鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第22話〜23話
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〜カノンノとエドワードの部屋〜

 

『エド、アンジュが呼んでるぞ』

 

ユーリが、エドを呼びに行くと、エドは露骨に嫌そうな顔をした。

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

『へーへー…今度はどんなドタ騒ぎの依頼が来たんだ』

 

エドが、皮肉と一緒に愚痴を吐き、不穏と怒りが混ざる顔をアンジュに向ける

 

『不満そうね』

 

『そりゃそうだ。今日はほとんど嫌な方向に進んでる気がしてたまんねえよ。』

 

露骨に疲れた様子を見せ、アンジュはそのエドに呆れた。

 

だが、この依頼には錬金術が必要であるため、

 

『今回の依頼では、エドワード君の依頼が必要不可欠なのよ』

 

『また錬金術か!だったら大佐とか少佐を連れて行けば良いっつってんだろうが!!!』

 

『マスタングさんは、街へ出かけましたし。アームストロングさんは昨日の討伐から帰ってこないし…』

 

『都合悪いなぁ!!おい!!!!!』

 

その理不尽さに、エドはイライラが収まらなかった。

 

『今回の同行人は?まだ決まってねえのか?』

 

エドが、心配するようにアンジュに質問をする

 

だが、次の答えで、エドの表情が変わる

 

『ええ。もう決まってるわよ。』

 

エドの表情は、かなり嫌な顔をしていた。

 

『何よその顔は、さすがに嫌な人は居ないと思うけど…』

 

『どうだかね。何も知らないで編成して結果的に最悪な結果を生んだじゃねえか』

 

前回の依頼の事を言っているのだろうか、

 

だがアンジュは、もうそんな事は考えていない。

 

多分、納得はしてくれるだろう。嫌な人は誰一人入れた覚えは無いのだから。

 

『今回の同行人は、エミル君とマルタちゃんとロイド君よ』

 

名前を全部告げられた瞬間、エドの表情はさらに嫌な顔をした

 

『え?どうしたのよ』

 

最終的にも、最も編成して欲しくないメンバーだった

 

『なんで…エミルとマルタがセットなんだよ……』

 

『え?だって、二人は相性が良いし、ロイド君も結構まじめだし』

 

エドの眉が、分かりやすいほどつり上がり、悪い目つきでアンジュを睨む

 

『んな事は問題じゃねえんだよ!!エミルとあの女がセットだとなぁ!絶対仕事してくれねえよ!!二人で遊んでそうだぞ!!ざっけんな畜生!!』

 

『そんな事無いわよ。エミル君とマルタちゃんがセットでパーティに居ると、とっても賑やかなパーティになるわよ』

 

エドは、アンジュの顔をついに見なくなり、腕を組んでそっぽ向いてしまう

 

『知るか!!とにかく編成は変えろ!あれが二人居るとうザってえだけだ!!』

 

アンジュは、そのエドの主張に少し悩むような仕草をする

 

『そんな事を言われても……もう皆、外で待ってるのよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村〜

 

『あ!見て見てエミル!ウサギが居るよ!』

 

森の中で、エドご一行の前を、ウサギ一家が通り過ぎる。

 

そのウサギは、どこに行くのかは分からない。

 

『本当だ。野生のウサギは珍しいなぁ。…えっと』

 

エミルは、ゆっくりとエドの様子を伺う。

 

エドは、前かがみになりながら、腕をブランブランと垂れ、顔は良く見えないが、

 

身に包まれているオーラで、怒っていることが分かる

 

エミルは、すぐに見なかったことにするように、前へ振り向く

 

『え…えぇっと…こんな森の中に、本当に村なんてあるのかな〜……』

 

棒読みで、エミルは気を使うようにエドに話しかけるが

 

『無かったら……ぶっ飛ばす…』

 

エドは、震える低い声でそう答える

 

その答えで、エミルはビクリと驚き、ガタガタ震える

 

『エミル?どうした?寒いのか?』

 

ロイドが、エミルに気を使うように近寄る。

 

『ああ…だっ…大丈夫だから。ははは…』

 

『寒かったら、いつでも言ってね』

 

そう言ってマルタは、エミルの腕とマルタの腕と絡み、さらに引っ付くように近づく

 

『いつでも、エミルのこと暖めてあげるから!』

 

この二人は、エドワードさんの殺気に気づかないのだろうか

 

僕は、その殺気に今にも殺されそうだというのに

 

『はは…はは…』

 

エミルは、ただその場で笑うことしかできなかった。

 

その場でチラリとエドを見つめると、

 

エドの怖い顔が、また視野に入り、すぐに前へと向いた

 

『おっ。見えてきたぞ』

 

ロイドが、前方に指を指す

 

その先に、多くの住宅街が見当たる

 

それは村というより、町と言ったほうが良いだろうか。

 

それにしても、この森の中とは似つかわしくなかった。

 

『へぇ…こんな森の中に、こんなに大きな村が…』

 

エミルが感心するように、その大きな村を見渡す

 

その村は、その大きさ相当の人口があるようだ。

 

所々に、商店街や宿屋が多く存在している。

 

大きな門を潜り抜けると、地面は土からレンガへと変化した

 

『ふぅん。村って聞いてたけど、ここまで発展している村は初めて見たな』

 

エドが、感心するようにその村を見渡す

 

その村に興味を持ったのか、先ほどの怖い顔は、幾分柔らかくなっていた

 

『キャー!!見て見てエミル!カップリング指輪だって!これを付ければ、カップルはずっと不屈の愛を結ぶことができるんだって!!』

 

マルタのその声を聞いたエドは、また怖い顔へと戻った

 

『ほぉら始まった!!!おいコラてめぇ!!遊びに来たんじゃねえんだぞ!!!!』

 

『えー!?そんな小さいこと言わないでよ!!タダでさえエドは小さいんだから!!』

 

『だぁれが豆粒胚珠ドチビかぁ嗚呼あああああああああああああああああ!!!!!』

 

その大きな声の喧嘩に、多くの人たちがエドとマルタの方へと視線を向ける

 

確実に目立っていると知ったエミルは、急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になる

 

ロイドは呆れて、溜息を吐く

 

『おいエド、マルタ、こんな所の真ん中で喧嘩なんか…』

 

『喧嘩じゃないね!!俺はただ注意してるだけだ!!』

 

『だからそれが小さいって言ってんのよ!!買い物くらい、ちょっと位で済むでしょ!!』

 

『そんな我がままが通るかぁぁぁああああああああああああああ!!!』

 

火に油を注いだような気がした。

 

いつの間にか、また多くの見物人が増えている

 

今にも、『やったれチビ助!!』『そこだ!右ストレート!!』というような声が聞こえる状況になってもおかしくない。

 

エミルは、マルタに声をかけて

 

『マ…マルタ…?今は依頼をこなそう?買い物はその後でも遅くないじゃない。エドワードさんも、そんなに怒ることないじゃない…』

 

エミルが、二人の間に入り、なだめる様に声をかける。

 

その様子に、マルタは

 

『…エミルが言うなら、しょうがないけど…』

 

と納得してくれたが、エドは

 

『ふん!!!』

 

と、そっぽを向いてしまった。

 

エミルとロイドは、その場で溜息を吐いてしまった。

 

この先が思いやられる。そんな思いが大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 村長の家〜

 

『遅かったのお。日が暮れてしまうわい』

 

一番大きな屋敷に住んでいた老人は、かなりリラックスしているようなポーズで、ソファに座り、茶を飲んでいた

 

『あんたが、アドリビドムに依頼持ちかけたバリオって爺さんだな』

 

『爺さんと言うな!この豆粒が』

 

バリオの言った豆粒という言葉に反応し、エドは殴りにかかろうと腕を振り上げ、地面を蹴ろうとした所、ロイドに腕を掴まれる

 

そのまま、エドはキーキーと叫びながら足をバタバタさせていた

 

『それで、この討伐と村の修理と人探しの依頼ですが…。もう少し細かい概要などは教えてくれませんでしょうか。』

 

依頼書によると、ただ大きく

 

”討伐!!”

 

”村の修理!!”

 

”人探し!!”

