魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第十話Bパート- |
I am...
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魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
第十話 後編 『((生命|いのち))の((誕生|はじまり))を』
原作:レイディアントシルバーガン
参考文献:斑鳩、Gダライアス、魔法少女リリカルなのは
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神に存在を望まれることなく、自らの住む世界から放逐されたダライアス一族。
帰る場所を失った私たちを動かすもの。それは、生きる意志を持つ者の意地に他ならない。
自らの意志が、強固であるほど様々な試練に苛まれるものだ。
無論、試練を目前に避ける事も出来れば、逃げる事も出来る。
だが、試練の真意は、そんな己の心を克服することにある。
新しく移り住んだ世界にも絶対などというものは無く、理不尽な思いを胸にして途方にくれる時もある。
それを乗り越える為には、確固たる信念と洞察、そして幾分かの行動力を持つ必要がある。
そして、信念の先に現実はその姿を現す。
何を求め……、何を見て……、何を聞き……、何を思い……、何をしたのか……。
やがて過去から脈絡と続く一つの因果は、その意志を元の場所へと回帰させ、記憶の深淵に刻まれた起源の意識を思い起こさせるだろう。
私の因果とは果たしてどこから始まったものなのだろう。
この世界に訪れた時か。時空管理局と関わった時か。あの日、石のような物体を発掘した時か。それともダライアスとして作り出された時か。
だがどれにしても、世界を滅ぼした起源を目前に避ける事も逃げる事も心には浮かばない。
故に、私は行く。
敵は赤く輝く神獣。滅びた世界の生命の起源を模した存在、そして石のような物体だ。
石のような物体は、かつて世界が滅びた際に人口移民衛星グラディウスから飛び立った最後の戦闘機シルバーガンに破壊され、砕け散ったものの一部だろう。
あるいは、過去に斑鳩と銀鶏が破壊して以来世界崩壊の日に集まらなかった一欠けらなのかもしれない。
だが、欠片と言えどそこに秘められた魔力は、底が見えない。
生命の起源の姿をとっているのも、石のような物体ははるか昔にダライアス本星の誕生に関わったと考えることも出来る。
生命の進化と時空間の操作を可能とするロストロギア。正真正銘の産土神であったのかもしれない。
神に挑む。
笑いたくなるような話だ。
相対するこちらは、たったの三人。
魔力にあてられて脂汗を浮かべているユーノくんを見る。
「ユーノくんはネズミに変身してなのはさんの肩へ」
「え?」
腕輪型のデバイスを構えて今にも飛び掛らんとしている姿に待ったをかける。
「やわな捕縛魔法の通用する相手ではありません防御に専念してください」
駆動炉から飛び出してからずっと乱れていた神獣の魔力が、急速に整っていく。
城を動かす動力から生命体へ。もはや時間が無い。
戦いの準備を進める。
G.T.戦の最後にしたように、斑鳩・銀鶏を複座式に変形させる。
「なのはさん、乗ってください。急いで」
なのはさんはこちらを振り向いて何のことかと考え込む。
が、即座にこちらの意図に気付いたのか、胸の前へ飛び込んでくる。
「これより私たちは一機の戦闘機となります。ユーノくんが守りと補助を、なのはさんが砲撃を、私が移動と援護射撃、それに緊急時の魔力供給を担当します」
G.T.と戦って解ったことだ。
私が避ければすむような攻撃を彼女達は魔力を消費して防がなければならない。
私が魔力を溜めて力の解放を行わなければならない攻撃をなのはさんは砲撃魔法として瞬時に撃てる。
そして、ユーノくんの防壁魔法は最大の守りを誇る。
「なのはさん、ユーノくん。力を貸してください。あの赤い石だけは、どのような手段を持ってしても封印しなければなりません」
たとえ、この身が朽ち果てようとも、だ。
「うん!」
「もちろんだよ。あれは、駆動炉に関係なくても放っておいていいものじゃない」
なのはさんの力強い返事。そして、ユーノくんの言葉。
おそらくユーノくんも石のような物体の存在に気付いているだろう。
実際に世界を滅ぼしたことのあるロストロギアなど、ジュエルシードよりも危険だ。
