魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第七話- |
魔力炉に直結する魔力導通経路の断裂。
あれから一夜明けて医務室で目覚めたに私に知らされた診察結果だ。
アースラにダライアス族の特殊医療データなどあるはずもなく、地上本部へと問い合わせての治療であったらしい。
海からの打診など良い顔はされなかっただろうが、聞くところによると私の名を聞いて大急ぎで取り掛かってくれたらしい。
地上本部のみんなには愛されているのかなー、私。
幼さと身の丈に合わない大きな機械を振り回すその様相に、私は魔動少女などと呼ばれていたりする。
魔法少女みたいでなんだか可愛い。
魔法少女かー。十を超えていない私の歳でも少女と呼ばれるのか。
あ、下が就任当時七歳で魔動少女なら、魔法少女の年齢上限というのはいくつなんだろう。
「そこのところどう思います、ヤマトさん? 私は十五歳が限界だと思うんですけど」
「なんだか余裕そうだね、カガリちゃん……」
いや、断裂が酷くて動けないんですが。
ちなみにヤマトさんの返答は十九歳だった。
それはちょっと厳しいのではないでしょうか。
――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:なんとか技法のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:主人公は無力なので見ているだけしかできないんですよ(笑)な極端な弱主人公もの
――――――
仕事があると帰っていったヤマトさんの後に残されたのは、一人佇むなのはさんだった。
ユーノくんはまた診察でも受けているのだろう。
元気付けをする役割のユーノくんがいないためか、その表情はとても暗い。
「なのはさん?」
「何も、伝わらなかった……」
ぎゅっと胸元をつかむ。
「何も、聞いてもらえなかった。フェイトちゃんに……」
泣きそうな顔で、ぽつりぽつりと告げる。
「無理、だったよ。にゃはは……」
震える声で笑い、胸元の手を離す。
ひびが入った赤い宝玉が手のひらからこぼれ、胸の下で揺れた。
「なのはさん、レイジングハート、それ……」
「うん、フェイトちゃんとジュエルシードを取り合ったときに、壊れちゃって……。ユーノくんは治るのに一日かかるって」
彼女も負けた、か。
なのはさんにとっては初めての魔法戦闘での敗北となるのか。
「デバイスマイスターさんには見せましたか? デバイスは、特にレイジングハートは高度な技術の塊ですから、艦にいる専門の人に見てもらったほうが良いですよ」
「うん……」
会話が途切れる。
残るのはただただ沈鬱な空気だけだ。
怪我で動けないというのに、これは堪える。
「……直るまではなのはさん、一般人と同じですね」
彼女の使う魔法は祈願型だ。思いを伝えるデバイスがなければ魔法を使うことができない。
今の彼女は、魔力が強いだけの一般人だ。本格的に魔法を学んでいないならば、使えて念話が精々だろう。
ここにいては彼女は落ち込み嘆くことしかできない。
「温泉、いかないんですか?」
ここにいても無駄、と裏に言葉を秘めて告げる。
一般人になった彼女には今戻るべき場所があるのだ。
「戻ったほうが、良いですよ。家族水入らずなんですから」
思いつめず家族や友人たちと気晴らしをして欲しい。負けや失敗に後悔してふさぎ込まないで欲しい。
相手の戦力分析など、艦の専門家に任せておけば良い。
事件はまだ長いのだ。今潰れてもらうわけにはいかない。
今回駄目だったなら次へと前向きに。何かが足りないならば、魔法を取り戻してから全力全開で。
「だから、行って、私のことを皆さんに伝えてください」