 

としかかかれて居なかったため、最初どうしようか考えていたが

 

アンジュの案は、

 

《とりあえず、依頼人に聞いてみて》

 

との事だった。

 

『ふん…いいじゃろ』

 

老人は、小さく舌打ちをしながらソファの上で胡坐をかく

 

『まず、昨日は3時間くらい地震があってな、家の所々が破壊されたという書類が回ってきたんじゃ。それで村の依頼は、そんな所。討伐は、ここの所人が行方不明になってな、魔物の仕業かと言う者も居る。人探しも、その行方不明者のもうひとつの可能性じゃ』

 

つらつらとしゃべり続けた後、エドは一つの不満を言う

 

『じゃぁ、魔物の討伐は、ほとんど指定されていねえじゃねえか』

 

『片っ端からぶっ殺せば良いじゃろ。脳みそも小さいのかお前は』

 

エドは錬金術でこのジジイを小さく押しつぶしてやろうかと手をパンと叩こうとした所、両腕をロイドに掴まれる

 

必死に抵抗しようとエドは踏ん張ったが。結局、錬金術は無理だった。

 

『……分かりました。それでは俺たちアドリビドムは、できる限りの事を尽くしたいと思います』

 

ロイドは、エドの両腕を掴んだまま老人に礼をした。

 

だが、そこで老人は声を出した

 

『待て』

 

その乱暴とも言える発言に、あまり気持ちの良い振り返り方はしなかった

 

『…なんでしょうか?』

 

老人が、じっとマルタの方を見ている。

 

見つめられるのは、あまり気持ち良いとは思わなかったマルタは、少しだけ不気味に感じた。

 

しばらくして、老人は溜息を吐いた。

 

『あの…?何か』

 

『…ふん。』

 

老人は、少しだけ寂しそうな顔をして、俯いた

 

『…にしても、若いころの婆さんに似てると。そう思っただけじゃ。』

 

その言葉を言われたマルタは、少しだけ複雑な気持ちになる。

 

この我がまま爺さんは、婦人を失い、一人で暮らしてきていた。

 

『……。お婆さんは、亡くなられたのですね』

 

ただ、この老人は寂しいだけなのではないだろうか。

 

寂しいが故に、このような我がままを言い散らしては、傲慢な態度を取っているのではないだろうか

 

そんな気持ちが、膨らんだ

 

『美味い料理を作る奴じゃった。それにわしの言うことも、文句を言わずについて来てくれた。いい女じゃったよ』

 

まるで、私の正反対の人だった

 

『ふぅん…立派な婆さんなことで』

 

エドは、老人はすぐ昔話ばかりしやがる。というような顔をしていた。

 

その態度に、マルタは少しだけエドに怒りのような何かが芽生えた

 

『でも、私は料理は…お世辞にも美味いとは思えないし…少なくてもバリオさんの奥さんには…』

 

老人は、露骨に変な奴を見るような顔をした

 

その顔で、マルタは一気に混乱に陥った。

 

婆さんと違う私に、絶望をしたのか。と感じたが、違った

 

『何を言っとるんじゃ。わしが言っとるのは、そこの小僧の事じゃ』

 

老人が指差した先には、マルタの後ろに居たエミルだった

 

『え……?ぼっ……僕ですか?』

 

思いもよらない答えに、エミルは焦り、戸惑ってしまう

 

『本当に若いころの婆さんによく似ておるのぉ。肌とか、体つきとか、それに顔!若い頃の写真を見ても、婆さんそのままじゃ』

 

老人は、机の上にあった写真を見て、笑顔になる

 

エド達がその写真を除くと、写っていた女性は、本当にエミルそっくりで、違うのは胸が少しだけ膨らんでいるくらいだった

 

その写真を見たエミルは、トボトボと部屋の隅まで歩き、たどり着くと、そこで体育すわりをした

 

『……僕って……女性みたいな成りをしてるのかな……』

 

女性に似ていたことが、かなりショックだったのか、そこにだけ暗い空気が流れていた

 

『そ…そんなことないぜ!戦闘の時は、すげぇ俊敏に動くしよ!』

 

ロイドが、慰めるようにエミルに近づき、肩に手を置く

 

『そ…そうだよエミル!なんたって、エミルは私の選んだ格好良い男NO,1なんだから!』

 

マルタも、慰めるようにエミルに声をかける

 

『まぁ確かに女々しいし、男らしくは無いわな』

 

エドが、トドメを指すように、エミルに言葉のトゲを突きつける。

 

瞬間、さらに暗い空気が、エミルの上に流れた

 

『そ…それじゃあ、俺たちは早く依頼をこなしていこう。な!』

 

ロイドが、エミルを励ますように背中を軽く叩いて、出口へと向かう。

 

『ちょっと待て』

 

また老人が、エド達を呼び止める

 

『この依頼は、一人一つの依頼でやっていけ。その婆さ…小僧はここに残れ』

 

その言い草に、一番反応したのはマルタだった

 

『ちょっと!!あんたエミルに何する気よ!!!エミルは私だけの物なんだからね!!』

 

『何もしない。ただここでわしの世話をしてもらえば良いだけじゃ。もうすぐ飯の時間じゃしな』

 

その冷静な答えに、マルタの頭に血が上る。

 

しれっとして答えるのが、マルタには気に入らず、今にも殴りにかかりそうだった。

 

『そんな我がままは通らないわよ!大体、依頼は三つじゃない!これ以上依頼を増やしたいなら、まず船に行きなさい!』

 

『その小僧がこの屋敷に残らないのならば、報酬はやらんぞ』

 

エドとマルタの歯軋りが、屋敷に響くかと思うほど大きな音を立てていた

 

『だ…大丈夫だよマルタ。僕が残れば良いなら、僕なら大丈夫だから。』

 

『私が大丈夫じゃないのよ!』

 

『でも…本当に僕が残らないと、依頼が終わらないかもしれなからさ。三人とも…その。……頑張ってね。』

 

エミルは、少し申し訳なさそうに頭を下げて、エド達を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村〜

 

『あんのジジイ!!俺の事をチビチビ言いやがって!この報酬は高くつかせて貰うからなぁ!!!』

 

『嫌な奴!!嫌な奴!!絶対許さないから!!!』

 

エドとマルタが、不機嫌の状態で屋敷から外へと出た。

 

その足取りは強く、怒りで地団太を踏むようだった

 

『それにしても…困ったぞ。三人で三つの依頼をこなすとして、三人一緒で進めても、時間がかかるし。だからと言って一人ずつ一つの依頼をするにも、リスクがかかる。』

 

ロイドが、真面目に分析して、頭を悩ませる

 

『…あのジジイの野郎、随分舐めた条件を出しやがったもんだ。』

 

『にしても……村の修理はエドが一人でやれば良いだけだけど、人探しと討伐は、一人ずつではキツイよ…』

 

エドが、頭を掻いてその発言の答えになるような事を発言した

 

『……んな事考えなくても、討伐は具体的の敵は知らせてねえんだからよ、二人で人探しをして、原因を調べてから討伐の合否をしろよ』

 

その答えを聞いて、ロイドとマルタは あっ と声を出した

 

『ああそうか!エドって頭良いな!』

 

『……お前等は相当頭が悪いな……』

 

その考え間まで辿り着かなかった二人に、呆れの溜息が出た

 

『とにかく俺は、村の修理とやらの場所に言ってくるから、お前らは居なくなった奴の最後に居た日とか、行方不明前日の事を聞いて来い。』

 

『ああ。分かった。』

 

『…一応私の方が先輩なんだけど、随分偉そうね…』

 

ロイドは、清清しい程に承諾したが、マルタは少し納得がしていないようだ

 

『ロイド、この女がまた買い物に足を運ばねえか、ちゃんと見張ってろよ』

 

エドが、反発するようにロイドに釘を刺すような言い方をした。

 

『エミルが居ないのに、一人で買い物なんてするわけないでしょ!』

 

『うるせぇー!てめぇは前に依頼の街でエミルに買い物を頼ませてたじゃねえか!!!』

 

ギクゥ!とマルタの心臓の音がする

 

『とにかく俺は村の復旧作業をするから、お前ら二人は行方不明者をちゃんと探しとけ!!良いな!』

 

エドが、釘を刺すようにまた荒い口調で言い放った。

 

マルタは、ベェーと歩き去るエドに舌を出し、

 

ふん!と鼻を鳴らしてズカズカと村の人の聞き込みへと開始した。

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 周辺 木の上〜

 

黒い人たちが、一本の木の上で待機して、笑いながら村を見つめる

 

一人の中性的人物が、愉快そうにクククと笑いながらじっと見つめていた

 

『さぁて、もうすぐだよ。いつからやる?』

 

そいつは、ゲーデの方へと目を向け、答えを聞く

 

ゲーデは、ふんと鼻をならし、笑う

 

『いつだって良いが、どうせまだやらねえんだろ』

 

『ご名答』

 

中性的人物は、手を上に上げ、村の方に何かを放り投げるように、腕を振る

 

『面白そうな時になったとき、バーン!と、やった方が面白いだろう?』

 

『本当に、趣味の悪い』

 

だが、黒い人たちは笑うのを止めない

 

『それにしても、こんな陣を俺に村の地の下で掘らせて。これで本当に良いのか?』

 

『良いも何も、最高だよ。後は……またお前が必要になるけどね』

 

中性的人物は、さらに不気味に微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 東部〜

 

『ここか?…まぁた派手にぶっ壊れてんね〜…』

 

エドは、その街の光景に呆れの感情が湧き出るほど驚いた。

 

その複数に並んだ家は、土砂崩れで原型を止めておらず。

 

そこには、昔から埋まっていたと言ってもおかしくないほど、変わり果てた姿になっていた

 

