魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 01
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 死ぬ夢を見た。

 

 自分が死ぬ夢。しかしこれは過去の記憶。前世の記憶だ。

 

 その日、俺は秋葉原に来ていた。

 

 待ちに待っていたアニメのDVDの発売日。

 魔法少女リリカルなのはStrikerS最終巻の発売日だったのだ。

 

 毎週深夜遅くまで起きて視聴し、DVDレコーダーにまで記録して見ていた深夜アニメ。

 戦う魔法少女ものであり、三期まで放送されていた人気アニメだ。

 

 わざわざ発売日に買いに来ていたのは、別に好きな物を発売日に買わないと気が済まない類の信者だからではない。

 見れなかったのだ、最終話が。そしてDVDへの録画も出来なかった。

 

 俺は泣いた。アニメを観て感動し泣くことは幾度もあったが、観れなくて泣くことがあるとは思ってもいなかった。

 それからというもの、DVDの発売を待ちに待ち続けた。

 

 別にDVDを使わなくても観る方法はあった。インターネットは非合法で満ちている。

 

 だが俺は清いアニメファンで居たかったわけだ。

 アニメーターの薄給を憂い、作画崩壊に現場の厳しさを感じ、グッズ購入で制作者へのお布施をかかさない正しいオタクで居たかった。

 

 比較的健全であろう録画した友人から見せて貰うという方法は使えなかった。深夜アニメを見るようなオタクが周囲に居なかったのだ。友人達はゲームセンターにいりびたるようなゲームオタクだ。

 

 それだけ楽しみにしていたリリカルなのはの最終話。

 

 はやる気持ちを抑えきれず、秋葉原に到着してから思わず走り出していた。

 

 

 だが、俺を待っていたのはDVDなどではなく、急に目の前に現れたトラックの衝撃であった。

 

 

 次の瞬間、目に映ったのは秋葉原の風景ではなかった。

 

 光り輝く場所。曖昧な場所。夢だからかはっきりしない風景だった。

 

 そして、目の前に何者かが座っていた。

 

 男とも女とも、子供とも大人とも、人とも動物ともとれる何か。

 

 目の前の“それ”は、俺が何も言わないでいると急に気さくな様子で話しかけてきた。

 

 言葉になっていない言葉。だが、自分が死んだと言うことだけは理解が出来た。

 思わず俺は、目の前の“それ”に言葉を投げかけていた。

 

 何を話したのかは思い出せない。

 古い記憶だからか、それとも“それ”に記憶を検閲されているのか。

 

 だが、そのときの俺には強い未練が残っていたことだけは思い出せる。

 

 だから俺は願ってしまったのだ。

 

 

 魔法少女リリカルなのはの結末を知りたいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 01

『歴史の歪曲』

 

原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ ……だと思います

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 強い光に目が覚めた。

 窓から射し込む朝の陽気。目に入るのは知らない天井……などではなく、見覚えるある寮の寝室だった。

 

 身寄りのない俺が学園から与えられた唯一の帰る場所。

 1DKの広い部屋。狭苦しい日本で過ごした人間としては、なんとも豪勢な待遇だった。

 

 目覚めは良い。昔は低血圧で朝が苦手だったが、今の身体は具合が良い。

 

 ふと、ダイニングの方から物音が聞こえた。

 まだわずかにぼやける目でそちらを見ると、部屋に誰かが居た。

 

 自分が部屋に居るときは、寮のこの部屋には鍵をかけていない。だからか、いつも皆が入ってきて勝手に遊んで帰っていく。

 

 俺はそれを曖昧な表情で眺める。

 大学時代からの風習だ。人と話すのは苦手だが、すぐに人恋しくなってしまう。

 

 掛け布団をはねのけ、立ち上がって伸びし深呼吸をする。

 畳のい草の香りがわずかに感じ取れた。

 

 わずかに漏れた声に、ダイニングの人物はこちらに気がついたようだ。

 

 

「……おはようございます、ヤマトさん」

 

 

 ダイニングにいるのはカガリちゃんか。

 

 

「おはよう。また工具使いに来たのかい?」

 

 

 彼女はカガリ・ダライアス。

 ミッドチルダの外から来た留学少女。いや、幼女か?