それが、明るい彼女を知る、友人としての想い。そしてお仕事の同僚としての考え。
ネガティブでラジカルな私には出来ないから、彼女こそ。
「ぴんぴんしているけど駄目そうだから大いに心配してくださいって」
「あは、なにそれ」
こういう役目はユーノくんに任せたいところだけれど。
でも、友達ならばこういうこともやらなくちゃいけないだろう。
旅行から戻ってきたなのはさんは、アースラに常駐するようになった。
私が怪我をして現場に出れないためだ。
武装局員はアースラに多数いるが、ジュエルシードの出力に正面から立ち向かえる魔道師は少ない。
下手に障壁の薄い魔道師を当てても、私のように医務室送りだ。そこで本格的になのはさんが出ることになったのだ。
だが、本当のところは彼女の志望によるところが強い。
やはり、目の前で私が貫かれたことに責任か何かを感じているのだろう。
待機中は私のいる医務室に篭っていた。ここは無用な飲食が禁止なので、いてもつまらないのだと思うのだが。
彼女とはいろいろな話をした。
たとえ魔道師でも不可侵の管理外世界の住人相手なので、どこまで突っ込んだ話が許されるのか解らないのだが。
例えば、魔法の話をする。
「パワーアップ?」
「はい、魔法を使うと、どうしても魔法に変換し切れなかった魔力や魔力素の加工物が出てきてしまいます」
私の持つ補助魔法武装の概念だ。
「大魔法を連発すると空間に魔力残滓というゴミが残るのですが……」
魔力残滓はミッドチルダの空気中に蔓延しているものだ。
魔力を感知できる人間には、空気汚染のように感じてしまう。
「魔力素と比べてその性質は純魔力に近いため、リンカーコアを通さなくても少しの細工でそのまま魔法に流用できます」
「魔法に流用……」
「自分の出せる魔力以上の魔法を使うことも可能ということですね。当然、制御は難しいので私は完全に機械に制御を任せています」
これは旅行へ向かっていたときの車内での話の続き。魔力を底上げする方法を私なりのアプローチで話す。
もちろん、リンカーコアを持たずミッド式の魔法を使わない私の話であるので、ただのヒントにしかならないのだが。
例えば、故郷の話をする。
「鳳来ノ国の飛鉄塊乗りであったカガリですが、斑鳩を駆るシンラにかなうはずもなく撃ち落されます。そして、斑鳩の里に捕らえられたカガリは、シンラとともに戦うことを決め、飛鉄塊の残骸を改造した銀鶏に乗り斑鳩とともに仏鉄塊に挑みます」
斑鳩の物語。
絵本と歴史資料でしか知らないユーノくんも、話に興味を持っているようだ。
ネズミのまま治療台にのりこちらの話を聞いている。
なのはさんは、医務室長に許可されたお茶を飲みながら疑問を投げかけてくる。
「敵だったのになんで味方になってくれたのかな、そのカガリちゃんは」
「説得、したのでしょうね。彼女は一般兵であり、ただ日々を生きるために鉄塊に乗っていて、空を飛ぶための強い信念というものをそれまで持ち合わせていませんでした」
「……なるほど、ね」
「一方シンラは彼女より一世代前の鉄塊乗りであり、寿命を削って身体に鉄の箍を打ち込み反乱軍に属していました。鳳来ノ国を打ち倒すという思いは強かったでしょう」
戦闘機乗りには何よりも覚悟と想いが必要となる。いつ落ちるとも解らない空を飛ぶとはそういうことだ。
例え管理局の任務であろうと、そこから私たち一族の未来へと繋がっていくと私は信じている。
例えば、お互いの話をする。
「ユーノくんを見て思い出しましたが、幼いころにネズミを飼っていました。私を育てた教育局が生の尊さを学ばせたかったんですね」
「へえ、うちは飲食店だから動物はユーノくんが初めてだったよ」
ここでも動物呼ばわりのユーノくん。まあ、でも事実は事実か。