あのジジイは、これを一人で直させようとしたのか

 

『ったく。無茶ばかり言いやがるジジイだぜ』

 

エドは、その土砂崩れに群がっている野次馬に、問いかける

 

『えっと、これを直せば良いんだよな?』

 

『あ?誰だお前』

 

大男がスコップを持ちながらエドの方へと近づく

 

『どうも、どんなお依頼でもちょちょいのちょいに解決、アドリビドムでございまあす』

 

エドは、少しふざけるようにスコップを持った大男達にそう言った。

 

だが、大男達は溜息を吐いて、首を横に振った

 

『なんだよ…確かに誰か人数を追加してくれとは言ったけど、こんな小さな子供が来るなんて、聞いてねえぞ…』

 

小さな子供という言葉で反応し、急激にエドの表情が変わる

 

『悪いな坊主。お前のような奴が来てもらうほど、こっちは困ってねえんだ。ここまで来てくれてご苦労だった。早く帰って休んでてくれ。』

 

男達は、笑いあうようにそう言ったが、先ほどの”小さい”発言に、エドは全く納得していない

 

エドがその土砂崩れのほうへと近づくと、男達は動揺した

 

『お…おい。危ねぇぞ、こんな土砂崩れの近くに来ちゃぁ』

 

パン!という一つの両手を重ねる音が聞こえ、

 

光の発した手は、土砂崩れの場所へと置かれる。

 

『おっ……おおお!?』

 

その瞬間、土砂は大きく持ち上がり、中に埋まっていた家も、次第に元の姿へと戻っていった。

 

それはものの数秒間、完全にそれは元の姿へと戻っていった。さらに

 

『またしばらくは土砂が来ても大丈夫なように、壁を作っといたから。報酬を多くもらう分、サービスだ』

 

終わった後に、男達はエドを見つめた。

 

すると、エドは男達の歓声に包まれた

 

『すげえな坊主!!お前魔術使いか!』

 

『しかもそこら辺のちんけな野郎とは違うみてえだな!!こんな大きな大修理をたった3秒で終わらしちまうたぁ、すげえじゃねえか!!ちっこいのに!』

 

『お前、こんな小さいのにすげえ魔術使うな!ノーモーションだぜ!?』

 

『良いぞ!格好良いぞ!チビ!!』

 

『チービ!チービ!!チービ!!』

 

多くの男達の歓声による”チビコール”によって、エドの堪忍袋が完全に破けてしまった。

 

『がぁぁあぁぁ嗚呼あああぁぁぁぁ嗚呼あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』

 

エドは狂ったように叫び、男達を追い回す

 

『チビチビチビチビ言ぃぃぃぃぃいいいいいうぅぅうぅぅぅぅぅうううううんんんんじゃぁぁぁああああぁぁああねぇぇえぇぇええぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

エドと男達による、恐怖の鬼ごっこが幕を開けた。

 

その時のエドの顔は、証言できないほど、凄まじい顔となっていた

 

『キャァァァァ!!!』

 

その顔を見た女性達は驚き尻餅をつき

 

その顔を見た子供達は失神する者も居た

 

『おぉぉぉおおららああぁぁあああ!!!!待ちやがぁぁぁあああれぇぇぇええええええええええええ!!!!!!!!!』

 

『あいつ気にしてたのか、身長のこと』

 

男達は、割と軽くエドの事を受け止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 西部〜

 

『すみません、行方不明になったダンテさんの事なんですが……』

 

『いやぁ、悪いけど、居場所は知らないねぇ……』

 

行方不明者の事を質問をして、結構な時間が経った

 

日がもうすぐ、落ちそうになるといっても良い。

 

『あの……居なくなる前日は、何をしていたか分かりますか?』

 

ロイドが真剣な顔でそう問うと、女性は悩み

 

『そうねぇ……森の中に入って、それ以降は見ていないのだけど……』

 

『それは、何時辺りの事ですか?』

 

『えっと…夜の7時くらいかしら……』

 

ロイドは、そのことを聞いた瞬間、表情を険しくさえ

 

『協力、ありがとう』

 

そう言って、女性に礼を言った。

 

『……これで、三人目だね』

 

『ああ…三人のほとんどが、夜の7時に森の中に行ったきり、戻らないと言っていた。』

 

『でも、何のために森の中に入ったんだろう…』

 

マルタが、その原因を探るが、どうしても答えが出てこない。

 

そのとき、ロイドは前へ前へと進んでいく

 

『ロイド?』

 

『とりあえず、森の中に行こう。そこに、何かある事は確実だ』

 

そんなに根拠は無いが、ロイドはそれが確実だと思っていた。

 

『そ…そうだよね!三人の皆が、森の中に入ったきり、戻らないって言ってたからね』

 

マルタも、それが確実だと思い込む

 

『とりあえず、この街を出てみよう』

 

そう言って、ロイドとマルタは門の外へと目指して歩いた。

 

門を通り抜けた瞬間、何か違和感を感じた

 

『………?』

 

どこからか、視線を感じるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 周辺 木の上〜

 

『始めようか』

 

中性的の人物が、これまでにない満面の笑みで、村を見つめていた

 

『いよいよか』

 

そう言って、ゲーデは木から飛び降りる。

 

そして、手をパンと叩き、地面に手を置いた。

 

地中の中の穴が、光に包まれる

 

これで、また一つ復讐に近づける

 

俺が、強くなれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 南部〜

 

バラバラの瓦礫だらけだった家は、たった数秒で元通りになり、さらに前の家よりも綺麗だと、村の人たちは喜んでいた

 

『ふー。これで全部の修理は終わったな』

 

所々走り回って疲れたエドは、その場で寝転んでしまった。

 

『よぉ坊主、良くやってくれたじゃねえか』

 

先ほどの男達が、笑顔でエドの方を見ていた。

 

先ほどのチビコールがまだ許せてないエドは、その男達を不穏の顔で睨みつけた

 

『なんだよその顔、もう良いじゃねえか。俺達も悪かったよ。まさか気にしてるとは思わなかったからよ』

 

『だからと言って、人にチビを連発で言うのは、どうかしてると思うぞこのクソ顔面芋虫野郎』

 

怒りの混じった声で、まだエドは発言をした。やはりまだ怒っているようだった

 

だが、男達はただそんなエドを笑っているだけだった

 

『何笑ってんだよ』

 

『はっはっは!いやすまんすまん。一ヶ月はかかるだろうと思っていた重労働が、こんなにすぐに終わっちまうなんてさ、嬉しくて嬉しくて』

 

そういいながら、昨日は大変だったとか、あの時は夢でも見ていたようだったとか

 

そんな事を言いながら、皆笑いあっていた。

 

正直言うと、エドはそんな笑いは嫌いではなかった。

 

『……。っけ。能天気な奴らだ』

 

そんな事を言いつつも、エドも笑顔になりつつあった。

 

『あーん!風船がぁ…風船がぁ……』

 

小さな女の子が、空を見上げて悲しそうな顔をしていた

 

『どうしたんだい?お嬢さん』

 

男達が空を見上げると、そこには風船がかなり遠くまで飛んでいた

 

『あー…こりゃ駄目だね。もう届かないや』

 

う―…と女の子は悔しそうな顔をする。

 

そんな顔を見て、エドは立ち上がった

 

『っと。あの風船をとりゃぁ良いんだな?』

 

そういうと、男達はエドの方へと振り向く

 

『おいおい、まさか空でも飛ぶつもりか?さすが高等な魔術使い様はなんでもできるんだな』

 

『一応、錬金術師と呼んでくれれば嬉しいんだがな。』

 

錬金術と聞いた男達の顔は、疑問の色が混じった

 

『錬金術?なんだぁそりゃぁ』

 

まあ、そう思われるとは分かっていた。

 

拉致があかないため、エドは錬金術を発動し、地から階段を作り出し、風船の高さにまで作り上げた

 

そしてエドはその階段を全速力で上がっていき、風船の場所まで向かった

 

『うぉおおおおおおおおおおお!!!』

 

幸い、今日は風の無い日だった。風船の勢いはどんどん死んでいっていた為、風船を捕まえるのは難しくなかった

 

『おお!!すっげぇぞ錬金術師!』

 

男達はその光景に興奮して、歓声の声をあげる

 

この歓声を浴びるのは、エドは結構気持ちよかった。

 

思わず、顔が笑顔になっていった。

 

『お兄ちゃん!ありがとー!!』

 

女の子の声が響いた瞬間、階段が揺れているのが分かった

 

『ん?』

 

錬金術のエネルギーが甘かったのか?そう感じていたが

 

どうやら、そうでは無いらしい。

 

『おっ…おっ!?なんだ!?』

 

『地震だ!!』

 

地震が村を襲い、地面が揺れだしていた

 

そのとき、村の人たちも何かがおかしいことに気づく

 

『がぁっ……!!!ああああ!!!』

 