 

 まだ五歳だというのに魔法を学ぶために一人この魔法学校にやってきたらしい。

 

 さすがはリリカルなのはの世界だな。低年齢層の行動が日本とはまるで違う。

 

 

「ええ、すいません、まだ資材が地元から届いていません。管理法のロストロギア規制に引っかかったようです」

 

 

 こちらを向かずに俺のデバイス改造用の工具をいじりながら返答するカガリちゃん。

 いや、なんだよロストロギアって。

 

 これは触れない方がいい話題なのか。

 

 

「朝から頑張るね」

 

「これが仕事です」

 

 

 冷たく言い放つカガリちゃん。こういう性格なのか、それともこうなるような教育を受けてきたのかな。

 

 何やら原作に出てきたユーノやキャロの一族のように小難しい事情がある一族出身らしいカガリちゃん。

 自分は人間じゃないとか何とか言って、俺達から距離を取ろうとしている。

 

 まあそれにはクラスの皆が気付いていて、そんなことはさせないと皆が息巻いているおかげでこうして俺の部屋にやってくるようにもなったんだけど。

 

 

「えーと、シップだっけ? 俺もデバイスとかいじるから解らないことがあったら聞いてよ」

 

「……建築家が彫刻家に建築のことを聞くと思いますか?」

 

「いやなんかそのごめんなさい」

 

 

 冷たい目線に思わず反射的に謝ってしまう。

 これはもう前世から染みついてしまった癖だ。今更治ってくれないだろう。

 

 カガリちゃんが使っているのは、デバイス改造用の精密工具。

 

 彼女が作っているという特殊デバイスはとても繊細な仕組みらしく、この寮では俺くらいしかそれをいじれる工具を持っていないらしい。

 

 ミッドチルダのデバイスは、パーツを買って組み合わせることで作り出すことが出来る。

 自作デバイス。まるで地球の自作PCのようだ。

 

 俺が使っているのは、普段は懐中時計の姿を取っているストレージデバイス。

 これも自作デバイスで、補助金や奨学金、それに魔導師としての雑事の報酬をかき集めて作り上げた相棒だ。

 

 アプリオリ・ロード。

 生まれながらに奇妙な力を授かってしまった、そして前世でこの世界の未来を知っている俺が、新しい自分の人生を歩むために作り上げた力だ。

 

 中核には俺を生み出したジェイル・スカリエッティのラボから逃げ出すときに奪い取ってきた、ロストロギアの魔石を埋め込んである。

 

 リリカルなのはの世界はハードだ。

 ハートフルだったアニメの一期と二期も、三期になった途端に軍のような警察組織の時空管理局に守られた世界、ミッドチルダを舞台にしたバトルアニメに変わる。

 

 俺は先を知るものとして、時空管理局の局員としてその三期の時代を生きようと思う。

 

 おそらくそれが、“あれ”によってこの世界に転生させられた俺がすべきことだ。

 

 そのために、この学校で色々この世界を学ぼう。

 まずは一日を真面目に過ごすこと。若返ったからといって小学生からやり直しになっている訳じゃないんだ。

 

 

「まあ、朝だしほどほどにね。そろそろ朝ご飯だから」

 

「大丈夫です。ご飯は二日前に食べました」

 

「いや、何が大丈夫なのか俺には解らないよ」

 

 

 この世界は不思議で一杯だなー……。

 

 

「とりあえず何も口にしないのもまずいし、茶菓子でも口にしようよ。紅茶入れるよ。ミルクティで良い?」

 

「お砂糖たっぷりでお願いします」

 

 

 ようやく笑顔を俺の方に向けてくれたカガリちゃん。

 

 何だか餌付けしているような気分になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよーヤマトー!」

 

 朝一番から教室に元気な声が響く。

 

 教師に入り自席に向かおうとしたところで、制服姿の女の子に挨拶を投げかけられたのだ。

 

 銀目赤髪のセミロングの女の子。

 

 この子は今の俺がここの理事長に保護されて以来の知り合い。

 理事長の娘のアルピナ・ロードスターだ。

 

 前世の知識で言うところの幼なじみキャラというやつなのかな。いや、キャラで分類するのは失礼か。

 

 一人ミッドチルダに放逐された俺に、まるで家族のように接してくれる妹のような存在だ。

 本人は自分は俺の姉だと思っているようだけど、すでに精神年齢三十を超える俺としては彼女をとてもじゃないが姉としては見れない。

 