「たいそうこれを可愛がったものですが、そのころの私は自分が他の生物よりも強靭な種族だということを自覚していなかったのですね。餌やりのペースを自分の食事と同じにしていたら、干からびて死んでしまいました」
ユーノくんが魔力治療器の上でひっと声を上げた。
彼の魔力はほぼ戻ったらしいがジュエルシード封印のため万全まで充足するらしい。
「ペットを死なせることで生の尊さを学ぶというのはなかなかにハードでしたね」
なのはさんは苦笑を返してきた。ちょっとブラック過ぎるネタでしたか。
そんなこんなで日々は過ぎていく。
私の行けない現場では、なのはさんと人間に戻ったユーノくん、それとサポートの武装局員達でジュエルシードの回収任務が進められていた。
あ、存在を忘れていたがヤマトさんも現場に行っている。
ジュエルシードの発見現場には時折フェイト・テスタロッサと傀儡兵が現れ、こちらの出動前に回収して逃げていくということも起きていた。
Aクラスの出力を持つ傀儡兵。背後に組織がいることは濃厚になった。
テスタロッサという魔道師にも調べがついた。
かつて魔法研究者として名を馳せた高位の魔道師だが、違法研究事故により辺境へ流され、その後姿を消した。
名はプレシア・テスタロッサ。
母親でありアリシア・テスタロッサという娘がいたというが、それも昔の話。
フェイト・テスタロッサは記録の娘とは名前と外見年齢が合わない。なにより、研究中の事故でプレシアの娘は記録上死亡している。
フェイト・テスタロッサに関してはヤマトさんの言っていたプロジェクトF.A.T.E.との関連性がある可能性が強い。
本局によると、このプロジェクトは人造魔道師計画というものであり、それにプレシア・テスタロッサが関わっていた痕跡があったとのことだ。フェイトの名は計画からそのままつけたのだろう。
人造魔道師。彼女から見て取れたあの狂気は、作り物であるが故のものだろうか。
ミッドチルダを中心とした魔法文明は、人のあり方に手を加える研究というものが禁忌とされる兆候がある。
自らを改造し種としてのパラダイムシフトを遂げたダライアスとは違う。
もしこのプロジェクトが未熟な研究であったとしたら、AAAという強力な魔道師は生み出せたが人の心を生み出すことが出来なかったということもあるだろう。もしくは、研究材料として扱われる果てに狂ってしまったか。
同姓であるだけでこれらの情報とは関係がない、という可能性もあるが、フェイトという名前から考えるに疑いは強い。
事実関係を確認できるものが何も無いので、調査はここまで来てからというもの難航していた。
謎が謎のまま進み、ある日のこと。
なのはさんは友人たちに会いに一時的に海鳴へ戻っていて、私は一人暇な時間を医務室で過ごしていた。
ユーノくんは可哀想に、また首長ネズミの姿で連行されていた。
私の回復度は、おおよそ八割。主要な魔力経路は繋ぎ直したので、あとは細部の結線と魔力循環だ。
身体の頑丈さと自己修復もダライアスとしての種の特性だ。
本を読みながら応急処置のために魔力炉に繋げていた擬似魔力線を外していく。
そこで、不意にブリッジからの通信が入った。
『カガリちゃーん、やっほー』
「何でしょうか。任務中じゃないんですか」
エイミィ執務官補佐からの通信だった。
サボり? まあ話し相手になってくれるのなら嬉しいが。
『カガリちゃんに、お友達からお電話です』
「はい? 電話?」
通信ではなくて電話、か。
そういえばなのはさんの家族との連絡手段として、艦に電話を引いていたか。
艦は亜空間にあるので、勿論魔法を使ってのものだが。
『じゃあそっちにまわすね』
エイミィ執務官補佐の映っていた空間投射ウィンドウが『SOUND ONLY』という文字に切り替わり、軽いノイズのようなものが聞こえるようになった。
電話に切り替わったのか。
「どうも、こちらカガリです」
