魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十一話Bパート-
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 ギンガさんを引き連れてセントラルの中を駆ける。

 

 高速飛行のため知覚機構に((加圧処理|しょりおち))をかけ、音速を超える敵機の弾丸を視界に捕らえ最小の動きで回避していく。

 

 この世界で謂う所である人の限界を超えた視界の中、思考の片隅でふと考える。

 

 

 

 私は今、世界のために戦っている。

 私個人の動機や立場、建前などには関係なく、企業テロを無くすということはこの世界に平和をもたらすということになるらしい。

 

 幼い頃。自治区で教育を受けていた頃の私には、世界というものが存在しなかった。

 

 自治区は故郷ではないと教えられ、本星はすでに滅びていると教えられた。

 では私はどこの人間なのか。

 

 地に足が着いていない不安定な状態で、私はただ上の人間の言葉に従うだけのつまらない子供になっていた。

 

 そして、ミッドチルダへの移住。

 世界というものがもっと解らなくなった。

 

 私は人ではない。

 口ではそう言いつつも周りと自分は違うのだということを思い知らされ、心の奥底では暗い感情が渦巻いていた。

 

 救いだったのは、ミッドチルダに来て初めて友人というものを得られたことだ。

 私は人ではない。そんなことなどお構い無しに接してくれる人たち。

 

 私の中で、初めて“自分の周り”という極めてパーソナルなレベルでの世界が、そのとき初めて出来上がった。

 

 そんな世界を私は守りたい。今の“私”という意志は小さな世界の上に立っている。

 親しい人。慕ってくれる人。慕う人。

 

 そんな小さな世界は、人の中で生きている限り誰もが持っているもの。

 時空管理局で戦うということは、私の知らないたくさんの小さな世界を守るということ。

 

 私の世界にいない人のことなど、本心からどうでも良いと思っている。

 思っているが、知らない誰かを守れるということはきっと素敵なことなのだろう。

 

 

 

 アンカー・フォースを飛ばし進路を塞ぐ小型機を吹き飛ばし、三ループチャージした波動砲で中型機を破壊して進む。

 

 そして、思考の終わりを待つことなく、セントラルの中心へとたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第十一話『HEART LAND -心臓部-』後編

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に円い穴が開いている。

 

 ハッチも何もない穴。

 

 その奥からは、セントラルに入ってからずっと感じ続けていた奇妙な魔力が伝わってくる。

 

「この先にスパルタカスがある」

 

 一拍遅れて私の元へたどり着いたギンガさんが、穴を前にしてそう言った。

 

「スパルタカス?」

 

 二人でゆっくりと穴の中へと機体を進めながら私は聞き返す。

 

 穴の中は、球状にくりぬかれた広間だった。

 壁一面に機械がびっしりと敷き詰められている。

 いずれも演算器。ここが中解同の中心地なのか。

 

 広間を見渡す私に、ギンガさんが言葉を続ける。

 

「中央の主軸演算器。そしてそれを取り囲む十六基の量子演算機構。この施設最後の防衛ライン。ユダサブシステム・スパルタカス」

 

 サブシステム。この部屋が中枢ではなかったのか。

 確かにバイザーの解析結果は部屋の底に居座る巨大な機械の奥にさらに空間があることを告げている。

 

「お詳しいですねギンガさん」

 

 私の言葉に、彼女は沈黙を返してくる。

 まあそうだろう。セレーネの人に教えてもらいました、何て素直に言うはずがない。

 

「ま、八福社に忍ばせた産業スパイからの情報ってところですか」

 

 ギンガさんは無言のまま。

 だが、ぴくりと身体を一瞬震わせたのを確かに見た。

 バイザーでヘルメットの奥を見てみると、渋い顔。

 

 年齢相応にポーカーフェイスが出来ない子供か。

 

「兵士としては一流でも工作員としては三流ですねぇギンガさん」

 

「うるさい、それよりスパルタカスを潰す」

 

 ヘルメットの奥でくちびるを尖らせて、ギンガさんは武器を構えて広間の底へ降下して行った。

 

 スパルタカスか。

 演算器に埋め尽くされた広間の中でも特に大きな十六基の演算器。

 球状の壁に沿うように、放射状に並んだ十六の機械の柱のその中心に塔が立っていた。

 

 先端には“頭”としか表現できない球状の機械の塊。底には八つの機械の“脚”がすえつけられている。

 これがギンガさんの言う主軸演算器か。

 