「おはようアルピナ」

 

 俺も元気に笑顔を返すとしよう。

 クラスメイト達とかわす挨拶。前世の小中学生時代では考えられなかった光景。大切にしよう。

 

「お、おう。それでなー、自治領への旅行の話なんだけど、夏休み入ってすぐでいいかー?」

 

「あれ、日程ずらすんだ」

 

「いやー、カガリちゃんが地元に帰るって言うからその前にってね」

 

 その会話に、すでに自席に座って何やら端末をいじっていたカガリちゃんがこちらを見てきた。

 

「すいません。長期休暇は地元に帰って技術者としての講習です」

 

「ほっんと小っちゃいのに頑張るよねーこの娘っこは」

 

 カガリちゃんの背中を豪快に叩いて笑う。

 

「痛いです」

 

「おっとごめんよー」

 

 アルピナはその、なんというか元気な子だ。

 使う魔法は近代ベルカ式。それも技術系方面ではなく、完全な戦闘向けの魔導師タイプだ。

 

 近代ベルカと言えばスバルとギンガだが、あの二人もこんな感じだったろうか。

 流石にアニメを見てから十年近くが経過しているとあって、最近細かい部分が思い出せなくなっているけど、こんなものだったろう。

 

「ま、楽しみにしていてよベルカ自治領」

 

「一番楽しみにしているのはアルピナだよね」

 

 と、そこまで言って急に制服のそでがひかれた。

 いつもの感覚。これは……。

 

「プリウスちゃん?」

 

「……私も楽しみ」

 

 水色の髪をポニーテールにした小さな女の子。口べただがそこがまた可愛いプリウスちゃんだ。

 本当、このカラフルな頭を見るとアニメの世界に自分が居るのだと言うことを実感させられてしまう。いや、俺も銀髪で左右の目の色が違うとかアニメ的なんだけれどね。

 

 プリウスちゃんは使っている魔法こそミッドチルダ式だが、敬虔な聖王教徒。

 いわゆる聖地への巡礼が楽しみでしょうがないんだろう。

 

 そでを引き続けるプリウスちゃんの頭を軽く撫でてあげる。

 すると、いつものように顔を紅くしてうつむいた。

 彼女は頭を撫でてもらうのが好きみたいだ。こうやっていつも催促をしてくる。

 

 そしてその横で旅行の話を続けるアルピナの声に、登校してきたいつものメンバーが次々と寄ってくる。

 話を盛り上げるアルピナ、その横でじっとたたずむプリウスちゃん、一人興味ないとばかりにモニターに向かうがときおりツッコミを入れるカガリちゃん、そして皆の会話に相づちをうっていく俺。

 

 この学園に来てからというもの、俺の周りには男女隔てなく人が集まってくる。

 

 今の皆の年齢は十歳ほど。この年齢の子供といえば、日本の小学生だとすでに男と女でそれぞれ個別のグループが出来ていたものだが、そうならないのはミッドチルダ人の気質というものなのだろうか。

 

 昔、まだ俺が赤子の状態でガラス管の中で育成されていた頃、俺を前にしてジェイル・スカリエッティは一人言っていた。

 俺には王としての魅了のレアスキルが備わっていると。

 

 だけど、今のこの俺の周りに人が集ってきてくれている状況は、魅了の能力によるものじゃないはずだ。

 

 前世から数えた実年齢だけで言うとずっと年上だからみんなのお兄さん的な感じで頼ってくれてるんだろう。

 

 人と話すのは苦手だ。だけど、年下相手だと思うと意外と気楽に話が出来るものだ。

 

 皆仲の良い友達。まさか俺に恋愛感情なんて向けている人なんていないだろうしね。

 

 もしそんな人がいたらそれはそれで困ってしまうが。俺、ロリコンじゃないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして適当に授業を受けている間に放課後になる。

 適当とは言っても不真面目に過ごしているわけではなく、教科書に目を通しただけでおおよその事が解ってしまうのでそれほど本気になって勉強するまでもないだけだったりするわけだが。

 

 俺はこの世界に生まれたときから前世の記憶を持っていた。

 

 それが今の俺の身体の脳に大きな影響を与えたと見ている。

 

 深夜アニメの待ち時間で教育チャンネルをつけていたときに見た、シナプスがどうこうとかいうのが関係していたりするのだろう。

 苦労せずして優秀な頭脳を得ることができたのは、まあ過酷な幼児期を代償に手に入れた物だと思っておこう。

 