『あ、もしもしカガリちゃん?』
わずかに音が割れて声が変わってしまっているが、これはすずかさんの声だ。
なんだかみんな私のことをちゃん付けで呼んでいる。
最近はお見舞いに来た提督やアースラクルーからもちゃん付けだ。
『怪我したって聞いて……えっと、なのはちゃんから前ぴんぴんしているけど駄目そうだからって言われたから今まで電話しなかったのだけど、大丈夫だった?』
「それ思いっきり冗談だったんですが……まあお仕事も出来ないのでずっと暇でしたよ」
『あは、そうなんだ。あ、アリサちゃんに代わるね。ずっと心配していたから』
何よそれ! と叫んでいるのが聞こえる。
『ん……』
アリサさんの声だ。何かを言いよどんでいるようだが。
『……せっかくの旅行だったのに、何してんのよ、もう』
「いえいえ、心配してくれて何よりですよ。まあ自分で心配してくださいって言いましたが」
『なによそれ! 心配なんてしてないわよ!』
あらあら、神経を逆撫でしてしまったようだ。一日しか会っていないので距離感が解らない。
それなのに心配してくれるとは、嬉しいものだ。
あ、心配していたというのは確定で。
『せっかくの温泉に一回入っただけで不意にするなんて馬鹿じゃないって言ってんのよ!』
ああ、確かに勿体無い。
湯治と称して入りに行きたかった。
『あんたとはまだ全然話していないんだから、早く怪我治して戻ってきなさいよ! 以上! ほらすずか!』
……おお、これはもしや日本伝統のツンデレというものでは。
ツンデレ弾が胸にキュンとくる。いや、弾などではない。これは((ツンデレ砲|THUNDER FORCE))だ。
『うふふ、ごめんね。アリサちゃんたらいつもああなの』
いえいえ、良いものを聞かせていただきました。
「まあそんなに心配は無用ですよ。いつもではないですがたまに怪我もする仕事なので慣れっこですし」
自分が慣れているからといって怪我をしても心配するなというよりは、私は別に気に病んでいないということを伝える。
「……危険性は、当然なのはさんも同じ条件なのですけれどね」
『そう……』
なのはさんのほうを見て心配そうな目を向ける情景が思い浮かぶ。
私の言葉はなのはさんに聞こえているだろうか。
雑音の入りが大きいので、電話のハンズフリーとかいうもので全員に聞こえているとは思うのだが。
「まあ、言っても聞かないでしょうけど」
なのはさんの想いは強い。海鳴を守りたい。皆を助けたい。フェイト・テスタロッサに話を聞きたい。
つい先日まで一般人だったというのに、強い信念を持っている。
『うん……何も出来ないかもしれないけれど、応援だけならできるから、その、カガリちゃんもなのはちゃんも無事でいてね』
友達に頼まれては仕方ない。うん、友達。良い響きだ。
年上の知人ばかりなのでこういうのはちょっと嬉しい。
『それで、アリサちゃんも言ってたけど、早く帰ってきてね』
帰る、か。別に私はそちらの人間ではないのだが。
帰る、うん、なんだか良いな。これ。
『昨日ね、アリサちゃんとかわいい子犬を見つけてきたから見せてあげたいな』
あ、それ私も知らないよ、となのはさんが喋っている。
いやはや、これは早く治さなければいけない。
電話を切って少し経ったころ、再び通信ウィンドウが開いた。
どうも今日は盛況だ。暇が潰れていいのだけれど。
通信元は、ハラオウン執務官だった。
「なのはが現地で重要参考人を保護した。現場責任者の一人として聴取に参加してくれ」
空間に通信ウィンドウが追加でいくつか開いた。
ハラオウン提督、エイミィ執務官補佐、ユーノくん、ヤマトさん、それと赤い子犬。なのはさんは『SOUND ONLY』のこのウィンドウだろう。
いや、そもそもいつのまに私が現場責任者に……。確かに高ランクの最前線要員の一人ですが。
