魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十三話- 【Epilogue】 |
視界が歪む。
ヒュペリオンを破壊し亜空間を構築していた魔法が解けたため、空間が崩壊しつつあるのだ。
無理矢理解除した大規模空間魔法。何が起こるか解らない。
最悪、虚数空間の中に飲み込まれてしまう。
すぐにでも脱出しなければならない。
もちろん、ギンガさんとその妹さんを連れてだ。
「ギンガさん、これで貴女の所属する組織が完全に壊滅したわけですけれど……、時空管理局は貴女を保護する準備が出来ています。魔法実験の被害者として悪いようにはしません。一緒に来てくれますか?」
「私はどうなっても構わない。でも、スバルだけは……」
「ご安心を。二人ともどこにでもいるごく普通の女の子としての生活を保証しますよ」
管理局は希少な魔法資質を持つ子供をさらってきて実験動物として使っている、などという根も葉もない噂、いや、妄想を叫ぶ地方世界の人間が居るが、少なくともこの二人は私が正規の手段を持って保護をする。
住民コードが発行され、人並みの生活を送れるようになるのだ。
世間もアインハンダーの行方には注目している。機人の実験台にはまず成り得ない。
ギンガさんは小さく、お願いとつぶやいて私の前で頭を垂れた。
良かった。ここで管理局に付いていくのは嫌とか言われたら無理にでも連れて行かなければならないところだった。
これでもギンガさんは今回の事件の重要参考人なのだ。
ともかく、この空間から脱しなければならない。
シップを変形させてアインハンダーの機体と強引にドッキング。
さらに妹さんを乗せるための副座を構築する。
「では、行きましょう。これで((全てはおしまい|ゲームオーバー))ですよ」
――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
最終話『RESULT』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――
二十六次元空間を抜けた私たちを待っていたのは、この一年で幾度となく見た戦艦アースラの姿だった。
通信士のような仕事をまた任されているエイミィ執務官補佐の誘導に従って、小型艇の入港口からアースラの中へと入る。
負担の大きい空間転送を使わないのは、私たちの疲労を気づかってのことだろう。
アースラの中に入った私たちは、小型艇の格納庫で服を脱ぎ散らかすようにして身体から機体を切り離した。
デバイスの魔法支援を失ったギンガさんは、そのままアインハンダーの機体の上に寄りかかって座り込んだ。
三日間の戦闘の疲れが一気に出たのだろう。
同じくギンガさんと戦い続けた今は眠っている妹さんも、疲労はピークに達しているはずだ。
医務室へ連れて行かないと。
二人を機体から引きずり出し、両肩に抱え上げる。
軽い。
大人も余裕で持ち上げられる私だが、それにしてもこの二人は軽い。
身体に機械を埋め込んだ戦闘機人ときいて超重量を想像していたのだが、何てことはない。年齢相応の子供の軽さだ。
無人の格納庫の扉へと向かう。
すると、私が辿り着く前に扉がひとりでに開いた。
アースラクルーが駆けつけてきてくれたのだ。
ハラオウン提督、エイミィ執務官補佐、クロノさん、ヤマトさん、何度もお世話になった医務局員の方々。
そしてその中に何故かはやてさんが混ざっていた。
「カガリちゃーん!」
脚の補助器で増強された脚力をもって駆けだしたはやてさんは、真っ直ぐに私の胸に飛び込んできた。
抱きつくではない、飛び込むだ。
私は両足を踏ん張ってその全重量を全身で受け止めた。
ハラオウン提督などはこの光景にうっすらと涙を浮かべていたりするが、とんでもない。
私が強化されたダライアスの一族でなかったら、地面に叩きつけられて頭を強打をしていたところだ。
だが、はやてさんは私のそんな密かな頑張りに気づくことなく、私の背中に腕をまわして強く抱きしめてきた。
やれやれ、と思っていたところで、今度は違う誰かの叫びが聞こえてきた。
「かーがーりーちゃーん!」
エイミィ執務官補佐が私の腰に向けてダイビング。
身体が変な方向にねじれている。
脳のチップが警告を発しそうになったところで私の苦悶の表情にようやく気付いたのか、医務局員さん達が私の側まで駆けつけてきてくれた。
私は抱きつく二人を解放する前に、医務局員さんへ肩の二人、ギンガさんと妹さん……スバルさんを渡した。
ようやく見えたギンガさんの表情は、一面の苦笑。今もくっついている二人を見てのことだろう。
両腕を解放した私は、とりあえず歳に似合わぬハギングをするエイミィ執務官補佐を引きはがし、次にはやてさんの背中を軽く叩いて腕を解いてもらう。
改めて正面に立ったはやてさんは何故か涙目。
オーリス姉さんから私は死地に行ったとでも吹き込まれたか。