 さて、それはともかくとして放課後だ。

 いつもは皆で遊びに行ったりカガリちゃんの戦闘訓練に付き合ったりしているのだが、今日はいつもとは違う日だ。

 

「ヤマトさん、お暇なら今日も訓練に付き合っていただきたいのですが」

 

 隣のカガリちゃんが顔だけをこちらに向けて訊ねてきた。

 うん、淡々とした言葉遣いだが、相変わらず仕草が小動物を見ているみたいで可愛い。

 

 このギャップが皆に人気で今ではクラスのマスコット的存在になっている。

 

「ごめん、今日はクラブの日だから」

 

「そうでしたか。すいません」

 

 クラブの日。

 

 別に学校にある部活動をやっているわけではない。

 俺とアルピナ、それとアルピナの親友のプリウスちゃんでやっているちょっとしたお遊びみたいなものだ。

 

 ヤマト・ハーヴェイのお悩み相談クラブ。

 まあなんだ、少年漫画雑誌でよくあったような推理漫画の少年探偵団のような物だ。

 

 始まりは、クラスメイトから困りごとを相談されて、つい断り切れなくてそれを解決したこと。

 ちょっとした落とし物の捜索だったのだが、それをアルピナが面白がって、困ったことがあったら俺に相談しろと学校中に宣伝したのだ。

 

 ただの子供同士の遊び。のはずなのだが意外と悩みを相談してくる人は多く、今では活動日を決めて基本三人、たまに暇なクラスメイトを交えての非公式なクラブ活動を行っているのだ。

 

「では私は帰りますね」

 

 そういってカガリちゃんは席を立つ。

 また自室にこもって特殊デバイスの開発を行うつもりなのだろう。

 

「ちょーっとまったあーっ!」

 

 そんなカガリちゃんの前に、仁王立ちになったアルピナが立ちふさがっていた。

 

 なんだなんだ一体。

 

「カガリちゃーん、私は思うわけですよー。君はちょっと付き合いが悪い!」

 

 どーん、とオノマトペが付きそうな大げさな動作でアルピナがカガリちゃんへと指をつきつける。

 

 この子供独特のテンションの高さにはついていけそうにない。

 

「はあ……」

 

 カガリちゃんも突然のことに何のことやらと呆けている。

 

「たまにはね、私もカガリちゃんをいじって遊びたい……もとい一緒に遊びたいわけですよ」

 

「…………」

 

 遊びたい、の言葉にカガリちゃんの表情が微妙に変わる。

 

「つまり、私達のクラブにカガリちゃんも参加すべきよ! それが健全な子供のありかたってものさ第二種なんとか女の子!」

 

 ああ、カガリちゃんのあの表情はどういうものか解る。

 

 見たいアニメがあるのに遊びに付き合わされて微妙な気持ちになるあれだ。

 昔は周りがゲームオタクで俺だけアニメオタクだったから、しばしばそういう事態に遭遇したものだ。

 

 同じ経験をしたものとしてカガリちゃんの手助けをしてあげたいが、今のアルピナは怖いので口を出すことが出来ない。

 クラブの実質的リーダーはアルピナです。

 

「遠慮します」

 

 俺とは違いざっくりと切り落としにかかるカガリちゃん。

 その胆力がうらやましい。

 

「ふふふ、そうくると思ったわ。でも、まだまだ甘い。プリウス!」

 

 大げさに右手の指を鳴らして半身をずらすアルピナ。

 その後ろには、プリウスちゃんが鞄を抱えてぽつんと立っていた。ぜ、全然気付かなかった。

 

 プリウスちゃんは、無言で鞄をあけると、中から何やら紙製の箱を取り出し始めた。

 

「おいしいお菓子を用意してあるんだけどなー」

 

 アルピナの言葉に、カガリちゃんはびくりと肩を揺らした

 

「クラナガンの美味しい美味しいチョコポットも用意してあるわけですよ?」

 

 次に出てきたのが、プラスチックで出来た壺。中にはぎっしり丸い大きなチョコレートが詰まっている。

 あー、なんだろう。アニメにこんなお菓子が出てきたような気もする。

 

 プリウスちゃんはそのチョコポットを胸の前に構えると、じりじりとカガリちゃんの方へと近づいていく。

 