重たい場の雰囲気に文句を言い出せずに、参考人である子犬への事情聴取が始まった。
この子犬は、アリサさんとすずかさんが怪我をしているところを見つけて保護したという例の話の子犬だったらしい。
正体は、なんとジュエルシード回収の実行犯フェイト・テスタロッサの使い魔だ。
名はアルフ。最初の戦闘で姿を現したときの映像では、大型犬サイズの使い魔であったのだが、この大きさになったのは相応の理由があるとのことだ。
原因は主からの魔力供給の変質。
使い魔は主との間に魔力の経路が作られており、そこから主の体調を確認したり魔力の受け渡しを行える。
これまでの経緯は抵抗もなく聞き出すことが出来た。
フェイト・テスタロッサの母親から受けた任務で、第97管理外世界にやってきたフェイト・テスタロッサとアルフ。
緒戦で私に敗退したフェイト・テスタロッサは母のいる次元空間内の居城に帰還した。
そこで時空管理局の介入を報告するため、一人で母の元へ向かったフェイト・テスタロッサだが、不意にフェイト・テスタロッサから流れる魔力が変質したらしい。
その魔力は、ただただ異常。フェイト・テスタロッサの様子も凶変し、無人兵を連れて管理外世界へ向かっていったのだ。
アルフはフェイト・テスタロッサの母に異変について問いただすが、問答無用で魔法攻撃を受け負傷。命からがらフェイト・テスタロッサのいるこの世界へ逃げてフェイト・テスタロッサ及び時空管理局との接触を図った。
現在は魔法で傷は癒えたが、異様な魔力から身を守るため主からの魔力供給を切っている。
だが魔力を消費し続けると主との魔力結合が崩壊し、使い魔としてのあり方が保てなくなってしまう。
本来は大型犬並みの大きさなのだが、子犬形態でとりあえずの魔力消費を抑えているとか。
首長ネズミフォームのユーノくんみたいなものか。
『居城の座標はフェイトしか知らないんだ。だから、逃げたあたしはあそこには戻れないのさ』
『犬が飼い主の元へ戻れないとは、情けないものだな』
ハラオウン執務官の酷いコメント。
そういえば首長ネズミのユーノくんに面と向かって小動物とか使い魔とか言っていたり、何気に口が悪い人だ。
『なんとでも言ってくれ。主人がおかしくなるのを止められなかった時点で、あたしは使い魔失格だ』
おかしくなる、か。確かに二度目の彼女は狂戦士といってもいいありようだった。
いや、違うか。どこか狂いながら、捕縛魔法を使い私の機銃の死角にまわる知性を保っていた。
『そもそもフェイトの母親からして前々からおかしかったんだ』
「……プレシア・テスタロッサですか」
『ああ。フェイトがあたしを使い魔にしたのはそんなに昔のことでもないんだけど、初めからおかしい人物だったよ、プレシアのやつは』
辺境に流され消息を経った後のプレシア・テスタロッサの詳細は不明だ。
だが、人造魔道師計画に関わるなど、何らかの意図は見え隠れしている。
『フェイトの話では昔は優しい母親だったらしいけど、あたしが知っているのは部屋にこもって狂ったように何かを研究し続ける姿だ。娘のフェイトのことなんか、眼中にない、完全に興味の外って感じだった』
フェイト・テスタロッサが本当に人造魔道師であるならば……、娘でなくただの便利な手駒として見ていても不思議ではない。
『好きでも嫌いでもない、ただ興味がないってね。フェイトの話では、今の居城が次元空間を彷徨うようになったあたりからそうなったらしい』
だが、昔は優しい親だったのだ。
人造魔道師計画、母親、作り物の娘、死んだ娘。うーん、何かが引っかかる。
他の人の意見は……。
『別ルート? 修正力? いや、バタフライ効果……』
ああ駄目だ、ヤマトさんがまた独り言モードに入ってる。
思いつく限り何かを投げかけてみよう。
「……宗教とか?」