それは、人間の声で無いような、死神にでも出会っているような表情で

 

もだえ苦しんで、どんどん地面に吸い込まれるように倒れていく

 

『!?』

 

瞬間、階段の途中にヒビが入りエドは吸い込まれるように、地面へと落ちていく

 

『うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 村長の家〜

 

エミルが料理を運び、老人の居る机の上に用意をする。

 

リクエストされたオムライスを作り、形を作るようにしてしまったため、時間が掛かってしまったが

 

『……遅かったな』

 

『ご…ごめんなさい……』

 

エミルは、誤りながらも作った飛び立つ白鳥の形をしたオムライスを村長の机の上に置いた

 

『…………』

 

その完成度に、老人は一瞬驚いたが、エミルは形の事を言わずに

 

『口に合いますかどうか……』

 

と申し訳なさそうに答える。

 

老人がオムライスを口に運ぶと、そのままモグモグと口を動かす

 

そのまま、ずっと噛みながら味わって食べていた

 

『………まぁまぁ合格点だな』

 

そう言われたが、エミルは安堵した息と笑顔を漏らした。

 

不味いと言われないだけ、マシだと思ったからだ。

 

そのまま、老人は口を動かし、またオムライスへとスプーンを運ぶ

 

その瞬間、巨大な地震が起こる

 

『!?』

 

その唐突さに、エミルは驚き、その場で伏せてしまった

 

だが、村長はもう慣れているかのように、その場でただオムライスを食べている

 

30秒もしないうちに、地震は収まったが

 

何か、嫌な予感がする

 

『マルタ……!?』

 

急に、マルタの事と、エドとロイドの事が脳裏に浮かんだ

 

『バリオさん!何か……嫌な予感がするのですが!』

 

エミルは、老人に訴えるように声をかける

 

すると、老人は食うのを止め、その場で立ち上がる

 

『………何の音じゃ?』

 

老人は扉を開ける。その扉の向こうから、崩れる音が聞こえるが、悲鳴が一切聞こえない

 

まるで、それは皆が死んでいるようだった

 

『……………!!』

 

その光景をみたエミルは、唐突に不安になり、その場を駆け足で去った。

 

老人は、そんなエミルを、何の文句も言わずに

 

ただ、壊れていく村をじっと見つめていた。

 

『………シェシラ…』

 

後ろから、太い腕に頭を掴まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ森 村近く〜

 

急に地震が起こり、その場で転ぶようにしゃがんだ二人は、

 

地震が収まるまで、その格好で待つことにする

 

『なっ…!地震か!?』

 

『大きい……!村が崩れているみたい……!!!』

 

その場で屈んでいると、急に地盤が割れ、

 

地面は今にも沈下しそうになっていた

 

『!!マルタ逃げろ!!』

 

ロイドが叫んだときは、もう遅かった。

 

マルタはもう既に、地中へと落ちていった。

 

『きゃぁああああああ!!』

 

『マル……』

 

ロイドが、手を伸ばそうと立ち上がると、ロイドもその地盤沈下に巻き込まれてしまった

 

『うわぁあああああああああああああああ!!!!』

 

だが、その沈下は思うよりは浅かった。

 

1秒もしない内に、背中で地面を受け止め、マルタは腰を痛め、

 

頭を打ったロイドは、頭を抑えた

 

『痛たたたた…』

 

マルタは涙目で腰を抑えていると、辺りが明るいことに気がつく

 

『ここは…?』

 

なぜ、この地下が明るいかは疑問に思っていたが、

 

その明るさはすぐに失われ、そこは地下らしい薄暗い場所へと変わった

 

『あれ?今のは一体……』

 

マルタが頭を傾げると、ロイドが頭を抑えながら立ち上がる

 

『さっきの地震は…収まったみたいだな』

 

地震が収まり、沈黙が続いていく時、どこかうめき声が聞こえた

 

『ん…?今の何か聞こえなかったか?』

 

すると、またうめき声が聞こえる

 

『本当だ……人の声?』

 

『さっきの地盤沈下で巻き込まれた人たちかもしれない…。行こう!!』

 

ロイドは、声のする方へと走っていく。

 

すると、うめき声はどこからも聞こえている、所々に巻き込まれた人が居るのだろうか

 

『すいません!!誰か居ませんか―――!?』

 

マルタは、巻き込まれた人を探すように、声を出した。

 

だが、それはすぐに必要が無くなった

 

『痛っ!』

 

マルタは、何か棒状の物に躓いたのだ、

 

それは、人間の足だとすぐに分かった。

 

『………!ロイド!!居た!!』

 

マルタは、暗闇の中でロイドを呼んだが、暗闇の中では、どこに居るのか分からない

 

『本当か!?マルタ……光は!?』

 

『ちょっと待って…。よし!』

 

マルタは、光魔法を唱え、光の玉を召還し、その場所に電球をつけるように明るくさせた。

 

だが、それは後悔とも言える感情を呼び出した

 

『…………!!!!!!』

 

そこにいたのは、足だけ人間だった。

 

足から上は、大きな心臓のような身体で、目は股間にあり、血を流している

 

腕はアンテナのような上に二本

 

さらに、口が真ん中にあり、その口は大きく裂かれていた

 

しかも、所々に、顔のような物が存在していた

 

『嫌ぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

マルタは叫び、その場所から逃げ出した。

 

しかし、逃げても光の玉は追いかけ、辺りは良く見えてしまう

 

一定の距離を走った所、はた腕だけが元の人間で、他の部分が、人間の形をしていない何かがあった

 

『ああ……あああああ!!!』

 

マルタは、必死に出口を探していた

 

走れば走るほど、多くの人間の形をしていない何かが置かれている

 

途中で、その何かが破裂して、真っ赤な血が自分に降りかかった時、自分の中の何かがおかしくなり始めた

 

『うあはっはああああああううあうあうあああうあうあうあうあああ!!!!!』

 

泣きながら、その血を振り払うように、出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口出口へと目指していった

 

走っていくとき、そこに見覚えのある顔があった

 

『………』

 

顔だけが人間の、その顔は

 

『ダンテさん……』

 

顔から下は、まるで球根のようだった

 

球根に芽が生えているように、その顔はあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アルケ村 南部〜

 

目が覚めると、自分の周りは瓦礫だらけだった

 

体中のあちこちが痛い、どこからか強打したらしい

 

右手には、破裂した風船の紐を握っていた

 

『痛つつ……』

 

エドは、強打した左腕の肘からちょっと上の部分を押さえ、そのまま立ち上がった

 

立ち上がったときに見た光景は、地獄だった

 

『………!!』

 

いつの間にか、左腕の痛みは消えていた

 

折れてもいなければ、幸い内出血もしていない

 

大した怪我では無かったが。

 

 

目の前の人間、さっきの女の子

 

さっきまで陽気に笑っていた人たちは、皆、皆

 

『死んでる………』

 

どれも、どれも、どれも、どれも脈や心臓の音を聞いたが、誰一人動いていなかった

 

どういう事だ

 

一体、何が起こったんだ……?

 

エドは、ただただ混乱するばかりだった

 

そのとき、瓦礫の間に動く影が見えた

 

『……!?』

 

それは、どこも見たことの無い顔だった。

 

『なんだ?てめぇ……』

 

エドは、その見知らぬ相手を睨みつける

 

その見知らぬ相手は、興味の無いようにそっぽを向いて、どこか走り去った

 

『あっ!!おい待ちやがれ!!』

 

そいつは、何か知っているような気がする

 

根拠は無いが、俺の第六感がそう言っている

 

その第六感を信じて、その相手を追い続ける

 

『待ちやが……れっつってんだろぉ!!!』

 

エドは、手を叩き、そいつの前に壁を練成した。

 

捕まえた!と思ったが

 

そいつは、走っている最中に手をかざし、練成反応に発する光を発した

 

『!?』

 

そいつは、エドの練成した壁を分解し、そこで止めた

 

しかも、ノーモーションで

 

錬金術が使えるその相手に、エドは

 

『俺達の世界の野郎か……!?』

 

もしかしたら、この世界に俺達を送った、あの白いカノンノの仲間なのかもしれない

 

それを考え、エドはそいつを追いかけた

 

 

辿り着いた先は、村の大広間というような場所だった

 

噴水の周りには、死体が多い

 

だが、噴水は容赦なく、死体を埋めるように水を出す、出す、出す。

 

そこで、そいつは立ち止まった

 

エドは、そいつを睨みつけたまま、一瞬視線をそらし、どこかあの白いカノンノが居ないか、目を回した

 

『てめぇらは何だ……?何のためにこんな所に居る…!?』

 

エドは、そいつに語りかけるが、そいつは全く無反応だった。

 

すると、そいつは屋根の上へと上る

 

『てめっ…!この野郎!!』

 

エドも負けじと、上へと上る。

 

その大広間の屋根の上には、とんでもない物が存在していた

 

『…………』

 

嘘だ、こんな所にそんな物があるはずが無い

 