 この光景には見覚えがある。

 俺の部屋にアルピナがカガリちゃんを連れてこようとしたときと同じ状況だ。

 あの日以来、俺の部屋にはお菓子の袋が山ほど常備されている。

 

「……解りました、ご一緒します」

 

 カガリちゃんが、折れた。

 

 弱点をあらわにされた人間というのはこうも弱いものなのか。

 俺も気をつけておこう。

 

 アルピナとプリウスちゃんは、いえーいとハイタッチをしている。

 

 アルピナにかかれば寡黙なプリウスちゃんもノリのいい女の子へ早変わりだ。

 

 

 

 

 

 さて、そんなわけでクラブ活動を開始したわけなんだけど。

 基本的には誰かが来るまで教室でだべりながらお菓子を食べたりゲームをしているだけ。

 初等部は下校時間が早いのでそんなに遅くまで活動しているわけでもない。

 

 嫌々参加させられたかと思ったカガリちゃんは、お菓子を前にしてすでに機嫌を直したご様子。

 小さな口でお菓子を頬張る様子は、やはり小動物のようだ。

 

 思わず頭の上に手をのせると、全力で払いのけられた。

 

 うーん、クラスの女の子達は撫でられるのが好きみたいだけど、カガリちゃんはどうやら人との接触がまだ苦手なようだ。

 

 変わりに余ってしまった手をプリウスちゃんの頭にのせてなでてあげる。こちらは子犬のように大人しく撫でられている。まあ人それぞれだ。

 

 そんなこんなで無駄な時間を四人で過ごしていると、教室の扉がノックされた。

 

 わずかに開いた扉。その隙間から人の顔が覗く。

 

 次の瞬間、大きな音を立てて扉が全開に開けられた。

 いつのまにか扉の前まで飛んでいったアルピナが扉を開けたのだ。

 

「ようこそ我がクラブへ! ……ってあれ?」

 

 急に開けられた扉に、寄りかかっていたのか訪問者は教室の中に倒れ込んでいた。

 

 初等部の制服を着た女の子だ。

 

「いやあ、ごめんごめん。大丈夫?」

 

「ふえ……」

 

 ああ、泣き出しそうになってる。

 どうも俺達より下の学年の子のようだ。

 

 

 泣きそうな子をアルピナと俺の二人がかりでなだめすかし、ようやく落ち着いたところで話を聞くことになった。

 

「あの、あたし、二年のサフラなの」

 

「おうおう、かーわいいねー。お菓子食べる?」

 

 カガリちゃんが一人黙々と食べていたチョコポットをアルピナはさっと奪い取って女の子の前に置いた。

 

 あ、カガリちゃんの機嫌が悪くなった。大丈夫だから。お菓子はまだあるから!

 

「ありがとうなの」

 

 一方のサフラちゃんはお菓子を受け取って笑顔になる。

 

「うんうん、子供はお菓子が好きだねぇ。ってちがーう!」

 

「いてっ」

 

 何故か俺がアルピナに叩かれた。

 

「えっと、今日はなにがあって来たのかな?」

 

 叩かれた頭をさすりながら、アルピナの変わりにサフラちゃんに聞いてみる。

 

 俺の言葉に、彼女は真っ直ぐにこちらを見て話し始める。

 

「プジョがいなくなっちゃったの」

 

「プジョ?」

 

「あたしの使い魔なの。これくらいのクダンの子供なの」

 

 そういって両の手を俺の肩幅ほどに広げてみせた。

 しかし、この歳で使い魔を持っているのか。凄いなー。

 

 しかもクダン。確か教科書に珍しい魔獣として載っていたはずだ。

 

「ん」

 

 いつの間にか教科書を取り出してたプリウスちゃん。

 クダンの説明が載っている。

 

 予言の力を持つといわれる獣。

 載っている写真は牛に似た姿をしているが、使い魔となると人の姿をとることもある。

 

「一昨日からいなくなっちゃったの」

 

「なるほど、それを探して欲しいんだね」

 

 使い魔ならお互いの感覚を共有してどこにいても連絡を取り合えるはずだが、まだこの子は二年生で使い魔も子供だというからそれも難しいのだろう。

 

「なら大丈夫だよ。簡単に見つかるから」

 