すでに相手はジュエルシードで言うところの暴走体の姿。
力を削ぎ、撃ち落し、破壊するか封印するしかない。
ぐるりと。
神獣はその巨大な姿を横に回転させた。
裏表の無い赤く透明な身体がうなりをあげ、広間に風を生む。
斑鳩を駆動させ、こちらは空で迎え撃とう。
十字の形を保ったまま、神獣は軽やかに回り続ける。回転したままゆるやかに後ろへと動く。
そして、ぴたりと朽ちた駆動炉の上で止まった。
来る。
神獣の頭部にある機械巨人の頭から、魔力弾が飛び出した。反動で神獣がわずかに胸をそらす。
魔力弾が視界一杯に迫ってくる。
こちらの進路を塞ぐかのような全方位への分散弾だ。
――((加圧処理|しょりおち))モードを起動します。
回避のために手動で加圧処理を行う。
今日は何度も使った機能だ。脳の酷使による戦闘への影響を考え、敵の攻撃の密度により加圧速度を調整するよう設定する。
神獣が身をくねらせて移動を開始する。
無重力、いや、水中を泳ぐようにして上下左右に回転しながら広間を動き回る。
移動の最中にも胸の石のような物体から魔力弾を撒き散らしていく。
私は全身のカメラアイを総動員して、あらゆる方向から飛んでくる魔力弾の隙間を縫って((回避|ちょんざけ))していく。
なのはさんが縦横無尽に泳ぐ神獣と高速で動く機体に砲撃の狙いを定められずに、誘導魔法弾へと詠唱を切り替える。
桃色のディバインシューターが神獣の頭部と胸へ向けて飛んでいく。
無数の魔力弾が空中で交差する。
((加圧処理|しょりおち))により狂った速度の中、神獣の胸の石のような物体が強く瞬いた。
何故かその光から目を離せない。
加速した意識の世界で、私は優しく語りかけてくるの声を聞く。
((あなたたちを生み出したのはこの私。|I gave you lives.))
((正しき道を歩めるようにと。|So that you make good progress.))
((だが、あなたたちは理解できない。|But you couldn't understand.))
これは、石のような物体の声だと言うのか。
優しく心に触れてくるような、安心感を得られる声。
フェイトさんとプレシア・テスタロッサを狂わせたであろう忌々しい声!
石のような物体がダライアスの私へ何を求めているかなど知らない。
お前が私たちの世界を滅ぼしたと言うなら、報いとして私たちがその存在を滅ぼすだけだ。
なのはさんが砲撃を撃ちやすいように神獣を前方へと捉える位置を保つ。
もはや上下や重力などと言う概念は無い。四方全てが壁に囲まれた機体と神獣を結ぶ相対空間だ。
回避しきれない魔力弾が混ざるようになるが、属性吸収フィールドとユーノくんの防壁魔法で無効化される。
対する神獣は、身体を変形させ、ひし形の立体構造へと変わっていく。
橙色に染まったその姿は、まるで破壊する前の石のような物体の形を取ろうとしているようだ。
頭頂部にあった巨人の頭は、位置を石のような物体を守るかのように前方へと。
その奥で石のような物体が魔力を発する。
途端、周囲へ錯乱していた瓦礫が神獣の体内へと飲み込まれていく。
神獣へと飲まれた瓦礫と機械の破片は、瞬時に形を変えて魚の頭のような形に組み替えられる。
轟音を立てて魚の頭がこちらへ向けて飛んでくる。
質量の塊を使った物理兵器の突撃だ。
これの前にはフィールドなど何の役にも立たない。
「ディバインバスター!」
避けようと((機動小型戦闘機|シップ))を急旋回させようとした直前。
なのはさんが砲撃魔法でそれを打ち砕いた。
次々と吐き出される瓦礫の魚は、全て桃色の光に飲み込まれる。
そして、砲撃は威力を失うことなく巨人の頭へと衝突した。
以前と比べなのはさんの魔法の威力が一気に跳ね上がっている。
彼女の魔法は祈願型だ。
心を持つデバイスレイジングハートに明確な意志と心を伝え、深く魔力を込める事でより高度な神秘を作り出す。
巨人の頭にひびがはいる。
このまま砲撃を続ければ打ち砕ける。
そう思った矢先、急に神獣の姿が掻き消えた。
「転移魔法……!」
緊急回避の短距離転移だ。
背後から徐々に顕現する石のような物体の魔力。
再び空間を満たしていく命の魔力に混じって、ノイズが飛んでくる。
((やり直さなければならない。|You must do it over again.))
((なぜそれが理解できないというのですか?|Why can't you see?))