 厚い装甲に守られているのは最終防衛機構であるが故だろう。

 だが、この様相は物凄い見覚えがある。

 

「タコみたいですね」

 

「え、タ、タコ? 私は花に見えるけど……」

 

 同意してもらえなかった。

 

「丸いのがおしべ、広がっている装甲が花弁ですか。また見た目どおりな女の子の発想ですね」

 

「君も女の子……」

 

「うるさいです、それよりスパルタカスを潰す」

 

 そんな冗談を言い合っている間に、タコとも花とも見える機械、スパルタカスはその胴体に備えた四基の対空砲台の砲身を回転させ、こちらを狙い定めようとする。

 私たち二人は示し合わせたかのように同時にアフターバーナーから火を噴いてその場を離れる。

 

 無駄話はこれで終わり。

 戦闘開始だ。

 

 私は先制攻撃とばかりに、この広間に立ち入ってからずっとチャージしてあった波動エネルギーを解放する。

 

 小型の戦艦程度なら障壁を貫ける規模の四ループ砲撃。

 広間を白い光で埋め尽くしながら真っ直ぐにスパルタカスの根元に激突する。

 

 高密度のエネルギーが二基の砲台を吹き飛ばす。

 勢いは止まらずさらに本体を削ろうとするが、魔法障壁と装甲の前に押しとどめられ、装甲に傷をつけることなく波動エネルギーは光となって霧散した。

 

 硬い。強力な魔力障壁だ。

 

 バイザーから感知できるスパルタカスの魔力から考えると、波動砲が防がれるのは想定外だ。

 何かがある。

 

 魔力量だけでなく魔力の流れを見ようとバイザーを切り替えると、その光景に思わず驚いた。

 

 

 球状の広間。その壁一面の演算器全ての魔力ラインが、中央のスパルタカスの“頭”に集結していた。

 

 スパルタカスとは目の前の巨大な機体のみを指すのではない。

 この空間全てがスパルタカスなのだ。

 

 今の私たちは、まさに敵の腹の中に居るのだ。

 

 幸い周囲の演算器に武装は備え付けられていない。

 無数の駆動炉を持つ高魔力の巨大固定砲台と考えればいいだろう。

 少なくとも中央演算器には自走機能は搭載されていない。

 

 

「ギンガさん! こいつの弱点は解りますか!」

 

 

 残った二基の対空砲の砲撃を宙返りして回避していたギンガさんへと呼びかける。

 

 都合よく弱点などあるかは解らないが、広間全ての演算器を破壊している暇はない。

 戦いは最速で。そのために私ははやてさんたちを後へと置いてきたのだ。

 

 

「……ここ!」

 

 

 ギンガさんの返答は行動で示された。

 

 以前私から逃げ去ったときに使った物と同型の((攻性魔力力場発生装置|ブレード))。それをアインハンダーの巨大な左腕で構え、スパルタカスの“頭”の付け根へと突進したのだ。

 

 刃状に発生した魔力力場が魔力障壁へと触れる。

 この出力では防がれるはずなのだが、力場は魔力障壁へと確かに突き刺さった。

 

 ギンガさんが刃を付きたてたのは、演算器から“頭”へと集結する魔力ライン全てが交わる場所。

 スパルタカスの魔力障壁は装甲の表面に密着するように構築されたものだ。魔力力学的な欠陥があって障壁が薄くなっているのだろう。

 

 障壁を突き抜けた刃は装甲を侵食しようと伸びるが、その前にスパルタカスの下方の装甲が突如開いた。

 装甲の中には銃口。一瞬でその銃口に膨大な魔力が集まる。

 

「避けて!」

 

 私の声に咄嗟にギンガさんがその場を離れる。

 次の瞬間、四発の魔力弾が銃口から撃ち出された。

 

 曲線を描いて飛ぶ魔力弾。計四発。

 ギンガさんの装甲をかすめたそれは、さらに強く曲がり弧を描く。

 

 誘導魔力弾。

 

 私の戦闘経験が直感となりある未来の予測を立てる。

 このままではギンガさんはあれを避けられない。

 

 ふと思い出す。アインハンダーは装甲の薄い機体だ。

 

 墜落し血を流したかつてのギンガさんの姿が脳裏をかすめる。

 

 身体が自然と動く。

 カーテン・コールを最大まで加速させギンガさんの前へ。

 

 左右から迫る二発の誘導弾にビットの位置を合わせる。

 正面から迫る誘導弾の射線にはフォースを配置。

 上から迫る誘導弾には……盾がもう無い。魔力障壁を一点に集め、擬似的な防盾魔法とする。

 