 ペットや遺失物の捜索なら、このクラブを始めてから何度も来た依頼だ。

 

 魔法の力を使えば、すぐに解決できる。

 できるはずなのだが、魔法学校だというのに俺達に頼る人が多いのは何でだろう。

 

 この子みたいな小さな子なら解るが。

 

 いや、この子も使い魔を従えられるのに探索もできないというのはアンバランスな気もするけどね。

 

「うむ、そうなのだー。我がクラブには捜し物のエキスパートが居るのよ! かもん、プリウス!」

 

「……ぶい」

 

 変なテンションで盛り上がるアルピナと、それについていくプリウスちゃん。

 まあこれがこの年頃の子供というものなんだろう。

 

 プリウスちゃんは指輪に収納していたデバイスを解放し、魔法少女のステッキのような杖を左手に掲げた。

 

「……その子の身につけていた物とか、ある? クッションとか、首輪とか」

 

「あ、うん、首輪を持ってきたの」

 

「なら、任せて」

 

 渡された首輪に、捜索用の魔法をかけるプリウスちゃん。

 首輪に残っている残留魔力を感じ取り、周囲の空間に魔法の網を広げてこの残留魔力と照合させるというものだ。

 

 アニメでは戦闘にばかり使われていたこの世界の魔法。

 

 だが、学べば学ぶほど戦うための魔法はただの技術研究の副産物だということが解る。

 

 地球の科学と同じだ。

 戦争で使われる兵器だって、生活を向上させるための学問や科学技術から生まれた物なのだ。

 

 俺は時空管理局を志望しており、そしていつの日かスカリエッティと戦うつもりだから空戦の魔法ばかり学んでいるが、本来魔導師というものは人の役に立つ優しい魔法を使う者なのだ。

 

 まあ、中等部で習う程度の補助魔法なら俺も使えるんだけどね。

 

「見つかった。学校の外。廃棄区画のほう」

 

「あちゃー、また変なところに行っちゃったわねー。よし、こっそりいきましょうこっそり」

 

 学校の近くにある廃棄区画か。あまり立ち寄りたくない場所だが。

 

「あまり治安の良い場所ではないから、日が暮れる前に急ごう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プリウスちゃんに連れられるまま、廃棄区画を歩く。

 

 ミッドチルダの治安は悪い。いや、世界は広いから俺の住んでいるこの国周辺に限ったことなのかもしれない。

 だが、日々のニュースを見る限りではこの世界は魔法文明の理想郷にはほど遠い場所だ。

 

 アニメを見ていた頃はさほど気にもとめなかったが、首都近辺にすら放棄された都市区画が目立ち、毎週のようにテロが引き起こされている。

 

 アニメの公式サイトに猛将と書かれていたレジアス中将が、悪に身を染めたのも納得がいく話だ。

 

 いや、だからといってあのマッドサイエンティストに協力していたのは絶対に許せないが。スカリエッティはいつか滅ぼさなければ。

 

「あの中」

 

 企業テロによってぼろぼろになったビル群。

 その中の一つをプリウスちゃんは指さした。

 

「念のため、中に何かいないか探知してみるね」

 

 野犬でもいたら大変だ。

 俺や意外と腕っ節の強いカガリちゃん(腕相撲はクラスで一番強かった)ならともかく、他の女の子三人を危険に晒すわけにはいかない。

 

 制服のポケットに入ったアプリオリ・ロードに魔力を送る。

 この程度の魔法ならデバイスを本起動させなくても良い。

 

「……人がいる」

 

「え、こんな廃棄区画に人って……」

 

「嫌な予感がするな。ちょっと中を見てみよう」

 

 魔力スフィアを一つ作りだし、こっそりと廃ビルの中に忍ばせる。

 遠隔操作で手元に映像を送ってくれる魔法。空飛ぶカメラのようなものだろうか。

 

 ときどきこの魔法を使って盗撮で捕まる魔導師もいるようだ。イヤオレハソンナコトシタコトナイデスヨ?

