ダッチオークション
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 不思議な会場だ。

 売店の品揃えが異様に充実している。というか、オークション会場に、売店?

 

 過去、幾つかのオークション会場で落札を経験しているし、あのサザビーズにだって行ったことがある。とてもじゃないが手が出ない値段のものばかりだったので買ってはいないが。雰囲気だけ楽しんできたよ。

 イタリアではカフェが併設されていたり、ラスベガスではライトアップされた巨大な噴水ショウが窓から見える部屋で行ったりしたが、ここは至ってノーマルな見た目だ。

 ただ一点を除いては。

 

 売店があるのだ。

 異様に品揃えが充実している売店が。

 そこに客がひっきりなしに押し寄せていた。

 新聞雑誌はもちろん、ドリンク、袋詰めのパン、固形の栄養補助食品?コンビニの一角を切り取ったかのような品揃えがここにはある。

 

 訳がわからないが、とりあえず私はペットボトルのミネラルウォーターを手に取り、カードで会計を済ませた。

 

 会場ホールは地下だった。

 恐らくだが、この方が美術品を扱うための温度や湿度が管理しやすいのだろう。

 豪華な調度に彩られてはいるが、施設は最新であることがうかがい知れる。

 私は適当に空いている椅子に腰を下ろした。

 

 今回のオークションは、普段のオークションとは少し制度が違う。

 最低値を主催者が発表し、そこからどれだけ上乗せできるかを買い手数名で競い、一番高値をつけた者が購入する権利を得る、これが見慣れた所謂「イングリッシュオークション」だが、今回は「ダッチオークション」。オランダ式オークションだ。

 主催者がある一定の値段を最初に提示。そこから徐々に下げていき、買い手が見つかったところで終了。その値段で落札となるため、青天井のイングリッシュオークションよりも遥かに速いスピードで取引が進む。

 

 …そう。

 それだ。

 売店の違和感は。

 このダッチオークションでは通常のオークションよりも遥かに早いスピードで取引の決着がつくのである。

 ある程度長丁場を想定したあの売店の品揃えは、どう考えても不自然なのだ。

 …そうしている間に、着々と席が埋まっていく。一人でぶらりと来た私は、なぜこんな売店なのかを伺う間もなく、セキュリティのためかドアはがっちりと締め切られ、とうとうオークションは始まった。

 

 オークショニアが壇上に立った。軽い挨拶の後、今日の出品物を軽く紹介し、まずは一品目のオークションに入った。

 一言目。

 

「2兆円から参ります」

 

 ん?

 

「…居らっしゃいませんか?では1兆9999億9990万」

 

 ん?ん?

 

 会場は静まり返っている。

 だれも何も言わない。

 え?なに?どういう事?

 そんな金額からやって、しかも10万づつ下げてくって、いつこれ終わるの?

 で、何でみんな何も言わないの?

 

 そして目の前の、参加者の一人が口を開いた。

 売店で購入した軽食、いや、「食料」を食べるために。

 他の参加者を見てみると膝の上や椅子の下に、やはり栄養補助食品や水が大量に蓄えられている。

 

 …その為の売店?

 …ドア…は…セキュリティの為じゃなく…!?逃げ…ら…

説明
星新一のショートショート的な話ではありません。不思議な要素とかありません。放送作家なので、ただの不条理コントです。
pixivに置いておいた作品を徐々に移送。
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