 一瞬の出来事だ。

 魔力弾は全ての盾の前に消え去った。

 

 そして、カーテン・コールに搭載されたカメラアイが私に庇われたギンガさんの姿を見る。

 この攻防での驚きは無い。すでに次の行動へと移っている。

 

 右手に携えた長い銃砲。それを私の装甲の隙間からスパルタカスへと突き出し、引き金を引いた。

 砲撃はギンガさんを狙った魔力弾の銃口の一つへと向かい、丸裸になった装甲の中身へと突き刺さる。

 

 魔力障壁に守られていないその銃口に魔力をまとった質量弾が喰らいつく。

 

 爆炎を噴き上げて崩壊する銃口。

 だが、相手は演算器。

 一切ひるむことなく、反撃とばかりにさらに別の位置の装甲を開く。

 

 一瞬の間をおいて装甲の中から金属の塊が多数射出された。

 吐き出された塊の総数はわずか一秒で百にまで及んだ。

 

 咄嗟に塊の解析を行う。

 機雷だ。

 

 こちらの逃げ場を塞ぐかのように全方位に向けて放たれている。

 

 私はフォースを機体に繋げ、黄のターミネイト・γレーザーで前方の空間をなぎ払った。

 こちらに届くことなく起爆する機雷の群れ。

 

 さらにレールガンでこちらに向かう撃ち漏らしの機雷を破壊する。

 機雷による被害はなし。

 一拍をおいて広間中にばら撒かれた機雷が次々と爆発する。

 

 その爆発は、広間の壁を埋め尽くす演算器をも巻き込んでいった。

 

 スパルタカスへと向かう魔力のラインがわずかに減った。

 自爆だ。この広間はほぼ密室。こんな場所で射撃や爆撃を行うとどこかに損害が行くのは当たり前だ。

 

「放っておいたら勝手に自滅してくれませんかね。いや、時間は無いのですけど」

 

「ここは最終防衛ライン。侵入者と刺し違えても先には進ませないという設計思想。待つと死ぬ」

 

 速度を持ってたどり着いた私たちと違い、本来ならば道中の迎撃機を相手にして疲弊したところでこのスパルタカスを相手にすることになるのだろう。

 あの数を相手にして最後の最後で自爆前途の攻撃を受けるなどたまったものではない。

 

 しかし、今の私たちにはまだ余裕がある。

 そしてギンガさんは相手の情報を知っている。戦況は有利だ。

 

「ギンガさん。先ほどの一撃をもう一度撃ちます。それまでこちらへの攻撃の妨害に徹してください」

 

 言いながら波動砲のチャージの準備に入る。機体が変形し、その装甲全てが波動砲を生み出すユニットとなる。

 

「ん」

 

 短い返答。だがそれが肯定の意思なのは解る。

 

 最初の一撃で破壊したはずの砲台は、すでに新しい砲台へとすえかえられていた。

 壊れやすい代わりに演算器の内部にストックがあるのだろう。

 

 次々と撃ち出されるスパルタカスの砲撃。

 装甲を開いての誘導魔力弾も止まることは無い。

 

 私はそれをただひたすらに回避、回避、回避。

 広間を縦横無尽に飛び回り、ビットとフォースで避けられない弾を防ぐ。

 

 一段階完了。

 

 ギンガさんは右手の銃砲で砲台に向けて砲弾を乱射する。

 動きながらの荒い攻撃だが、その場を動かない門番であるスパルタカスはその全ての攻撃に晒される。

 三つの砲台が破壊され、紫電と爆炎を撒き散らす。

 

 二段階完了。

 

 武器を奪われたスパルタカスは、装甲の中からまた新たな機械の塊を吐き出した。

 今度は機雷ではない。とげのような複数の銃口が生えた球状の機械。

 そのとげの先端に魔力の光が灯ると、全方位に向けて魔力線を放射した。

 機械から離れた位置にいた私は距離を取り難なく避ける。近くで魔力線を撃たれたギンガさんは魔力の雨の隙間をぬって危なげなく回避した。

 一撃も当たることが無かった魔力線は壁の演算器を破壊していった。

 

 三段階完了。

 