だが、確かにそこには”それ”があった

 

そして、それが関係しているということは

 

『そうそう、お察しのとおり。ご名答だよおチビさん』

 

エドは、怒りで見開いた目で、恨みをこめるように振り向く

 

『エンヴィー……!!』

 

いつまでも、不気味に笑うそいつは、エドの怒りをさらに増幅させる

 

『てめぇ…!!こんな事をして何のつもりだ!!』

 

『何のつもり…だって?見ての通り。作ってるんだよ。』

 

エンヴィーは、”それ”に近づき、そして手を触れる

 

『賢者の石 だよ。』

 

それを取った瞬間、エドの追いかけていたそいつに手渡す。

 

すると、そいつは賢者の石を飲み込んだ

 

これで、ついにこの人たちは助けられなくなった

 

『……この野郎!!』

 

『おお怖い怖い。何をそんなに怒ってるんだよ』

 

エドは、右腕を刃に変え、戦闘体制に入った

 

『てめぇらの目的は大体分かる。だがなぁ、この世界の奴らが俺達と何の関係があるんだ!!』

 

『大いにあるじゃないか。賢者の石の材料になれる』

 

『ふざけるな!!関係の無い奴を巻き込んで…タダで済むと思うな!!!』

 

エドは刃物に変えた右腕で、エンヴィーへと近寄る

 

だが、それはすぐに徒労に終わる。

 

賢者の石を飲み込んだそいつは、手をエドの方にかざした瞬間、床が発光し、

 

床から、多くの先端が尖っている鉄パイプが突き出て、鞭のように動き、エドを襲った

 

『ぬぅあ!!』

 

エドは、その攻撃を避けるが、足場が悪く屋根から落ちてしまう

 

『ちっ!!!!』

 

エドは、手を叩き壁を大きな手に練成した。

 

その大きな手は、エドを待っていたかのように受け止めた

 

『エンヴィー…!てめぇこれが目的で、この世界に来たって事か……!?』

 

エドは、上から見下ろしていたエンヴィーを睨みつける

 

そんな質問をされたエンヴィーは、大きく笑う

 

『目的ぃ!?ハッハッハ!そんなの考えたことも無かったなぁ!!』

 

『しらばっくれんなぁあああああああああああ!!!』

 

エドは、壁を階段に変え、またすぐに屋根の上へと上った

 

だが、賢者の石を飲んだそいつが、また地から鉄の厚い壁を練成し、そして発射させる

 

『舐めんなよ!!!』

 

二度も同じ手は使わない。エドは地から壁を練成し、その攻撃を防いだ

 

『おらぁ!』

 

エドは、その壁を乗り越え、そいつの方向へと向かっていったが、

 

それは叶わなかった

 

『!!』

 

今度は、そいつらが床を破壊し、エドとエンヴィー達は地へと吸い込まれた

 

エドは、その唐突さに身体を打ってしまったが、

 

そいつら二人は、何も無かったかのように無事着地した

 

『この……』

 

エドが立ち上がろうとした瞬間、またそいつの手が光り、

 

エドの横から鉄線が練成され、エドはその場で縄を縛られたように、動けなくなってしまった

 

『ぐあ!!てめぇ汚えぞ!!!』

 

エドが何度吠えようが、エンヴィーはただ笑っているだけだった

 

『いやぁ、愉快な姿だねぇ。おチビの錬金術師』

 

『てめぇコラァ!!ほどけぇ!!絶対ぶっ殺してやる!!!』

 

チビと言われ、さらに頭に血が上ったエドは、ジタバタするようにその場で踏ん張った

 

『エド!!』

 

向こうからは、剣を抜いていたロイドと、

 

血まみれのマルタが立っていた

 

『マルタ!ロイド!!』

 

エドは、早くどこか逃げろと暗示かけたが、

 

二人はそれに気づかず、エドの方に向かった

 

『なっ…!てめぇ馬鹿野郎!!!』

 

『はっは!随分仲間思いのお友達だねぇ!』

 

エンヴィーが、エドの仲間達に指を指し、そいつはエドとそいつらに境界線を張るように突起物を練成した

 

『!!』

 

瞬時に、その技は錬金術だと理解した二人は、そいつがエドの知り合いなのかと思う

 

だが、この状況からして決して仲が良いとは言えない関係だろう

 

『エド!こいつらは何なの!?』

 

『答えられない!!』

 

『ふざけるなエド!!今の状況が分かってるのか!?』

 

『でも答えられない!しかし、こいつらは敵だ!!』

 

エドは、大声でそういうと、ロイドがエンヴィーに突っ込む

 

だが、それも賢者の石を飲んだそいつのせいで、突起物により遮られる

 

『くっそ!』

 

さらに、その突起物は変形をして、

 

檻の形となり、ロイドはその檻に包まれてしまう

 

『ロイド!』

 

『ははは!!オチビさんの仲間は頭が悪いねぇ』

 

エンヴィーは、馬鹿にするようにロイドを一瞥する

 

すると、瓦礫の中からもう一人、

 

太った子供か大人か、どっちか分からない黒い奴が現れる

 

『ねぇエンヴィー。これあまり美味しくない』

 

太ったそいつは、手に何か持っている

 

それは、顔面が半分剥がれているが、バリオさんだった

 

『老人はなぁ。ちょっと不味いかもしれないなぁ。』

 

エンヴィーは、子供をあやすようにそいつに言う

 

すると、そいつはマルタを見つけ、そちらを睨みつける。

 

そして、笑顔になり、よだれを垂らしながら、エンヴィーに質問する

 

『ねぇ、女の子の柔らか肉、食べて良い?』

 

その言葉を聴いた瞬間、マルタの顔に余裕が完全に無くなる。

 

今、何を言った?食べる!?

 

『ん?ああ良いぞグラトニー。こいつらの人間は、別に減っても俺達にメリットは一っっ切無い。』

 

そう言うと、グラトニーは笑顔になり、マルタの方向へと襲い掛かる

 

『!!!』

 

マルタは、とっさに避けたが、尻餅をついた状態だった。

 

死ぬ、死ぬ、死、死………

 

そんなことが、頭をよぎる

 

『女の子ぉ〜柔らか肉〜〜』

 

グラトニーは、鼻歌を歌うようにマルタに近づく

 

『やだ……エミル……エミル……!!』

 

マルタは、ガタガタ震えて使い物にならない足を使わず、腕で後ろ退がるしかできない

 

故に、捕まるのは時間の問題だった

 

『いただきまぁああああああすうううううう!!!!』

 

飛び跳ねるように、グラトニーはマルタを食べに掛かる

 

『いやぁあああああああああああ!!!』

 

瞬間、グラトニーの顔が半分になる。

 

マルタは目を開ける

 

と、そこにはエミルが居た

 

『エミル……』

 

エミルの剣には、グラトニーの血がついている

 

『邪魔だ、どいてろ』

 

『え…エミル……エミルゥ……』

 

マルタは涙を流し、エミルが来たことに安堵をした

 

『邪魔だっつってんのが聞こえねぇのか』

 

その声は、かなり迫力のある声で、マルタは思わず後ろに退がる

 

『?』

 

グラトニーの顔は、だんだん回復していき

 

最終的には完全に頭が元に戻った

 

『……なんだ?この生物……!?』

 

ロイドが、この生態系に疑問を抱く

 

だが、グラトニーは、まだマルタの方を狙っている

 

『隙だらけだな』

 

そのグラトニーに、エミルは容赦なく剣を振る、

 

今度は三等分にしたのだが、だが構い無くまるで単細胞生物のようにくっついてしまう

 

いくら切っても切っても無駄、ということか?