理解できない。理解するつもりも無い。
たとえ私たちが文明を取り戻し本星へ帰還したとしても、もう元のままとはいかないのだ。
神獣の正面へと向かう。
姿は再び生命の起源へと戻っていた。
なのはさんが魔法を再度唱え終えるまで回避と牽制へ専念しよう。
神獣が胸から誘導性を持つ虹色の魔力弾を撃ってくる。
広間を駆け抜け地形を盾にして誘導弾をいなしていく。
だがいつの間に設置していたのか、捕縛魔法に機体の動きを止められてしまう。
捕縛魔法は機体全体を囲み、鎖のような魔力の経路が神獣の胸へと繋がっている。
ユーノくんが中和魔法を展開してくれているおかげで、捕らえられつつも動き続けることは出来る。
かつてフェイトさんと戦ったときを思い起こさせるような光景。
だが、捕縛魔法への対策は既に出来ている。
魔法構造を解析。斑鳩の属性吸収フィールドで陽の魔力を分解、吸収する。
同じように銀鶏を展開して、陰の魔力を吸収する。
魔力構造の大半を吸収された捕縛魔法が形状を保ちきれずに霧散した。
シップが空へと再び解き放たれる。
お返しだ。今まで吸収した全ての魔力を解放する。
黒く染まった光の矢が一斉に神獣の胸へと突き刺さり、その身を震わせた。
((目に見えるものを感じなさい。|Feel visible matter.))
((目に見えぬものを感じなさい。|Feel invisible matter.))
((命はあらゆるものに宿っています。|There is life everywhere.))
また石のような物体の声が聞こえる。
だがそれよりも次の攻撃だ。
力の解放の命中により魔力弾が止んだ今がチャンスだ。
機体を旋回させ、神獣の正面を取った。
レイジングハートの先に桃色の魔力の光が溜まる。
しかし。
「カガリ! 向こうもディバインバスターを!」
巨人の頭に、なのはさんと同質の魔力が集まっている。
光の色すらも同じ。
身に受けた魔法を解析されて再現されている。
『Divine buster』
発動は同時。二つの魔力の奔流が空中でぶつかり合い拮抗している。
ぶつかり消滅していった魔力の残滓が空間に充満していく。
威力は同等だ。私が魔力を追加で供給すれば打ち勝てるか。
だが、決断は相手のほうが速かった。
胸の石のような物体から、もう一本のディバインバスターの砲撃が撃ち出された。
新しい魔力の光は、ぶつかりあっていた二つの魔法へさらに衝突。
なのはさんの魔法が力負けする。
押し切られる前に回避を選択。
((機械翼|アフターバーナー))>から火を噴かせて大きく回避運動をとる。
ぎりぎりまで迫っていた桃色の光は、ユーノくんが全力で展開した防壁魔法の前で斜めへと弾かれていった。
空間を切り裂く膨大な魔力の余波で、飛行がぐらつく。
無理に機体を立て直さず、きりもみ回転でもするかのようにシップを駆る。
二人分の悲鳴が聞こえるが、無視だ。
慣性制御には問題が出ていないので無理な動きの衝撃そのものは伝わっていない。
こちらの様子に、勝ち誇るかのように神獣が元の駆動炉の残骸の上で停止している。
私はその姿を睨むようにして見つめた。
((しかし、あなたたちが自ら理解し、共に歩める日が来ることを信じています。|But I believe the day when you understand yourself and live together would come.))
……知ったことか! 私たちが共に歩むのはお前ではない。
お前の手の届かない、幾多にも存在する異世界の人々とだ。
あらゆるものに宿る命など、全てに目を向けているほど余裕などないのだ。
私たちをこうさせてしまったのは、世界を滅ぼしたお前だ、石のような物体!
神獣の姿が変わる。
まるで表と裏をひっくり返したように、一瞬で橙色の神獣の透き通った巨体が青白く染まった。
神獣から感じる魔力の質が急速に洗練されていく。
即座にバイザーで解析をかける。
これは……、純粋な陽の魔力エネルギーだ。
「く!」
こちらの属性吸収フィールドは銀鶏の陰。
ここに純粋な陽のエネルギーを叩きつけられては、威力を吸収できずに魔力障壁を突き破られてしまう。
急いで属性吸収フィールドを斑鳩に切り替える。
それと同時に、神獣の両脇に突き出した翼のような両腕から、白い光の矢が尾を引いて多数撃ち出された。
ユーノくんがとっさに防壁魔法を使うが、障壁に衝突する前に全てフィールドに吸収された。
魔力補充が一瞬で最大になったことをシステム音声が知らせてくる。
これは、この純魔力の放射は……、私の使う“力の解放”と同じものだ。
ディバインバスターだけではなく、力の解放までも学習されたと言うのか。
魔力は最大。お返しとばかりにこちらも限界まで吸収した力を解放する。
光が神獣の身体へと突き刺さっていく。
だがはたしてどれだけの効果があるのか、神獣は軽く身を震わせただけで、再び元の赤い姿へと戻った。
いや、違う。戻ったのではない。
属性が裏返った!