 銃砲が弾切れを起こしたのか、ギンガさんは左腕の砲身をおもむろに投げ捨てた。

 残りは右腕のブレード。彼女はブレードをリーチの長い左腕に持ち替え、右手の先の機銃から魔力弾を撃ちながらスパルタカスへ肉薄する。

 動きはヒットアンドアウェイ。魔力障壁に守られていない砲台を斬りつけ、すぐさま離れる。

 自然と砲撃と誘導魔力弾はギンガさんを狙うようになるが、相手の手の内を把握したギンガさんは自然な飛行でそれらを避ける。

 

 チャージ完了。準備は整った。

 

 ギンガさんの位置を確認。

 砲撃を避け上空に大きく逃げている。問題は無い。

 

「行きます!」

 

 狙うのはギンガさんがブレードで切りつけた“頭”の根元。

 

 限界まで破壊で満たされた前方空間の力場。その全てを解放する。

 目の前に光が生まれた。

 

 対象を破壊するためだけの暴力の光。力は指向性を与えられ、光は一瞬で加速。

 ただただ強大な一撃が眼下に佇む演算器に向けて襲い掛かった。

 

 まばたきをする間も無く波動砲はスパルタカスの魔力障壁へと激突する。

 一点の薄い障壁は一瞬で蒸発し、ほころびを見せた障壁は亀裂が拡がるようにして崩壊していく。

 

 障壁を飲み込んだ力は真下の装甲を容易く砕き、装甲の中へと突き進む。

 スパルタカスの体内へと侵入した光は思う存分内部を喰いつくし、より強い光となって爆発した。

 

 貫かれた“頭”の首は半ばから折れ曲がり、内部を徹底的に破壊されたスパルタカスは土台である“脚”をも崩壊させ、下へ下へと崩れていく。

 

 ゆっくりと沈んでいく演算器の巨体。

 

 そしてついには、自ら守る門である下層への穴へと落ち、自らの飽和した魔力で爆発を起こした。

 機械の破片が広間へと飛び散る。

 私はカーテン・コールの機体を元の形に戻しながら、じっとその様子を見つめていた。

 

 

 

 

 

 スパルタカスが守っていた場所。

 下へと続く縦穴の中へと身を躍らせる。

 

 この先に私の破壊すべき中枢がある。それを破壊すれば、この仕事も終わりだ。

 

「まあ最終防衛ラインを突破したわけですし、もう荒事はないでしょう」

 

 その後にはギンガさんを捕まえるという大捕物が待っているが、今は考えないでおこう。アースラの結界という滑り止めがあるわけだし。

 

「本当にそう思う?」

 

 ふとつぶやいた私の言葉に、ギンガさんが疑問の声をあげた。

 

「この魔力を感じて、本当にそう思う?」

 

 セントラルに入って以来感じている不吉な魔力。

 明らかにこの先にあるものが発しているものだ。

 

 スパルタカスが最終防衛ラインであった以上、この先にあるものは迎撃能力を持たない。この魔力もミッドチルダ中のテロ機を操るために使われているだけなのではないか。

 

 だが、本能がそれは違うと告げているのは確かだ。

 この魔力は人を害するためにある力。人を殺すための魔法機械の持つ魔力を何十倍にも凝縮したような、そんな気配。

 

「ギンガさんはこの奥にあるものがどういうものかは知っているのですか?」

 

「何も解らない」

 

 私の疑問に、ギンガさんははっきりとそう答えた。

 

「この世界の機械を操っているものが存在しているということ以外は全て不明。ただ、存在すると推測されているもののコードネームのみが確認されている」

 

「コードネーム、ですか」

 

「ユダメインシステム・((世界樹|ユグドラシル))」

 

 世界の中心にある大樹、か。

 何となくだけれど、八福社が何をしたかったのかが少し理解できた気がした。

 

 

 長い縦穴を抜け、大きく開けた空間に出る。

 違和感。今居る場所に何かズレのようなものを感じる。

 

 シップに周囲をスキャンさせると、位相空間に異常が感知された。

 私たちはいつの間にか亜空間に立ち入っていた。

 

 この手の亜空間は、狭い部屋に大きなものを収納したいときになどスペースの拡張に使われるものだ。

 空間の先を見る。

 そこには、ただただ巨大な機械の塊が浮かんでいた。

 

 放射状に広がり、中心に向けて屈折した八本の装甲の“脚”。

 その“脚”の根元には球状の装甲に包まれた機械が納まっている。

 バイザーで内部を見る。この球体こそが、高密度の演算器だ。これがこの世界のテロ機を全てを統べる王なのだろうか。

 

 装甲に包まれた球体は四方から展開した緑色に輝く障壁魔法で守られている。

 