ずんずん教なるカルト教団がミッドで猛威を振るったのを思い出しました。
検挙しようとしたら敵対宗教団体の実働部隊もやってきたりして、あのときはずいぶんと混沌とした状況だった。
『いやいや、宗教なんかで伝わってくる魔力がやばくなんてならないだろうさ!』
魔法教団とかならありそうなものだけれど。
うーん、一時的にアルフさんへその怪しい魔力を流してもらってそれを解析できればいいのだが。
使い魔の魔力供給の経路は暗号化が高度だからアースラの設備でも解析できるかどうか。
使い魔とは、主の位置を探られないための歴史の積み重ねの強い魔法だ。
アルフさん自身を調べても、それこそ狂うくらいまで流さないと融合魔力検出が難しそうだし。
結局、フェイト・テスタロッサを現場で捕まえるのが唯一の方法なのか。
だが、解ったことも非常に多い。背後に組織はなく、傀儡兵はすべてプレシア・テスタロッサの所持兵力。
戦力は不明だが、知性を持つ魔道師はプレシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサの二名。
偽の知識を埋め込まれたアルフさんが嘘の証言をしている可能性も考えられなくはないが、純粋な嘘はユーノくんによる魔法心理調査でとりあえず白。
フェイト・テスタロッサの捕縛で事実関係の確認はおおよそ解決する。
また、プロジェクトF.A.T.E.に関して、アルフさんは何も知らなかった。アリシアという娘が居たことも、フェイト・テスタロッサが人造魔道師である可能性に関しても一切知識を有していない。
容姿の聴取結果から、プレシア・テスタロッサは調査結果のテスタロッサ女史と同一の魔道師であることはほぼ確実になった。だが、フェイト・テスタロッサの使い魔が一連のプロジェクトを知らなかったということは、フェイト・テスタロッサ自身もそれを知らないであろう。
事件は進展したが、ジュエルシードを回収しつつフェイト・テスタロッサを捕縛する方針は変わらずか。
『ライトニングバインド!?』
私をベッドの上に乗せたまま、事態は大きく進行していた。
海鳴市内の臨海公園へジュエルシードの回収に実働部隊が向かった矢先、三十体の傀儡兵を連れたフェイト・テスタロッサが妨害に現れた。
この数の傀儡兵、確実にこちらの部隊を潰す気だ。
現場のなのはさん、ユーノくん、ヤマト執務官補佐、補助役の武装局員だけでは人手が足りず、クロノ・ハラオウン執務官まで出動する事態となった。
ヤマトさん、ハラオウン執務官は場所を考えずに破壊魔法を撒き散らす傀儡兵に優先的に対処、なのはさんは武装局員の支援を受けながらフェイト・テスタロッサと戦闘を開始した。
まあそんなことはどうでもよく、なのはさんが現在進行形でピンチです。
手足を((固定捕縛魔法|バインド))で捕らえられ、空中に張り付けに。
フェイト・テスタロッサは大魔法の詠唱を行っている。
バインド・大魔法の一連の攻撃はミッド式の高位砲撃魔道師が得意とする単独連携攻撃だ。
防ぐには相手の詠唱に合わせて同等の大障壁魔法を使うしかないが、肝心のユーノくんは傀儡兵の拘束に精一杯だ。
武装局員のバインドブレイクも間に合わない。
これは、直撃だ。
『消し飛べぇぇぇぇっ!』
雷をまとった魔法の矢、矢、矢。
その勢いはもはや豪雨、いや、嵐だ。
咄嗟に張った武装局員の空中障壁も紙のように貫かれていく。
「……っ!」
魔力の奔流になのはさんは埋め尽くされ、大爆発が巻き起こった。
大変なことになってしまった。
もはやフェイト・テスタロッサが非殺傷設定を使っている保障も無い。
煙に包まれてなのはさんの姿が見えない。
落ちてはいないが、どうか無事で……。
『ディバイイイイイイン!』
煙を突き破って桃色の光が漏れる。
この魔力光は!
