は、カノンノは ほとんど信じられなかった

 

『どういうことなの…?エド…この人たちは、一体誰なの!?』

 

カノンノの中に、恐怖が生まれる

 

思い出してくる。

 

笑いの声は、一人だけなのに、

 

その声の中に、多くの人間の叫びが聞こえる

 

死体の上に

 

黒い影が、数人

 

真中に、宙に浮く石のような何かが存在している

 

一つの生首が、土に半分埋められた槍に串刺しにされて

 

その生首が、私の方を見て

 

そして

 

『ここでは、言えない。ここに居る奴らを殺したくない』

 

その言葉で、それはとんでもない奴らだと確信した

 

そして、そいつらが、ここに居る可能性が高い

 

『嫌!やだ…!!もう……誰も死なないで……』

 

カノンノが、その場でしゃがんでしまった

 

顔を手で押さえ、恐怖に負けて泣いてしまう

 

そのカノンノを見て、エドも同じようにしゃがむ

 

そして、カノンノの頭の上に手を置いた。

 

『…ロックスから聞いた。余計なお世話かもしんねえけど』

 

エドのその手は、左手だった

 

人の温かみのある、人間の手

 

『俺の幼馴染にも、お前と同じ戦場で死んだ両親が居る』

 

その言葉で、カノンノはさらに震える

 

エドの身近な人にも、私と同じ運命の人が居る

 

そんなこと、知りたくなかった…

 

ただ、ただ怖いだけなのに

 

『あいつの両親が死んだとき、俺は誓ったよ。もうあいつを泣かせない。二度と悲しい目に合わせない。あいつを守ってやろう。って』

 

エドは立ち上がり、スケッチブックを海へと思いっきり投げ捨てた。

 

スケッチブックは、小さな水しぶきをあげて、海の上と流れていく

 

中の絵は、ビリビリになって、ふやけて破れ、バラバラになる

 

その光景を見たカノンノは、顔を上げ、そこでエドを見た

 

エドも、カノンノの方に振り向く

 

『だから、てめぇも絶対に泣かせない。悲しい目に合わせない。俺が守っていく。だから安心しろ』

 

エドは、カノンノに飛びっきりの笑顔を見せた

 

『てめぇを泣かせようとした奴は、この俺が全身全霊をもって、ぶっ飛ばす!』

 

その笑顔は、優しさと、決断が溢れており

 

カノンノのある決意が、その笑顔で決まった

 

『……私は』

 

カノンノの顔も、いつの間にか、笑顔になった

 

『私は、このギルドを脅かす奴ら、そしてエドや皆を不幸せにする奴らを、ぶっ飛ばす!』

 

エドと同じような仕草をして、エドと同じような笑顔になる

 

その態度が、エドは気に入ったらしい。

 

『おう!よろしくな!』

 

と、拳をカノンノに向ける

 

『こっちからも、よろしく!エド』

 

拳同士がぶつかり合い、ある決意がこの甲板で結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

アンジュが依頼書を整理していると、扉が叩かれる音が聞こえた

 

『はい。どうぞ』

 

お客様だと安心したアンジュは、その者をこの場へと紹介した

 

船の中に入ってきた老人は、ヨボヨボで今にも倒れそうだった

 

『あ…あの?大丈夫でしょうか?』

 

アンジュが心配して駆け寄ると、老人は

 

『老人扱いをするな!!』

 

と、アンジュを一喝した

 

その大声に、アンジュは思わず後ろに退いてしまった

 

『は……はぁ。』

 

どうも、このような老人は苦手だ

 

アンジュは、渋々老人に話を聞く

 

『それで、どのようなご用件でしょうか』

 

アンジュが質問をしたが、老人の返事は

 

『このギルドは客に茶も出さんのか。全く貧素な所じゃのぅ』

 

そのような事を言われ、アンジュはピクリと頬が引きつる

 

『あの…ご用件は?』

 

『それにしてもなんじゃ、あの趣味の悪い外装は、あんなもんでよくやっていけるのう。客も少なかろう。こんな所』

 

言いたい放題の老人に、アンジュはカタカタと身体を怒りで震わせた

 

『すみません…ご用件は?』

 

『は?ようかん?出るならとっとと出さんか。気が利かん奴じゃ』

 

ついにアンジュは堪忍袋の緒が切れて、老人の耳を掴み、息を吸って、声を出す準備をした

 

『ごぉよぉぉぉおおおおおおおおけんは、なんですかぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

その大きな声に、老人は驚き、ソファの端へと追い込まれた

 

『な…なんじゃ!そんなに大きな声を言わなくてもよかろうが!』

 

言わなければ、ただグチグチ言うだけで帰りそうであったため、この実力行使に出たのだが

 

『ったく…依頼はな…村の修理と討伐と人探しじゃな』

 

『という事は、三つの依頼書を提出する必要がありますね。』

 

アンジュの言葉に、老人は首を傾げる

 

『はぁ?こんなもん一つの依頼にまとめられるじゃろ。それともなんじゃ?金をできるだけ多く貰うために、せこい事をしようとする魂胆か?』

 

アンジュの頬が、引きつる

 

『ええそうですねぇ。一応、ギルドも商売仕事ですのでねぇ』

 

強く、そして大きな声で念押しするようにそういった

 

『ふん。まぁいいじゃろ。報酬は仕事が終わってから、いくらでも出してやるわい。じゃからとっとと、この依頼を申しだせ』

 

老人は、依頼書を三つ書いた後、ブツブツ言いながら、バンエルティア号から去っていった。

 

去って言った後、アンジュは溜息を吐いてその場で座り込んだ。

 

あんないい加減な客は、もう二度と来て欲しくない。し

 

この依頼は、ほとんど気が進まない。

 

『さて、どうしようかしらね…』

 

とりあえず、誰と誰を行かせようか、そんなことを考えていた。

 

あの爺さんの居る依頼には、できる事なら行かせたくはないが、しょうがないだろう。

 

『……村の修理となるなら、まずエドワード君は必須ね。』

 

そしてその後、いろいろ練り、アンジュはパーティを編成しだした。

説明
リオンが出てくる話は、間違いだらけで指摘されました。直したけど。
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鋼の錬金術師 テイルズ クロスオーバー 

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