 球体と八方へと拡がる節足動物の“脚”のような装甲。その姿を何かに例えるなら、これこそが機械の花だった。

 

 世界樹を名乗る花を前に、私はカーテン・コールを再び戦闘形態へと移行させる。

 ユグドラシルの装甲には、明らかに攻撃用の武装が搭載されていた。

 

 あの中央の演算器を破壊するには、まず四つの障壁魔法の発生装置を先に破壊しなければならない。

 

 フォースの機銃を赤のシェード・αに切り替え球体の四方に置かれた装置の一つへと向ける。

 その瞬間、どこからともなく、甲高い叫び声が聞こえた。

 

 

『――――』

 

 

 頭の奥に響いてくるような、甲高い音。

 人の声ではない。聞き覚えがある音、これはイルカの鳴き声?

 

 

『――――』

 

 

 頭の奥で反射する声。思わず集中が乱れそうになるが、歯を強く噛み締め機銃を撃つ。

 

 赤い一陣の光がフォースから生み出され、ユグドラシルに向けて走る。

 だが、それを防ぐかのようにユグドラシルから小型の飛行機械が射出され、シェード・αの前に散った。

 

 次々と射出される小型機。こちらを狙ってレーザーとミサイルを放ってくる。

 私は機銃を止めることなくそれらを回避する。

 

 

 目まぐるしく動くカメラアイの視界の中、ブレードから刃を伸ばし小型機へと突撃するギンガさんの姿が見えた。

 

 

『――――』

 

 

 ギンガさんは小型機を真っ二つに切り裂き、右腕を機体に差し込んでミサイルポッドを奪い取った。

 武器の補充か。確かに銃砲は既に弾切れで失っている。

 ミサイルポッドを得たギンガさんは距離を取り、残りの小型機を誘導ミサイルで撃ち落していく。

 

 私はレーザーとレールガンで障壁発生装置を一基ずつ確実に破壊していった。

 

 

 その間もイルカの声は止まない。

 頭に響く甲高い声。

 ただの鳴き声はやがて、確かな意思が混じるようになる。

 

 

 

 ((ここがあなたの眠る場所。|This is where you shall sleep.))

 

 

 

 突如、脳に埋め込まれたチップが警告を発してくる。

 

 精神体への侵入をオートブロック。今の声は、精神攻撃だ。

 

 

 

 ((ここがあなたの終着駅です。|This is the tarminal.))

 

 

 

 チップの性能で防御可能なレベルの侵攻。だが、それでも十分に強力。

 カメラアイに映るギンガさんの方に意識を向けると、防御が出来なかったのか頭を大きく揺らして宙を漂っていた。

 

 揺らいだ意識を無理やり叩き起こすように、私は出力全開で念話をギンガさんへと叩きつける。

 

 

「心への攻撃です! 精神防壁魔法を使ってください!」

 

「……あ」

 

 

 私の念話に、ギンガさんは意識を取り戻す。

 ヘルメットの頭を左右に振ってから私へと念話を返してくる。

 

 

「ごめん、助かった」

 

 

 ギンガさんの周囲に魔力の光が輝く。精神防壁を張ったのだろう。

 

 

 

 ((安らかに……。|Relax...))

 

 ((安らかに……。|Relax...))

 

 ((安らかに……。|Relax...))

 

 ((安らかに……。|Relax...))

 

 

 

 再度心への攻撃が来る。

 今度はギンガさんも意識を保っているようで、私と同様障壁発生装置へとミサイルを撃ち込む。

 

 四基の装置が全て破壊され、緑の障壁魔法が掻き消える。

 後は中心の球体を破壊するだけ。

 

 だが、ユグドラシルはまるで戦闘形態を取るかのように変形を開始し始めた。

 

 閉じていた“脚”の花弁が開き、真っ直ぐに突き出す。

 レーザーの射出口と思わしき砲門が露出する。

 

 花からまるでヒトデのように四方へと“脚”を向けたユグドラシルは、私たち二人の攻撃を受けながらも反撃へと移行する。

 

 四本の“脚”から赤いレーザーが撃ちだされる。

 こちらに接近することもなかったそのレーザー。次の瞬間、レーザーの射出口が回転しまるでサーチライトのように四方八方へと動き回る。

 

 空間をなぎ払っていくサーチライトレーザー。

 私とギンガさんはユグドラシルの周囲を飛び回ってそれを避けていく。

 