 

 

 ビル内部に侵入したスフィアが手元に映像を送ってきた。

 それを五人全員で覗きこむ。

 

 映像には、怪しげな人影が映っている。

 暗いので映像の感度を調整すると、六人のいかにもな厳つい男達が映し出された。

 

 そいつらの足下には、動物を収納するための大型ケージと、動物たち。

 いずれもただの犬猫ではなく、珍しい魔獣ばかりだ。

 

「あれって……」

 

「待って、何か喋ってる」

 

 スフィアから音を拾って流してみる。

 

『へへ、さすが良家のおぼっちゃんたちが通う魔法学校だ。クダンなんて高級品を飼っていやがるとは』

 

「あっ!」

 

 サフラちゃんが声を上げる。

 

「檻の中にプジョがいるの!」

 

 ケージを指さしてサフラちゃんがいう。

 そこにいたのは奇妙な顔をした小さな牛。

 首には何かの魔法機械をつけている。もしや、あれを付けていたからサフラちゃんは使い魔を見つけられなかったのだろうか。

 

 他人の使い魔にこのようなことをする彼らは、魔獣を狙った密猟団か盗賊団だろうか。

 

 彼らはなおも会話を続ける。

 

『でも大丈夫なんすかねぇ。魔導師なんかの物に手を出して』

 

『へ、クソガキどもに何が出来る。問題ねえ。俺はCランクの魔導師をぶっ殺したことあるんだぜ』

 

 そういって無骨なストレージデバイスを掲げる頬に傷跡を負った男。

 

 間違いない。彼らは“あちら”の人間だ。

 

「四人とも、急いで学園に戻って管理局を呼んで。俺はここに残る」

 

「え、え、ヤマトなにすんの」

 

「いつ逃げられるかも解らないから管理局が来るまでにやつらを捕まえる」

 

「あ、危ないよ! 学校の訓練じゃないんだよ!」

 

「俺が空戦魔導師資格を持っているのは知っているだろ? 任せて」

 

 食い下がろうとするアルピナの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 やがて折れてくれたのか、小さく解ったとつぶやいて顔を赤くした。まだ怒っているのだろう。

 

 他の三人は無言。抗議の意志はないと言うことだろう。

 

「大丈夫、俺はまだ死なないさ」

 

 密漁団程度片手でひねるくらいでなければ、未来の世界で生き残れない。

 

 

 

 

 

「よし、ここをガキがかぎつける前にさっさと企業にうっぱらっちまおうぜ」

 

「そうはいかない!」

 

 ビルを立ち去ろうとするやつらに、俺は正面に立ちふさがる。

 

「なんだぁ!?」

 

「その子は置いていって貰うよ。大切な使い魔なんだ」

 

「その制服、魔法学校のガキか! 俺達がどういうやつらかも解らんクソガキのようだなぁ!」

 

 そういって手に手に武器を構える男達。

 

「使い魔だけと思ったが、ちょうどいい。魔導師素体として売り飛ばしてやる。おい、手足の一本や二本はかまわんが殺しはするなよお前ら」

 

 なんとも生々しい言葉を吐くものだ。

 

 だが、怖くも何ともない。俺はこれより上の悪を知っている。

 

 やつらから感じる魔力も大きくない。大丈夫だ。カガリちゃんの言葉を信じるなら、俺はAAランクの魔力を持つのだ。

 

「そちらがそのつもりなら、俺も力尽くでいかせてもらう!」

 

 ポケットから懐中時計を取り出す。

 相棒、出番だ!

 

「我は死者、我は生者、我は王者! 甦れ、全ての先を知るために! アプリオリ・ロード、セットアップ!」

 

『Yes, My Master. Set Up!』

 

 空間に響く女性の機械音声。

 

 懐中時計の鎖が伸び、俺の周囲を回転する。

 制服が分解され、魔力がバリアジャケットを構築していく。

 

 イメージするのは、何者にも打ち破れない純白の盾。

 

 銀色の魔力光に包まれ、制服をベースにした白いバリアジャケットが顕現する。

 

 身体の周囲を回っていた鎖は腰のベルトに繋がれ、懐中時計は戦うためのデバイスへと変形する。

 

 両手持ちの杖。

 改造を繰り返し装甲とパーツにまみれたそれは、剣にも斧にも槍にもなる最強の武装だ。

 

 

 準備は整った。

 

 こちらへと武器を構える男達に、全身から魔力を放出して威嚇する。

 魔力の奔流を叩きつけられた男達は、味わったことのない大魔力に後ずさりする。

 

 さあ、行こうか。

 

『何正面から行っているんですか。馬鹿ですかヤマトさんは』

 

『う、うわ、なに? カガリちゃん』

 