「銀鶏!」
属性フィールドを急いで反転させる。
神獣の両腕からまたしても力が解放される。
陰の純魔力エネルギーの放射だ。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
その全てを銀鶏の力で受けきる。
またしても吸収魔力が一瞬で限界まで貯蔵される。
ひるんではいられない。
すかさずこちらも力の解放。
さらに神獣は裏返り、青白い光を放つ。
こちらも斑鳩に切り替える。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
即座に力の解放をし、全ての魔力を撃ち返す。
膨大な魔力の吸収無効化に機体が軋みをあげているのが解る。
それでも神獣は陰の魔力へと反転している。撃ち合おうというのか。
戦いを続けなければ。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
解放、そして反転。
なのはさんが今度は援護射撃とばかりにディバインシューターで応戦してくれる。
神獣が矢を放つ。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
力を解放する。
巨人の頭部から撃ちだされた魔力弾はユーノくんが防壁で弾いている。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
解放。
機体から過負荷の警告音が鳴る。
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
『((ENERGY MAX|エナジーマックス))』
解放解放解放解放。
機銃の機能が損傷する。
力の解放は完全な誘導魔法。
機体が壊れようとも吸収以外に選択肢は無い。
『((ENERGY MAX|エナジーマッ)) ((ENERGY MAX|エナジーマッ)) ((ENERGY MAX|エナジーマッ)) ((ENERGY MAX|エナジーマッ)) ((ENERGY MAX|エナジーマッ))』
吸収し切れなかった魔力が逆流し、((機械翼|>アフターバーナー))が背中で爆砕した。
浮遊機能に損傷有り。
地へと落ちていく。
急いでなのはさんを機体から切り離し上空へと飛ばす。
視界の向こうでは、十数回にも及ぶ力の解放の直撃に制御機械を半壊させ、頭部を砕けさせた神獣が見えた。
相打ち、か。
シップと共に墜落する。
緊急魔力障壁が地面との激突の衝撃を受け止めた。
機銃半壊。
浮遊機能全壊。
魔力障壁半減。
魔力供給可。
フィールド展開可。
ただの一度の撃ち合いでこのざまだ。
果たして私はあの神獣にこれ以上相対することが出来るのか。
勝つことができるのか。
「カガリちゃん」
でも、勝たなければいけない。
私はもう避ける事も逃げる事も出来ない。
勝たなければ、勝たなければ、勝たなければ……。
「カガリちゃん!」
頬に衝撃が走った。
なのはさん、なのか?
平手を振り切った体勢で、こちらを真っ直ぐと見ていた。
なんだ、なんだ私は。我を失って平手を防ぐ程度の魔力障壁すら張っていなかったのか。
「大丈夫、私たちはまだ戦える!」
振り切った手を、今度はこちらへと差し出した。
「カガリちゃん、まだ戦う意志はある?」
問いだ。共に戦おうという。
「ええ、機体は壊れましたが、まだ、私は力を出し切ってないませんから」
即答を返す。
「じゃあ、一緒に戦おう。全力全開で」
ああ、何と言う焼き直しだろう。
数時間の違いで、二人の立場はまるで逆。
だが、やることは同じだ。
石のような物体をを打ち倒すにはさらなる力が要る。
魔力炉を回す。クリーンフォースから生まれた魔力は、体内を巡りシップへ、そしてなのはさんの持つレイジングハートへと流れる。
「私の魔力、全て貴女に任せます」
上空では、動きを止めた私たちにとどめをさすべく、壊れた巨人の頭に桃色の光を集めている。
制御装置を破壊された石のような物体が心臓のように躍動し、神獣の巨体がその動きにあわせてうねっている。
まるで、動かなくなった身体を無理やりに動かしているかのようだ。
『Starlight Breaker』
この魔法が決着となるだろうか。
場の魔力残滓の量は十分すぎるほどだ。
レイジングハートから広がる魔法陣に光が集まり収束していく。
その魔力光は、私の魔力を受けて純粋な青と白に変わっている。
全ての魔力をレイジングハートへ。
「スターライト……」
この一撃が全ての因果を断ち切るようにと、強い意志をこめて。
「ブレイカー!」
青色の光と桃色の光がぶつかり合う。