 スパルタカスとの連戦のためか、ギンガさんの動きには少しだが疲労が見えた。

 先ほどギンガさんへ盾を任せた私はまだ余裕がある。

 

 自分がフォローせねば、と気合を入れてフォースをユグドラシルに向けて投げつける。

 

 アンカーを率いて飛翔したフォースはレーザーの射出口の一つに当たり、その鋭利な三本の制御機械を牙のように動かして攻撃を開始した。

 

 フォースの高密度エネルギーの前に射出口は溶解するようにして崩壊する。

 

 

 次の射出口へと向けてアンカーを操作しようとした時だ。ユグドラシルの装甲の一部が開き、中から再び小型機が飛び出した。

 

 戦闘機のようだった先ほどの小型機とは違い、今度は立方体の装甲を持つ機体。

 小型機は両側面に付いた((攻性魔力力場発生装置|ブレード))から翼のように刃を伸ばし、回転しながらこちらに向けて突撃を開始した。

 

 急いでフォースを手元へと戻す。

 

 その間にもレールガンを放つが、ブレードの前に全て防がれる。

 小型機が迫る。

 

 咄嗟にフォースのレーザーをサーチ・βに切り替え、レーザーの屈折で小型機の中心を撃ちぬく。

 

 その間にも別の小型機がこちらへと迫ってきていた。

 

 回避行動を取るがわずかの差で間に合わず、魔力障壁を斬りつけられる。

 私は接近戦が苦手だ。魔力障壁を犠牲にしながら、小型機から距離を取り近づかれる前に屈折レーザーで一機ずつ撃ち落していく。

 

 視界の端に映るギンガさんは、私とは違いブレードをアインハンダーの左腕に構え、小型機と斬り結んでいる。

 小型機を切り裂き、左手のブレードを捨てるとより出力の高い小型機のブレードへと持ち替えた。

 

 

 小型機を全て墜落させられたユグドラシルは、次の攻撃へと移る。

 

 露出した射出口に魔力の光が集まる。

 蓄積された魔力は強く光り輝き、甲高い音を立てて二発の魔力弾が撃ち出された。

 

 スパルタカスの放ったものと同じ誘導魔力弾だ。

 

 私とギンガさんそれぞれを狙う魔力弾。わずかに遅れるようにしてさらに二発発射。

 

 私はそれをビットで防ぎ、ギンガさんはブレードの魔力で正面から切り捨てた。

 防御の間もギンガさんはミサイルを放ち、私はレーザーとレールガンを機体へと向けて撃ち込む。

 

 装甲は抉れ機体の内部が露出する。

 

 ユグドラシルの障壁は薄い。

 やはり最終防衛ラインはあくまでスパルタカスだったのだ。

 このユグドラシルの抗戦も自らを守るための最後の抵抗だろう。

 

 伸びきっていたユグドラシルの花弁が、また元の形に閉じようと変形する。

 ユグドラシル全体を満たしていた禍々しい魔力が、中心の眼球にも似た球体へと集まっていく。

 

 余計な機体を切り捨ててコアだけで戦うつもりか。

 

 ユグドラシルは球体の中央、目の焦点をこちらに向けてくる。

 私はそれに正面から立ち向かうように、波動砲のチャージを開始した。

 

 球体の側面に付いた銃口、そこから無数の魔力戦が放出された。

 

 避ける隙間も無い嵐のような魔力の群れがこちらへと襲い掛かってくる。

 

 

 ((感覚の加圧を上げる|ひどいしょりおちがおきる))>。

 

 加速した知覚の中、波動砲のユニットをユグドラシルへと向けたまま魔力の嵐を避け続ける。

 進路を塞ぐ密度の高い一帯ではビットとフォースが身を守ってくれた。

 

 視界の中で動くギンガさんはミサイルポッドを盾にしてこの攻撃を凌いでいる。

 

 やがて魔力線の雨は止み、今度は球体の根元にあるハッチが開く。

 中から質量兵器の弾薬が空間にばら撒かれ、炸裂して弾頭が四方へと飛ぶ。

 

 その最中、ユグドラシルの中心の球体にさらに魔力が集まっていった。

 この一連の魔力の動きは、一年前に感じたことがある。

 

 大規模集束魔法。

 スターライトブレイカーのそれに似ていた。

 

 

「ギンガさん気をつけて!」

 

 

 私が叫んだときには、既にユグドラシルは蓄積した魔力を解き放っていた。

 

 