「酷いわカガリちゃん、あたしががっこ行ってる間に一人で無茶するなんて」
「それが私の仕事ですから」
「あたしを呼んでくれればすぐにでも飛んでいったよ! あたしたちはコンビやろ!?」
コンビではなくてトレーナーとトレーニーなのだが。
コンビ、という言葉を聞いて視界の端で医務局員さんに応急手当を受けていたギンガさんが、むっとした表情でこちらを睨んだ。
そういえば私とギンガさんとは二人で何度も中解同の中核を攻めた間柄。
ギンガさんは私のことをコンビの相手と認識してくれていて軽い嫉妬を覚えたのだろうか。
ギンガさんくらいの年齢の子はすぐに嫉妬をしてそれを隠すことなく表に出す。
どうも変なところでモテ期が到来してしまった。
その後、ギンガさんとスバルさんは無事に医務室に担ぎ込まれ治療を受けることになった。
一方の私は和室に通されて正座ではやてさん、エイミィ執務官補佐、ハラオウン提督三人の説教を小一時間聞かされたのだった。
その後の経過はと言うと。
一掃されたミッドチルダ内の中解同。
中解同の中核は八福社であったが、実際にテロを行っていたのは地方世界の中小企業。よって、テロ事件は本局と各世界の地上部隊の支部へと捜査が移行した。
地上本部はこのまま八福社とセレーネの捜査の続行、そして戦闘機人事件の再捜査となる。
一時的に地上本部の育児施設へと収容されたギンガ姉妹は、健康調査と事情聴取を受けているらしい。
捜査へは協力的。だがやはり、妹にしっかりした保護を受けさせてやってくれと言う主張は変わらないとのことだ。
予定では、地上本部が受け持ったアリシア・クローンと同じ保護施設に入る、らしいのだが、今後のことについて相談したいと何故か私はオーリス姉さんに連れられてギンガさんと面会を行っていた。
一度も入ったことのない育児施設の休憩室。
そこにはギンガさん、オーリス姉さん。そして何故かナカジマ捜査官が同席していた。
そういえば、ギンガさんはナカジマ捜査官の遺伝資質が使われた改良クローンだった。
そのあたりのことをナカジマ捜査官は笑顔でギンガさんに説明していた。
子供をあやすような無理な作り笑いではない。自然な笑顔。
言葉遣いも普段の妙に男らしいものではなく、どこか柔らかい口調でギンガさんに話していた。
「でね、同じ遺伝資質が受け継がれているなら、私達は家族ってことだよね?」
そうギンガさんに切り出すナカジマ捜査官。
ああ、何となく言いたいことは解った。
「よく解らない……」
ギンガさんの返答はただそれだけ。
実験生物として生きたギンガさんには、妹以外の家族というものが理解できないのだろう。
「……そうですね、昨年保護されたクローンの子供達がいるんです。その子達はみんな同じ遺伝資質をもったクローンで、全員同い年の姉妹というくくりです。クローンの元になった子の母親をお母さんとした巨大な家族になっていますね」
「そうなんだ」
私の説明にも、ギンガさんは理解が及ばないのか淡々としていた。
だがギンガさんの理解が終わる前にナカジマ捜査官は言葉を続けようとする。
「でね、折角の家族私のうちにこない? 家族なんだから、おかあ……」
「つまり、クイントさんがギンガさんのお姉さんになるんですよ。ギンガさん良かったですね」
「お姉さん……私にもお姉さんが……。そう、嬉しいな……」
「え、あれ、お姉さん?」
どうやらナカジマ捜査官はギンガさんのお母さんになりたがっているらしい。
ナカジマ捜査官は既婚者。養子の手続きもとれるだろう。
でも、複製クローンの立場はミッドチルダの一般的な観念から行くと兄弟姉妹の関係になる。
もしこの二人が母子関係になるなら、アリシア・クローンさん達の母親はアリシア・テスタロッサということになる。
プレシアさんはあの見た目でおばあちゃん。
いや、見た目は石のような物体のおかげで二十代でも中身は五十路なのだが。
だがそのような観念はどうでもよく、私はあまりナカジマ捜査官にギンガ姉妹を引き取って貰いたくないと思っている。
ナカジマ捜査官は夫妻そろって地上本部の上級の局員。
親が管理局員でさらに子が魔法資質を持つと、管理局に進む道が自然と出来てしまう。
ギンガさんの妹さん、スバルさんが魔導師となり武装局員となる道に進むのは、ギンガさんは快く思わないだろう。
そんな思いを込めて打った言葉のジャブに、オーリス姉さんは苦笑している。
「まあナカジマ准陸尉、いきなり引き取るというのも急だ。しばらくは局の保護施設で、幼年保護対象者用の一般教育を受けて貰う形になる。その間にこの子達にじっくり考えて貰うとしましょう」
このまま引き取りの話を続けても不毛になると思ったのか、オーリス姉さんは仲裁とばかりに口をはさんでくる。
保護施設入りはギンガさんも既に了承していた。
入る予定の施設はクラナガンの郊外にある。
私も普段アリシア・クローンの皆に会いにいっている場所だ。
企業テロも治まって嘱託魔導師としての仕事も少なくなるだろうから、ギンガさんとは頻繁に会えるだろう。