 

エミルは、とりあえず使えそうな奴を使おうと、

 

エドの鉄線を切りつけた

 

『立ち上がれ、チビ』

 

エミルがそう言った後、エドは思いっきり立ち上がる

 

『元気にしてるか?目が赤いぜ。病院行ったほうが良いんじゃねえの?』

 

『お前も医者に身長伸ばして貰ったらどうだ』

 

『伸ばしてくれるなら伸ばしてるっつの!!』

 

エドとエミルは、話はもう済ましたかのように、

 

瞬時にグラトニーの方に駆け寄り、

 

『エミル!こいつをバラバラにしろ!!』

 

『意味無えだろうが!』

 

『良いからやれ!!!』

 

エミルはグラトニーをバラバラに切り裂き、

 

エドは鉄製の縄を作りだし、グラトニーを締め付ける

 

『!!』

 

驚異的な回復力のそいつは、まるでボンレムハムのように締め付けられ

 

完全に動けないようになっていた

 

『一丁あがり!』

 

『ふぅん…よく考えたもんだな。』

 

エドは、自信満々に答える

 

『頭良い奴は戦略を常に考えるからな!』

 

本当は、前にある奴と一緒に行った作戦と全く同じであるのだが

 

『さて…次はお前らか。』

 

すると、エミルはエンヴィーの方へと振り向く

 

エミルは、敵意の満ちた目でエンヴィーを睨みつけていたが、

 

エンヴィーは、クスクスと笑っていた

 

何がおかしいのかは、分からなかったが

 

『おい、アンテナ』

 

『ああ?』

 

エンヴィーは、瓦礫の下から、ある物を取り出した

 

『これ、なーんだ?』

 

エンヴィーが取り出したのは

 

アルケ村の村長であるバリアの、生首だった

 

『……』

 

エミルの剣を握る手が強くなっていく

 

『いやぁ、簡単に死んじゃったよ。面白いくらいに。グチャグチャって。ははははははははは!!!!』

 

挑発しているのか、エンヴィーはわざとらしくその生首の目玉を潰し、

 

右腕の人差し指を右目に、左腕の人差し指を左目に入れて、その頭を引き裂いた

 

その中から、脳みそと透明の液体が、ドロドロと流れた

 

『うへぇ〜。汚ったねぇなぁ〜。この村長〜。これにお前、仕えてたんだぜ?』

 

これが挑発だと、エミルは知っていた。

 

何か作戦があるのだろうとも感じていた。だが

 

『不愉快だ…』

 

それに関係なく、自分の意思でエミルはそいつらの方へと向かった

 

エミルは、剣を握りエンヴィーの方へと駆け寄る

 

『おい!!エミル!!』

 

『は、やっぱ馬鹿だな。おチビさんの楽しい仲間達?』

 

賢者の石を飲んだそいつは、こちらに来たエミルの方へと駆け寄り、エミルの方に手をかざす

 

『!?』

 

エミルの身体が発光した。まるで電撃が走っているかのようだった

 

『エミル!!!』

 

エミルは、声を出すものかと歯軋りを立て、我慢するように、

 

そいつを切りつけようと、剣を振り上げる

 

『……死ね…!!!!』

 

だが、それは間に合わない。

 

身体の発光が終わったときには、もうすでに遅かった。

 

振り上げていた剣は、地に落ち、

 

エミルの身体も、落ちるように地へと倒れた

 

『……エミル?』

 

マルタが、エミルに声をかける

 

まるで、信じたくないものを見るかのように

 

嘘だ、死んでいない

 

死んでいるはずが無い

 

マルタは、ゆっくりと立ち上がり、エミルの方へと向かおうとした。

 

『おっ!予想以上の賢者の石だ!すげぇこいつ一人の命でこんな賢者の石ができるなんてなぁ!!』

 

エンヴィーは、黒い石を持ちながら、見開いた目で眺めていた

 

 

その言葉を聴いた瞬間、マルタの目が見開いた。

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

武器を持ち、エンヴィーの方へと向かう

 

攻撃するように、武器を振り上げた瞬間、

 

地から突起物が現れ、マルタの腹を襲った

 

『が……あ……』

 

突起物の出現により、マルタは遠くへと吹っ飛ばされる。

 

地へ叩きつけられた瞬間、血を吐いた。手で口を押さえても、ドバドバ吐いた

 

『てめぇ……エミルを元に戻せぇえええええ!!!』

 

エドが、練成で地から槍を練成し、それを持ちエンヴィーへと駆け寄る

 

だが、エンヴィーは

 

『うん。戻すよ』

 

そう言って、エドの方へと投げた

 

その唐突さに、エドは驚き、

 

すぐにその黒い石を受け止めた

 

『………!?』

 

エドは、何がなんだか分からなかった

 

何故、この石に感心しといて、あっさりとこの石を返したのだろうか

 

『何を考えてやがる………』

 

うーん…とエンヴィーは考える仕草をすると、笑顔で答えた

 

『それはさ、結構強大な力持ってるのよ、賢者の石のうん倍はするだろうね。まさかこの世界にこれほどの価値の命を持ってる奴が居るなんて思わなかったけどさ』

 

すると、エンヴィーは立ち上がり、そして続きを説いた

 

『けどさ、こんな物飲んだらリスクが大きいからさ。俺達死んじゃうわけよ』

 

『……』

 

エミルが持っている強大な賢者の石の材料

 

それはかなり驚いたことだが、大きな疑問が生まれる

 

エミルは、こいつは何者なのだろうか

 

『でさ、一つ取引っていう面白いのを思いついた訳よ。』

 

エンヴィーはそう言いながら、丸まっているグラトニーを担ぎ、エドの方へ向いた

 

『その黒い賢者の石を、俺達に差し出せ。そうすれば、もうこんな事はしないからさ』

 

エンヴィーは、そういった後、エドから去ろうとしていた

 

やはり、この行動にはあまり意味が分からない

 

何が望んでいて、何を望んでいるのか

 

『待ちやがれ!どういうことだ!』

 

『そういう事だよ。おチビさん。その黒い賢者の石を差し出せば、もうこの世界で賢者の石は作らない。今は見逃すけど、ね』

 

こいつは、本気で取引をゲームだと考えている

 

俺達が、どう取るか楽しみにしているんだ

 

『まぁ、その石が欲しい奴は他にも居るだろうけどね』

 

エンヴィーは、そう言い捨てた後、エドに紙を投げつけ、その場所から去って言った。

 

数秒もすれば、そいつらは完全に居なくなる

 

居なくなれば、そこには完全な静寂が流れた

 

『エド………』

 

マルタが、すがるようにエドワードを見つめる

 

『エミルを……』

 

エドは、この黒い賢者の石をエミルの口の中へと入れた。

 

すると、エミルの口は動き出し、その石を飲み込んだ。

 

飲み込んだ瞬間、エミルはゆっくりと瞼を開け

 

その場から立ち上がった

 

『…………?』

 

エミルは、その場から探すように首を動かす

 

『……大丈夫か?エミル』

 

『あれ…?ロイドさん。どうして檻の中に?』

 

エミルが、そんなことを疑問に思っているうちに、

 

後ろから誰かに抱きつけられた。

 

『うわ!』

 

その唐突さで驚いたが、

 

マルタが、まるで恐怖で母親に抱きつく子供のように、強くエミルを握るように抱きしめていた

 

『………マルタ?』

 

マルタの泣き声が、背中越しに聞こえた。

 

その泣き声は、何か怖いことがあったのだろう

 

ずっと、ずっと泣いていた

 

『…………エド?』

 

エドは、エンヴィーから渡された紙をじっと見ている。

 

『……………』

 

賢者の石作成の陣の描かれた絵だった

 

『その紙は?』

 

エミルは、疑問を持つようにその紙を覗きこむ

 

だが、エドはすぐにその紙をビリビリにした

 

『なんでもねえ』

 

そう言って、その紙をその場所へ放り捨てた

 

そして、飛んでいく紙を見つめた。

 

この、一瞬で廃墟へと変わった。死体で埋まるこの村を

 

 

ずっと、エドは見つめていた

 

 

 

 

死の村と化した、アルケ村を

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〜バンエルティア号〜

 

エド達は、先ほどの事件からの終わりの後、アドリビドムに帰ってきた

 

『あら、お疲れさ……』

 

明らかに、空気がおかしい。

 

どこからか ぎこちなく、弱弱しいイメージが思い浮かぶ

 

『…………』

 

アンジュは、その原因がなんとなく察知していた

 

多分、あの老人に思うようにこき使われたのだろう。そうに違いない

 

『大変だったわね』

 

『ああ、大変だった』

 

エドは、何も言わずに部屋に戻っていった。

 

ああ、思ったとおりだ。とアンジュは溜息を吐く

 

『貴方達も、あのお爺さんに色々使われて疲れたでしょう。報酬は四人で山分けしても良いからね。』

 

『報酬はありません』

 

アンジュは固まった。

 

まさか、何かあの老体がイチャモンつけて報酬を支払わなかったとか、

 

そのような事が頭に浮かんだのだ

 

『ちょっと、アルケ村に行って来るわ』

 

アンジュは、戦闘用具を持って入り口に向かっていった。

 

だが、それはロイドの手によって止められた

 

『別に貴方達が悪いわけじゃないのよ。元々、私達はハメられたのよ。あの爺さん、元々報酬を払うつもりなんか!!』

 

『払わなかったんじゃない。払えなかったんだ』

 

ロイドのその言葉に、アンジュは益々混乱する

 

『それじゃぁ、払う前に逃亡でもしたのかしら?だったら尚更!!』

 

『違うんです!アンジュさん!!』

 

三人とも、真面目な顔をして立っている

 

そして、アンジュの方を見ていた

 

それは、少なくとも報酬をバックレタ事では無いだろうと感じた

 

『………何があったの?』

 

アンジュが、掘り下げるように三人に疑問をぶつける。

 

『……………』

 

三人は、少しだけ言いづらそうな雰囲気になっていた

 

『………エドワードの世界の…』

 

最初に口を開いたのは、マルタだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜食堂〜

 

『おかえりなさい、エドワードさん。ご依頼の方は、お疲れ様です。』

 