 紫色に輝く魔力の奔流が空気を切り裂く轟音をあげながら亜空間を満たす。

 Sランクをはるかに超える魔力値の一撃。フォースと魔力障壁で防ぎきれるものではない。

 

 最速で回避行動を取る。

 だが、真っ直ぐ飛ぶかと思われた集束魔法は半ばでゆるやかな曲線を描いて曲がり、こちらへと追いすがろうとする。

 このままでは当たる。

 回避の方向を修正。

 ユグドラシルの方へと向けて飛び出す。

 

 カーテン・コールのわずか後を集束魔法が過ぎていく。

 空間を伝わった衝撃がアフターバーナーの火を逆流させ、飛行が乱れ機体が傾く。

 急速に回る視界の中、ふとギンガさんの姿が見えた。

 

 私と同じように集束魔法に晒されたギンガさんは、ぎりぎりで触れてしまったのか装甲の表面を砕けさせながら真下へと落ちていく。

 

 悲鳴を上げて落ちるギンガさん。

 

 私は逆流に軋みをあげるアフターバーナーを無理やり動かし、ギンガさんの元へと急いで向かった。

 

 どこが下とも解らない亜空間の中落ちていくギンガさんの下に潜り込み、魔力障壁の性質を変化させてアインハンダーの機体を受け止める。

 

 ギンガさんはいつのまにかヘルメットが破損し、幼い素顔が半分露出していた。

 

 魔力障壁の中に機体を招きいれ、腰の装甲を伸ばしてアインハンダーを固定する。

 ギンガさんの目は焦点が合っていない。衝撃に一時的に意識が飛んでいるのか。

 

 ユグドラシルの方向から機械の駆動音が聞こえる。

 私はギンガさんに向けていた意識をユグドラシルの方へと切り替えなおす。

 

 ユグドラシルは球体の装甲を開いて、魔力残滓を排出している最中だった。

 

 

「この!」

 

 

 私はチャージし続けていた波動エネルギーの力場をユグドラシルへと向ける。

 狙うのは、今開いている装甲の隙間だ。

 

 

「いい加減に沈みなさい!」

 

 

 感情を叩きつけるように波動砲を発射する。

 敵の集束魔法にも見劣りしない最大チャージの一撃。

 

 青白く輝く光の塊は、ユグドラシルの中心へと真っ直ぐに突き刺さった。

 

 押しつぶされていく装甲。私は追撃とばかりにレールガンとレーザーを撃ち付ける。

 いつの間にか意識を取り戻していたギンガさんも、左腕のミサイルポッドを構えて射撃を開始していた。

 

 ユグドラシルの装甲は砕け内部から崩壊し、小刻みな爆発を起こすようになる。

 

 爆発はやがて機体全体に広がり、ついには駆動炉が崩壊したのか一際大きな爆発を起こして機体が砕け散った。

 

 ユグドラシルの崩壊に合わせるようにして、空間を満たしていた亜空間構築の魔法が掻き消え背景がはがれるように崩れ落ちていく。

 

 

 私はその様子を隣に抱えるギンガさんと二人で眺めていた。

 

 終わった。

 

 セントラルに入ってから感じていた魔力は跡形も無く消え去っている。

 ギンガさんの言葉が正しいのなら、地上のテロ機もこれで止まるだろう。

 

 さて、ギンガさんをどうしたものだろう。

 確かに今彼女を捕まえてはいるのだが、別に無力化などはしていない。

 

 おかしな動きを見せたらすぐに逃げられてしまうだろう。

 速度では私が上だしセントラルはアースラ

 

 そんなことに一人頭を悩ませギンガさんの幼い顔を覗き込んでいたときの事だった。

 

 

『HYPERIONヨリ入電』

 

 

 ギンガさんのヘルメットの隙間。

 以前も聞いたヒュペリオンからの通信音声が聞こえてきた。

 

 突然のことに、私もギンガさんも面を食らった顔をしてしまう。

 

 

『貴官ノ壮挙ニヨッテ

 

 我ガ社ノ脅威ハ取リ除カレタ』

 

 

 シップの集音機能を最大まで高め、さらにアースラへも音声データを中継して送る。

 

 我が社。セレーネのことか。

 やはりアインハンダーの背後には企業が居るのだ。

 

 

『マタ貴官ノ戦闘記録ヲ元ニシ

 

 最新鋭戦闘機Astraea MK.IIノ

 

 戦闘データモ完成デキタ』

 

 

 アストライアーマークツー?