『バスタァァァァァァー!』
煙を全て吹き飛ばし、魔力の砲撃が空を突き破った。
一条の光がフェイト・テスタロッサへ飛んでいく。
彼女は大魔法の疲労で動けずにおり、真っ直ぐに砲撃が突き刺さった。
絶妙のカウンターだ。
あの大魔法を防ぎきったのも驚きだが、その直後にあの砲撃を撃てるとはなんてすごい。
ジュエルシードの回収を通して、戦闘に関する魔法技術が明らかに向上している。
魔法障壁を半端にしか展開できなかったフェイト・テスタロッサは息も絶え絶えだ。
バリアジャケットの至る所に破損が見られる。
『今度はこっちの番だよ! 受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!』
勝機と見たか、バインドから解放されたなのはさんが追加詠唱に入る。
フェイト・テスタロッサが逃げようと動くが、((固定捕縛魔法|バインド))がその手足を捕縛した。
先ほどの光景の焼き直し。なのはさんは戦闘中であっても相手の戦い方を覚え、成長していくのだ。
なのはさんの前方に大きく展開した魔法陣に光が集まっていく。
周りが煌き、光となって魔法に集束。
これは、この魔法は、魔力残滓の魔力変換だ。
私が以前話したそれを攻撃魔法のパワーチャージに使おうというのか。
集まる魔力は膨大なものとなるだろうが、高出力を誇るレイジングハートならば耐えられる!
『これが私の全力全開!』
振り上げていた杖を前へと。
溜めに溜めた力を砲撃として開放する。
『スターライト・ブレイカー!』
光が全てを飲み込んだ。
防御魔法、魔力障壁、バリアジャケット、その全てを強大な魔力が吹き飛ばしていく。
防ぐことなど出来はしない。全てを貫くただただ強大な一撃だ。
バリアジェケットすら保てなくなったフェイト・テスタロッサが公園に面した海へと落ちていく。
『母さん……ごめんなさい……』
落ちていく彼女から、小さなつぶやきが聞こえる。
その顔には、涙が浮かんでいるように見えた。
――――――
あとがき:すごい今更ですけれど第四話はコナミコマンドです。
用語解説
■ツンデレ
二話でカガリを素直クールと称したのは上の人間への腹見せっぷりを現したのですが、今のカガリをすずか達の視点で見ると素直なデレデレっぷりが凄いのかもしれません。
■バタフライ効果
原作との違いは全て転生憑依者の来訪によるバタフライ効果とでも思ってください。
異物として入り込んでおいて完璧に原作どおりに話が進むのは楽しくない――じゃない、ちょっと虫が良いですよね。変わっても転生憑依者に都合よく世の中は回りますが。
SHOOTING TIPS
■TUNDER FORCE
ツンデレ砲ではなくてサンダーフォース。最近になってファンたちがTUNDERをツンデレと読む兆候が出てきました。
ツンデレ釘宮はもはや食傷気味ですが、私は少年声釘宮が好きです。
■ずんずん教なるカルト教団
全方位シューティングのずんずん教の野望は、セガの発売した迷作シューティングです。新興宗教ずんずん教を仏様が蹴散らすという色々アレすぎる内容。
「ずんずん教だ!」「ずんずん教だ!」という台詞と共に仏様が登場するので、自機側がずんずん教だと間違える人も多いです。
■「消し飛べぇぇぇぇっ!」
エスプガルーダでもげた腕や足を機械にしつつもまた墜落し死亡したかと思われたセセリさんですが、続編のエスプガルーダ2にて声優を変えて再登場。
「ずっとこの時を待っていた……必ず死なす!」「消し飛べー!」今度は棒読みじゃありません!
ちなみに一定条件で戦える真セセリ(憎悪に満ちたセセリ)は、ラスボスより強いです。
説明 | ||
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