ロックスが、大きな鍋をかき混ぜながら、エドに問いた

 

エドは、ぶっきらぼうにエドの定位置の椅子に腰掛け、

 

心配されまいと、いつもの調子で声をかけた

 

『ふぅん、今日のは美味そうじゃねえの?』

 

『ははは。恐縮です。』

 

『前みたいに、牛乳が入ってなきゃ良いけどな。』

 

ロックスは、鍋の火を止め、皿にスープを盛る

 

『大丈夫ですよ。ケーキを作る以外に牛乳は使わないようにしていますから。夕飯は安心して食べていってください。』

 

そう言って、ロックスは小さい身体とは似合わぬような力を出し、大きなスープ皿をエドの方へと持っていった。

 

『真っ赤だなー……』

 

『イタリア式、ミートソースバジルのパスタスープです。』

 

フォークで刺すと、パスタの麺がフォークに絡まった

 

エドはその麺を荒く口にすすり、ズルズルと麺を吸い込む

 

『エドワードさん。いただきますはちゃんと言わないといけませんよ』

 

『いははひはふ(いただきます)』

 

『物を口に運んで言わないでください』

 

ロックスは半分呆れ顔で、エドを叱った。

 

『ふぅん……今日はまあまあだな』

 

『素直に美味しいと言ってくれれば嬉しいんですけどね。』

 

エドは、ロックスにそう皮肉られても、そのまま食うのを止めなかった。

 

ただ、端から見ればエドは腹が減っているように見えるだろう。

 

だが、ロックスはそのエドを、疑問に思う

 

『何かあったのですか?』

 

ロックスがそう質問すると、エドの手がピタリと止まった。

 

『…………』

 

『やはり、何かがあったのですね。』

 

ロックスはそう言うと、再び料理の方に戻った

 

『………何も無えよ。』

 

『隠せば良いですよ。私も、人の傷をえぐるほどSではありませんから。それ以上は聞きません。』

 

ただ、ロックスは何かがあった事に気づいただけで、満足したようだ

 

『ただ、相談がしたいのなら。どうぞ私に言ってください。何でもお聞きいたします。』

 

ロックスがそう言うと、また料理を続けた。

 

人が多いから、作るほうも大変そうだった。

 

『そうかい。じゃぁ何も無かったよ』

 

エドはそう言って、残りのスープを全て飲み干した

 

『ごっそさん。明日はもっと美味い飯を期待してるぜ』

 

そう言いながら、エドは食堂から去っていった。

 

人参を切りながら、ロックスは黙り込んでいた。

 

人参を切り終えた後、ロックスはボソリと呟いた

 

『………エドワードさんは、ただ優しすぎるんですよ。だから僕達に距離を置いて、関わらせないようにしているのですね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エミルとマルタの部屋〜

 

エドは、先ほどのエミルを心配し、部屋を目指していた。

 

先ほど、なんとか一命を取り留めたが、自分の賢者の石を飲み込んだだけだ。

 

くしゃみをすれば、石が出てきてまた仮死状態に陥る可能性だってある。

 

できれば、そんな馬鹿みたいな展開は御免だが。

 

扉を開けると、エミルは笑顔でエドを迎えた

 

『あ……エド。どうしたの?』

 

エミルからは歓迎されたが、マルタからは歓迎されなかったようだ。

 

険しい表情で、エドを睨みつけていた

 

『……何しに来たのよ』

 

『お前にゃ関係ない。エミルに関係することだ』

 

エドがそう言った刹那、マルタは表情を変えて、エドに大声を発した

 

『出てって!!!』

 

その迫力のある声で、エミルはビクリと肩を動かしたが、

 

エドはピクリとも動かなかった。

 

まるで、言われる事など分かっていたかのようだった。

 

『俺は、ただ確かめたいことがあっただけだ』

 

『錬金術で出来た、あの黒い石のことでしょ』

 

そうだ、エミルは持っている

 

あの黒い賢者の石は、エミル一人の命で出来た物だ。

 

人造人間は、それを賢者の石のうん倍も力を持つと言っていた。

 

普通は、複数の人間で賢者の石は作られるというのに

 

エミル一人で、さらにその一人だけで強力な賢者の石が作られる

 

エミルが何者か、それがエドは気になっていた

 

『そうだ』

 

『だったら尚更よ。錬金術と関わらせないで』

 

『それは出来ない。奴らもエミルを狙っているんだ。』

 

エドは、エミルの方にちらりと見たが、すぐにマルタに視線を戻した

 

『…普通の賢者の石は、複数の人間で作られる』

 

『…………』

 

マルタは、床を見ているかのように俯いていた

 

『だけど、エミルはたった一人で賢者の石を生成できた。さらにその石は、賢者の石の何倍もの効力を持つ』

 

『じゃぁ、アンタもその石が欲しいの?』

 

『……要らないと言えば、嘘になる。』

 

その場は、さらに殺伐とした空気になる。

 

エミルは、その空気に圧迫されそうに、その場でただ椅子に座っていた。

 

この険悪な空気が、早く終わって欲しいとずっと願っていた。

 

『だが、俺はエミルの石を欲しいとは思わない。それだけ強力な物は、俺の身も危険だからな。』

 

エドは、エミルの方に視線をやる

 

その視線を逸らすように、エミルは壁の方に顔を向ける

 

『俺が気になるのは、それ程の力を持つこいつは何者か、という事だ。恐らく、こいつは人間じゃなく…』

 

『うるさい!!!!!』

 

マルタの声が、また部屋に響き渡る

 

『人間じゃないのはアンタの方でしょ!?錬金術ってあんなに人を殺すものなの!?錬金術って人間をあんな形にする物なの!?錬金術師は人間の命を使った賢者の石がそんなに欲しいの!?』

 

『ちょ…ちょっとマルタ!』

 

エミルは、マルタの暴走を止めようと割り入る。

 

仲間割れなんか、エミルは見たくない。エドとマルタも、仲良くして欲しいと思っている。

 

エドワードもマルタも、エミルにとってはかけがえの無い友人だ。

 

だが、エドはエミルの思いとは裏腹の言葉を発する

 

『そうだ。確かに錬金術は、時に人を殺す』

 

その言葉で、マルタはついに自我を失くしてしまう。

 

エミルの腕を振り払おうとして、エドに言葉で攻撃する

 

『人殺し!!人殺し!!エミルを殺すつもりなの!?エドワード!!!』

 

エドは、ただ暴れるマルタを見つめるだけだった。

 

エミルは、暴れるマルタを、ただただ押さえるように腕で抱きしめるしかできなかった。

 

すると、マルタは次第に大人しくなっていき、そして泣き出した。

 

『……お願い……お願いだから……エミルを殺さないで……殺さないでよ……!!』

 

その姿を見ても、エドは姿勢を変えない。

 

そして、ついにエミルに問いを持ちかける

 

『……エミル。お前はどうしたい』

 

エドは、エミルの判断を求めた。

 

『賢者の石になって、皆を救うか。それとも、皆と一緒に死ぬか』

 

エドは真剣に、そんな質問をした

 

その質問は、エミルを若干戸惑わせた。

 

その質問は、エミルに対するエドのイメージを、恐怖に変える転換点となる

 

だが、エミルはそんなイメージを振り払う

 

『………僕は、皆を守りたいです。』

 

そして、前を向いてエドの目を見た。

 

『皆、皆死なずに、誰一人欠けない。皆を守りたいと思っています。たとえ、この命に代えても。』

 

真っ直ぐな目で、エドにそう言った。

 

その目には、全ての覚悟があった。

 

マルタは、そんな答えなど聞きたく無かったのだろう。

 

その場で、ガクリと垂れるようにエミルの腕の中で重力に従うポーズとなった

 

その目を見たエドは、エミルから視線を逸らした

 

『……そうか。俺も同じだ。だが俺なら、命に代えて死ぬなんて事はしないだろうけどな』

 

その答えに、エミルは一瞬だけ混乱する

 

エドは、再びエミルに視線を移す

 

その時のエドの表情は、エミルに対する怒りが詰まっていた

 

『二度と死ぬなんて事は言うんじゃねえ!!てめぇが死ねば、それはもう守った事にならねえ!!そこに居る小娘に傷をつける事になるんだよ!!永遠に消えない傷を、お前はそいつに付けるのか!?ああ!?』

 

ヤンキー口調で、メンチを切りながらエミルに睨みつける。

 

その目に、エミルは少しだけ後ろに退がった。

 

『命を代えても、皆を守る?寝ぼけた事言ってんじゃねえ!!死んだらもう守るも糞も無えんだよ!!俺は毛頭死ぬつもりは無い!!てめぇも誓え!!』

 

エドは、拳をエミルの顔の前に突き出す

 

『俺達は、美しく死ぬより醜く長く生き残る方を選ぶってな!』

 

そう言われた後、エミルはまた少しだけ驚いたが、

 

だが、今度は安心が待っていた。

 