 突然頭の中に念話が響いてきた。

 

『はい、そうです。今上の階の窓から侵入しました』

 

『あれ、他の三人は? 置いてきたの?』

 

『学校まで低空飛行で飛んで置いて戻ってきました。ヤマトさんは放っておくと無茶すると思いましたので』

 

 無茶って……。

 いやまあ、いまの状況が無茶だと言われたら確かにそうなんだろうけどさ。

 

『というか念話使えたんだ』

 

『今朝シップに搭載し終えました。それより、私は死角から援護射撃をしますので、ヤマトさんはケージの魔獣を傷つけないよう気をつけて戦ってください』

 

 頼もしい仲間だ。

 カガリちゃんならこの男達にもやられてしまうことはないだろう。

 

 

 

 

 

 戦いは一瞬で決着がついた。

 

 Cランク魔導師を倒したと息巻いていた傷顔の男も、カガリちゃんの狙撃を受け足を止め、俺の放った連続魔力弾の前にあっけなく沈んだ。

 わざわざバリアジャケットを展開するまでも無かったかもしれない。

 

 などと戦いを振り返っていたところに、時空管理局の人達がすっ飛んできた。

 そこからはまあ、予想通りのお説教だ。

 

 正座をさせて説教をするなどという古風な日本の体罰を実行していた局員のお姉さんは、ナカジマさんなどと呼ばれていた。

 あれ、もしかして原作キャラと接触?

 

 サフラちゃんは使い魔を奪われた被害者として、親御さんと一緒に管理局へ向かっていった。

 

 事件解決と言うことで俺達は解散してそれぞれ帰宅することになった。

 

「ヤマトさん」

 

 初めての正座に足を痛めたのか寮に戻ってからも膝をさすっていたカガリちゃんが声をかけてきた。

 

「何? 恨み言なら聞くよ? 怒られたのは俺のせいだしね」

 

「いえ、それはどうでもいいのですが……時空管理局はいつもあのような輩を相手にしているのですか?」

 

「え、うん、そうだね。特にミッドチルダは犯罪組織が多いから日常茶飯事なんじゃないかな」

 

 原作での管理局員の殉職者は多い。

 

 日本の警察などよりはずっと厳しい職場なのだろう。

 

「ヤマトさんは、その管理局に入ろうとしているんですよね?」

 

「うん、そうだよ。何? 心配してくれているの?」

 

「いえ、それはありえません」

 

 ありません、じゃなくてありえませんか! ひどいなぁ。

 

「戦いが頻繁にあるというなら私も管理局を目指してみようと思います」

 

 故郷の戦闘機を甦らせようと語っていたカガリちゃん。

 

 今回の事件はそれにどういった心境の変化を与えたんだろう。

 

「この世界のシステムはまだ良く解りません。お手数ですが協力していただきたいです」

 

「はは、解ったよ。これからもよろしくね」

 

 協定締結。同じ管理局を目指す者として俺達二人は改めて仲間になった。

 

 

 

――――――

あとがき:完全オリジナルにしかならないためすっ飛ばしていた魔法学校編。

たぶん今まで書いたSSの中で一番ノリノリで書いたであろう作品。コンセプトは典型的最強系SS。

でも難しいですねこういうのを狙って書こうとすると。あの独特の軽い感じはなかなか出せません。

ちなみに登場キャラは全て使い捨て。本編中で名前のあるオリジナル人物は三人だけなんです。

 

 

用語解説

■急に目の前に現れたトラック

そういうものです。

 

■気さくな様子で話しかけてきた

そういうものです。

 

■アプリオリ・ロード

独善的な原作知識ありでの憑依系原作介入ものもこう表現すれば割と格好良いかもしれません。

 

■魅了のレアスキル

こういう力を使っても洗脳ではないそうです。

そういうものです。

 

■俺、ロリコンじゃないし

主人公が自分はロリコンじゃないと主張する作品は、たいていヒロイン勢がロリキャラです。

そういうものです。

 

■イヤオレハソンナコトシタコトナイデスヨ?

こういう場合はカタカナで書きます。

そういうものです。

 

説明
■おまけ1
第一部:http://www.tinami.com/view/239480
第二部:http://www.tinami.com/view/240058
おまけ1:http://www.tinami.com/view/240417
おまけ2:http://www.tinami.com/view/240430
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