話し合いが終わり、オーリス姉さんは仕事があると出て行き、ナカジマ捜査官も名残惜しそうに休憩室を出て行った。
私は持参していたお菓子をギンガさんと二人でのんびり食べる。
そういえば、最近忙しくてこうやってお菓子を食べる時間を作るのも久しぶりのような気がする。
ギンガさんはお菓子というものを食べるのが初めてなのか、しきりにスバルにも食べさせてあげたいと繰り返し言っていた。
そのスバルさんはというと、健康調査の体内スキャンで外部操作用の機械が埋め込まれているのが判明。
ダライアスも技術を提供している先端技術医療センターで摘出手術を受けている。
手術自体には全くの危険はないらしく、こうやって安心してお菓子をむさぼっていられるのだ。
二人の会話は、ギンガさんがあれを見た、これは初めてだったと箱入り娘な驚きを話して、私がそれに解説を入れてあげるというものだった。
楽しい時間だ。
私たち二人はすでに戦友などではなく、立派な友達になっていた。
「ねえ、カガリ」
「ふあい?」
甘いチョコレート菓子のピンクスゥイーツを頬張っている最中、ギンガさんが訊ねてくる。
「カガリは、その、管理局に雇われている魔導師なんだよね?」
ギンガさんは初めて言葉をかわしたときと変わらず口べただが、既に冷たい突き放すような口調ではなくなっていた。
「あー、はい、局員ではなく、局から仕事の依頼を受けて働くみたいな立場ですけど、実態はもう半分以上局員みたいなものですね」
「あの、私、まだこれからどうなるか解らないけれど……局に入ろうかなって思っているの」
局に入ろうと思っている。
局とは、時空管理局のことだろうか。
他愛のない雑談に混じってすごいことを言われてしまった気がする。
「……貴女は戦場からようやく解放されたんですよ。戦闘機人だなんてことを忘れて普通の女の子として生きるべきではないのですか?」
「うん、それも良いかなって思う。スバルにはそうして欲しい」
「だったら……」
「でもね、私、アインハンダーに乗っていて、カガリと一緒に戦えたのがすごい楽しかったの」
私の前で大げさに両手を広げてみせる。
「大人達の戦争のためじゃない、世界のために戦えるのは、今までとずっと違う。だから」
広げた手でぎゅっと私の手を掴んでくるギンガさん。
暖かい。はやてさんやフェイトさんたちのような、暖かい手。
「私がまたカガリと一緒に戦えるようになるまで、管理局、辞めないでね?」
満面の笑顔で私に笑いかけてくる。
戦いは辛く苦しいもの。
でも、そこに戦う理由があるのなら、人はいくらでも戦える。
思いは人それぞれ。この時空管理局はその思いがつまった場所だ。
こうしてギンガさんは、再び戦いの空へと戻る覚悟を胸に刻んだ。
ミッドチルダの空を駆ける二人の魔動少女。
これが、そのはじまり。
――――――
あとがき:原作のアインハンダーとは違い、二人プレイでゲームクリアーとなりました。
さて、アインハンダー及び魔法少女リリカルなのはA'sのオリジナルクロスオーバー二次創作、魔動少女ラジカルかがり『企業抗争編』はいかがだったでしょうか。
リリカルなのはで原作と同じ時系列から始まる二次創作はオリジナル展開のものが少なかったので、反骨精神でA'sをスキップしてオリジナルのお話となりました。
といいつつも、今回は魔法少女リリカルなのは無印を元にお話を構成しています。
SHOOTINGの『遺失技術編』は、フェイトがあんなのになってしまって折角の女の子二人の友情の物語が台無しになってしまったので、その戦いの中の友情をコンセプトに一期の配役変更を行ったものがこの『企業抗争編』です。
なのは→カガリ
フェイト→ギンガ
ユーノ→オーリス
ジュエルシード→企業テロ
プレシア→ヒュペリオン
こんな感じです。解りにくいですねごめんなさい。
さて、StS編はプロットもなく話も序盤と終盤しか思いつかないためやるかは未定なので、魔動少女ラジカルかがり本編はひとまずここで完結(仮)となります。
長いオリジナル展開に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
用語解説
■管理局は希少な魔法資質を持つ子供をさらってきて実験動物として使っている、などという根も葉もない噂、いや、妄想
このような感じで時空管理局の悪行を描いて、これだから管理局は駄目なんだ! と断罪するリリなのSSはもはや一ジャンルになっています。
SHOOTING TIPS
■ゲームオーバー
ゲームが終了したことを表す言葉。
時代を経て言葉の意味が変わりゲームをクリアーすることなく途中で終わってしまったときのことを指す言葉となってしまっています。
ただしSTGでは未だにゲームクリアー時にもゲームオーバーと表示されるものが多いです。
説明 | ||
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