 そういえば、ギンガさんの機体の装甲にはAs.01とミッドチルダ語で書かれている。

 

 ギンガさんの乗る黒いアインハンダー。その後続機が存在するということだ。

 だが、なぜそれをこの場で報告してくるのだろう、ヒュペリオンは。

 

 

『ソノ功績ニヨリ

 

 名誉ナコトニ

 

 貴官ハAstraea MK.II最終テストノ

 

 標的トシテ選抜サレタ

 

 オメデトウ

 

 ナオ、死後ニハ

 

 二階級特進ノ上

 

 シリウス勲章ガ授与サレルデアロウ

 

 ミッドチルダニ栄光アレ

 

 世界ニ慈悲アレ』

 

 

 ……なんだ、この通信は。

 最終テスト? 死後?

 

 詳しく聞き出そうとギンガさんの顔を覗き込む。

 

 

「あ、ああ……スバル、スバル……」

 

 

 青ざめた顔で、ギンガさんは何かをぶつぶつと呟いていた。

 

 

「どうしたんですか、標的って何なんですか!」

 

 

 私は装甲から腕をはがし、ギンガさんの肩を揺さぶった。

 ギンガさんの視点は私を見ていない。

 

 

「スバルが……妹が……助けるために戦っていたのに……、MK.IIはスバルだから……あああああ!」

 

 

 駄目だ。混乱していて言葉になっていない。

 軽く訓練弾でも当てて正気を取り戻してもらおうと手のひらのコネクタをギンガさんへと向ける。

 

 

『カガリちゃん大変大変大変!』

 

 

 手のひらに魔力を集中したところで、目の前に通信ウィンドウが開いた。

 映るのはエイミィ執務官補佐。

 今度は何事だろうか。

 

 

『いきなり無人機の軍勢が来て結界を破って……アインハンダーがセントラルの中に侵入した!』

 

「アインハンダーなら目の前にいますが……そうか、二機目ですか」

 

 

 繋がった。

 ギンガさんの言う妹、スバル。

 その子が新しいアインハンダーであり、最終テストとしてギンガさんを狙いに来ているのか。

 

 ギンガさんは以前言った。妹を救いたいだけだと。

 彼女の思う救いとは全く違う事態が、今起きている。

 

 

『WARNING!! WARNING!!』

 

 

 高速で飛来する未知の魔力。

 ギンガさんを狙う新しいアインハンダーであろう。

 

 させない。ギンガさんを殺させはしない。

 

 

 機銃を非殺傷設定へと切り替え。アンカー・フォースを胸元へ構え迎撃の態勢を整える。

 

 

 上空から魔力が近づいてくる。

 この速度だと十秒後に姿を現す。

 

 ……見えた! 赤いアインハンダーだ。

 

 こちらに銃を構え、機体の周りにはミッドチルダ式の魔法が待機状態にあった。

 

 私はそれを目視した瞬間、非殺傷設定のレールガンを撃ち込む。

 だが赤いアインハンダーは待ち伏せの一撃をわずかに身をずらしただけで避け、機体にまとっていた待機魔法を発動した。

 

 バイザーが一瞬で魔法の性質を解析。空間干渉の魔力。転移魔法だ!

 

 魔法の内容を解析し終わった瞬間、急にカーテン・コールの機体が軽くなる。

 先ほどから捕らえていたギンガさんの機体が急に離れたのだ。

 

 カメラアイに意識を向けると、ギンガさんの姿は無い。

 

 時を同じくして、赤いアインハンダーの姿も消え去っていた。

 

 さらわれた。

 私の目の前でギンガさんは赤いアインハンダーにいずこかへと連れ去られたのだった。

 

 

 

――――――

あとがき:最後の入電シーンのためだけにA.C.E.を書きました。

 

 

SHOOTING TIPS

■スパルタカス

レイストームより七面ボス、JUDA SUB SYSTEM Spartacus。半密閉空間でのカミカゼアタックを得意とする鬼畜兵器。

カガリとギンガのタコと花の一連のやり取りは作者の実体験だとかなんとか。

 

■ユグドラシル

レイストームより八面、JUDA MAIN SYSTEM Yggdrasil。この機体には裏設定とかがいろいろあるらしいですけどごっそりと無視。

ユグドラシルとの戦闘曲はSTGのラスボス戦の曲の中でも屈指の出来です。これを聴くためだけにプレイすることも。

サントラを買えばいいとかそういう話ではありません。STGの曲はプレイしながら聴くのが良いのです。

 

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