二つの魔法は最早拮抗することは無い。
青白いの光の滝が相手を押しのけ、弾き、霧散させる。
霧散した光残滓すらもその場で魔力へと還元し、さらなる放射へと変えていく。
敵の魔法を全て飲み込み、より強大な力となって神獣へと迫る。
石のような物体からもディバインバスターが砲撃されるが、それすらも押しのけ力として取り込む。
吸収し、広がり、勢いを増す。
神獣の巨体すらも覆い隠すほどの膨大な魔力の奔流。
あまりにも強大な力。レイジングハートが耐え切れず亀裂が走っている。
「いっけええええええええええ!」
地を揺るがすほどの轟音と共に、光が爆ぜた。
白に視界が埋め尽くされる。
バイザーを通した視界の中で、神獣がその身を崩壊させる姿を見た。
流体形の身体は引き裂かれ、千切れ飛び、光に溶けていく。
巨人の頭は亀裂から徐々に崩壊し、装甲を撒き散らし、やがて跡形もなく粉砕された。
石のような物体は光の中躍動を続ける。
だが、神獣の崩壊と共に宿らせていた魔力をことごとく霧散させていった。
光が収まる。
神獣の消えた空中には、魔力を失いただ浮くだけとなった石のような物体があった。
制御装置を失ったその姿は、いたるところがひび割れた無骨な赤い岩。
これが全てを狂わせた元凶だ。
これのためになのはさんはどれだけ平穏を乱されたと言うのだろう。
これのためにユーノくんさんはどれだけ苦しんだと言うのだろう。
これのためにフェイトさんはどれだけ悲しんだと言うのだろう。
「封印を、開始します。専用の術式を使うので、なのはさんは離れていてください」
石のような物体が発掘されて以来、ダライアスの全てを賭けて編み出された封印術式。
ミッドチルダ式の通常の封印魔法ではその一欠けらの力を抑えきれなかった。
世界崩壊の悲劇を繰り返さないために、この術式は生み出された。
「本当は私を置いてフェイトさんの元へ、と言いたいところですが」
「行かないよ。カガリちゃんそんなにぼろぼろなのに……」
言いたいところだが、今の壊れたシップでは封印術式に耐えられるか解らない。
どうなるか解らない以上、置いていかれるのも困る。
私自身も満身創痍で封印の後も動けるかどうかだ。
後は任せて、封印に専念しよう。
体内のチップを起動する。
<i>――封印術式チャージ開始。これより機銃の使用不可。</i>
封印方式は“力の解放”。チャージ時間は六十秒だ。
術式の開始と共に、こちらの魔力の動きに反応してか、石のような物体が光を放った。
最後の魔力を振り絞るかのようにして、魔力の矢を私に向けて撃ってきた。
シップはもう動かない。
刺し違えてでも封印しようと覚悟を決めた瞬間、障壁魔法が矢を目の前で弾いた。
「ユーノくん!」
後ろから、ユーノくんの魔力を感じる。
「僕が守りと補助、だったね。カガリ」
振り返ることはしない。
だが、その頼もしい顔が脳裏に浮かんでくる。
全く、私の友達はどうしてこうも私を助けてくれてばかりなのか。
ユーノくんの魔法に身をゆだね守りを意識から外す。
封印術式展開完了。
魔力炉には異常なし。
斑鳩・銀鶏から術式の開始を知らせる音声が流れる。
『((制御装置を解除します|Release the restrain device))』
封印術式を発動できるまで出力を高めるため、シップに搭載されている制御装置が止まる。
魔力炉の全ての魔力を喰いつくさんとばかりに、斑鳩・銀鶏へと魔力が流れていく。
胸に軽い軋みを感じた。
『((しかし、『力の解放』と同時に機体が崩壊する可能性があります|Using the released power may result the possibility of destruction of the ship))』
気にせず術式を解放しようとしたその瞬間だ。
『((私は、あなたのお役にたてましたか?|Was I helpful for you?))』
不意にシップから発せられた言葉だった。
人工知能など搭載していないはずの機体から私へと投げかけられた問い。
ああ、そうか。私は一人で空を飛んでいたわけじゃないんだ。
いつでも私は戦闘機と共にあったのだ。
ごめんなさい。こんなにぼろぼろにしてしまって。
そしてありがとう、斑鳩・銀鶏。最後まで頑張ってくれて。
『((……ありがとう|...I am deeply grateful to you))』
両肩から白と黒の無数の矢が放出される。
全ての術式を展開し終えると同時に機体は崩壊した。
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