『うん。約束するよ』

 

そう言って、エミルは拳をエドの拳にぶつけた。

 

そしてすぐに悶えた。

 

小指が、エドの機械鎧の拳に思いっきりぶつかったからだ

 

『エ…エド……。痛い……すっごく痛いよ……』

 

『そりゃあ機械鎧だからな。当然だろお前』

 

小指の激痛に悶えるエミルを、ただエドはじっと見つめていた。

 

その光景を見たマルタは、クスリと笑った。

 

『なんだ。アンタ結構良い奴だったのね。さっきまでアンタの事ケチで豆で短気で豆で最悪の性格で豆で冷酷で豆で命を奪う豆だと思ってたのに。』

 

『小娘ぇ……。お前は守らん!!てめぇ豆を5回も言いやがったな!!!??』

 

エドの怒りとは裏腹に、マルタは真剣な顔してエドに言った

 

『でも私、錬金術師が正しいとは思わないから』

 

マルタはそう言うと、エドは呆れるようにその場から立ち上がった。

 

瞬間、扉から何かキシむ音が聞こえた

 

『ん?』

 

瞬間、扉がものすごい音を立てて開いた

 

『うわぁ!?何だ!?』

 

瞬間、煙の中から巨大な人影が見えた

 

まさか……そのとき、聞きたくもない声が聞こえた

 

『全て聞いたぞ!!エドワード・エルリック!!!』

 

『きゃぁあぁあああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

上半身裸の筋肉質の身体を見て、マルタは発狂していた。

 

『先ほどのアルケ村の惨事!そして人造人間の企み!それを阻止しようと動いたが、手遅れ……だが!!敵が条件としてエミル君を差し出すように言われるが、それを自ら拒否して、全員で生きることを選択する、我輩感動、感動したぁぁあああ!!』

 

アームストロングは、エミルの方に向かい、エミルに抱きつく。思いっきり

 

『ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

エミルの骨が外れる音と、骨をつなぐ腱が恐ろしい音で響いていた。

 

エミルは賢者の石にされる前に死にそうになっていた。

 

『エミル――――――!!!』

 

その状態のエミルを見て、マルタはただ叫ぶしかなかった

 

『……………』

 

エドは、扉の前に立っていたアンジュとロイドを不穏と怒りの混じった表情で睨みつけた

 

『わ……悪かったよエド……』

 

『あんな暑苦しい肉体を見せ付けられたら……喋らざるを得なくて……』

 

二人とも、エドと視線を合わせていなかった。

 

その時、完全にエミルの意識は途絶えており、泡を吹いて気絶していた

 

『嫌ぁぁぁあぁあああああああああああああああああああああああ!!!』

 

マルタの悲鳴が、艦内に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノとエドの部屋〜

 

外はもう夜になっていた。

 

疲れたエドは、もうその場のベッドの上で横になっていた。

 

そのベッドの上で、ある事を考えた。

 

人造人間の存在。

 

あれは、カノンノが予知していた物だろう。

 

あの絵が、教えていたのだろうか。

 

だが、その予知は当たってしまった。

 

それを知ったら、カノンノはかなり傷をつくのではないだろうか。

 

『……合わす顔ないな。ははは。』

 

無理に笑おうとするが。やはりどうしても駄目だ。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいだ。悲しい目に合わせないって、今日言ったばかりなのに

 

やはり、この場でも、自分の無力さを感じた

 

俺は、やっぱり人間なんだ。そう実感するついでに、その無力さに嫌気が刺す

 

『くそっ』

 

舌打ちをすると、それと同時にカノンノが部屋に入ってきた

 

『……大丈夫?エドワード』

 

いきなり、エドの身体が心配された。

 

多分、知られたのだろうか。

 

『ん?……ああ。あの老人が性質悪くてさぁ。ほんとやってらんねぇって感じだったわけよ。』

 

エドがそうはぐらかしたが、カノンノは笑顔にならない

 

大変だったね、とか言ってきそうだったのに

 

『………アンジュさんから聞いたよ』

 

その言葉で、理解した

 

完全に、知っていたのだ。こいつは

 

『…………そうか』

 

ただ、そう言うしかできなかったが

 

『………悪かった。いきなり約束破っちまった。』

 

そう謝ると、カノンノは戸惑い、すごい勢いで首を横に振った

 

『う……ううん!エドはまだ約束は破ってないよ。それは村の事は悲しかったけど、エド達が無事で良かったって。思ってるもん。』

 

カノンノが、そう言ったが

 

エドはまだ、暗い表情のままだった

 

『……一番辛いのは、エドなんだよね…。』

 

カノンノの描かれた絵が現実の物になって、

 

さらに、エミルを賢者の石として渡せと、黒い人たちに言われて

 

一番、そんな現実を見たくなかったのは……

 

『エド……。』

 

『………あれから、また絵は描いたのか?』

 

エドがそう言うと、カノンノはスケッチブックを取り出し

 

『………今は、もうそんな物は見えないから。いつも通りの、あの風景を描いてるよ。』

 

『…………そうか。』

 

エドは、ただそう言って、ベッドに寝転がる

 

『………ごめんな。あの現実、起こさせねえって言ったのにな。』

 

ただ、エドはそう言った後、

 

すぐに眠りに入った。

 

カノンノが明かりを消し、ベッドに入った瞬間からだ。

 

エドの寝息が、聞こえた

 

よほど疲れたのか、ぐっすりと眠っている

 

『……………』

 

カノンノは眠れなかった。

 

ずっと、ずっと考えていたからだ。

 

エドや皆は、ずっと行動しているのに

 

私だけ、何も行動せずに

 

ただ……ただ…絵を描いて

 

討伐をして、ただ依頼をこなしている

 

それが、クエストの仕事だとしても、ただ隊員として働いているのだとしても、

 

カノンノは、考えていた。

 

 

 

カノンノはベットから立ち上がり、エドのベットまで歩いた。

 

エドの髪は、三つ編みから開放されて、ロングの髪になっている。

 

身長からも、その姿は女性のようにも見えた。

 

『…………』

 

だけど、精神は誰よりも男らしいのだろう。

 

力強い腕が、それを物語っていた。

 

カノンノは、エドのベッドに乗り、そして寝転ぶ

 

そして、エドの身体を捕まえるように、腕を回し、抱きしめる

 

エドの身体は、大きな呼吸をしている。

 

大きく上下していた

 

『………………エド』

 

カノンノは、起こさないように囁く様に言った

 

『……申し訳無いのは、私の方なんだよ……。』

 

その声は、悲しそうな、そして自分が情けないような、そんな声だった。

 

カノンノは、自分の額をエドの背中にこするように、くっつけた

 

そして、その背中に語るように囁き続ける。

 

『……私は、守れるか分からないよ。エドを、皆を守れる自身なんか無いよ……。』

 

カノンノの目には、涙が溜まっていた。

 

その涙が、エドの布団を濡らした

 

『………ねぇエド、教えてよ。私は……私はどうすれば良いの?』

 

憎い。私の描いた絵の人たちが憎い。黒い人たちが憎い

 

憎い。エドを、仲間を傷つけた人達が憎い。

 

憎い。結局は誰も守れなかった、自分が一番憎い。

 

『エド……エドォ……エド……』

 

カノンノの握力が強くなる。

 

だけどエドは、目覚めることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

『アンジュ、精霊の居場所が分かった。すぐに移動してくれ』

 

キールのそのいきなりな言い分に、アンジュはすぐに戸惑う

 

『え?え…えっと。それって本当?』

 

『ああ、精霊が居る居場所、それは霊峰アブソールだと、この文献には描かれている』

 

居場所を聞いたアンジュは、さらに驚いた

 

『霊峰アブソール…?あそこに居るって事?下手をすれば死んでしまうわよ?』

 

『だが、行かなければしょうがない。』

 

キールの揺るぎない瞳が、決断を鈍らせた。

 

それもそのはずだろう。この三日はキールはまともに寝ていないのだ

 

やっと見つけた手がかりに、キールはこれにもない喜びと期待を持っているに違いない。

 

それとは裏腹に、リッド達は夕飯を食べたらすぐ寝ちゃったんだけど……

 

『……そうね。それじゃぁ必要な人は、呼び集めるわ。』

 

アンジュはそう言って、キールの依頼書を受け取る。

 

『さて、必要な人…人……マスタングさんは必要ね。後は……』

 

アンジュは、早速パーティの編成を計算し、考えていた。

 

深夜のテンションだったため、それはあまり良くない物だと考えては居なかった。

 

そして、パーティ編成が終了した。

 

《依頼:霊峰アブソールに行って、精霊に会いに行ってください。 同行人:ロイ・マスタング  エドワード・エルリック  エミル・キャスタニエ》

説明
人造人間が出てくる話。この話がなぜか人気あった。いや、それは自分の判断であって、あったのかどうかは分からないが。
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鋼の錬金術師 テイルズ クロスオーバー 

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